おなかがいっぱいになったら


キャスト

養護の先生(千葉)
3年1組藤原
野球部山本
生徒



  保健室。山本、ほおを押さえながら入ってくる。

山本 あのー。


  カーテンの陰から先生が出てくる。

先生 うえー。
山本 どうしたんですか先生。
先生 気持ち悪い。
山本 大丈夫ですか。
先生 大丈夫じゃない。死にそう。
山本 休んだ方がいいんじゃないですか?
先生 そうもいかない。年休ももう使い切ってる。
山本 年休ってなんですか。
先生 休みのこと。
山本 休み?
先生 学校うえ休むこと。もうすぐテストでしょ。
山本 はい。
先生 テスト私には用事ないしでもテストっていうと生徒来るし休めないかなあ。
山本 そういうもんですか。
先生 ところであんた何?
山本 何っていっても。
先生 あんたも?
山本 なんですか?
先生 よく来るね。
山本 あの、ボール当たっちゃって。
先生 うえ。
山本 大丈夫ですか。
先生 なんかこう胸のあたりがもうこの、うえ。
山本 もしかしてまた二日酔いですか。
先生 ボールねえ。


  先生湿布を出して山本に放る。

先生 ほれ。
山本 うわ。
先生 それでしばらく押さえといて。


  先生コーヒーをカップに注ぐ。

先生 うえ。
山本 気持ち悪いのにコーヒー飲んでいいんですか?


  先生コーヒーを飲む。

先生 うえ。
山本 大丈夫ですか。
先生 わあ。


  飲み干す。

山本 ベッドで寝てたらどうですか。
先生 そうさせてもらうわ。あのさあ。
山本 はい。
先生 ちょっと見ててくれる。だれか具合が悪い人が来たら。
山本 呼べばいいんですね。
先生 そこのカードに名前書かせて薬出して。
山本 ぼくがみるんですか。
先生 頼むうえ。


  先生カーテンの陰へ。

山本


  先生カーテンの奥から。

先生 腫れたら冷蔵庫にアイスパックあるから。
山本 …はい。あの、練習に戻らないと。
先生 なんだよ、休んでけばいいじゃん。


  取り残される山本

山本 カードに書いた方がいいですか?
先生 適当にうえ。
山本 はい。


  山本体温計を出す。

山本 体温でも計っちゃおうかな。


ピピピピ。

山本 早いな。


ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ。


  体温計を取り出す。

山本 35度2分。ホントかよ。

先生 おー!
山本 どうしたんですか!
先生 足が吊ったー!
山本 なんだ。
先生 痛ーい!
山本 先生、うるさいです。


  山本、見に行く。

山本 靴脱いで寝てくださいよ。
先生 うん。


  山本、出てくる。
  カードに書き込む。

山本 6月…


  冷蔵庫まで行く。
  冷蔵庫を開ける。開けたまま前に座り込む。

山本 おー!


  叫び出す。

山本 おー!


  藤原入ってくる。

藤原 あの、何してるんですか
山本 うわ。
藤原
山本 ごめんなさい。
藤原
山本 え?
藤原 あの。
山本 えーと。
藤原 閉めてください。
山本 え?
藤原 冷蔵庫。
山本 あ、はい。


  山本、ドアで手を挟む。

山本 あれ?


  山本、もう一度手を挟む。

山本 あれ?
藤原
山本 あの、いつもはちゃんと閉められるんですけど。
藤原 当たり前じゃないですか。
山本 先生寝てるんですけど。
藤原
山本 あの野球部なんですがボール当たっちゃって。
藤原 へえ。
山本 あの、休みたいからちょうどいいんですけど。
藤原 そう。
山本 というより、当たってないんですけど。
藤原 え?
山本 あの、よく会いますよね。ここで。
藤原 そうですね。
山本 あの、今日はどんな病気で?
藤原
山本 すみません。
藤原 いいけど。
山本 あの、練習に戻ろうかな、なんて。
藤原 そうすれば。
山本 そうしますね。


  山本、帰りかけて。

山本 あの、演劇部ですよね。
藤原 うん。あんまり行ってないけど。
山本 ぼく、本当は演劇部に入りたかったんですよね。
藤原 へえ。
山本 あの、四季とか好きです。テレビのコマーシャルで知ってるだけですけど。♭壁ーは、とか。
藤原 はいはい。
山本 今度いつやるんですか。
藤原 あ、自主公演かな。来月。
山本 見に行きます。
藤原 ああ。見に来てたよね、いつも。
山本 はい。あの。
藤原 なに?
山本 今からでも入っていいですかね。
藤原 え?
山本 なんか野球やめたいし。
藤原 ふうん。
山本 実は脚本とか書いてるんですよね。
藤原 へえ。
山本 見てくれませんか。
藤原 部長に言ってよ。三年二組の斉藤さん。
山本 ああ。
藤原 行けば。
山本 あ、はい。


  山本、出ていく。

藤原 そういう人もいなきゃね。


  冷蔵庫を開ける。

藤原 先生、起きてる?


  答えない。

藤原 食べていい?


