天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編35話『苦しみが届いた』

前回までのあらすじ
「!」

yukio
 

その日、由紀夫は大変気分がよかった。
小さな仕事だったが、気分よく終えられたのだ。単身赴任中のお父さんに、手作りお弁当を届けて、なーんて仕事がうるうる涙とともに終わって気持ちが悪いはずがない。
根が善人の由紀夫だった。

その日、正広は感動に打ち震えた。
暇だったもんだから、何気なく、今月の、今日までの早坂家の支出はぁ〜、なんてレシートをめくりながら、たかたか電卓を(パソコンではなく)叩いていると。
「はぁ・・・っ!」
ジャスト10万円!ジャスト!ジャストだ!!
その時、事務所に留守番の正広しかいなかったのは残念だった。正広は誰にもそれを訴えられず、100000−389(コンビニおかし代)と逆に引き算をしていき、ラストが0になるのを何度か楽しんだ。

その日、森医師はちょっと誇らしかった。
長い間入院していた子供が、その子のがんばりによって、見事退院できる日がやってきたのだ。
がんばったなぁ、よくがんばったなぁ、と森医師は思う。そして、ほら、その子のお姉ちゃん(女子短大生19歳、現役モデル)も感謝の目で森医師を見ている。

その日、稲垣医師は自分を褒めてやりたいと思った。
犬のシャンプーを自力でやれたのだから。自分ってすごい・・・!稲垣医師は感動した。トリマーか、獣医かで悩み、なんとなーく獣医になってしまった稲垣医師は、どうも犬やら猫やらをお風呂に入れることが苦手だったのだ。でももう大丈夫。こんなに立派にシャンプーができた!

その日、インターン香取慎吾は、重い肩の荷を下ろした。
試験が終わったのだ。
医学部にいると、そらもう、勉強につぐ勉強で、一つ一つの試験を乗り越え乗り越えして、やっと一息つける。ねむたぁい・・・、慎吾は大あくびをした。

その日、草なぎ助手は、思わず拍手をした。
彼の上司にして雇い主である稲垣医師が犬のシャンプーをしたのだ。それはもう、べらぼうに大人しい老犬で、水に入っているのが大好き!という犬ではあったけれど。それでも一人で!床中びっしょびしょで、稲垣医師の白衣も、下のシャツがくっきり見えるほど濡れているけど、それでも一人で!
先生・・・!大人になられた・・・っ!
草なぎは心からの拍手を送った。

そんな訳で、その日、6人は晴れやかな気分で帰途についた。

そして、ばったり出会ったのは、ちょっとした商店街の出入り口を含む、四つ角でだった。

「あぁ」
最初に言ったのは誰だったか。
「久しぶりー!」
「何してんの」
「何って、歩いてんの」
「わー、森先生だぁ〜」

由紀夫&正広チーム、稲垣&草なぎチーム、森&慎吾チームが全員で顔を揃えるのはとても久しぶりで、特に、正広と森と慎吾は、おまえら女子高生か!!というノリで、きゃいきゃいやっている。

「ねー、せっかくこうやって会えたんだしさぁ、どっかいかない?なんかしないっ?」
「いいですねぇ、先生〜」
「あ!行きたい、行きたいっ!」
兄ちゃんはっ?期待に満ちた目で正広に見られ、気分もいいことだし、いいよ、と由紀夫は鷹揚にうなずく。
「稲垣先生はいいですかっ?」
稲垣医師は自分を褒めたい気持ちだったし、草なぎ助手も稲垣医師を褒めたい気持ちだったので、否やはない。
「よっし!そーだなー、何しよっかぁ〜、どこへ・・・」
「先生、あれは・・・?」
「はっ!あれだ!やっぱあれだよねっ!」
「何なにっ!?」
嬉しそうに尋ねる正広に、森医師はにぃっこり笑って言った。

「苦しくなるの」

 

・・・苦しくなる・・・?
苦しくなるって何?苦しいってどゆことっ?正広はパニックし、由紀夫は、未成年にそれはまずいだろ、とうっすら思い、草なぎ助手は聞き間違いかなと耳を押さえ、
「すっごい遊びしてんだね」
稲垣医師は思ったままを口にした。

「すっごい苦しいんだよ!」
嬉々としながら森医師はいい、いつも以上に笑顔になった慎吾は、ちゃちゃっと携帯を取り出し、ちゃちゃっと予約を入れたらしい。
「いやぁん、久しぶりぃ〜!」
全身から嬉しさを発している森医師は、さっ!いきましょっ!と全員をうながした。

一体どこに連れていかれるんだろぅ。
何が起こるんだろぅ。
正広はドキドキしながらついていった。
「・・・正広」
「えっ?」
「おまえ、ワクワクしてるだろ」
はっ!気づかれたっ!
そう。このドキドキは、ワクワクを伴ったドキドキ。
「だ、だって・・・」
「しらねーぞぉー・・・、うちの連中よりはマシでも、こいつらもすげぇからなぁ〜・・・」
なんなんだよ、苦しくなるってぇ、と考えていた由紀夫たちが到着したのは、

