FAR.


キャスト

女1まーちゃん
女2ちーちゃん
女3おーちゃん
女4
女5



  幕開け
  音楽
  舞台奥十本の様々な高さのライトスタンドが不規則に並んでいる。
  少女がスタンドの間を歩いている。少女を導くようにスタンドが点いていく。
  少女が通り過ぎると消えていく。
  中央のスタンドが点く。女4、女5がいる。

女4 行っちゃったね。
女5 うん。行っちゃった。
女4 いいのかな。
女5 いいよ。
女4 行きたかったのかな。
女5 行きたかったんだね。
女4 いいのかな。
女5 いいよ。
女4 大切にね。
女5 え?
女4 大切に。
女5 なにを?
女4 名前。
女5 うん。
女4 名前を大切にね。
女5 そうだね。


  女4、女5スタンドの下を歩いていく。
  消えていくスタンド。
  舞台前に明かり

女2 『遠い声』を読んで。三年三組斉藤まき。
わたしはその一行を読んで、ああ、とても懐かしいと思いました。
少年は犬を連れて、旅をしています。犬の名はオカリナ。
少年に家はありません。帰るところもなく、ただ、旅をしています。
旅の行く先はどこなのか。何のために旅をしているのか。
少年にもわかりません。
少年は自由でした。少年は誰とも出会いません。少年は無人の荒野や、砂漠や、海岸や、森を、旅しています。少年はただ、旅しています。
少年は悲しいほど自由でした。
ある日、少年は暗い森を歩いていました。
少年は寂しくありません。
少年は寂しくないときがなかったので、寂しいことがどんなものか、忘れてしまったのです。
暗い森です。茂った木の葉の隙間から漏れてくる光も、少年には届きません。
少年は自分がいつから旅をしているのか思い出そうとしました。
それから自分の家がどこにあるのか思いだそうとしました。
自分がいつオカリナと出会ったのか思いだそうとしました。
わかりません。少年にはなにもわかりません。
そのときです。遠くで少年を呼ぶ声がしました。オカリナの声です。
そういえば、片時も少年の側を離れたことがないオカリナの姿が見えません。
少年は声の呼ぶ方へ足を踏み出しました。しかし少年の足下には今までなかったはずの沼があったのです。
少年は沼に落ちてしまいました。


  蝉の声。
  舞台前のエリアに照明が灯る。
  女1、寝ころんで雑誌を読んでいる。
  女2テーブル(というよりもちゃぶ台)に近づき、豆の山の前に座る。
  豆の端を取り出す。

女1 暑い。
女2 うん。
女1 すごく暑い。
女2 うん。
女1 どうしてこんなに暑いの?
女2 うん。
女1 異常気象?
女2 うん。
女1 エルニーニョのせい?
女2 うん。
女1 ああ、蝉がうるさい。
女2 うん。
女1 まったく!蝉の養殖でもしてるんじゃないの。
女2 うん。
女1 夜は夜でゲコゲコゲコゲコ蛙の声で眠れないし。何なのあれは。ゲコゲコゲコゲコ何万匹いるのかしれないけど、蛙の養殖でもしてるんじゃないの。
女2 うん。
女1 やっと眠れたと思ったらそこら中にでっかいスピーカーがあってラジオ体操は流れるし。子供はワイワイキャーキャー言いながら後から後から走ってくし。やけに子供が多いのよ。田舎なのに。
女2 養殖でもしてんじゃないの?
女1 なに?
女2 なんでもない。
女1 気にならない?
女2 寝てるから。
女1 は!寝てる!いいわね!
女2 結構、細かいのね。
女1 まあね。
女2 いいじゃん。昼寝してるから。
女1 昼寝でもしなきゃやってられないよ。することないし。
女2 散歩でもしてきたら?
女1 散歩?この暑いのに?散歩してどうするのよ。景色でもよけりゃいいけど、トマト畑とキュウリ畑となす畑とトウモロコシ畑があるだけじゃない。おばあちゃんが言ってたよね。この辺もとうとうコンビニができてねえ。歩いて30分かかるのよ。それはコンビニじゃない!200メートルごとにあって初めてコンビニよ!車があればなあ。
女2 あるじゃない。おじいちゃんの軽トラ。
女1 車あったって免許がないじゃない。
女2 バレないわよ、この辺じゃ。
女1 あんたまた納屋につっこむ気?初日でこりたでしょ。
女2 あのギヤっていうのが分かんないのよね。
女1 あんたね、ハンドルこう、手前に引いたって止まるわけないでしょ。飛行機じゃないんだから。わたしはね、口だけ。あんた普段おとなしいけどやらかすことはとんでもないんだから。
女2 新しい納屋も意外と早くできたわねえ。
女1 おじいちゃんも迷惑だよ、こんな孫が夏休み中来てて。