  中からお菓子を取り出す。
  机に並べる。

藤原 コーヒーも飲もうかな。


  コーヒーメーカーからコーヒーを注ぐ。
  コーヒーを飲んで。

藤原 にが。苦いよ。これ。


  砂糖を入れる。

藤原 甘過ぎた。


  電話。

藤原 先生。電話。


  先生、出てくる。

先生 来てたの。
藤原 はい。
先生 今日、どうしてた。


  先生、電話に出る。

先生 え?日誌?出しましたよ。え?ない?出しました。ないことないですよ。出しましたから。出しましたって。


  藤原、机の上の日誌をひらひら。
  先生、気づいて。

先生 出しました。はい。じゃ、探してみてください。こっちも一応。はい。一応探します。一応です。一応探してみて、あったらお知らせします。はい。じゃ。


  先生、日誌を受け取って。

先生 ああ。
藤原 これ?
先生 そうだよ。
藤原 だれ?
先生 教頭。
藤原 いいの?
先生 ありゃ。ということは出したのはおとといのことだったのか。
藤原 もしかして昨日の記憶がないとか。
先生 まさか。
藤原 あり得る。
先生 えーと。


  先生、咳払い。
  電話をとって。

先生 教頭先生ですか。はい、はい、どうしたんでしょうねえ。こちらにありました。だれが持ってきたんでしょうねえ。はい、あのお持ちしましょうか。あ、じゃ今日の分を書いてから。いいですか。えーと。はい。はい。ほんと、どうしたんでしょうねえ。ええ、じゃあ後でまた。


  受話器を置く。

先生 ほんと細かいんだから。
藤原 いいの?
先生 なにが。
藤原 人のせいみたいに。
先生 大人の会話だよ。教頭だってわたしが出し忘れたこと分かってるって。
藤原 そんなもんですか。


  先生、冷蔵庫から栄養ドリンク、たばこ、ライター、枕を出す。

藤原 なに入れてんですか。
先生 うう。
藤原 保健室でたばこはまずいんじゃないですか。


  先生、たばことライターをしまい、冷蔵庫から書類入れを出す。

藤原 何すか、それ。
先生 …(ぼそぼそ)
藤原 え?
先生 貯金通帳。
藤原 なんでそんなもん入ってるんですか。


  先生、書類入れを冷凍庫にしまう。

先生 …コーヒー。
藤原 はい。


  藤原、コーヒーを入れる。

藤原 あの。
先生 なに。
藤原 ミルクとか。
先生 ブラックで。
藤原 はい。


  藤原、先生にコーヒーを出す。

藤原 先生。
先生 う。
藤原 昨夜はどこか行ったんですか。
先生 行ってない。
藤原 家で飲んだんですか。
先生 うん。
藤原 寂しくないですか。
先生 別に。
藤原 心が疲れていませんか?そんなあなたのための癒しグッズ。
先生 なに?


  藤原、クッキーの缶の緩衝剤を出して。

藤原 プチプチシート!


  コーヒーを飲み干す。

藤原 苦くないですか?
先生


  先生、ドリンクのふたを開け、飲む。

藤原 液キャベ…苦くないですか?


  猫の鳴き声がする。

先生 あ、ミロだ。


外へ出ていく先生。

藤原 最近信長姿を現さないから。えさ食べてるかなあ。


  もどってくる。

藤原 先生、信長いた?
先生 いなかった。ミロじゃなかったのかなあ。
藤原 雨の時とかどうしてるんですかね、信長。ああ見えてたくましいから大丈夫かな。
先生 ミロに勝手に名前をつけないで。
藤原 信長は信長ですよ。
先生 藤原。
藤原 はい。
先生 今日、どうしてた。
藤原 さっき来たんです。
先生 放課後に来てどうするの。
藤原 此食べていい?あ、カントリーマァムまで凍ってる。千葉ちゃんの好み?
先生 千葉ちゃんて言うなよ。
藤原 食おう。食う?
先生 食う。
藤原 千葉ちゃんとよく食ったね。ここで。
先生 うん。
藤原 うわ。冷たい。チュッパチャップスは冷凍庫入れない方がいい。
先生 うん。
藤原 凍ったカントリーマァムはうまい。


  藤原、凍ったカントリーマァムを食べる。

先生 これ、うまい?
藤原 おいしいじゃん。
先生 おいしくないよ。
藤原 サクッとして。
先生 モチってしてるからいいんじゃないの?カントリーマァムは。
藤原 あのモチっが嫌い。
先生 おかしいよそれ。
藤原 おかしいとかじゃなくて、いいじゃんわたしが好きなんだから。
先生 おいしくない。


  藤原、カードに何か書き込む。

藤原 ねえ。スプーン曲げれる?
先生 曲げれない。
藤原 へえ。
先生 曲げれるの?
藤原 曲げれない。
先生 なんだ。
藤原 曲げれたらさあ。
先生 え?
藤原 いいね。
先生 そう?
藤原 いいじゃん。
先生 わかんない。
藤原 ねえ。
先生 なに。
藤原 退屈。


  藤原、カントリーマァムを割り出す。

先生 カントリーマァムを割るなよ。
藤原 いいじゃん。
先生 来月の公演までいるんじゃないの。
藤原 もういいよ。
先生 役ついたんじゃないの?
藤原 ちがうんだよ、なんか。
先生 なにが違うんだよ。
藤原 なんかさあ。
先生 好きなんでしょ、演劇。
藤原 うん。
先生 何がいやなの。
藤原 みんな。
先生 みんなって?
藤原 わたしがやりたいことと違うんだよ。
先生 やりたいことってどんなこと?


