TV’s HIGH

★第0回

「いえす、うぃーあーおーぷん!」
テレビには、木村祐一が映っている。いつ見ても魅力的な細い目だ。
「記念すべき第1声なので考えてみましたけど、ピザを注文しましたところ、キャンペーン期間中ということで、テレビ局開局キットというのが届いたんです。マニュアルとかもあるんですけど、これがなんと!視聴率80%とるとピザがもう1枚貰えるという!これ、視聴者プレゼントも考えたんですけど、生物なんで私が」
キムの細い目はとても嬉しそうだ。テレビ局開局キットについているカメラに近寄ってきて、まずはこれで、とご機嫌を伺ってみる。

両手の甲を重ね合わせ、下の手の指の間に上の手の指が重なり合うようにして。
「バナナ。
・・・・・・
日本人はバナナが好きと言うことで、これはほんのお遊びです」
ピザをもう1枚もらうには、視聴率80%取らなくてはいけない。視聴率を取るには、衝撃映像が一番!

衝撃映像その1.
その写真は、なんていうことのない、街中に古くからある商店のものだ。
商店の名は「アキオカメラ」
「一見、アオキカメラからなと思っていたら、アキオカメラ。なんやねん。なんで名前の方やねんと。嘘でもアオキ名乗っとけよって」

衝撃映像その2.
「業界最高齢ディレクター。この方がオッケーを出すシーン」
そこは、公園。遊具らしきものに座っている老人がメガホンを持ち、「はい、おっけー」
その棒読みっぷりが、重鎮さを表していると、いえ、なくも、ない、かな・・・?

衝撃映像その3.
「ガムの最後の粘り」
地面に落ちていたガムが、車のタイヤのかなり上の方に引っ張られている写真。必死に頑張っているガムの様が涙を誘う。
「車のバックを阻止しようとしている。車が前進する時が、ホントのガムの最後だってことですけどね」

衝撃映像その4.
「かの、ガッツ石松が、なんと、特異な習性を見せておるんです」
ガッツ石松が打ち合わせをしているVTRが流れる。彼はいつもよりも落ちついた様子だ。打ち合わせはほのぼのとした空気の中、淡々と進み、そして、担当者が、側にあった灰皿にファイルをぶつけた瞬間、あくびをしそうになっていた、ガッツ石松が、自然にファイティングポーズを!
「どうですか。金属音に反応してファイティングポーズとったんですよ!全然ゴングとは(音が)違うのにですよ!?しかもあくびでそうだったのに、思い出したように(笑)」
リプレイもされる。そこには、確かに、金属音に反応してファイティングポーズを取るガッツ石松が!あくびからファイティングポーズに思い出したように移行するガッツ石松がっ!

衝撃映像その5.
「いよいよ次はすごいですよ!あの!木村拓哉くんが、『あ、木村さん』、と言ってるところを押さえました!」

そこは、TMCの今昔庵?と想像させるような喫茶店。煙草を吸っていた木村拓哉が顔を上げ、
「あ、木村さん」
きょとんとした顔が相も変わらず可愛らしい!

「言いますね、やっぱりね(笑)」

衝撃映像その6.
「続いては、美輪明宏みたいな木。どうぞ」
その木は、夕日を受けていた。枝をすべて取り払われ、夕日を上部に受けているその姿は、肩、腕、背中剥き出しのドレスを来ている美輪明宏にしか見えない。
見えないったら、見えない。これと同じ写真が見た人は、本屋さんにいって、「木村の目」という本を探すこと。多分、ガムの最後の粘りも載ってたと思う!
「なんとなくですけどね、西日がさしてね。思わず挨拶したくなるような」

キムは次々に衝撃映像を流し、それを見て、ピザデリバリーサービス、ピッツァマンの従業員、上ノ倉三郎(生瀬勝久)は笑っていた。漢字は適当だ。
そこで電話がなる。
「はいっ」
『笑ってんじゃねぇよ!何やってんだありゃあ、あんな放送したっていつまでもバブルは来ねんだよ!』
「来ないですかね」
『俺が見たいもの見せてやるから待ってろ!』
居丈高な男の声に、上ノ倉は驚く。えっ!?と画面を見ると、画面では、変わらずキムが喋っていた。

「ジャンボ尾崎さん、後ろ髪長いですよね、あれがなぜなのか、突撃レポートです」
画面は、テレビ局の廊下。その中に、ジャンボ様とかかれた扉が・・・。

「これですか?」
上ノ倉が尋ねる。
『これだ』

ジュリアナ〜〜東京ぅ〜〜!!
画面の中には踊り狂う女たちが。その映像がものすごく昔に見えるのはどうしたことだろう。遥か昔に見える。ジュリアナ東京は90年代の出来事だと思うが、遥か大昔に思えてしまうのはどうしたことか。
上ノ倉がそう思ったかどうかは解らないが、私の脳裏をよぎったのは、ジュリアナのお立ち台を破壊した番組があったけど、あの思い出を破壊する番組は、一体なんだったっけ、ということだ。
目をぱちくりさせる上ノ倉の前で、画面は切り替わった。
ボディコンの女たちが消えて、キムが現れる。
感に堪えない!といった風情のキムは、「いやー、隠された事実というのは、聞いてみないと解らないものですね」なんて言っているではないか。
「うわー!しりてー!ちょと社長。社長のおかげで聞き逃したゃないですか!」
『知らねーよ!視聴率80%だからな!頼むよ?』
「なんでそんなことにこだわるんですか」
『中央林間だよ。この時間に視聴率80%とるようになったら、相当景気がいいってことだからな。俺が買った中央林間の土地が元の値段に!』
「無理だと思うけどな・・・」
『取り返してこい』

キムは、まだ衝撃映像を流しつづけていた。
今度は、あるビルの看板。
『お菓子の材料と器具の店』
「お菓子の材料と器具を売るんだったら作って売れ!」
キム絶好調!

ぴんぽん。

「おっと!お客さんがきましたよ!どんな方が。いらっしゃる・・・」
「ピザ屋でーす」
上ノ倉が上がり込んでくる。
「もう80%いきました?」
「いや、それなんですけど、返していただきたいんですよ」
「なにをですか」
「そのテレビ局開局キット」
えっ!そんな!と抵抗するキムに、ピザもう1枚あげるから!と奪い返そうとする上ノ倉。
「放送中ですよ!大ハプニングですよ!?」
「えいっ!」
上ノ倉がスイッチを押し、画面には、コオロギを狙い、見事食べるカメレオンが現れた。それはまさに、今のキムと上ノ倉だった。
画面が切り替わると、ロープでぐるぐる巻きになっているキムが・・・!
そして、上ノ倉にぐいぐいつつかれるキムが!
そして、開局キットは奪い取られてしまうのだ。あぁ、キム・・・!

大きな段ボールを抱え、ピザ屋まで戻ってきた上ノ倉。ちょうどのタイミングで電話がかかってくる。
「はいはいはい、もしもし?」
社長だった。
『もうちょっと考えなさいよ。なんのために芸能人がいっぱい住んでるアパートに店出したと思ってんだ』
「なんか、芸能人でも、ピザ食うヤツと食わないヤツがいて、ピザ食うヤツってダメみたいですね。もっとイケてる人が食うもんの店とかやったら・・・」
『なんだよ』
「例えばイタリア料理とか」
『ピザじゃねぇか!』
そりゃ、そうだと思ったら、注文用の電話が鳴る。社長はほっといて、そっちにでる上ノ倉。

「はい!ピッツァマーン!」
『注文いいですか?』
落ちついた男の声での電話。しかし、名前は木村。あ?と上ノ倉の表情が変わる。
「何マンション?」
『上の。・・・すぐ上の』
「またあんた!?」
『え?』
「あんた、ピザ上げただろぉ?」
『まだ注文してないじゃん!』
「木村祐一だろ?」
『拓哉です』

「・・・・・・・・・木村、拓哉さん?」
『木村拓哉です。注文いいですか?メキシカンピザで』
「はい。具、なし?」
『跡、ピザソースは。・・・・塗らないで』
「はい?」
『素で』
「素?ちょっとあの、それって」
『はい?』
「ピザじゃない!あの・・・!あんたうちの店否定してるかぁ!」
『お願いします、待ってます』
その電話の途中から、キムは見ていた。
キムは、じっと見ていた。
ドアから、半分体を出して、じっと上ノ倉を見つめていた。
あっちいけ!と手で追っ払われ、さっと隠れても、まだそこにいた。
上ノ倉は、そんなものにかまっているヒマはないのだ。
「木村拓哉で、キムタクかぁ。へぇー(無感動)あ!社長来ましたよ、あのね!木村拓哉。押さえました。はい!バブル来ますよ!またバブル来たら一緒に踊りましょっ!じゃっ!」

じぃーーっと見ていたキムは、がぁーーっとカメラに近寄ってきて。

「ワシは地下に潜る!」

いやーー!!潜らないでー!キムぅーーーー!!

<第1回に続く!>

★第1回

ぴんぽーん。
音だけがして、画面は、不自然に暗い。わずかな隙間から、あかりがチラチラ零れる。
「はーい」
木村拓哉の声がする。
「ピッツァまんでーす、ピッツァ届けに参りましたぁ」
もちろん上ノ倉(生瀬勝久)の声も。
「はーいどうも」
「あ、ドア開ける前にピッツァマーンって言ってもらえます?」
「・・・なんで」
「30円引きになるんですよ」
「へぇ・・・。ピッツァマーン」
がちゃ。
「そんなに30円が惜しいんだ」
「だって今あんたが言えっつったんでしょ!?」
「まぁね」
「何分かかってんの。どこにあんのおたく」
「ここの真下」
「じゃなんで遅いの!」
「学校に近い子ほど遅刻するでしょ。いわゆる、油断ですよ」
「油断すんなよ」
「ははは、えーと、3870円になります」
「なんでそんな高いの!?」
「キャンペーン中だから」
「キャンペーン中だったら高くじゃなくて安くするでしょ!?」
「高いキャンペーンってのもぎりぎりない話じゃないですからね。でも今これついてんですよ」
「何これ、景品?」
「これね、テレビ局開局キット」
「は?」
「これがあったらね、テレビ局開局できるの」
「嘘だい」
その声は、信じないぞと、信じたいな、がない交ぜになったもの。
「あ、納得してない?」
「するわけないじゃん!こんな段ボールでテレビ・・・、あ、それで3870円なの?」
「あんた珍しい人だね、景品に文句つけるの?キャラメルのおまけにバレリーナの人形がついてるからってなんだこれぇっ!て言わないでしょ!」
「言わねぇよ!!」
「やんのかぁー!!やらないよ俺は!いいから貰っといてよ、タダだから」
「ただじゃねぇじゃん!3870円!!」

しかし上ノ倉は、ピザと開局キットを置いて帰ってしまったらしい。ふざけんなよ、なんだよこれという木村の声がして、ようやく画面に光が戻ってきた。木村が段ボールを開き出したのだ。
木村は、謎のリーゼント。ここに、木村祐一風味が残っているのかもしれない。
「これ、何」
触るのもイヤそうに取り出すものは、頭につけて使えるライトかもしれない。
「重っ!」
開局キットの本体も取り出した。開局キットは、昔のパソコンみたいな形をしている。昔、実際に存在したブラザーのワープロにも似ているような気がする。
「これ、カメラ?」
取り上げたものはまさしくカメラで、木村の顔が近くなる。
「まだ映ってないだろ?」
そう信じている木村だったが、見ている人間は、酔いそうだ。木村がカメラを適当に動かすものだから、画面がブレて、ブレて!
「コレが何?景品?・・・あー、腹減った・・・。ピッツァ、ピッツァ・・・」
荒れる画面の中、木村はピッツァを食べている。彼の部屋は、木造アパートのようだ。ものは一杯。少し、ナトリくんチックとも言える。開かれた窓の外には、隣のマンションも見えている。
具無し、ソース無しのはずなのに、あれこれ具が乗っているピザを食べていると、電話がなった。
まごうことなき、黒電話の音。

「はい」
『もしもし、中谷ですけども』
「あ?」
『中谷美紀です』
中谷美紀。低いトーンの役をやらせれば日本一に近い、低体温女優。
「あ、どしたの」
『うん。ね、今テレビでやってるの何?』
「テレビでなんかやってるの?」
『木村くん、ピザ食べてる』
「は?テレビ・・・」
おぉ、なんということであろうか!木村拓哉のテレビは、見た目上ダイヤル式の古いものに見えるのに、リモコンでチャンネルが替えられるのだ!デザインと機能性ということか!!
そうしてチャンネルをどんどん変えていくと、突然、見なれた背中に出会う。
「あれ?」
『なんなの?』
「これ?なか、おーすげー!」
自分が映っている!自分がテレビに!何を今更!なことに興奮する木村拓哉。
『ねこれ生放送?』
「いや、知らないけど、中谷、中谷!」
カメラに近づいて、肘を曲げて、そこをアップにして。
「お尻♪」
『ふっ』
あからさまな失笑とともに、低体温女優中谷美紀の電話は切れた。