カラオケ・ボックスだった。

 

「飲み物まわったぁ〜?」
「まわったけど、なんで2つずつ?」
「2つなんかじゃ足りないからだよ、ごろちゃ〜ん」
マイクを手に、思いっきりエコーを聞かせながら森は喋る。
「森先生入りましたぁ!」
「いえぇーーーーっ!!I'm pride2つあげぇ〜!」
「2つ!?華原朋美を2つあげてるの!?」

正広が驚愕しているうちに森医師は歌い始める。
「ちょ、超音波・・・」
ただでさえ高い曲をさらに2つもあげて森医師は歌い、間奏で大きく息をついて言った。
「苦しぃ〜!」
「森先生〜っっ!!」
慎吾も甲高い声で応援する。

二人の楽しみ。
それは、「苦しくなるカラオケ」だった。

「だからね!とにかく、2つ3つあげて歌うの!」
耳、キーンとするほどの音量で森医師がマイクで喋る。
「そんで、曲は、どんどんいれとかないと、歌本見てる場合じゃないからねっ!」
「ええ、一緒に歌わなきゃいけないんですよ」
慎吾がニコニコとフォローした。
「一緒に歌うか、そうじゃなかったらジャマするんです」
「邪魔?」
「別の歌歌ったり、音程外して歌ったり。楽しいんですよぉ!あっ!じゃ、俺歌いますから!」
TMレボリューションメドレー3つ上げ。

脳から酸素を失って慎吾はくらっくらする。その様子が面白くて、稲垣医師も入れてみた。
宇多田ヒカル、オートマティック2つ上げ。
「あ、俺も好き好きぃー!」
正広も一緒に歌ってみる、あまりに高くて苦しかったけど、でもなんか楽しい〜っ!と思いながら。

「ひろちゃんすごーい!」
曲が終わった後、森と慎吾から手を叩かれた。
「ナイス妨害っ!」
「誰の曲ー?」
「・・・宇多田ヒカル・・・?」
・・・・・・・・・

「ひどぉー!!俺、オートマティック歌ってたもん!ねぇ兄ちゃんっ!」
「あ、うん、多分・・・」
「多分〜〜!?」
ちゃんと歌ったもーん!!歌うもーん!!
そして正広は、がしっ!とリモコンを奪い、テテテテっ!とボタンを押した。はじまった曲は。

「島田のぶんぶん?」
草なぎ助手の呟き。正広は目を丸くした。
「な、何?」
「間違えても歌うのー!取り消しはなしー!歌ってー!!」
森から言われ、なんだかさっぱり解らない歌を、2つあげるだけはあがってるけど、何せ声がまったくついていかず。
「お経・・・?」
と由紀夫に言われてしまった。
やだくやしいー!!ちゃんと入れるー!!と正広は騒いだが、すでに森医師が入れた後。
「あ、ゆっとくけど、順番なんてないからね。勝手に入れて、勝手にご指名もありよ」

森、globe wanna Be A Dreammaker 2つ上げ。
「ぎゃー!!ガラスにひびはいるぅ〜!」

草なぎ、久保田利伸AHHHHH!3つ上げ。
「あってない、あってないっ!音程届いてないっ!!」

慎吾、charaやさしい気持ち2つ上げ。
「あぁぁっ!それ、俺が歌おうと思ってたのにぃぃーー!!」

その都度正広は一緒に歌い、周囲からはすごい妨害!!と感心されながら、脳から酸素をどんどん追い出していった。
そして、高い金だしてドラッグ買うなんて、バッカみたぁ〜い、というナチュラルハイな状態に突入。
「にーちゃんわぁっ、うたわっないっ!のぉぉーーーっ!?」
「俺っ?俺かっ!?」
由紀夫は最近の曲を大してしらない。知らないし、そんな高音もなぁ〜・・・、と思った由紀夫は、苦しくなるカラオケに一石を投じてみた。

「はいっ!早坂由紀夫歌います!苦しくなるカラオケ、低音バージョン!」
由紀夫、美空ひばり 時の流れのように、5つ下げ。テンポもスローに。
「ぎゃははははー!!!すげー!おもしれぇーっ!!」
低音で息継ぎなしで歌うのも結構苦しい。ハイになれない分、倍苦しかった。
「お兄さん、それ面白いけど、主流にはなれないよー!苦しいばっかだもーん!」
アルコールをプラスするものだから、ハイ度130%の森医師が、隣にいる慎吾をばしばし叩きながら指差して笑う。

きぃっ!と由紀夫が曲を選んでいると、入った曲は野猿、叫び。
「誰ぇー、あ、これ、音程あがってなーい!」
森医師がリモコンをつかむより早く、稲垣医師が立ち上がった。
「エントリーナンバー15、稲垣吾郎、叫び、踊ります」

