クレタ島の謎〜南へ〜


キャスト

女1 山中
女2 山中の同級生

小野

先生
女3 山中の同級生

清水

隆志

友達

先輩



  学校。
  演劇部の練習場所。
  今までの公演で使った装置をとりあえず全部出して、並べてみた。
  雑然としているし、失敗した思い出が去来して考えがまとまらない。
  自分でもこれからどうしたらよいのか、どうしたいのか分からないが、さしあたって大会は迫っている。
  顧問はもちろん当てにならない。先輩が教えてくれたこと、これも元々正しいのかどうかも分からないし、当然正確に伝わっていない。
  何すればよいのか、なにが正しいのか、いったい本当に演劇をしたいのか、何でこんなこと始めたんだろうかと悔やむ日々。
  ト書きも混乱しているが、芝居がすっきり収まったらそれはもう別のもの。つまりここは至極まっとうな普通の演劇部だ。

  舞台、基本は大会前の演劇部。なお、登場人物の四人は時によって役柄が変わるが、そのきっかけは観客に示されたり示されなかったりする。
  また、基本的に演技そのものもあまり変える必要がない。うまくおばあちゃんらしいおばあちゃんを演じたからといってそれがなんになる!世間はおばあちゃんらしくないおばあちゃんでいっぱいだ。パターンで演技するのはやめましょう。ト書きだかなんだか分からなくなってきた。
  ついでに言うがあんまりト書きを信じない方がいいと思うよ。

  入学したばかりの同級生三人。
  列を作りステップを踏みながらその辺りを回っている。

女1 え!あなたも演劇部だったの?
女2 え!あなたも演劇部だったの?
女3 え!あなたも演劇部だったの?
女1 わたしも演劇部だったんだ。
女2 わたしも演劇部だったんだ。
女3 わたしも演劇部だったんだ。
女1 一緒に演劇部に入ろうか。
女2 一緒に演劇部に入ろうか。
女3 一緒に演劇部に入ろうか。
女1 入ろう入ろう!
女2 入ろう入ろう!
女3 入ろう入ろう!
女1 うん。がんばろうね。
女2 うん。がんばろうね。
女3 うん。がんばろうね。
女1 うんが、んばろ、うね。
女2 う、んがん、ばろう、ね。
女3 うんがん、ばろ、うね。
女1 が、う、ろば、うねん。
女2 がん、うん、ろ、ばね。
女3 ば、が、うん、ね、うろ。


  三人、ステップを踏みながら三方に散ってゆく。
  中央に女1。

女1 発声練習!外郎売り!
女2、3 はい!
女1 拙者親方と申すは…


  女2、3後れて続く。輪唱のように後を追う。高く低く調子を変えながら外郎売りを暗唱していく。
  女1、外郎売りをやめる。女2、3は外郎売りを続ける。

女1 みーんな、やめていきました。
とうとうわたし一人になりました。
一人でも演劇できるでしょうか。
そしてわたしは一人きりで毎日脚本書いています。
ところで。
クレタ人は嘘つきだとクレタ人は言った。果してクレタ人は嘘つきなんでしょうか。 正直なんでしょうか?
ところでクレタ島ってどこにあるんでしょう?
たとえば今こうして話していることが全てお芝居の台詞だったら?私は嘘つき?それとも正直者?
……
わたしは……私の口から出ることばはみーんな台詞なの。
お母さん、おはよう。
大丈夫よ。まだ早いじゃない。あ、あさごはんパンでなきゃやだっていってるじゃない。あー!おとうさん新聞持ってトイレに入ったらだめって言ってるでしょ!
え?今日?早く帰れる……と思う。演劇部の練習終わったらすぐ帰るから。え、言わなかったっけ。わたし、演劇部に入ったのよ。遊びなんかじゃないって。ちゃんとした部活よ。大丈夫。勉強のじゃまになんかならないから。じゃね、いってきます。
いってきます。(言い方を変えて)
いってきます。(言い方を変えて)
いってきます。(言い方を変えて)
いってきます。
なんて……言ったらいいのかしら。
脚本があればいいのに……ト書きのたくさん書いてある脚本があればいいの……私の一日がみんな書いてある脚本があればいいのに……全部台詞だったらいいのに……
私の手……
手が動く……どうして?


  女1体の前で手を動かす。

私の声……
私の嫌いな私の声……


  女1、「外郎売り」を始める。

女2、3 山中さん。


  二人、呼びつづけ、次第に声を落とす。

女1 台詞でないと……話ができない!


  女1、阿波踊りを踊り出す。(無音のまま)
  女3、カセットデッキを背負う。
  女2、3続けて阿波踊りを踊る。(無音のまま)
  カセットデッキから阿波踊りが鳴り出す。

女2 先輩、恥ずかしいです。(踊りながら)
女1 これを克服しなきゃ大会に出られないのよ!ほら!もっと楽しそうに踊りなさいよ!(踊りながら)
女3 あのー。(踊りながら)
女1 何よ! (踊りながら)
女3 別に、いやってわけじゃないんですけど……
女1 もごもご言ってないではっきりしなさいよ。
女3 これが演劇とどういう関係があるんでしょうか。


  音楽にまぎれてよく聞こえない。

女1 何?聞こえないわよ。
女3 だから、阿波踊りと演劇とどういう関係があるんでしょうか。
女1 ばかね、演劇やるんならね、この辺(自分の頭を指してどっか一本切れてなきゃできないのよ。羞恥心解放っていうちゃんとした演劇の練習なの!
女2 先輩の場合は羞恥心抑制した方がいいと思います。
女1 何?
女2 なんでもありません。
女1 あんた一年もやっててまだわかんないの?だから毎年予選落ちなの!
男1 だからって踊りながら体育館の真ん中横切ることはないじゃないですか!バスケ部怒ってましたよ。
女1 注目されるのはいいことよ。
男1 こういう注目のされかたいやだよ、おれ。
女1 ぶつぶつ言ってないで!ほら!
男1 あ、先輩どっち行くんですか!そっちは……
女1 つべこべ言ってないで!ほら!行くわよ!