  藤原、プチプチシートをつぶし出す。

先生 半分ちょうだい。
藤原 ダメ。
先生 すこしやらして。
藤原 やり始めたら全部やらないと気が済まないの。
先生 すこし。
藤原 ダメ。ああ癒される。
先生 貸して。わたしも癒されたいの。
藤原 ダメ。
先生 貸してよ、貸さないと…
藤原 貸さないと?
先生 あんたの携番削除する。
藤原 いいよ、それくらいなら。
先生 貸して!
藤原 はい終わりました。
先生 やるんならもっとじっくりやればいいでしょ!


  先生、コーヒーをカップに注ぐ。

藤原 苦くないの?


  先生、プチプチシートをつぶし出す。

藤原 半分ちょうだい。
先生 ダメ。
藤原 すこしやらして。
先生 やり始めたら全部やらないと気が済まないの。
藤原 すこし。
先生 ダメ。ああ癒される。
藤原 貸して。わたしも癒されたいの。
先生 ダメ。
藤原 貸してよ、貸さないと…
先生 貸さないと?
藤原 あんたの携番削除する。
先生 いいよ、それくらいなら。
藤原 貸して!
先生 はい終わりました。
藤原 やるんならもっとじっくりやればいいでしょ!


  電話が鳴る

先生 はい。はいはい。あ、こないだのね。頼んでくれる。うん。9号!9号のわけないじゃん11号よ。でもアメリカのでしょ。サイズ9号とか11号とかでいいの?うん。え?来てるの?自分のやつ持ってきたんだ。見に行っていい?今、いい?行く行く。あ、大丈夫。留守番いるから。


  受話器を置く。

先生 ちょっと急な仕事が入ったから。留守番してて。
藤原 仕事じゃないでしょ。9号とか。
先生 具合が悪い人が来たら早退させて。
藤原 わたしも。具合悪いんですけど。
先生 あんたはだめ。
藤原 そうだよね。
先生 あんたは早退できないじゃない。もう。
藤原 そうだね。
先生 じゃ、頼むよ。


  先生、出ていく。

藤原 実はもう一枚ある。


  藤原、クッキーの缶の緩衝剤を取り、つぶし出す。

藤原 ああ、やすらぐわあ。


  山本入ってくる。

山本 あの。
藤原 わ!
山本 あのね。
藤原 脅かさないでよ!
山本 先生は。
藤原 急な仕事。
山本 そうですか。
藤原 またどっか怪我したの。
山本 あの、足首をひねって。
藤原 ねんざ?
山本 ねんざです。というよりもねんざしたことにしました。
藤原 そんなに練習がいやならやめればいいじゃん!
山本 なにしてるんですか。
藤原 これ?
山本 うん。
藤原 なんでもないよ。つぶしてるんだよ。
山本 つぶす?つぶしてどうするの。
藤原 どうもしないよ。
山本 どうもしないことないよね。
藤原 いいじゃないですか。
山本 別にいいけど。
藤原
山本 あ、今そこ飛ばしたでしょ。
藤原
山本 すみません、そういうのこだわるたちで。


  藤原、握りつぶして一気につぶす。

山本 あー!
藤原 うるさいよ!
山本 なんてことするんですか!
藤原 見ないでよ。
山本 あ、見てたからですか。
藤原 だから。
山本 待っててください。


  山本出ていく。

藤原 さて、あれはなんでしょう。


  山本入ってくる。プチプチシートを抱えて。

山本 どうぞ!
藤原 なに!
山本 使ってください。
藤原 そういうもんじゃないでしょう。
山本 だってこれだけあれば相当やすらぐんじゃないですか?
藤原 違うって。
山本 遠慮しないでいいですよ。癒されてください。
藤原 違うんだけどなあ。
山本 それで、ちょっと話聞いてもらえませんか。
藤原 聞きたくないです。
山本 はは、うまいですね。
藤原 え?
山本 それはさておき、実はですね。
藤原 は?
山本 脚本書いたんですよね。
藤原 はいはい。
山本 読んでくれませんか。
藤原 えー。
山本 ほら、ちゃんと演劇やってる人に見てもらいたいんですよね。
藤原 演劇部はいればいいじゃん。
山本 演劇部とか入ってるなんてはずかしいじゃないですか、なんか。
藤原 けんか売ってるの?
山本 え、どうして?
藤原 分かった。
山本 漂流日記っていうんですけどね。
藤原 先生に見てもらえば。
山本 ここの?
藤原 やってたんだよ、演劇。
山本 へえ。



