天からの贈り物じゃないけど、黙って受け取って?

『Gift番外編』

yukio

このページの画像は、すべてyen様の作品です♪

ギフト番外編39話前編『編みぐるみを届ける』

今回の理由
「編みぐるみブームだ。編みぐるみは相当可愛い。だから、編みぐるみネタなのだ」

yukio
 

大風が吹き、なんでも、四国では、瀬戸大橋線が閉鎖されたという日。香川に出張していた野長瀬が帰れません!と電話をしてきて、陸の孤島じゃあるまいし!なんとかして帰ってきなさいっ!と奈緒美に怒鳴られていたっけ。
「ただいまー」
由紀夫は、ほどいていた長い髪を強風でぐっちゃぐちゃにさせながら部屋に入る。
が、返事はなかった。
「正広?」
電気は煌煌とついているし、テレビは賑やかに喋ってるし。コンビニか?と部屋の奥を見ると、そこで正広がうずくまっているのが見えた。
「正広!?」
すわ、具合が!と駆け寄ると、背中を向けて、床に座っていた正広は、
「あぁっ!」
と声をあげて、何かを放り出した。
「できないーっ!あ、兄ちゃん、お帰りぃーっ!」
「・・・何やってんの」
「編みぐるみ」

その日は風が強かった。
定時で腰越人材派遣センターを出た正広は、追い風に乗って調子良くケッタマシーン、正広号(毎回名前が違うような・・・)を走らせていた。
色を抜いた髪がオールフロントになるのも気にせず、ぐんぐんスピードを上げていた正広は、橋の上で突然、風向きが真横からになったため、ハンドルを取られて車道から歩道に倒れ込む。
逆でなくってよかったぁ〜っ!
と倒れゆく正広は思ったが、倒れた先には。
「いたぁ〜〜いぃ〜っ!!」
「うわっ!うそっ!ごめーんっ!!」
黄色い帽子も愛らしい、小学生の女の子がいた。
「ごめんごめんっ!」
跳ね起きた正広は女の子の上から自転車を排除。ひっくり返った亀のように、ランドセルの上に大の字で倒れている女の子を助け起こした。
「ごめんね!大丈夫?怪我は?」
上着や、スカートをぱたぱたし、可愛い膝小僧にすりむいた跡をみつける。
「うわー。ごめんねー。バンドエイド、は・・・」
どこかに入ってたはず、と、ポケットに手をやり、バックだったかな、と立ち上がり自転車に向かう正広。
その背中で、「あぁ〜・・・・!!」と悲痛な声が上がった。
「ん?」
「くまちゃん・・・」
それまで、びっくりしたせいか、うんでもすんでもなかった女の子が、呆然と正広を見ている。
「え?」
背中?と見てみると、ジーンズのベルトに何かがひっかかっている。
「ん?これ・・・」
手にすると、それは、毛糸だった。
ふわふわしたピンクの毛糸で、なんだ?と引っ張る。
「あぁーっ!」
しかしそれは更なる悲鳴で遮られた。
「くまちゃん、なくなっちゃうぅー!」
「えぇっ?」

 

「で、それが編みぐるみだったと」
「うん・・・、その子ね、純ちゃんって言うんだけどね、編みぐるみ作ってたんだって。ピンクのくまで、もうパーツは出来上がってて、後は綿を入れて縫うだけになってたんだよ。それを、昨日の帰りに、なかなかうまくできたって見てるところに、俺が突っ込んでって」
「毛糸をひっかけて、頭がなくなったと」
「そして、ぶつかったはずみで、胴体は川に落ちたと」

ふーむ。そりゃ正広が直すのが筋だろう、と由紀夫も納得するしかなかった。
そして、正広の編み掛けの毛糸を見て、
「そんで、作ってるのはラグビーボールか?」
と尋ねて、正広の機嫌を大きく損ねることになる。

ちょうどNHKでやっていた編みぐるみの番組を見ると、編みぐるみで一番難しいのは、一番最初。パーツの最初の部分を作るのが難しいらしい。これができれば、後は数を増やしたり、減らしたりしながら編むだけだから簡単だと、講師の先生は言った。
もちろん、かぎ針なんぞ持ったこともない正広は、その言葉に大きくうなずき、本をじっと見ながら作り始めたのだ。
そして、まず第1の作品が、今現在、かぎ針とともに床に転がっている、直径およそ2cmほどの、ラグビーボール形のもの。
「え!これは、なんか、ぬいぐるみに持たせるおもちゃとかじゃないのか!」
「頭でしょー!くまの頭ーっ!」
何をぅ?そのラグビーボールをじっと手に乗せ、由紀夫は首を捻る。
「これを、縦にしたら、宇宙人だよな。横にすんのか?それにしてもえらい平べったい形の」
「もーっ!うるっさーい!俺が不器用なだけだよっ!いいから、もうっ!今日は晩御飯作れません!好きなもの食べてくださいっ!」
「まーまーまー、正広くん。おなかがすいたら、イライラするでしょー?なんか食べてからにしろって」