  山中、踊りながら歩いていく。
  二人も踊りながら後を付いていく。

女2 先輩!どこに行くんですか!


  女1、下手に去る。

女3 先輩。
女2 何。
女3 そう言いながらも踊るのやめないんですね。
女2 そうなんだよね。


  女2、3下手に退場。音楽F.O
  女1登場。

女1 あのー、すいませーん。ここで練習してるって聞いたのになあ。演劇部かあ。私が演劇部に入ったって言ったらみんな驚くかなあ。あの……入部したいんですけど……(言い方を変えて)入部したいんですけど。なんて言えばいいのかしら。普通に、かるく言えばいいのよ。あー、入部したいんですけど。あー、あー、ああ。どうして自然に言えないんだろう。この「どうして自然に言えないんだろう」っていうのも全然自然じゃない。入部、よね。入部入部入部にゅうぶにゅうぶぶにゅ。わーわたし何言ってんだろ。第一印象が大切なのよね。あのー入部したいんですけど……あっ、来た!


  男1登場。
  女1、とっさに物陰に隠れる。

女1 (小声で自分に)なんで隠れるのよ!
男1 また、断られたよ。今年の一年ガードが固いわ。いいや、練習しよ、練習って、おい、帰っちゃったの?みんな?やる気あんのかよ。だめ、あいつらあてになんない。どこかにいないかなあ。パアっと明るくて、口跡がよくて、後から後から言葉が出てくるような子。せっかく演劇同好会が5年ぶりに活動再開したっていうのになあ。新入部員入れないと部になる前に廃部になっちゃいますよー。


  女1あわてて出て来る。

女1 あの。
男1 はい。
女1 わたし……
男1 なに?
女1 ぶにゅ。
男1 ぶにゅ?
女1 いえあの、にゅうううう……
男1 にゅうううう?入部したいの?
女1 すいません……
男1 謝ることはないんだけど。新入部員、大歓迎だよ。本当にイメージ……ぴったり。
女1 すいません。
男1 一年生?
女1 はい。
男1 今日はこのとおり、みんな帰っちゃって。もう終わりにしようと思ってたんだけど。
女1 すいません。じゃ、また来ます。
男1 あ、また来ますって言って来ないつもりじゃないだろうな。
女1 ……
男1 いや、みんな「じゃ、また来ます」って言ってそれっきりなんだよ。
女1 ……
男1 疑ってるわけじゃないけどさあ。
女1 ……
男1 いや、君がそうだっていうわけじゃないんだけど……
女1 ……
男1 ずいぶん、おとなしいのね。
女1 ……
男1 どうして、演劇部に入ろうと思ったの?
女1 ……
男1 いや、ずいぶんおとなしいからさあ、あんまりおとなしくって人前で話すのが苦手って人、入って来ないからどうしたのかなって。
女1 ……
男1 そうかあ、そういう内気な性格をなんとかしようって。それで演劇部に入ろうと。よーしわかった。ここはお兄さんが一肌脱ぎましょう。
女1 あの……
男1 だいじょうぶ。一日で直してあげる。待ってて。


  男3、カセットデッキを取ってくる。

男1 さあ。これが君の内気を直す魔法の機械だ。
女1 ……
男1 何に見える?
女1 カセットデッキ。
男1 ほう。君はなかなか筋がいい。
女1 でも、どうしてこんな所にひもがあるんですか?
男1 これかい?これはね、こうして……


  男1、女1の背中にカセットデッキを背負わせる。

男1 これが出来ればもう明るい人生が君を待っているからね。


  スイッチを入れると阿波踊りの音楽。

女1 あの、これ……
男1 知らないの?阿波踊り。
女1 それは知ってますけど……
男1 ほら、こうしてね。


  二人で阿波踊りを踊りだす。

男1 面白いでしょう。
女1 ……
男1 じゃ、付いてきて。
女1 あの、外に出るんですか。
男1 うん。いいからいいから。
女1 あの、そっちは職員室が……
男1 いいからいいから。
女1 あの……


  踊りながら外に出ていく二人。
  音楽F.O
  女1、2、3登場

女2 何で職員室に行くんですか!
女1 しょうがないでしょ!度胸つける練習なんだから!演劇部の伝統よ。
女2 どうして今日に限ってあんなにたくさん先生がいたんだろう。
女1 つべこべ言ってないで次やるわよ。
女2 先輩はいいですよ。もう大学あきらめてるんだから。私は違うんだって何回言ったら分かってくれるんですか。私は指定校推薦ねらってるんですからね。変な印象もたれたくないんですよ。
女1 指定校は無理よ。
女2 どうしてですか!
女1 演劇部だからよ。


  愕然とする女2。

女3 いいじゃないですか。なんとかなりますよ、大学くらい。
女2 君は気楽に言うけどね。
女2 なに?
女3 指定校ってどうすればもらえるんですか?
女1 停学あるとダメね。
女3 職員室で踊ると停学でしょうか。
女1 さあ?


