天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編32話『野長瀬のお正月』

前回までのあらすじ
「今年は平成いい年よ!そんないい年を、早坂兄弟は京都で迎えた。そして、手当たり次第に神社をめぐりたおし、お賽銭をなげつづける。それはすでに祈りのためではなく、より多くのおみくじをGETするためのものに変わっていた。」

yukio
 

1999年。
人類滅亡か・・・。
小学生の頃、そんな話題で、戦々恐々としたことを野長瀬定幸は思い出す。
でも、あの頃、1999年なんて遥か未来の事で、きっとその頃には、道路はすべて動く歩道で、なんなら車は空も飛んでいるだろう、なんて思っていたもんだ。
昔から夢見がちな男である。

しかし、25年前と、今と、何かが変わったような気もせず、相変わらず1999年人類滅亡、という話は囁かれつづける。
夢見がちな野長瀬としては、びびりまくっている1999年になるはずだったが。

「でも、今年は平成いい年だから」

元旦の夜、野長瀬はテレビを見ながら呟いた。こんなに可愛い弁天様が言うんだもんな。
「それに」
コタツに入っている野長瀬は、ごっつい顔に、幸せ一杯な笑顔を浮かべ、傍らにいる最愛の女性を見つめる。
「今年は、うさぎ年だもんねっ!」

野長瀬の最愛の女性、といってもほんとは女性ではない、ミニウサギ(大)野長瀬智子は、一心にこたつ布団を齧っていた。

野長瀬のお正月は、例年通りの寝正月だった。
大晦日から飲みつづけ、起きては、食べ、寝、起きては、飲み、寝、を繰り返している。
ようやく意識がはっきりしてきたのは、新春かくし芸大会が終わった頃だった。

「そうだ!」
ぼけっとテレビを眺めていた野長瀬は智子に向かって声をあげる。
「智子ちゃん!初詣いこう、初詣!」
『さみーんだよ』
「いいと思うなぁ。うさぎ年!うさぎ年に智子ちゃんと初詣なんていいぞ!さ!智子ちゃんっ!」
『うぜえよ』
こたつ布団を齧って穴を空けて、そろそろ中に入れそうになっている智子は、それどころじゃない!という気持ちだったが、ウキウキっ!としている野長瀬に背中から捕まれる。
「お出かけ、お出かけっ!そうだ、智子ちゃんもおめかししなきゃね!」
なんと野長瀬は和服姿。渋い、茶の着物に、帯もきりりと締めて、一見昭和のお父さん風。しかしその手に握られているのは、毛糸のケープ(智子ちゃんスペシャル)である。
『可愛い赤ちゃん』という手芸雑誌を購入し、智子用に編んだもので、首の前で止められるようになっている。真っ白でフワフワなモヘアが死ぬほど似合う!と野長瀬は思っていた。
『うぜぇ!うぜぇんだよぉっ!離せよぉっ!』
「あっ、嬉しいのっ?はしゃいじゃって!」
『ちげーよ!離せってのにぃーっ!』

野長瀬智子はお嬢様であるから、世話係に厳しいキックをかましたのだが、鈍感な世話係は一切頓着せず、智子を抱いたまま、うきうきっと部を出てしまった。

『さびぃー、さびぃー、さびぃーっ!』
野長瀬の腕の中で、白いケープで可愛らしさ120%アップの智子は暴れた。
「もぉ、智子ちゃん可愛いなぁっ」
それら全てを、はしゃいでるんだなととれる野長瀬は幸せもの。
野長瀬のアパートの近くには、そこそこの規模の神社があり、元旦の夜は結構な人出になっていた。
「あーっ!」
野長瀬の腕の中の智子を見て、子供たちが指を差す。
ふふ。可愛いでしょ、可愛いでしょ、と野長瀬は嬉しくなる。
お参りは、智子を腕に抱いているので、斜めにかしいだ状態で手を合わせる。お賽銭は、十分ご縁がありますようにと15円。かなりせこい雰囲気ながら、お願いごとは目一杯。
智子ちゃんが元気でいますように。お金が儲かりますように。病気や怪我をしませんように。社長にいじめられませんように。由紀夫ちゃんにいじめられませんように。素敵な彼女ができますように。いやでも、智子ちゃんより可愛い子なんて、そんなにいないかなっ。
そして、
地球が滅亡しませんように。
最後のところにかなり力を入れて、野長瀬は祈った。15円中、7円分はこれだ!と。