  先生、入ってくる。

藤原 先生、あのね、この人が。
先生 ちょっと待って。


  先生、冷凍庫からタバコを出す。

藤原 先生、保健室でタバコはまずいですよ。
先生 あ、ちょっとショックが大きくて。


  タバコをしまう。

先生 なんで11号が入らないんだろう。
藤原 え?
先生 なんでもない。
藤原 洋服どうだったんですか?
先生 ちょっと趣味が合わなくて。
藤原 趣味が合わなくて、ですか。
先生 うん。
藤原 この人、話あるんですって。
先生 何。
山本 先生、僕の脚本見てもらえませんか。
先生 なにいきなり。
山本 脚本書いたんですけど、どんなもんかなと。
先生 めんどくさい。
山本 読んでくださいよ。
先生 なんでわたしが読むのよ。
山本 演劇やってた人の意見が聞きたいんです。
先生 藤原!
藤原 いいじゃん。
山本 先生、やっぱり裏方ですか。
先生 なんですぐ裏方って言う!
山本 あ、演出ですか。
先生 役者って言えないのか!
山本 え?役者ですか?
先生 ですかって言うな!
藤原 その滑舌で役者ですか。
先生 自分だってそのガラスののどで役者だろう。
山本 あの。脚本読んでもらえますか。
先生 読むよりやってみれば。
山本 えー、やるんですかあ、人前でやるのはじめてなんですよね。あのね、漂流しちゃうんですよね。
先生 だれが。
山本 ぼくが。
先生 へえ。
山本 あ。ぼくって言うより主人公が。
藤原 つまんなそう。
山本 じゃ、やります。「漂流日記」
藤原 ジャジャンジャジャンジャンジャン!
山本 あの、ショートコントじゃないんだからやめてくれませんか
藤原 じゃなんなの。
山本 演劇ですよ。
藤原 コントのほうがいい。コントにして。
山本 演劇です。あ。そうだ。ちょっと待ってもらえますか。
藤原 今度は何。
山本 すぐ、すぐですから。


  出て行く山本。

先生 なんだ?
藤原 もういいよ。
先生 これ台本?汚い字。
藤原 なんかなあ。
先生 漂流かあ。どうする、無人島行ったら。
藤原 何持ってくってやつですか。
先生 それでもいいからさあ。
藤原 先生だったら何持ってく?
先生 タバコ。
藤原 酒じゃないんですか。
先生 あ。
藤原 どっちとるんですか。
先生 うーん。
藤原 そんなに真剣に悩まなくていいじゃないですか。
先生 うーん。
藤原 いつまで悩んでるんですか!


  山本入ってくる。

山本 お待たせしました。
藤原 来なくていいのに。
先生 野球部はどうでもいいな。
山本 もう決めました。演劇やります。
先生 はいはい。
山本 じゃ、見てください。


  山本、木を持ち込む。

先生 なに。
藤原 作り物っぽいね。これ。
山本 ちょっと南国っぽいかな。
藤原 ゆれるよ。
山本 まあ、これくらいは。
藤原 これくらいって思う気持ちが危ないんだよ。
山本 じゃ、やります。


  山本、一人芝居。

山本 無人島かあ。
藤原 自分で言うか。
山本 ヨットなんか乗らなきゃよかった。
藤原 説明的だなあ。
山本 あの、黙っててくれませんか。
藤原 いいからやってよ。
山本 静かにしててください。
藤原 だからなんでこんなのにつきあわなきゃいけないの?
先生 いや、ここは黙って見てよう。
山本 じゃ、やりますよ。
藤原 はいはい。
山本 ここで落ち着いて考えてみよう。どうしてこんなことになったのかなあ。焦ってもしょうがない。仮に、そう仮に、無人島に流れ着いたとしてだな。うーんと無人島に流れ着いた人の気持ちになって考えてみよう。わからねえなあ。おれ、無人島に流れ着いたことないから分からないよ。
仮に、ここが無人島だとしてね。仮にだよ。あくまで仮に。
はあ。いくら否定してもここは無人島だよ。
無人島だ。
無人島に来ちゃったよ。
無人島に来た人の気持ちってこんなだったのか。
ヨットなんか乗らなきゃよかったなあ。
海なんか嫌いだったんだよ。本当は。


  サルだ。サルがいる。サル?



  電話。
  先生が出る。

先生 はい。あ、教頭先生。
山本 サルがいるってことは、食い物はあるってことだよな。
先生 危機管理?
山本 サルの食い物だけど。
先生 動物にかまれたらどうするか、ですか?
山本 サルと同じ食い物か。
先生 そんなことあるんですか?仮定の話?仮定すぎますよ。
山本 サルとおなじ暮らしすれば少なくとも生きていけるってことか。サル並か
先生 サル?サルにかまれた?
山本 サルにかまれたらどうしよう。
先生 どうしようっていったって、サルにかまれた生徒なんて見たことないですよ。
山本 サルにかまれた生徒があ、え?
先生 え?サルじゃない?
山本 あの、電話あとにしてくれませんか。
先生 あ、ちょっと急病の生徒が、あ、大丈夫?きゃー大変。


