◆十二国記
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)


◆第1巻「月の影 影の海(上)」4
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)

というわけで、NHK衛星でもアニメ化され、結構な人気でもあるらしい小野不由美の「十二国記」の第1巻。
今巻は、普通の女子高生であった中嶋陽子は、ある日ケイキと名乗る男につれ去られ、そして見知らぬ異界へと呼ばれることになるって話。
「不思議遊戯」などと同じようなお約束の東洋風異世界ファンタジーな話で、文章も上手く、異世界へと連れ込まれた陽子の視点により少しづつその世界のことがわかり始める、というお約束の展開で、なかなか面白かった。
なかなか面白かったのではあるが、何というか暗いとういか、重いというか、一言で言えば・・「酷い話」(笑)
突如、日常から非日常な異世界へとつれ去られた陽子に、これでもかと試練や逆境がやって来て、裏切りに継ぐ、裏切りに継ぐ、裏切りに継ぐ、裏切り(笑)
何もそこまでせんではいいのではないかと言うぐらい、酷い目に会い、現実世界でも異世界でも、どこにも居場所がなくなり、傷つき倒れるという、もう主人公の陽子が可哀想すぎる展開に涙。
ほとんど、往年の名作劇場主人公のよう。
なんか、これまた主人公が酷い目に会い続ける「卵王子カイルロッドの試練」を思い出しました。
普通、異世界ファンタジーものなら、たいていは早めに主人公を助ける存在が出てくるんだけども、なかなか出てこないもんなあ。
なんか人間不信になりそうな感じである(笑)
まあでも、文章表現も上手く、山田章博のイラストもメチャクチャ上手いので、続きが楽しみではあります。


◆第2巻「月の影 影の海(下)」5
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)

というわけで、「十二国記」の第2巻。
今巻は、妖魔からの襲撃に傷つき倒れた陽子は、ネズミ姿の楽俊と出会い、手当を受ける。
そして、陽子はたびの果てに、自分がこの異界に呼び込まれた真相を知ることになるって話。
うむ、面白かった。
なんか初っ端は、「すさんだねえ・・」(カマリア・レイ)とガンダムのアムロ・レイ状態な陽子が悲しかったりもしたのだが、心優しきネズミ野郎・楽俊との出会いと和解によって、真の強さと優しさをみにつけるくだりでは、前巻の怒涛のような試練と逆境と裏切りの嵐はこのためにあったのだと、なんだか報われた気分になり、やっぱり感動(笑)
っていうか、いい味だしまくりの楽俊良いヤツだなあ・・基本はネズミだけど(笑)
まあ、前半で落とすだけ落として、後半で持ち上げるだけ持ち上げるのは、手だけど上手いね。
で、陽子が異界へと連れられた真相もわかり、なかなかの怒涛の展開で、今までの謎やらが解明されるくだりはやはり小気味よく、陽子の成長などもあってか面白かった。
「星界の紋章」などと同じく、細部まで作り込まれた設定なども世界観に重みを持たせて良いね。
まあ、少々「出来過ぎ」な世界であって、なんか作られた世界ってイメージがあるのも確かなんだけどね。
とまあ最後には王になってしまった陽子なのであるが、なんかここで完結してもおかしくないような気分ではあるが、まだ物語は始まったばかりのようである。
この物語が「三国志」や「グインサーガ」のような、壮大な物語をいかに見せてくれるか、今後が楽しみである。


◆第3巻「風の海 迷宮の岸(上)」4
◆第4巻「月の影 迷宮の岸(下)」4
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)

というわけで今巻は、十二国記の第2作目で、蓬莱で人として生まれ育った麒麟である少年は、ある日戴国の王を選ぶために連れ戻され、秦麒として生きることとなるって話。
王であたった少女・陽子と同じく、今度は麒麟であった少年・秦麒の話。
なんか、陽子やネズミの話が全然なくてちょっとガッカリではあったのだが、なかなか面白かった。
「三国志」と同じく、「十二国」の話であり、こういう感じで世界を掘り下げていくのだな。
相変わらず文章は巧みで、その世界観の深さや、キャラ描写の上手さは流石である。
なんか「グインサーガ」のミアイル公子並に幸薄そうな秦麒は、絶対最後は不幸になるだろうと思ってたのだが、意外にハッピーエンドだったのは、ちと驚いた・・まあ、今後何があるかはわからないけどね。
それにしても、王とか麒麟とか、やっぱ「三国志」やら「グインサーガ」とかと同じく、身分の高い人のお話ばっかなのな。
まあ、一応元は現実世界での一般人ではあるのだけど。
あと、前巻はいいとこなしだった景麒が、意外に出番が多く、大活躍だったのはなかなか良かった。
ジグソーパズルのように、他のキャラとかとの関連が生まれて、世界が埋まっていく感じなのだな。


◆第5巻「東の海神、西の滄海」3
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)

