同人PBM『隔離戦区・獣心神都』第2回 〜 北海道西部:北亜米利加


NA2『 The fruit to have been upset 』

 珍しく勢いは弱まったとはいえ、雪混じりの突風が時折吹き回る空。決して好天とはいえない状況の中、回転翼機MH-60Kブラックホークが南下していた。
 多目的回転翼機UH-60を戦闘捜索救難型として開発されたのが、HH-60Gベイブ・ホーク。更に特殊部隊強襲用として派生したのがMH-60Gで、高価な電子装備を搭載させた発展型がMH-60Kである。
 基本設計並びに思想は隔離前にあったとはいえ、超常体の出現により開発や普及が難航した現代において、最新機に違いない。MH-60Gが1機当たり約1兆円を下らない事を考えると、どれほど贅沢な代物か判るというものだ。
 その高価で最新型ゆえに好天とはいえぬ状況の中でも、さした苦難にも遭遇せずに進めるというもの。搭乗者はどれほどの重要人物かと思いきや、やや線の細い印象を与える少年が1人。猫っ毛の黒髪に、茶色の瞳。一般的に配給されているものより防寒効果の高い素材で造られた積雪地用戦闘装着セットに縫い付けられた階級章は、二等陸士を示していた。
「――すみません。わざわざ僕1人の為に航空輸送をしていただいて」
 少年―― 佐伯・正巳(さえき・まさみ)二等陸士が申し訳なさそうに伺うと、だが操縦士は笑って応じてくれた。
「何、気にするな。元々、この機体は要請により函館への支援に回される物だしな。そのついでだ。それに宇津保准尉から『色々と暇な時には協力してあげて。キヒヒ★』と厳命を受けている。しかし、あの“すすきの”の女王様とどういう関係だ?」
 操縦士は独特な笑いを似てない割にも再現してくれた。佐伯の持つ特殊な人脈を通しての協力支援。神州結界維持部隊北部方面隊・第11師団第11後方支援連隊補給隊に所属する 宇津保・小波[うつほ・さざなみ]准陸尉は、佐伯が請求した情報開示に応えるばかりか、何かと便宜を図ってくれる。別段、気に入られたという訳ではないようだが……。
「――しかし開示されたとはいえ、たいした情報はなかったですね」
 佐伯は苦笑交じりの溜息を吐く。手持ちの書類には、昨年後期より函館を中心とした渡島半島の怪異――各地に打ち立てられた9つの黒い石碑。そして2月に現れた魔王/群神クラスと呼称される高位上級超常体イタクァとの激闘。辛勝の末にイタクァは退けたものの、謎の寒波と超常体の群れに今なお脅かされている。
「――イタクァの能力特性は氷水系と幻風系の複合。そして強力な憑魔強制侵蝕現象を引き起こす」
 憑魔強制侵蝕現象は、第1世代の魔人にとってまさに脅威。如何なる戦況でも、これ1つで容易に覆されてしまう。最近の事例では、襟裳の チャウチウィトリクエ[――]だけでなく、九州福岡の飯塚駐屯地壊滅や鳥取の駐日独軍キャンプ壊滅が大きなものとして挙げられる。また沖縄では大いなる海神龍クトゥルフの大規模広範囲に渡る狂氣の波動が記録されている。
「対抗種ともいうべき第2世代も、クトゥルフぐらいになると必ずしも無事とは言えない……か」
 小波からの忠告にはそう書かれていた。イタクァ程度では、多少の痛みが走るぐらいで行動に支障はおきない。だがイタクァより上のクラス――クトゥルフに匹敵する狂氣の波動を発する相手には遅れをとる事もあるだろう。9つの黒い石碑は“それ”の召喚儀式に使われるものと考えられていた。その事に関しての小波から最悪の推測が出されている。
「――えーと。ちょっと待ってよ!? 『……もしかしたら、成功とはいえなくとも既に儀式によって降臨している可能性がある。9つの黒い石碑が並び、アルデバランが輝く星辰の夜――聖燭節、ウィッカ信仰のイモルグ、つまりは2月2日に。黒幕と思われるナイ神父もまた否定はしていない』……どういう事?」
 佐伯が思わず問い掛けるも、書類から返答は無い。代わって操縦士が、
「――お待たせ。着いたぞ、五芒星が刻まれた大地。函館の五稜郭だ!」

 植林されたアカマツの樹林も、超常体とともに出現し、発芽・繁茂した植物に生態系は衰退していた。代わりに五稜郭(公園)跡――のほぼ中央に配置されているのは大砲が2門。函館戦争当時の物で、旧・市立函館博物館五稜郭分館前に飾られていたはず。
「――これは誰が?」
「……壬生准尉が。上の指示で」
 いぶかしむ第7師団第11普通科連隊・第7011班長の 岩部・秀臣(いわべ・ひでおみ)准陸尉の呟きに、第11特務小隊(※壱壱特務)所属の 雪峰・アンナ(ゆきみね・―)二等陸士が小さな声で答える。更に問い質そうとする岩部の声は、だがブラックホークの音に声を掻き消されていく。その間にも興味を無くしたかのようにアンナは、屯所であり最後の砦と化した分館へと姿を消した。心配そうにアンナを追いかけようとする 曽我・桜子(そが・さくらこ)陸士長を、ブラックホークから降ろされた積荷が足止めする。
「――宇津保准尉から補給物資です。曽我陸士長によろしく、と」
 操縦士が目録を渡すと、桜子は溜息を吐いた。同じく需品科隊員の身。互いに知らぬ仲ではない。尤も小波の“仕事”に対して、普段から眉をひそめている桜子としては、突然の名指しにやや困惑気味。それでも周りの隊員達に声を掛けて、物資弾薬を分館へと運び込ませた。
「――わざわざ別海から御苦労だったな。それで摩周湖と屈斜路湖の方は? 報告は届いているが、実際の観測結果を聞きたい」
「残念というか、幸いというか……やはりイタクァらしき痕跡はありませんでした」
 佐伯の報告に、岩部が眉間に皺を寄せて暫く黙考。顎をしゃくって副官の 天野・忠征(あまの・ただまさ)陸士長に合図を送ると、
「――情報交換と作戦会議に入る」
 岩部の言葉に、補給物資の到着で受かれ気味だった一同の顔に程よい緊張が戻ったのだった。

 超常体だけでなく黒服黒眼鏡の完全侵蝕魔人――通称MIB(※Men In Black)への警戒が厳重に敷かれた五稜郭。堅牢とまではいかないが、岩部の推測が間違っていなければ、死守すべき最後の砦に他ならない。先の戦いで辛くも生き残った者達を見回しつつ、口を開く。
「――交戦記録から芦屋二士が推測した敵の進行。またオカルト説に準拠するものであるが、ラヴクラフト達が記した神話体系には、旧き印やムナールの星石と呼ばれる護符が五芒星の形をしていたとある。以上の点から考慮して、敵の目標は五稜郭にあると、自分は判断した。……質問や反論があれば挙手するように」
「……だね。最終目的地は不明という事にしても、次の交戦予定地点は、ここ、五稜郭かな?って、わたしも思います。――魔人の厄介さ、戦術を駆使されたら断言出来ないけどね」
 紹介された 芦屋・正太郎(あしや・しょうたろう)二等陸士が、岩部の言葉を肯定する。他者も異論はなく、大きく首肯する。
「……その魔人の厄介さだが。最も凶悪な――壬生准尉の事について聞きたい。黒い石碑を破壊した同時刻に、何らかの変調があったようであるが」
 眼光鋭くして、天野が口を開く。先日、第7011班が大沼国定公園の黒い石碑を破壊した際、同時間帯に旧・北海道警察函館方面本部へと襲撃しにきたMIBに異変が起きた。第11特務小隊(壱壱特務)隊長、壬生・志狼[みぶ・しろう]准陸尉と容姿が似たMIBは、苦悶の表情を浮かべて「殺してくれ」と呟くと、優勢だというのに逃げ出したという。
「――“アレ”の召喚儀式を妨害する為にも黒い石碑の破壊は続けますが、それがMIBにも影響を及ぼすとなると、ますます進めなければいけません」
 小波の忠告は胸に仕舞っておいて、佐伯が意見を述べると、一同、頷いた。
「……作戦を継続すべきか、儀式に必要とされる黒い石碑の配置を乱した事で満足すべきかの判断材料が、余り揃っていないのが問題だな。だが五稜郭襲撃を看過する訳にも行かない。戦いの主導権を握る為にも、先ずは完全に襲撃を退けるだけでなく、MIBに手酷い損害を与える必要がある」
 岩部の言葉に、芦屋が強い決意を秘めた。佐伯が挙手する。
「では戦力外ともいうべき、イレギュラーの僕が黒い石碑の破壊に回ります」
「……足はどうする?」
 単独行動のネックは移動手段だ。だが芦屋は黙って話を聞くだけだった操縦士に目配せをすると、
「それだったら、ブラックホークを使いなよ。ヘリは今後の足として活用するつもりで、五稜郭防衛には手持ち無沙汰なようだし」
「……解った。ハイヤー代わりとして近くまで運んでやる。どうせ、破壊の為にも重武装でなければならないのだろう?」
「そうだな。佐伯二士にパンツァーファウストを預けておく。任せた」
 周囲から寄せられる応援に、佐伯は敬礼する。
「……さて話は戻すが、肝心の魔人との戦いだが」
「そこで先ずは確認しておきたい事がある。壬生准尉の憑魔能力についてだ」
 完全侵蝕魔人である壬生の恐るべき戦闘力。岩部は報告を受けただけだが、芦屋は実体験した。函館駐屯地から顔を出した壱壱特務副長に視線が集まる。
「――強化系魔人だ」
 証言に、誰もが呻いた。
「一番厄介な相手か。……操氣系や祝祷系の魔人であれば、目にも止まらぬ神速や銃撃回避は感覚を誤魔化されているか、撹乱されているという事で説明が付く。また非常に珍しい能力――第18普通科連隊所属の殻島准尉が持ち主らしい――か、或いは完全侵蝕された事でそのような能力を得たというのならば、空間そのものを跳んでくれば、文字通り『目にも止まらず』移動が可能だからな」
 だが、達人級の強化系という事であれば。
「弾幕を易々と回避して接敵する神業を成しているのが純粋な技量ならば、対処は非常に困難だ。単純なだけに容易には覆せない為、実力勝負で勝つしかない」
「うーん。弾丸を良く見て避ける相手が、回避出来ない攻撃というと……対人地雷の大量使用か爆発物、でも設置型は狙撃より融通が利かないから……」
 岩部の苛立ちに、芦屋も頭を抱える。だが、
「……かつては兎も角、相手は剣士でもなく人間でもない完全侵蝕魔人。正々堂々とした果たし合いをする必要も無い。勝つ為――否、むしろ生き残る為にも打てるだけの手は打っておくしかあるまい」
 瞑目して精神集中。と同時に昂ぶる意識を冷静にすべく努めていた天野が呟く。岩部も嘆息の息を吐きながらも首肯した。
「では具体的な作戦を……」
「――失礼しますわ。遅れましたが、無事に物資を搬入しました事を報告します」
 桜子の入室に、程良い感じに室内の緊張が解れる。だが桜子は室内を見回して厳しい表情を浮かべた。
「――アンナちゃん、雪峰二士はこちらではなかったのかしら?!」
 桜子に問われて、天野が眉を吊り上げる。
 ……分館内を捜索したが、アンナの姿は発見出来ず。ただ幾らかの携帯食料類が消失していたのが判明しただけだった。

