◆クレギオン
著(野尻抱介)、イラスト(弘司)

◆第1巻「ヴェイスの盲点」4

というわけで、クレギオンシリーズの第1巻。
この小説は、元はネットワークRPG・・手紙のやり取りでRPGをするっていうメールゲームである「クレギオン」の世界をノベル化したヤツだそうな。
まあ、自分はちょっとこのクレギオンは知ってはいたけど、やってはいなかったんだけどね<TRPGの方も
でも、この小説の方は原作である「クレギオン」とは、少し世界観が違うらしい。
で、この小説のクレギオンはスペースオペラである。
というか、スペースオペラというより「ソフトSF」「ライトSF」という感じだろうか。
SFといったら、ハヤカワ文庫の海外物とかがやはり有名だけど、
自分みたいに、脳みその一部をどこかに置き忘れた人間(笑)にとっては、ハヤカワのあの辺のは少し難しく、とっつきにくくて入りにくかったんだけども、<漢字も多いし(爆)
このクレギオンは、それほどSFに造詣深くない若い世代や、ファンタジー好きとかにも読みやすく書かれていて、それでいてなかなか「SF」してい良いと思う<まあSF的ドンデンっていうのはそれほどないんだけど、やはり雰囲気だね
つい最近だと、「星界の紋章」なんかもそうだよね。
こういう「初心者向けのSF」(ジュブナイルSFとか、スペーオペラかな?)みたいなものをもっと開拓していけば、SFの未来も明るいのではないかなあと思うんだけどねえ、どうだろ?(笑)
ただでさえ若い人たちの活字離れは進んでいるからねえ・・やはり間口は広くしとかないとね。
「ライトノベル」とか「ヤングアダルト」というのは、まあそういう開拓をしてるのかもしれないね。
で、まあこれも一応「スペースオペラ」の範疇に入るのだろうけど、「キャプテンフューチャー」や「クラッシャージョー」などのように、
無敵のヒーローが光線銃をバンバン撃って、悪漢をドカドカ倒していくスペオペとは違って、もっと日常感にあふれているのがいい感じ。
これ読んで思い出したのが、
「スペースオペラの主役になれない♪、危機一髪も救えない♪、ご期待どおりに現れない♪」の、
TVアニメ「宇宙船サジタリウス」である(笑)
やっぱ、零細企業の宇宙の運び屋で、うだつのあがらない人々が騒動に巻き込まれて、なにげなく惑星とかの人々の危機を救ったりするのが似てるよな。
好きだったんだよサジタリウス・・何度泣かされたことか・・。
(あと「YAT安心宇宙旅行!」も。これも傑作)
このクレギオンもそんな宇宙の片隅のある日常みたいな感覚があって良いね。
前置き長いな(笑)
で、この第1巻は、かつての大戦によって宇宙機雷に封鎖された惑星ヴェイスを舞台に、
零細企業ミリガン運送の中年社長ロイドと女性パイロットのマージが、惑星ヴェイスに降下するために、機雷の動きを読み船を誘導する「ヴェイスナビゲーター」の少女・メイとの出会いが描かれている。
で、やはり良いのは、ストーリーやキャラクター、世界観よりもやはり「雰囲気」が良いね。
SF考証に裏打ちされて細かく描写された、宇宙空間や宇宙船の中の「空気」や「におい」みたいなものが感じられて、
宇宙時代の人々の生活や行動などの「息吹」みたいなものが感じられたのがやはり心に残っる。
まるで、自分が宇宙で生活してるような「感覚」があるよね。
そういう「センス・オブ・ワンダー」が、やはりSFの面白さのひとつだろうねえ。
話も、宇宙機雷というアイデアを軸に、宇宙機雷群の緊張感や、黄昏の星であるヴェイスの人々の諦観、そしてその宇宙機雷を巡る企業の陰謀みたいなドラマも描かれていて面白かった。
なんといっても、メイが可愛いし(爆)
まあ、「これ」っていうSF的ドンデンはないけどもね。
あとやっぱりメインキャラクターである、メイ、ロイド、マージのキャラクターも味があって良かったしね。
あと、やはり弘司さんのイラストが良いねえ。
RPGマガジンの頃から、好きだからなあ。
いやあ、上手くなったものである(笑)
はてさて、余分な質量をまじえた、これからのミリガン運送の物語が楽しみである。