ちっ。木村の機嫌は悪くなる。コーラなんぞ飲みながら、ふざけんなっ!ってカメラを動かした。黒電話に向けて。
そしたら途端に電話が。
「はいっ!」
『なんで俺がてめぇんちの電話見なきゃいけないんだよ!こっちは真剣に見てんだから、真面目にやれよ!』
恐ろしい剣幕の男の声。
「あっ!はいっ!じゃ、あの、一回きりますんで・・・!」
ぷつっ、つーつーつー。
「先、切んなよ!」
文句を言っても、これ以上魅惑的な黒電話を映し続ける訳にはいかない。木村は仕方なく、カメラを戻した。
「や、やってんの・・・?」
おずおずと、そして誰にともなく確認し、段ボールの中から、マニュアルを取り出した。
横長で、結構厚みのあるマニュアルだ。でも、ぐにゃぐにゃしている。
「えっとぉ、これ、マニュアルを読みます」
真面目な様子でマニュアルを読みあげる木村。
「『これは、テレビ局開局キットです。番組が視聴率80%獲得するとピザをもう1枚。それをもって、番組を終了します。』・・・80%なんてとれないだろ、なんだよこれ・・・」
マニュアルや、キットを眺めてみるけれど、誰が答えてくれる訳でもなく、仕方なくマニュアルの続きを読む。
「『とりあえず、困った時は、1のボタンを押してください。』1のボタン。・・・え、1のボタンを押します」
ぴ、っと押したら。

画面のは駐車場の入り口に切り替わり、駐車券が出てきた。
『駐車券ヲオトリクダサイ』
目をぱちくりとさせるだけの木村。
さらに、窓から見えている隣のアパートの両開きの窓まで開いた。
「チュウシャケン!」
紫の衣装をまとった、金髪北欧系美女が一声叫んでいく。
「何ぃ!?駐車券って、何!?なんだよ!おい、ちょっと待って!」
しかし美女はもう部屋に戻ってしまった。
なぜ駐車券・・・!その疑問は晴らされることなく、マニュアルの続きを読む。
「あ、えっと、引き続き、すみませんね、マニュアルをよみます。えー。『開局にあたって、放送局の名前を決めて下さい、同封のタイトル』同封・・・」
探してみると、大きな封筒が入っている。
「『の中からお好みのものを選んで、カメラに提示しなければ電波法によって罰せられるかも・・・』罰せられるとまずいんで」
封筒の中を探ると、タイトルがいくつか入っている。まず見たのは、
「何、テレビズ、ティービーズ?ハイ?…解りにくい・・・。イタチ兄弟。・・・イタチ、イタチ兄弟!」
よっしゃ!とイタチ兄弟を出そうとして、反対の手に持っていた、TV’S HIGHがカメラの前に!
「あっ!間違えたっ!」
主演、木村拓哉、なんてタイトルのフリップも出てくる。文字はポップでキュートだ。曲も流れてきた。よく聞く曲だ。私はハワイを連想するし、第3の男だかなんだかの、音楽も連想する。なんかそんな感じの曲だ。
「曲が流れてますが・・・」
パラパラとマニュアルをめくる木村。
「『音がなったら、無事開局です。後は80%を目指すだけ』・・・はいっ!」
またなった電話に急いで出ると。

『取らなきゃやめられねぇよ♪』
「ピザ屋!」
『ピッツァマーン!あ、宣伝しちゃった(笑)はははは!』
「おい、ちょっとよぉ!」
『わかんない?』
「なんだよこれ」
『解んないの?』
「解んないよ!」
『じゃ、3のボタンおして』
「3!?」
『3のボタン。1の隣の2の隣の・・・』
「3のボタンな!」

押してみたら、画面には、眼鏡をかけ、頭部の寂しいおっさんが現れた。謎の虹色のマントを、テルテル坊主のように身に纏った彼は叫ぶ。
「ピッザーマーント!」

「ひゃははは!」
「何今の・・・!」
『ピザ食うときソースが白い服に飛ぶとまずいだろ?』
「おん、困るけど、あれだろ!?シドニーオリンピックの時に日本選手団が着てて、見た、日本国民が、こう、なんか、すごい、微妙な感情を、胸に、抱いた・・・、レインボーマントだろ!?」
あの時の感情が胸に蘇ってきたのか、思わず胸を押さえる木村拓哉。
「だって、一番先頭で・・・」
『あれ、もう誰も着ないでしょ?だから再利用できないかと思ったの♪』

続いて第2弾も控えていた。
今度は床屋で、レインボーマント着ているさっきのおじさんが。必要ないじゃ、床屋なんてっておじさんが。
「ピッザーマーン!床屋!」

「おぉい!おまえ、そっち行くから待ってろよ!」
『来るのはいいけどね、何か映しとかないと、苦情の電話が留守電に200件くらい入るぞ』
なんということ!
この黒電話は、留守電が入るのだ!200件も!すごい!どうやって聞くんだろう!
しかし、木村にとっては当たり前のことらしく、カメラをテーブルの上が映るようにセッティングしている。そこに置かれたのは、山下達郎、クリスマスイブのシングルレコードジャケット。
『音も流さないと放送事故になるぞ』
もちろん流れる曲は、クリスマスイブ。日本の定番クリスマスソング。そして、そのジャケットの上を横切っていくのは、カメ。
きっとカメは来ない。

場所は、ピザデリバリーサービス、ピッツァマンに映る。上ノ倉は笑っていた。
「あ、ひっかかってる(笑)!」
カメは、ジャケットに片足をひっかけて苦労していた。

どん!

やってきた木村は、恐ろしい形相でガラス戸を叩く。
「おぅ!狙ってるね、視聴率80%!」
上ノ倉はご機嫌だ。
「狙ってねぇよ!いらねぇから!返すから!」
「ダメだよ、もうテレビ雑誌に載ってるんだから」
木村の機嫌は恐ろしく悪い。
「嘘つけよ!んなわけねぇじゃねぇか!」
「見ろよ、これ」
渡されるテレビ雑誌。
「どこ」
「8チャンとこ、下」
はっ!本当だ!しかも!
「なんで安達祐美の次なんだよ!安達祐美他って誰だよ!」
「知らねぇよ!」
「やだよ!」
「ダメだって!」

ピンポーン。

その音は、ピッツァマンではなく、カメが歩いている画面からだった。

『ボンジョルノー♪キムラサーン』
「木村さんって誰が・・・」
じっと見ていると、片言の女性の声がしていた。
『イナクテ、ヨカッタ・・・』
カメラを元の位置に戻すと、そこには、先ほどの北欧風美女が映っている。
『イタリアカラ、キマシタ』
北欧かと思っていたら、イタリアかーーーい!!!
南と北!美人のタイプが違うのに!私の目は節穴です。くりぬいて銀紙はっておいた方がいいかもしれない。

「俺頼んでないよ!?」
挙動不審な美女に困惑度合いが加速度的に増していく木村。

『ピザ、タベル』

「共食いじゃん!」
「つまみ食いだよ!」
困惑度合いが高すぎて、日本語すら怪しくなってくる木村。はっ!見れば、女が勝手にスイッチを押そうとしているではないか!

「おい!勝手に押すな!」

『タチツテトのト』

女性ナレーター『ここで、すいかの種で作った、と(さんずいに余)阿玉さんをごらんください。』

画面には、ゴルフ場が映り、そこには、スイカの種で作られた、推定身長13.5cmのと阿玉さんが。
「ふぁぁーーー!!」
がつっ!ゴルフボールに打ち倒されてしまったが。
たしかにスイカの種で作られたと阿玉さんがいた。

「なんだよこれ!おい!あんたさ!」
画面のあまりな不条理さに、上ノ倉につめよる木村。
「なんだいっ!やんのかよっ!」
「あんた」
「ん?」
「あんた・・・、ほんとにピザ屋かよ・・・!」
「ピッツァマンだよ?ピザ焼いてんだよ、見るか?こんな美味しいピザ」
大きな釜をあけて中身を見せようとする上ノ倉。しかしその中にはピザではなく!
「おっ!あんた、もしかして!」
ドリフの爆発コントの後のように黒くなっている中年女性が入っていた。彼女こそ。
「と阿玉です(カタコト)」
これが、本当のと阿玉なのかどうか、私にはさっぱり解らない。
「あ、そうなの?」
木村も、おそらくそうだろう。
「そうじゃねぇよ!」
上ノ倉は、なぜとさんがここに!と慌てていた。

そこに、公安がやってきたのだ。
トレンチコートにソフト帽(?)
公安とは、こういう姿をしているものだ、という、歩く公安な姿で、何人もの人間が現れた。
「上ノ倉三郎さんですね?」
はっ、上ノ倉は固まってしまった。
「治安維持法違反の容疑で逮捕状がでてます。署までご同行願います」
木村は驚いたが、上ノ倉には解っていたことだったのか、大人しく歩き出す。そして、テレビの中で、まだうごめいている亀に気づいたのだ。
「我々は・・・、甲羅のない、カメにはならないんだよ!!」
振り向きざまに銃を撃つ上ノ倉は、木村を人質に取った。
「おい!おまえら!こんなにいいヤツが死んでもいいのか!」
人質に取られた木村も怒鳴った。
「死ぬぞ!この野郎!おい!」
公安に怒鳴ってどうする!木村!

ピッツァマンの中で、激しい銃撃戦が!最初の被害者は、あろうことか、と阿玉さんだった。
「あ!とさん!とさん!えぇ!?とさん!!」
抱き起こす木村。
「コレデ、×○▲、ツクッテ、クダサイ・・・」
額に残っていた一粒のスイカの種を木村に渡す。何を作って欲しいのかは不明だ。
「これって、種・・・」
がくっ!
木村の腕の中で、とさんの!命の!灯火がっ!
「とさーーーん!!!」

公安から逃げて、部屋に戻ってきた木村は、ピザを食っていたイタリア女を押しのける。
「おまえどうなってんだよ!」
「とりあえずこれ!」
上ノ倉に怒鳴ると、フリップを渡された。
「おまえ誰だよ!」
イタリア女に聞いても無駄だ。

そしてそのフリップには!

『哀しみのピザ屋に今日も供養の霜が降りるのだ』

★第2回

木村の部屋にハトが飛んでくる。2羽、3羽と、たくさん。
そこにばたばたっ!と駆け込んでくる木村。座布団の上につんのめるようにして座った。
「えーとえーと、待てよ?」
やはりリーゼントな彼は、後ろを向いて、ダイヤル式テレビをリモコンで操作し、自分の後姿を確認。
よし!映ってる!・・・は、いいとして・・・。
おずおずとテレビの向こうをうかがっている目のおどおど加減が愛らしい。
「えーとえーと。皆さん、すいません。(間)やってます。・・・んとー、あの、なんで、自分がですね、こうやって、あの、遅れてしまったかというと、先週ですね、やってなかったんですよ。で、えー、油断、ですね、これ。油断しまして、こうちょっとこう・・・」
かかとを上げたまま正座して、足をすりすりとこすっている。居心地悪いことこの上ない様子は、遅刻なんてしたくないんだ!という彼の性格だろうか。
「っていうか!これは、自分の本意とは違うところで、テレビ局っていうか、これが!」
黄色いテレビ局開局キットをぽん!と叩く。繊細な開局キットは、それだけでテレビ画面を荒れさせてしまう。画像は縦に流れ、モザイクに乱れた。
「開局してしまったってことなんですが」
けれど、テレビを見ていない木村には、その乱れは解らないまま、挨拶は続く。
「ま、取りあえず、これが僕の部屋です」
カメラを取り上げて、部屋の様子を映した。色鮮やかでキッチュなもので溢れ帰る部屋。テレビが右斜め奥にあって、それより右に、ギターと、ソフトクリームの大きなディスプレイが。
「ほらこれ!このねー、ソフトクリームのやつ、渋谷の、宮前坂のとこで、ぴっ!とこう(笑)」
ぴっとこう、失敬してきたのだ。カーネルサンダースほど大げさでなく、三角コーンほどお手軽でもなく、ディスプレイとして可愛らしいソフトクリームを。すごい気にいってるんですけど、ととても嬉しそうな木村だが、はっ、と我にかえる。そう、彼は放送に遅れてきていた。
「なんでおまえ、オンエアに遅れてんだよって思いますよね。なんでって、言い訳じみてしまうかもしれないんですけど・・・。ちょと、こちらの方、ごらんいただきたいと思います」