 ――国道227号線に沿って北上する少女の影。
「Vの字型に並べられた石碑……。召喚儀式……何となく聞いた事がある気が、する……」
 疲労を凌駕するは意思。痛みを鈍くするは狂気。
「――モスマン、ビヤーキー…そしてイタクァと来たから。多分……」
 聞き取れないほどの呟き。周囲に聞きとがめる者はいないが。
「……ん、そういえば駐屯所の人が……イタクァ=ザ・ウェンディゴは人間をウェンディゴに変化させるって逸話があるって。あのMIB、私の事、知ってた、もの……。壬生准尉、なんだ……。無理やりウェンディゴにされちゃったんだ……。でもまだ意識が残ってたんだもの、私が助けてあげるね……」
 誰にも見られぬ笑い。暗い焔を燻らせた瞳。
「壬生准尉は私だけのものだもの……。誰にも邪魔、させない……」
 クスクスと風が笑いを告げた。

*        *        *

 旧・札幌市営地下鉄南北線すすきの駅――隔離後すぐに廃墟となり、超常体の巣窟と化した事により、掃討戦を経て封鎖された施設に忍び込む、複数の人影。歩哨も無く、また隠密行動に長けた彼等を咎める者はない。目線とは違う高さに張られた蛍光テープが誘導灯代わりに順路を示す。瓦礫に押し潰されて、一見行き止まりと思われた通路の脇に、目立たぬように隠された扉があった。
「――いらっしゃい」
 扉をくぐり、階段を昇り切った先には小さな待合室。会議も出来るのか、長机と椅子が並んでいた。蝋燭の灯火が幻想的に揺らめく中、出迎えてくれた妖精――否、小悪魔へと、敬礼する。
「――第11師団第18普通科連隊・第1164班長、三月武人。お待たせしました」
 三月・武人(みつき・たけひと)三等陸曹に返礼すると、ローティーンの肢体をした小悪魔は着席を勧める。席に着いた三月へと、藤森・葵(ふじもり・あおい)二等陸士が馴れた仕草で暖められた手拭を差し出した。苦笑しつつも受け取る。
「――しかし、こんな場所があるとは思っていませんでした」
 第120地区警務隊所属の 蛭子・心太(えびす・しんた)二等陸士が正直に吐露する。
「上級幹部達のストレス発散の為にね。色んな手前、表立ってソープを利用する訳にも行かない人達もいるから。それに、いささか特殊な趣味や性癖の人もいるし。キヒヒ★」
 小波の独特な笑い声が耳に障る。
「――ま、お陰で秘密の相談所にも利用する事が出来るのよ。多分、札幌で一番安全な場所だわ」
「方面司令部よりも安全って……酒山のオッサンも大変だな」
 呆れた口調で、第11師団第18普通科連隊・第1113中隊第1小隊長の 殻島・暁(からしま・あかつき)准陸尉が呟いた。手には、内ポケットから取り出した鍵の形状をした装飾品を弄んでいる。
「……ま、とりあえずは情報交換と作戦の打ち合わせといくわよ。じゃ、暁から」
「だからファーストネームで呼ぶな。……あー。何だ。ずばり言うと、総領事館は魔王級の超常体の巣窟。以上」
「……北海道神宮の警備も、です。駐日米軍の兵士がどこまでクロなのかは判りませんが、警備網の薄いところをカバーするように魔王が目を光らせています」
 蛭子が続けるが、三月もまた観測しての意見を述べた。広げられた地図を指し示して、
「逆に申すと、魔王が活動し易い様に、米軍の警備が薄まっているとも」
「いずれにしてもぉ、整然とした敷地内――自分等、維持部隊の目も届くところには米軍兵士がぁ、そして円山や動物園跡、競技場跡等の潜伏し易くぅ、また多少派手な行動をしても外に漏れないような位置に魔王達が待機しているとぉ考えられますねぇ」
 のんびりとした口調ながらも、要点を抑えた 神崎・零(かんざき・れい)二等陸士の言葉に、一同が首肯した。北部方面隊のエリート――NAiR(Northern Army infantry Regiment:北部方面普通科連隊)所属という肩書きは伊達ではない。
「――まぁ、俺としては戦う事しか出来ねぇからな。1柱でも北海道神宮や総領事館の護衛たる魔王共を引き付けて、倒す事が出来れば……お前等の行動の負担を経験させる事が出来るだろう?」
「各人、多少の覚えはあろうが……純然とした戦力で貴殿の隊に優るものはないであるからな」
 殻島の挑発するような眼差しに、だが三月は苦笑で応じるだけ。舌打ちしつつも視線を逸らしながら、
「……了解。せいぜい頑張ってやる。まぁアムドゥシアスは5名ぐらいとほざきやがったが、こんなものはイカサマと同じだ。後から幾らでもオカワリがきやがる。それにカードゲームで伏せられている場札や、隠し持つ手札が、ジョーカーやエースだけで揃えられていないって誰が答えられる?」
 殻島は一同の顔を見渡すと、
「――だから、とっとと封印されている神様とやらを解放してもらわんと、俺もまた困るんだよ。それで、前回、手掛かりは何か掴めたか?」
「……声が聞こえましたぁ」
 零に視線が集まる。瞑目すると、噛み締めるように言葉を紡ぐ。
「『――我を解放せよ。異邦の魔の戒めから、呪縛から、我を解き放て。蛇巫の血を注げよ』と。……この『蛇巫の血を注げよ……』、これは恐らく解放の手順になると思うんですがぁ……一応調べてみたら次の様な物が見付かりましたぁ」
 民俗学者の吉野裕子(※1)氏が論じていた説を披露する。曰く「日本原始の祭は、神蛇とこれを斎き祀る女性蛇巫を中心に展開する」ものとして捉え、「その第一義は、女性蛇巫が神蛇と交わること。(中略)第一義は事実上、不可能なため蛇に見立てられた円錐形の山の神、或いは蛇の体に相似の樹木、蒲葵または石柱などの代用神や代用物との交合の疑きをすることになるが、第一義の意義はこの形で確実にいた生かされると彼らは考えた」との事。
「この場合、三輪の大物主神の巫女となって、その巫女の血を注ぐ?と言う事なんでしょうかぁ……」
「……待て。開拓三神という予測は立てていたが、大國主ではないのか?」
「――朱塗りの幻視。勢夜陀多良比売の逸話……とくれば、大物主よ!」
 小波が三月へと突っ込みを入れた。
 ――大国魂神・大那牟遅神・少彦名神の3柱を開拓三神と呼ぶ。大那牟遅神は、大國主の別名であるが、国土もしくは国そのものを神格化した大国魂神を大國主に見立てて、大那牟遅神を 大物主[おおものぬし]と解する説もある。記紀によれば大物主は、少彦名を失って悩んでいた大國主の前に、海の彼方より光り輝きながら現れたとある。三輪山に祀られる事を希望して国造の協力を申し出た大物主は、大國主の側面――幸魂・奇魂(※大神神社の由緒では和魂)と看做されているが、
「――別個の独立した神と考えられない訳でもないわ。ましてや大國主は出雲大社に……でも、あそこの近くには“魔女”がいるから『落日』としては安易に攻略出来ないのよね……」
「――小波様?」
 可愛らしい顔をいつになく歪ませて何事か呟く小波に、心配になった葵が声を掛ける。葵の呼び掛けに我に帰ったのか、取り繕うようにキヒヒと笑うと、
「……ともあれ、大物主の可能性が高いわね。しかし三輪山や大神神社が念頭にあったばかりに、思いもよらなかったわ」
「何故、大和の三輪山を神体とする大物主が、遥か遠方の北海道に? もしや隔離後に封じられたのであろうか?」
「……そこらの事情は、アタシのバックにお伺いしないと解らないわね……但し明治時代の廃仏毀釈の際に、旧来の本尊に替わって祭神とされた事が多いらしいの。これもまた関係があるとするなら……根が深いわよ? 開拓三神として祀られているとはいえ、元は國津祇。分霊として各地に配す事で、天孫系に対しての恨みを削ぐ意味もあったかも知れないから」
 ……そして三輪山の大神神社から遠方の北海道神宮に密かに移したのも、本来の力を削ぐと同時に、天津神への恨みを対外敵(※露西亜)へと転向・利用する――という意味があったかも知れない。
「……何にしろぉ、呪縛を解く為の手掛かりを求めに行きたいと思いますぅ」
「私は引き続き、神宮の拝殿への潜入を続けます」
 零の言葉を引き継いで、蛭子が挙手。殻島と三月が魔王との戦闘を引き受ける形になった。尤も全ての魔王を引き付ける事は叶わないだろうが。
 そして各自で作戦行動を煮詰めている時、零がおずおずと手を挙げた。
「あのぉ〜。北海道神宮を解放する際にですがぁ〜。米軍とかに対する損害を与えちゃっても、良いんですかぁ〜?」
 零の言葉を受けて、一同の顔に緊張が走る。だが唯1人、小波は涼しげな笑顔を張り付かせたまま
「――許可するわ。米軍兵士、魔王と関わりのない者であっても、障害となりうるなら排除しても構わない」
 しかし、付け加える事を忘れない。
「でも逆に言うと、アナタ達が殺されたとしても不問にされるの。解る? 田中の小父様が言っていたわよね? いざとなればトカゲの尻尾切りって。一応、田中の小父様とアタシとで情報操作や隠蔽とか、敵との妥協の模索とかはやっているけどね」
「……おいおい。妥協かよ」
「“遊戯”を円滑に進ませ、そして勝利へと導くには、時に敵とも示し合わさないといけないものよ? そういう腹黒くて、化かし合いはこちらでやるから気兼ねなく魔王打倒に、神様解放してきてちょうだい」
 それから葵へと微笑む。
「アタシが余り口を出さないのは、そういう理由もあるの。いざという時はアタシの命が差し出される事もあってね……。だから今後の具体的指針なんて出さないから。最終目標は提示したわ。そこに至る手段はアナタ達の自由よ。暴走が過ぎたら、止めて説教するけどね。キヒヒ★」