  先生電話を切る。

藤原 (先生に)いいの?
先生 いいのいいの。続けて。
山本 ちょっと深呼吸させてください。じゃ、いきます。
贅沢は言ってられないよな。
生きていければいいか。
あー退屈。退屈。退屈?鯛くる。鯛くる?たいくるたいくるるるるるるる。たいたいたいたいくつくつくつくつ。たいたいくつくつたいたいたい。
たーたーたーたいーいーいーいー。くーくーくーくー。つーつーつーつー。つーつーつー?つーつーつーつーつーとんとんとん。つーとんとんつー。つーとんつーとんつーつーつー。こうやって口でモールス信号のまねしてたらだれか受信してくれないかな。これだけ科学が進んでるんだからこれくらいできるだろ。
われながらばかばかしいな。
ばかばかしいなっと。
ばかばかばかばかばか。ぼくってばか。ばくってぼか。ばくってぼかぼか。ぼかぼかぼかぼか。ボカジュニアってサッカーチームあったよな。イタリア?セリエA?違うよな。アルゼンチンだ!
さてここで問題です。ボカジュニアはどこの国のサッカーチームでしょうか。えーと、アルゼンチン。ピンポンピンポンピンポーン!正解です!賞金11億円はあなたのものです!なぜ11億円なんだ!11億円あったらいいよなあ。11億円あったら何しようかな。税金いくらかな。ここは計算しやすいように無税ということにしようか。えーと土地だね、まず。2億円ぐらい使っちゃおうかな。家が1億円。1億っていったら結構すごいよ。これで3億。使いであるなあ11億って。なんかうれしくなるよね。なんかさあ趣味だよね趣味に使えばいいんだよ。おれの趣味は、と。あーないよ。趣味。マンガ読むくらいだよ。コミックスで1億円くらい使えないかな。無理だな。趣味かあ、趣味つくっとけばよかったな。あ、あった。宝くじ!宝くじ買ってたなあ。そうだよサマージャンボ買えなかったよ。ここ売り場ないから。よーし、ここは宝くじ1億円くらい買うか。1億円買えば当たるぞ。残り七億か。待てよ。七億円あるのに宝くじ買ってもしょうがないな。
あーなんに使えばいいんだろ。困ったな。最近こんなに困ったことないな。うーんと。
あ!別荘だよ。週末は自然の中で過ごす。いいなあ。やっぱり人間はさ、自然の中で生きるのがいいんだよ。別荘買おう別荘。どこにするかな。清里?今さら清里もないな。ミルクでカレー食べるっていうわけいかないもんな。軽井沢もなあ、作家じゃないんだから。伊豆かあ。温泉付きの別荘とか。ちょっとスケール小さいな。海外でもいいんだよ。七億もあるんだから。ビーチだな。ビーチ。ビーチ付きの別荘。朝起きたらそのまま海行くのよ。あ、分かった。すごい。おれすごい。島だよ。ひとつ島買っちゃえばいいんだよ。人なんかいないよ。誰もいないの。いいなあ。島でのんびり。おれひとり。そういう暮らし、いいなあ。優雅だよね。あーあ、そういう身分になりたいね。今の自分と比べると悲しくなっちゃう。隆一、悲しい。
なんか、少し時間つぶせたかな。
あーあ、退屈だな。帰りたいなあ。もうこんなところいやだよ。
もし帰れたら、もう二度とこんなところ来るもんか。
さあ、ピッチャー山本、おおきくふりかぶって第一球、投げました。外角低め146キロの直球が見事に決まりました。バッターカブレラ手が出ません。
山本第2球です。振りかぶって、お、どうしたことでしょう。投げません。肩を押さえています。肩を痛めたのでしょうか。
わたくし山本隆一は本日、肩の故障のため、現役を引退することを決意しました。今まで応援してくださったファンの皆様に、うっ、すみません、柄にもなく涙が、心よりお礼申し上げます。これからは裏側から野球界に貢献できるよう、第二の人生を歩んで行きたいと思います。
わあ、今日一日、野球で過ごそうと思ったのにもう、引退しちゃった。
ここまでなんですけど。
先生 これは演劇?
藤原 ていうか妄想?
山本 結構自信あるんですけど。
藤原 これが演劇なら、いままでわたしがしてたことはなに?
先生 いいんじゃない、こういうのも。
山本 そうですか? 
藤原 そうですかあ。
先生 なにしてもいいんだよ。
藤原 よくないよ、なんか。ぶつぶつ言ってるだけじゃん。
山本 ぶつぶつじゃないよ。
藤原 ぶつぶつだよ。
山本 じゃ、どういうのがいいんだよ!
先生 そこんとこ、わたしも聞きたい。
藤原 先生までなに言ってるんですか。
先生 なんかしたいことあるんでしょ。
藤原 あるよ。
先生 やればいいんだよ。
藤原 やれないよ、一人じゃ。
先生 この人はやってるじゃん。
藤原 やってるて言ったってさあ。
先生 結局自分は何もしてないで違う違うって言ってさあ。
藤原
先生 演劇部戻ればいいんだよ。素直に。
藤原 やだよ。
先生 勉強はできないし、他に何もないでしょう。今の部活がいやなら何でも好きなふうにやってみればいいじゃない。みんなにきちんと話してみたら?
藤原 先生。
先生 うっ。苦しい。
藤原 え?
山本 どうしたんですか?
先生 苦しい。息ができない。
藤原 先生、先生。ちょっと水、水。
山本 コーヒーでもいいですか?
藤原 いいから早く。