  3人ストレッチをしながら

女2 こんなことやってたら部員も来ないし新入部員も入りませんよ。
女1 今日はみんなどうしたの。
女2 今日も、でしょう。鈴木さんがかぜ。
女1 うん。
女2 佐藤さんは補講。進藤さんが法事です。
女1 また法事!一年に何回法事あるのあの家は!
女2 親戚が多いそうです。
女1 次の大会に何をやるかというより、次の大会に出られるか、が問題だ。
女2 どうしてこんなことになっちゃったんでしょうね。
女1 落ちたっつって泣いてた頃が懐かしいね。
女2 賞とかはともかく出ないと。
女1 わたしね。
女2 うん。
女1 けっこう、おだてられるの好き。それからね、意外とちやほやされるの好き。ほめられるのも好き。賞賛されるのも好き。
女2 じゃあそうなるようにがんばりましょうよ。
女1 だから。いいからほめて。私を。もうなんもかんも私のとこへ持ってきて!だれか変わってよ!部長を!
女2 先輩落ち着いて。
女1 来ない人はなんなのよ!
女2 一年生もたくさん入ったし。
女3 一年生ならやめました。
女1 聞いてないよ。
女3 やめるからあとよろしくって。
女2 こんなことするからやめるんですよ!
女1 そうかなあ。しなくてもやめる人はやめる。
女2 先輩の学年一人ですね。
女1 うん。
女2 最初から一人ですか。
女3 どうしたんですか。
女1 3人。
女2 やめたんですか。
女3 阿波踊りですか?
女1 うん。
女2 でもこれだけになっちゃったら大会どうするんですか。
女1 部員なんて言うのは三人もいれば出来る。練習練習。始めよう
女2 また二人とか三人の芝居ですか。脚本がないんですよね。
女1 創作でいいじゃない。
女2 誰が書くんですか?
女1 しょうがない。書くか。わたし台本書く。
女2 でもなあ去年なあ。
女3 どうしたんですか。
女2 山中さんの脚本で去年落とされたから。あの人ねえ。
女3 何ですか?
女2 オリジナリティないから。
女3 はあ。
女2 なんかのマネになっちゃうの。でもねえ、マネしようと思ってもホンモノ見たことないから。ここの生まれ育ちでしょ。
女3 よく分かります。この田舎じゃね。わたしも見たことありません。
女2 わたしも。
女1 あのね。昔ある女優がね。
女3 はい。
女1 レストランのメニュー朗読しただけで人々の涙を誘ったという。
女2 はい。
女1 これこそ演劇!台詞の意味に頼っちゃだめ。台詞はいらない!感情表現の練習!
女2、3 はい!
女1 メニュー持ってきて!
女2 はい!どうぞ!
女1 南大門…よーいハイ!
女2 くっぱ。ゆっけ。はらみ。
女3 みの。せんまい。さんちゅ。
女2 びびんば。
女3 きむち。おいきむち。
女2 かくてき。
女3 かるび。
女1 これ、演劇かな?
女3 肩、凝りますね。
女2 あの、先輩。
女1 なに?
女2 普通ね、こんなに感情むき出しにすることってないですよ。
女1 ないよね。
女3 だって演劇だから。お芝居でしょ?
女2 笑うとか、泣くとか、怒るとか。
女1 なに?
女2 あのね、笑ってみる、とか、泣いてみるとか、怒ってみるとか、そういう感じ。いつも。
女3 そうかなあ。
女1 感情、ってだめかなあ。
女3 感情ですよ。
女2 感情ですか?
女1 パラパラッパパー。
女3 ドラえもんですか。
女1 (ドラえもんのまねで)静かな演劇。
女3 なんすかそれ。
女1 流行ってるの。
女3 本当すか。
女2 どんなの、それ。
女1 なんか、静かだって。
女2 ふーん。
女3 あ…
女1 え…
女2 あの…
女3 えーと…
女2 なに?
女3 あ、どうぞ。
女1 がー!やめよう!
女2 疲れますね、これ。
女3 逆に。
女2 別の意味で。
女1 ある種。
女3 わたしたちはどこへ行くんでしょうねえ。
女2 こんなさあ、なに風なに風ってやってみても本当に私たちの芝居できるんですか?
女1 うん…
女2 もうあんまり考えないで普通のことやりましょうよ。
女1 普通ってなに。
女2 普通は普通ですよ。
女1 普通ってなに。
女2 普通じゃないことをしないことですよ。
女3 あの、他の学校じゃ顧問の先生が脚本書くこと多いんでしょ。
女1 多いわけじゃないけどあるよ。
女3 書いてもらえば?
女1 誰に?
女3 顧問の先生に。
女1 やだよ。
女2 あの人、書けるんですか?
女3 こないだ読みましたよ。
女1 なにを?
女3 先生の脚本。
女1 いつ?
女3 先輩いなかったとき、部活で。先生来て。
女1 あの人になんか教わったの!
女2 嘘だよね。ね、清水、嘘だって言っときな!
女3 どうして?
女1 あの女、また始めたか。
女3 どうしてそんなに嫌がるんですか。
女1 クサイんだ。とにかく。顧問の脚本は。あの人に教わるとみんな変になっちゃうの。
女3 変ってどういうふうにですか?


  女2、先生になる。その場でいきなり変わる。

女2 あんた。新入部員って、あんた?
女3 はい。先生。
女2 名前。
女3 はい?
女2 名前言うの。
女3 あ、清水です。
女2 「あしみず」さん。どんな字書くの?輿水さんとか岩清水さんとかは知ってるけど「あしみず」さんていうのはめずらしいわね。
女3 あの、清水です。
女2 「あのしみず」さんなの?「あしみず」さんじゃなくて、「あのしみず」さんなのね。
女3 いいえ、そうじゃなくて。
女2 分かってるって。冗談よ。こういう冗談も言える面白い人、私は。
女3 はい。
女2 演劇の経験あるの?
女3 いいえ。
女2 あ、そうなの。じゃやってみて。見てあげる。
女3 えーと、何を……
女2 これね、私が書いた台本。
女3 はい。
女2 やってみて。けっこう面白いの。こういう面白い台本も書ける人、私は。
女3 (女2に向かって)私、坂本ひとみ。高校二年生の女の子。
女2 何やってるの。
女3 はい。
女2 ここは劇の始まりなんだから。
女3 はい。
女2 客席のほう向いて、言うのよ。
女3 は?
女2 ここ、自己紹介だから。元気良く。
女3 はい。
女2 こうよ。「私、坂本ひとみ!高校二年生の女の子!」
女1 どうして観客に向かって言う!
女2 どう?こうやって大きい声できちんとした演技もできる人、私は。演劇はね、遠くの方から見る人もいるんだから。声も演技ももっと大きく。
女1 だからって、こんなこと道の真ん中で言うやついない!
女2 「え?ここで何をしているのかって?」
女1 おい、幻聴が聞こえるのか?だれもなにもしゃべってないぞ。
女2 「私の大好きな隆志くんに今日こそこの手紙渡そうと思うの。」
女1 こんな説明的な台詞今まで聞いたことない。「渡る世間」より説明的。
女2 「隆志君、私の気持ち分かってくれるかしら。」
女1 どうしてそんなに手を使う!ジェスチャーじゃないんだから。
女2 「あ、隆志くんだ!」
女1 口に出して言うか!来たのは見れば分かる!
女3 「やあ、だれかと思えば同じクラスの坂本くんじゃないか。」
女1 今時の高校生じゃない!「やあ、だれかと思えば」父さんのコップかお前は!まして父さんのコップ自体誰も知らない!まして父さんのコップがお笑いスタ誕に出てた象さんのポットのパロディだってことは三〇台以上の物好きでなけりゃ誰も知らない!つまりこの会場で一人か二人しか知らない!(作者注ここはカットしてもいいです)だいたい普通「同じクラスの」ってわざわざ言うか?
女3 「どうしたの?こんなところで。だれか待ってるの?」
女1 なぜ台詞を言うとき一歩前へ出る?
女2 「あ、あの。こ、この手紙、よ、読んで、ほ、欲しいんだけど」
女1 なぜ焦ったときに最初の一文字を繰り返す?
女2 「隆志くん、受け取ってくれた。」暗転。


