ノー・ファール


キャスト

男1ブイレンジャー・ブイレッド・遠藤・おじいちゃん
男2弟子(小林)・小林
男3レツアクダー・高野
女1ブイピンク・佐藤・高橋先生
女2ブイイエロー・田中



  音楽。
  アイマスクを付けた男1が黒子に連れられて舞台に登場する。
  男1、アイマスクを取って。

男1 何?これ何?どこ?舞台?


  上手から男2が駆け込んでくる。

男2 大変だー!幼稚園の送迎バスが乗っ取られた!
男1 うわ。こういう種類の芝居か!


  下手に駆け去る。

男1 今年の大会大丈夫かなあ。


  男2、下手から駆け込んでくる。

男2 大変だー!正月なのに、日本中の餅が消えたー!


  上手に駆け去る。

男1 そりゃ困る。


  男2上手から駆け込んでくる。

男2 大変だー!日本中のカレーが甘くなった!レツアクダーの仕業だ!助けて!ブイレンジャー!
男1 もしかして…おれ?
男2 そうです!
男1 おれ…正義の味方?
男2 そうです!
男1 なんか…なじめるかな?
男2 いきますよ!
男1 おう!


  男1、中央やや奥に立って後ろを向く。

男2 助けて!ブイレンジャー!


  ゆっくりと振り向き、前へ歩いてくる男1

男1 性懲りもなくセコイ悪事を働きやがって地球征服をたくらむ悪の化身ならそれらしいことすりゃいいじゃねえか。何でカレーなんだ?見ていろレツアクダー。ブイレンジャーが正義の鉄槌を下してやる。小林!
男2 はい!先生!
男1 出動だ!ついて来い!
男2 はい!
男1 ミュージック!


  音楽「戦え!超虚構戦隊ブイレンジャー!」

男2 マイク!


  男2、懐からマイクを取りだし男1に渡す。

男1 温めておきました。
男2 よし!


  歌い出す男1。

男1 小林!
男2 はい!
男1 バンダイからキャラクター商品のパテント料は入ったか?
男2 先月の分がまだ入ってません!
男1 催促しろ!たまごっちの在庫で苦しいのは分かるけどよ。それから超合金ブイレンジャーよ、あの顔よ。もうちょっとおれに似せろって言っとけ!
男2 え?
男1 何でもかんでもお目々ぱっちりの二重瞼にすりゃいいってもんでもないだろ。ほっぺたぽっちゃり一重瞼の超合金も当たるかもしれねえからよ!
男2 はい!
男1 それからよ。セガの方へ言ってよ!プリクラの背景にブイレンジャー飛んでるところ使ってもらえ。
男2 先生。そろそろ…
男1 お。そうか。レツアクダー待たせちゃいけねえな。おい!着替えだ。
男2 先生。変身と言ってもらわないと…
男1 着替えは着替えじゃねえか。かっこつけんな!
男2 はい!


  二人、行きかけて。

男1 小林!ブイピンクとブイイエローからなんか連絡ねえか。
男2 いいえ。
男1 いや、すまねえ。あいつらのことは口にしねえ約束だったな。正義の味方ブイレンジャーが人に頼っちゃいけねえやな。じゃ、行くか。
男2 はい!


  二人立ち止まり正面を向く。

男1 (ポーズを決め)天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ。悪を倒せとおれを呼ぶ。(ポーズ)超虚構戦隊ブイレンジャー!
男2 日本一!
男1 行くぞ!
男2 はい!


  男1、2上手にはける。
  薄明かり
  黒子、椅子を出す。
  男1、黒子に連れられて袖から出てきて。

男1 今度何?ブイレンジャーじゃないの?


  男1、椅子に座る。
  黒子、男1にパソコンを渡す。

男1 ガチャ。


  パソコンを起動させる。音楽「超虚構戦隊ブイレンジャー戦いのテーマ」
  画面から漏れる光に顔を照らされる男1。
  ゲームを始める。
  間。
  明かりがつくと学校の一室。男2、女1、女2が二人を見ている。

女1 何やってんの。
男2 今ちょっとハマってて。
女2 何?ゲームやってたの?
女1 シミュレーション?
男1 うん。シューティングも入ってるけど。
女2 なんて言うの?
男1 「超虚構戦隊ブイレンジャー」
女1 知らない。
男1 インターネット覗いてたらフリーのソフトがあってさあ、おもしろそうだったんでダウンロードした。
女1 変なものダウンロードするとウィルスついてるかもしれないよ。
男1 大丈夫だよ。
女2 何?ウィルスって。インターネットから病気うつるの?
男1 時限爆弾だったりして。
女2 えー!爆発するの?
男2 じゃなくて、たとえば1999年の七の月とか日を決めて、ウィルスが発生して、パソコンの中に入ってるデータ壊しちゃうとか、そういうの。
女2 へえ。
男2 (女2に)分かってるの?
女2 半分くらい。
女1 そんなにおもしろいの?
男1 対戦型なんだよね。相手いるからさあ、やめると悪いから。
女2 誰とやってんの?
男1 知らない人。
女2 どういうこと?
男1 ネットで知り合ったんだけど。メールアドレスしか知らない。ほらこっちがゲームしてないときに向こうが攻撃をしとくんだよ。で、インターネットのサーバーを経由して、こっちに送られてくるわけ。
女1 学校でよくできるね。
男1 これこれ。(携帯を見せる。)
女1 携帯でインターネットしてるんだ。
女2 ねえ、それパソコン?
男2 今まで何の話してたと思ってるの?
女2 しょうがないじゃん、知らないんだから。
女1 どんなゲームなの?
男1 相手は世界征服したいわけ。で、いろんな攻撃しかけてくるのを、おれの方は、敵をやっつけていくの。
女2 どうやって?
男1 超虚構戦隊ブイレンジャーが活躍する。
女2 相手は?
男2 悪の秘密組織マッドネスの首領、レツアクダー。
女2 なんかさあ、テレビでありそうだね。
女1 ハイテク使ってる割りに子供っぽいよね。
男1 さっき覗いたらさあ、相手攻撃仕掛けてきたから。早速ブイレンジャー出動させてるの。
女2 どんな攻撃?
男1 怪人出す。
女1 どんな怪人?
男2 変な怪人しか出さないの。今度のは化け猫怪人チャトラン。犬の遺伝子を操作して猫にする。
女1 どうしてそんなもんと地球征服が関係あるのよ。
男1 さあ?
男2 この相手、正直言って、何考えてるんだかよくわからない。
男1 こないだのもさあ、何だっけ。古文怪人ゾナムヤカー。世界中の係り結びの法則を使えなくするってやつ。別に困らないぞ。そんなもんなくなったって。
女1 受験生が喜ぶだけじゃん。
男2 ブイレンジャーが出ていって二、三発殴ってすぐ爆発。
男1 なんか意図があるのかなあ。
女2 ねえ、それ高いんでしょ?
男1 中古。
女1 結構古い型だよね。98?
男1 95。充分だよ。でもさあ、こうやって毎日守ってるとさあ。なんか愛着わくんだよね。
女2 何に?
男1 地球に。あ、このゲームの地球ね。今のこの地球はいいんだけど。
女1 あんたたち、6校時からやってたでしょ。
男1 いいじゃん自習だから。
女1 あの後先生、遅れてきたんだよ。
男2 え!自習じゃなかったの?
男1 あーらら。ま、いいか。
女1 高野君もいないしさあ。
男1 高野は来てないよ。別行動。
男2 高野君だって。
女1 なんで?
男2 やけに冷たい呼び方だから。
女2 バカ。
男1 許してやって。
女2 知らないの?あの…(女1をうかがう)
女1 いいよ、別に。
女1 (小声で、男2に)もう付き合ってないの。
男2 え!ごめん。
女1 あのさあ、宿題出たよ。6校時。政経。
男1 政経で宿題?
女2 レポート。
男2 何枚?
女2 5枚。
男1 5枚、多いよ。何書くの?
女1 今、世界が抱えてる問題を一つ取り上げて、解決の手段を考える。
男1 張り切ってんなあ新採用。レポートの宿題出したら全部読まなきゃならないんだぞ。分かってんのかなあ。
女1 いいじゃん。正義の味方としては、地球の危機を広く訴えなきゃ。
女2 問題。レツアクダー、だっけ?解決方法、ブイレンジャーがやっつける。
女1 シンプルでいいなあ。ゲームは。
男1 めんどくさいな、書くの。本当の地球には興味ないんだ。
女1 ゲームの中だけで生きる少年。
男2 現実にリアリティないんだよな。
男1 おまえに言われたくないよ。おまえだってさ、現実よりもさ。
男2 言うなよ!
男1 あの、ガレキ…
男2 わー!
女2 何?ガレキって?
男2 なんでもかんでも何?って聞くなよ。
女2 ガレキ?枯れ木?
男2 庭の桜の木も枯れ木になったって!
女2 今、7月よ。
女1 あれでしょ!ガレージキット。
女2 ガレージキット?ああ、車が好きなんだ?
男2 そう!車好きなの!来年もう、免許取って、こう、ブーンって。
女1 はいはい。詩織ちゃんとか、知恵ちゃんとかっていう車ね。
女2 何?それ。
男2 もういいから、何?って訊くな!
女1 何と言えば、何、書く?
女2 レポート?
男2 うん。
女2 何にしようか?


