天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編36話前編『未来の歌手を届ける』

前回までのあらすじ
「?」

yukio
 

それは今から半年以上前、なんてことはない平日のそろそろ12時がくる頃の事だった。
昼飯なーに食べよっかなぁ〜、などと思いながら、由紀夫は自転車で左折した。
すると、
「うそぉーっ!」
という声とともに何かに激突しそうになり、慌ててハンドルを切ったがすでに時遅し。自転車の前輪が何かをふんずけていた。
「うっそぉ!」
若い女の子が、目を真ん丸に見開いて由紀夫を見上げている。
「ごめん、嘘じぇねぇわ」
由紀夫は、前輪がしっかりふんずけているハンバーガーを見ながら、そう答えた。

由紀夫が左折した場所は、確かに大きな公園への入り口にもなっている、幅のやたらと広い階段のある場所だった。
土・日ともなれば、その階段に腰掛けて、カップルだの、家族連れだのが、たのしく喋ったり、なんか食べたりはしているが、今日は平日。
「大体なぁ、食うもんなら、もうちょっと上置け、上!なんで一番下なんだよ!」
「何よぉ!今、来て、さ、ここにしよっかなっ、って座ったとこにあんたが来たんでしょーっ!?」
うわ、なっまいきぃーっ!
せいぜい女子高生という年齢だが、昨今の女子高生の生意気さ加減はエベレストにも負けないらしい。
「ねぇ、これどーしてくれんのよぉ」
「あぁ?」
「あたしのランチなのにぃ!」
「今だけ100円バーガーじゃん」
「だから、今だけなんじゃん!?」

マクドナルドの今だけ100円バーガーに、コーラはL。それじゃ腹減るだろうというランチメニュー。
「・・・買ってくりゃいい訳?」
「うん。一緒に食べてもいいよ。ほら、あたし、現役女子高生だし」
平日の真っ昼間にウロウロしてる現役女子高生・・・。
誰かと違って、今時の女子高生にはあまり興味のない由紀夫は、返事をせずにすぐ先に見えているマクドナルドに向かった。

「ほい。今だけ100円バーガーと、コーラ」
「ねぇ、なんかこれにデザートつけようとかって気にはならない訳?」
「ダイエットでもしてたら悪いかと思って」
「ダイエットが必要な体にでも見える訳ぇ〜!?」
現役女子高生、と言った割に、今時の女子高生らしくはなかった。制服を着てないからだろうか。ジーンズとパーカーで、背中くらいまでの髪は、無造作にくくられている。化粧っけもないし。
「何?」
大口開けてハンバーガーに噛りつきながら、目だけが由紀夫の方に向いた。
「え?今時の女子高生らしくないなって思って」
「そうかもね。でも、現役女子高生だよ」
「現役女子高生だったら、今ごろガッコに行ってんじゃねぇの?」
「それなのよねぇ〜・・・・・・」
ちゅーーーーーっとコーラを吸い上げながら、彼女は首を振った。
「今日は、学校にもちゃんと届けを出したお休みなんだけどねぇ〜・・・」
「あ、そうなの?」
「道に迷っちゃってねぇ〜・・・・・・」
「へ?」

ちょっと信じられないくらいの方向音痴である彼女は、ちょっと買い物、とその場所を離れたらしい。そして、すでに1時間近く迷っているが、元の場所には戻れないという。
「ちょっと、ジュースでも買いにいくつもりだったからぁ、お財布しか持ってないし、携帯もないし、もうこのままどーしようもないのかなぁ〜・・・って」
「こっちから電話すりゃいーじゃん」
「電話番号なんて覚えてないもん」
「住所も?」
「もちろん。だってそこまで車で連れてってもらっただけだから、渋谷なんだか、原宿なんだか、新宿なんだか、三鷹なんだか、全然わかんないし」
「・・・三鷹は絶対違うだろ・・・」
「そんで、ここはどこ?」
「ここは、原宿・・・、かなぁ」
「原宿か」
ふむ!という顔をして、うーん、と考え込んだ彼女は、「わかんないっ!」と目を開ける。
ぱっちりとした、やたらと元気のいい目だった。
「わかんないじゃないだろ、なんか思い出せよ、連れてってやるから」
「え?」
「あ、誤解すんなよ。おまえに興味がある訳じゃないからな。仕事だから」
「仕事ぉ?」