  暗転

女1 (暗転の中で)どうしてここで暗転がいるー!


  照明

女3 場面変わって教室。「ねえ、ひとみ、どうしたの?なんか心ここにないって感じ。」
女1 人の気持ちをあえて説明するやつ。
女2 「ううん、な、何でもないよ。隆志くん、返事くれるかしら」暗転。


  暗転

女1 また暗転かー!


  照明

女3 場面変わって放課後。
女1 おい、もう変わったのか?さっきの場面台詞二行だぞ!しかしけっこうそういう台本ある。
女2 「隆志くん、返事くれるかしら。」
女1 それはさっき言った!バラエティ番組のCM開けか!
女3 「坂本くん。」
女2 「隆志くん。」
女1 いいから早くしろー!しまった、なんかドキドキしてきた。
女3 「今朝の手紙のことだけど」
女2 「はい。」
女3 「気持ちはうれしいんだけど」
女1 ほとんど予想通りの展開。
女3 「ぼくには好きな人がいるんだ。」
女2 「え!バサ。」本を落とした音。


  女2、架空の本を落とす。

女1 なぜ驚いたとき、本を落とすー!


  音楽C.I。照明C.I

女1 あんまりと言えばあまりな音楽だ!しかもこの照明は何だ!
女2 「そ、そうだったの。」
女3 「ごめんね。」
女2 「いいの。でも、全然知らなかった。わたし、バカみたいね。」
女3 「そ、そんな」
女2 「笑っていいのよ。」
女1 はははははは。
女3 「じゃ、ぼくはこれで。」
女2 「こんなことになるなんて。」
女1 始まった!独り言。
女2 「どうして、気付かなかったんだろう。」
女1 どうして、首振ってしゃべるんだろう。
女2 「ああ、わたし、これからどうすればいいんだろう。」
女1 どうして悩むときに頭を抱える!
女3 「ひとみ、どうしたの暗い顔して」
女1 傷口に沁みる友達の無邪気な言葉。
女3 「そう言えばあなたの好きな隆志くん、あっちに歩いていったよ。チャンスだよ、告白する。」
女1 傷口を無理矢理こじ開ける友達の親切という名の暴力。
女2 「いいの!私のことはほっといて!」
女1 かけ出すひとみ。
女3 「あ!ひとみ!車が来る!」キキー!ガシャーン!
女2 キャー!(倒れる)


  ホリゾント・赤、シルエットに

女1 おーっとこういう展開か!ホリゾントこういう風に使うんじゃない!
女3 ファンファンファンファン。
女1 ピーポーピーポーじゃないのか!
女3 ピーポーピーポー。
女1 まさかそこに隆志来ないだろうな。
女3 「坂本くん!」
女1 来たよー!
女2 「隆志くん……」
女3 「大丈夫か!しっかりしろ!」
女1 それより救急車だろ。
女2 「私……」
女3 先生。このあとどうなるんですか?
女2 まだ書いてないのよ。でもね。
女3 先生!
女2 これから演劇の道を歩むあなたに教えてあげるわ。演劇とは人の心を伝えること。
女1 はい!充分伝わりました!
女2 そして、テーマは愛よ!
女1 愛よ愛よ愛よ……
女3 はい!
女2 いい……役者に……なるのよ……


  倒れる

女3 先生!先生!どうしたんですか?先生!
女2 私はもうダメ。不治の病に侵されているの。
女3 月影先生!
女2 マヤ……
女1 ガラスの仮面もいい加減に終われー!


  二人、立ち上がって

女2 いやあ、こういうのもいいですね。
女1 おい!本気か?
女3 えー!いけないんですかあ?
女2 先輩。素直になろうよ。いいじゃん、ドラマチックで。
女1 どこがいいのよ!ああいうクサイのイヤなの!賞取れないの。
女3 何ですか、賞って。
女2 大会よ。
女3 大会で賞もらえるんですか?
女1 コンテストだから。
女3 え?演劇なのにコンテストなんですか?
女1 演劇のコンテストはまずいの?
女3 誰が決めるんですか?
女2 審査員。
女3 だって好き嫌いとかあるじゃないですか。
女1 その通り!
女3 変ですよ。
女2 だってあるんだから。
女1 どうすればいい?
女3 はい?
女1 どうすれば賞がとれるの?
女2 だから賞とかはいいじゃないですか!
女1 言ったでしょう。ほめられたいの!
女3 いい子いい子。
女1 そうじゃなくて。賞が取りたいの!賞のためにやってるの!
女3 動機が不純だなあ。
女1 じゃ訊くけどね。今まで不純でない動機ってあった?動機はいつでも不純なの。だって動機だから。それはともかく芝居の出来だよ問題は。
女2 去年、悪くなかったと思いますよ。
女1 そうなんだ。
女3 あの、練習は?
女1 やってて。
女2 もう少し笑いを入れたらどうでしょう。
女3 はい。あー。
女1 あのねえ、笑いが一番難しいんだよ。
女3 (遠くから)こういうのどうですか?
女1 なに?
女3 のどが渇いた。ポカリぽかわり。
女1 (無視して)なんかない?面白いこと。
女2 そうですねえ。
女3 じゃ、こういうのは?