  男3、登場

女2 高野君。
男3 ども。
女2 6校時、どこ行ってたの?レポート出たよ。
男3 政経?
女2 うん。世界の抱えてる問題を一つ挙げて、解決の方法を考える、だって。
男3 世界の抱えてる問題より、おれの抱えてる問題を解決してよ、だれか。
女2 何?
男2 また訊いた!
男3 それ、いつまで?
女1 …来週だって。成績に入れるって。
男3 (男1に)ちょっと、話あるんだけど。
男1 バカボンのパパの話か?
男3 おれさあ。しばらく学校休むから。
女2 エー。病気?
男3 病気じゃないんだけど。
女2 じゃ何?
男3 休むっていうか、休まざるを得ないかっていうか。
女2 何よいったい。病気じゃないんだったら。
男3 休むっていうか、休まざるを得ないっていうか、休ませられるっていうか。
女1 どうして?困るじゃない。
男1 しょうがないなあ。どこだよ?場所。
男3 体育館の裏。
男1 あそこやばいよ。俺の兄貴の友達もあそこでみつかったって。
女2 なに?
男1 これ。(ジェスチャー)
女3 えー。高野君。タバコ吸うの?
男2 やーねー。
男3 (男1に)そういう話は早く教えてくれなきゃ。
男1 そのときはビンタ往復で済んだって。
男3 えー。ずるいよ。それは。
女1 で、どうなったの?
男3 会議が4時半に終わるから職員室に来いって。
女1 で?
男3 さあ?でも明日から謹慎だと思う。
男1 しょうがないでしょ。こっちは何とかしとくから行けよ。
男3 くれぐれも部活と…地球のことを頼むぞ。
女2 バカねえ。
男3 それでは高野一等兵、行って参ります。
男2 謹慎にしては明るいな。
男3 こうでもしないとやってられないよお。
男1 案外ショック受けてるな。
女1 だったらタバコなんか吸わなきゃいいのに。


  男3、去る

男2 バカだなあ。
女1 何でタバコなんか吸うんだろ。
男1 おーい、誰か地球救わない?
女2 救う救う。
女1 金魚じゃないんだから。
女2 でもさあ、高野君、タバコなんて吸ってた?
女1 ううん。
女2 何?高校デビュー?
女1 まさか。
男2 ショックでぐれちゃったんじゃない?ほら。
女1 やめてよ!もともとなんでもないんだから。
女2 でもさあ。どうしてさあ、高校入って彼女できた男子は、なんか天下取った、ていうか、世界でも征服したような顔するのかね?
女1 ほんとだね。
男1 そのかわりだめになったときは世界の終わりみたいにさあ。
女1 ほんとになんでもないんだって、初めから。
男1 みんな来ないし、レポートもあるし、今日、練習やめない?
女1 レポートか。何書けばいいんだろ。
女2 世界中にこんなに問題があふれてるのにねえ。
男2 私の回りはつまんないことばっかり。
女2 一個一個とればさあ。それはそれで大変なことはわかるけど。
女1 解決しないからなあ。考えてても。
男1 ダウンタウンのネタでさあ。クイズのやつ知ってる?
女2 知らない。
男1 こういうの。クイズです。さて、何でしょう。
女2
男1 これだけ。
女1 何それ。
男1 つまりさあ、何の意味もないんだけどさあ、小論文なんてこんなもんでさあ、問題だと思ってないのに無理矢理問題ひねくりだしてさあ。
女2 やばい。オヤジが語りだした。
男1 だれがオヤジだ。
女2 高野君、タバコ吸うなんて知ってた?
女1 …さあ?遠藤君たちは?
男1 うん、まあ。でも一緒の時は吸わなかったし。
女1 タバコ吸うとかお酒飲むとか気持ちが分かんない。
男2 あ、それならある。
女2 内藤君、お酒飲むの?どこで?
男2 おまえ、ほんと質問少女だな。ほら、カラオケとか。盛り上がるし。
女2 へえ。
男2 あ、今度行こうかカラオケ。
女2 飲ませて何かする気ね。
女1 バカ。
女2 あのね。お酒とかタバコとかじゃなくて、せき止めシロップやってる人いるんだって。
男2 そうそう。
女1 せき止めシロップ?何?
男2 せき止めの飲むやつ。
女1 せき止めシロップやるってどういうこと?
男2 いいんだって。くるんだって。
女1 うそ。だって薬じゃん。
女2 そういう人、いるらしいよ。
男2 なんかコデインっていうモルヒネに含まれてる成分が入っているんだって。
女1 モルヒネって太宰治がやってたやつ?
女2 じゃ中毒になっちゃうじゃん。
男2 そう。なるの。で、一本千八百円もすんのに一日に二本も三本も飲むんだって。
女1 よくお金続くわね。
男2 お母さんに出してもらってるんだって。飲まないといらいらして暴力ふるったりするから。
女2 小林君なんでそんなこと知ってるの?
男2 なんでだろ?あ、高野に聞いたんだ。
女1 なんであの人そんなこと知ってるの?
さあ?あのさあ、せき止めシロップよりきいてつかまらないやつ知ってるよ。バナナ。
女1 えー。
女2 バナナでトリップすんの?
男1 じゃ、あれか。トライアスロンの選手なんてラリったまま走ってんのか?
男2 違うよ。あのバナナの皮あるじゃない。あの裏側の白いとこ。
女1 ああ、あのしぶしぶのとこ。
女2 何しぶしぶって。
女1 だってなんかしぶしぶって感じじゃない?
男2 だってーなんかーしぶしぶって感じー。
女2 彼ったらーちょっとーしぶしぶ系でー。
男1 やめようよ、こんな話。
女1 だいたいさ、その、くる、とか、トリップとかどうなること?何でいいの、それが?
男2 そう言われると、なんでいいんだ?
女1 つかまったり体悪くしたり、そこまでしてもやりたいんでしょ?
男2 おれだってやったことないから分かんないよ。
女2 あのさあ、うちのお姉ちゃんの子供、三歳なんだけど。うん。こないだから変な遊び覚えてさあ。一人でぐるぐる回ってるんだけど。ふらふらになるのが楽しいらしくて。
男2 こういう風に?