眉間に皺を寄せ一心に祈るどこからどうみてもヤクザ風で、しかもうさぎを抱いている野長瀬の周りは人が避けていくため、随分な時間祈っていたのに、辺りは随分すっきりした感じになっていた。

「さ、智子ちゃん。智子ちゃんは何をお祈りしたのっ?」
ダミ声の猫なで声。
運悪く野長瀬の側に立たざるをえなかった晴れ着の女性は、かゆくてもかけない背中に、冷たい汗が流れるのを感じていた。

出店を見ながら歩いていた野長瀬は、そうだ!こんなに可愛い智子ちゃんを、もっとたくさんの人に見て欲しい!と思った。それも知らない人に遠くから、ではなく、知ってる人からあからさまな賞賛を受けたい!と。
時間は、1月1日から2日に変わりつつある夜更け。野長瀬はタクシーをつかまえてまで、早坂家に向かった。

12時過ぎにたどり着いた早坂家は、明かりがちゃんとついていた。
正広の夜更かし癖もあり、お正月から早寝なんてしてるはずがないんだなー!と、階段を上がり、ノックをすると。

「はいぃ?」

濡れた髪をタオルで拭いている、上半身裸の由紀夫が登場した。
そして部屋の中からはシャワーの音が。

「ゆっ、由紀夫ちゃんっ、ひょっひょっとしてっ、ひっ、姫はっ・・・!!」
げいん!!
勢い込んで前のめりになったところを、グーで、登頂部を殴られる。
「うちは弟と二人暮らし!!そんなこたぁ、家ではできない!」
「しないんじゃなくて、できないんですね」
げいんげいんっ!!
正確に同じ位置を殴られ、お賽銭の効果はまだないらしいことを、身をもって体験してしまった。

「お客さんっ?」
シャワーの音が止まり、ひょいと顔を出したのは、正広。
「あ、野長瀬さん!あけましておめでとうございますー!」
「おめでとうー。もう寝るの?」
「寝る。俺、もー、疲れた」
由紀夫は濡れた髪のままベッドに入ろうとして、ちょっとまってー!と正広に止められる。
「タオル、タオル!枕濡れちゃうし!」
「まて、兄ちゃん、髪乾かさずに寝たら、風邪ひいちゃうよ?くらいの事いえんか?」
濡れた前髪の下からじっと見詰められ、同じく濡れた前髪の下で、正広はにっこりと笑った。
「だって兄ちゃん疲れてるんでしょ?部屋温かくするし、なんなら寝たままドライヤーしたげようか?」

じーん・・・!
野長瀬は感動した。
新年早々、こんな麗しい兄弟愛を見ることができるなんて・・・っ!

「正広。あそこで勘違いしてるバカがいるから」
「え?」
やっぱり今年は平成いい年だ!と、うるうるしている野長瀬を見て、由紀夫が言った。
「あ!ごめんなさい、野長瀬さんっ。あ!智子ちゃん、可愛いー!」
「ひろちゃんっ!やっぱり君はお兄さん思いのいいこなんだねっ!」
「だから違うっつってんだろ。とーぜんなんだよっ」
眠い眠いとベッドでうにうにしながら、由紀夫は声をあげる。
「こいつ、今日、ずぅーーっと!寝てたんだからっ」
「だぁってぇ!」

どうぞどうぞ、と野長瀬をソファに座らせながら、正広が口を尖らせた。
「1日寝てたの?具合悪かった?初詣は?」
「あ、具合はすごくいい!初詣はねぇ。いったよねぇ、にいちゃーん!」
「あー、行った行った・・・」
「どこ行ったんです?僕は近所の神社に行ったんですけど」
「どこ行ったっけ」
「名前までは覚えてないけどぉー・・・、あ、平安神宮!」
「平安神宮!?」