サッカーの試合だ。
しかし、そのスピードは遅い。スロー映像のように遅い。
2チーム、それぞれ立派なユニフォームを着た選手たちは全員男性だが、その平均年齢は、60歳を遥かに越えているに違いない。
「これ、知り合いのサッカーの試合にちょっと行ってたんですけど、点数が入らないんですよ」
ゴールシーンはあるものの、キーパーの必要はないほどに、明後日の方向にシュートされている。
「PK戦になったんですけど」
一人ずつ、凛々しい表情からシュートシーンになるが。
「・・・みんな、入んないんですよね・・・。まだ、多分、PKの方続いてると思います。・・・さ!んー、気を取りなおして、さっそく始めましょうか!ざん!」
どん!と置かれるTV’s HIGHのフリップ。出演者木村拓哉のフリップ。

「さ!始まりました!テレビです。えっとー」
心の乱れを表すかのように、画面が乱れるている。
「今日の最初のコーナー!」
座布団の上に肩膝を立てた木村、一人千手観音として、上半身をぐるぐるまわす。靴下はボーダーだ。
「ぴょー・・・・・ん、ぴゅぴゅんっ!今年活躍した女性、8組を選考しまして、あぁでてますね」
画面には、似顔絵が出ている。
「高橋尚子さん、柔ちゃん、そして、松嶋奈々子さん、ふぅ!(投げキッス風味の木村)小渕優子さん、この人もすごい頑張ってます。叶姉妹、頑張りすぎです。続いて、ピーコさん、浜崎あゆみさん、釈由美子!」
一人一人が映ってくるが、なんだか不自然な感じだ。
木村は、釈由美子の真似をして、両手をちょっと斜め後ろ下に広げて、「・・・・・あっ!」と釈ポーズをしている。首も傾げたけれど。
「この、皆さんの中から、栄えあるウーマン・オブ・ザ・イヤーを、平和の象徴であるハトに消去法で、決めていただきたいと思います」
あぁ!なんということなのか!
それらの似顔絵は、落花生に張りつけられ、地面に置かれているではないか!そしてそこにハトが近寄ってくるではないか!危うし!8人の女性の運命やいかに!
「おっと、浜崎あゆみさん、さっそくいかれましたね!いがいでしたね!」
この段階で、小渕優子もはじき飛ばされている。
「柔ちゃん、危ない!柔ちゃん危ない!くわー!釈由美子さん!微妙な活躍でしたが(笑)、ピーコさん!割れましたね、今(笑)!あ、今消えたのが、高橋尚子さん、松嶋奈々子さんが消えた!残ったのは、残ったのは!?カのぉー−−−!姉妹!ということで、今年のウーマン・オブ・ザ・イヤーは、叶姉妹に決定ー!」
ぱちぱちぱちー!
ご機嫌に拍手している木村の電話がなった。
この電話がなると、ろくなことがない。
「誰だkらの電話でしょうか。浜崎さんだったらとっと恐いですね」
しかし出ない訳にも行かず受話器を取ると。
「もしもし。・・・あ、おやじ。今放送中だから、ちょちょと、ちょと待って!」
おやじは聞く耳を持たないタイプのようだ。木村は画面に向かって言う。
「電話、長くなりそうなんで、超人ブブカの記録に挑戦する・・・電話をごらんください」

青空をバックに高いバーが見える。そこに飛んでくる電話。しかし、バーを越えることは出来ず、画面の下で、ぢゃりん、と音がした。

「相手がどれくらい土地とか、財産とか持ってるか知る権利あるでしょ?」
その映像の時間は、数十秒といったところで、すぐに部屋に戻ってしまう。真剣に話をしていた木村は、あっ!と慌てて次の映像を紹介した。
「ごめ、ちょと待って。あの、もうちょっとかかりそうなので、えー、超人ブブカの記録に挑戦する、・・・ちょうちんブルマを」
にこ、と紹介して。
「もしもし?うん」
電話に戻る木村だった。

青空をバックに高いバーが見える。そこに飛んでくるちょうちんブルマ。しかし、バーに激突して、バーごと落ちてしまう。前回のこともあるので、今回は、逆回しまでしたのだが。

「絶対やんなきゃダメなのそれ。ね」
ぶつっ、つーつーつー。
「ふざけんな!ったく!」
乱暴に電話を切り、カメラを正面に戻した木村は、困惑顔だった。困惑顔の巻き込まれキャラがこれだけ似合うのは、金城武か、木村拓哉か、ヒュー・グラントくらいだろう。
「えー・・・えー、見事、僕はですね、なんかお見合いをしなくちゃいけないってことが決まったところで!なんとここで!ででん!速報です!僕の、そのお見合いをしなくちゃいけない相手の写真を皆さんに、見せちゃいます!その方とは、こちらの方です!」
見事なお見合い写真をちらりと開いて中を見る木村は、うわぁ・・・とげんなりした顔をする。
ひどくイヤそーな顔をしてから見せてくれたその写真は。

「この人ですねぇー・・・」

微妙ーーーーっに!普通。一目で見てイヤ!というほどでもないが、一目で見て、素敵!でももちろんない。微妙ーー・・・・!

「えー・・・。まぁ、あの。やまをくだったらむりはないっていう」

・・・私の耳には、「山を下ったら無理はない」と聞こえたが、もう1度見てみたら、「山奥だったら無理はない」と言っているようだった。
日本語って。
そして、私の耳って。
そして、木村の発音って(笑)

見合い写真をしまった木村は、元気を出さなくては!と思い返したようだ。
「あ!そだ!これびっくりしたんですよ、テレビキット底の方から、なんと!こういものが出てきたんですね、スタッフキッドって書いてありますけども!」
プラモデルの箱のようなものに、懐かしいイラストが描かれている。スタッフたちのイラストだ。
このセットの中から、ADさんかな?というモデルを取り外し、手のひらの上において、数滴水を落とすと。

「はい!はいはいはい。はい!」
手のひらの顎をのせた状態で、AD(YOU)完成!大きなイエローのサングラス。イエローのサンバイザー、ボーダーTシャツで、腰回りにあれこれつけ、当然インカム!のADが
「すげー!」
「はい、はいっ、はい!」
ひたすらインカムで返事をしているADに木村は尋ねた。
「ADさん?」
「はいっ。・・・ワタシハ、ココニ、イマス」
「見えてる。見えてるけど、ADさんでしょ?」
「はいっ」
「名前は?」
「ノッチです」
「ノッチ・・・」
「さっ、何しましょ!」
片膝立て待機しているノッチ。
だからといって、さ!さ!とせかされても、何をして欲しいこともなく。
「特に、ないんだけど・・・」
「ないすか?じゃ、フロアいます!」
「フロアってどこ!」
それは、木村のちょっと斜め後ろ、テレビや、ソフトクリームの近辺だった。

そ、そこがフロアだったのか・・・。
ま、ともかく、次の映像を・・・と、準備をする木村。
「そ、それじゃですね、こちらを・・・」
「はははははは!うわははははは!うわぁっはっはっはっ!!」
「何がおかしいんだよ!!」
「すいません!あれこれ想像してたらつい、すいません、ごめんなさい・・・」
そこに電話が。
『ピッツァマーン』
「あ、何、もう80%いった」
『行く訳ないだろ、そんなADの笑いに甘えてるようじゃ。いかねぇよ!あ、いいもんあるからちょっと来て、下の喫茶コロンボ』
「いいものって何?」
『80%の近道』
「マジ!?じゃ行く!あの、俺ちょっとさ、出るから」
木村の浮かれた気持ちに連動して、画面は流れるし、乱れる。
「後、頼むよ。解るでしょ?なんか、こう、放送事故にならないように」
「はい、はい」
にじにじと前に出てくるノッチ。
「かかか、代わりますよ」
「「せーの!」」

「うっ!」
木村がいた場所にノッチが入ってくる。
「えと、それでは、木村さんがおでかけしてる間に、私のデビュー作を、どうぞごらんください!」

画面は白黒の戦争映像。映画なのか、実写なのかは不明ながら、そこにノッチが声をあてていく。
「こっちだ、こっちだ!どかーんどかーん!こっちの方がすいてるって!どかーんどかーん!こっちの方がすいてるって!!はい、よーい!どかーんどかーん!ばばばばば!わーー!逃げろ逃げろぉー!!」

<喫茶コロンボ>
木村が入ってくる。もちろん、テレビで流れているのは、TV’s HIGH。
「あ、どうも」
コアラの着ぐるみを脱ぎかけている上ノ倉に挨拶すると、上ノ倉は不機嫌な顔をしてテレビを示す。
「おい。これ、辞めさせろよ、面白くねぇし、ためにならないし、下手すりゃ怒られるぞ」
店の中は、赤い照明が怪しい雰囲気だが、木村の顔がとても綺麗に見える。美しい。美しいぞ、木村。
「なんなのこの店」
コアラの頭をどかせて、カウンターの上ノ倉の隣に座る。
「溜まり場」
客たちは微妙に怪しかった。見るからに怪しいというのではなく、なんだか、怪しいといった感じ。
「日本を変えようとしてる人たち」
上ノ倉はそう言った。
そして、日本を変えようとしている人たちは。
「何丼だっけ、エビ丼?エビ丼?」
「違うよ、さいごーどん」
なんて言う謎の会話をしている。手と手を取りあり、目と目を見つめ合わせながら。

「・・・・・・・・さむ・・・」
「いや、北の方の人たちだから」
「北?」
「社長、社長、来ましたよ」
上ノ倉が振り返って言う。
「社長って?えっ!?」
同じく振り向いた木村は驚愕した。ちょちょちょ、と声もどもる。
社長は、誰でも知ってる、あの人だった。
社長は、こっちに来るように、指先で指示を出す。木村と上ノ倉はテーブル席に移動した。
「側来て、青島(青島幸男:本人)です。内緒の話。吸って」
渡されるのは、ヘリウムガス。
「何で」
「内緒だから」
上ノ倉は疑問に思わずヘリウムガスを吸っている。木村も仕方なくガスを吸った。
「アノー、シツレイデスケド、モトトチジノアオシマサン、デスヨネ?」
「ウン、アノ、トチジヤメテネ、スコシジユウナジカンガデキタカラ、アンヤクシヨウトオモッテネ」
「・・・アンヤクデスカ」
「ニンゲン、ダレシモイチドハアンヤクシテミタイトオモウダロ?キミハ!」
「・・・エットー、イマチョットカンガエタンデスケド・・・。アンナ、オモワナイッスネ」
「・・・キミハイジワルバアサンッポクナイナ」
「ポイノハ、アナタダケデイイトオモウンデスケド・・・」
元都知事にして現在暗躍中の青島は、今景気が悪いからバブルをもう一度起こしてもらおうと思っているのだ。暗躍は1度でいいけど、バブルは2回くらいあってもいいと。
「バブル、スキカ!」
「・・・バブルハ、スキキライノモンダイジャナイトオモウンデスケド・・・」
木村の返事は青島のお気に召さなかったらしい。
「・・・モンダヨナー」
「モンデスネ、モンデス、モンデス」
上ノ倉に同意を求めてしまった。
「ソレジャア、バブルト、テレビキョクッテノハ、ナンノカンケイガアルンデスカ?」
にやりと青島は笑う。
「ツマリ、TV’s HIGHダヨ」
「・・・TV’s HIGH・・・。なんだよっ」
上ノ倉に突つかれて、あっ!時間がない!ということに気づいた木村、渡されたフリップをカメラの前に!