  ぐるぐる回る男2。

男1 バット回しみたいだな。
女2 なんかいつもと違うのがいいのかなあ。テーブルの角に頭ぶつけて怪我して泣いてるのに次の日またやってるの。
女1 いつもと違うのがいいかなあ?
男1 クスリでいっちゃうってそういうことか。自分が違うものになるってどんなもんかな。
女1 どんなもんかなって、よくなってるじゃない。
男1 何に?
女1 違うものに。ねえ。
男1 変なこと言うね。なってないよ。
女2 なってるよ、遠藤君。
男2 なってますよ。先生。
男1 先生ってなんだよ。
女2 ブイレンジャーになってるじゃない。
男1 だってブイレンジャーはゲームだろ!


  校内放送。

生徒の呼び出しをします。二年四組高野。二年四組高野。大至急、生徒相談室に来なさい。二年四組の高野は大至急生徒相談室に来なさい。
男1 あいつ、まだ行ってないの?
男2 立場悪くなるだけなのに。
女2 でもさあ、生徒相談室って名前、すごいよね。
女1 何で?
女2 誰もこっちから相談なんてないっていうの。
男1 お、不思議少女、たまに鋭い。


  校内放送

うるさいよ。
男1 続いて連絡します。都合により一旦レベル1は閉じます。レベル2へ移動する人は準備をお願いします。すぐ転換をおこないます。なお、暗転はおこないません。早くしろ。お前らのことだよ。
男1 何?これ、いったい?
女2 何よ。こんなこと普通よ。
男1 学園ものじゃなかったの?
女1 あんたもいい加減慣れなさいよ。
男2 先生。じゃ。
男1 おまえ、小林?


  女1、2、黒子になる。

男1 またブイレンジャー?


  黒子、男1の首に赤いマフラーを巻く。

女1 じゃ、できたから。
男2 うん。じゃ、また。
男1 違うものになるってこれか!


  黒子、下手にはける。

男2 行きますよ。
男1 …うん。


  男1、2、深呼吸。

男2 先生!
男1 いやー、弱かったな。今度の怪人。悪の秘密組織マッドネスももうネタ切れかな。レツアクダーも来ないしよ。何あれ?
男2 二、三発殴ってすぐ爆発ですからね。
男1 おれの見せ場ってもんがねえよな。マニアックな怪人はやめてもらいたいね。分かりやすいのがいいよ。正義の味方は!
男2 はい、先生。
男1 お前もこうやっておれの所に弟子入りしたからにはちゃんとおれのこと見習って立派な正義の味方になるんだぞ!
男1 はい、先生!
男1 怪人が出た!バーン!怪人が出た!バーン!これでいいんだよ。正義の味方は!いいか、黙っておれの後付いてくりゃいいんだ。修行が終わったらのれん分けしてやるから。お前運がいいわ。正義の味方になる方法なんて甲斐ゼミじゃ教えてくれないよ。
男2 はい!よろしくお願いします。
男1 怪人が出た!バーン!怪人が出た!バーン!こういう風にね!分かりやすいのが一番!それを何だよ。エヴァンなんとか?なんかわけのわっかんない小難しいのが受けてるんだって?
男2 (ためらいつつ)はい。
男1 やっぱさあ、正義の味方はすっきり分かりやすく、いいことはいい、悪いことは悪いってさっぱりいきたいよな。おれは、ふつうの、当たり前の正義の味方でいたいわけよ。だからオタクってのが嫌いでな。マニアでもなんでもない、ふつうの子供に見てもらいたいわけ。
男2 はい。
男1 新入りにでかい顔されて面白くねえからよ。まあいい!その話はあとだ。おい小林!風呂わいてるな。
男2 (思い切ったように)あの。
男1 何?
男2 あの、エヴァは、違うんです!ふつうのアニメとは違うんです。
男1 「エヴァは、」だってよ。バカヤロウ!
男2 ……
男1 まんまオタクじゃねえか。おれはよ、確かに古いかもしれねえよ。だけどよ!正義の味方の王道を行ってるんだよ。いいか!オタクに好かれるような正義の味方は邪道だよ!おれんとこじゃオタクはいらねえんだよ!
男2 先生!
男1 知ってんだよ。封切り日に並んでその「エヴァ」ってのを見ただろ!
男2 ……はい。
男1 おれもあんまりお前のプライバシーには、関わりたくないんだけどな、お前のな、「千恵ちゃん」だっけ?ガレージキット。
男2 えっ!
男1 ニタニタニタニタしながら作ってやがって。持ってこい!
男2 いえあの。
男1 いいから!


  男2人形を持ってくる。

男1 おれんとこで正義の味方の修行したいんなら!その気味の悪い人形、壊せ。
男2 先生!
男1 おれの目の前でだ!
男2 先生!
男1 おれの言うこと聞けねえのか?国へ帰るか?つぶれそうな酒屋を継ぎてえの か?


  男2人形を壊す。

男1 よーしよくやった!それでこそブイレンジャーの一番弟子だ。いいんだよ!今度バンダイに言ってよ!ブイレンジャーの超合金もらってやるから!
男1 情けない顔すんなよ。お前のために言ってるんだよ。分かるね。
男2 はい……
男1 さーてと風呂に入って汗流すか。小林!いい仕事していい汗かいて風呂入ってビール飲めりゃあ言うことはないよな。上がったらビールな!
男2 はい……


  男1はける。
  涙ぐむ男2

男2 ごめんね……
ごめんください。
男2 はい。あ、どうぞ。


  男3下手より登場。

男2 レツアクダー!
男3 はい。
男2 ……さん。
男3 ブイレンジャーさんちょっとお願いします。
男2 ……ちょっとお待ちくださいね。


  上手袖近くまで行き、

男2 先生!お客さん……じゃない、レツアクダー……さんです。
男1 待たしといて。もうすぐ出るから。あ、ビール出しといて。
男2 あの!
男1 何?
男2 いいんですか?
男1 待っててもらって。
男2 はい。
男3 じゃ、上がらせてもらいます。
男2 ……どうぞ。
男3 どうも。


  あたりを見回す男3。
  男3の様子をうかがう男2。

男2 …あの、研修生の小林です。
男3 あ、どうも。レツアクダーです。
男2 どうも。……あの、スーパードライでいいですか?
男3 え?
男2 ビール。
男3 あ、ビールね。ビールのことか。私はまたブイレンジャーの新しい技の名前かと思っちゃった。私、ビール飲んだことないんですよ。
男2 他の切らしちゃって。いつもはモルツもあるんですが。
男3 あの、ビールって酒ですよね。
男2 はい。
男3 いいんですか?昼間から。
男2 先生は戦いのあと必ず飲むんですよ。
男3 ふーん。
男2 最近は戦いの前も飲みます。
男3 手応えないからね、最近。
男2 あ、そういうわけじゃ。ビール取ってきます。


  男2、上手にはける。

男3 あ、お構いなく。


  男1パジャマ姿で出てくる。

男1 あ、楽にして。ビールビール。小林!早くね。
男2 (袖から)はい!
男1 いやー、明るいうちの風呂はいいよ。お前来たって言うから大慌てでさ、頭洗わずに出ちゃったけどな。いや風呂上がりフリチンてのがまあ一番気持ちいいんだけど、フリチンじゃ威厳がな、なくてよ。