*        *        *

 発射地点から直視できない目標に対しての攻撃が可能な多目的誘導弾。光ファイバー有線式で前線配備に至っているのは、日本が開発し、維持部隊(自衛隊)にある96式多目的誘導弾システムだけである。
「なお、愛称の『マルチ』は某18禁美少女ゲームのアンドロイドが由来です。マジな話。実に業が深いですね」
「――だから誰に解説していらっしゃるの?!」
 先日も行われた遣り取りを、再び副長とするのは第5師団第5対舟艇対戦車中隊・第2小隊長の 月兎・うどん(げっと・―)准陸尉である。
「しかし……戦車型魔王の出現で急に配備場所が変更になりましたが、マルチが有効だというのなら定数まで揃えて欲しいものですね……」
「――別に来てくれと、こちらから頼んだ覚えは無いのだがな。思い上がるな、小娘」
 うどんの独白に、険のある女声が応じる。東千歳駐屯地に司令部を置く、第7師団長の 久保川・克美[くぼかわ・かつみ]陸将は、眉間に皺を刻んで96式マルチの車体を睨み付けるようだった。慌てて、うどん達は敬礼。投げ遣りな返礼で答えると、
「――菅屋の第5が自慢しているマルチとやら……どういったものかと見に来てやったが……大した事ねぇんじゃないか? おい」
 後ろを振り返る事無く、久保川陸将が呼び掛ける。思わず声に釣られて視線を向けると、うどんに寄生している憑魔核が疼いた。
 ――活性化。憑魔が別の超常体の存在を感知した時に示す様々な反応の総称。この状態になると、小型の超常体と化してしまい、身体能力が激しく強化される。ただし相手が小型の超常体の場合は、活性化が起きない場合の方が多い。同様に、戦友の憑魔に反応して活性化するような事はなく、ある程度の大きさがある相手でないと近くに潜んでいても判らない……はずだ。
 視線の先には、眼を隠さんばかりに伸ばした前髪を下ろした、痩せぎすの男。第07特務小隊――『零漆特務』隊長、鈴元・和信[すずもと・かずのぶ]准陸尉が唇を歪ませて笑っていた。鈴元は慇懃無礼な態度ながらも、うどんをフォローするかのように、
「――直視出来ない相手に、極遠距離から攻撃が可能というのは充分過ぎます程のアドバンテージを持ちますよ。そうですね、月兎准尉?」
 非公表ながらも、96マルチから発射されるミサイルの射程は10kmを超えるとされる。また比較的装甲の薄い上面に直撃する機動を取る事から、主力戦車を含む全ての車輌を破壊する能力を有しているとされており、
「はっ、はい! 旧大演習場にて出現した、戦車型魔王の装甲といえども有効かと」
「――だといいがな」
 鼻を鳴らすと、もう興味を失ったとばかりに久保川陸将は第7後方支援連隊へと向かっていった。残された形となった、鈴元は唇を歪ませると、
「――気にしないで下さい。久保川陸将の機甲や特科嫌いは、いつもの事です。第7の機甲師団という栄光の過去に対しても煩わしく思っていらっしゃる方ですから」
 久保川陸将は隔離後に第11普通科連隊を率いて目覚しく活躍した陸自出身のWACという経歴の持ち主で、今なお機甲科の存在に否定的。戦車に維持費や燃料を回すよりも、普通科部隊に今以上の対戦車武器を携帯させた方が良いと主張しかねない人である。
「――マルチは、普通科の装備ですけれどもね」
 うどんが溜息を吐く。だが、内心は緊張を強いられていた。久保川陸将の態度にではない。眼前の狂戦士にだ。疼痛は治まったが活性化は続いている。理由は解らないが、原因は間違いなく――鈴元にある。いつでも9mm拳銃SIG SAUER P220を抜けるようにと部下達は息を潜めていた。
「……さて、千歳キャンプと連絡を付けたいと仰っていたそうですが?」
 周囲の内心を知ってか知らずか、鈴元は笑みを張り付かせたまま、言葉を続ける。うどんは息を呑むと、平然さを装いながらの微笑を浮かべてみせた。
「ええ。流石に、直接照準で主力戦車と交戦するのは無謀ですわ。索敵や警戒等、他の部隊による活動も重要なので、亜米利加側の部隊と連絡を密に行いたいと思いますの」
 東千歳の隣には駐日亜米利加合衆国軍のUSSOCOM(United States Special Operations COMmand:亜米利加特殊作戦軍)がキャンプしている。久保川陸将にはああ言った手前があるが、正直これで確実と言い切れないのが魔王級の怖さなのは、うどんも重々承知していた。手は幾つも打っていた方が良いし、眼も耳も多くあれば越した事は無い。
「――狙撃対策としてミサイルによる長距離攻撃プランを提示しますわ。狙撃は同時攻撃目標が1つに限定されますから、飽和攻撃は有効でしょう」
「……成る程。ではリヒター大尉には、小生の方から連絡しておきましょう」
 アルバート・リヒター[―・―]は、米陸軍第1特殊作戦部隊分遣隊――通称『デルタ』の第2作戦中隊長である。厳粛な趣のあるリヒターに、流石の鈴元も一目置いているらしいというのは、うどんも聞き及んでいた。
「……そう? でも、こういう事は直接、御相談するべきだと思うけれども。失礼に当たりませんの?」
「肩書きと権力は、大尉であり、中隊長に過ぎませんが、実際に千歳キャンプの中心は彼に他なりませんよ。忙しい身でしょうからね。――失礼ですが、月兎准尉には彼と直接会う為の何かをお持ちですか?」
 鈴元は唇の端を歪ませる。前髪に隠されてはいるが、禍々しい程の強い視線を感じた。慇懃に頭を下げると、鈴元は胸ポケットに入れていたロザリオを手にし、
「ともあれ、貴女様の御武運を“主”に代わってお祈りしておきますよ――エィメン」
 祈りの言葉を放った。……鈴元の姿が視界から消えてもなお、眼の裏に十字架が焼き付いていた。