  山本、コーヒーを渡す。

藤原 先生、飲んで。
先生 ふー、ふー。


  先生、コーヒーを飲む。

先生 あー、苦しかった。
藤原 どうしたんですか。
先生 今、しゃべってたら急に苦しくなって。
藤原 大丈夫ですか。
先生 原因は分かっている。
藤原 めずらしくまじめに話し出すから感心して聞いてたんですけど。
先生 それだ。
藤原 え?
先生 まじめに話をすると苦しくなるんだ。昔から。
藤原 何ですか、それ。
先生 ていうか、かっこいい台詞を言うとダメなんだな。なんか頭のこっち側で「何言ってんだこいつ」って声が聞こえてきて。「なにかっこつけてんだこの酔っぱらいが!」とか。
藤原 まじめな話はできないんですか!
先生 うん。
藤原 それじゃ先生できないじゃないですか!
先生 それがなんとか勤まるんだな。
山本 そんなもんなんですか。
藤原 そういえば先生のまともな話聞いたことない。
ところで。
藤原 なに。
山本 ぼくの芝居はどうだったんですか?
先生 まともな感想言うと苦しくなるから言わない。
山本 先生、演劇やってたんでしょう。
藤原 そーうだよーん。
山本 返事くらいまともにしてもいいでしょう。
藤原 まじめな台詞もあったでしょう。
先生 まじめな台詞を言うと必ず倒れてました。
藤原 あのねえ。
先生 漂流日記ってトム・ハンクスの映画のパクリでしょう。
山本 違いますよ!
先生 一人芝居は難しいよね。それより藤原!
藤原 え?
先生 いいからなにやりたいか考えてきなさい!そうだ、脚本書いてこい!
藤原 えー。
先生 まだ大会の脚本決まってないんだろ。
藤原 そうですけど。
先生 よかったら大会の脚本に採用する。それで自分の好きなように演出しなさい。
藤原 顧問でもないのに何でそんなことができるんですか。
先生 顧問に頼んでやる。
藤原 え?
先生 顧問はあたしの言うこと何でも聞くから。
藤原 弱みでも握ってんですか?
先生 まあな。
山本 すごいやつですか?
先生 まあな。
山本 おー、ほんとにすごそうだ。
先生 それでみんなに自分のやりたいこと見せればいいじゃん。
藤原 うん。
先生 分かった?演劇があなたの生き甲斐なんでしょ。がんばろうよ。う!
藤原 うん。
先生 分かった?演劇があなたの生き甲斐なんでしょ。がんばろうよ。う!
山本 先生!
藤原 まじめなこと言うから!
先生 あー、危なかった。
藤原 あの、わたしも、先生と同じなんです。
山本 藤原さんも倒れるんですか?
藤原 倒れないよ。そういうの、ダメなんだよ。
先生 うん。
山本 なんですか。
先生 うまく言えないけど、こういうの。例えば、先生の話聞いて。
先生 はい。
藤原 「分かった」ってっ台詞あるとするじゃないですか。
先生 先生
藤原 うちのクラブみんなこうやるんですよ。「分かった」
先生 先生
藤原 苦しい!
藤原 大丈夫ですか。
先生 分かった。ちょっと山本くん。
山本 はい。
先生 ちょっと台詞言って。あたしがね、「いい、がんばるのよ」って言うから。
藤原 そんなこと言って体の方は大丈夫ですか。
先生 大丈夫、心を込めて言わないから。いい、行くよ。「いい、がんばるのよ」
山本 分かった!
藤原 まだそれの方がいい。
先生 演出で直せば。
藤原 直るかなあ。まだあるんです。なんか、好きだ、とか、振られた、とか、片思いだとかそんなことばかりやりたがって。
先生 なるほど。
藤原 あと、妖精とか吸血鬼とか。
先生 オタの群れか。
藤原 そうなんですよ。
先生 分かった分かった。明日までに脚本書いて一人芝居の。
藤原 えー!
山本 そうですよ。見せてくださいよ。
藤原 先生がやるんならやります。
先生 え!
藤原 先生がやってください。何年も舞台に立ってたんでしょう。見本見せてください。
山本 ぼくも見たいです。
先生 こういう展開ですか。
藤原 先生がやるんならわたしもやる
先生 いいですよ、やりましょう。分かりました。テーマは無人島ね。
藤原 いいですよ。
先生 あたしの方がよかったらあんたは部活に戻る。
藤原 先生はどうしてあたしを部活に戻したいんですか。
先生 あんたはあたしのお菓子を食べる。あと、プチプチシートをつぶす。
山本 どうしてみんなプチプチシートが好きなんですか?
先生 嫌いな人がいるなんて信じられない。
山本 なるほど。


  山本、出て行く。

藤原 なんだ?
先生 さてと、どうしようかな。
藤原 先生、もう考えてるんですか。
先生 久しぶりだな。


  山本大量のプチプチシートを抱えて入ってくる。

山本 はい、どうぞ!