  女2、豆の筋を取っている。

女2 手伝ってよ。
女1 えー?
女2 二人でやれば早いでしょ。
女1 早くなくてもいい。
女2 やってよ。


  女1、手伝い始める。
  すぐ飽きる。

女1 まったく、世間じゃバカンスよ。バケイションよ。なんでこんなとこで豆剥いてなきゃいけないの?どうして?
女2 剥かないと食えないから。
女1 そういう意味じゃなーい!あーつまんない!
女2 …………
女1 お腹空いた。
女2 何よ突然。
女1 何か食べたい。
女2 おばあちゃんがおやつ冷蔵庫に入れてあるって。
女1 知ってるよ。
女2 あ、そう。
女1 ……
女2 何よ。出せってこと?
女1 食べたくないの?
女2 ……食べたいわよ。
女1 じゃ出せば。
女2 じゃ、いい。食べたい人が出して。
女1 食べたいわよ。でもあんたが出したのを食べたいの。わたしが出したのは食べたくないの。
女2 まったく。


  立ち上がり、出ていく女2。

女1 ……(袖に)ねえ。なんだった?おやつ?


  返事がない。

女1 (袖に)麦茶じゃないのある?ねえ!
……今日の、何?ねえ!
……しょうがないなあ。
怒ったの?


  溶暗。
  音楽。
  舞台奥のスタンドがゆっくり不規則に灯っては消える。
  最後に少女がその下に座っているスタンドが灯る。
  灯りを見上げる少女。女4、女5明かりの中に入っていく。

女4 暑い。
女5 うん。
女4 すごく暑い。
女5 うん。
女4 どうしてこんなに暑いの。
女5 うん。
女4 異常気象で蝉で蛙がゲコゲコ。
女5 子供がラジオ体操でワーワーキャーキャー。
女4 養殖で寝てるから。
女5 は!散歩がコンビニで軽トラ。
女4 免許が納屋でハンドル。
女5 あー夏休みが豆の筋。
女4 おやつが冷蔵庫であんたが出して。
女5 麦茶が怒ったの?


  沈黙

女4 暑い。
女5 うん。
女4 どうして蝉蛙ゲコ。
女5 養殖散歩納屋。
女4 豆おやつ麦茶。


  電話の音。

女4 電話だよ。
女5 電話だ。
女4 電話かな。
女5 電話ですよー。


  ゆっくり消えていくスタンド。
  女2にネライ。

女2 おとうさん?どこ?病院?
たいくつ。うん。暑いし。
なんだか二千年も夏休みが続いているような気がする。
おかあさんは? 別に。心配じゃないけど。
一応聞いとこうと思って。


  電話の音。
  女2にネライ。

女1 おとうさん?どこ?病院?
涼しいよ。快適だよ。田舎はやっぱりいいね。
おかあさんは?
そう。よかった。
毎日二人きり?新婚みたいだね。
女2 ちーちゃん?
うん。元気。
相変わらず勝手なことばかり言ってるけど。
もう大丈夫みたい。平気にしてるよ。明るくしてるから。
立ち直ったみたい。
でも……痛そうだよ、膝。
また手術するの?
だって訊けないから。
女1 まーちゃんは元気。大丈夫、ふつうだよ。
そう、時々変なこと言い出すけど。まあ、もともと性格悪いから。
そう、わたしと同じで。
またこないだみたいに、あんなこと言い出すんじゃないかと思ってたけど、わたしも。
大丈夫。
膝は痛くない。サポーター取っちゃったよ。
そう、全然平気。
女1 ねえ。
わたし、こっちに残っちゃだめかな?
そう、夏休み……
うん、終わっても。
そっちは、やだよ、もう。
おかあさん……
おかあさんは、いいよ。
おかあさんわたしのことなんか忘れてるよ!
……ごめん。
だって、そっちにいてもさあ。
こっち、合ってるんだよ、わたしに。
ダメ?うん。それはわかるけど。
うん……わかった。
女1 ねえ、帰らなくていいの?
なんか、いろいろあるんでしょ?
四十九日とか……やらないの?
おばあちゃんたちも心配してて。
そう、やらないの。
うん。うん。
本当に帰らなくていいの?
うん。うん。
わかった。
じゃ。おとうさんも。うん。
女2 あの!おかあさん、大丈夫?
うん。じゃあね。(電話切れる)
おとうさんもさ、元気でね…


  女2のネライ消える。

女1 おかあさん、電話出られるようになったら……
忘れてたりして。わたしたちのこと。
冗談よ。
じゃ。元気でね。
あ、おばあちゃん野菜送るって。
じゃね。


  女1の単サス消える。
  舞台前の照明ゆっくりと灯る。
  少女(女3)、女4、女5テーブルに付いている。

  女1、女2登場。

女1 (歩きながら)また麦茶かあ。××××飲みたい。


  女2、テーブルにおやつを並べる。

女2 三〇分歩いて買ってくれば?
女1 ま、いいや。おやつおやつ。麦茶麦茶。
女2 その繰り返す癖、ババくさいよ。
女1 ほっといてよ。
女2 はい。麦茶。はい。水ようかん。
女1 はい。麦茶。はい。水ようかん。
女2 はい。麦茶。はい。水ようかん。
女1 はい。麦茶。はい。水ようかん。
女2 はい。食べましょう。
女1 食べよう食べよう。水ようかん水ようかん。おいしそう。あれ?
女2 何?
女1 どうして三つなの?
女2 え?
女1 あんた持ってきたんでしょ。
女2 わたし、三つ持ってきた?
女1 三つあるじゃん。
女2 うそ。
女1 目の前に。
女2 ほんとだ。
女1 どうして?
女2 どうしてだろ?……あれ?三つじゃないの?
女1 (女3と目があって)ああ、この子の分か。
女2 なあんだ。
女1 食べよう食べよう。
女2 (女3に)さ、食べよう。