  男2缶ビールを持ってくる。

男1 グラスいいや。缶のままでいいだろ。かたっ苦しいのやめよう。どうぞどうぞ遠慮しないで。じゃ乾杯ね乾杯!(一気に飲んで)ぷわぁー。このぷわぁーてのが下品でいいんだよな。ほら、飲めよ。
男3 昼間から酒はなあ。
男1 相変わらず堅苦しいやつだね。部下の怪人も大変だな、上司がお前で。
男2 先生。何か作りましょうか。
男1 うん。(男3に)食うだろ?
男3 食事してきたから。
男1 なんだよ。人んち訪ねるときゃあ、腹減らして来いよ。お前も飯食うんだな。何食ったんだ?やっぱり人肉か?
男3 そこのラーメン屋だよ。
男1 ラーメン!お前ラーメン食べるの?
男3 いいだろ、ラーメン食ったって。悪いか?
男1 まあな。悪の化身がラーメン食ったって悪かねえけどさ。あれ?悪かねえってお前、悪くなきゃ困るんじゃないか!悪者なんだから。
男3 あ、そうか。
男1 ややこしい言い方するなよ。
男3 そうだな。全然気がつかなかった。
男1 (男2に)な、こいつ案外気のいいとこあるんだよ。
男3 気がいいって言われてもなあ、いいって誉め言葉じゃないんだよおれの場合。
男1 あ、そうだな。
男3 (男2を見て)先生って呼ばせてるのか。
男1 いや、なんか自然にな、そうなっちゃって。
男3 研修生って何?
男1 まあさ、正義の味方が自分でお茶入れたり皿洗ったりっていうのもどうかなって。まあ、こいつならこれも修行ってとこあるじゃない。それに給料いらないって言うんだよ。
男3 いつからやってんの?
男2 3ヶ月になります。
男1 まだまだだな。なあ。
男2 はい。
男3 やっぱり、あれ?イエローとかの…替わり?
男1 お前やっぱり悪役だな。悪の化身だよ。やなとこつくねえ!いや、替わりって訳じゃないんだけどさ。
男3 どうしていなくなっちゃったの?いやおれとしてはありがたいけど。
男1 だったらいいだろ!……なんかな、みんな忙しいらしいよ。
男3 今何やってんの?
男1 知らねえよ!あんまり楽しくないんだって。正義の味方は!ま、正義の味方なんてボランティアだからさ、嫌々やってもしょうがないから、じゃ、やめろってことでな。ま、とりあえずおれ一人で手は足りてるから。ああ、いや悪い。正直言ってお前の方最近物足りないよ。弱いよ。それにちょっとマニアックな怪人出しすぎじゃないの?
男3 そうだな。
男1 で、まあ、あいつらやめるちょっと前にこいつが来てたんだけど。こいつは残るって言うから。
男3 君はどうして残ったわけ?
男2 ええ、あの……
男1 小林!いつも言ってるだろう。正義の味方やりたいんだったら!はっきりしろっての!うじうじした正義の味方なんていないんだって。性格みんなはっきりしてんだから。まあ、単純なんだけどな。おれを見習わなきゃ。こいつな、正義の味方にしちゃあ暗いんだよ。
男2 はい、そうなんです。
男1 そうなんです、じゃないだろ。暗いって言われてうれしそうにしやがって。なんかお前には華がねえんだよな。華が。正義の味方が持っている悲壮なまでに美しい華ってもんがよ。そんなことじゃね、一生アシスタント止まりだよ。早く一本立ちの正義の味方になりたいんだろ!田舎へ帰るか?
男2 先生!
男1 ほらこのすがるような目。その目が暗いんだよな。おいレツアクダー、こいつおまえんとこで面倒見てもらった方がいいんじゃないかなあ。
男2 やめてください!
男1 冗談だよ。小林!
男2 はい。
男1 レツアクダーが飲みたいって言うから、もう1本ずつ持ってきて。
男3 おれはいいよ。
男1 客はつべこべ言うなよ。出てきたものをおいしいおいしいって気持ちよく飲み食いするのが客のモラルってもんだろう。人のうちに招かれたときそうしてないの?あ。お前悪の化身だから、誰からも呼ばれねえか。
男3 それで……ブイピンク、どうしてる?
男1 ああ、あいつもいっしょにやめたよ。なんで?
男3 あ、いや、いいんだけど…知らないのか。
男1 いてもいなくても同じよ。彼女は。
男3 そうでもないと思うけど。
男1 なに?ほれてたの
男3 そんなことあるわけないだろ!
男1 なにをムキになってんだよ、冗談だよ。ま、ちょっとかわいいとこあったけどね。なにしてるのかなあ、いまごろ。
男3 ラーメン屋でさ。
男1 何?いきなり。
男3 さっき行ったラーメン屋でさ。そこの角の。
男1 パチンコ屋のとなりの?あそこ結構うまいんだよ。おれもたまに行くんだよ。ちょっと麺がなって気もするけどな。
男3 お前さ。そこら中によ!色紙置いてくんのやめてくんねえかな!なんだよあの色紙はよ。「友情・努力・勝利。ブイレンジャー」ってのは!
男1 いいじゃねえかよ。頼まれたんだから。いい言葉じゃねえか。正義の味方らしくって。
男3 正義の味方は芸能人じゃないだろ?何だ?ラーメン熊ん子さん江ってのは?しかもさん江の「え」が江戸の江でよ! 
男1 正義の味方だからさ。色紙書くときも一生懸命よ。お前にとやかく言われる筋合いじゃねえな。
男3 昼間っから風呂入ってビール飲んで、いい身分だな。
男1 お前だって飲んでるじゃないか。
男3 ぶくぶくぶくぶく太りやがって。そんなしまりのねえ顔した正義の味方がいるか?
男1 そう言うなよ。福々しい顔で縁起がいいって評判いいんだよ。お前酒癖悪かったの?
男3 知るか!生まれて初めて飲んだんだ!
男1 お前な人の顔のこと言えないよ。その童顔でよく悪の化身やる気になったね。
男3 しょうがねえだろ。生まれつきなんだから。
男1 生まれつき童顔ってのはおかしいんじゃねえか?大人だから童顔なんだろ。子どもの童顔ってのは矛盾しねえか?
男3 生まれつき悪の化身ってことだよ!
男1 あ。お前生まれたときから悪の化身だったの?
男3 そうだよ。生まれたときからだよ。物心ついて以来悪の道まっしぐらだよ!こっちはまじめに悪やってんのに、お前はなんだよ!やることいっぱいあるだろう!ビール飲んでる暇があるのか?頼むよ!ちゃんと正義の味方やってくれよ!
男1 世の中の悪全部おれが面倒見れるわけないだろ!自分の仕事はちゃんとやってるよ。おれが暇そうに見えるのはお前が最近だらしないからだろ!
男3 なんだと!もう一遍言ってみろ!う。
男1 あれくらいで酔っぱらうなよ!ちょっと待て。吐きたいの?
男3 んぐ。
男1 待て待て。待てー!


  暗転。

男3 おえー。
男1 人の顔に向けて吐くなよ…


  照明。
  倒れている男3。
  見守る女1。

男3 …ブイピンク…
女1 レツアクダー…
男3 どうしてブイレンジャーやめたんだよ。
女1 …最近、宿題も多いし。
男3 ほんとのこと言えよ。
女1 なんか、いっしょにいても楽しそうじゃない。
男3 おれが?
女1 …うん。
男3 そう、見える?
女1 高野君、どうしてあんなことしたの?今までタバコなんか吸わなかったじゃない。
男3 …なんか、自分でもよく分からない。なにしたいのか。
女1 わたしのせい?
男3 違うよ!


  女2、登場。

女2 高野君!どうしたの!
男3 どうもしないよ。冷たくて気持ちいいよ、床。
女2 びっくりするじゃない!
男3 いいよ、びっくりしてくれなくても。
女2 (女1に)何してたの?
女1 別に。
女2 それでどうだった?
男3 (立ち上がって)おいらのことかい?ちっちっち。いけねえよ。堅気の娘さんが前科持ちのおいらなんかにほれちゃあ。
女2 お願い。逃げるなら私を連れて逃げて!あんたの前科のことなんて私ちっとも気にならなによタバコで謹慎くらい。そりゃあ、推薦がなくなるとかみんなに白い目で見られると担任が何回も家庭訪問にくるとかあるかもしれないわ。謹慎明けで出てきた時こんな声が聞こえるかもしれない。よーい、ハイ!