「次回予告。ネズミ人生、カエル人生、今明かされるTV’S HIGHの謎なのだ!!」

★第3回

靴下だ。それは紫の靴下。紫としかいいようのないその靴下は、靴下ということが解らないほどのアップで画面に映っている。
それこそが、ノッチの靴下。
ノッチは、カメラの前に足を放り出して寝ていた。起きあがった後も、機械がアイドリングするようなぁ、あぁ〜〜・・・・・・・という謎の雄たけびを上げつつ、鼻歌混じりにリモコンでテレビをつけると。
おっ。
それはあたしの背中じゃないかちらっ?
おぅっ!?
振り向いて状況確認したのっち。
「あっ、ウソ・・・っ!」
カメラに飛びついて。サンバイザーとか整えて!
「どうもー!ノッチでぇーす!ノリノリィ〜、はぁっ!(気を落ちつけて)実は木村さんが一週間帰ってこない!これは大変です。会議でも問題になったんですよ、すっごい。しょうがないから放送中止しようかってことにもなったけど、それはもったいないってここで、ま、会議っつってもですね、ノッチが一人でやってるんですよぉーー」
ぐぃーん!とアップになるノッチと黄色いサングラス&サンバイザー
「とりあえず今回はノッチが放送しまーす!ぶいぃーん!」
意外にあるじゃん!の胸をカメラに押しつけてこようとするノッチ。

そんなノッチを、喫茶コロンボで木村は見ている。あぁん!?って顔をしながら。一週間も帰っていないのに。

<ノッチの衝撃映像>

「木村のはんこで描いた、木村!」
半紙だろうか。白い紙には、木村の文字が美しく浮かび上がる。そしてその文字は、すべて!「木村」というハンコで押されているのだ!
「おぉぉーーー!びっくりしたぁーー!!次はもっとびっくりしますよぉー!村田のハンコで描いた、田村!」
同じく半紙には、美しき田村の文字!そしてそれらは村田のハンコで!
もぉええわぁーーー!!

<喫茶コロンボ>
「始めの話と違ってね」
カウンターでは、おばさんが横になって寝ているコロンボで、青島はすでに普通の声で話をしていた。
「はぁ」
木村は、ティッシュで作ったこよりでお耳をほじほじしながら、ノッチの出す、村田のハンコで描いた田村を見て、何やってんだあいつ・・・と不機嫌になる。
「という訳でね、ま、都知事の仕事もなかなか大変なんだ木村くん、1週間、ご苦労様でした」
ぴこっと、こめかみあたりにハンコを押される木村。
「一週間かかるんですね」
都知事の仕事について聞こうと思ったら、という木村だったが。
「何やったんすか!これ!」
突然、でこにハンコを押されたことに気づいた。
これ!とハンコ跡を指差して怒る木村。でも、このハンコは、一度話した人には、青島が必ず押しているものだったのだ。
「なんで」
「だって同じ話もう一度聞くのイヤでしょう?一週間にわたって」
「イヤだけど!これイヤいやですよ!?相当!」
これ!とハンコを指差す木村。でも、大丈夫なのだ。喫茶コロンボは、赤い照明だから、朱肉なんて全然見えない。木村の顔は相変わらず綺麗だ。
青島も気にしていない。
「1週間にわたって横道に逸れたけど、いよいよ本題に入ろうか」
「じゃ、私、そろそろ」
それまで、コアラの着ぐるみを完璧に着こなし、大人しく座っていた上ノ倉が立ちあがり、コアラの頭を取る。
「なにそれ」
なぜ帰る!?と気にする木村だが、上ノ倉には、上ノ倉の事情があったのだ。
「託児所に子供預けてるから迎えに行くの」
「その格好で!?」
「これがないと父親だって解らないだろうが!!」
「なんでだよ!」
「有袋類なんだよ!子供腹に入れるんだよ!」
えーー!上ノ倉が有袋類だったなんて!上ノ倉は、コアラのカッコのまま、店を出ていこうとする。
「腹すかせてんだ!」
「なんだよ!!」
有袋類のくせに!木村も怒鳴り返す。
「見世モンじゃねぇよ!」
「行けよ!」
「うるさい!!」
「行ってやれよ!!」
あの上ノ倉が有袋類だったなんて・・・!なんとも言えない脱力感から、はぁと溜息をついたのだが。

青島はそんなことを気にしない。

「一週間にわたって、話は横道にそれたけどね、本題に入ろうか」
「その、本題っていうのは、次はどれくらいかかるんですか?」
「2分もあればすむね」
「まじっすか!!」
まじっす!ノッチも、TV’s HIGHのフリップをカメラの前に、どん!と出す!

「あの、TV’s HIGHってなんですか?」
木村は、そのポップな文字を見ながら尋ねる。
「君はランナーズハイって言葉を知っているか?
「マラソンのヤツですよね」
激しい運動にともなう体力の消耗により、脳の中からは、脳内麻薬が分泌されるらしい。そしてこの麻薬の働きにより、疲労感がマヒしてしまったランナーは、どんどん走るのだ。脳内麻薬。私の脳から、かなりの量常に分泌されているおそるべき物体。私があまり病気をしないのは、脳内麻薬のおかげだと信じている。私は(笑)
この説明を、青島は、ノートに絵を描いてしてくれた。
だが、そのノートは、年末じゃなくても大量に売り出されている、ポケットサイズの縦長手帳で、ランナーの絵は、その左下隅に、小さく小さく描かれている。
それを画面に押しつけて、脳内麻薬が出て!と頭から線を引き、いくらでも走れる!と、走っている人のように、背中側に横線を一杯引いていく青島。
画面中央は、その白い部分が8割5分を占める手帳で分断され、広いほうの余白に青島がいる。木村は、そのノートを見よう、見ようと、右上隅の三角スペースから、どうにか目だけでも!と前に出ていこうとしているところだ。
「で、でも、この絵がすごく解りにくいですねっ?」
見えない、見えない、と頑張って、やっとちらりと見えたら、それはもう、とても小さな人間の形で。しかし。
「私にはよく解るんだよ」
解るらしい青島は、脳内麻薬は一説によると、モルヒネのような効果を生むらしいと説明を続ける。これにはまったヤツは、もう走らずにはいられないのだと。
無理な体勢から、絵を見るのを諦めた木村は、元の位置に戻って、目をしぱしぱさせている。
なんとかわいいしぱしぱなのか。しぱしぱ。しぱしぱしぱ・・・!

「テレビの中でも同じようなことが起こることが最近発見された」
「はぁ」
「つまりね、視聴率のいい番組を見てる人の脳には、気持ちよくなる物質がでていて、テレビにますますはまってしまう」
「なんでそんなことが?」
「出演してるヤツがなんか出すんじゃないか?汁かなんか」
「汁!」
「そこで、君に白羽の矢を立てたんだ。聞くところによると、君の出演してる番組はいい視聴率取るらしいじゃないか」
「いや・・・」
「何だしてんの?」
「いや!俺は汁は出してないです!」
汁なんて!木村汁なんて!
・・・木村汁。かつて、どこぞの教祖の入った風呂の湯がアホかっちゅー値段で売られたことがあったけれども、木村汁となると・・・!木村汁なら・・・!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!!!

人間として間違った方向に突っ走りそうだったので、戻ってきた。

青島が都知事だった時の調査からみても、木村だけが出ている番組を作ってもらい、どんどん汁を出してもらえれば、視聴率はきっと上がる!
「汁は出してないって言ってるじゃないですか!」
「テレビを見てる人がみんなTV’s HIGHになり、視聴率80%!その番組の中で、これを売るんだよ!」

それは、ムンクの叫び人形だった。ちょっと前にビニール製ムンクの叫び人形が売られていたりしたけれど、これは、金属製のよう。そして、手は、叫びの形ではなく、下にだらんとたれている。
これをやかんの口にセットしておくと、お湯がわいたら、徐々に手があがっていき、最後には、ぴーーーー!!と叫んで教えてくれるのだ。名前は「お湯の叫び」
その映像を見ながら真似をしてみる木村だ。可愛いぞ。
「これがなんと、8500円!」
「これが!?8500円って、高いっすよ、これ!」
「高いよなー?俺だってこんなの買わないよ」
「買わないじゃないですか!」
「でもTV’s HIGHになってるヤツは買っちゃうんだな。で、こんなつまらないもの買っちゃったってヤケになって、後はバンバン色んなものを買うんだ」
「ヤケで!」
そうすると、どんどん景気があがり、青島が買っておいた中央林間の土地の値段も上がる!青島はそれをとにかく、それを狙っているのだ。
「今は、タイムズの駐車場になってるけどな♪どうだ、すごいだろ!」
写真を見せられた木村は、すごいっすね・・・と呟くだけだ。

そして何気なく見たテレビでは。
「何やってんだよ、あいつよ!」
ノッチが、自分で自分を抱きしめていた。それどころか、首の後ろから回した左手で、唇の右端を引っ張ってまでいた。

<ノッチの衝撃映像>
「すいません!ぼーっとしちゃった!こちらでーす!」

画面には、服部幸應風の衣装を着たおっさんが。
「一見、服部幸應っぽいおっさんですが、実は、学生服を反対に着てる、服部幸應っぽいおっさん!」
背中を見ると、彼の背中には金ボタンがずらり。
そんな服部幸應だが、実は!彼の名前は、学校との繋がりがとても深いのだ!


生   慶
服部幸應
 活  
 動

今のところ、「幸」のところだけ見つかっていないので、ご存知の方は、ノッチまで連絡をして欲しい。
「続いて、服部幸應の服を着ている学生!」

<喫茶コロンボ>
「・・・これじゃあ80%無理っすね・・・」
「まぁ、地上波じゃな」
「え?地上波?」
「BSる?」
「え、いや、言いたいことは伝わってるんだけど、なんか違いません?「る」って」
「ぴゅーー」
青島は、銀色の丸いものを飛ばしている。
「なんすかこれ」
「ボストーク衛星だよ」
「ちっちゃくないですか!?」
もちろんそれは、手のひらサイズ。
「ちっちゃいけど」
どん!と出てくるロケット。それは、鉄腕アトム時代のロケットによく似ている。そのロケットの頭に衛星を乗っけて、ぷいーん!と飛ばすのだ。大きさ的には、ロケット3、衛星1。衛星でかすぎ。もしくは、ロケット小さすぎ。どっちにしろ小さいのだが。そしてそのロケットと衛星は。
「消費税込みで68000円!」
「これスチロールですよ!?」
ロケットはスチロールでできていて、触ると、きゅきゅきゅきゅ音がする。
「地上波で80いくかなー・・・」

<ノッチの衝撃映像>
テレビで声がした。
『甲羅を取られたカメです!』
「えっ!?」
それは衝撃的!と木村もテレビを見てしまう。
画面右側から、爬虫類の首が見えた。その首がぐいーんと伸びて、伸びて、姿が現れて・・・
『とかげですよーーー!もっとグロいの出てくると思ったでしょ?とかげでぇーーす!えへへへへへへぇーーーー!』
すらりと美しいとかげが画面を横切り去っていった。
甲羅を取られたカメとして・・・。

「すいません、これ下さい」
もう地上波じゃ無理だ!
ロケットを購入しようとする木村。そこに!
「えっ!?僕が買おうと思ったのに、なぁ〜」
画面下からにゅっと現れてきた少年は!
「服部幸應の服を着た学生じゃねぇかよ!」
「違う!服部幸應の服をさかさまに着た学生だ!」
「どっちだっていいんだこのヤロウ!」
衛星とロケットを渡してなるものか。椅子の音も荒く立ちあがった木村は、服部幸應の服をさかさまに着た上、異常に素朴な顔をした学生の胸倉をつかむ!

しかしその瞬間、喫茶コロンボには、公安が踏み込んできたのだ。
いつもの公安ファッションに身を包んだ公安たち。そして警官たち。
「やっと見つけましたよ。元東京都知事の青島さんですね?治安維持法違反の疑いで逮捕します!」
声と同時に、公安の銃が火を吹いた。
その銃から放たれた玉は、無情な力を持って宙を飛ぶ。それは、ただ、犠牲者のみを求めていた。飢えて、いたのだ。
「ケンジー!!」
打たれ、倒れた学生を抱き起こすその母。
「服部幸應の服なんか着るからだよぉーー!」
「おばちゃん!あんたも着てるよ!」
母も、服部幸應の服をさかさまに着ていた。

まだ前途ある若者を撃ってしまった・・・!公安も呆然としていた。彼には、これからも様々な人生がまっていたはずなのだ。初めてのラブレター、初めてのデート、初めてのチュウ、初めての・・・!
その混乱の最中、青島はカウンターの中に逃げ込んでいた。
テレビを背景に、青島は言う。
「我々は、甲羅のないカメじゃない!」
二丁拳銃だ。
ウェスタントいえばこれだ。
二丁拳銃で撃ちまくる青島。
マトリックスで逃げる木村。
そして撃たれる服部幸應の服をさかさまに着た学生の服部幸應の服をさかさまに着た母!
「あ!いけね、間違えた!ごめんごめん!」
ほがらかに謝りながら青島は逃げていき、公安は彼を追いかけていった。

「おばちゃん!おい!ここ日本だろ!?」
おばちゃんと助け起こすこともできず、木村はロケットをひっつかんで、喫茶コロンボを出ていく。服部幸應の服で何故撃たれるのかという、永遠の謎をクチにしながら。

<踊るノッチ>

ノッチは歌い、踊っていた。
「イェイイェイ、ノリノリノッチ放送局ですー!あぁ〜、無理から〜、無理からなのさぁ〜♪無理からノッているのさぁ〜!びゅーーー!」
乳から何かが出ているようなジェスチャーのノッチ。あぁーー!とそのまま横倒しに倒れたところで、お湯の叫びの映像が続き、CMへ。

CMが終わっても、まだ踊っているノッチだったが、そこに大慌ての木村が帰ってきた。
うりゃ!とノッチを押しのける木村。
「すいません!すごく遅れました!色々ちょっと、事情がありまして、これ、打ち上げキットです!いえー!」
ぱくってきた、ロケットと衛星を見せる木村。
「実は、これが今日の1押し、目玉だったんですけどっ」
ぜいぜいしながら、新しい映像を見せようとしたら、向かいのアパートの窓が開いた。かつて、北欧美人に見えて、イタリア人だった女がいたアパートで、今回中にいたのは外国人の男だった。
何語か解らない言葉で叫び、窓を閉める。
「・・・司会はノッチじゃないのかって言ってます」
「ねぇよ!」
「放送終了10秒前!」
「なんもやってないじゃん!あ!自腹でカメラ増やしました!」
斜め上から木村を映せるようになっているカメラだ。
「ふざけんな!」
と時間のなさに切れ気味の木村だが、渡されたフリップはそのまま出す!