というわけで今巻は、十二国記の第3作目で、かつて暴君によって廃墟となった雁国の麒麟である六太は、かつて出会った妖獣を親に持つ更夜と再会するって話。
1作目が王になる陽子の話で、2作目が麒麟となった秦麒の話、そしてこの3作目が王と麒麟となった尚隆と六太の話って感じで、構成的にはわかりやすくて、なかなか良いね。
それゆえに話もでかくなってきて、本格的に国やら民の話になってきて、歴史小説っぽくなってきたな。
でも、歴史小説っぽく見えながらも、結局はキャラクターのドラマ重視のヒロイックファンタジーって感じで、勧善懲悪になってしまったのはちと残念かも。
善玉っぽいのが悪玉にとか、悪玉っぽいのが善玉にってのはお約束だからねえ。
本物の戦争ってのは、双方に正義があり、悪もあったりするから。
まあ、それゆえにラスト辺りの大逆転は爽快ではあったんだけどね。
で、延王である尚隆は、なんとはなしに織田信長を思わせる天衣無縫ぶりを思わせて格好良い。
「グインサーガ」のイシュトバーンとか、「ロードス島戦記」のカシューとか、ああいうキャラはイかすよね。
それにしても、陽子にしろ、秦麒にしろ、尚隆・六太にしろ、やっぱ現実世界生まれが主人公ばっかだな。
まあ、そっちの方が距離感が縮まって、親近感が湧いて感情移入はしやすいけどね。
でも、「現実世界生まれは特別」とかの選民意識が出たり、その異世界自体のリアリティがなくなったりと、そういう弊害が「異世界もの」にはあるよな。
あと、十二国のあの「社会システム」も、面白いけども、なんか結構不安定だわな。
まあその完璧でないところに、ドラマが生まれるんだろうけどね。
今回なんかは、その「システム」に対する懐疑かと思ったんだが、なんか結局はシステムの方が勝ってしまったのは、ちと残念かもしんない。


◆第6巻「風の万里 黎明の空(上)」4
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)

というわけで、十二国記の第4部(前作が外伝らしいので実質は3部らしいが、便宜上4部ってことで)、「風の万里 黎明の空」の上巻。
今巻は、慶国の陽子は王たる己に苦悩し、芳国の祥瓊は王と王后である父母を目の前で殺され泣き、才国の鈴は海客となり仙のもとで苦行をしいられ涙する。
そんな苦難を前にした、3人の少女たちの話。
陽子を中心にして語られる、苦難を背負う3人の少女たち。
陽子自体はすでに「化けて」いて、きちんと自らの弱さに打ち勝ちながら前へと進んでいるが、まるで「使用前」といった感じの不遇で苦難を受けまくる祥瓊と鈴はちょっとデジャブ・・っていうか「月の影 影の海)」の前半頃の陽子を思わせるすさんだ卑屈ぶりと不遇さは、相変わらず非道い(笑)
でもそんな二人も、相変わらず「いい人」ぶりが全開である楽俊と、前向きな少年・清秀との出会いと別れによって変わって行くって展開はやはり、お約束だが良い。
上巻はフラストレーションたっぷりの暗い展開だったので、後半の3人の少女たちの成長に期待である。
それにしても、やはりこの世界のシステムは結構無茶である。
一見合理的に見えなくもないのだが、国を統べる王様が愚かな人間が多すぎるような気がするような・・。
「天帝」って人もちゃんと人見て選べよなあ、って感じではあるな(笑)
陽子だって、楽俊にあってなかったらかなりやばかったもんなあ(笑)
まあ、それこそが「すべては人の心のありよう」というテーマにつながってはいるのではあるけどね。


◆第7巻「風の万里 黎明の空(下)」4
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)

というわけで、十二国記の第4部(前作が外伝らしいので実質は3部らしいが、便宜上4部ってことで)、「風の万里 黎明の空」の下巻。
今巻は、陽子、祥瓊、鈴の3人の少女たちは、ついに邂逅を果たし、戦いの渦中に巻き込まれていくって話。
うむ、上巻のフラストレーションを払拭するかのようなカタルシスに満ちた展開で、なかなか良かった。
3人の少女たちの道がそれぞれ交わり合い、それぞれの苦難と葛藤を乗り越えたどり着いた場所での偶然の邂逅、そして戦いってのは、ご都合的な所もあるがやはり良いね。
やはり十二国記の主人公は陽子という気がするので、陽子の話は面白いしね。
それにしても、「人としての生き方」という「主題」を語り、3人の少女や人々のドラマやストーリーという「物語」を紡ぎ、細かい部分まで作り上げられた「世界」を描く、というこの三身一体な作りはやはり上手いよな。
やたらと長いけど(笑)


◆第8巻「図南の翼」4
著者(小野不由美)、イラスト(山田章博)

というわけで、十二国記の第5部「図南の翼」
今巻は、恭国の豪商の娘である珠晶は、日ごとに混迷を極める国を憂い、王を選ぶ麒麟に天意を諮るために、ついに蓬山を目指すって話。
今までは胎果とか将軍とか、結構「一般人(笑)」とはかけ離れた人物が王となっていたが、今度の話はそんな一般凡衆が昇山して王になる話。
とはいえ、主人公の珠晶は流石に王となる器があるだけに、なんというかその筋(どの筋だよ)には人気がが出そうな「いかにも」なキャラで、非常に個性溢れる活躍はやはり見所であった。
前巻の「風の万里 黎明の空」でもちょっと出てきた時でもインパクトが大きかったが、今回はその魅力と個性を大発揮していた。
今後の珠晶の話は、気になるのでまた見たいところである。
で、今回は恭国の王である珠晶の話であると同時に、妖魔の群れる黄海の昇山の話でもあり、その黄海のおどろおどろしさや昇山の厳しさも丹念に描かれており、なかなか面白かった。
少しづつこの世界のピースが埋まって行っていて良いね・・まだまだ先は長そうだけど(笑)
しかし昇山とは大変なのだな・・まあ、それだけの試練などを乗り越えられるからこその王の器なのだろうが。
そのわりには駄目な王様も多いんだよな(笑)
それにしても、最後のオチである利広が秦国の公主っていうネタばらしより、犬狼真君がかの「東の海神 西の滄海」のあの更夜って言う方が驚いたのであった(笑)


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