  ふたり猛然とつぶし出す。
  音楽
  暗転

  先生の一人芝居

先生 毎日毎日擦り傷の消毒。または腹痛の薬を出す。
帰りに教頭へ保健日誌を出し、たまに忘れる変化のない日常。
そう、ちょっとした冒険のつもりだった。
海が見たかった。わたしは旅に出た。熱海だった。
そう、お宮になったつもりで、砂浜に倒れたわたし。
ちょっとまじめな気分になったらすぐ倒れることができた。
二月の砂浜。わたしはコートを脱いで、海に飛び込んだ。
わたしは泳いだ。三日間泳いで、この島について、はじめに思ったことは。
そう、コートを熱海に置いてきてしまった。
藤原 先生、くだらなすぎます。
先生 ふざけてないと命が危ないんだよ。
藤原 どうぞ続けてください。
先生 無人島での日々。
おなかが空くとバナナの木からバナナを取って、そしてバナナを食べた。
わたしは自由だった。
なぜなら教頭からの電話がなかったから。無人島にかけてくるほど彼は勤勉ではない。
そう、わたしは教頭からの電話を逃れて…


  電話。

先生 だからわたしは…もう!出てよ!
藤原 いいんですか?


  藤原、電話に出る。

藤原 もしもし、教頭先生?
先生 またか。
藤原 あの、千葉先生は今、ちょっと。あの、手が離せなくて。いえ、怪我人じゃないんですけど。はい、はい。あの、お芝居の…
先生 怪我人とか病人とか言えばいいじゃん!ちょっと替わって。


  先生、電話に出る。

先生 替わりました。千葉です。え?いじめ?いじめてないですよ、わたしは。生徒なんて。違う?いじめの相談を受けたこと?ないです。そんな相談受けてまじめな話したら、わたしの命が。え?生徒の命ではありません。


  生徒、入ってくる。

生徒 あのー。
先生 ちょっと待ってて!
生徒 あの気分が…
先生 あ、先生今急病人が!キャー、あなた大丈夫?まあ大変!これはえーと伝染病だわ!
生徒 え!
先生 えーと、じゃ切りますね。
生徒 え!だれが伝染病なんですか!
先生 あなた…じゃないよね。(藤原を指して)この人!
藤原 えー!
先生 そうよあなたは法定伝染病。(生徒に)そこから一歩でも入るとあなたも感染するわ!ダメ!入っちゃダメ!
生徒 どうしたんですか。
藤原 私たち隔離されてるの。
山本 え?
藤原 法定伝染病の疑いがあって、ここに入れられてるの。
生徒 伝染病!
先生 そう!伝染病なの。ごほごほ。
藤原 そこから一歩でも入るとあなたも感染するわ。
先生 もうすぐ救急車が来るの。校門まで行ってる。
藤原 う!
山本 え?ホントですか?


  藤原、山本を蹴飛ばす。

山本 う!
藤原 大丈夫!
山本 苦しい…
藤原 もう少しで助けが来るわ。がんばって。
生徒 あの、わたし、なにかできることがあったら。
先生 入っちゃダメ!
生徒 でも!
先生 あなたの気持ちはありがたいわ。でもあなたまで感染してしまうのよ。
藤原 早く。帰って。
生徒 はい。
先生 そうだ。大丈夫だと思うけど、もし、三日たって、咳が出始めたら。
生徒 はい。
先生 誰にも言わないですぐに保健室に来て。
生徒 あい。


  出ていく生徒。

藤原 誰にも言わないですぐに保健室に来て。
先生 あい。


  笑い転げる二人。

先生 あい。
藤原 あいってなに!
先生 あい。
藤原 悪者!
先生 自分こそ。
藤原 かわいそうじゃん、具合悪いのに。
先生 これから三日間気が気じゃないよね。
藤原 泣きそうだったよ。
先生 絶対助かりますから。とか言って。なんか根拠あるのかな。
藤原 入っちゃダメ。あなたにまで感染してしまうのよ、とか言って。
先生 なにが感染するのかな。バカ病。
藤原 保健室入り浸り病。
先生 保健室お菓子食いまくり病。
藤原 プチプチシート中毒。
山本 こんなことして、いいんですか。
先生 あーやってしまった。また教頭に怒られる。
藤原 大丈夫、あの子絶対誰にも言わない。
先生 そうかな。
藤原 うん。
先生 じゃ、いいか。
山本 ホントっすか!
藤原 続けましょう。どうにかなりますって。
先生 そう、今大切なことはこのときを大切にすること。
この時間以上に生きていることを確かめられる時間はなかった。オキシドールとバンドエイドの毎日を送っていたわたしにとって。
無人島なのになぜか、酒とタバコには不自由しなかった。なぜだろう。なぜかというと、という説明はわたしにはできない。
なぜなら分からなかったから。
ふと、今までの毎日を振り返る。学校に行って傷の消毒をして、うちに帰って飲む。
学校に行って腹痛の薬を出して、うちに帰って飲む。ときどき教頭と言い合いをする。こんな毎日だった。恋愛もできない。まじめなことを考えると倒れるからだ。もちろん理由はほかにもある。そんなことは人に言われなくても分かっている。こんなことでいいのだろうか。本当にこんなことでいいのだろうか。えー本当にこのまま年取っちゃうの?嘘!


  先生、倒れる。

藤原 先生、先生!
山本 どうして今のがまじめなんだ!