  女3、うなずく。三人食べ始める。

女1 夏はやっぱり麦茶よねえ。
女2 何言ってんだか。
女1 (水ようかんを食べて)おいしい!これどこの?
女2 この近くの。
女1 ふうん。……(女3を見て)おいしそうに食べてる。
女2 ホントだ。
女1 ……ねえ。
女2 ……なに?
女1 この子、だれ?
女2 さあ。
女1 (やや大きい声で)この、水ようかんおいしそうに食べてるこの子だれ?
女2 近所の子?
女1 違う違う。えーっと……


  二人、女3を見つめる。
  女3、食べ終わって、麦茶を飲み軽くむせる。

女1 大丈夫?


  背中をさする女1。

女2 優しいのね。
女1 子供には。
女2 わたしも子供なんだけど。
女1 あんたは別よ。
女2 (女3を見て)かわいい髪型。
女1 うん。
女2 おいしかった?


  うなずく女3。

女1 なんか……
女2 なんかさあ、知ってるよね、この子。
女1 うん、知ってるんだ。
女2 ねえ。知ってるよね。
女1 知ってる知ってる。
女2 また繰り返した。
女1 ババくさいよね。
女2 うん。(女3に)もう一つ食べる?もういい?


  女3、うなずく。

女1 ……ちょっと、涼しくなったかなあ。
女2 夕立、来るのかな。
女1 うん。


  女3、コップを片づけ始める。

女1 なに?片づけてくれるの?いいのよ、この子がやるから。
女2 ちーちゃん!


  三人で片づけ。
  女3、お盆を持って歩き出す。

女2 あ、いいよ。わたしやるから。


  かまわず女3、出ていく。後を追う女2。

女1 いい子ねえ。ちょっと見習いなさいよ。
女2 ちーちゃんがね!


  女3の後を追う女2。

女2 あ、転ばないでよ。
女1 大丈夫?


  立ち上がる女1。膝に痛みが走る。膝を押さえて、顔をしかめる。

女1 見てやってよ。大丈夫?


  歩きだそうとしたが膝が痛い。
  座り直し、膝をなでる。
  女2、後を追いかけていく。

女4 ハイどうもー。
女5 どうもー。
女4 右でーす。
女5 左でーす。
4、5 右左でーす。
女4 とういうことでね。
女5 はい。
女4 夏ですね。
女5 夏です。
女4 暑いですね。
女5 暑いです。
女4 夏休みですね。
女5 夏休みです。
女4 夏休みといえば。
女5 夏休みといえば。
女4 読書感想文です。
女5 え?
女4 え?
女5 そうなんですか?
女4 はい。
女5 あのね。
女4 はい。
女5 海水浴とかラジオ体操じゃなくて。
女4 読書感想文です!
女5 そうですか。
女4 読書感想文といえば。
女5 読書感想文といえば。
女4 気が進まないですね。
女5 自分から言い出しておいて何ですか。
女4 わたしは毎年困ってます。
女5 あんなのササーと読んでパーと書いたらいいじゃないですか。
女4 こうなったら一緒にやりましょ。
女5 一緒にって、同じの出したらまずいじゃないですか。
女4 じゃ、違うの出しましょ。
女5 それじゃ別々にやったらいいじゃないですか。
女4 わたしが二冊読むからあなた二つ書いてくださいよ。
女5 何言ってるんですか。
女4 じゃこうしましょ。わたしが読んだのであなた書いてください。あなたが読んだのでわたしが書きますから。
女5 ちょっと待ってください。
女4 待ちますよ。待つの得意なんですわたし。
女5 あなたが読んだ本でわたしが読書感想文を書く。
女4 はい。
女5 わたしが読んだ本であなたが読書感想文を書く。
女4 はい。
女5 それじゃわたしが書く読書感想文の本をわたしは読めないんですか。
女4 読めませんよ。わたしが読むんだからそれでいいじゃないですか。
女5 ああ、なるほどって、それじゃ書けないじゃないですか。
女4 今のがノリツッコミってやつですか。
女5 こないだ覚えたんでちょっとやってみました。
女4 勉強してますね。
女5 そうじゃなくて、わたしどうやって書けばいいんですか。
女4 パーっと書いちゃってください。
女5 …落としてください。
女4 え?
女5 それじゃ落ちませんよ。
女4 落ちてませんか?
女5 落ちてません。
女4 うーん。
女5 どうするんですか!
女4 えーん。
女5 泣くな!
女4 ハハハ。
女5 笑うな!


  女4、走って袖へ。

女5 逃げるな!


