天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

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ギフト番外編36話後編『未来の歌手を届ける』

前回までのあらすじ
「方向音痴で迷子になった女子高生を拾った由紀夫は、彼女を元いた場所に連れていこうとする。しかし、彼女の方向音痴さは、すべて現実に起こった出来事を元にかかれているのだった。方向音痴、おそるべし!(あらすじ!?)」

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「あー、めんどくせぇ〜」
「何よぉ!ねぇ、どこぉ〜?」
「俺のセリフだ!」
電話ボックスに入った由紀夫は、電話帳をめくっている。
「スタジオの名前も覚えてねぇのかよっ!」
「だからぁ、車で連れてってもらってぇ、すぐに中に入っちゃったんだもん。いちいち名前なんて見ないでしょー?あ、でも!」
「何・・・」
「花屋さんがあった!」
「花屋ぁ?」
「ちっちゃいんだけど、可愛い花屋さん。帰り寄りたいなって思ったし」
「花屋・・・」
タウンページのページを、花屋の方にめくり直して、住所を上からなぞる。
「えーっと・・・」
ぴたっ、と、指が止まった。
「この住所・・・」
今度はスタジオのページに戻って、同じように住所を見ていき、また指を止めた。
「近いな」
「・・・え?どゆこと?」
「この住所と、こっちの住所が近いだろ?」
「なんで?なんで、解るの?」
「はぁ?だから、近いだろって」
「違うわよぉ!スタジオだってこれくらいあるし、花屋だってこんなにあるんじゃん!なんで解ったのかって聞いてんの!」
「何で、ってぇ・・・。この住所、スタジオの方でもあったし」
「えぇ〜・・・?」

後ろからタウンページを覗き込んだ彼女は、花屋の数の多さに軽い目眩を覚える。スタジオだって、場所的に一杯あるだろうに。
「あんたの頭って、どーなってんのぉー?」
「俺は、一般家庭で迷うようなヤツの頭の方が気になるね」

とりあえずここのスタジオと花屋が近い、という情報をタウンページから入手した由紀夫は、彼女を乗せて自転車を走らせた。

「・・・ちょっと俺、完璧じゃない?」
その花屋の前で由紀夫は言う。
小さな、けれど、とても可愛らしい花屋があり、その隣は、コンクリート打ちっぱなしのいかにもなスタジオ。
「ここだろ?」
「・・・違う」
「えっ!?」
ばっ!と振り返ると、彼女は小さく首を振っている。
「だって、スタジオと花屋が隣同士で!」
「だって違うもの!」
「違う、って・・・、あ、おいっ!」
自転車の荷台から降りて、さっさと行こうとする彼女を、由紀夫は追いかける。
「ホントに?おまえ、身間違えてるだけじゃんじゃないのぉ?」
「違うったら、違うのっ!偶然あるんでしょ!」
・・・スタジオと花屋が並んでるような場所が?

しかしタウンページを見ると、確かにもう1つ、住所の近い、スタジオと花屋があり、そこにも一応行ってみるが。
「・・・離れてるしなぁ・・・」
4軒間に入っていれば、いくらなんでも、隣とは思わないだろう。