*        *        *

 総領事館付近で恋人や友人同士で楽しく時間を過ごすには円山公園が最適だったろう――隔離前までは。今や騒動の渦中にある北海道神宮を内包する為に、明るい空の下で交遊を楽しむ場としてよりも、暗がりの中で人知らずに陰謀術策並びに隠密工作が運ばれている。園内を4人一組で整然と行動するU.S.ARMYチームが警戒・巡邏し、不振な人物や異常事態に対して、抱えたU.S.M16A2アサルトライフルを向けてくる。
「 ―― Stop! Cancel arming, and raise both hands and stand. Describe belonging and a class! (停まれ! 武装を解除し、両手を上げろ! 所属と階級を述べよ!)」
 だが米軍兵士に警告を受けた葵は、向けられた銃口に物怖じせずに微笑みを返した。小首を傾げると、ポニーテールが揺れる。
「――総領事館の方と待合いをしているのですが、宜しいでしょうか?」
 傍目に武器らしきものは携帯してはいないが、肩に負った雑嚢が米軍兵士に警戒心を抱かせた。静かに置くように命じてくる。
「――ええ。配給品をちょっと工夫してみたんです。皆さんも如何ですか?」
 葵は下手な刺激をしないように雑嚢の中身を見えるようにしながら並べていく。開いた場所に広げられたシートの上には、少ない材と量ながらも工夫を施して食欲を誘う弁当だった。
 日本国自衛隊が根幹となる維持部隊。隊員へと主に配給される戦闘糧食は、自衛隊時代からの缶飯やパック飯と呼ばれる正規品が多い。だが栄養バランスが整えられていても同じ種類では飽きが来る。ましてや味が微妙ならば尚更だ。自衛隊のレーションは世界的にもバラエティに富んでおり、味も美味い方だが、更に市販されていた菓子類や栄養食品、缶詰、災害時の非常食からも幅広く採用。駐屯地近くであれば、個人の好みで雑多な味が楽しめる。
 対して、駐日外国軍の主食は今なおレーション。バリエーションの少なさや微妙な味付けに辟易した若い兵士が、密かに維持部隊の糧食と交換を要求してくる事もしばしば見当たられた。――葵が友好的な態度を見せるのに(悪く言えば)餌で釣ったのは尤もな話であろう。聞こえるぐらいに唾を飲み込んだ兵士達は、どうしようかと顔を見合わせていた。その時に、聞こえてきたのは美しい音色。葵の憑魔核がざわめきを覚えると、耳にしていた兵士達が陶酔した表情で去っていく。音色が止むと笑いを含んだ声が掛かった。
「……呆れましたね。しかし食は生命の根源とも聞きます。音楽は心を豊かにし、美食は身を栄えさせるといったところでしょうか?」
 ヴァイオリンを手にしたタキシード姿の好青年。七十二柱の魔界王侯貴族が1柱、一角公 アムドゥシアス[――]は朗らかに挨拶をしてくる。葵も笑みを浮かべると、
「前回は野暮な邪魔が入ってしまいましたが、是非、貴方様の曲を聞かせていただけますか?」
「……野暮? ああ、“大罪者(ギルティ)”と相対していた場に、貴女もいらっしゃったのですね。それでは拙い演奏ではありますが――」
 アムドゥシアスは左肩にヴァイオリンを乗せると、顎当てで挟み込む。右手で弓を巧みに動かし、音を奏で出した。元々が室内弦楽器であるヴァイオリンながらも、聞き惚れるような演奏技術。ピアノの伴奏無しながらも、繰り出される音の洪水に葵の感性は翻弄される。演奏が終わった瞬間、拍手が鳴り響いた。
「――バッハですか!?」
「これが、一番、聞かせられるものでして」
 照れた笑みを浮かべる。そして葵が演奏のお礼代わりにと差し出した弁当に、アムドゥシアスも目を細めた。
「しかし貴女も、随分と酔狂な。私とこのような接触が許されるので?」
「問題ありません。漣様――あ、私の先輩に当たる人なんですが……その人からも『出来るというならば、誘惑してこい』と」
 アムドゥシアスも苦笑する。
「それに……正直な所、この任務に付いている間は籠の中から出る事が出来ますので……」
「――籠、ですか。私も“唯一絶対主”を僭称するあの輩のシステムの一環として動いていた時は、それを当然のものと思っていました。しかし“猊下”とお会いし、友と触れ合う中で、もっと自由な感性と演奏で音を楽しみたい――そう思えてきたのです」
 だから、今、戦いに身を投じていても後悔はしないという。全ては“猊下”と友の為に。
「――アムドゥシアスとして? それとも……」
「両方ですよ。本来の身体の持ち主もまた音楽家として将来を有望視されていた若者でした。しかし彼は周囲からの重い期待に押し潰されそうになり……そして憑魔を寄生された事で日本に送られ――平穏な生活を失った代わりに、自由な心を手に入れました。それ以外にも相通じるものがあったのでしょう。“私”との統合にも快く応じてくれましたよ。今や、私はアムドゥシアスであり、また“彼”でもあり、そして誰でもない、唯一無二の私なのです」
 葵から渡された紅茶をゆっくりと味わったアムドゥシアスは、これ以上の誘いを断ると、
「――さて。足止めの任務でしたとはいえ、貴女との交遊は実に有意義なものでした。名残は惜しいですが、友の苦境に助けに参りませんと」
 一礼してアムドゥシアスは立ち去っていく。
「――またお逢い出来ますか?」
「……その時は円山公園でなく総領事館の方で。エミーとお呼び下さい。エミー・オークレイ。この“受容体”の名前です。アムドゥシアスの名では周囲の目と耳が怖いですからね」
 振り返ると、茶目っ気な表情を浮かべていた。

 ……アムドゥシアスの独演会が始まった頃、維持部隊員各自、北海道神宮調査の為の潜入作戦を開始していた。
「――駄目ね。ここから先は警戒が厚いわ」
 索敵していた第18普通科連隊所属の 淡島・蛍[あわしま・ほたる]二等陸士が唇を噛む。北海道神宮の拝殿まで、残り50mもない。だが先日の潜入以来、米軍の警戒は更に厳重になっており、常時、拝殿周囲に張り付くようになった。他の者達が魔王の目を引き付けてくれているお蔭で、蛭子達は遭遇せずに来られたが、ここから先の突破は困難極まりない。
「……蛍ちゃんには後方支援をお願いします。退路の確保を宜しく。最悪、疾風で先に撤退を――」
「馬鹿ね。アタシがアンタを置いて、独りで逃げ帰ると思って? いってらっしゃい、気を付けて」
 蛍の返事に感謝の念を抱きつつ、蛭子は常用している00式化学防護衣を脱いだ。……蛭子が野外活動時に迷彩パターンが施されるとはいえ、重く、動きが鈍って、不自由そうな化学防護衣を着ているのは理由がある。防護マスクを脱いだ、素顔はのっぺらぼう。無毛にして、眼球が横並び、口のような穴が開いているが唇はなく耳も鼻も穴だけ。生まれの不幸からくる、この容姿の為に迫害を受ける事もあったが、それらを乗り越えた強さと、蛍というかけがえのない友人も得られた。初めて素顔を見られた際に「気持ち悪い」の一言だけで切って捨てた蛍は、だが豪放磊落の性格のまま付き合いを続けてくれる。改めて感謝を噛み締めつつ、蛭子は意識を集中――己に寄生し、元凶とも言うべき憑魔を活性化させる。
 ――憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行。
 蛭子の身体は半液体状の肉塊に変わる。大地を這いずり、見当を付けていた下水の排泄口から侵入を試みる。ふと、動きを止めると、
「御免。一緒に服を持ち帰ってくれますか?」
「……本当に馬鹿ね。当たり前でしょ!」
 顔を真っ赤にして怒られた。しかし蛍がいるからこそ、蛭子は後顧の憂い無く侵入出来る。当たり前だが、人の侵入を考慮されていない排泄口や通風孔には何等の警戒もされておらず、罠も張られていない。時間は掛かっても易々と拝殿内部に進入を果たした蛭子は、周囲を見渡す。異形の感覚器官が生成されて、状況の把握に努めた。
( ……大物主様の意識は不在? それとも眠っているのでしょうか )
 零が聞いたという“声”はしない。だが操氣系でなくとも拝殿内部に力強い思念に満ちているのが判る。拝殿の奥に祀られているのは、長方形のコンクリート塊。石棺という言葉が何故か脳裏に浮かんだ。放射線を遮るかのように分厚いコンクリートで塗り固められたソレだったが、しかし封じられているモノの畏怖すべき氣を完全に封じる事までは適わないようだ。
( この中に、大物主様が……? )
「――おおっと。ソレに触れないでいただけないでござるか」
 大物主の氣が強大過ぎるが故に、気付かなかった。声に振り返れば、珍妙な姿の影がいる。濃紺に染められた頭巾と頬被り。同色の胴着に、内には艶消しの墨で塗られた鎖帷子らしきもの。首には格闘戦には不利な気がするような掴み易い長布がマフラーのように巻かれていた。
「――闖入者め、何者でござるか!? 否、人の名を問う前に、自己紹介するが礼儀でござったな」
 勝手に納得した影は腕組みをすると、
「某の名はバシン! 蒼白公の称号を賜りしもの! されど、この姿の時は、人呼んで『Mr.シャドー』。いわゆるニィンジャーでござる!」
 激しい勘違いの上にアメリカナイズドのコミックヒーロー化されたモノが、そこにいた。だが、こんなのでも七十二柱の魔界王侯貴族が1柱。列記とした魔王である。バシン[――]は忍者刀と呼ぶには大振り過ぎる得物を抜き放つと瞬く間に斬り掛かってきた。蛭子は半身異化状態でも離さず持っていた愛用のM1911A1コルトガバメントを構えると狙いを定める間もなく撃ち放つ。.45口径の轟音が響くが、バシンは素早い動きで回避。だが銃弾を避ける為に、バシンの攻撃も空打っている。
「――What thing the report of a gun in now is!? Mr. Shadow!(今の銃声は何事か!? Mr.シャドー!)」
 外から銃声を聞きつけた米軍兵士が扉を叩く音。
「……って、Mr.シャドーで通っているんですか!?」
 何か色々間違っている気がする。幾ら菩薩の如き寛容心の持ち主であってもツッコミ入れずにおられない。
「……さすがに打ち破ってまでも突入してくる様子はありませんが」
 眼前に魔王、周囲には米軍兵士。大物主が封じられているだろう長方形のコンクリート塊に再び一瞥を送ると、蛭子は半液状化になり、逃げを決め込んだのだった。
「――む。油断した。逃げられたでござる! しかし、こちらは名乗ったのに、自己紹介もしないとは何と礼儀知らずな!」
 バシンの悔しがる声が響いたが、そういう問題ではない気がする。

