銀河パトロール睦月の大冒険 第一話「どうも、睦月です」

第一章「電光の少女」

 人気のない薄暗い路地裏に、黒ずくめの、六人のウルフ型宇宙人の狼男たちが、息せき切って走り込んでくる。狼男たちの両腕には、重たそうなケースが大切そうに抱えられている。路地の外では、けたたましくサイレンの音が鳴り響いていた。
 狼男たちのリーダー格の狼男が後ろを振り返り、安心したように、ほっと息をついた。
「へ、へへ、やったぜ。ちょろいもんだぜ・・。お、おい、お前ら、ちょっと止まれ! マッポのやつら、計画どおりダミー人形の方を追いかけていったようだぜ!」
「く、苦労した甲斐があったってもんですよ。アレを手に入れるのには、そりゃあ、もう大変だったんですから」
 と、息を切らせながら、赤い髪をした狼男がにたにたと言った。
「よし、あとは手筈どおりに、用意していた救急艇で町の外のアジトへ直行。それで、ほとぼりのさめるのを待ってから、この糞ったれな星からおさらばだ!」
 リーダー格の狼男は、そう言って懐からカプセルのようなものを取り出し、それを地面に放り投げる。カプセルは、一瞬のうちに救急隊員の衣服へと早変わりする。
「おい、お前ら早いとこ着替えちまえ! ダミー人形を追いかけてるとはいえ、まだマッポどもはこの辺をうろうろしてるからな!」
「へい!」
 狼男たちはそう答えて、地面に投げ出されたその衣服を次々に手にとり、着替えはじめる。 そうしていた狼男たちの上を、一瞬影がよぎる。
 それに気づいた狼男たちは、すぐさま腰に下げていたブラスターに手をかけるが、上から降ってきた光弾の雨がそれらをすべて弾き飛ばす。
「畜生! 誰だ!」
 狼男たちの一人が、そう叫び声をあげる。
 すると、上空から一つの影がすうっと降りてきて、狼男たちの目の前にその姿を現す。
 その姿は、この銀河で知らぬものなどいない銀河パトロールのボディースーツに身を包んだ、まだあどけない顔をした、ヒューマノイド型宇宙人の少女であった。その両手には、油断なく狼男たちに狙いをすましている小型のブラスターが握られている。
「くそ!、銀河パトロールかよ!」
 ブラスターの銃撃に傷つけられた右手を握りながら、男たちの一人が、口惜しそうにそう吐き捨てる。
「レアマテリアル強盗犯、あなたたちを逮捕します! 無駄な抵抗はただちに止めて、おとなしく捕まりなさい!」 
 少女の凛とした声が、薄暗い路地裏に響き渡る。
 そして、少女は大きく息を吸って、
「あなたたちには、自分に不利な証言を拒否する権利があります。それから、銀河系汎知的生命対連合に属する、弁護人ないし弁護魚類、弁護爬虫類、えーと・・以下省略!、それに類する法廷代言者を選択する権利があります。不法な抵抗はあなたたちの不利になります!」
 と一気にまくしたてた。
「あ、ああ、わかった。無駄な抵抗はしない。だから、そう怖い顔でにらみなさんなって。せっかくの可愛い顔が台無しだぜ。なあ、お前らもそう思うだろう?」
 そう言いながらリーダー格の狼男は、他の狼男たちに目配せをする。 その意を察したように、他の狼男たちも小さくうなずきあう。
「ああ、俺もそう思うぜ、可愛い・・お嬢ちゃん!!」
 その言葉を合図に、狼男たちは一斉に少女に向かって飛び掛かる。
 しかし、少女はそれを察していたのか、最初に向かってきた狼男の拳を、少し体をずらして左によけ、バランスを崩したその狼男の首筋に、ブラスターを握ったままの右手を一閃させた。一瞬のうちに狼男は昏倒した。
 そして、左斜めの狼男のスキだらけの顔面に右足のハイキックを放つ。顔面を真横から蹴り飛ばされた狼男は、くるりと宙を舞って路地裏のゴミの山へと体を突っ込ませる。
 少女はそのままの勢いを利用してコマのように体を回転させ、右足を軸にして、左足の後ろ蹴りを正面から来た狼男のみぞうちに叩き込む。狼男は体をくの字に曲げて、後ろのリーダー格の狼男も巻き込んで、勢い良く吹き飛んだ。
 刹那のうちに、4人の狼男が戦闘不能に陥った。
 まだ少女に近づいてすらいなかった残りの二人の狼男は、その一瞬の、電光石火の出来事に、唖然となり、言葉を失ってその場に立ち尽くした。
「つ、つええ・・」
 立ち尽くしていた狼男の口から、ようやくその言葉が紡ぎだされたのは、少女が戦いで乱れた髪を整えているときであった。
「電光の睦月・・」
 もう一人の狼男も、やっとのことでそう言葉を漏らす。
「電光の睦月・・この小娘があの電光の睦月だって!? 」
 二人の狼男たちは思いだした。この前読んだホロマガジンに載っていた少女の事を。
 銀河標準年齢13歳にして、銀河系の少年少女達の憧れでもある、銀河パトロール訓練校に主席入学し、今もこの星系で銀河パトロールの訓練生として、華々しい活躍をしている少女の事を。
 そして、その少女の父が起こした、とある事件の事を。
 その少女の名は・・、
「年賀睦月・・」
 二人の狼男は、同時にその名前を口にした。そして、奇妙な顔で、顔を見合わせ、
「マジかよ・・」
 と、うんざりとつぶやく。
 年賀睦月は、再び狼男たちの前に立ち、コホンと咳払いを一つして、ブラスターを構えた。
「えーーと、レアマテリアル強盗犯、あなたたちを逮捕します! 無駄な抵抗はただちに止めて、おとなしく捕まりなさい!」 
 再び、少女の凛とした声が薄暗い路地裏に響き渡った。
「はい・・、おとなしく捕まります・・」
 二人の狼男は、あっさりと両手を上げて、今にも泣き出しそうな顔でそう答えた。
 それを聞いた年賀睦月は、
「ありがとう。助かります」
 そう言って、愛らしく、にっこりと微笑んだ。
 二人の狼男は、こんな恐ろしい笑顔を見たことはないと、心底思った。