  女5、追いかけて袖へ。
  女1、女2入ってくる。

女2 おかしいなあ。
女1 いないの?
女2 見失った。
女1 コップは?
女2 流しにあった。
女1 お勝手から出たんじゃないの?
女2 うん……


  女2、座って豆の端を取り出す。

女1 あんた、まだやってるの?
女2 そう思ったら手伝ってよ。なんかやってもやっても終わらないんだよ。


  女1、豆の端を取り出す。

女1 ねえ、あんた、宿題やってる?
女2 やってない。
女1 どうするの?
女2 やらない。
女1 いいの?
女2 宿題やって何かの役に立つの?
女1 わかんないよ、役に立つとか考えたことないから。
女2 問題集とか、地図塗るとか、読書感想文とか。バカみたい。
女1 でもやらなきゃ困るじゃん。
女2 わたしは別に困らないけど。
女1 受験もあるし。
女2 ちーちゃんが受験!自分のとこの上に行けばいいじゃん。エスカレーターなんでしょ。短大。
女1 (膝をさすりながら)もう、行けないよ。バスケできないから。
女2 ごめん。
女1 いいよ。しょうがないじゃん。
女2 うん。
女1 またおとうさん呼び出されるよ。
女2 まあね。
女1 一学期は大変だったんだから。おとうさん忙しいのに。何回行ったの?
女2 学校へ?
女1 うん。
女2 二回。
女1 あんたに内緒で後三回は行ってるよ。
女2 あら。
女1 あら、じゃないよ。
女2 しょうがないよ。あのときは。
女1 まったく。一学期、学校何日行った?
女2 ……二十日くらい……
女1 わがままだよ。
女2 でもさあ、おとうさんもさあ、うるさいと思わない?男のくせにあれするなこれするな、ああしろこうしろって。
女1 わたしにはそうでもないけどなあ。
女2 うるさいよ、やっぱり。やれタンスが開けっ放ししだとか、トイレの電気が付けっぱなしだとか、おしっこはちゃんとトイレでしろだとか、子猫を拾ってきちゃいけないとか、子犬を拾ってきちゃいけないとか、馬をつれてきちゃいけないとか、馬を家に入れちゃいけないとか、馬をベッドに入れちゃいけないとか、馬に乗って学校に行っちゃいけないとか。
女1 何言ってるの?
女2 おとうさんは馬に恨みでもあるのかな?
女1 あんた、やっぱり変だよ。
女2 わたしもやらなきゃいけない?宿題。いいや、転校しよ、転校。
女1 バカなこと言ってないで。
女2 バカでいいです。だいたい読書感想文なんてさあ、読書嫌い増やすだけだよ。テレビ局の陰謀なんじゃないの?本読ませないようにさあ。感想なんてないよ。本読んだって。高校にもあるの?読書感想文て。
女1 あるよ。
女2 どうするの?ちーちゃん、本なんて読まないじゃん。運動バカだから。
女1 あんたねえ!……実はわたしもどうしようかと思ってるの。あとがき読んで書こうかな、と。
女2 だめだよ。そんなの。
女1 どうすればいいかなあ。なんかない?マンガになってるやつとか。
女2 わたしが作ってあげようか。
女1 書いてくれる?
女2 違うよ。作るんだよ。書くのはちーちゃん。
女1 書いてくれるんじゃないの?
女2 作るの。
女1 どういうこと。
女2 ちーちゃんの、読書感想文の本の話ををわたしが作って、ちーちゃんがそれをを聞いて、感想文を書くの。そしたらちーちゃんは本読まなくていいし、この世にない本だから、先生にもばれない。
女1 なんかかえってめんどくさいような……
女2 じゃいいよ、本読めば。
女1 どんな話?
女2 えっとねえ……こういうのは?
女1 どんなの?
女2 姉妹がいました。姉は不細工でしたが、妹は美人でした。
女1 ダメ。
女2 姉妹がいました。姉は性格が悪く、妹は気だてのいい娘でした。
女1 ダメ。
女2 姉妹がいました。姉は頭が悪く……
女1 ダメ。
女2 なんでよ!
女1 ダメに決まってるでしょ!
女2 フィクションだよ!
女1 とにかく、姉妹の話はダメ。
女2 まったくわがままなんだから。……こうしよう。主人公は男。
女1 男男。男にしよう。男好きなんだ、わたし。
女2 えっと。あるところに……少年がいました。
女1 いくつ?
女2 え?
女1 いくつよ?その少年って人。
女2 いくつって、年?
女1 当たり前じゃない。
女2 いいじゃん、いくつでも。
女1 年がわからないとイメージがわかないよ。
女2 お話の感想だからね。男の感想じゃないからね。
女1 わかってるよ!
女2 じゃあねえ、十三歳。
女1 そんなに下なの?それじゃ対象外だよ。せめて十五にしてよ。
女2 うるさいこというと十一にするよ。
女1 いいよ、じゃ。十三で。でもかっこよくしてよ。
女2 なんか趣旨が違うような気がするなあ。
女1 いいじゃん。で、そのかっこいい十三の少年の名前は?
女2 だから、そういうのもどうでもいいんだよ。
女1 名前がわかんないとなあ。
女2 ないの。名前。
女1 ないの?困るなあ。
女2 何が困るの?
女1 いろいろとさあ、呼ぶときとか。
女2 ちーちゃんが呼んでも振り返ってくれないよ。
女1 そんなことないよ。
女2 とにかく名前はないの。
女1 しょうがないな。家は?どこ?
女2 家もないの!
女1 家、ないの?どこに住んでるの?
女2 だから……あ、旅をしてるの。
女1 旅?いいじゃん。だれと?
女2 だれとって……
女1 まさか女とじゃないでしょうね。
女2 違うよ。そうそう、犬とだよ。
女1 犬と。ふーん。まさかその犬パトラッシュって言うんじゃないでしょうね。
女2 なにそれ?
女1 そういうのがあったのよ。「母を訪ねて三千里」
女2 母なんか探してどうするのよ!だいたいパトラッシュって「フランダースの犬」だよ!
女1 知ってるんなら最初から言ってよ!
女2 常識だよ!それで!犬の名前はオカリナって言うのね。少年は気がついたらずっと旅をしてるの。何のためかもわからないの。ただ、旅をしてるの。
女1 で、いろいろな人に出会って。
女2 出会わないの。
女1 出会わないの?優しい猟師のおじさんとか。親切にしてくれる農家のおばさんとか。
女2 出会わない。
女1 ほのかな恋心を寄せる娘とか。
女2 出会わない。
女1 出会おうよ。
女2 出会わないの。
女1 なんか。変だよ。
女2 少年にはオカリナしかいないのよ。
女1 かわいそうね。
女2 うん。
女1 ……風、出てきた。
女2 うん。