「次回予告。大森山王くらやみ坂。衛星打ち上げ大作戦なのだ!!」

そのフリップの後ろで、乳あたりから、見えない何かを放出しているノッチ。それを顔に受けている木村。
「あぁ・・・、もっとだよ!もっとだよ!!」
はぁ・・・っ!
フレームアウトする木村。ノッチもしばし平泳ぎのような動きをしていたりしていたが、そのうち崩れ落ち・・・!

★第4回

キムが入ってきた。どうも、と入ってきた。あぁ、キム・・・!今日も愛らしくも薄汚いキム(笑)!
「誰もいらっしゃらないようなんで。今日は私が!やります」
そして、その薄汚い笑顔(笑)!
「元妻、倍賞美津子が、アントニオ猪木のテーマを、無理矢理歌詞をつけて歌う、いつも一緒に。お聞き下さい」

<いつも一緒に>
アントニオ猪木の石膏像がゆっくりと回る中、倍賞美津子の歌声が流れる。
『いぃ〜つも〜、いぃ〜っしょなのぉ〜♪愛がぁ〜、あるぅ〜からぁ〜♪』

「ちょっと!ちょとちょと!カットカットカット!何やってんの!」
慌てて入ってきた木村がその映像を中断させる。二人はおそろいのリーゼント風味だ。
「誰もおれへんからな!?」
「誰もおれへんって、あなた地下に潜るっていったじゃん!」
「ちょとくらい、たまにはええがな!」
「ええがなって!」
「勝手に上がって悪かったと思うよ?なんやねん!」
正座していたキムの隣で、木村も同じ様に正座して、リーゼントの具合を確かめている。キムも一緒に確かめ、二人仲良くリーゼントチェック。
「悪いって思うんでしょ?」
「いやでも謝らへんよ」
「なんすか!それ!」
「謝る意思すら見せへんよ」
なにおぅ!?とキムを睨む木村。
「だって俺がやらなあかんやん」
木村は、右肘を、ぐいっとキムの前に出した。
「なんでですか、戻って来たからいいじゃないですか」
キムも、自分の左肘を木村の前に出す。
「いやいやもう」
木村の右肘。
「勝手に人の」
キムの左肘。
「もぉ!」
「いいから出てって!」
掴みあいになるキムと木村。
「これだけさして!ちょっとごめん!すぐすむから!!」
必死なキムの様子に、木村はちょっとキムから離れる。そしてキムは、おもむろにジーンズの左裾をめくり上げた。
膝には、黒い丸。
「象。これ」
思わず木村は覗きこんでしまった。膝に両手を広げてあて、象の耳のように動かす、例の古典だ。すっともとの位置に戻り、ちょっと笑ってしまったが、キムはともかく気がすんだようで、ようやく出ていこうとしてくれる。そして出て行きざま。
「これまたな、スマスマのエンディングとかでやったらええ。好きやったら。またくるからな!」
キムが完全に出ていくまで、木村はじっとそれを見ていた。ドアが閉まるのを確認して、ようやく正座しなおした。

「すいません、みなさん。遅れた上に、あんな、象、とか、お見苦しい点をなんじゃかんじゃとお届けしてしまいまして。お口直しに」
うんっ!と咳払いして。
「バナナ」
おぉ。名作、バナナ!両手を重ね合わせるバナナの技!古典(笑)!
「えっとー、何故。何故ですね」
うりゃ、と、足を崩す。
「どうして僕が遅れてしまったかというと、なんと!この番組で衛星を打ち上げようと!衛星ですよ?皆さんご存知ですよね。衛星。あれを宇宙に打ち上げる準備を!してました。きっとね、地上波でお送りするのは、今日が最後です」
んふ〜んと顎を上げ、得意げに目を細める木村。
「すいません♪題しまして、今日は、『さよなら地上波!こんにちは!BSる時代』でお送りしたいと思います。現場にですね、我がADのノッチ!が行ってると思いますので、皆さんも一緒に呼んでみましょうか。せーの!ノッチぃー!」
両手を口に当てて、可愛く小首を傾げてノッチを呼ぶ木村。そしてその瞬間。

「はぁ〜い!」

窓の外、隣のマンションの窓が開き、ノッチが、男と、現れて。

「早くいけよ!!」
TV’s HIGHのテロップの奥で怒鳴る木村だ。

「・・・えー、気まずい空気になってると思うんですが、ノッチが現地につくまでに、車えびの中で気まずい思いをしている、ザリガニっ!(両手がVっ!)どうぞ」

車えびでいっぱいの桶の中、ひっそりうずもれているザリガニにはとても気まずそうに身じろぎしている。

「今度はイセエビです」

イセエビとザリガニではサイズが違いすぎ、まるでエサのようで・・・・・・・・・・・・・・!
もちろん、VTRあけの木村は泣いていた。鼻をすすり、大きな目を潤ませながら。
「お気持ち、お察しします・・・」

けれど、木村もいつまでも泣いていることはできない。さ、勇気を出して、次の話題へ。
「えー、そろそろですね、さきほどのノッチが、たま川の方に到着していると思いますので、もう一度ここで、呼んでみたいと思います。ノッチー!」

<たま川>
「金もいらなきゃ男もいらぬぅ〜♪わたしゃも少し背がほしいぃ〜♪」

<スタジオ>・・・スタジオって、木村の部屋か!?

「ノッチ?打ち上げの方はどうなってるんでしょうか?」

<たま川>

「あー!木村さんの面白コメントは今一つってことで!ロケット発射準備がすすんでいます。灯油も用意でいましたよー!」
『灯油!?』
「こっちの彼が絶対灯油がいいってゆって聞かないんですよー!」
その彼が画面に現れた。
森且行の匂いを微かに残す男だ。

<スタジオ>

「ちょっと!誰?」

<たま川>

「セキユノクニカラ、キタヒトデス」
石油の国から来た人なので、燃料は灯油と言って聞かないし、それはもう、信用していいのだ。
「木村さん、聞いてますかぁ〜?」
『聞いてるよ!!』
「じゃあ、これから灯油ちゅるちゅるで燃料をいれていきまーす!時間がかかるので、一端お返ししま〜す!」

<スタジオ>
奥歯が折れるんじゃないかと思うくらい噛み締めていた木村は、コメカミに、怒りマークを8つくらいちりばめているようだ。灯油が気に入らなかったらしい。
「えーー。返されても、困るんですけど。また視聴者の皆さんからの電話がかかってきそうな、恐い感じがしますけど」
恐い恐いと、胸の前で両腕を重ね合わせる木村。そして、もちろん電話はかかってくるのだ。
「はい、もしもし」
『青島だ』

がちゃん。

「えーまずですね」

無視してやろうと思っても、電話はなり続ける。あぁ、人生って、いつも思うとおりには生きられないもの。そんな諦念の中、再び受話器を取る木村。
『青島だ』
「なんすか」
『木村くん、今どこにいるのかなぁ〜』
「自分でかけてきたんだから部屋にいるのは解るでしょ」
『あ、そいじゃ、そいじゃね、私はどこにいるのかなぁ〜?』
「・・・距離感で、さっきから解るんですよ」
木村が、カメラを向かって左に動かすと、そこには立って電話をかけている青島が。
ばれちゃってたかぁ〜!と陽気な青島は、天津甘栗を差し出してくる。すでに剥いてある例のヤツ。
「天津甘栗買ってきたんだけど、これ見てどう思う?」
「あぁ、なんかこう見ると・・・」
親指と人差し指につまんだ甘栗をカメラに近づけていく木村。うーんっと、と、くるくる動かし。
「あぁなんかこう見ると、脳って感じ」
「・・・なんか面白くてタメになること、言えないかねー!」
「そうすよねー」
投げやりーにゆって、甘栗を食べる木村。
まぁ、木村的には、この甘栗を、例えば、こんな風に書いてあると。と、墨文字の書かれた半紙を取り出す。

『尼狂い』

「なんかこんな感じで、尼狂いとか書いてあると、山本シンヤ監督とか喜びそうですよね」
うりゃっ!とその半紙は投げ捨てる。
「なんなんだこの会話は!こんなことで、視聴率80%取れると思ってるの!?」
「それより、なんすか!あのロケット!」
「ロケットって?」
「あの、あなたが俺に68000円で売った、あのロケットですよ!あれ灯油で飛ぶんですか!?」
「いやいいんだ。あんなもん、どうでも」
「は!?」
「それより、今はネットの時代なのよ。ネットる?それともウェブる?」

木村は憤りのあまり、無表情になってしまっている。木村は、あまりに激しい感情に襲われると、無表情になりがちなお人柄だ。

「それよりね、新しいの見てもらおう」
ごそごそと何かを取り出そうとしている青島を無視し、木村はなおも無表情だ。
「えー・・・」
何か新しい映像にしてやろうかと思っているのに。
「新しいコンピューター。ハル9000っていうの」
どん、と出てきたコンピューターは、HAL9000ではなく、春9000。もちろんスチロール製。
「いろんなことができるんだよ?」
呆れたように、ガンガン殴っている木村の前で動かしてみた。起動は異常に早く、画面に出てきた村野タケノリの額のホクロをクリックすると、オースマン・サンコンに変わるのだ。さらに、そのオースマン・サンコンの真っ白な歯をクリックすると、鈴木その子に!
「すご!」
「128000円。どう?」
「買わないっす。全然いらなっす」
感動はしても、まだまだ木村は冷静だった。そこにノッチの声が飛び込んできた。

『木村さーん、準備できましたよー!』

「いいのいいのそれはもう」
青島はじゃまくさそうに言うのだが、
『ちっ、バーカ』
「何いってんだ!おまえこのヤロ!」
礼儀を重んじる男、木村拓哉だ。
『ごめんなさぁ〜い!お手元にある点火スイッチで点火、お願いしまぁ〜す!』
「点火スイッチなんかないよ!」
『メロンありませんか?』
メロンはあった。木村はそのメロンを取り出し、指示通りに、茎を、うりゃ!と押す!

