王家の人々
王都ルルノイエ。 その大都市の中にある王城は古く、どこか厳格な雰囲気を漂わせている。 豪華であるのに決して華美ではない。 重厚な重みとでも言おうか。 けれど北方に位置するロックアックスとは違って洗練されている。 町中の人々が羨望の眼差しを込めて込めて語るルルノイエ城。 城もさることながら、人々の関心は王家にあった。 豪放無比で力強い、戦神とも呼ばれるルカ・ブライト皇子と、華のようだと例えられる楚々とした美しい妹姫のジル・ブライト。 二人の麗しい兄妹はすなわち王都ルルノイエの象徴とさえ言われていた。 それだけでも王都に住まう者達にとって誇らしい事なのだが、さらにこの王家には戦神に負けるとも劣らない燃えるような緋色の髪と同じく緋色の瞳を持つ猛将、シードと、瞳に真冬の北海を思わせるような青い瞳を持った知将クルガンもいるのだ。 年頃の娘達は王都への憧れを語り、町中の人々は負け知らずの王家を誉めたたえた。 そして、皆で語るのだ。 一体、あの王城に住む人々はどんな人達なんだろう?、と…。 「わははははっ。」 豪快な笑い声が城中に響き渡った。 「走れっ! 走れぇえ〜っ!!」 その豪快な声の主と共に、なにやら動物の鳴くような声が聞こえる。 「?」 その声に嫌な予感がして、クルガンは声の聞こえる方へと歩いていった。 あの豪快な笑い声でだいたい声の主は分かったが、彼が今、何をしているかと思うと不安で足取りが早くなる。 『今度は何をやっているのだ!? あの皇子はっ!』 どこかの女中が気にいらなくて追い回して殺そうとしているのか、それとも遠乗りに出かけようとして馬番がなにか粗相をしたのか…? いずれにしてもろくな事ではないとクルガンは頭を痛めた。 知らず知らずのうちに足音が高くなっていく。 いらいらとしながら中庭に出ると、皇子の姿が見えた---------瞬間に絶句した。 なんと! あのルカ皇子がこともあろうか巨大な豚に跨がって中庭を歩いていたのだ。 「なにをやっている!? 豚め! もっと早く走らんかっ?」 と、馬乗りよろしく足で豚の横腹を蹴って歩みを速めようとする。 数百キロもあると思われる豚の横腹を蹴って何が楽しいのか、それでも皇子は豪快に城内を歩いていた。 なにやら滑稽を通り越して微笑ましい情景のような気もするが、クルガンはそんな心境ではなかったようだ。 いっそのこと何も見なかったフリをして回れ右してこの場を去りたいのを堪えて、なんとか止めようとルカ皇子に歩み寄ろうとした。 「お待ちなさい。 クルガン。」 ふと後ろを見るといつのまにかジル王女が立っていた。 自分が女子供の気配すら感じれなかった事に密かに後悔しながらも、決して表には出さずジル王女に向き直る。 「お兄様の邪魔をしてはなりません。」 クルガンが口を開く前にジル王女がクルガンを止めた。 「ジル王女、そうはおっしゃいますが皇子ともあろう者がいつまでもあのような遊びをしていては皇子の威厳に関わります。」 すぐさま止めさせないと、とクルガンが動こうとするが、再びジル王女がそれを止めた。 「大丈夫です。 ここは城の中、それにその様な、些細な事でお兄様の威厳は落ちませんわ。」 「しかし…。」 「あんなに楽しそうなお兄様をお止めするのはあまりに興がないとは思いませんか? クルガン?」 穏やかに、華が綻ぶように笑うジル王女に、クルガンは不覚にも言葉に詰まった。 ジル王女は豚に跨がって楽し気に闊歩するルカの姿を、目を細めて嬉しそうに見つめている。 それはさしずめ、乗馬に勤しむ夫を眺める妻の姿のようでー…。 その光景に軽い目眩を覚えながら、クルガンは呟いた。 「…それにしても…、あの豚は一体どこから…?」 家畜用の豚は確かにあるが、この王都内では当然飼ってはいない。 すると、ジル王女はにっこりと微笑み。 「私ですわ。」 ………は? 「私がお兄様に差し上げたんですの。 でもよかったわ、お兄様、気に入って下さったみたいで。」 くらり。 クルガンは自分の意識が一瞬遠のくのを感じた。 この、目の前でころころと嬉しそうに語る、王女の真意が見えない。 何故、王女自ら、よりにもよって豚なんぞをあげるのか? よく、身分の高い者は、一般の者との感覚のズレというものがあるが、城に仕えてもう8年、このたおやかな王女がセンスが悪い等という事は、一度も聞いた事がない。 「もっとだ! もっと走れっ!」 はた目からは微笑ましいが、なにやら異様な雰囲気の中、クルガンは冷静に一つの判断を下した。 曰く、『あの兄妹はただ者ではない。』。 そして、もう一つ。 この空々しい程滑稽な光景を壊してはいけない、と。 そっと胸にしまいつつ、この平和な雰囲気を保つべく、筋肉を総動員して笑い返した。 …が、しかし、クルガンはもう一つ、見落としてはいけないものを見落とした。 ルカ皇子が中庭で豚に跨がり、楽しく乗豚を楽しんでいた丁度その頃ーーー。 「美味そうな豚を発見♪」と、弓矢を携えて狙いを定めるシードの姿があった。 おわり。 これは因幡寛吉様からのキリリクで、「豚に跨がって豪快に笑うルカ様」でした。 |
あきらさんのHPにてキリ番をGetした際にリクエストしたSS。
まさか本当に書いて頂けるとは思っていませんでした(殴)
「ブタに跨り爆走するルカ様」なんてアホなリクエストを聞いて下さって有難う御座います。
あまりの嬉しさにちょっとブタまみれにしてみました☆どうです?
ちなみに、どうでもよいけど新宿小田急デパートの屋上遊園には巨大なブタが居ります。
100円で動くやつなんですが、それに乗るとルカ様気分を味わうことがちょっとだけ出来たり(笑)