  女3、地獄の100連発。

女3 アルミ缶の上にあるみかん。
女1 今日は暑いわねえ。
女3 カレンダーを見ながらカレーを食べた。これがまたかれえんだ。
女2 そうですね。
女3 チアガールが立ち上がる。
女1 *リング2観た?
女3 この紅茶おいてぃー。
女2 *さだ子生きてたんですか?


  *には公演日の最新のネタを仕込んで下さい。

女3 教科書、今日かそう。
女1 *生きてるわけないでしょう。
女3 あっ、アンテナがある。なあんてな。
女2 *怖いの、苦手なんですよ。
女3 動物シリーズ!
女1 *日本シリーズはどこが勝つと思う?
女2 *まだペナントも始まってません。
女3 カバをかばった。クマがくまった。ウマが埋まった。ネコが寝ころんだ。イルカがいるか?ハチとはち合わせ。イヌの心臓がドックドック。あのトナカイ大人かい?ジュゴンが爆発した!ジュゴーン!
女1 *今年の紅白さあ。
女2 *まだ三月です。
女1 練習しようか?
女2 はい。


  ウォーミングアップ(ステップ)を始める。
  ステップを踏みながら続ける女3。

女3 食べ物シリーズ!
女1 *パンヤオいつゴールするかな?
女2 *もうゴールしました。
女3 梅がうめえ。チョコをちょこっと食べる。ニラがにらんだ。カレーはかれえ。ネギを値切った。ミカンがみっかんない。シュウマイでおしゅうまい。ブドウひとつぶう?桃はピーチピチ。
女1 分かりました。もう勘弁して下さい。
女2 あんた、いつもそんなこと考えてるの。
女3 一日百個。自分へのノルマです。
女1 面白いってそういうことじゃなくてさあ。
女3 でも、笑い、なきゃだめですか?
女1 うーん。
女2 あった方がいいでしょ、そりゃ。
女1 そこなんだよね。
女3
女1 あんた、今「どこ?」って言おうとしたでしょう。
女3 しませんよそんこと。
女1 あんたは?
女2 何のことですか?
女1 ほらねえ、わたしが「そこなんだよね」って言ってさあ、「どこ?」って言ってボケる。即座についてきてくれないし。
女2 それ、ボケなんですか?
女1 うん。
女3 ほらいくらわたしが面白いこと言っても受けてくれる人がいないとさあ。だからといってレベルも落としたくないし。
女2 ちょっともう一回整理させて下さい。
女1 うん。
女2 「そこなんだよね」ってこれは…「フリ」ですか?あ、フリなんだ!気がつかなかった。そうか、それで…「どこ?」ってこれがどうして…あ!「そこなんだよね」「どこ?」「そこなんだよね」の「そこ」!で、ボケが「どこ?」
女3 そりゃあ、レベル高いや。
女2 先輩。笑いはうちの演劇部に合わないと思います。やめましょう。
女1 そう?
女3 きっと観客がついてこれないと思います。先輩のセンスに。
女1 そうかな?
女2 時代も次元も超えてしまいました。
女3 この世のものとは思えません。
女1 でもさあ、観客に媚びずにさあ、むしろ観客をぐいぐい引っ張っていくこともさあ。
女2 いや、先輩は早く生まれすぎました。
女1 そうかあ。でもさあ、じゃどうしようか次の芝居。
女2 困りましたね。
女3 初めからですね。
女1 困るよなあ、どうすればいい?ほんと、爆発したいよわたしも。ジュゴーンっていって。
女3 先輩はジュゴンじゃないから爆発してもジュゴーンって言わないですよ。
女1 じゃ、ジュゴンは爆発するときジュゴーンっていうのか!
女3 ジュゴンは滅多に爆発しませんよ。自分からは。
女1 わたしだってしないよ!
女3 したいって言ったの先輩じゃないですか!
女1 したいのとするのは違うよ!爆発なんてするわけないじゃん。比喩だよ比喩。
女3 先輩がジュゴンのようだってことですか?
女1 なに?けんか売ってんのか?わたしのどこがジュゴンなのよ?
女3 だって比喩って言うのは「なになにのようだ」っていうのでしょ。
女1 わたしが言った比喩は「爆発したい」っていうことだよ。
女3 「爆発したい」は比喩ですか?
女1 そうだよ。
女3 「ようだ」がなくても比喩なんですか?
女1 そうだよ。
女3 じゃ、ジュゴンのような先輩…
女1 なんだよ!
女3 待って下さい。「ジュゴンのような先輩」みたいにその比喩を直すとどうなるんですか?
女1 どういうこと?
女3 「ジュゴンのような先輩」「なになにのようななになに」でしょ。比喩って。
女1 うん。
女3 じゃ、「爆発したい」のような…先輩?
女1 わたしはジュゴンでも「爆発したい」でもない!いいからあんたちょっと黙ってて!
女3
女2 よくジュゴンと爆発だけでそこまで長い会話が出来ますね。先輩や先生の台本よりよっぽど面白いですよ。
女1 そこだ。
女2 え!やるんですか?…どこ?
女1 なに言ってんの?ふざけてる場合じゃないでしょう。
女2 だって先輩がそこだって言うから。フリじゃなかったんですか?
女1 わたしたちの一番やりやすいことやればいいんだよ。
女2 なんですか?
女1 演劇。
女2 やりやすいですか?こんなに困ってるじゃないですか。
女1 だからそれを演劇にする。
女2 演劇部の話ですか?
女1 次の芝居どうしようかって、そういう劇。
女2 あ、それでもいいですね。
女1 脚本を作る過程をドラマにするってこと。
女2 それいいですよ。(女3に)どう思う。
女3 ……
女1 黙っててって言われたから、黙ってんの?
女3 (うなずく)
女1 誰も気付かなかったらどうすんのよ!
女2 ……しゃべってよし。
女3 迷子になった。オーマイゴッ。
女1 部員不足でなかったら……やめさせてるのに。
女3 いいですね。それでがんばって、お芝居が成功するんですか。
女1 うーん。
女3 脚本考えてるうちに喧嘩になっちゃうけど、仲直りする、とか。
女1 それがクサイ。
女2 じゃあ、どうするんですか?次の芝居。
女1 エチュードで作っていきましょう。
女2 いいっすねえ。演劇らしくなってきた。
女1 テーマは演劇か。演劇の中で演劇を考える演劇。
女2 「演劇に関する演劇」ってことですね。
女1 そう。
女2 ちょっと待ってください。
女1 なに?
女2 今、こうやって「演劇に関する演劇」について考えてるんだから、それが演劇になれば「演劇に関する演劇に関する演劇」ってことになるな。
女3 いや、もっとひねって「演劇に関する演劇に関する演劇に関する演劇」って言うのはどうですか。
女2 へーんだ。私だって「演劇に関する演劇に関する演劇に関する演劇に関する演劇に関する……」っていうのを考えてたんだからな。
女3 私だって「演劇に関する演劇に関する演劇に関する演劇に関する演劇に関する……