<たま川>
「オールミッションスタート!リフトアップ!」
石油の国から来た人が、灯油おちゅるちゅるをくしゅっ!と押す!
『なんでおまえが最終的に押してるんだよ!!』
しかし、木村が怒っている場合ではなかった。
衛星は。
68000円の衛星は、爆発してしまったのだ。
ノッチは、それに気づかないかのように、ただじっと、カメラを見つめているだけだった。

<再びたま川>

「キムラサァ〜ン」
『誰がおまえ!』
「サキユノクニカラキタ、キムラサァ〜ン。セイカクニイウト、タマダワニイル、セキユノクニカラキタ、キムラサァ〜ン!」
『正確じゃねぇよ!ノッチどこいったんだ、ノッチは!』
そのたま川からの映像に、ノッチの姿はなかった。
「ノッチ?ノッチハノッチマイマシタ。モウイイデス。ウチアゲサセテイタダキマス!ファイヤー!!!」
『ノッチ乗ってんだろ!?やめろー!!』
ロケットは、ロケット花火のように、ノッチを乗せて飛んでいった。
打ち上げ担当の、石油の国から来た男たちは、わーいわーい!と打ち上げの成功を寿いでいる。

ノッチ・・・!
呆然とする木村の耳に聞こえてきたのは、ノッチの声。そして、美しい地球の映像だった。

『木村さーん!木村さん、ノッチですー!無事打ちあがりましたー!』
「それは、衛星放送じゃなくて、衛星から放送してるだけだろ!」
『え?あぁーーーー!!!』
地球の映像が、突然太陽に変わった。おぉ、なんということだ!ノッチは太陽に吸い寄せられているではないか!
『どんどんどんどん太陽に近づいてまーす!あぁーーー!背中の翼を止めているロウが融け始めましたぁ〜!』
「超イカロスじゃんかよー!ノッチー!!ノッチィーーー!!!!」

『あぁーーーーーー!!!!』

じゅ。

「のっちぃーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」

<スタジオ・・・・・>

「ちょっと、残念だったな。面白い子だったもんな」
しんみり言った青島は、じゃ、次の、と、スタッフキットの中から、新しいADを取り外してきた。
こう置いてね、と机の上にキットを置き、ストローから水をたらす。
「最初の出会いもそうだった・・・」
がっくしきている木村の前で、水は、キットの上にかかり。

「ノッチでーーす!」
「ノッチ!」
木村の膝の上にノッチが蘇った。衣装は違う。
「この展開はどう思う!?」
「番組終了10秒前ー!」
「あんまり動くな、ノッチ!あんまり動くなっ!」
なにせ、膝の上なので、ごそごそ動かれちゃうと。ね?んふ♪
「4!3!」
「ちょっ!」

うりゃ!と出したフリップは次回予告。

<次回予告>

『団鬼六リスペクト。線化粧着崩れ女の柔肌に今日もネットの電話線が走るのだ!』

★第5回

パソコンのディスプレイには水野ハルオが映っていて、日本の女性が美しくなるためには、と女性たちにメッセージを送っている。
彼の左には、各国の国旗アイコンがあり、木村は、まずは中国、と中国のアイコンをクリック。
すると、水野ハルオの体だけがチャイナドレスを纏った女性に!
「おぅ!いい(笑)!続いては、スイス行ってみよう!」
スイス国旗をクリックすると、愛らしいチロリアンドレスの水野ハルオが、チーズを差し出してきて。
「いや!チーズ出しゃいいってもんじゃない!てとこで、ブラジル!」
おぅ!サンバサンバ!リオのカーニバルっ!布サイズ最小限っ!で踊る水野ハルオ。

「・・・何やってんだ」
青島の声がする。
{俺にもやらせろ!」
「なんすか!なんすかっ!」
青島はマウスを奪い取り、また中国の国旗を選ぼうとしている。でももう中国はやったんだ!中国は、せくしぃチャイナドレスになるのだっ!
が、今度ディスプレイ、全面に出てきたのは中国の地図。
「中国って言っても、いろんなとこあるんだよ」
「チンタオ?」
「チンタオ(青島)だぁ〜」
「いや、アオシマでしょ!?」

二人は、スタジオ、すなわち木村の部屋に座っていた。春9000のマウスはまっ黄色だ。
まだ視聴率80%行ってないぞ?とマウスをくるくるさせながら文句を言う青島。
「景気よくなるってカッコいいんだ。君の手にかかってるんだ!」
「知ってますよ!でも、考えたんですけど、視聴率80%ってことは、この時間帯に、テレビをこう・・・」
わーい!とステキな笑顔で、カメラに手を振る木村。
「日本人の80%の人が見てるってことは、これ、・・・バブルじゃないっすよね」
「え?じゃ、なんなんだっ?」
「いや、不景気ですよね」
「へぇ!?」
「今、へぇって言いました!?」
言いました?言いましたっ!?と詰め寄る木村。そんな木村似、青島は言った。

「バブルってなんなんだ?」

「は!?」

きょとん、となる木村。
「俺に聞かないで下さいよ、都知事だったんだから」
「都知事で、バブルの後始末してたんだよ。都市博の中止とか」
「あれは正解でしたね」
「でも、今になってお台場大人気なんだ」
「今になって、ガンガンガンガン!建ってますからね」
「だからバブルってなんだ?」
そんなことゆっても!って木村に、青島は誠に正しい、正しい論、正論を吐いた。
「教えてもらったらいいじゃないか」
そして、画面上に現れたマウスポインターで木村の服に刺さっている、白い羽をポイント。そしてクリック!

<元総理>

はっ!と気づいた時、木村の右隣にはステキな眉毛のおじいちゃまがいた。おじちゃまの眉毛がアップになっていた。
ぎょっ!とする木村は、はっ!と前を向き、でも、あら?と隣を見る。
「あのー・・・」
ん?と木村を見るおじいちゃま。
ん?と微笑む木村。
「元総理の村山さんですよね」
「そうですよ」
「えぇ!?」
でも、その眉毛の素敵なおじいちゃまは村山元総理。
その村山元総理に、木村は聞いた。
「担当直入に聞きます。バブルってなんすか」
「泡」
きょとん!?な木村だが、村山はなおも言った。
「泡」
「・・・あぁ!」

そこでテロップが。今日もTV’s HIGHが始まった。

村山元総理の話は続く。元総理は子供の頃から、銀行が潰れるなんて思ったことがない。もちろん、木村も思ったことはなかった。しかし今は、どこの銀行に預けようか気を遣わなくてはならないのだ。
「僕も気を遣ってますよ」
「あなた持ってるから」
にこ、っと微笑む村山に、持ってないっすよ!って木村。こそこそっ、と耳打ち。
「そんなに持ってないっすよ・・・っ!」
はう!とソファに体を戻した木村は、あぁ、びっくりした、とドキドキする気持ちを押さえるのだった。

「バブルってってのは、実態のない、偽りの経済の繁栄なんだね」
「でも、実施に、それを楽しんでいた人はいましたよね」
「楽しんでおったものもおっただろうな。大部分の人は酔いしれておった」
その酔いしれていた時代のVTRがあるんです。見てくださいと、大き目の黒いバックからビデオを取り出す木村。しかし、ビデオケースの中に入っていたのは、ぞうりだった。
あり、と、ぞうりを出して、ケースの中を見る木村。しかし、空っぽだ。空っぽ。空っぽ。何もなーい!
「入ってない」
村山も指摘するように。
「ねぇ、入ってないっすね」

そこで、画面上には、突如マウスポインターが現れた。ポインターはぞうりをポイント。そしてクリック!

「元総理のお話中ですが」
スタジオ(つまり、木村の部屋)のニューノッチが現れる。
「MOTO-ZOURIをご覧下さい」

<MOTO-ZOURI>

それは、すざましいバトルだった。部屋の壁際を走っていく、MOTO-ZOURIと、ミニ四駆!?もちろん、MOTO−ZOURIは、素晴らしいスピードで走るぞうりだ。

「あっ!はははは!!あっはあ!」
びしぃ!
笑っているノッチは後頭部を木村に引っぱたかれ、ぶしゅーーー!と乳を飛ばす。乳をね・・・、乳をぶしーー!と飛ばす(笑)
木村はマウスを奪い取り、自らの羽をクリックし、村山の元に戻る。

「先生、戻ってきました!」
うん、と頷いた村山は、なおもバブルについて語ってくれる。
バブル経済というのは実際の経済とかけ離れていて実体がない。だから泡。その泡が弾けてしまえば、どん底に落ちるしかないものだ。しかし、大きな会社などを助けるためにかかるお金が70兆円。70兆円をお札に直して、並べていくと、1枚16cmちょいあるので、地球を40回くらい回るのだ!
木村は呆然とするしかないし、はははっ!と笑うしかない。
「いずれそれは、国民のつけに回ってくる。ね?」
「ね?って言われても・・・」
「それが、バブルの後遺症なんだ」
「じゃあ、バブルって悪いものなんだ」
「悪いものじゃな」
またバブルを起こそうなんてとんでもないことなのに、それをやれって言われてる木村っていったい・・・!

と、そこで、また現れたマウスポインターが、画面の左上角をポイント。そして、クリック。
画面が、はらりとめくられ、再びノッチが現れた。

「元総理とのお話もたけなわでございますが、高輪の午後3時をごらんください」

<高輪の午後3時>

それは水野ハルオそっくりな、白バイ野郎ジョン&パンチ。なにせ、水野ハルオそっくりなので、腹がすごい。何がつまってんのって腹の、ジョン&パンチ。
二人は、3時になったので、おやつの時間だぞ!と、フレームアウトしていった。ここは、高輪。

「おやつ食べたいなぁ!」
たべたぁい!ってノッチを、またばしっ!と引っぱたく木村。今度は、乳を寄せるノッチだった。ノッチの乳は一体ぃ〜!
そして、またマウスを奪い取り、羽をクリック!

「はぁ!お待たせしました!」
「はい」
村山は、あくまでも穏やかだ。
「元総理大臣じゃないですか。自分、ちっちゃい頃とか、総理大臣って聞くと、すげえ人だと思ってたんですよ。今ってあんまり・・・、総理大臣って聞いても、すごくないんじゃないかなって思って・・・」
「その方がいいいよ。普通の人だ」
「ん?」
「普通の人」
村山は、自分と木村を指差して、普通をアピール。
「木村拓哉さんときいて、どんな人かな、何してる人?って聞いたら、そしたらね、あなた木村拓哉さんも知らないのかって笑われたんだけど、有名なんだな(笑)総理大臣より、有名(笑)」
ああああ!どんどん居たたまれなくなってくる木村は、慌てて言う。
「自分的には、総理大臣にはすごい人であってほしいんですよ。日本で生きていかなきゃいけないじゃないですか。最高責任者がぐらついた感じだったりすると困っちゃう」
そこで二人は、やはり政治に対する信頼を取り戻し、期待を持てるように努力をして欲しいという話をするのだった。
そして、当時、政治に興味のなかった人の話題を、いきなり、政治(?)に釘漬けにさせてしまったある意味功労者、森総理の話を。
「森さん、どうなんですかね」
「森さん。あの人は、体大きいからな。突出してるんじゃないの」
「それだけじゃないですか!」
「喋るきおとには気をつけた方がいいね(笑)」
「(村山さんは)気をつけました?」
気をつけていたようだ。総理大臣にはプライベートがないのだ。24時間総理大臣なのだ。これはオフレコ、これはプライベートといっても、それらはすべて総理大臣が言ったこと、総理大臣がやったことになり、下手すれば、世界のニュースになる。
それが総理大臣なのだ!

そこで、木村はマスコミってどう思います!?といきなり勢いこんだ。ソファの上に正座までして。
「マスコミは影響大きいいからな。正確にやってもらわにゃ」
「はい!」
何があったんだ木村、というほど力の入る木村だ。
「最近政治ってマスコミに変えられてるじゃないですか。僕も生活を変えられるんですけど(笑)、そうならないでいてほしいなと思います。政治は」
「マスコミはマスコミで仕事があるけど、あまり、若い人のプライバシーに興味本意に入りすぎて、報道しすぎるのがある」
「ありがとうございます!!」
だから、何があったんだ木村(笑)
「人間じゃからね、あれだけのことを書かれると、気ぃ悪い」
あぁ、ゆってくれた。
元総理がゆってくれた・・・!木村は、やっと自分が緊張して、肩もこっていたことに気づいたのだった。

<パンチ家>

画面は代わり、電柱には「パンチ家」と書かれた張り紙が。その前を、泣きながら通っていく水野ハルオそっくりの、すごい腹をした、ジョン。あぁ、パンチは、亡くなってしまったのか・・・(笑)おやつ食べすぎちゃう?

木村は言う。
「目の前にあるものに対してがんばるって感じを感じるんですよ。今の自分もそうなんですけど」
「今日あって、明日がある。今日をいい加減にすると、明日がいい加減になる」
「思ったんですけど、明日より、今日の方が若いじゃないですか。今日、このやろう!ってくらい、一生懸命いってやろうかと思ってます」
若さというのは、誰も買うことができないと村山は言う。若さだけは買うことができないけれど、逆に、青春というのは年齢のことではなく、情熱を持っている時は、年に関係なく青春という言葉もあるのだ。

なかなか、いい話が出来たと、二人は満足しているようだった。
「いきなりお邪魔してすいませんでした」
「元気で頑張って」
「また来ます。お邪魔しました」

こうして、マシンをクリックした。ちょうど、黒いパーツだったので、画面も真っ暗。
しかし、時折フラッシュの閃光が。
「何とってんの!?」
ぱっと明かりがついた時には、画面の中に、木村以外に相当な数の人数が。うまくいってるって!別れてないって!と口走る木村。
「いやいや、何これ!あの!解りにくいと思うんで、自前でつけたカメラで、今の状況をご覧下さい!」
ぱし!とカメラが切り替わり、木村には何人からも銃がつきつけられ、その奥にはカメラの放列が!
解った?とカメラを元に戻す木村。
「なんなんですか!」
そして、画面の右にいるのは、公安ではないか!公安は言ったのだ。
「ようやく追い詰めた」
木村!ピーンチ!