  暗転
  音楽

  藤原の一人芝居。
  藤原、後ろを向いている。

藤原 忘れ物あったよ。え、なんでもいいじゃん。傘?傘じゃないよ。それよりさあ、スパナと話したよ。スパナ、結構普通だった。話したら。なんでスパナって言うかというとお。
こないだ、帰り道にヨーカドーの前で、「すいません、スパナもってませんか」って。自転車壊れてて、直したいらしいんだけど。持ってるわけないじゃん。スパナなんて。それからスパナって。その彼のこと。変だね。スパナさあ、本とか読むんだって。国立行くつもりだって。でも、推薦も考えてるから、定期試験もがんばるんだって。天文部でさあ、今度、引退する前に最後の観測会に出るんだって。いいね。なんか、しゃべれた。おかしいね。今になってさあ、普通にしゃべれるようになった。
スパナ、いい人みたい。変かな。いきなりスパナだよ。ずっと話聞いてたんだ。わたしには話すことないし。スパナ、わたしのこと、好きかな?うん。そうかも。
話、したんだ。うん。千葉ちゃんだけだったじゃん。ずっと。なんか久しぶりに他の人と話した。できるんだ、わたし。話とか。ねえ。
千葉ちゃん。スプーン曲げれる?曲げれないか。曲げれたらいいと思わない?思わないか。曲げれたらいいのに。


  藤原、傘を開く。
  傘を差したまま椅子に座って。


忘れ物探しに行く途中で、傘見つけた。この傘はわたしの傘になったの。
ねえ、千葉ちゃん。お菓子ちょうだい。冷蔵庫?凍ったカントリーマァムが好き。音楽かけていい?
放課後に聞く音楽が好き。


  藤原、CDをセットする。
  音楽をかける。


CDデッキの一時停止ボタンの形が好き。ブラックで飲めるようになったコーヒーが好き。保健カードの空欄が好き。じっと観察してる千葉真由子が好き。


  藤原、立ち上がって、傘をくるくる回し出す。


伝染病を心配してくれる一年生が好き。保健室のこの回る椅子が好き。雨が降って渡り廊下でやる陸上部のダッシュ一〇本が好き。曲げれないスプーンが好き。心を癒すプチプチシートが好き。信長でホントはミロのミロが好き。
もう、ここに来ない。やめたから。学校。


  藤原、傘を奪い取り、投げる。


わたし、ここに、いない方がいい。もういい。ありがとう。先生、ありがとう。元気でね。


  藤原、かばんを取って帰る。


なに?傘?あげるよ。あのさあ。忘れ物?なんでもないよ。大事なもの?うん。
じゃ、行くからね。


  傘を取り、差したまま椅子に座る。

先生 無人島じゃ、ないじゃん。
藤原 ずるい?
先生 ずるい。
藤原 ごめん。
先生 やめる気だったんだ。
藤原 どうして?お芝居じゃん。
先生 嘘だ。
藤原 だってお芝居じゃん。
先生 こういうこと、したいんだ。
藤原 分かんないよ。
先生 そうだね。
藤原 ぜんぜん分かんない。こういうことしたいのかな。
先生 それ、けっこうみんなに分からせるの難しいかも。
藤原 そうだよね。でも。
先生 うん。
藤原 やってみようかな。
先生 がんばって。
藤原 いいの?
先生 なに?
藤原 そんなこと言って。倒れるよ。
先生 本心じゃないから。
藤原 へえ。
先生 山本くん、どうだった。
山本 うん。よかった。こういうの演劇っていうんだなって思った。
藤原 ホント?
先生 ほら、いいっていう人もいるからさ。
藤原 山本くんじゃなあ。
山本 言ったなあ。


  沈黙

藤原 なんだと!
山本 すみません!
藤原 そういうのがキライなんだ!二度とするな!
山本 はい!
藤原 おまえはいいから野球部に決着つけてこい!
山本 はい!


  出て行く山本。

藤原 まったく調子に乗って。


  生徒、中をのぞいている。
  先生、気づく。

先生 なんだ、さっきの子じゃん。どうしたの入れば。
生徒 あの、でも。
先生 なに。
生徒 救急車は?
先生 ま、細かいことは気にしないで。


  近寄って肩をたたく。

生徒 きゃー!
先生 なによ、失礼ね。


  逃げ帰る生徒。

藤原 先生。そりゃ逃げるよ。


  チャイム。

藤原 じゃ、行くよ。
先生 待って。
藤原 なに。
先生 カード、書いてって。
藤原 えー、いいじゃん。
先生 決まりだから。


  藤原、カードに記入。

藤原 ありがとうございました。
先生 うん。
藤原 先生。
先生 なに。
藤原 頑張るよ。
先生 うん。
藤原 うん。
先生 う。
藤原 あ、ごめん。
先生 ふざけて、早く。ふざけて。
藤原 急に言われても困るよ。えーと。


  藤原、ふざける。

先生 だまされた。
藤原 てめえ!
先生 じゃな。
藤原 ふん。


  出て行く藤原。
  カードを戻す先生。

先生 うえ。


  先生、傘を机に置き、ベッドに戻る。
  音楽

  終わり

平成十四年十一月二十日


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