  際限もなく続く。熱中する二人。

女1 小学生みたいなことやめようよ。どうしてあんたたちは……・わたしのまわりバカばっかり。
女2 始まっちゃったよ。どうしよう。
女3 どうしたんですか。
女2 一度こうなるとしばらくだめなんだよね。
女3 まかせて下さい。(女1の耳元で)タクシーに乗ったワタクシ。
女1 悩んだ私がバカだった。さあ、続けよう。
女2 元に戻った。
女3 でも、演劇って難しいんですね。
女1 とりあえず、エチュードでつくっていきましょう。
女3 エチュードって何ですか?
女1 そうやって質問に答えると説明的な台詞になる。
女3 何言ってるんですか?
女1 やれば分かる。即興でいくよ。わたしが部長役。女2は二年生で副部長。清水は一年生。
女2 つまり現実と同じですね。
女1 そう。えーと、みんな次の大会のための芝居はどんなものがいいか、考えてるところ。次々にいろんな案が出てきて、みんなそれぞれちょっとやってみようかってことになる。そのうちにみんなの演劇に対する思いてっいうか、考え方がはっきりしてくるっていう風にしたいのよ。
女2 なるほど。


  下手寄りに女2、3。中央に女1 。椅子を持ち出して座る。

女1 じゃ、いくよ。自由に演じて。
女2 エチュード行きます。よーい、はい。
全員 ………………
女1 えーと……次の芝居どうしようか?どう、みんな。いいアイデアないの?
女2 そうですねえ……
女3 あ?あのー……
女1 なに?なにか思いついた?
女3 もう、お芝居に入ったんですか?
女1 そうよ。あのね、「お芝居に入ったんですか?」ってのも台詞になっちゃってるからね。
女3 えっ、本当ですか?
女2 その「えっ、本当ですか?」もね。
女3 じゃ、その「その「えっ、本当ですか?」もね。」っていうのも台詞なんですよね。
女2 そう、その「その「その「えっ、本当ですか?」もね。」っていうのも台詞なんですよね。」っていうのも……
女1 よそう!きりがない。じゃ、もう一回初めから。
女2 エチュード行きます。よーい、はい!
全員 ……
女1 えーと……どう、みんな。いいアイデアないの?
女2 そうですねえ……
女3 うーん……
女1 あ。
女2 何?山中さん。なにか思いついた?
女1 こういう情景どこかで見たっていうか……ああ、前と同じだなって気がふっと……
女3 ああ、そういうことありますよね。来たことないはずのところで、ああ、ここはいつか来たことがあるなあって。
女2 それはデ・ジャ・ヴってやつです。
女3 なんですか?それ。
女2 既視現象とも言うんですけど。心理学の用語です。よくあることらしいですよ。
女3 女1さん、前にもこういうエチュードしたことあるんじゃないですか?
女1 そうだったっけ……ないはずだけど……
女2 それがデ・ジャ・ヴの場合、経験したことなくても経験したような感覚だけあるんだよなあ。
女3 ふうん。ふしぎですね。でも……
女2 何?
女3 経験したことがなくても経験したような感覚だけある、だなんて演劇とちょっと似てますね。
女2 そうだなあ。演技って感覚の再現だなんていうもんなあ。
女3 自分は経験したことがなくても、いつの間にかほんとうにやったことあるような気になっちゃうんですよねえ。
女2、3 ……
女2 なーんて。どう、「ちょっと物知り、なにげなく知識をひけらかしても厭味にならな い読書好きの少女」っていう演技。
女3 ね、私は?「真面目に演劇を語る、演技派を目指す有望な新入部員」なかなかよかったでしょ。
女2 山中さんは?急に口数少なくなって、「物思いにふける無口な演劇少女」ってか?
女3 先輩。今、私、演技?
女2 さあ?
女3 山中さんは?
女1 ……
女2 あ。入った。
女3 何ですか?
女2 入っちゃうのよ。時々。
女3 どこへ?
女2 どこっていうか、中へ。
女3 どこの中……あ、中か。すごいですねえ。
女2 「先輩。先輩、そろそろ帰ってきてください。」先輩思いのやさしい後輩。の演技。
女3 「ここまで演劇に打ち込めるなんて」先輩を尊敬する新入部員。
女2 「何を白々しい」内心で思う演技。
女3 「ちょっと眉毛描きすぎじゃないの」内心の不満が目の光に出る演技。
女2 「おおボケかましてりゃいいと思ってんの」と眉をあげることで怒りを表現。
女3 「いつか靴隠してやる」暗い過去が少し影を落とす。
女2 「今夜無言電話してやる」実はもう三回ほどしている。
女3 やめよう。先輩。
女2 ん?何の演技?
女3 素(す)だと思います。
女2 あんたねえ、まだ分かんないの!素(す)なんてモノはないの!ちょっと山中さん、泣いてるよ。
女3 え!先輩が泣く?
女2 涙が……
女1 先輩。
男1 何?
女1 みんな……台詞なんですよね。これ。
男1 うん。いちおうそういうきめでやってる。即興のエチュードだけど。初めてだからちょっと難しかったかな?
女1 いいえ。……じゃ、今こうしてしゃべってるわたしは……わたしですか?
男1 どういうこと?
女1 役の上のわたしでしょうか,ほんとうのわたしでしょうか……なんだかわからなくなって……
男1 ジェームス・ディーンって知ってる?
女1 はい。映画俳優の?
男1 マリリン・モンローは?
女1 知ってます。
男1 あと、マーロン・ブランドとかダスティン・ホフマンとかが通ってた学校で、ニューヨークにアクターズスタジオってのがあってね。生徒を前に出して、「さあ、演じなさい」って。
女1 何を?
男1 それだけ。「さあ、演じなさい」仕方ないから、自分のこと、身の上話みたいなことしゃべるんだけど、それがさ、だんだん真剣になって、泣きだしちゃったりするんだって。
女1 ……
男1 先生が言うのさ、「諸君。これが演技だ。これがリアルというものだ」
女1 ……
男1 おれも、よくわからないんだけどね、だんだんその人の知らずに身につけてきた殻みたいなものがとれてきて、なんていうか、自由になったところから、演技って始まるんじゃないかなあ。かっこよすぎるか。だからさ、演技してるときの本当と嘘ってわからないもんだよ。
女1 でも。(間)わたし、なにか不安になってしまって。先輩がさっき、こう、よーい、はいって、手を打ったでしょう。
男1 うん。始めの合図。
女1 何を言ってもいいんだって言われても、言葉が全然出てこないんです。
男1 緊張した?
女1 はい。
男1 おれも、最初は全然できなかった。なにしゃべってもいいって言われるとかえって出てこないよね。
女1 はい。
男1 でも、その緊張が楽しいんだよなあ。だいじょうぶ、そのうち楽しめるようになるよ。
女1 先輩。先輩はなぜ演劇を始めたんですか?
男1 何だろうね。山中さんは?
女1 ……
男1 さっきは早合点して、内気な性格を直したいからだなんて、決めつけちゃったけど。
女1 確かに内気なんですけど……たぶん、わたしを知ってる人がわたしが演劇部に入ったって聞いたら驚くと思います。でもそんなことじゃなくて……わたしが入部したのは……
男1 どうしたの?
女1 うまく言葉が出てこなくて。
男1 じゃあ、それをエチュードにしてみよう。
女1 えっ!
男1 さあ、お芝居だ。君は自分で考えた「台詞」をしゃべるんだ。やってみよう。じゃ、ここに立って。


