天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編33話前編『千明?を届ける』

前回までのあらすじ
「野長瀬の哀しいお正月があけて、由紀夫が智子からつけられた背中の傷も癒えないうちに鏡開きがやってきた。腰越人材派遣センター特設キッチンでは、美味しいおぜんざいが作られる。美しい日本文化を継承する腰越人材派遣センターを今年もどうぞよろしくお願いいたします。七草がゆが作られたことはいうまでもないが、合わせて報告しておきたい」

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1月15日は成人式。来年からは3連休にするたえ、毎年変えるらしいので、1月15日決定の成人式は今年限りである。
腰越人材派遣センターの一同にとって、成人式は関係ないことなので、別段変わりはない。来年からの3連休をお祝いするように、今年も3連休でラッキーっ!てなもんである。
ところが。

「15日に仕事したい人ぉー!」
奈緒美の声に返事は一つもなかった。
「15日にぃーっ、仕事ぉーっ!しぃたぁいぃひぃとぉぉ〜〜〜!」
「はいっ、腰越人材派遣センターでございますっ」
「えーっと、郵便局行って、と」
「あー、田舎の母さん出てくるの、金曜日だったぁー、部屋の掃除しなくっちゃー」
「野長瀬ぇ、電話鳴ってなぁーい。ひろちゃ〜ん、郵便局もうしまったぁ。典子ぉ、あんたの実家は都内〜」
メモ帳をぴらぴらさせながら奈緒美はドスの効いた声で言う。

「なぁんなんだよぉ〜」
12月31日の夜中に働かされた恨み。最初っから関わる気のない由紀夫がソファに寝そべったまま聞いた。
「人手がいるのよ、人出。ま、ぶっちゃけた話、枯れ木でもいいの」
「枯れ木って、社長そんな、失礼な」
「まぁなんて言うの?お上の役にたとうって、そういうことよ」

「あっ」
正広が小さく声を上げた。
「安い、ってことだぁ・・・、そぉなんだぁ〜・・・!」
「ひろちゃんったらぁ〜っ」
お気に入りに小須田部長(by笑う犬の生活)の真似をする正広の頭を、奈緒美はよしよしと撫でる。
「そんな事まで解るようになっちゃって。さすがに熱心ねぇっ」
「あぁ〜っ、やっぱりそぉなんだぁ〜」
「そぉなのよぉ〜!」

大体において、自治体の発注する仕事はしぶいもんだ。腰越人材派遣センターとしても、できることなら受けたくない仕事ではあったが、奈緒美の顔は下手に広い。そして、部下には厳しい奈緒美でも、クライアントにはそうとういい顔をしてみせる。
「まぁた、お付き合いなんですかぁ〜っ!?」
「まぁねぇ、しょうがないわねぇ〜」
ええカッコしいの奈緒美はホホホホホ!と高らかに笑い、そのしわ寄せは安い時給で働かされる部下たちに覆い被さってくるのだった。

「えっ!でも、俺まだ17だけど・・・」
「わ、私、30越えてますけどっ」
「だから言ったでしょー?枯れ木も山の賑わいだって。あ、ひろちゃんは枯れ木じゃないわよ。ひろちゃんは可愛いから」
「差別ー!差別ぅー!」
「あたしも、どうみても十代ですけど、実際には二十歳越えてますよ?」
「ううん、あんたは年相応に見えてるから安心して?」
テキパキ!と奈緒美はいい、まだソファで横になっている由紀夫を見降ろした。
「あんたっ!あんたなんか人事みたいに思ってるようだけど、あんたも出るのよっ!」
「何で俺が成人式なんかでなきゃいけねんだよっ!」

そう。
腰越人材派遣センターに依頼された仕事は、成人式への出席だった。

「昨今、セレモニーへの出席率を上げるために出席者に5万円渡すって自治体まであんのよ!」
「えっ?じゃあ、5万っ!?」
密かに奈緒美二世と呼ばれることもある正広が、綺麗な猫目をきらぁん!と輝かす。
「みんなでね」
「うそぉっ!」
うぎゃー!!!と事務所中に悲鳴が走る。
「しょうがないでしょう!知り合いの職員から電話かかってきて、成人式の話になっちゃったんだからっ!」

そりゃ、1度でも仕事の依頼があればお得意様。お客様あっての腰越人材派遣センター。数多くのスタッフの中から、最適なプロフェッショナルをお届けします。が。
それには先立つものが必要。
そのとある区の総務課長は、わずか5万で、成人式にダミー出席してくれる人間を出してもらえないかと言ってきたのだ。
あぁ!どうして断れなかったのだ、腰越奈緒美!
どうしてそんなにええカッコしぃなんだ、腰越奈緒美っ!

