◆ザ・サード
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)


長編

◆第1巻「蒼い瞳の刀使い(ソード・ダンサー)」3
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)

というわけで、第十回ファンタジア長編小説大賞準入選受賞作、星野亮による「ザ・サード」の第1巻。
今巻は、大戦により崩壊を迎えた未来、「刀使い」のあだ名で呼ばれる何でも屋の少女・火乃香は、砂漠で立ち往生していた美しい青年イクスと出会い、彼を禁断の地である「鋼の谷」へと送る依頼を受けるって話。
まあまあ面白かった。
正直、アニメや漫画などの他の既存作品の影響が強く(特に士郎正宗)、世界観や設定にそれほどのオリジナリティというのはなかったのだが、こだわりを持って書き込まれているアクションやメカ描写や、つねに前向きで元気な少女である火乃香のキャラはなかなか立っていて良かった。
でも、イラストがちと平板なせいか、「絵」としてのキャラ立ちができてないのはもったいないね。
「ライトノベルは絵」だからねえ。
あと、「絶望的な世界での前向きな生」というテーマも、臭くはあるがすがすがしくもあり、良い感じである。
まあ、まだまだ始まったばかりで、すべてにおいて未完成なようなので、今後の展開に期待である。


◆第2巻「虚ろなる幻影の墓碑(グレイヴ・ストーン)」3
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)

というわけで今巻は、砂龍の暴走を砂漠で見かけた火乃香は、町で知り合った謎の女性パイフウと共に、行政局の依頼で砂漠の最奥部の調査へと赴く。
そしてそんな時に、ザ・サード達は、空間破砕砲を使って、事件の元凶である全自動完全報復機動要塞「グレイヴ・ストーン」を消滅させる計画を目論んでいたって話。
まあまあ面白かった。
火乃香のキャラは立っていて良いとは思うんだけど、やはりどうも火乃香は格好良くて、強すぎるかもしれないな。
それゆえに全体的にちょっと「臭いなあ」、と感じてしまう。
まあ、無論それが悪いというわけでもないんだけど。
あと、これはイラストのせいもあるんだけども、どうも既存の作品からの借り物臭くて、突き抜けたオリジナリティが感じられず、なんか全体的に冗長で平板なイメージがあるな。ネタは悪くないんだけどねえ。
まあ、難しいところ。


◆第3巻「還らざる魂の蜃気楼(ミラージュ)」3
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)

というわけで今巻は、フィラ・マリークの依頼で、火乃香は破棄されたサードの施設に囚われた浄眼機救出をすることになるって話。
まあまあ面白かった。
どうやら、SFギミック、アクション、キャラ、テーマ、といった感じでストーリー的骨子は決まっている感じであるな。
まあ、それがゆえにちとマンネリ感がある。
もうちっと違う感じのストーリー展開が欲しいかも。
でも、今回は火乃香、パイフウ、ボギー、それぞれのアクションはなかなか良かった。
特に、ボギーの戦いが格好良かったな・・「アマチュアだ」がイかす。
しかし、やっぱり火乃香はちょっと臭いね・・いや格好いいけどね。


◆第4巻「天駆ける螺旋の乙女(フェアリィ)」3
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)

というわけで今巻は、火乃香は休暇を取り、ミリィと共にあてのない砂漠行へと訪れる。
そして火乃香達は、砂漠の妖精を追う謎の男レオンと、砂漠の巨大なオオカミ・カムイと出会うって話。
まあまあ面白かった。
あとがきにも書かれている通り、今回はアクションばりばりだった前作に比べると、ファンタジーテイストで、淡々と描かれる描写などがややタルく、テンポが悪かった気がするかな。
いつもながら描写に凝ってるのはいいけども、ちと冗長な感じがあるからねえ。
特に今回はアクションが少なめだから、強くそれを感じたかな。
でも、ターミネーター2や寄生獣入りまくってはいるけども、レオンとのアクションや描写は格好良かったです。
あと、作品のテーマとして常に、「生きること」や「絶望の中の希望」というのが語られているのも良いかな・・ちと臭くはあるけど(笑)
で、どうやらイクスとはまた違った存在であるクエスという謎の男も登場。
ようやく全体としての物語が動き始めるようである。
どのような決着が着くのか、まあ楽しみである。
しかし、あとがきはいつもながらちょっと痛いな(笑)


◆第5巻「惑いの空の凶天使(ハーフ・ウィング)」3
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)

というわけで今巻は、鋼の谷の近くで、旧世界のオーパーツの遺跡が発見され、そして天使の翼を持つ少女しずくと、火乃香や蒼い殺戮者が出会うって話。
まあまあ面白かった。
ライトノベルにしては、なかなかに書き込まれた文章のためか、やはり少々もったりしていて、冗長な感じがあるな。
それゆえに少し話にスピード感に欠けているかな。
ネタ的にも既存の作品の影響とか大きいから、新鮮味に欠ける所もあるしね。
まあでも、しずくとの出会いで自我に目覚めることになる蒼い殺戮者(ブルーブレイカー)は良かったな。
機械が機械をあることを越えるっての結構好きだから。


◆特別編「風花の舞う街で」3
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)

というわけで今回は、最果ての街「スノウフレイクス」の行政局長の暗殺の仕事を受けたパイフウは、その途中の砂漠で襲撃され両親を失った少年エリオットを助けることになるって話。
「ザ・サード0(ゼロ)」ということで、今巻は外伝であり過去話となる長編。
「クールビューティ」な美女・パイフウ先生が主役であり、第5巻に登場した「イレイザー」アレクセイや、短編集に登場した「何でも屋」MJなどが出てくる代わりに、本編の主役である火乃香やボギー、でもって浄眼機は一切出番がなしでした。
まあしかし、パイフウ先生やMJも十分に主役を張れる器でもあり、今回の外伝はそのキャラの器の広さを見せる感じでもあり、相変わらず文章はちと重めではあったが、バランスも良くできていて、なかなかに面白かった。
こういう過去などの描き込みにより、そのキャラの深みも出てくるわけであり、「ゼロ」シリーズがあるならまた見たい感じではある。
パイフウ先生も昔はもっと暗かったようだし、エンポリウムで保健の先生やるまでにはまあ色々あっただろうしね・・「男嫌い」は変わってないみたいだけど(笑)


短編

◆第1巻「いつか時が流れても」4
著者(星野亮)、イラスト(後藤なお)

というわけで今巻は、「ザ・サード」のドラマガなどで連載されたものを集めた短編集の第1巻、「いつか時が流れても」
内容は、短編4本に、書き下ろしの中編を収録。
で短編の方は、テーマ的な流れのある本編とはまた違った軽目のエピソードの連なりではあるが、それぞれが「ザ・サード」のキャラの一面が垣間見れる作りとなっていて、なかなかに面白かった。
特に、火乃香の母であるレオノーラ達のキャラバンの話は、これまた一癖二癖もあるキャラが多数いて、「ゼロ」と同じくこれだけでも他の話が作れる感じでもおり、他のエピソードもみたい感じであった。
こういう世界に深みができる感じがあるのは、やはり良いね。
それにしても、短編の方は「人工知性体」達が基本的にはメインに絡んでいて、5式自動歩兵、ボギー、歌うたい、ノエル、となんだか「人工知性体」の話という感じだった。
「ザ・サード」は、人間以上に「人工知性体」に魅力的なキャラが多いんだよね。
で、中編のの方の表題作でもある「いつか時が流れても」は本編の流れに一番近く、書き下ろしでは手加減なくたっぷり書かれていて、面白かった。
またいつか、マルガリータと火乃香との再会とかが描かれると良いな。


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