  男1、2登場。

男1 (タオルで顔を拭いながら)バカでえ、あいつ。
男2 なんか怖い。謹慎になった人って。
男1 タバコ吸ってて大学受かるわけないよな。
男3 傷口に両手入れてかきまわすのはやめてくれよ。
女2 人のかさぶたはがしたいタイプなの。
男3 悪魔!
女2 うーん。ちょっと小悪魔かなって。
男1 それでさ、どうだったの?
男3 高野上等兵只今戻りました。
男2 さっき一等兵だったよな。昇進したのか。
女2 そこから始めたい訳ね。
女1 どうなったの?
男1 帰らなくていいのか?
男3 鞄を持ちに来たのであります。しかし、再び戦地へとおもむかなくてはなりません。
男1 高野上等兵。何日?
男3 は!恥ずかしながら一週間であります。
女2 タバコって一週間なんだ。
男3 では、高野上等兵行って参ります!


  男2部屋を出るため、歩きかける。

男1 ああ、高野、推薦なくなったからな。一般受験でがんばれよ。


  男3、殴られたように倒れる。

男1 立て!立つんだ、ジョー!


  男3、立ち上がり、肩を落とし、小声で歌いながら去ろうとする。

サンドーバッグにー浮かんでー消えるー
女2 消えたままでいいよー。
男2 叩けー叩けー叩けー。(女2を軽く叩く)
女2 痛いなあ、もう!
男1 おまえ、早く帰れよ。
男3 今頃さあ、家に電話行ってると思うわけ。
男1 うん。
男3 おれ一応いい子じゃん。見かけ。
女2 そう?
男3 これから家でどんなことあるかと思うとさあ。びびるっていうか、めんどうじゃん。今まで作りあげてたイメージがさあ、くつがえっちゃうわけでしょ。
男1 しょうがないじゃん。
男3 うちの子に限ってとか言われて。
男1 いいから君は反省しなさい。
男3 なんかさあ、こういうシビアな状況っていうの?あんまり体験したことないわけ。
女2 でもあんまりマジになってないでしょ?
男3 実はそうなの。怖いな。なんか。
男1 何が怖いの?
男3 マジな自分を見るのが怖い。
女3 帰らなくていいの?先生来るよ。
男3 今日はオヤジ帰るの6時だからそれに合わせて家庭訪問。
女3 タバコなんか吸うからだよ。
男3 あたた。おれ、帰るわ。
男1 ああ。
男3 じゃあな。
男1 元気出して。
男3 あ、遠藤。戸棚のポテトチップス、食べていいから。
男1 ああ。
男3 あ、鈴木さん。戸棚の柿ピー、食べていいから。
女3 ありがとう。
男3 あ、小林。戸棚の桃の缶詰、食べていいから。
男2 なんでそんなもんあるんだよ。
男1 お前いいから早く帰れ。
男3 だって名残惜しいんだもん。じゃね。
女2 私には?
男1 おまえはいいから黙ってろ。
女2 私にはー!


  男3、去る。

男2 なんだかなあ。
男1 さすがに参ってるな。
女2 桃缶分けてよね。
男2 分かった分かった。
男1 どうする?もう少しやってく?


  校内放送

日直より連絡します。下校時間が過ぎています。生徒は消灯戸締まりを確認して校舎の外に出なさい。
男1 この校内放送信じられないからな。
続いてたった今入ったニュースです。
男1 ラジオかこれは!
何者かが時限爆弾を仕掛けたという模様です。
全員 えー!
パソコンの話です。
全員 おいおい。
パソコンにウィルスが侵入している模様です。手元のパソコンをお調べください。


  SEパソコンのノイズ。

女1 遠藤君!
男1 暴走してる。
男2 おい!ゲームどうなってる?
女2 ゲームどころじゃないでしょう。
男2 違う!ゲームから入ったんだ、きっと。
遠藤、ちょっと話したいことあるんだけど。
女2 何?何これ?
男1 おまえ……高野か?
ブイレンジャー、おまえ、まだ分かんなかったの?


  男3、マイクもって登場。

女2 マイク使うなんて邪道よ!これは高校演劇よ!
男2 おまえは黙ってろ!
男1 ブイレンジャーって…
男3 おれだよ。おれ。
男1 おまえ…レツアクダーか?
男3 気がつかなかった?
女3 どういうこと?
男1 おまえが対戦相手だったの?
女3 ゲームの?
男3 ああ。気づかなかった?
男1 おまえが時限爆弾仕掛けたのか?
男3 おれにそんなことできるわけないだろう。おれのパソコンも昨日、暴走した。ゲーム開いてみろ。すごいことになってるから。
男1 いいからマイク放せ。
男3 あ、そうか。(マイクを放す)楽だな、これ。
男1 おまえ、ずっと、おれと対戦してたの?どうして言わなかったんだよ。
男3 おれもしばらくたってから分かったんだよ。言おうと思ったけどさあ、それもおもしろいかなって思って。昨日、最後の攻撃入れたから。そしたら、プログラムの何かに反応したらしい。もうちょっと付き合ってよ、ゲーム。もうすぐ終わるから。最後の攻撃、おまえどう守るか、見せてよ。
男1 いいじゃん、終わらなくても。続けりゃいいじゃん。
男3 なんか、正体バレたら面白くないと思わない?もう終わり。
男1 どうして終わりなんだよ!
男3 これを見ろ!
男1 なんだよ。
男3 せき止めシロップだ。
男1 風邪か?
男3 これを、ここまで飲むと…薬だ。じゃあ、ここまで飲むとどうだ!
女1 やめて!
男3 寄るな!飲むぞ!
男1 なんか変だな?だって薬だろ?薬局で売ってんだろ?
男3 どうしてここまでだと薬で、全部飲むと悪いことなんだろうな?
男1 知らないよそんなこと。悪いとかいいとか言う問題じゃなくてそんなことやっちゃだめだよ!


  男3、一気に飲む

女1 何でこんなことするの!


  倒れる男3

女1 高野君!
男1 おい!
女1 高野君しっかりして!
男2 変だよ。
女2 変よ!こんなことするなんて。
男2 いやその変じゃなくて。
女2 どの辺?ってボケてる暇はないの!
男2 そうじゃなくて。瓶見せて。


  男2、瓶を取って。

男2 やっぱり。
女2 なにが!
男2 最近、やばいから麻薬成分入ってないんだよ。
男1 じゃ、どうして倒れてるんだ?
女1 高野君、暗示にかかりやすい性格だから。
女2 先生呼ぼう!
男1 よせ!謹慎なのにこんなとこでふらふらしてるの見つかるとやばい。
女1 だって倒れてるじゃない!
男1 何でもないはずだから。
男2 なんでこいつこんなするんだ?
男1 ちょっと、タオル、水濡らしてきてよ。
女1 うん。


  女1、はける。   男1、男3を抱え起こして。

男1 おい、しっかりしろよ。なんでこんなことするんだよ。
男2 倒れるはずないんだけどなあ。


  パソコンから異音。

女2 なんか変な音してるよ。パソコンじゃないの?付けっぱなしでいいの?
男2 ちょっと貸して。あ!勝手にゲームが進んでる。(男1に)おい。
男1 何!
男2 地球割れた。
男1 え!
男2 まっぷたつ。
男3 うーん。
男1 いいから!ちょっと、水持ってきて!
男2 ああ。


  男2、パソコンを持ったままはける。女2ついていく。
  照明変化

男1 おい!大丈夫か?おい!バカだなあ。


  男2、水を持ってくる。

男2 自分で飲ませといて何言ってんですか。
男1 え?おれが飲ませたの?
男2 だって先生が飲め飲めって。ビール。
男1 先生?…ああ、そういうことか。
男2 はい。
男1 …だってこいつ一口しか飲んでないぞ。
男3 水…
男1 小林。水。
男2 はい。


  男2、コップを渡す。

男1 レツアクダーの弱点はアルコールか。
男3 ブイレンジャー…
男1 何だ?
男3 もう少し、正義の味方らしくしろよ…頼むよ…
男1 お前に言われる筋合いないよ。
男3 おれ、戦いがいがないじゃない。おれ何したいか知ってるだろ?
男1 地球征服だろ?お前なあ、地球征服する前に自分の性格征服しろよ。酔いつぶれるまで飲むなよ。
男3 うるせえよ、ばかやろう…ブイレンジャーよお、お前は本物の正義の味方でなくちゃあダメなんだよお。
男1 んだって。おれ、あのとき神戸行ったよ。それでもさあ。でも、たとえビルの下から一人救ってもそこら中で人埋まっててよ。おれみたいなの、日本で一人じゃん。おれ一人じゃ何にもできないんだって。世の中変えられないんだって。おれはお前に対してだけの正義の味方なんだよ。お前に対してだけの善なんだよ。それでいいだろ?
男3 バカやろう!敵に優しい声出してどうするんだよ!お前は正義の味方だろ!絶対的な善でなきゃいけないんだよ!