次回予告

「犬はワン!牛はモ〜!脱獄大作戦の巻なのだ!」

★第6回

木村は腕立て伏せをしている。ここは、いつものスタジオ(木村の部屋)ではない。随分と殺風景な部屋で、暗い。明かりはスポットが1つだけだ。
「ども。えー、久々にですね、久々!?何を言う」
ニヤリと腕立て伏せを終了する。
「はじめて、時間どおりでお届けしています。えー、すごく、時間に、厳しい生活を最近ちょっと送ってまして。えーー、6時半に、起床。そして、7時に点呼ってのがありまして、その後飯を食って、飯の後は、消化活動を助けるためなんだか、裏庭に出て・・・」

「618番!!」

「ぐわぁーーーー!ぐぉぉぉーーーーー!!!」

木村は眠ったフリを声だけでするが、その目がぱっくり開いていて、じぃーっとたった一つのスポットライトの光を浴びている。左目に。

「(ひそひそ)え、今聞いた番号が、自分の番号です。ははは」
さらに激しくニヤリと笑う木村。
「捕まってます。えー、ということで、拘置所から生中継という素晴らしいテレビ番組をお届けしようと思います。さっそくはじめましょう!」
スポットから離れ、座りなおす木村。まぶし、と目をしばしばさせる辺りが、檻ごとさらってやりたいほど愛らしい!
「いきましょう!」

ここでTV’s HIGHのテロップが出た。

<前回のあらまし>
いかにも外人女性のナレーション「モトソウリとハナシをシテイテ、イエにカエッタキムラサンをマッテいたのは、ぽりぃ〜すめん」
前回の映像が映り、ようやく見つけましたよ、という公安が逮捕状を見せる。
「治安維持法違反で逮捕する!」
「逆ですよ、向き」
上下さかさまに。
うっ、と一瞬可憐な恥じらいを見せた公安だったが、しかし、逮捕する!と木村に手錠をかけた。
「グズグズするな青島!」と言いながら。

「青島!?」
と驚く木村。
その時、窓の外、隣のマンションの窓が開いた。

「その人が青島だぁー!」
「ソノヒトダァーー!」
青島本人の叫びにより。

ナレーション「キムラサンはトッツカマッタのです」

<キム>

木村があらましのテロップを外すと、その後ろには。
「うわ!なにやってんですか木村さん!」
キムが座っていた。結構しどけない感じに。
「あ、木村拓哉くんが、木村さんっていう衝撃映像・・・」
言いながら、前に前に出てこようとする、ステキに薄汚いキム。
「いや、そういうことじゃなくて!」
木村は、TV’HIGHテロップでキムを隠そうとするが、とにかくキムは前に出てきたいのだ。
「何やってんですか・・・!」
「違うがな、体験入獄ゆうてつれてこられたんや。せやけど、全然出してくれんねん」
「体験入獄・・・」
「どうしても今日、見てほしいもんあるねん」
「あ」

木村が止める間もなく、キムは開局キットのスイッチを押した。

<どうしても見て欲しい映像>

2つの排気口の写真。
左を向いている大きな排気口と、それより小さく、右を向いた排気口。二つの排気口は、向かい合っているが、背の高さが違った。小さな排気口は、大きな排気口の、言うなれば肩口辺りを向いているのだ。
「おっきい方が、ちっさい方にものすごい説教してんねん」
そうとしか見えない写真だ。
ぜひとも、書店で「木村の目」を手に取っていただきたい。
「『おまえはほんまま、下からちょこちょこ吐きやがって、熱いやんか!』ね」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「続いては」
「バナナ!」
木村は、キムを遮り、両手を重ね合わせバナナを炸裂させた。
「バナナやんな!重なったらあかんねん!」
元祖バナナのキムが、正しいバナナを披露する。
「次これ!」

<次これ>

表札である。表札が二つ、左右にぴったり並んでいる。左が「関口」右が「小川」

「ひろし・ひろしの両司会者が二世帯住宅!」
ぷち。
画面を消す木村。
「いやいやいや!今のすごいやんか!新旧交代やで?」
相手にしない木村を押しのけて、なおも前に出てくるキム。
「やいやいゆーてますけどね、今日は、木村・木村でお送りします」
「いや!しないっすよ!」

「木村!」

看守の声に、はい!と返事する木村。しかし、今この房の中には木村が二人いる。看守は正しく呼んだ。
「義理の兄が刑事じゃないほぅの木村!」
えっ。
「義理のお兄さん、刑事なんですか!?」
「うん」
キムはこくっと頷く。
「じゃ、なんでこんな留置場・・・!連絡して出してもらったらいいじゃないですか!」
「知らん!」
「知らんって」
「電話番号しらん!」
何があるのだ!義理の兄との間に!キム!

「面会だ」
しかし看守とて、用もなくやってきていない。用件ははっきり告げられた。
「面会ってこんな時間に!」
「何を、常識人ぶりやがって、この極悪人が!」
びしぃ!びしぃっ!と警棒を打ち付けてくる看守。
「すいませんすいません!いやでもさ、あの。もう1時過ぎてますよ?」
「黙れ!貴様には黙秘権がある!」
ん!?
木村は何かに気がついた。さっとたった一つのライトを手にして、看守を捕まえた。
「どっかで見た顔だな!こら!ピッツァマーン!」
そう、彼はピッツァマンこと、上ノ倉。
しかし、上ノ倉は、ばあちゃんが面会に来ていることを木村に告げるのだった。
その上の倉の目には、「涙」が浮かんでいた。
・・・いや、「涙」という文字が浮かんでいた。

<一杯のかけそば>
では、木村がおばあちゃんに会いにいくまでの間に、一杯のかけそばで泣いた人をご覧下さい。

ラジカセから流れる一杯のかけそばに涙する女性の映像。あれが流行ったのは、もうどれくらい前のことなのか・・・。

<面会室>
入ってくる木村。
「だぁ!!」
「こっちこっち!」
面会室のし切りの向こうには、一人のおばあさんがいて、木村を手招きしていた。
「こっちしかないでしょうが!」
し切りの向こうにいけるか!と怒る木村。
「お団子持って差し入れに来たんですけどね?見たら美味しそうだから食べちゃったんですよ!」
おばあさんは、手元にあったプラッチック容器に入っているお団子を食べていて、食べ終えた串を、面会室をし切っている透明な壁に開いている例の穴から刺し込んでくるのだ。アーモンドチョコレートは入らなくても、串は楽勝で入って、危険度は∞!
「あぶね!いやそれよりさ、何やってんですが、おばあちゃんのカッコして」
「変装ですよ、あたしが青島だってばれたら大変なことになりますからね!」
おぉ!なんということであろう!このおばあさんは青島ではないか!意地悪ばあさんではないか!
「それが一番青島っぽいと思うんですけど・・・」
「人の言うことを聞かない人には、意地悪をしてやりますよっ!」
意地悪ばあさんは、次から次へと串を刺し込んでくる。おぉ!なんと意地悪なのであろうか!
「あぶない!解りましたからっ!なんとかしてくださいよ!」
「何をですよ?」
「出してくださいよ」
「あたしはただのおばあちゃんですよ。そんな大それたことはできません。さ、バレないうちに帰りましょうかねっ」
いそいそと帰ろうとする青島意地悪ばあさん。が、後ろに控えていた刑務所のスタッフは、びしぃと敬礼するのだ。
「バレてんじゃん!」
あら、バレてたのね。
「青島だ」
いきなり威厳を持ってしまう青島。
「この青年を出してやれるかな」
「はい!」
「すげぇ!元都知事ってホントに出せるんだ!」

ラッキ!と木村が思った時、そうはいかない!と入ってきたのは公安だった。
「ストップ・ザ・ミュージック!」
びしぃ!と手のひらを前に出す公安。しかし!
「かかってねぇよ!音楽」
そう。木村の言う通り、音楽なんてかかってはいかなった。
「勅使河原さん?うちの孫が何か?」
「何故名前が知られているのかは別にして」
「別にすんなよ!」
「治安維持法に違反したんです!」
「おぉ・・・!」
泣き崩れる青島。木村は吠える。
「大体治安維持法ってなんだよ!」
「知らねぇよ!とっくに廃止された法律だもん!」
「じゃ、なんで俺つかまってんだよ!」
「それはいい」
「よくねぇ!」
「お宅のやってることは、国民に悪影響をおよぼしてんだよ、ははは!ビデオ持ってきて」

よいしょよいしょ、とビデオを持ってきたのは、もう一人のおばあさん。重たいビデオセットを一生懸命持ってきているのだが、おぉ!なんということであろう!
「ノッチ?ノッチ!?」
その顔は、ADのノッチではないか!?
「違いましゅよぉ〜、木村しゃ〜ん!」
しかしノッチおばあちゃんは、自分はノッチではない!と抵抗。
「あぁたまでおばちゃんのカッコすることないでしょ!」
なのに、青島に叱られてしまい、「あいやー!」とショックを受けるのだ。
「おまえなんでこんな、公安の手先になってんだよ!」
なぜ、こんな公安・・・!おばあさんのカッコしたノッチは、さっ、と公安に寄りそった。愛しくて仕方のないこのヒトに。
「だって、このヒト、強くて、なんどもあたしを・・・!」
「やった?」
下世話な木村に、公安は小さく首を振る。
「こういう場所でそういう引くこというなよ!!」
「うるさい!これを見ろーー!!」

強いこのヒトになんどもされちゃったノッチが持ってきたビデオは、木村の友達であるおじいちゃんたちがやったサッカーの試合の映像だった。
「これ見た視聴者の皆さんがどんなことになったと思ってるんだ!」
続いての映像は、衝撃映像だった。
たくさんの、おじいちゃんたちが!おじいちゃんたちが、白い、エクトプラズムを吐き巻くっている!なんという恐ろしい!

「餅すすりを逆回ししてるだけだろ!!」

ちっ!バレたか!公安は逆ギレした。
「もう解った!おまえ一人に破防法を適用する!」
はうっ!意地悪ばあさんはなす術もなく泣くだけだ。
「5年は出られんと思いなさい」
「うそぉ」
「じゃ、私は模様替えの途中なんで帰ります!」
「あなた!」
「あなたっつったな!今!」
この状況でも、つっこみを忘れない木村のつっこみ。しかしノッチには気にされていやがらない。ただ、泣いているばかりだ。
青島も泣いている。そして泣きながら言った。
「いよいよ、脱出作戦開始ですね・・・っ!」
「泣き止んでから言えよ、そゆことぉ!」
でも、ともかく80%まで頑張ってもらわないといけないのだ!でも、そのためにはここを出してもらわなくてはいけない!でも、大丈夫だ。
「ここに潜り込んでるヤツがいるんですよ!」
「誰だよ!」

その時、看守がマスクとサングラスを外した。
おぉ!!この顔は!
「えーーーー!!!!」
青島が驚愕の声を上げる。
「おまえが驚くなよ!」
「まぁーーー!」
ノッチも腰が抜けそうだ。
「あんたが驚くなよ!」
「えぇぇーーーー!!!!!」
最後の驚きは、看守こと、ピッツァマンこと、上ノ倉。
本人が驚くなーーーー!!!と怒鳴ったところで、ついてこい、と一挙に冷静になった上ノ倉。
「はい」
素直についていく木村だった。

<脱出>

「ホントにさ、俺がたまたま看守だったからいいよものの。ありがとうくらい言えよ」
ぐにゃぐにゃと体を動かしていた木村は、ぐにゃぐにゃしたまま言った。
「ありぃ〜がと」
「シルヴァじゃねぇかそれ!」
言いながら、また檻の中に戻される木村。
「なんで閉めんの!?」
檻から必死に顔を出す木村。
「ありがとうって、あんまりないから、有り難いって意味なんだってな」
「感心してないで開けてよ!」
「開けちゃったら、クビになるだろうがよ!看守は看守でちゃんとやってんだよ!」
「やってんだよってさ!俺のこと助けるために・・・!いや、チュウはいいからさ!」
上ノ倉は、うっとりとした表情で顔を近づけてきている。
「俺を助けるために潜り込んでるんだろ!?」
「うん。そうなんだけどさ、看守をつきつめて、リアリティをおさえてると、正式な看守なっちゃったんだよ。国から給料もらってんだよな、これぞスーパーリアリズム!フランス語で言うと、シュールリアリズム!」
「それはいいんだよ!!」
うりゃ!!と扉越しに押し合いをしていたら、檻が開いてしまった!あ!一瞬開いて!
「開いた!今開いたよ!!」
そんなはずはない!そんなはずは!!とばっくれる上ノ倉。そして、やはり逆ギレした。
「子供がメシ食ってねんだよ!4日もメシ食ってねんだよ!!」
「今、大げさに言ったろ!」
「大げさだけど!4日は大げさだけど、でも!俺の子供じゃねんだよ!」
「じゃ、誰の子供だよ!」
「知らねぇよ!!」
そして泣きながら走り去る上ノ倉。木村は、檻の中に取り残された。

はぁ、と困った木村に、後ろから声がかかる。

「ちょっとあんた。ここから出たいのかい?」

誰だ、このおじいさんは!と振り帰ると、声をかえたキムだった。なんじゃい、と、隣に座る木村。
「・・・今の、誰っすか」
「刑事ドラマに良く出てくるおじいさんじゃよ」
「出してくださいよ」
面倒くさいから、素直に答える木村だ。
「この部屋に中に、内田裕也です」
内田裕也の物真似らしい(笑)かるーーく似ている(笑)
「外に通じる穴があるんだけど、どこだか解るか?」
「穴ー?」
木村は周囲に目をやる。
「・・・これじゃないですか?」
ぴし。
木村が指差した先にあったのは、巨大なポスター。
「え!なんで!?早っ!」
「これどう見たってマルコビッチの穴だよ!」
そのマルコビッチの穴ポスターを引き剥がすと、奥には大きな穴が!
「あぁ!すげえなにこれ!ほったの!?」
「今、誰もおれへんで。どうする?」
「行きますよ!」
木村は、その穴から、脱出していった。

そしてニヤリと笑うキム。
キムは小さくガッツポーズをして、さっと、カメラの前に戻った。

「ということでね、ゆっくし物真似ショーをお届けしようかと思うんですけども。じゃあ、ア行から。え!なんで!!」

そのキムの前に出てくる次回予告!