  中央のスタンドに灯が入る。女4、女5座っている。

女4 嘘だよ。
女5 嘘なの。
女4 嘘なんだ。
女5 嘘。
女4 本だよ。
女5 読書感想文だよ。
女4 少年だよ。
女5 犬だよ。
女4 旅なんだって。
女5 出会わないの。
女4 出会わないんだよ。
女5 出会うさ。


  女3、絵日記を持って入ってくる。
  スタンドの灯消える。

女1 来たなあ。
女2 どこ行ってたの?
女1 それ、取りに行ってたの?


  女3、机に向かって絵日記を書き出す。

女1 ほら、この子だって宿題してるじゃない。
女2 絵日記かあ。なつかしい。
女1 何描いてるの?


  女1、絵日記をめくる。
  女4、女5やってきてのぞき込む。女1、女2は気づかない。

女2 虫取り。花火。
女1 絵、うまいね。これ、おとうさんとおかあさん?


  うなずく女3。

女2 海水浴。ラジオ体操。
女1 これは?
女2 木がいっぱいで……森?
女4 森だよ。
女1 これは……水色で……
女2 池……沼かな?
女5 沼だよ。
女2 沼なんてあるの?このへん。
女4 あるよ。沼だよ。
女1 ……うん。
女2 行ってみたいな。
女5 行ってみたいね。
女1 ダメ!
女2 (女3に)行ったことある?


  女3、うなずく。

女1 ないよ、沼なんか!
女4 あるさ。
女5 あるよ。
女2 案内してくれる?連れてって。
女1 ダメ!
女4 いいよ。(女3に)ね。


  出ていく女3、ついていく女2。

女1 もう暗くなるよ、夕立も来るし……ダメなの!行ったら!


  女1、膝を押さえながら後を追う。
  スタンドの灯りが不規則に点いては消える。
  女3が通り過ぎていく。
  SE雷・夕立
  女2、女3を見失い、あたりを探りながら歩く。
  女1、二人を捜しながら、歩く。退場。

  ネライ。女2。

女2 少年は沼に落ちてしまいました。
おとうさんが駆けてきて、沼に飛び込みました。
水は濁っていて少年はなかなか見つかりません。やっとの思いで少年を抱きかかえ、岸に引き上げたとき、少年の心臓は止まっていました。
オカリナは少年の耳元で、何度も何度も少年の名を呼びました。
少年はそれからずっと眠ったままです。
オカリナは少年の側を離れませんでした。
そして、少年には妹が二人生まれました。
それでも少年は眠り続けました。体から管を出しながら眠り続けました。
オカリナは少年の成人式に振り袖を買いました。そしてベッドにかけてあげました。妹たちがそれに触ると、すごく、すごく怒りました。妹たちは、おっきい姉ちゃんの奇麗な着物を触ってみたかったのです。騒ぎを聞いて、おとうさんがやってきて、妹たちを外に連れ出しました。ドアの向こうからオカリナの泣く声が聞こえました。
少年には、オカリナの声が遠く聞こえるだけです。
この読書感想文は、あらすじばかり書いていて、よくない感想文です。読書感想文は感想文だから感想を書かなくてはなりません。
感想というのは自分の気持ちです。
でも自分の気持ちはよくわかりません。たぶんないのだと思います。だから書いたことも言ったこともありません。いくら自分の気持ちを正直に言いなさいと言われてもないものは言えません。
隠しているわけではありません。ないのです。
だから、わたしの自分の気持ちを探ろうとするのはやめてください。お願いです。
続けます。
少年は二十年間眠り続けて、それから死にました。わたしは、だから、一学期の終業式には出ませんでした。
オカリナは、少年のお葬式が済むと入院しました。目が見えなくなりました。耳も聞こえなくなりました。
そして、わたしたちは、夏休みを田舎で過ごすことになりました。