  男2、コップを持ったまま二人を見ている。

男1 お前もさ、地球征服なんて言ってても、おれに対してだけの悪なんだよ。お前も絶対的な悪じゃない。最近お前何やった?係り結びの法則なくして世の中変わった?受験生が喜んでるだけだよ。カレー甘くしてインドは困ってるかもしれねえけどよ。でもな、サリンだのエイズだのテロだの地震だのもっと言えばお前の言う地球人か?地球人全体でやってる悪、環境破壊とか戦争とかさあ、日常で言えばいじめとかもあるよな。それに比べたら、お前も悪じゃないよ。やけに小市民的なところあるなあとは思ってたけど、お前いつか赤い羽根つけておれと戦ってたことあったじゃない?地球慣れしすぎじゃないの?地球征服企む悪の化身が募金するなよ。
男3 …おれ、もう悪じゃないのかなあ。
男1 おれもさ、ブイレンジャーになり立ての頃はよかったよ。敵がはっきり見えてるからさあ。ほら怒りをぶつける相手がはっきりしてるから。今何すりゃいいか分からないじゃない。普通は。
男3 ちょっと。おれ。起きる。
男1 無理するなよ。


  男3、体を起こす。

男1 おれさあ、最近悩んでるのよ。聞いてくれる?なんか物事リアルに受け止められないっていうかさあ、なんか自分の事でも他人事みたいでさあ、生きる実感がないんだよね。
男3 お前ね、正義の味方だろ?正義の味方がそれじゃ困るんだよ。おれもそうだけどお前の存在自体がリアルじゃないんだからさ、なんか自分で自分に言い聞かせてリアリティ出して世の中にひっかかっていこうって努力しなきゃ。だいたい正義の味方はどんな見も知らない縁の薄いやつ、他人のことをまるで自分のことのように感じて身を投げ出す覚悟がなけりゃ、存在する意味がねえだろ?
男1 そういうけどさあ、それは分かってんだけどさあ。
男3 おれのたった一人の敵がさあ、昼間っから風呂入ってビール飲んで、挙げ句の果ては生きる実感がないと来た。勉強イヤになった受験生じゃないんだからよ!
男1 そう言うなよ。
男3 おれ、もう帰るよ。
男1 ああ。
男3 じゃな。
男1 あのさあ、次。
男3 次?
男1 次、いつ?
男3 何、次って?
男1 次に怪人出すの。
男3 何でそんなこと教えなきゃいけないんだ!
男1 分かってた方が都合つきやすいから。
男3 何の都合だよ!分かった。おれにも考えがある。今度の戦いは!覚悟しとけ!
男1 うちFAXないから。なんか…
男3 手紙出すよ!


  男3去りかけて、

男3 ごちそうさまでした!


  男3、去る。

男1 あ!液キャベ飲んどけよ!
男2 先生。
男1 もう一本飲もうかな、と。
男2 おれ、レツアクダーさんの言いたいこと分かるような気がします。
男1 いいんだよ!
男2 先生!
男1 うるせえ!
男2 正義の味方って、おれのなりたかった正義の味方って・・・
男1 言うなよ!バカ。おれの方が付き合い長いんだ。お前に言われたくないよ。
男2 先生!


  女2タオルもって登場。

女2 あれ?高野君は?
男2 ブイイエローさん!
女2 …あたし、ブイイエローなの?
男2 ここではそういうことなんです。早く切り替えてください。
女2 久しぶりね。ブイレッド。(男2に)恥ずかしい!
男2 そんなこと言ってる場合じゃない!
女2 だってバカみたいじゃない、「久しぶりね、ブイレッド」なんて!
男2 いいから!おれたちのアイデンティティー、根本から揺るがすようなこと言わないで!
女2 久しぶりね、ブイレッド。
男1 どうしたんだ、ブイイエロー。もうここには来ないはずじゃないのか。
女2 レツアクダーについて情報を持ってきたの。
男1 なんだって!
女2 レツアクダーが悪の秘密組織マッドネスから謹慎を言い渡されたの。
男1 なんだって!どうして?
女2 分からないわ。マッドネスの鉄の掟を破ったらしい。ほんとのとこはタバコ吸ったんだけど。
男2 おい!
女2 レツアクダーはマッドネスの秘密要塞ゴクアクリュームを盗み出して、あなたに最後の戦いを挑むつもりよ!
男1 ありがとう。ブイイエロー。でも、大丈夫だよ。レツアクダーの弱さ知ってるだろ?最後の戦いっつったってさあ。
女2 今までのレツアクダーじゃないの。変身したのよ。
男1 変身?
女2 誰かがレツアクダーに変身のきっかけを与えたの。もうあなたでもかなわないわ、ブイレッド。レツアクダーは地球上のある物質を体内に入れると、今までの数千倍の力を持った絶対レツアクダーに変身するの。
男1 ある物質って…
男2 まさか…
女2 アサヒスーパードライよ。
男1 えっ!
女2 誰が飲ませたかは分からないわ。ああ、いったいなんてことをしてくれたの!
男2 あの、もしモルツだったら…
女2 その場で死んでたでしょうね。
男2 そうだったんですか。
女1 もう、あなたでもかなわないわ、ブイレッド。…地球は終わりよ。ああ、いったい誰がスーパードライなんて飲ませたのかしら…
男2 先生!
男1 慌てるな。考えがある。
女2 ブイレッド…
男1 イエロー…
女2 一つ、教えて。
男1 何だ?
女2 こういうの、演劇って言うの?なんか私が思ってたのと違う!
男2 相変わらず質問少女だな。おれたちの根本を崩すようなこと言わないでくれよ!
男1 聞かなかったことにしよう、イエロー。取り乱したおまえを見たくない。
女2 ごめんなさい、レッド。恥ずかしいのはあなたも同じだったわね。
男1 ありがとうよ、イエロー。地球が救えたらおまえのおかげだ。
女2 レッド…
男1 …イエロー、ブイピンクはどうしてる?
女2 向こうでタオル絞ってる…


  男2、女2の頭を叩く。

女2 いて。ピンクは、死んだわ。
男1 え!
女2 ブイピンクはレツアクダーにとらえられていたの。
男1 なんだって!じゃ、レツアクダーが殺したのか!
女2 逃げだそうとしたところを見つかって…
男1 レツアクダーめ…ふられた腹いせか!
女2 この情報もピンクが命がけで手に入れたものよ!レッド、ピンクの死をムダにしないで!
男1 おう!
女2 レツアクダーにスーパードライを飲ませたやつも見つけだして!きっとそいつが黒幕よ!わたしは帰るわ!宿題があるの!
男1 …ああ。