◆第2巻「フェイダーリンクの鯨」4

というわけで、クレギオン第2巻。
今回の舞台は土星型ガス惑星フェイダーリンク。
麻薬組織の追ってから逃れてやってきたそのフェイダーリンクで、
そのフェイダーリンクを恒星化する太陽化計画のために立ち退きを迫られている、
無重力空間に適応して生きているコロニー・レーネ村の人々と出会い、そして・・っていうのが今回の話。
今回はやはり幻想的なガス惑星・フェイダーリンクの緻密な描写が良かったねえ。
惑星を囲むリングの描写も非常に良かったが、惑星のガス大気圏内の所とかも良い。
無論、ラストの「鯨たち」のところとかもね。
あと、レーネ村の人々の無重力に適応しているとことかも良かった。
重力下である地上だけでなく、そうやって無重力空間に適応して「宇宙人」として生きるというのも人類の選択肢のひとつだよね。
それにしても、やはりクレギオンはスペースオペラだなあ。
派手な戦闘シーンやアクションはないけども、宇宙を渡り歩いて困っている人々を助けるなんてまさしくスペオペだよな(笑)
しかも、それでいてきちっと科学考証の上に、SFされているからね。
なんといっても、「センスオブワンダー」があるのがいい。
読みながら、自分が宇宙にでもいるかのような錯覚があるもんな。
なにもSF的思想の発露とか、巨大なSF的大仕掛けがなくても、そういう「生な感覚」「空気」こそが一番にSFだと思うからねえ。
「ガンダム」がSFだと呼ばれる所以もそういう所にあるだろうしね。
あと、ガス惑星の描写や、太陽化計画メカ描写などのSF的ロマンと、
レーネ村および、オデット計画に夢をかける人々みたいな人間的ドラマもあるのがいいよね。
やっぱ、「テーマ」と「ロマン」と「ドラマ」が一体となったのがSFじゃねえかなあ、とか言ったらとても真面目なSFファンの人に怒られるから(笑)、
やっぱそういうのがスペオペだよねえ<野田大元帥万歳!
今回はそこに、メイとデビットの淡い恋模様も絡んでるしね。
つうか、デビット許すまじ!(笑)
あと、それ程驚くべきギミックではないけども、ガス惑星に生息する巨大生物たる「鯨たち」もいいねえ。
コミュニケーションの方式が、音波でなく電波での「声」で、それが「歌」としてなっているのもいいね。
それと、鯨たちが春分と秋分の日に赤道に落ちる一番短くなるリングの影を渡るっていうのも良い。
そして、それと「オデット計画」「レーネ村」という、「生きるための知恵に何の貴賎があろうか」というまとめ方が上手い。
あと、どうでもいいけど「もし、尻尾があったら、さぞぱたぱた振り回しただろう、という勢いだった」、
って所が、なんか非常にメイが犬チックで良いね(笑)
というわけで、次回も楽しみである。


◆第3巻「アンクスの海賊」


◆第4巻「サリバン家のお引っ越し」3

人類が、ふえすぎた人口を宇宙に移民させるようになってすでに半世紀が過ぎていた・・。
というわけで、今回はあのガンダムで有名な、宇宙コロニーが舞台。
サリバン一家の3人家族が、その宇宙コロニーに惑星からお引っ越しするのが今回の話。
でまあ、それに予想外の花壇の輸送が絡んで大赤字になったり、
大気圏間近の所で軍の哨戒艇の救助をしたり、
宇宙コロニーでの軍のクーデターに巻き込まれたりと、
いつものようにまたもや騒動に巻き込まれるミリガン運送の一同であった。
いやあ、宇宙へ引っ越しするのもやはり一筋縄ではいかないねえ(笑)
で、今回は宇宙コロニーが舞台とあってか、その人工の大地である宇宙コロニーの細かい描写がなかなかに良かった。
まあ宇宙コロニーといえば、巨大人型機動兵器とともに、ガンダムで有名すぎるくらい有名だけども、
あれと同じタイプの巨大な鏡で太陽光を内部に導き入れるオニール式宇宙コロニーというヤツ。
まあ細部は少し違うのか、直径8キロ、全長20キロの円筒を120度ごとに囲む3枚の巨大な集光ミラーが集めた太陽光を、円筒の3つの採光窓が拡散させているので、
ガンダムのコロニーほどガラスが広くはなく、陸地が結構あるようである。
そのコロニーを、空の上から地下まで描写してくれているので、
その巨大感やらなんやらの、ガンダムとかで描かれていた部分だけではわからなかった事がわかったりするのが非常に良かったねえ。
やはり、SFは文だねえ(笑)
まあ、でも未だにコリオリ力だったりはよくわからなかったりするけど(笑)
しかし、宇宙コロニーというのはいつか実現するのだろうか?
地球人に合うように火星とかの惑星を改造して住むのと、ラグランジュポイントに宇宙コロニーを作って住むのとは、どっちが利が良いんだろうねえ。
やっぱ、最初は宇宙コロニーかな?
まあ、その前に軌道エレベーターかもしれないが。
それはともかく、相変わらずよく騒動に巻き込まれるミリガン運送。
たかだか、宇宙の引っ越しなのにこんなことになるのはまさしく才能だな(笑)
今回は軍の哨戒艇の救出や、クーデターの阻止など、軍絡みの事件でちと強引な感じもあったが、
アクションやチェイスも、宇宙空間やらコロニーの描写と絡めてきちんと書かれていて面白かった。
まあ、ラストは花壇どころか家具や新居まで壊してしまって、「そこまでせんでも・・」とは思ったけど。
このあと、訴訟やらなんやら大変そうである(笑)
でも、一番のお荷物であった、サリバン夫人が納得しているならそれでもいいかもね(笑)
うむ、しかしメイってばやっぱ、ええ娘やのう・・(涙)
一応なんとか初仕事を終えた、これからのメイの活躍が楽しみである。