 ――南4条西27に出現した複数の超常体は、円山に移動。現在、殻島小隊と米軍総領事館警護小隊にて共同作戦中。各隊は非常に備え、持ち場の維持に努めよ。
「……複数の“超常体”に“共同作戦”か。確かに嘘は言ってないわな」
 原生林と異界の植物群で繁茂する円山。暗がりの中で、殻島は犬歯を剥き出して笑った。
『……第2小隊の第11135班から応援の申し出がありましたが?』
「駐屯地や“市街地”の防衛を固めておけって伝えろ。出張って来られたら、ありがた迷惑なんだよ。そこんとこ、小波が誤魔化してくれてっだろうし」
 82式指揮通信車コマンダーからの報告に、周囲を見渡しながら吐き捨てる。暗視装置V8が光を電子的に増幅してくれているとはいえ、茂みや木陰の先を見通してくれる訳でもない。
「――このまま小隊付は戦況の把握に務めろ。第2班と第3班は有事に備えて待機。コマンダーを守り通し、ついでに必要があれば他の連中の支援を忘れんな。そして第1班は俺と一緒に……」
 殻島が命じ終わる前に、火花が散った。頭1つ分隣の岩に弾痕。跳弾で生じた一瞬の光源で、こちらの位置を探られたか?
「祝祷系みたいな光学迷彩は無理だったか」
 力を使おうとして損した。殻島は悪態を吐くと、素早くエンジンを掛ける。偵察用オートバイ『ホンダXLR250R』で突撃。運転はそこそこに、意識を集中――M16A2から発せられた銃弾の雨を掻い潜る。5.56mmNATO弾の多くが、殻島に当たる直前で見えない何かに阻まれたかのように軌道を逸らしていた。まるで殻島の身を避けるように。まるでプリズムを通過した光のように有り得ない急角度で。そして、発射炎から敵の位置を割り出した部下達が、殻島に代わって応酬の銃弾を叩き込む。
「――空間湾曲能力。“大罪者(ギルティ)”か“懲罰者(パニッシュメント)”か!?」
 極一部の魔人特有の“憑魔共振”作用。アムドゥシアスかと殻島の目の端が吊り上ったが、現れ出たのは黒く塗られたホンダXLR250Rに騎乗した、黒の戦闘衣。戦場での迷彩効果を一切考慮しない姿だが、闇の中ではある程度の効果はあろう。だが、異常に己の力への絶対の自負が伺えられた。
「――我が名はエリゴール。戴いた騎士心公の名に恥じぬ戦い振りをお見せしよう!」
「……新顔の魔王のお出ましか。自負か、或いは唯の馬鹿かは……まぁ見れば解るわな。とはいえ、考える事は同じか」
 戦況を把握し、指揮し、伝達する頭を潰す事。殻島と エリゴール[――]の行動は見事に一致。視線を交錯すると、殻島は9mm機関拳銃エムナインで薙ぎ払うように連射。対してエリゴールはカットオフした散弾銃フランキSPAS15を振り回す。
「数はこちらが、威力はあちらか」
 とはいえ、約1,185発/分の発射速度ではすぐに弾切れを起こす。山中を高速機動するオフローダー2騎に敵も味方も援護が追い付かない。一騎打ちを邪魔しないように互いを牽制するだけのように思えた。
( ……腕の差か!? 次第に、こちらを捉えるようになってきやがった! )
 操縦という点では、エリゴールの方に軍配が上がった。撃ち尽くしたSPAS15を放り投げると、手にしたのは騎兵槍。一瞬、膨れ上がった氣が収束し、殻島を護る空間を突き破らんとする。
「――貰った!」
 押し迫る穂先。だが殻島は不敵に笑うと、
「……残念。見掛けによらず俺って指揮能力の才能あるんだわ。――ハチヨンぶっ放せ!」
 怒鳴り声に合わせて潜んでいた部下達が84mm無反動砲カール・グスタフを撃ち放つ。その数、2門。避けられないように2方向から放たれたHEAT弾はエリゴールに直撃。爆発の衝撃で車体諸共に吹き飛んだ。
「――未だだ!」
 吹き飛ばされても、なおハンドルを握り締めていたのに気付く。直撃したが咄嗟に氣の防壁を張って、損害を軽減したようだ。ならば、至近距離から致命傷を与えるのみ――殻島は“跳んだ”。果たして動きが鈍ったとはいえエリゴールは尚、体勢を整えようとしていた。吹き飛ばされていながらも、神業な操縦技巧で車体を無事に着地。敵ながら天晴れな大道芸だが、
「……ぬっ、離せ!!」
 こちらも大道芸なら負けてはいられねぇよ。唇の端を歪めて笑うと、背中へと“跳んだ”殻島は両脚によるカニ挟みで、エリゴールの腰をロック。引き剥がそうと暴れるエリゴールに対して、腹筋で身体を持ち上げるとナイフを抜いた。フルフェイス・ヘルメットの隙間――首に突き刺し、そして力任せに引っ掻いた。
「……千歳に続いて、ここでも……不覚を、取る、のか……猊下、お許、しを……」
 断末魔の声を漏らしながらエリゴールは絶命。血飛沫が舞い上がり、バランスを崩した車体が横転する。殻島も地面に叩きつけられたが、幸いにして尖った石等は無かったようだ。殻島は素早く立ち上がって油断なく構える。
「――1柱、仕留めた」
 顔に掛かった返り血を舐めるように、笑う。混乱する米軍兵士と、活気立つ部下達。だが舞い込んできた音色が一気に興奮を鎮めた。殻島も音の不意打ちに脱力し、朦朧とする意識を必死に繋ぎ止めようとする。
「――残念ながら、間に合いませんでしたか」
「……よ、よう。遅刻じゃねぇか、アムドゥシアス」
 優雅な音色と共に暗闇から現れたのは、戦場に相応しくないタキシード姿のアムドゥシアス。殻島の言葉に一瞥すると、アムドゥシアスは悲哀の表情を浮かべてエリゴールの遺体を見た。操り人形と化した米軍兵士がエリゴールの遺体を運ぶ。同じく音に操られているのか、殻島も第11131班も黙って見過ごすしか出来ない。それでも挑発を忘れず、
「……ちょっと待て。俺は連戦も構わないぜ」
「お気持ちは嬉しいのですが、私には友の死を悼む方が優先事項です。それに神宮の解放までの時間稼ぎならば無意味ですよ。先程、蒼白公より報告がありました――闖入者を撃退した、と」
 また初耳の魔王だ。北海道神宮の内部にも詰めていたとすれば、残る魔王は何柱なのか。殻島は内心で毒吐いた。
「……俺と今戦わなかった事を後悔するぞ?」
「かも知れません。しかしそれもまた一興でしょう」
 一礼するとエリゴールの遺体を運ぶ米軍兵士を引き連れて、アムドゥシアスは闇にまた再び消えた。耳奥に鎮魂の曲を残して。

 ――同時刻。円山南西部では動物園跡地で始まった壮絶な追い駆けっこが引き続いていた。双頭に異形成長した大蜥蜴。巨躯から来る圧倒的な力は解るが、短い四肢ながらも蛇のような俊敏さは如何なものか?
「そして銃弾が効かないであるか、あの鱗には?」
 三月は時折、振り返り様に89式5.56mm小銃BUDDYで乱射弾幕を張るものの、硬い鱗と異形系特有の尋常でない再生力で効いているかどうか怪しい。大蜥蜴の背に騎る龍総統 ヴォラク[――]は、小生意気にも嘲笑を浮かべていた。
「――HAHAHAHA! どうしたの? もっと逃げ回ってよ! そして潰れちゃえ!」
 赤いミートソース塗れの挽き肉にして、美味しく戴こうというつもりらしい。金髪碧眼の美少年然としていながら悪趣味極まりない。育ちが疑われる。
「……まさしく子供であるな」
 三月は岩陰に滑り込んで、一息を吐く。釣り餌役を引き受けるのも楽ではない。
「だが単純であるが故に挑発もまた易し」
 弾が尽きたBUDDYを背負い直して、代わってP220を抜く。5.56mm小銃弾も効かない相手に、9mm拳銃弾がどれほど威力を見せるというのか。しかし三月は不敵な笑みを表情に浮かべると、
「――接近しないのであれば、どれであれ同じ」
 いたぶるように押し寄せてくる息遣いを耳にして、脱兎の如く走り出る。岩が砕かれる音の源へと振り向き様に発砲。
「――ふーん。このまま街中に逃げ込むかと思いきや、山奥へと……オジさん、頭悪いんじゃない?」
「……俺は未だ29歳である。付け加えるならば、魔王にオジさん呼ばわりされる謂れは無い」
「アハハハ。じゃあ享年29歳で覚えておくよ」
 迫り来る大蜥蜴の突進。だが三月は助走を付けての大きく跳躍。勢い余って着地と同時に前転した。
「――何、その可笑しな逃げっ振り? って、アレ?」
 透き通るようなボーイソプラノで笑い声を上げていたヴォラクだったが、大蜥蜴が何かに絡み付いた事で怪訝な表情を浮かべた。黒塗りされた鋼線。頭上から降り注がれるのは刺激臭のある可燃性のある液体――灯油。察したヴォラクが後退するより早く、半身異化状態となった三月は地面に手を付いて憑魔能力を行使した。
「――あ、脚が!」
 亀裂が走り、大蜥蜴の脚を挟み込む――だけでなく巨躯を陥没させた。そして身動きが取れなくなった大蜥蜴と背に騎るヴォラクへと、左右に仕掛けていた指向性対人用地雷M18クレイモアが炸裂する。
「――一点集中砲火である!」
 三月の合図に隠れ潜んでいた第1164班の部下達が一斉に蜂起。手にする火炎放射器で業火を浴びせ、抱えたカール・グスタフを撃ち放つ。BUDDYの一斉集中射撃に加えて、魔人の副官がありったけの氣を込めた弾を叩き込んだ。
「……いや、だ……死にたくない……クソゥ、くそ!」
 炎に包まれて泣き叫ぶヴォラク。そのまま異形系の再生力も失われて焼き崩れるかと思った瞬間、
「――何っ!」
 大蜥蜴が背に騎っていたヴォラクを跳ね飛ばした。
「――覚えていろ! 絶対に、お前はボクが殺してやる。殺してやるからなっ!」
 全身火傷の重態の身で、ヴォラクは身を翻して逃げ去る。追い掛けようにも、大蜥蜴が最期の死力を振り絞って暴れ続けた。――主の少年を逃す為に。
「……状況終了。手負いの魔王を逃してしまったが、それでも神崎二士の手助けになれたと信じよう」