届け屋である由紀夫の自転車の後ろに彼女は乗った。
「どこにいたの?」
「んー・・・スタジオぉ?」
「スタジオ?え、おまえって何?手タレか何か?」
「なんで素直にモデルって言えないのよぉ!!」
「あ、でも、その手じゃ、手タレは無理か」
「しっつれいな!じゃあ、あんたの手、見せなさいよぉ!」
ハンドルにある由紀夫の左手をムリヤリひっばる。
「うわわっ、てめ、何すんだよっ!」
「みーせーろぉー!」
自転車がぐらんぐらんしてるのに一切気にしない彼女に負けて、左腕を後ろに回ると、表に、裏に、しげしげと眺めている雰囲気。
「うーん・・・、ちょっとこの辺傷あるけど、うまいことすればいけるんじゃない?手タレ」
「そぉ?じゃあ、これからは、手袋して仕事しようかしら」
「ぎゃはははー!そーすればぁ〜!?」

と、急に自転車が止まり、仰け反って笑っていた彼女の体が大きくかしぐ。
「こわっ!何ぃっ!?」
「地図。さっきいたのがここで、それからこう来てる訳。なんか見覚えある?」
大きな付近地図を見ながら尋ねると、ポン、と肩を叩かれた。
「あのね、地図を見られる方向音痴なんていないのよ?」
「・・・地図が見られない?」
できるものには、できないものの気持ちなど解らない。日常生活において、地図なんて見られて当たり前、見方は?と聞かれても説明できない由紀夫は呆然とした。
「ましてやあたしは、ちょっとそこらにはいない、超すげー方向音痴!」
「いばんなよ」
「だって、ほんと!マジ!あたし、人んちで迷ったことあるもん。普通の一戸建てで!」
「はぁ?東宮御所みたいな?」
「ううん。2階まで合わせても5LDKって感じの」
真剣に言われ、由紀夫は途方にくれた。そんな事があるはずがない。5LDKってことは、部屋は5つ。1階と2階に分かれてるなら、それは余計に間違いようのないはずのもので・・・。
「あのね、玄関から普通に入って、2階の友達の部屋で遊んで、帰る時にね、玄関と、トイレ、間違えたの」

由紀夫は自転車のスタンドをたて、よいしょ、と彼女を地面に降ろす。
「それじゃーなぁー」
「マジだって!マジ!その子に聞いてくれてもいいよ!マジっ!」
そのまま彼女を置いていこうとした由紀夫の後ろ髪をわしづかみにして、彼女は力説した。
「間違える訳ねーじゃん!!玄関には靴おいてあるだろう!」
「だよねー?ねー?でも、間違えたんだもん。じゃあね、バイバイってドア開けたら、トイレだったもん。あたしも超びっくりしたけど、友達も、化け物見る目で見てたね。トイレから来たのかって」
しかもそのトイレ、キッチンを通り過ぎた場所にあって、そんなところ、全然行ってもないのね!と、自分のあまりの行動に受けて、彼女はケラケラ笑う。
道に迷う、という感覚は、迷わない人間には理解しがたく、由紀夫は大きく首を傾げた。
「あんた、道迷ったりしないの?」
「しない。記憶力いいし、方向感覚しっかりしてるし」
「ちったぁ、謙遜したら、謙遜〜!」
ぶーぶー言いながら自転車の荷台に乗った彼女は、にこっと笑った。
「じゃあ、その方向感覚で、私をスタジオまで連れてってぇ〜!」
「いっけど・・・。あ、スタジオの名前は?」
「アルタ」
「あ、じゃあねぇ、すぐそこにJR原宿駅ってのがあるから、そこから、山手線の外回りってのにのって、新宿で降りてくれるかなぁ。5分もあればつくから。それで、東口を出たら、すぐ解るからねぇ〜、ばいばぁ〜い」
「んもぉ〜っ!」
もう一度後ろ髪をつかみ、彼女が膨れた顔をする。
「軽い冗談でしょー?ジョークジョーク、イッツジョークじゃぁーん!」
「疲れんだよ、てめぇ」
「年寄りは大変ねぇ〜」

『年寄り』呼ばわりされ、由紀夫のこめかみがぴくんと動く。
「ほんと、人間の身の上で、ひよこの相手をするのは疲れるね」
「何、ひよこってぇー!」
「ひよこだよ、ひよこ、しっぽに卵の殻がついてるどころじゃなくて、卵から、顔出してるだけのひよこじゃねぇか」
「うっわー、大人げなーい!」
「てめぇ、降りるか!?」
「連れてくって言ったのあんたでしょー?連れてきなさいよぉ!」

軽い気持ちで、迷子を届けてやろうかと親切心を起こした事を、心の底から後悔した由紀夫だった。


「宇多田ヒカル、笑う犬の生活、メールで登場記念」でございます(笑)宇多田ヒカルを届ける由紀夫なのです(笑)後編は、お約束の展開がてんこもり。お子様から、おじいちゃん、おばあちゃんまでが安心して楽しめる毒のない内容になる予定。いや、毒はいつもない(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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