<次回予告>

「穴があったら入りたい。うれし恥ずかし脱獄大作戦なのだの巻」

★第7回

前回のあらましが、おそろしいほどに、しっかり語られた今回のTV’s HIGH。このページの上、えーっと、何行目かを・・・

はっ!ダメじゃん!HPの見方って色々じゃん!行数なんて数えられないじゃん(笑)!

ともかく、キムーラさんは、公安刑事テシガワラにトッツカマッタのです。快適だった独房もキムが来て暑苦しい。どっかで見た看守はやってくる。ばあちゃんが面会に来てると行ってみれば、元祖いじわるばあさん!
おかしな人が勢ぞろいする中、変な番組を流して日本中の人からエクトプラズムを出させた件で、キムーラさんには、破防法が適用されそうだったのです!
しかし、そこには静かな計画が・・・!
いよいよ、脱獄作戦開始なのです。

刑事ドラマによく出てるおっちゃんから、内田裕也に変化したキムにより、独房(今は二人部屋♪)には穴があることを知った木村。その穴は、マルコヴィッチの穴のポスターの下に隠されていた。
気付くのはやっ!と驚くキムを置いて木村は穴から飛び出していった。やた!これで、テレビ局開局キットを手にいれられる!わーいわーい!

しかし!

「あー、さっきごめんな、鯛焼き買って来たぞ。あれ?どこ消えた」

看守をつきつめて、リアリティを押さえているうちに、正式に看守になり、国から給料をもらう身分になってしまった、これぞ、これぞスーパーリアリズム!フランス語で言うと、シュールリアリズム!な看守、上ノ倉がやってきてしまったのだ!
「この穴から出て行きましたっ」
お上にはとても逆らえねぇキム。小さくなって、はきはきっ!と答えている。
「うそぉーん!勅使河原さんっ!?」
上ノ倉は慌てて報告に。そして、木村の声が聞こえてきた。
『木村さん?』
「はいっ、こっちは必死にごまかしました!」
『あのー、全部聞こえてますけど』
ぎょ。木村の声が冷たい・・・っ!
『あの、木村さん?壁の薄いところがあるんですけど』
「押してみてください!」

ばさっ!
軽い音がして、キムの上に落ちてきたのは、マルコビッチの穴のポスター。なぜ!?だって、キムの右手側にあったポスターすでにはがされ、そこから、木村が出ていったのに!どうして、今、左手側から、ポスターが!?
そして木村が飛び込んできているのっ!?
「ちかっ!」
その顔がくっつきそうな近さに仰け反るキム。
「びっくりした!」
「あんたさぁ、穴っつってもさ、こっちとさ、こっちでさぁ、ただ繋がってるだけじゃん。そう思わない?」
もちろん、木村のこの口調は、松田優作だ。
「第、いっかい、選択希望選手。野茂、英雄」
対するキムは、大リーグ大好きパンチョ伊東で答えたが、木村が許してくれそうもなかったので、すぐさま低姿勢になる。
「違うねん。入る時に、ちくわの神様、お願いしますって言った?」
「いや、言わないっすよ?」
「あー、ごめん。言わなと思ったんだけど・・・」
「普通思いつかないっすよ!!」
「しっ!誰か来る!」
キムに、無駄にハキハキ言われ、木村は可愛く両手を組み合わせた。可愛く顔をあげて、可愛く、上目遣いになった。
「ちくわの神様、お願いしますっ」
よし!
こうして、二人は、再びマルコヴィッチの穴に飛び込んだ!

<チクワーズ>

チクワーズとは、ピーナッツとは違う、双子のナッチが、丑の刻参りのスタイルで歌うユニットだ。もちろん、チクワーズなので、ロウソクをつけているべき場所には、ちくわがたっているし、持っているのもちくわ。
ちっくわーやっ、ちくわぁ〜♪ふふふふぅ〜ふふん♪ちくわぁ〜♪
チクワーズは、そうやって歌っている。

<鯛焼き>

たまに食べると美味いね!と上ノ倉から渡された鯛焼きを食べながら、ご機嫌な勅使河原。
しかし、一人破防法適用予定だった木村が牢にいない!!
そして壁には大きな穴が!
「あ!あんなところに穴が!穴があったら入りたい!」
くぅ!
苦悩する勅使河原。しかし、まさにそれは、『穴』なのだ。入ればいいのだ!

<ウッドビレッジさん>

キムと木村は、狭く、しかし白く明るい通路を、四つんばいで進んでいた。
先導するのは、旗を持ったウッドビレッジキム。そして、案内されるのは、後をついていくウッドビレッジ木村。
「こっちこっち、ウッドビレッジさん!」
そんな朗らかな言葉とともに、二人は明るい通路を進んでいく。
そして、その先に空間が見えたのだ!急げウッドビレッジ木村!
しかし!!

あぁ!!恐ろしい!それは、空中に突き出されたちくわだったのだ!
ウッドビレッジさんたちは、ちくわの中にいた。そして、そこから飛び出すことは、すなわち、空中に飛び出すことに他ならない!
危険だ!ウッドビレッジさんたちは、ちくわを戻っていく。

<戻ってきた>

その頃、勅使河原たちは、右の穴から出て、左の穴に戻ってきていた。
そう。そこはまだ牢の中。
どうしたことだ!驚愕する勅使河原だが、上ノ倉は、ある可能性に気付いていた。
「さっき、ちくわの神様お願いしますって言いました?」
「絶対思いつかないよ!!」
きぃ!と怒る勅使河原だが、とにかくちくわの神様にお願いしないことには、先にすすみゃあしねぇ。
二人は祈った。
可愛らしく。
「ちくわの神様お願いします!!」
そして穴の中へ!

<ちみん>

解りにくっ。ちみん、しとしん、ぐあにん、あでにんはDNA。
ちみんというのは、あみんとは違って、やはり丑の刻参りのスタイルをしたノッチが二人で歌っているユニットだ。
ちくわぁ〜♪ちくわぁ〜、いつまでもちーくーわ♪
ちらりと足を見せたりなんかして、あみんよりも、ずぅぅっとせくしぃな二人組だ。ちみんは。
そのちみんの歌をバックに、勅使河原たちは、ちくわの中を這っている。

<ウッドビレッジたち>

「早くぅ〜」
「待ってよぉ〜」
ウッドビレッジキムを、一生懸命追いかける、純情可憐なウッドビレッジ木村。
そのウッドビレッジ木村は、ふと足をとめて、振り向き言った。
「僕らがトンネルの中を進んでいる間に、日吉の方にあるトンネルの映像をごらんください」

<日吉の方のトンネル>

『そうだ、浜松へいこう』
森本レオ風味なナレーションの中、山から、海を見下ろす形での映像。そしてトンネルから出てきたのは。

ウナギだった。

『JR うなぎ』

<その頃>

ウッドビレッジさんたちは、登ろうとしていた。出口は真上にある。例え、横になった状態で、腕を伸ばしているだけに見えようとも、けしてそうではない。ウッドビレッジさんたちは、真上にある出口に手をかけ、体を持ち上げようとしているのだ!
ふぁいとーー!いっぱぁーーーつ!と!

そしてついにウッドビレッジ木村はやった。立った状態のちくわから、見事上半身を出していた。し、しかし!そこは!!
つまりそこは、ちくわ地獄。たくさんのちくわの中、ちくわの鬼とかした、チクワーズだか、ちみんだかのノッチが、ちくわで、亡者をいたぶっていれうのだ!つながれた亡者を!ちくわで!あぁ!
なんとあさましい光景であろおか!!
「ウッドビレッジさん!すごいよ!」
とはしゃいでいたウッドビレッジ木村も、思わず耳を塞ぐ、あさましくも恐ろしい光景であった。

<衝撃映像を越える衝撃映像>

ナレーション「衝撃映像の途中ですが、さらなる衝撃映像。とんびがあぶらげをさらう瞬間をごらん下さい」

画面にはあぶらあげ。そこに、とんびがとんできて、ほんとに持って行った!?ほんものか!?ほんもののとんびか!?そして油揚げか!?

<ちくわ地獄を逃れ>

なお、よいしょ、よいしょ、とがんばっているウッドビレッジさんたち。
特に、ウッドビレッジ木村は、ウッドビレッジキムから遅れてるものだから、追いつくのに一生懸命で、それがいたいけに愛らしい。
「あぁ、おいついた」
とホっとしたウッドビレッジ木村は、先が明るいことに気付き、再び急ぐ。
しかし、それはまた、空中に出ているちくわだったのだ。外にあるのは、空だけなのだ。BGMは、「そうだ京都に行こう」のものなのだ。
だから、また引き返そうと思っているのに、ウッドビレッジキムは、そうか、京都へいこうと、やけにうっとりだ。
そこで、ウッドビレッジ木村は、後ろからの物音に気がついた。
何?と思ったら。
おぉ!なんということであろうか!

「うなうなっ、うなっ!うな!うそ!」

ウナギが!ウナギがやってきている!ウナギがうねりながら、ちくわの中をやってくる!ウナギの巾は、ちくわの巾とほぼ同じ!!

慌てるウッドビレッジ木村だったが、しょせん、お釈迦様の手から逃れることはできないのだ。
そのちくわは、チクワーズだか、ちみんだか、ちくわの鬼だかの、ノッチの手の中にあるちくわだった。ノッチが、そのちくわに口をつけ、バリバリ噛むのかとおもったら、そうではなく、ふっ!と息を吹き込むと、ウッドビレッジさんたちは落っこちた!そしてウナギも!

<そして落ちた先は>

牢屋の廊下だった!
どん!と下りてきた二人。そしてその頭上から落ちてきたウナギを、ダイレクトキャッチ!の木村。
さすがJRうなぎ!
「なんだよこれ!!」
反射的につかんだものの、なんだよこれ!と投げる木村。うなぎをつかんでしまった、その感触がたまらないらしく、ちょっと踊ったりしている。
「大丈夫?ウッドビレッジさん!」
キムはまだウッドビレッジだ。
そして、牢の中には、勅使河原たちが!!
「撃つぞ!」
銃を構えた勅使河原だったが、それはちくわになっていたのだ!

「ははは!いや、私ゃ笑いましたよ!」
ご機嫌で立ち去っていくあおしまいじわるばあさん!
そして、上ノ倉は、自分の持っていた銃を、勅使河原に向けるのだ。
「子供にはまた苦労をかけるけど・・・」
苦渋の選択だった。

しかし、木村は上ノ倉を捨てて、さっさと行ってします。キムの大事なテレビ局開局セットも捨てていく。
だって。
「とりあえず手が洗いたい!」
そしてその手のひらを、人に匂わせ、うぉっ!と仰け反らせるのだった。

<次回予告>

「本当に終わっちゃうの?TV’s HIGH!お色気第作戦の巻なのだ!」

<第8回に続く!>


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