大晦日に仕事をしていた由紀夫は、事務所のベンツに正広を乗せて、そのまま気がむくままのドライブに出かけた。
気がつけば富士山近辺まで来ていて、しかしご来光まで待つにはあまりに時間がかかる。
じゃあ、もうちょっと、もうちょっとと走らせているうちに、そこは京都だった訳だ。

「そんで、おみくじバイキングしたんだー、ねー、兄ちゃんっ」
「おみくじバイキング」
「おみくじって見たら、とにかくひくの。えーっとねぇ。一応全部持って帰ってきたんだけど・・・」
ざらざらと出てくるおみくじを見ながら、正広は、戦績を披露した。
「えーっとね、全部で18回やって、大吉が、7回と、中吉が3回、小吉4回、吉2回、凶2回!」
小吉と吉ってどっちがいいのかなぁ、なんて首を傾げながら。
「大吉7回!」
「ううん、大した事ない。兄ちゃん大吉9回!でも、大凶が3回なんだ」
そういって正広はケラケラ笑う。

ベッドでうつらうつらしている由紀夫に対して、なぜこんなに正広が元気なのかと言うと、もちろんそれは帰り道で正広が爆睡していたからである。
だって、ベンツだもん。座り心地いいからしょうがないんだもん。(本人談)

「あ、ごめんなさい」
よく寝た後なので、テンション高く一気に喋った正広は、野長瀬をほったらかしにしていることに気づいてぺこんと頭を下げる。
「お茶でも・・・、あ、お酒の方がいい?それと智子ちゃん!ほんと可愛いー!これどしたの?こんなの売ってんの?」
野長瀬の腕の中から智子を抱き上げて、うわーい!と撫で撫でする。
智子にしてみれば、この世話係は、従来の世話係より可愛いのでお気に入りだ。
「作ったんですっ」
「野長瀬さんがっ!?ほんっと器用なんだぁ〜。ねぇ、兄ちゃん、起きてる?ほら、智子ちゃん」
なおもウニウニしている由紀夫のところに、白いケープの可愛い智子を連れていったら。

「あぁ?」
「可愛いよね。ほら」
「・・・別にいつも通りの可愛げのねーツラじゃん」
『あっ!こいつぅっ!!』
智子は、はっきりいって自分の美貌に自信があった。それをこんなヤツにけなされるなんてっ!
可愛いケープを翻し、正広の腕からジャーンプ!した智子は、由紀夫の背中に着地!
「げっ!」
「あっ!智子ちゃんっ!」
正広が手を出そうとするより早く、後ろ足に力を込めてジャンプした。

「いってぇっ!」
「智子ちゃんっ!?」

智子の爪は少々伸びていた。

「てめ、ふざけんなっ!鍋にして食うぞっ!!」
そのままソファの裏に入り込んだ智子に、由紀夫が怒鳴り倒し、正広が救急箱を持ってくる。
「由紀夫ちゃん、ごめんなさいっ」
「大体、しつけってもんがなってねんだよっ!」
「うわ。兄ちゃん、これー・・・」
背中の傷を見た正広が呟く。
「ねえ、野長瀬さん、これって・・・」
手招きされた野長瀬は、なんとも言えない顔をした。
「なんだよっ!」
「兄ちゃん、なんか、正月早々、セクシーな感じ」
鏡2枚を使って背中を見たところ。確かにセクシーな位置に、セクシーな爪痕が残っている。
「お、男の、勲章っ、っかなっ?」
ねっ、ねっ!と智子の命乞いをしつつ、ささっと消毒してバンドエイドを貼った正広だった。

『あっ、智子さんっ』
『おぉ、久しぶり』
『あけましておめでとうございます!』
智子としーちゃんは、ソファの背もたれと、ソファの奥という位置で楽しくトークを繰り広げる。
『智子さん、それめちゃめちゃ可愛いですねぇ!』
『そうかぁ。なんか、だっせーって感じなんだけど』
『そんなことないですよぉ!すごい似合ってます!』
しーちゃんは、正直に羨ましいって顔をした。
そんなしーちゃんを見て、うふふ、と満足したりする智子。
『まぁ、気がむいたら貸してやってもいいぜ』
『えっ!?似合うかなぁ』
『まぁ、そこそこいけるんじゃねぇ?』
『そぉかなぁ・・・』
智子の地面を叩く音、キーキー言う声、しーちゃんの短い鳴き声は、いつまでも続く。