「現場百回っつってな」
「うわー、踊る大捜査線っぽくしてるぅ〜」
二人の出会った場所まで戻ってきて、缶ジュースで休憩。すでに2時が来ようとしていた。

「ここから1時間だから・・・、別の区なのかな・・・」
タウンページの調べ方が甘いのか?そう思った由紀夫は、スタジオについてもうちょっと詳しく聞いてみる。
「スタジオったって、いろいろあるじゃん。何スタジオ?撮影とか、録音とか」
「・・・録音」
「録音・・・って、おまえもしかして歌手?」
「そうだよ」
「おまえがぁ〜?演歌?」
「あたしのルックスのどこが演歌歌手に見えるのよぉーっ!」
「まぁ、こんな生意気な演歌歌手もいないわな」
「しっつれいしちゃうーっ!でも、歌える」
ふいに立ち上がって、大声で歌い出したのは、『函館の女』
道行く人が立ち止まるほどの声量で、朗々と歌い上げた。
「ど?」
得意気に顎を上げた彼女から、ふふん、と上から見下ろされて、由紀夫は思わず拍手をしてしまったし、辺りからも同じように拍手が飛ぶ。
「すげぇ〜・・・」
「そうそう?おひねりは?おひねりっ」
「あぁ、これやる、これ」
マクドナルドのクーポン券を差し出され、それをポケットにいれた彼女は、コホン、と咳払いをした。
「それじゃ、お客さん、リクエスト、ございます?」
「えーっと・・・、津軽海峡冬景色?」
「はぁい、お任せくださぁ〜い」

なぜかそのうち、ストリートミュージシャン、演歌で金を稼ぐ、ってそれ流しって言うんじゃあ!?状態になってしまい、彼女は次々に演歌を歌う。
「いやー、なんか、燃えちゃったわ!」
「いやー、先生、すごいっすねー!あ、お飲み物はっ?いかがいたしましょっ」
「ん、じゃあ、そのおひねりで、冷たい氷コーヒーを買っていらっしゃい」
「温かい氷コーヒーは買えませんしね」
「弟子は師匠が黒といったら、鳩でも黒っ!温かい氷コーヒーって言われたら、買ってくるのっ!」
偉そうな声を背中に受けつつ、一段落ついた彼女に氷コーヒーと、ドーナツを買ってきた。
「ありがと」
「ありがとって、これ、おまえの金だし」
わずか1時間ほどで、3000円近くのお金が彼女の手に入っていた。
「稼げる歌手だな」
「時給3000円かぁ・・・。いいよねぇ」
「いいだろ。8時間働いて、2万4千円。20日働いたら、48万だぜ」
「うわ!ストリートミュージシャンやろうかなぁ〜!」
「すでにスタジオミュージシャンにまでなってるヤツが、何言ってんの」
自分の分は自分で払った氷コーヒーを飲みながら、由紀夫が言い、彼女はふいに黙った。
「・・・失敗したこと、ある・・・?」
「そりゃあるよ。誰だってあるだろ」
「ううん。すごい大変な失敗だよ?取り返しがつかないくらいの。すっごい失敗」
「・・・例えば?」
「何千万、とか、すごい被害額が出るような失敗」
「何千万ねぇ。俺は、億単位の金を手に入れるための鍵になってた事があったな」
「はぁ?」

何ゆってんの、あんた大丈夫、頭悪いんじゃないの?ってゆーか、これ?

という感情を、頭の横で、くるくるっと指を回す動作と、その豊かな表情で彼女は表わした。

「え、だってホントだもん。俺の頭をぱかって開けば、それだけの金が手に入るかもしれない、って状況だったことあったぜ?」
「・・・なんか、自分の話が小さく思えてきた・・・」
「取り返しのつかない失敗ってのは、多分、そんなにねぇよ。あのさ、俺の知り合いで、そりゃもう、毎日、毎日、失敗の繰り返しって男がいるんだけど、そいつなんか、それが失敗だって事にも気づいてないし」

べっくしょいっ!
「うわ!野長瀬さん、きたなぁい〜!」
「野長瀬さん、風邪?花粉症?」
「典子ちゃん!ひろちゃんの優しさを見ましたっ!?人の体を気遣う優しさってもんがないんだからっ!」
「鼻水だらだらさせながら言わないでくださぁ〜い」

「かなり不運な部類に入る男なんだけど、それにも気づいてなくって、もう40に片足ツッコミながら、明日はいいことあるだろうなぁ〜、って真剣に思ってんの」

「あ〜、もぉ〜、野長瀬ぇ〜、そんな顔でこっち向かないでっ!紅茶がまずくなっちゃうでしょー!」
「社長までぇ〜っ!」

「後、何十億って金を男に持ち逃げされたにも関わらず、生活小揺るぎもさせず、元気に働いてるおばちゃんとか」

くしょんっ!
「あーもー!移ったじゃないのぉーっ!」
「社長のくしゃみって・・・、意外に可愛いんですね・・・」
「意外!?意外っ!?意外ぃぃーーっ!?」
「あっ、いや、そーゆー意味じゃなくってっ!」