◆第5巻「タリファの子守歌」4
著者(野尻抱介)、イラスト(弘司)

というわけで今巻は、マージの教官であったホセという男に会いに、辺境の星である砂と嵐のタリファへとやってくるミリガン運送って話。
なかなか面白かった。
今度はマージが主役の話で、何と言っても丁寧に描かれる砂と嵐の惑星であるタリファが格好良く、移動する鉱山の町とかっていうのが良い。
やはりこういうSF的ギミックがあるのがスペオペだよねえ。
そしてマージとホセとの奇妙な関係や、最後の嵐の中でのチェイスというのも面白かった。
まあ少々ご都合な感じもありましたけどね。
あと、最後はもうちょっとマージとホセ関係の締めが欲しかったかな。
それにしても、ミリガン運送は騒動に巻き込まれるのが好きだな(笑)



◆第6巻「アフナスの貴石」4
著者(野尻抱介)、イラスト(弘司)

というわけで今巻は、突如ロイドが一通の置き手紙を残していなくなり、メイとマージは宇宙船アルフェッカ号を失うことになる。
そして突如失業者になった二人は、新しいアルフェッカ号の船主であるクランとアルチナと出会い、「生きた宝石」であるアフナサイトを巡っての騒動に巻き込まれることになるって話。。
なかなか面白かった。
前巻に引き続いてのロイドの主役話と思いきや、今巻はロイドのわがままに振り回されるメイとマージって話であった。
でも、その振り回されながらもロイドの事を気にかける二人の描写や、いつもながら空気間のある宇宙描写等がやはり良かった。
特に、オンボロでありながらも、他人には全く扱えない仕様になっているというアルフェッカ号の感じは、愛着さなどが感じられていていいね。
しかし、アフナスでのロイドとの感動の再会と思いきや、まさか鉱物系の知的生命体とのファーストコンタクトになったの驚いたな。
正直、ちょっと引くものはあったかも。
まあ、ロイドの思想を受け継いだ鉱物生命体ってのは面白かったけどね。


◆第7巻(最終巻)「ベクフットの虜」5
著者(野尻抱介)、イラスト(弘司)

というわけで今巻は、ある日メイに手紙が届き、それには両親がメイの仕事ぶりを査察に来ると書かれてあった。
そしてその査察の日に間に合うために、メイは惑星ベクフットでのミッションディレクターを行うことになったのだが・・って話。
うむ、面白かった。
今巻は、マージ、ロイドに引き続き、メイの話である。
もうメイの受難、活躍、そして巣立ち、が丁寧に描かれていて、困ったり喜んだり動き回ったりする、明朗かつ元気なメイが非常に可愛かった・・ずっと半裸だし(笑)
特に、海に沈んだ客船での活躍が良いね。
しかも前回の「人類外の知的生命体との出会い」より一歩進んだ、「人類以上の神々との出会い」というドデカイ燃えるSF的ギミックを交えながら、新たなる「メイの始まり」と「人類の始まり」というテーマで落としているのが上手いね。
ラスト1ページがいい。
で、どうやら色々あって公式的にはこれが最終巻となるようです。
でも、メイの新たなる巣立ち、人類の新たなる始まりという最終巻にふさわしいテーマを今巻では書ききってあるので、最終巻でも全然問題ないですな。
これからのメイと、そしてミリガン運送の未来に幸あれ。
でも、やっぱり10年後ぐらいのメイ見てみたいかもしれない(笑)


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