由紀夫特製、ペペロンチーニを手早くいただき、早坂兄弟は、二人して編みぐるみに取り掛かった。
「かぎ針二本買っているとは」
「へへ。だって、兄ちゃん、こんなの好きでしょ?」
「別に好きじゃねぇけどさぁ」
本に、じっと強い視線を落とし、真剣に糸を操っている。
「人差し指に巻き付けて?それを抜いて?また持って?ん?」
「これで、最初の6目を編むんだって」

1・2・3・4・5・6

「6目編んだぞ。それで・・・」
しかし由紀夫はそこから先に進めなかった。
「えっ?ここの輪をこっちに引っ張って?引っ張るって、どこからどこにどう引っ張るんだよ!」
「わかんないよねぇ・・・」
「わっかんねぇなぁ」
二人が今つくっているのは、クマの頭の部分。頭頂部から作るのだから、そこが開いていてはおかしい。つまり、最初の6目を編んだ後、糸を引っ張って、円にしなくてはいけないのだが。
「・・・わっかんねぇなぁ・・・」
どうしても、穴が空く。
「・・・これさぁ、生まれたての赤ん坊って事にしねぇ?」
「なんで?」
「生まれたての赤ん坊って、頭の天辺、開いてんだぜ?」
「嘘ぉ!」
小卒の正広が両手で頭を押さえ、驚愕に目を見開く。
「ホントだって。開いてんだよ。だから、頭の天辺を押したら」
「押したらって!押したらって、開いてんでしょーっ!?」
「・・・いやいや。頭に直接穴が空いてる訳じゃないから。皮膚はあるから大丈夫。骨がくっついてないんだってば・・・」

しかし由紀夫は、どうにか、こうにか、円にすることに成功した。98%力技だったが、一応成功させた。
「そしたら、今度は、12目にするんだって」
「・・・これが6目・・・あのさぁ、俺にはこれが12目に見えるんだけど」
由紀夫はちいちゃな、ちいちゃな毛糸の固まりをじっと見ながら呟く。
「え。だって、6回編んだだけじゃん」
「でも・・・」
じーっと見ているうちに、一体、自分が何を見ているのか解らなくなってきた。
「とにかく、1目を2回編んだら、2目でしょ?それを1周したら12目だよ」
そう断言した正広は、「いーち、にーい」と声をあげながら、かなり苦労しながら12目編み、3段目の18目にかかる。
「12を18にするには、えーと、えーと」
メモ帳にごちゃごちゃ書き込んだあげく、1目普通に編んで、2目、3目は同じ場所に通せばいいはず、とあたりをつけて、また元気に、相当苦労しながら編みはじめた。

「じゅー・・・、しち、じゅーはちっ!」
「まて、正広・・・」
「え?」
「おまえ、6、12、18って目を増やしたんだろ?」
「うん」
「それで、それはクマの頭なんだよな」
「そーだよ?」
「・・・なんでそれが、ラグビーボールになってんだ?」
「・・・そーなんだよねぇ〜・・・」
正広も、手の中になぜか出来上がっている、ピンクのラグビーボールを不思議そうに見下ろす。
「どう考えてもさぁ、6・12・18って増えたら、裾は大きくなるはずだよねぇ」
「写真の形状でみても、浅いおわん形になるはずじゃねぇか?」
「「なんでラグビーボールかなぁ〜」」
兄弟そろってしみじみと首を傾げる。
「あ。そんな事言いながら、兄ちゃん全然編めてない」
「いや、だって!」
最初の段から、一歩も先に進んでいない由紀夫には由紀夫の言い分がある。
「どれが1目で、どれが2目かわかんねぇんだもん!」

それは毛糸のせいだった。細いモヘヤを使っているため、まわりの毛がふわふわして、編み目を解りにくくしている。
じっと本に見入った由紀夫は、正広の手をつかんで立ちあがった。
「なっ!何!?」
「ドンキホーテいくぞ!」

ドンキホーテ。
深夜まであいている、ホームセンターである(らしい。香川にはないのに、しらんがな(笑))。
そこにチャリで乗り付けた由紀夫は、未だかつて足を踏み入れた事のないゾーンへと向かう。
「兄ちゃん、何探してるの?毛糸?」
「あの本にさ、スタートが解りにくくなるから、目印付けろって書いてあったろ」
「・・・あったっけ」
「あったんだよ。すごく普通に。ってことは、編み物業界じゃあ、そういうものが何かあるんじゃないかと、思って・・・」
棒針だの、かぎ針だの、なんだのかんだの、おそらく一生触れることはなかったであろうコーナーを、じーっと見ていた由紀夫は、これ!と一つの商品を手にする。
「これじゃねぇ?」
「あ。そっか。これで、印をつけられるんだ」
それは、編み目の間に通せるようになっているリングだった。
「たかが編みぐるみ!俺にできないはずがない!!」


編みぐるみを始めた。もうすぐに飽きるし、完成することはないと思う。でも始めた。赤い怪獣に、ギフトのネタにするんだったら、許してあげてもいいです、と言われた。彼女に言われたからには、ひろちゃんを可愛く描かなくてはならなかったのに、なぜか燃え上がる由紀夫になってしまった・・・。叱られる・・・。きっと叱られる・・・。とても怖い私なのだった(笑)

次回更新は、来週水曜日!の予定は未定にして決定にあらずっ!

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