長時間の運転。しかし助手席で正広に爆睡され、その寝息で眠たさを倍増されていた由紀夫だったが、今の一撃ですっかり寝る気を殺がれてしまった。
「今年こそ、容赦しねぇからなぁ・・・っ」
「すんません、すんません」
ぺこぺこ謝る野長瀬に、由紀夫は片手を出した。手のひらを上にして。
「へ?」
その手を反射的に持った野長瀬は、手相ですか?と手のひらをまじまじと見る。
「ちがぁうぅ〜」
手を預けたまま、由紀夫は甘ったるい声を出した。
「野長瀬のお兄様ぁ、ゆきねぇ、ゆき、まだいただいてないのぉ」
「あっ、おにいさまぁ、ひろもぉ。ひろもまだぁ〜」
いい加減おもてなししよう、と日本酒を用意していた正広も、すっ飛んでくる。
「ねぇねぇ、おにいさまぁ〜」
「なっ!?ど、したんですっ!?」
「ほらぁ、お正月っていったらぁ」
それぞれにタイプの違う美形、早坂兄弟に両サイドから責めてこられ、哀れ野長瀬沈没寸前。
そしてすかさず由紀夫に左腕をつかまれた。
「こっちかっ!」
おそろしいスピードでたもとにつっこまれた手が出てきた時には、野長瀬のサイフが握られている。
「おっとしっだまっ、おっとしっだまっ!」
勝手にサイフをあける由紀夫の周りで、正広が小躍りしている。
「由紀夫ちゃんっ!なんてことをっ!」
「げ、これだけぇー?おまえさぁ、初詣いった先で、可愛い女子高生に援助交際しませんかぁー?なんていわれたってこれじゃできねぇだろ!」
根本的にうっかりものやさんの野長瀬は、年末にお金をおろすのを忘れていた。サイフの中身は、千円札6枚だけである。
「しょーがねぇーなぁー・・・」
「それでもとってくんですかぁー!!」
「ほい、正広」
「えっ、僕1000円?」
「おまえ、見てみろ、これ!分厚いと思ったら、レシートとか領収書ばっかだぜ!?」
「いいながら2000円もぉー!あぁーっ!」
「おにいさまン」
ぽんと放り投げられたサイフを見て嘆く野長瀬に、由紀夫は投げキスする。
「残りは、銀行開いてからでいいわン♪」
「ここはぼったくりバーか!!」

全財産の半分を巻き上げられた気の毒な野長瀬は、結局1滴も飲むことはできなかった。座っただけで3000円。おそろしいぼったくりバーである。
そして野長瀬が飲めなかった理由は、腰越奈緒美が秘密のパーティにでかけるので運転手をしろ、と呼び出しをくったからである。唯一の救いは早坂家にベンツがあったこと。
「智子ちゃん預かってるからねー!」
正広に明るく手を振られ、着物姿のまま野長瀬はベンツに乗る。
「今年は平成いい年、だよ、ね・・・」
ベンツの中には、お重があり、あ!これにもしかしてお節が!?と思ったが、中は綺麗さっぱり空になっていた。二人が食べてしまっていたらしい。
「いい年なのに・・・」
秘密のパーティ(実は同窓会。なので、運転手づきで行って辺りをびびらせたい!ために野長瀬を呼び出した)に向かう奈緒美には、あんた着物着るとほんっとヤクザって感じねー!と笑われた。
「いい年・・・」

帰り道、小さな神社でひいた、たった1つのおみくじが、大凶だったことは言うまでもない。
1999年。
平成いい年。
野長瀬定幸の運勢は、去年とあまり変わるところなさそうである。

つづく


何度呟いたことであろう。『今年は平成11年よ?』あぁ、可愛い(笑)しかもうさぎ年、そう、智子ちゃんの年!あの早坂由紀夫の背中に爪をたてた男(笑)!がんばれ智子!闘え智子!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

今までのGift番外編へ

What's newへ

SMAPレポートへ

SMAPメニューへ

トップへ