  女2去る。

男2 先生、行きましょう!
男1 やだよ。
男2 え!
男1 これ見ろ。


  男1、手紙を見せる。

男1 果たし状だとよ。見ろよ、見事な筆遣いだよ。どこの星の生まれか知らねえが、ここまでの字を書けるようになるまで、相当努力をしたんだろうなあ。
男2 先生!
男1 最後の決戦だとよ。本気だぜ、やつはよ。
男2 いつですか!
男1 ほれ。(手紙を男2に渡して)ちびちびちびちび悪を小出しにしてりゃいいのによ。これでおわっちまうじゃねえか。
男2 先生!今日じゃないですか!
男1 あせるなよ。おれは行きたかないんだよ。
男2 じゃあイエローとの約束は…
男1 正義の味方なんて戦ってなんぼの商売よ。戦ってないときゃ、実にリアリティのない嘘くせえ存在でよ。おれ、街で電話ボックス見かける度に、あれ掃除する仕事あるだろ、あの仕事に就きたいなあって切実に思うんだよ。額に汗して働くっていいよなあ。
男2 先生の仕事は立派な仕事ですよ。誰にもできる仕事じゃありません。
男1 だれもやりたがらないんだよ。音楽!しみじみのテーマ。


  音楽「ブイレンジャー誰が為に戦う」

男1 最近じゃ戦ってるときもなんか虚しくてな、こないだも千葉の方で戦ったじゃん。で、まあ、相変わらずレツアクダーの部下の怪人やっつけて、まあ、二、三発殴ったら向こうが勝手に爆発してくれたんだけど、帰りにマリーンスタジアムのそば飛んでたらよ、ロッテが試合してたのよ。それでも二万人くらい入っててよ。かっとばせーとか言ってんのよ。ああ、おれが正義のために戦ってるときに、こいつら球遊び見てたんだなあってよ、思ったらよ。
男2 ロッテも久しぶりのAクラスかかってますからね。
男1 そういうことじゃなくて!おれもよ、パリーグじゃロッテだよ、やっぱり。山本監督いいじゃねえか。小宮山のめがねはおかしいと思うけどな。そういうことじゃなくてさ。
男2 先生!人に認められたくて正義の味方やってんですか?
男1 そうじゃないんだけどね。決してそうじゃないんだけどね。なんか、つらいなあってよ!思ってよ!
男2 先生。
男1 ま、正義の味方がよ!ぐれるわけにもいかねえから!ちょっとすねてんの!どうしておれは正義の味方なのかなあって!
男2 先生…先生のつらいの、わかります。いえ、わかりません。わかりませんけど…
男1 同情してくれんの?
男2 いいえ!同情なんて!でも…かわいそうです。
男1 それが同情っつうんだよ。みんなよ、色紙なんて欲しがってるけどよ、心の中じゃバカにしてんだよ。理解されねえの、つらいもんだよ。やるせなさだよ。しみじみだよ。おい。
男2 なんですか?
男1 新しい技。考えた。しみじみ光線と孤独ファイヤー。
男2 先生…


  男3登場。

男3 遅いよ。
男1 あ、ごめん。
男3 手紙読んだだろ。
男1 お前いきなり最後の戦いはないだろ。
男3 お前、こないだおれのこと悪じゃないって言ったよな。
男1 ああ、悪なんてないよ。悪ってのはな、昔な、強かったお前を見て、いや強いと思ってたお前の影を見ておれの心に浮かんできた暗い部分のことだよ。
男3 分かってないよ。正義の味方がなぜ正義の味方でいられるか。力か?違う。意志だ。悪を憎み、人の善意を信じ、正義の旗をを掲げ続けたお前の心がお前を正義の味方にしていたのだ。しかしお前は死んだ。お前の心は死んだ。善は息絶えた。
男1 ツアクダー。芝居が重いよ。またせこい怪人出して来いよ。なんで最後の決戦なんだよ。気長にやろうよ。お前が戦いに出て来なくてもいいじゃないか。
男3 お前が善であるのをやめたとき、おれは本物の悪を手に入れた!
男1 なにが本物の悪だよ!体育館の裏でこそこそタバコ吸って本物の悪が聞いてあきれるよ!
男3 いいんだよ!それとは関係ないだろ!
男1 高野さあ、なんか変だよ。どうしたんだよ。どうしておれとゲームしてること黙ってたんだよ。いいじゃん。続けようよ。そばにいたら電話代もかからないしさあ。
男3 だめだよ。ブイレンジャー。ゲームばっかりしてちゃ。
男1 それくらいしか楽しみないよ。
男3 ゲームの中だけで生きてるといつか痛い目に遭うよ。
男1 いいか!今この場でお前の息の根を止めてもいいんだ!
男3
男1 お前のこと、殺しちゃうよ。
男3 やってみろ。


  殴りかかる男1。
  男1、倒れる。

男3 お前が言ったとおり、おれとお前は光と陰だった。悪があるから善もある。人間の心の中に善と悪が同居するように。今は違うよ。お前のおかげでおれは本当の悪になれたよ。絶対的な悪のレツアクダー。絶対レツアクダーの復活だ。


  苦しむ男1   音楽「レツアクダーのテーマ」   地の底が揺れるような音が聞こえる。

男3 次元の隙間を浮遊していた要塞ゴクアクリュームが姿を現した。ソドムとゴモラ以来の絶対悪の絶対レツアクダーの復活を待っていたのだ。さようならブイレンジャー。地球はこれで終わりだ。あの醜い太った男のわめいていたことは本当になってしまった。あれだ、例のやつだ。
男1 レツアクダー!
男3 ハルマゲドンだ。


  ゴクアクリュームが姿を現す。SE。

男1 レツアクダー!…急にマジになるなんてずるいぞ…
男3 君のせいだよ。ブイレンジャー。


  男3、去っていく。
  男1に駆け寄る男2

男2 先生!大丈夫ですか?
男1 おいどうする?本物だよ。
男2 どうしようもなく本物ですね。
男1 とてつもなく本物だ。
男2 こう言うの本物っていうんですね。
男1 嘘くさいね、本物って。おい、でかいね、ゴクアクリュームって。インデペンデンスデイだね。パニックになるだろうな。なんか始めてるね、もう。気の早いやつだね。おれのうちの近所から始めなくてもいいのにね。燃えてるねえ。
男2 見物してる場合じゃないでしょう。
男1 おれ、火事好きでさ。子どもの時から。よく田舎で納屋の火事見に行ったもんだよ。
男2 先生!
男1 あいつさあ、北富士演習場とか人の居ないところ戦いの場所に選んでたじゃない。人に迷惑かけないように。そういうやつだったのにな。
男2 先生!
男1 あいつ猫飼っててさ、交通事故で死んだとき、一晩中泣いてたんだよ。そういうやつなんだよ。
男2 先生!
男1 おれに何しろってんだよ!
男2
男1 善だとか悪だとか絶対的とかよ、おれには難しくてよくわかんねえんだよ!
男2 何とかできるとしたら先生しか!ブイレンジャーしかいないじゃないですか!あいつが絶対悪のレツアクダーなら先生は絶対善になるしかないじゃないですか!
男1 そんなこと考えたこともなかったなあ。ブイレンジャーになったのも偶然だったしなあ。アルバイトだったのよ、最初は。
男2 そうなんですか!
男1 戦後はさあ、正義の味方も世襲制が廃止されてさあ。先代のブイレンジャーから引き継いだんだけど、レツアクダーにお前は善じゃないって言われてドキッとしたよ。やっぱりなあって。
男2 あの、世界の終わりなんですから。今反省しないでください。
男1 なんかお袋に泣かれたときみたいにうら悲しくなっちゃって。しみじみそうだなあって思ってさ。
男2 先生!
男1 もう先生って言うなよ。あ。お前。替わってくれない?
男2 えー!
男1 正義の味方として、デビュー!
男2 勘弁してください!
男1 なんかこんな危機に陥っても、燃えないのよ。街はぼーぼー燃えてるけど。ほら長島茂雄がね、選手生活の晩年にね、三振しても悔しくないって、それで引退を決意したんだって。
男2 ちょっとそういう話は、ほら燃えてるし。
男1 いや、これも決断の時でな。あ、ちょっとマニュアル取ってきて。
男2 マニュアル?
男1 ブイレンジャーのマニュアル。あ、おれ行く。