  SE・電話の音。

女2 それから、このお話は本当はありません。このお話は読書感想文を書かなければいけないのでわたしが作ったお話です。


  ネライ 女1に。

女1 おとうさん。わたし。
うん。うん。おかあさん、どう?
女2 わたしが懐かしいと思った一行は、だから、ありません。嘘です。おわり。


  女2のネライ、消える。

女1 あのね、まきがね、きょう……沼に行ったよ。
怒らないで!
帰ってきたよ。ちゃんと。
そっちに帰っていいでしょ。
ここはいやだよ。まきもわたしもおかしくなるかもしれない。
おかあさん、おーねえちゃんが死んで、楽になるかと思ってたのに。
おーちゃんがいることがこんなに大切だったって思わなかった。
大丈夫、まきのことは、わたしが見てるよ。
けんかなんかしないよ。ときどき、腹立つけど。
早く……帰して……そっちに。
うん。わかる。わかる。
うん。じゃね。


  ネライ消える。
  前のエリアに照明。
  女1と女2。

女2 たとえば正三角形があるよね。こう四つ組み合わせると面積が四倍の正三角形ができるよね。
女1 うん?うん。
女2 ねえ。そういうことなのよね。
女1 何?パズル?
女2 は?
女1 何かの比喩?
女2 比喩って何が?
女1 何かの比喩じゃないの?
女2 どうして?
女1 じゃ何で正三角形の話なんかするのよ?
女2 いいじゃんしても。
女1 何の意味があるの?
女2 ねえ、人が何か言ったらすぐ裏に何かあるんじゃないかって、そういう性格何とかした方がいいよ。
女1 わたしの性格はいいから!何で正三角形なのよ!
女2 ただの話よ。
女1 なんでそんな話するのよ。
女2 いいじゃん。
女1 何の意味があるの?
女2 だから、何でも意味を求めるのってよくないよ。人生には無駄な部分が必要よ。
女1 あんたに人生教えてもらいたくないよ。あんたちょっとおかしいんじゃない?
女2 自分の思い通りにいかないからってそんなこと言わなくたっていいじゃない!
女1 だから!正三角形っていうのは何だったの?何が言いたいの?
女2 別に。
女1 別にって!あんた「たとえば」って言ったわよね。
女2 そうだっけ?
女1 忘れないでよ!
女2 だから、忘れたって。
女1 言ったのよ!
女2 さあ?
女1 言った。
女2 わかったわかった。言ったでいいよ。言ったに一票。ちーちゃんも一票。満場一致で可決。
女1 ふざけてるなあ。
女2 だから言ったでいいよ。
女1 言ったのよ!
女2 うんうん。
女1 「たとえば」って言ったってことはたとえでしょ。
女2 「たとえば」は「たとえば」でしょ。
女1 「たとえば」と言えばたとえ話でしょ!
女2 ちーちゃん、こんなに理屈っぽかったっけ?
女1 理屈じゃなくてそうなのよ。「たとえば」って言ったらたとえ話なの!
女2 そう?
女1 「そう?」じゃなくて。たとえ話ということは何か裏の意味があるんでしょ!
女2 別に?
女1 そんなわけないでしょ。だから三角形がどうしたっていうのよ。
女2 何?三角形って。
女1 あんたが言ったんでしょ!正三角形が四つあると面積が四倍の正三角形ができるって。
女2 えーと、あ、ほんとだ。
女1 あんたが言い出したんじゃない!
女2 ああ。
女1 どうしてそんなこと言いだしたの?
女2 ……
女1 何か意味があると思うじゃない。
女2 ……
女1 ……
女2 話しかけちゃいけなかった?
女1 ……そんなこと言ってないでしょう。
女2 ここに来るとき、何かあったら何でも言えって言ったじゃない。
女1 ふう。
女2 話しかけちゃいけない?
女1 あんた、何かおかしいよ。
女2 おかしいって!自分の姉に何の気なしに話しかけただけなのに、こんなことまで言われちゃかなわないよ。
女1 信じられない。
女2 信じられないのはこっちよ。分かりました。わたしが悪かったのね。ごめんなさい。
女1 ……
女2 どうすれば許してくれるの?
女1 ちょっとさあ、そういうこと言ってるわけじゃないでしょ。
女2 ねえ、お願い。許して。
女1 何なの、これ?
女2 どうすれば許してくれるの?
女1 許すも許さないもないでしょ!怒るわよ。
女2 そんなに怒ってるの?
女1 だから!
女2 許してくれないの?
女1 だから!そういう問題じゃないでしょ!
女2 許してくれないの?
女1 しつこいわね!
女2 許してくれないの?
女1 ……
女2 許してくれないの?
女1 ……
女2 いいよ……
女1 ……
女2 ……
女1 許すよ。
女2 え?
女1 許す!許す許す!
女2 許してくれるの?
女1 だからそう言ってるでしょ!
女2 何を?
女1 は?
女2 何を許してくれるの?
女1 え?
女2 わたしの、何を、許してくれるの?
女1 だって、あんたが許してくれっていうから……
女2 わたし、何か悪いことしたっけか。
女1 だってさっきから許せ許せって。
女2 えっらそーに。「許してあげるわ。ほっほっほっほ」だって。
女1 ……
女2 ちーちゃんのお許しがなきゃ、わたしは何にもできないの?
女1 何言ってるのよ!
女2 へっへっへっへ。
女1 ……
女2 なーんかもう、マジになっちゃって。ちーちゃんバッカみたい。ちょっとからかったら赤くなったり青くなったり。
女1 ……
女2 退屈しのぎになったよね。
女1 バカ!死んじゃえ!
女2 死んじゃえ?死んじゃえって言ったの?いいの?
女1 ……
女2 ……死んじゃおうかあ。