  男3、女1を中央に連れていく。

男1 エチュード行きます。よーい、ハイ。
女1 (思い切ったように)わたしは、小さいころから、お話を聞いたり、絵本を読むのが、好きでした。いつまでも飽きずに、頭のなかでお話をつくったり、友達と遊ぶより、そうしているほうが好きでした。そのうちに……
男1 続けて。
女1 はい。そのうちに学校に行っても、本当はこういう先生だったらいいのにな、こういう友達だったら、こういうわたしだったら……現実に生きているこの自分より、空想な気になってきました。今のこれは嘘のことで、本当のことは別にあるんだって。……先輩、もうできません。
男1 ……
女1 いいえ、続けます。……先輩。クレタ島のパラドクスって知ってますか?
男1 いいや、知らない。パラドクスっていうのは逆説のことだろ?
女1 こういうのです。クレタ人は嘘つきだと、クレタ人は言った。
男1 クレタジン……クレタ島っていう島の人か。
女1 クレタ人は嘘つきですか?
男1 そりゃあ、嘘つきでしょう。自分でそう言ってるんだから。正直に。あれ?
女1 ね。
男1 そうか、矛盾してるな。だからパラドクスなのか。あ、いつか国語の先生が言ってたのと似てるな。黒板に「ここに書いてあることみんな嘘」って書いたらそれは本当か、嘘かって。
女1 わたしはその、クレタ島に住んでるみたいです。
男1 なんか、どこかの南の無人島みたいでいいなあ。
女1 そう、無人島なんです。……わたし、家族とか、友達とか、回りの人とうまくいかなくって。
男1 どういうふうに?
女1 なんにも考えずに気軽に話せばいいんでしょうけど……話しかけられてもうまく言葉が返せないんです。いつまでも返事がないから、そのうち気まずくなってしまって。自然に言葉が出てこないんです。
男1 なぜかな?
女1 そういう時、いつも、頭のなかで言葉を考えて、でも違う、これは本当のことじゃない、これはわたしが言いたかったことじゃない、これはわたしの本当のきもちじゃない、これは嘘だ、これは……なにを言おうとしても、言えなくなってしまうんです。何を言っても嘘にしかならないんです。
男1 そうか、それで、自分のしゃべってることが嘘か本当かわからなくなっちゃったんだな。
女1 わたし……本当がないんです。わたしには本当がないんです。
男1 でも、本当がなければ嘘もないんじゃない?
女1 きっと、そうだと思います。わたしにはなんにもないんです。でも……この間テレビで劇場中継を観たんです。お芝居って不思議ですね。人が書いた台詞をしゃべってるのに、ああこれ本当のことだ、本当にこの人の心の底から出てきた言葉だって思いました。わたしもこんなふうに話すことができたらって思いました。わたし、お芝居をやってみたい。本当の言葉をみつけてみたい。
男1 はい、やめ!(手を打つ)エチュード終わり。
女1 あ……みんな台詞だったんですね。これ。
男1 うん。でも、今しゃべったのも本当の気持ちじゃないって気がした?
女1 いいえ。
男1 今のが君の本当の言葉だ。
女1 はい!
男1 ごめんな。厳しいこと言って。
女1 いいえ。楽しかったです。……わたし、初めて話す人とこんなに意識せずに話せたことありませんでした。先輩の、こう、手を打った音を聞いて、最初は緊張したけど、そのうちにすうーと言葉に入っていけたような気がします。
男1 これから今までの反動ですごくおしゃべりになったりしてさ。
女1 ありがとうございます。こんなつまらない話ながながと聞いてもらって。
男1 いいんだよ。面白いエチュードだった。いや、面白いなんて言ったら悪いけど。
女1 いいえ。
男1 演劇を続けてみる?
女1 はい。
男1 よかった。
女1 先輩。
男1 なに?
女1 ありがとう。