  爆発音。

男2 わー!
男1 これこれ。これさえあればブイレンジャーになれるよ。こんなおれについてきてくれたお前にさあ、世界の終わりにちょっとだけいい目見せてやるよ。いや別に責任逃れする訳じゃないけど。
男2 あきらめないでくださいよ。
男1 レツアクダーに言われて目が覚めたよ。おれ今までおごりがあったよな。今日、あいつかっこよかったと思わない?
男2 先生!
男1 おれ、あいつと戦ってきたんだなあ。
男2 先生!
男1 そうか、世界終わるのか。ハルマゲドンかあ。
男2 はい。
男1 最後か。最後に、もう一花咲かせるか!
男2 そうですよ!
男1 バカヤロウ!そうですよ!って目をきらきらさせて言いやがって!なにさまのつもりだ!おめえに励まされるほど落ちぶれちゃいないよ!おれを誰だと思って口をきいてるんだ!おれは、おれは…
男2 先生!
男1 正義の味方ブイレンジャーだ!
男2 日本一!
男1 行くぞ!超虚構戦隊ブイレンジャー、発進!
男2 よっ大統領!
男1 バカヤロウ!大統領より偉いんだ!
男2 はい!
男1 おい、ちょっとマニュアルとって。
男2 はい。
男1 どれどれ…敵が最後の戦いを挑んできた場合…


  溶暗・効果音(街が破壊される)
  照明。男3立っている。
  女1出てきて。

女1 高野君。
男3 あ、先生。
女1 高野君。謹慎中でしょ。外出はいけないのよ。知ってるでしょ。
男3 はい。
女1 今日は黙っててあげるから、早く家に帰りなさい。何してたの?
男3 あの、ちょっとゴクアクリュームに。
女1 なんで謹慎中にゴクアクリュームに乗るのよ。
男3 あの、ブイレンジャーと、最後の戦いだから。ハルマゲドンで。
女1 あなたハルマゲドンと謹慎とどっちが大事なの?
男3 …謹慎です。
女1 でしょう!そんなこと謹慎が終わったらいくらでもできるでしょう。ほんとに反省してるの?
男3 はい。してます。
女1 今日はいいから帰りなさい。ね。
男3 はい。
女1 ね、まっすぐ帰るのよ。
男3 はい。あ、先生。
女1 何?
男3 あの、小論文なんですけど。
女1 あ、やってる?締切いいから。待ってあげるから。
男3 あの、何書けばいいか、よく分からなくて。世界が抱えている問題って…あの、すごく小さいことでもいいですか。
女1 あ、何でもいいよ。どんなこと書くの?
男3 新聞の投書欄に載ってたんですけど、電車とかで小さい子が騒いで、お母さんが叱らなくて。
女1 最近そうだってね。
男3 叱っても、そんなことしてると怒られるからしないようにって。怒られるから悪いことしないって、おかしいですよね。なんか世界と関係ないですけど、こういうのでもいいですか?
女1 いいんじゃない?たとえば、法律があって、罰せられるから悪いことしないのか、それとも悪いことだからしないのか、っていう問題ね。今、全体的にモラルの低下が言われてるから。
男3 これで書いてもいいですか?
女1 いいよ。あ、こういうのは?みんな悪いことだからタバコ吸わないのか、それとも謹慎になっちゃうから吸わないのかって。
男3 …もうタバコはいいですよ。
女1 悪いことってなんだろうね?先生も昔ブイピンクやってたことあるから正義とか悪とか興味あるんだ。
男3 …先生。おれ、やっぱり。
女1 しょうがないなあ。ハルマゲドン?じゃ、先生知らないふりしててあげるから。早く済まして帰りなさい。あとはまじめに謹慎してなさいよ。
男3 すいません。あ、地球なくなっちゃうけど、それでも宿題出さなきゃだめですか。
女1 地球と宿題どっちが大事なの?
男3 …宿題です。


  男1にスポット。

男1 レツアクダー。おれとお前のこの嘘くさい戦いももうすぐ終わりだな。お前、おれが相手しなくなったの、寂しかったのか?最後の大嘘に付き合ってやるからな。もういいか?みんなちゃんと殺したか?街という街焼き払ったか?
レツアクダー!お前が絶対悪のレツアクダーになったとき、おれも絶対善の絶対ブイレンジャーになった。もう、地球も人類も知ったこっちゃねえ。最後の戦いがハルマゲドンなら人類が死滅しようと、地球が二つに割れようとかまわない。おれはお前を倒す!行くぞ!


  音楽「ブイレンジャー戦いのテーマ」

天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ何より敵が呼んでいる。呼ばれて飛び出てジャジャジャジャン!レツアクダー。最後までふざけてごめんな。これ性分で直らないんだよ。(ポーズ)超虚構戦隊ブイレンジャー!


  照明。

男2 (上を見上げて)先生!巨大化するなら巨大化するって言ってくださいよ。アパートボロボロなっちゃったじゃないですか!だいたいいつからそんなことできるようになったんですか。
男1 (下を見下ろして)なんか…できちゃった。
男2 先生!ゴクアクリューム戻ってきました!行ってください!
男1 小林!いいのか?今おれがあいつと戦うとほんとに人類死滅しちゃうよ!
男2 行ってください!戦ってください!悪を倒すためなら、地球はどうなってもかまいません!
男1 小林!一人前の正義の味方にしてやれねえですまんな!やっぱりブイレンジャーはおれ一人だ!
男2 先生!いいんです。戦ってください!おれを踏みつけてでも行ってください!
男1 そうだな。
男2 わ!
男1 いたの?
男2 いいんです!踏みつけ、殺して、行ってください!レツアクダーを、悪を倒すためなら、おれのことなんて、気にしちゃいけません。
男1 うん。おれもそう思うんだ。おれ、自分が何したかったかやっと分かったよ。自分がさあ、何者でもないいんじゃないかってさあ、悩むこともあったけど、今は違うよ。いやあ、充実してるなあ。気力も体力も。小林!どこだ?
男2 ここです!
男1 うん。おれもそう思うんだ。おれ、自分が何したかったかやっと分かったよ。自分がさあ、何者でもないいんじゃないかってさあ、悩むこともあったけど、今は違うよ。いやあ、充実してるなあ。気力も体力も。小林!どこだ?
男2 ここです!
男1 どこ?
男2 先生の右足の親指と人差し指の間です!
男1 おれ、小さい頃下駄ばかり履いてたから、指の間広いんだ。
男2 先生!
男1 小林!おれ、お前踏んでから行くよ。景気づけによ!どこかでおれ、お前のこと悪いなあって気持ちあるんだ。でも、ブイレンジャーがそんなちっちゃいこと気にしてちゃいけないもんなあ。弱い自分にさよならってか。小林!おれ、お前踏んで、レツアクダーの待つ、ゴクアクリュームに飛んでいこうと思うんだ。
男2 先生!踏んでください!おれ、先生のそんな生き生きした顔見るのお世話になってから初めてです。おれを踏みつけて行ってください!
男1 小林!行くぞ!
男2 先生!レツアクダーに勝ってくださいね!
男1 バカヤロー!おれがその気になったらできねえことは何もねえんだ! ブチュ。
男2 先生…かっこいい…(息絶える)
男1 小林。行って来るから。ありがとうよ。おれ、お前のこと、忘れるわ、たぶん。これからちょっと大変だから。ダアッ!


  男1、飛び立つ。

男1 レツアクダー!


  男3、登場。

男3 ブイレンジャー!


  男1、男3走り寄って戦う。
  照明、シルエット。音楽 「ラヴィアンローズ」
  通信音。
  ゲームの起動する音楽。
  パソコンを持った女1登場。
  照明落ち、パソコンの明かりだけ。
  女1、パソコンを客席に向ける。

(女性の声で)サヨナラ。


  女1、パソコンのふたをゆっくり閉める。
  幕

第3稿


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