 銃声の轟く音や爆炎の明かりが、濃く深い森の木々に吸い込まれ、遠方の出来事と錯覚してしまう。殻島や三月が敵の目を引き付けている間に、零は円山の南側から頂上を目指していた。
( 蛇巫の血を注げよ…… ですぁ。え〜と、状況から察するにぃ〜、三輪の大物主神が北海道神宮に封じられていてぇ〜朱塗りの矢と言うのは…… )
 調べた記述を頭の中で思い出す。――円錐形の山の神、或いは蛇の体に相似の樹木、蒲葵または石柱等の代用神や代用物との交合の疑き……。そして矢、箸は、蛇に見立てられる事もあり、また古今東西、剣共々『男性』の象徴ともされる。その点に至って、零は何時になく顔を赤らめてしまった。
( はぅ!! まっマジですかぁ〜!!)
 任務の為に感情を殺す訓練を徹底的に施されてきたとはいえ、花も恥らう16歳。神話や伝承の寓意を読み取れば、赤面も止む得ない。
( み、三輪の大物主神様って……助平さんだったんですねぇ〜。――て、ちょっと待つですねぇ〜。勢夜陀多良比売の血とかでなく、蛇巫の血を注げよとあるから、これは三輪の大物主神様の巫女になる人の血を注げと言う事ですかねぇ )
 零は冷静を努めようとするが、頭はこんがらがっていくばかり。
( うむむぅ〜、あの文献を見た限り、円錐形の山と言うのは円山に相当するですかねぇ……)
 と、すると、
( 山頂付近に蛇に酷似した御神木もしくは石柱があるのかも? それに血を注ぐって……まさかぁ )
 気付いて愕然。否、以前より気付いてはいたが、改めて認識し、零の動きが一瞬止まった。
「処女を捧げろなんて言わないですよねぇ〜!」
 思わず絶叫。だが、すぐに我に帰って、隠れられそうな場所に跳び込む。失態だ――もっと心を、感情を殺さねば。任務の為とあらば殺人機械(キリングマシーン)と化してきた身だ。今更、肉体を捧げる事に何の躊躇いがあろうか?
 ――呼吸を整えながら、心を認識の外に置く。周辺の音に耳を澄ませ、嗅ぎ分ける。機械と化した零は再び山頂を目指した。
 ……記録によると、円山は低い手頃な山として夏には大人と子供がよく登っていたそうだ。未だ4月の半ばとはいえ、訓練されたWACが登るに支障はない。山頂と思しき地点に辿り着いた時、零は目を細めた。
「――蛇」
 頂にあるは、欠けた台座。鋭利な切っ先と化した石片が、天を刺し貫かんとばかりに上へと向けられている。そして石片にとぐろを巻きながら絡み付く蛇の幻視。実体ではなく、氣が凝縮して生じたナニカ。零の憑魔核が熱を発し、活性化に似た痛みと痺れが全身を貫く。脳裏に声が響いた。
『――我を解放せよ。異邦の魔の戒めから、呪縛から、我を解き放て。蛇巫の血を注げよ』
 蛇(邪)眼に魅入られたかのように、零は近付く――だが、奥歯を噛み締めると、
「……普通にぃ〜巫女になる誓いとぉ血を捧げるだけでは駄目なのでしょうかぁ〜?」
 問い掛けに、暫しの沈黙が訪れた。あれ、何か、外した?と首を捻った瞬間、豪雷のような氣が放たれた。怒りではない。むしろ……笑い?
『――交合による、破瓜の血を望むと思うたか。確かに、ソレの方が、我の封印を解くばかりか、力をも分け与える事になろう』
「……助平さん」
『――祇である我に、物怖じせずによく言うた。だが蛇は多産、多淫の寓意も含む。仕方なかろう』
 念話を送りながら蛇体を形作る大物主の氣は、零に近くに寄れと身振りで示した。そしてグローブを脱ぐよう命じると、手に牙を突き立てた。痛みはない――だが、手の甲に図章が浮かび上がってくるのを見て、
「……刺青? 蛇?」
『――我に仕えし巫女と認めた証よ。汝の手で、我が依り代に血を捧げよ。汝が“神宮”と呼ばれる場所の奥に封じられている』
「……状況はどうなっていますぅ?」
『……我が依り代は、熱して液状化した毒のある金属に沈められた後、冷えて身動きの取れぬまま、そして石のように固まる泥で塗り固められた』
 脳裏に浮かぶのは、何故か、石棺という言葉。
『長い年月を経て、ようやく、こうして氣を飛ばす事は出来るようになったが、肝心の力は封じられたまま。汝等の助けが要る』
「敵の数はぁ〜?」
『我を縛る、異邦の魔は……』
 しかし言葉を言い終わる前に、大物主の氣を凝縮して形作られた蛇体は、鎌首を上げて威嚇音を発した。突然の勢いに、零は反射的に大きく退く。――瞬間、轟雷の球が叩き込まれ、台座ごと蛇体は爆散した。少しでも大物主からの警告が遅ければ、零も巻き込まれていた。身体を休める事なく動かし続け、続いて振り注いでくる雷撃を避ける。
「――雷獅子」
 雷撃の源は、疾風と同じくらいの大きさを誇る雄獅子――七十二柱の王侯貴族が1柱、獅子頭王 ヴィネ[――]。咆哮と同時に、鬣にまとわせた雷光が瞬き、新たな一撃が撃ち放たれてくる。
「雷獅子さんですかぁ〜。自分の武装では分が悪いですねぇ〜」
 基本的に注意を引き付け、味方が隙を突き易い状況にするように心掛けるのが、零の戦い方だ。ましてや独りで真正面から挑むのは敗北必須。
「――ではぁこういう戦い方はどうでしょう〜?」
 ナイフを抜くと刃先で指の腹を傷付ける。傷口から出た血を舐めた刀身――寄生している憑魔核が歓喜に打ち震えた。そして地面に突き立てた。
「――三十六計に逃げるに如かずですぅ!」
 憑魔核が力を行使し、土砂を巻き上げた。雷撃を阻み、拡散させると同時に、ヴィネの視界を塞いで零が逃げる隙を生み出す。活性化した魔人は、半身異化状態でなくても常人より身体強化されている。獅子に追われた兎の如く、零は全力で逃げ出した。
( 大物主様と交神しての情報収集にぃ〜封印を解く鍵としての蛇巫を獲得しましたしねぇ〜)
 勝てなければ素直に撤退。それもまた任務。