  女1、女2に平手打ち。
  女2、女1をにらみつける。
  女1、もう一度平手打ち。
  女2、女1に飛びかかる。
  格闘。
  女3出てきて、取っ組み合いをしている二人の前を通り過ぎる。
  テーブルの前に座り、頬杖をついて眺める。
  わあわあ言いながら取っ組み合う二人。
  女1、女2を押さえつける。
  女3、すかさず出てきてカウントをとる。

女3 (ワン、ツー、スリー!)


  カウントスリーを聞いても、取っ組み合いを続ける二人。
  今度は女2が上になる。
  女3二人の上に勢いよくダイビング!
  女4、女5も出てきて二人の上に重なる。

二人 ギャー!
女1 重い重い重い!ちょっと!苦しい苦しいってば!
女2 知らないよ!何?
女1 あの子よ!
女2 ちょっとー!どいてー!重いー!


  二人の上から落ちる女3。
  女4、女5は走って出て行く。
  次は何を始めるのかとわくわくしている。


女1 (女3に)あんた、わたしたち、遊んでるって思ったの?


  うなずく女3。

女2 そう!遊んでたの!
女1 ほんと!楽しかった!


  うなずく女3。
  膝を押さえる女1。

女2 ……痛い?
女1 元気じゃん。
女2 うん。
女1 わたしのこといじめる元気くらいなきゃ。
女2 痛いの?膝。
女1 あんだけ運動すれば。
女2 ごめん。
女1 いいよ!もうバスケできるわけじゃないし。
女2 インターハイ、行かなくてよかったの?
女1 人がやってんの見たってしょうがないでしょ。それにもうレギュラーじゃないいし。ベンチにも入れないでやんの。一年にね、大きい子たくさん入って。去年見学に来て、わたしの身長、確認してから入学決めてんの。やだねえ。
女2 そうなんだ。
女1 それよか。バスケで選んだ高校だから!この先進学とかどうしようかって。宿題でもしとかなきゃ。
女2 そうなんだ。
女1 そうなんだ、そうなんだ、か。
女2 ……ごめん。
女1 謝ることないよ。わたしがいらついてるだけ。あんたも大変かもしれないけどわたしもこう見えて大変なんだよ。
女2 ちーちゃん……
女1 言わないでよ。言わないでいいよ。かわいそうとか言わないでいいよ。
女2 ……言わないよ。
女1 あたしだって、あんたのことかわいそうだなんて言わない。


  女3、女1のそばにより、膝をなでる。

女1 ありがとう。大丈夫よ。もう痛くないから。まったく、あのお姉ちゃんが重いのが悪いんだよね。
女2 ちーちゃんだって、バスケやめたら太っちゃって。
女1 死ぬかと思ったよ。
女2 わたしも。
女1 死ぬ死ぬっていうのはあんた、得意だから。
女2 ……
女1 もう気を遣うのやめた。読んだよ。あんたの遺書。あんなだれでもわかるところ放り出しといて。
女2 別に読ませるために置いといたわけじゃないけど。
女1 本気だったの?
女2 うん。
女1 やったの?
女2 ……
女1 なんか試したの?
女2 ……うん。
女1 まったく!
女2 なんか……よく覚えてない。苦しくなって、やめた。
女1 死ななくてよかったよ!
女2 そのとき……死んだみたい。わたし。
女1 なにそれ?
女2 ずっと死んでる感じ。
女1 何よ。
女2 自殺やめたのかどうかも覚えてない。わたしずっと死んでるんじゃない?ちーちゃん、わたし、生きてるの?
女1 バカなこと言わないで。
女2 おーちゃんが……おーちゃんが眠ったきりで、わたし、小さいときからおーーちゃんの部屋に行くの、怖くて。ちーちゃんは部活で遅いし、おとうさんも帰ってこなくて。でも、おーちゃんの息が、ずー、ずーってしてて、ああ、おーちゃん生きてるって。
女1 おかあさん、よく言ってたよ。おーちゃんはもう命があるだけでいいんだって。
女2 おーちゃん、動けないし、しゃべれないし、でも、わたしよりもなんだか、生きてるなって。
女1 ぜいたくだよ。おかあさんの身にもなってみろ。
女2 わかってるよ。
女1 二十年だよ。
女2 なにが?
女1 おかあさんが、おーちゃんみてたの。
女2 二十年おーちゃん、眠ってたの?
女1 おかあさん、楽になったと思ったよ。でも違う。おーちゃんいたから。しゃべれなくても、動けなくても、息してるだけでも。おーちゃんいたから……あんたね、おかあさん困らすようなことやめようよ。
女2 おーちゃん、おーねえちゃん、二十年も眠ってたの。そんな前から……
女1 おかあさん言ってたよ。あんたたちは三人姉妹だからって。おおきいねえちゃんと、ちいちゃいねえちゃんとって。
女2 ちーちゃんはちっちゃいねえちゃんでちーちゃんだったっけ。
女1 そうよ。おーちゃんはほんと元気な子だったって。おかあさんが言ってた。事故に遭う前は、夏休み、外、駆け回ってたって。虫取り、花火、海水浴、ラジオ体操……
女2 絵が……絵がうまかったって……