「んっとによぉ〜・・・」
3連休〜、3連休〜、何しよっかなぁ〜とウキウキしていた由紀夫はぶすくれた顔でスーツを着ている。
「あ、兄ちゃん、スーツじゃないよ」
「へ?」
「美容院、来いって奈緒美さんが」
「美容院だとぉ〜!?」

紋付き袴の早坂兄弟、振り袖の典子、千明、菊江がセレモニー会場に集合した。
「いやぁ〜ん、由紀夫ったら、カッコいいぃ〜っ!!ひろちゃんもぉ〜っ!」
現代柄中の現代柄、という派手な振り袖に派手なメイクの千明がきゃあきゃあ騒ぐ。
「ち、千明ちゃんも可愛い〜・・・」
あまりに派手なメイクで、顔つきが変わってしまっているので、素直に言えないところが苦しい正広。
「うわ、野長瀬さん・・・」
奈緒美、ジュリエット星川の乗ったベンツの運転席に、野長瀬はいた。
「うわぁー」
「ふっけった二十歳ぃ〜」
野長瀬は、ブレザーを来ていた。髪はヅラで、無理矢理ロンゲにしてある。特殊メイク並のメイク技術で、少々若い肌にもなっている。
「無理したなぁ、おまえ〜」
長い髪を一つにまとめ、さりげなく、一筋二筋前髪を垂らし、正面玄関までやってきた晴れ着のお嬢さんたちの視線を一身に浴びている由紀夫が野長瀬を指差して笑う。
「うわー!!ヒッピー?」
「うるっさいですねぇっ!やりたくてやってんじゃないんですよぅっ!!」
「あれぇ、奈緒美さんたちは、特殊メイクしてないのぉ?」
ドアを開けない運転手に苛立って、自分から降りてきた奈緒美は、いつもながらのスーツ姿。もっていたバックを、千明の登頂部に叩き付ける。
「あたしは挨拶があるから」
「先生は?」
菊江の言葉に、ジュリエット星川は、苦虫300匹かみつぶした顔をする。
「大体呼んでないのよ、あんたはっ!」
「うちの菊江を貸すからには、あたしにだって責任ってもんがあるでしょー!?」
「どうせ父兄にしか見えないんだから、来てもしょうがないって言ったじゃない!」
「何よっ!あたしだけが振り袖着て、綺麗、綺麗って言われるのが許せなかっただけでしょおー?」
ふしゃー!!
ぴぎぃーっ!!
モスラ対キングギドラになりそうだったので、由紀夫が丁重に場を収めた。
「化粧はげてる」
瞬時に黙ってメイクチェック!
女はこうでなくてはならない。

「あ、ねぇねぇ」
話題を変えようと、正広が会場入り口に貼ってあったポスターを指差す。
「千明ちゃん、似てるよねっ」
「違うわよぅっ!」
だだだっ!と走ってきた千明はポスターの前に立ちふさがった。
「こいつがっ!あたしに似てるのっ!!」
「あー、篠原涼子だ。そうね、そう言えば似てる似てる」
「あたしにでしょっ?」
「篠原涼子ちゃんが来るんですかっ?そうなんですかっ!?」
「だから、あたしの方が可愛いって言ってるのにぃぃ!」
「ねぇねぇ、真似とかできるっ?」
「『こんばんわぁ、篠原涼子ですぅ』じゃなくってぇぇっ!!」
千明がうきー!!となっている相手は、アイドル歌手の篠原涼子。千明をもうちょっと大人っぽくした感じだが、どうやら年は一緒らしい。

「ちょっともー、あんたたち、うるさぁい」
さっきまでの自分の騒ぎっぷりはよそにおいて、奈緒美が言った時、小男が近づいてきた。
「あ、腰越さん・・・」
「あらぁ!この度は、ありがとうございますぅ」
この小男が、今回の仕事を依頼してきた総務課長。由紀夫は彼の奈緒美に対する態度を見て、なるほど、とうなずいた。
成人式なんか口実で、奈緒美が来てくれりゃ、それでいいのね、と。
しかし、奈緒美の理想は天より高い。
幸せになれるのは、こういう地味だけど誠実な人なのよ、なんて言葉は右の耳にも入らないため、左の耳からも出ていかない奈緒美である。
ごくごく丁重、かつ一般的な対応を、愛想笑顔一杯に浮かべながらする。
「まぁ〜、大変な盛況で。ワタクシどもじゃあ、かえってお邪魔じゃないかと思ってましたのぉ〜」
「えぇ、まぁ、あの、今年は彼女のおかげでそこそこは来てるんですが」奈緒美と喋るのが嬉しくてしょうがないといった感じの総務課長は、ポスターを指差した。
現役アイドルのステージが見られるとなれば、区外からでも来ようとするものはいるだろう。
「ですが、いかんせん、まだ空席が・・・」
「まぁ、そうですかぁ〜?」
いかにも心配そうな顔で相づちを打つ。
「それじゃあ、中に入りましょうか。どうぞ」
腰越人材派遣センターの少々不気味なご一行は、会場内へと丁重に案内された。