これは最終兵器と呼んでもいいものだった。
歌うのではなく、躍る。
稲垣医師は躍った。とても真剣な顔で、一心に・・・。

「や、やめて・・・やめてくださいぃぃぃ〜〜・・・・・っ!」
草なぎ助手はソファにうずくまりうめき声をあげ、由紀夫は仰け反った表紙に後頭部を壁に強打したまま固まっている。森医師と、慎吾はワハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハと笑いつづけ、正広は床に倒れて痙攣している。

その正広が床に笑い涙の水溜まりを作り、ようやく顔を上げた時、次の曲がかかった。

「エントリーナンバー16、稲垣吾郎、抱いてHold on me 踊ります」

○×爨◆※・・・黷≒∵∫鸚驫▲▽ポ一凵W♂⇔顳・・・・・・・・・・・・・・

 

しばらく、そのボックス内で動くものはなかったという。

 

「死ぬかと思った・・・」
「稲垣先生って、すごい・・・」
涙とよだれにまみれた一同は、ようやく落ち着いて席につくことができた。
「吾郎ちゃんってすごぉい!!俺感動しちゃったよぉ!」
「ん?何が?」
涼しい顔で稲垣医師は答え、静かにグラスを傾ける。しかし、草なぎ助手にしか解らないが、実は今の稲垣医師は超ハイテンション。7面待ちで役満てんぱってる親くらいテンション高かった(適当(笑))水のように見えるグラスが、ウォッカであることは言うまでもない。

そんな人たちを見て正広は、こんなことじゃいけないっ!!と思った。
自分もなにか面白く苦しいことをしなくっちゃ!んっとんっと!!歌本に顔を埋め、何かいい曲はないのか・・・!と捜し始める。
「うーんと、んーっと・・・」
そして、はっ!と兄の腕をつかむ。
「兄ちゃん、これっ!」
「えぇ〜・・・」
「兄ちゃん歌えるじゃん!そんで踊れるでしょ!!」

そして、エントリーナンバー、なぜか17番、早坂兄弟、パフィ、今更ながらのアジアの純真、2つ上げ、完璧ふりつけつき。ただし、スマスマバージョン。
「完璧ー!!すげぇーーーっ!!」
「歌ってる本人が妨害してるぅぅ〜!」
「俺はちゃんと歌ってますぅぅーー!!!」
兄ちゃんは由美ちゃんっ!と言われた由紀夫は、そっと左耳を押さえながら歌っていた。

それから。

ワイン2本、ウォッカ1本、バーボン1本、チューハイ6杯、ウーロン茶4杯、ビールジョッキ5杯、という激しい飲みっぷりが続いた。

歌われた曲。

森&慎吾、チャゲ&飛鳥YA−YA−YA3つ上げ。
由紀夫、SMAP shake3つ上げ。
正広、宇多田ヒカル Mouvin on without you 2つ上げ。
草なぎ助手、ミスターチルドレン ニシヘヒガシヘ 3つ上げ。
稲垣医師、反町隆志 POISON 3つ下げ。
森、鈴木あみ White Key 3つ上げ。
正広、ザ・ブリリアント・グリーン そのスピードで 2つ上げ。
慎吾、ジ・アルフィー メリー・アン 3つ上げ。
草なぎ助手、少年隊 仮面舞踏会2つ上げ、踊りつき。
由紀夫、GLAY 誘惑&Winter again 2つ上げ。

他、多数。

稲垣医師によって躍られた歌手たち。

SPEED、MAX、ダ・パンプ。

そして最後の曲は、

「エントリナンバー165番、稲垣吾郎。野猿、BeCool踊ります」

すでに3曲立て続けに歌われていたため、他のメンバーは気絶寸前まで追い込まれていた。
そこにきて、あの、「Be Cool」の振りである。

笑いの中で、まず最初に正広の意識が途切れた。後はもうバタバタと屍が登場し、踊り終わった吾郎もアルコールの度数が高すぎて倒れてしまい、そのまま全員で朝を迎えたのであった。

 

翌朝、よろよろとおきあがった6人は、それぞれに職場に向かう。
喉はがらがら、頭はがんがん、目はしばしば。
「あいつら・・・、うちの事務所の連中より・・・、タチ悪ぃ・・・」
眩しい太陽から顔を背けながら由紀夫はつぶやき、半分眠ったまま、兄の自転車の荷台に座っている正広はうなずき・・・、
「あーーっ!正広ぉーーーっ!!」
バランスを失い、大きく後ろに体を退けぞらし、落っこちそうになりながら眠りつづけた。

空は青く、太陽は優しく、小鳥は歌う、なんともいい朝だった。


この苦しいカラオケを実際にやっている人たちがいます。赤い怪獣と愉快な仲間たちです。話を聞いているうちに、ぜひともSMAPさんでやって欲しかったので書いてみました。しかし書いてみると、正広の歌が妨害になるのより、稲垣医師が踊る方が800倍面白かったので、めちゃめちゃ躍らしました。さ、想像してみてください。
モーニング娘の吾郎様を(笑)
次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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