  女2、手を打つ。

女2 ハイ。やめ!
女3 先輩、こんなこと考えてたんですね。
女2 ムチャなことばかり言ってるけど、こういうとこあるんだ。
女3 あれ、だれですか。男の人。
女2 さあ?先輩の先輩。
女3 ほんとにいる人?違うよね。
女2 うん。きっと、先輩の登場人物。
女3 じゃ。
女2 そう。わたしたちといっしょ。
女3 こっちも始めようよ。小野さん。
女2 いいの?
女3 創作って難しいですね。どんな台詞書いても、一行言うだけで、手をこれだけ動かすだけで、やっぱり、演劇とは何かっていうの、考えないといけないです。
女2 清水。「ナイスな椅子」って言ってた清水だよな。
女3 そんなこと言ってません。私ならこう言います。「その椅子いいっすねえ。」
女2 急にどうしたの。難しいこと言い出して。
女3 やってみましょう。先輩。
女2 ……ちょっと、時間くれる?
女3 用意、しておきます。


  女3、椅子をセットする。

女3 いいっすよ。
女2 座って……いいっすか?
女3 いいっす。
女2 始めていいっすか?
女3 いいっす!
女2 よし、いこう。
女3 先輩、合図してください。
女2 エチュード行きます。よーい、ハイ!

男1 普通って何だろうね。
女1 わたし、普通にできないんです。
女2 普通にしてればいいじゃないですか。
女1 普通ってなに。
女3 普通じゃないことをしないことですよ。
女1 普通じゃないことってなに?
男1 どう普通じゃないの?


  女2、手を打つ。

女2 よーい、ハイ。
女1 だって大会は?まだ台本できてない。
女2 今日じゃないですか?
女1 えっ今日?
女3 明日です。
女1 どっちなの?
女2 とうとう一ヶ月を切りました。
女3 もう終わりました。
女1 なにをやるの?
女2 創作ですよ。
女3 どうしましょう。
女2 先輩が書いたんじゃないですか。
女1 嘘でしょう?
女2 嘘ですよ。
女3 嘘ってなんですか?


  女2、手を打つ。

女2 よーい、ハイ。
女1 嘘でしょう?
女2 嘘ですよ。
女3 嘘ってなんですか?
女2 先輩、どうしてここにいるんですか?
女3 もう卒業したんじゃないんですか?
女2 まだ入学してませんよ。
男1 さあエチュードだ。
女1 なに?
女2 エチュードってなんですか?
女3 これエチュードですか?
男1 君のこと話してごらん。
女1 これ夢?
女2 夢オチですか?古いですね。
女3 目が覚めたら夢だった。
男1 それをエチュードにしてみよう
女1 お芝居なの?これ。
女2 エチュードですよ。
女3 エチュードはお芝居ですか?
女2 劇中劇ってのもあったよね。
女3 エチュードってなんですか?


  女1、立ち上がる。

女1 みんな、ありがとう。先輩、ありがとう。
男1 もう大丈夫。がんばって。
女1 はい。じゃあ、手を打ちますよ。
男1 うん。どうぞ。
女1
男1 どうしたの。
女1 だって消えちゃうんでしょ。
男1 お芝居だから。
女1 寂しくなりますね。
男1 お芝居だから。
女1 わたし、お芝居、嫌いです。
男1 嘘。
女1 嘘です。好きです。先輩が好きにさせてくれたんです。
男1 さよなら。
女1 さよなら。


  女1、手を打つ。

女1 ハイ、やめ!


  男1、消える。

女1 小野。
女2 先輩。わたし、消えてもいいよ。
女1 いいんだよ、小野は。ずっといてもいいんだ。
女2 ムリ言わないで。楽しかったよ。先輩。
女1 今度は、普通の演劇やろうな。
女2 先輩にはできないすよ。
女1 どうして?
女2 だってクレタ島の人だから。
女1 わたし、これからどうしよう。
女2 脚本書くんでしょう。
女1 うん。
女2 いいの、書いてくださいね。わたし、見に行けないけど。
女1 小野、ありがとう。
女2 先輩、早く手を打って。
女1 うん。


  女1、手を打つ。

女1 ハイ、やめ!


  女2、消える。

女1 小野!
女3 先輩。
女1 清水。
女3 お芝居って面白いね。
女1 うん。
女3 わたし、ここに来れてよかったよ。
女1 わたしも清水に会えてよかった。
女3 先輩、わたし、少しは役に立ったかな。
女1 うん。
女3 先輩、泣いてるの?
女1 悪いか?
女3 想像の中の人物が消えるだけで泣くなんて先輩らしいね。
女1 うるさいよ。
女3 頼みあるんだけどさあ。
女1 なに?
女3 今度の台本、面白いとこ、入れてほしいんだ。
女1 うん。すごく面白くする。
女3 楽しいのにしてね。
女1 うん。
女3 じゃ。
女1 もう、行くの?
女3 だってもう下校時刻だから。また会えるよ。
女1 うん。
女3 バイバイ。
女1 バイバイ。


  女1、手を打つ。

女1 ハイ、やめ!


  女3、消える。
  泣いている女1。

女1 楽しかった。みんな、楽しかったよ。


  チャイムの音。

女1 帰らなきゃ。今日はおしまい。気をつけ!礼!お疲れさまでした!


  男1、女2、3現れる。

男1 お疲れさまでした!
女2、3 お疲れさまでした!
女1 みんな!
女2 山中さん。一人で終わらせないでよ。
女3 脚本早く書いてね。
女1 みんな、消えたんじゃないの?
男1 終わりの合図はさ、ね。
女3 うん。始まりの合図だから。
女2 やだ、清水、クサい。それ。
女3 おなか空いた。どっか寄りませんか?
男1 いいねえ。
女1 うん!


  話しながら全員退場。
  幕



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