「んー?」
2階席から、式典が行われる1階席を見降ろした由紀夫は首を傾げる。
「なんだ、あれ」
式典まで後2時間。出席者の数は、確かに少なかった。うまっている椅子は、およそ3割。そしてその3割のうちの8が、最前列に固まっている。
「篠原涼子のファンじゃない?」
由紀夫と同じように前髪を上げて大人っぽくは作ったものの、どうみても七・五・三な正広が、てすりに体を預けながら答える。
「それで最前か」
プログラムによると、区長による式辞だの、来賓の挨拶だのがあって、篠原涼子のステージは、一番最後らしい。なのにもう陣取ってるってすごいな。
「今日、カメラチェックとかしてないみたいだから、きっとすごいね」
「すごいって?」
「カメラ小僧」
「あぁ。そうだなぁ・・・」
由紀夫は目がいいもんだから、じーっと前の方を見てみると、確かに、それはビールの500ml缶!?というような望遠レンズがあるのが見えた。

ふーん・・・。
大して興味もなく、ぼんやりと客席を眺めていた由紀夫は、
「たっ!大変ですぅぅーー!!」
という野長瀬の声に振り向いた。
「てぇへんだ、てぇへんだって、てめぇのてぇへんだは聞き飽きたって言ってんだよっ」
「ヘいっ!親分っ!じゃあなくってぇ!」
「野長瀬さん、ヅラがずれてる・・・」
「えっ、こっ、こおですかっ?」
「ロンゲって言葉が似合わねぇよなぁ〜、浪人かおまえは!」
「好きでやってるんじゃないって言ってるじゃないですかぁっ!」
「それで何が大変だって?」
うきー!となっていた野長瀬は、はっ!と我にかえった。
「しっ、篠原涼子ちゃんがっ!」
「え?」
由紀夫と違って正広はテレビ好き。女の子アイドルに詳しい。だから興味津々で瞳を輝かせたんだが。

「えぇぇーーーーっ!!!」

2階席に響き渡る声を上げて、由紀夫に口を塞がれる。
「ひっ、ひろちゃん・・・っ!」
「声、でかいっ」
驚いたままの正広をひょいと抱えて、廊下へ連れ出す。
「何だってっ?」
ロンゲの野長瀬は、焦った顔でもう1度言った。
「篠原涼子が、行方不明ですっ!」

 

「あんた、また愉快なカッコしてるわねぇ」
ツッコメる時にはツッコんどけ。
それが腰越人材派遣センターの不文律。であるから、社長の腰越奈緒美は、由紀夫に言った。
「あぁ。驚きのあまり」
紋付袴の由紀夫は小脇にひょいと抱えたままだった正広を降ろし、抱えられたままだった紋付き袴の正広も大人しく地面に降りる。
「篠原涼子が行方不明って?」
「そ、そうなんです・・・っ」
総務課長は青くなっていた。

昨日のリハーサルにはちゃんと来ていて、今日も2時間前には入る、という約束になっていたのに、まだ現れていない。
まぁ、でも、式典の最中はしてもらうこともないし、とのんびり構えていたところに、事務所から電話が入ったのだ。
篠原涼子が遅れると。
その電話を受けた総務課長は、あぁ、そうですか、とおっとりかまえていたのだが、いつもの癖で、相手が電話を切るのを待ってから切ろうとした時、その声が聞こえてきた。

「何て言ってたんですか?」
由紀夫に訪ねられ、額をハンカチで拭った総務課長は震える声で答える。
「『やっぱりいません!涼子の携帯ダメです!』って・・・。せっぱつまった声で・・・」

もし、これで篠原涼子がこないとなったら。
最前列の本気の一団がどうなるか解らない。
その場にいた人間全員が、さむーい思いに囚われた。
「・・・千明ちゃん・・・」
正広がつぶやく。
「千明ちゃん、似てるから・・・っ」
「あ!そうねっ!」
奈緒美が千明の肩をつかんだ。
「あんた!あんたが篠原涼子やんなさい」
「えぇーっ!!!」

つづく


私は3年連続で成人式に出席したことがあります。うち2回はホントにバイトでした(笑)でもステージにも上がったのよっ!ドライアイスもあびたわ!!私がなんのバイトをしたかは、来週ご報告っ!

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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