*        *        *

 広大な原野に、そして原生林――旧・北海道大演習場を埋めるように異形戦車と、リザドマンを中核とする超常体の群れが押し寄せてくる。確認して、第7特科連隊長は指令を命じた。コマンダーから発せられた命令に99式自走155mm榴弾砲『ロングノーズ』が咆哮を上げる。前進観測班が測ってきた情報を基に、距離・方向・角度を割り出しての砲撃に、群れの一角が大きく崩れた。
「――戦闘は火力ですわ!」
 自信満々に声を上げると、指揮所からの指令を受けて、うどんは射手に96マルチの起動を命じる。起こされたコンテナからガス圧で発射されたミサイルは、点火されたロケットモーターで飛翔。光ファイバーで情報処理と射撃指揮の装置から誘導される。96マルチから発射されたミサイルは、赤外線探知機が異形戦車の膨大な排熱量を認知して、目標手前の空へと急上昇。そして鋭角に落下――雨霰と降り注いでいった。
『――着弾を確認! 撃破2、中破3、小破1』
 発射時間の差を、目標までの飛行距離等で調整し、同時に襲い掛かるミサイルの雨。強固な戦車装甲と異常な再生力を誇る異形系の組み合わせといえども、直撃すればひとたまりもない。損害が軽微であっても動きが止まったならば、第11普通科連隊の猛者達がパンツァーファウストやカール・グスタフで止めを差しに行く。そうはさせじと随伴歩兵代わりのリザドマンが迎え撃ってきて、最前線では銃火が華々しく咲き乱れる。生き残った異形戦車やビーストデモンには、戦車連隊が砲撃を加えた。
「――普通科が出過ぎでなくて?」
『確かに。こちらは支援砲撃を続けていくが、96マルチの有効射程距離と威力は大き過ぎるからな。普通科が喰らい付いたのならば、巻き込みかねん』
「わたくしの射手は、腕が宜しいですわよ」
 うどんの反論に、第7特科連隊長は苦笑。
『ともあれ、貴隊は遠距離攻撃力を生かして、敵後方からの増援を阻止する事に努めてくれ。――戦車や特科の時代は終わったよ。俺達は、おそらくコレが最後の出番になるだろう。魔王出現万々歳だよ』
「……失言ですわね」
『――聞かなかった事にしてくれるとありがたい』
 聞き咎めるうどんに、第7特科連隊長は笑い声で返答してきた。通信の向こうから喧騒や怒号が聞こえてくる。
『……おっと、普通科の連中が悲鳴を上げている。一旦引き上げて、態勢を整え直しだそうだ。砲撃を再開させる。そちらも稼ぎ時だぞ!』
 通信を終えると、うどんは敬礼。そして部下達を振り返ると、
「――で、肝心の魔王は?」
「……戦車を、喰っているそうです」
 観測手からの報告に、通信士が蒼褪めた表情で答える。魔王級の憑魔が寄生したと思われる、一回りも大きな異形戦車はロングノーズの砲撃、96マルチのミサイルの雨にも頑強に持ち堪えると、向かってくる普通科部隊や戦車部隊に反撃していっているそうだ。そして撃破した人命や車輌を文字通りに捕食。損傷を見る間に回復するだけでなく、更なる重圧の装甲と強大な火力、そして走破能力を増加していっているという。
「――普通科の撤退支援だけではなく、プラン通りに、特科と連携しての大火力による飽和攻撃を! これ以上、力を付けさせては不味いですわよ!」
 異形系が有機物のみならず、無機物も吸収し、また生成するとは――聞いた事がない。この戦車形状の魔王特有の能力か、それとも……。
「――魔王級異形戦車! ミサイル発射してきました! 上部装甲から砲塔やハッチらしきものを複数出現させての同時砲撃、同時発射!」
「何ですってー!? って、退避ーっ!」
 幸いにして96マルチの特性上、魔王級戦車には方向と距離、そして位置が把握出来なかったのだろう。あさっての場所に着弾していく。
「……長距離攻撃って大事。――第7特科連隊は?」
『――何とか無事だ。向こうには観測手らしき存在が未だいないようなのが助かったな。……だが次は無いぞ。時間を与えれば、ヤラれる』
 回復した通信からの声に安堵した後に、言葉が意味するところを理解して顔をしかめる。
「――敵攻撃に中断されたけれども、こちらも応戦! 本当に時間を与えたら不味いですわ!」
 うどんの激昂にも似た言葉に、全員が同意。発射準備を即急に進める。だが、
『――魔王級戦車。突然、方向を変えて急速に戦線を離脱! 何とか追跡してみます!』
 報告を入れてきた観測手。この時、うどんは引き止めなかった事を後悔する事になる。
『……敵からの狙撃はなかったな』
「――ですわね」
 うどんの内心に言いようの無い不安が広がる中、戦闘は縮小。魔王級戦車が戦線を放棄した結果、敵超常体は退くのを余儀なくされたようだ。
 ――翌日、うどんの耳に入ったのは2つの報告。1つは鈴元が率いる零漆特務が敵狙撃兵だった魔王 バルバトス[――]を誅殺したという吉報。そして、もう1つは観測手と護衛2名とが惨殺体で発見されたという悲報だった。検死結果から彼女達3人が最期に送ってきた通信内容は、
『――追跡中、天使の群れを確認』
 と推測されている……。

*        *        *

 気紛れに勢いが弱まっている内に白く染め上がった雪原を踏み締める。冬季用迷彩の施された特性の戦闘服は視認性や対赤外線を誤魔化すだけでなく、防寒具としても機能している。外気よりも、呼気によって内側から熱を奪われる恐れの方が高かった。そのような初歩的なミスを犯す事なく、マスクで口元を覆っているが佐伯が呼吸を乱す事は無い。また手にした幅広大型な三角形の穂先を付けた長槍――パルチザンに寄生する憑魔が佐伯の気配を覆い隠してくれる。それでも未だ慎重に進む。特注の暗視装置を操作して赤外線視認モードに切り替えると、ようやく目標に群がる超常体を見出した。
 ――イ号目標の姿は確認出来ず。代わってモス14、ビヤ18……報告にあった大沼攻略戦時より数は増していた。それだけ敵も警戒を強めたという事か。佐伯が駒ケ岳演習場跡地に降りた際に、偵察として数匹が出張ってきたぐらいだ。輸送を請け負ってくれたヘリコプターの操縦士は1週間後には迎えに来てくれたと約束してくれた。もう4日は経過している。帰りは迅速に離脱するとはいえ、これ以上、行きに時間を掛けたくなかった。函館の五稜郭防衛戦も心配だ。
 それでも焦る心を抑え付けて、状況把握に努める。見落としはないか。見過ごしはないか。目標を視認出来るまでに接近しても尚、2日ほどの時間を掛けて情報を収集した。ビヤーキーもモスマンも生物である以上は滋養や休息を必要とする。滋養を摂るには狩猟や採集をし、休息には睡眠を取る。夜行性のモスマンと違い、ビヤーキーの活動に時間的な差異は見当たらず。だが機械的ともいえる正確さで交代制を取っていた。
( ――今が好機ッ! )
 狩猟や採集、休息、そして交代時間を見計らった佐伯は、インバネスコートに寄生している憑魔を覚醒。力を解放させると風を纏って飛翔した。そのまま滑るように突撃。虚を突かれたビヤーキーだが、それでも緊急の信号を耳障りな音で報せる。恐らくは蜂のようにフェロモンに似た物質も散布しているのだろう。羽と牙を鳴らして、攻撃のポーズ。しかし、それよりも佐伯が速い。背負ったパルチザンで敵の気配を読むと同時に、培った鋭い感覚でビヤーキーの脇を擦り抜ける。抜き様に、紫電を絡ませたナイフの刃で切り付けながら。
 そうして、黒の石碑を眼前に置くと、背負ったパルチザンの代わりに構えていたパンツァーファウストを向けた。
「――目標、破壊!」
 今日初めてとなる一声に気合を込めて、引鉄を絞った。発射された対戦車榴弾は間違いなく黒の石碑へと吸い込まれ、そして瓦解させた。
「――ミッション・コンプリート! 離脱します!」
 誰が聞く訳でもなかったが、昂揚した気持ちが佐伯の表情に笑みを形作る。モスマンやビヤーキーが追いすがってくるのを振り切ると、佐伯の身体は迎えが来る場所へと飛翔するのだった。