「だから、ようやく卵から顔だしたくらいのおまえがする失敗なんて、気にすることねぇと思うけど?」
「・・・・・・」
彼女はふと俯いて、ぱっ!と顔を上げる。まっすぐに由紀夫を見つめるために。
「・・・、もし失敗しても・・・、取り返しは、つくかなぁ・・・」
「つくだろ。おまえが取り返しつけたいって思ってんだったら。でもまぁ、最初っから失敗を前提に置くってのもどうかと思うけど」
「だって・・・、自分だけの事じゃないし・・・」
「バカだなぁ〜。いいんだよ、都合の悪い事は、あたし子供だしって顔してりゃあ」
正広にやるように、ぽん、と頭に手を乗せる。
「せっかく子供なんだから、利用できるもんは、利用しとけ?」

「ねぇ」
由紀夫の手をつかんで、ぽん、と彼のひざの上に返し、彼女は立ちあがる。
「名前、なんて言うの?」
「俺?それとも、不運な男?捨てられたおばはん?」
「そんなもん聞いてどーすんのよ!あんたよ、あんた!」
「早坂由紀夫」
「ん、じゃあ、新人賞取ったら、早坂さんのおかげですって言ってあげる」
「あ、そう。じゃあ、そのためにも、おまえをスタジオ連れてかなきゃなんねー訳ね」
「うん、あの・・・。あそこ・・・」
「どこ?」
「一番、最初の・・・」
「・・・・・・」
「・・・だ、ってぇ〜っ!なんか、録音うまく行かなくってぇ〜っ!」
「てっめ、ふっざけてんなよっ!さっさと乗れっ!!」

可愛い花屋の隣にある、いかにもなスタジオに彼女を放り込み、花屋で、あまりに可愛らしかったので、チューリップなんぞを買った日から、約半年。

「えっ!宇多田ヒカルがライブやるんだって!」
「ふーん・・・」
事務所でテレビを見ていた正広がいい、由紀夫は大して興味なさそうに雑誌を眺めていた。
「4月にやるんだってぇ〜、でも、招待客だけって、俺らはダメなのかなぁ」
「えー!宇多田ヒカルぅ〜?あたしも見たーい!CD買った人、ご招待とかじゃないのかなぁ」
典子と正広がテレビに向かってキャアキャア騒いでいる時、郵便が届いた。
一番手近にいた由紀夫がその速達を受け取り、差出人を見る。
「宇多田ヒカル・・・」
「えぇぇーーーーーーっっっ!?」
ばびゅんっ!と正広と典子が飛びついて来て、由紀夫はただちに封筒を奪われた。
「宇多田ヒカルから依頼だ!すごい!すごーい!兄ちゃん会えるかもー!!えーっと、ある人を探して、この招待状を届けてくださいっ!ライブの招待状だぁー!探す人はっ、・・・ハヤサカ、ユキオ・・・?」
「ハヤサカ、ユキオ・・・?」
依頼状には、イラストがついていた。似ている訳ではないが、特徴をつかんだもの。
「兄ちゃん、宇多田ヒカル、知ってんの・・・?」
「しらねー・・・」
「じゃ、なんで来るの?同姓同名?」

由紀夫はいつもでも首を捻り、正広はいつまでも聞きつづける。
半年前に出会った生意気な女子高生の事を由紀夫が思い出すまで、後しばらくかかりそうだった。


99年上期の音楽シーンは、早くも宇多田ヒカル&だんご三兄弟に席捲されております。おもろいです。99年を振り返ったとき、果たして第1位はどちらの曲になるのか。はたまた、別の曲が入るのか。笑けます(笑)楽しみです(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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