  女1、女2、顔を見合わす。
  ゆっくり女3を見る。

女2 ねえ。帰ってきたの?
女1 なに?
女2 ちーちゃん、あの子。
女1 まさか、だって。
女2 …おーちゃん?


  うなずく女3。

女2 帰ってきたのね。


  うなずく女3。

女2 また、会えるの?


  女3、首を振る。

女1 行くのね。


  女3、立ち上がる。
  女3、歩き出す。

女1 (女3に)ねえ。


  振り返る女3。

女1 おかあさんの所にも行ってあげて。


  女3、しばらく立っていて、歩き出す。
  退場。
  前のエリア、やや暗くなる。
  音楽。
  スタンドが点いては消え、間を縫うように女3が歩いていく。
  すべて消えるスタンド。
  電話の音。
  単サス。女2。

女2 おとうさん?
うん。ちーちゃんお風呂。
ほんと?
帰れるの?
ちーちゃんよろこぶよ。
うん。うん。
おばあちゃんたちは帰ってきた。老人会でハワイって、最近の年寄りはどうかしてるよ。ムームーっていうの?あれ?超ハデなの、お土産にくれた。
着ないよ、そんなの。悪いけど。趣味悪いもん。あんなのちーちゃんだって着ないよ。
おとうさん、わたし、学校行った方がいいかな。当たり前か。はは。
え?うん。うん。


  花火の音。


聞こえる?
うん。
そう。


  盆踊りの民謡。


今からちーちゃんと行くの。盆踊りなら踊れそうだって。
うん。
じゃね。
あ、あのさあ。
なにってほどのことじゃないんだけど。
うん。
おかあさんによろしく言っといて。
あの……ごめんって。


  女4、女5浴衣を着て登場。

女4 ごめんください。
女5 すみませーん。
女2 はーい。
切るよ。じゃね。
ハイ、なんでしょう。
女4 あ、まあちゃん?
女2 はい。
女4 久しぶり。覚えてる?
女2 えーと。
女5 覚えてるわけないよ。こーんなちっちゃな時会っただけだから。
女4 大きくなったねえ。
女5 あのね、盆踊り来る?
女2 あ、はい。
女4 あの、ちーちゃんも来てるんでしょ。一緒に来てね。
女5 あの、おじいちゃんに伝えて。太鼓の打ち手が足りないからやってほしいって。区長さんが言ってたから。
女2 あ、はい、伝えます。
女4 わたしたち、氷の屋台出してるから。寄ってね。
女5 ちーちゃんもね。
女2 あ、はい。
女4 じゃ、あとでね。
女2 はい。
女5 あ、送り火。
女2 え?
女5 川縁に。ほら、あそこも。
女4 もう送った?
女2 送るって。うん、今から。
女5 ほら、おばあちゃんが用意してると思うよ。
女2 あの、白い木みたいなの燃やせばいいんですか。
女4 うん。
女2 じゃ、あとで。
女4 じゃね。
女5 あとでね。


  女4、女5出て行く。

女2 送り火か。


  女1、ムームーを着て登場。

女1 涼しい。もう夏休みも終わりだ。
女2 ちーちゃん、おとうさんから電話……着たの、それ。
女1 似合う?
女2 ……とっても。
女1 着ていこうかと思って。あんたのも出しといた。
女2 ……ありがとう。
女1 電話、なに?
女2 切符、送ったって。
女1 何の切符?
女2 帰りの切符!
女1 帰れるの?やった!いつ?
女2 30日。
女1 まだまだじゃん。ま、いいか。おかあさんは?
女2 退院はまだだけど、外出許可は下りたから。
女1 よかったねえ。
女2 ホント。
女1 早くお風呂入ってきなよ。お祭りお祭り。


  花火の音。

女2 ちーちゃん。
女1 なに?
女2 あの子、帰ったかな。
女1 うん。


  ゆっくり後ろを振り向く二人。
  前のエリアの照明落ちる。
  スタンドが一本点いている。
  そのスタンドもゆっくり消えていく。

成十五年二月初稿 合同公演上演台本


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