*        *        *

 積み上げた土嚢に雪を固めて、水を打ち掛ける。繰り返せば、自然と強固な防壁と化す。岩部の指示で作り上げられた氷壁は、即席ながらも黒服と黒眼鏡の人型超常体MIBの攻勢を防ぎ止めるに充分であった。攻めあぐねているMIBに対して、岩部の号令一下、壁上に陣取った第7011班と函館守備隊とが、BUDDYやMINIMIで薙ぎ払っていった。防壁を抉じ開けようと、パンツァーファウストやカール・グスタフが発射される前に、構えるMIBへと芦屋がXM109ペイロードライフルで狙いを付ける。観測手の合図で引鉄を絞ると、25mmAP弾が氣で張られた防護壁をも易々と貫通し、粉砕する。弾薬が尽きぬよう、桜子が陣頭に立って補給の流れを断たないように声を張り上げていた。
「――気を抜くな! 突破が困難と判れば、壬生が切り崩しに来る!」
 先の報告から、徒党を組んだMIB以上に、壬生単体が脅威。下手を踏めば彼単独で殲滅されても可笑しくない程の恐怖。――だが逆手に取れば、
「分断しての各個撃破も可能――抜かるなよ」
 岩部の視線に、待機していた天野達が首肯した。
 ……戦いは膠着状態に陥り、その間にも函館駐屯地からの増援が駆け付け、MIBを挟撃出来れば一網打尽も出来る。――岩部が眉間に皺を刻んだ、その時、戦況の変化が訪れた。
「……岩部准尉、歌が聞こえますっ!」
 ――歌? 歌というよりも呪詛。呪詛というより怨嗟の呟き。
  いあいあ はすたぁ はすたぁ
    くふやすく ぶるぐとん ぶるとらぐるん
      あい あい はすたぁ はすたぁ
 狂氣の波動に、真っ先に反応したのは操氣系の魔人である芦屋と、小和田・ユカリ[おわだ・――]二等陸士の2人だった。デビチルであり、半身異化しても無いのに、顔を蒼白にして息を荒げる。耳障りな羽音に空を仰ぎ見る。芦屋は照準眼鏡を覗いて、警告を発した。
「――ビヤーキーとモスマンによる編隊接近!」
「まさか、空からの強襲とは!」
 壁上にある者の数人が対空射撃に回れば、その分、地上へのMIBに対する制圧射撃が減った。膠着していた状況が、一気に悪い方へと転がり始める様な気がしたが、指揮官たるもの弱音を見せる事は許されない。通信士に増援の到着を急がせるよう伝えると同時に、対空射撃を密にするように命じる。
「――ビヤーキーが何か抱えています」
「空爆か?」
「……いいえ、まさか、アレは人?!」
 芦屋はXM109で幾つかを撃墜してみせたが、高速移動するビヤーキーの多くは壁上からの弾幕をも擦り抜けて、上空を通り過ぎ様に抱えていたモノを放した。
「――空挺降下ですって!」
 唖然とするが、間違いない。ビヤーキーから降下してくるのはMIB達。落下傘も無しに降り立つ超常体共は、着地の失敗で数体は自滅したものの、氣や風の緩衝を利用して、すぐに攻撃態勢を整えると、手にしたBUDDYやMINIMI、そしてギャングよろしく11.4mm短機関銃M1A1トミーガンで制圧しようと乱射。だが、それよりも恐ろしいのは――
「――壬生、志狼!」
 着地の衝撃を、強化された身体のみで強引にクリアすると、餓狼が兇刃を抜いて疾駆。一瞬にして血の華が舞い散る――ところを、同じくフルスロットルを開いた天野だけが反応出来た。仲間を兇刃から護る為に、壬生の振り払った刀を受ける。咄嗟とはいえ、まともに受け止めてしまい、衝撃で腕の筋肉が悲鳴を上げた。
( ――悲鳴? 否、これは歓喜!)
 知らず、天野は犬歯を剥き出して笑う。そのまま両者譲らぬ速度と技巧で、刃の応酬を繰り広げる。亜音速の動きによる空気摩擦が熱気を生み出し、周囲の雪を溶かす。ぬかるんで悪くなった足場だが、意にも介さぬ動きを続けた。壬生の爪先が泥を蹴り上げ、天野の顔へ浴びせる。顔をそむければ刃に力が乗らぬ。身を翻せば続く手業が繰り出せぬ。ならば――!
「――天野さん、右斜め前!」
 声に従い天野は視界を敢えて潰させると、勢いを乗せて刃を振り払った。斬られたのだろう。左脇に灼熱感を覚えたが、確かな手応えを感じる。掠り傷かも知れないが、間違いなく壬生に一太刀を浴びせたのだ。更にユカリの声と寄せられた氣の流れを頼みにして、よどみの無い斬撃を繰り出し続ける。
「――避難完了!」
 壬生を天野が引き付けている間に、非戦闘員の避難誘導を終えた桜子が着剣したBUDDYの刺突で、MIBの暴虐を阻止する。
「――沢田、石上は敵降下兵の掃討。工藤と井口は外の連中の突破を許すな! 攻撃の手を休めずに、持ち堪えてみせろ!」
 岩部の叱咤激励を受けて、奮起する一同。粘りを見せる第7011班と守備隊の気迫に、MIB達の攻勢に衰えが見られてきた。
「――!!」
 ここで勝負を賭ける! 天野は裂帛の気合を発した。持てる力の全てを注ぎ込み、捨て身で掛かる。身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ。身体強化による自らの斬撃速度と、岩をも断つ憑魔刀。そして支援してくれる仲間を頼りに壬生を斬る事だけを考える一振りの刀と化す。
「――!!」
 壬生もまた呼応して、人ならずの咆哮を上げた。互いにまさしく乾坤一擲の一撃を放たんと駆ける。そして地面を抉るほどの地響きと衝撃が起こった。
「……天野さん!」「士長っ!」「副官殿!」
 周囲から悲鳴が上がった。ぶつかり合った衝撃で吹き飛ばされた天野は重態。左肩から腹へと着込んでいた戦闘防弾チョッキもろともに裂傷が走っていた。溢れ出す血が、大地に赤い水溜りを形作る。
 ――だが、壬生に無くて、天野に有るものが勝敗を決した。ぶつかり合った刹那、雷電系の 西井・順平[にしい・じゅんぺい]一等陸士が磁気を狂わせて刃の軌道を鈍らせ、またユカリが天野の気配をズラした。僅かな助力だが、天野の斬撃は、より深く、そして重く、壬生の血肉のみならず骨まで断った。左肩から袈裟に入り、そして背骨を断って右脇腹で止まった憑魔刀。間違いのない致命傷。
「――やったか?」
「そんな事よりも!」
 慌ててユカリが駆け寄り、天野へと氣を送り込む。活気に、消え掛けていた命が繋ぎ止められた。衛生科隊員が担架を運び、すぐの救命措置が手配される。まさしく勝利。……だが歓声に沸き立つ前に、芦屋が警告を発した。
「――未だだ! 何か、『裡』に『いる』!』
 壬生の断面からナニカが漏れ出そうとしていた。隙間風のように狂氣が『外』へと吹き込もうとしていた。
「――焼却!」
 アレを『外』に出してはいけない――知らず、名状し難き恐怖で震える身体を鞭打って、岩部がAN-M14焼夷手榴弾を投擲しようと試みる。だが、ソレを阻んだのは、
  いあいあ はすたぁ はすたぁ
    くふやすく ぶるぐとん ぶるとらぐるん
      あい あい はすたぁ はすたぁ
 突如として猛風が吹き荒れる。凍えるような、切り裂くような冷気。瞬時に現れたのは、光を阻み、影を落とす巨人。宙空に赤い眼が爛々と輝く―― イタクァ[――]。
「――あぁぁぁぁぁぁぁっっっっ!!!!」
 弾倉を交換しての連射。芦屋は気が狂わんばかりに、XM109で25mmHEAT弾を叩き込む。巨体に直撃を受けてイタクァはよろめいて、肉片を撒き散らした。だが重傷を負いながらも、イタクァは無視して手を伸ばすと大切なものを扱うように壬生を掬い上げた。そして遥か空の彼方へと放り投げる。ビヤーキーが雲霞の如く空を横切り、壬生らしき物体を掴んで飛び去った。
 そして……イタクァはそのまま崩れ落ちて、動かなくなった――
「壬生を脱出させる為だけに来たのか、こいつは?」
 震える声で吐き捨てる。イタクァ出現に気を取られてMIBの姿も掻き消えていた事に気付かなかった。
 ……こうして五稜郭防衛戦は幕を閉じたのである。

*        *        *

 国道227号線に沿って歩き、山間を抜ける。厚沢部で県道460号線に入り、山裾を歩く。徒歩のみで移動するには途方も無い労苦を、だがアンナは我執のみで踏破した。ツインテールに束ねていた髪具は壊れ、流れるに任せている。前髪が目元までかかり、血と汗で汚れた顔を隠しているが、ただ眼のみがぎらつき、普段の無表情さとは違った、人を遠ざける雰囲気を醸し出していた。
 凍傷で壊死し掛けているのだろう。指先の感覚は失われていた。それでも雑嚢に放り込んでいた狩った超常体の肉を何とか掴むと、歩きながらかぶりつく。もはや味も臭いも判らない。ただ空腹感を慰める為だけに食し、そして飲み込む。弾が尽きたBUDDYは既に杖代わりだ。銃身は使い物にならないばかりに歪んでいた。得物は――2振りのコンバットナイフのみ。
「――貝子沢化石公園」
 耳障りな羽音や、奇妙な鳴き声を耳にするに至って、ようやくアンナの眼に知性の光が再び灯った。
 第四紀化石露頭層である貝子沢化石公園跡地に、そそり立つ黒い石碑と、警護するように飛び回っているビヤーキーとモスマンの群れ。だがアンナは唇の端を吊り上げると、BUDDYを放り捨てて、それぞれの両手にナイフを握る。そして、
「――ッ!」
 駆け出した! 気付いたビヤーキーが邪魔するように襲ってくるが、
「――壬生准尉を操ってるものは殺すっ!」
 異常なまでの意思が憑魔核を通して、氷壁を現出させる。頭から氷壁に突っ込んだ形となったビヤーキーが高度を落とし、動きが鈍ったところを手にしたナイフで一閃。殺到してくるモスマンには、吹き荒れる吹雪を逆に利用し、鋭利な氷片と変えて叩き付け、襤褸布のように切り刻む。
「……壬生准尉はほんとはこんな事、したくないんだもの……。私が助けて上げる……」
 口元には笑みを浮かべ、ただ前進。アンナの尋常ならぬ勢いに呑まれた超常体。モスマンが風の衝撃波を放つが、半身異化したアンナには微風――否、力を増幅する為の餌に過ぎない。凍結させて反撃する。しかし多勢に無勢は変わらず。避け切れなかった傷や、殺し切れなかった衝撃で、満身創痍。しかし――
「そんなのダメ……。壬生准尉は死ななくていいんだよ……。だって准尉を操ってるものを私が殺して上げるんだもの……」
 恍惚とした表情でアンナは黒い石碑へと辿り着く。そして双つの刃を叩き付けた。
 傷付いた箇所へと、殴るように、抉るように、何度も何度も突き立てる。幼子が駄々をこねるように。
 その背にビヤーキーやモスマンの攻撃を受けても尚、黒い石碑を傷付けるのを止めない。そして……
 ついに砕け散った。同時に張り詰めていた意識もまた断ち切れた。アンナの身体は、砕けて崩れた石碑の残骸へ倒れこんでいく。
 遠のく意識へと刻まれるのは、ビヤーキーやモスマンの甲高い叫び声。そして雪を踏みしめる足音に、嘲笑だった。

 翌4月28日早朝――函館の千代台公園。10日もの間、消息不明だった雪峰アンナ二等陸士を発見。衣服等の装備に激しい破損や汚れが見られるものの、当人の身体には一切の外傷は無し。容態も(異常なぐらいに)健康状態であり、意識が戻り次第、戦線復帰が可能……という報告が上るのだった。

 

■選択肢
NA−01)亜米利加総領事館にて陰謀
NA−02)北海道神宮に潜入を試みる
NA−03)大演習場で魔王を見敵必殺
NA−04)大演習場で天使どもを殲滅
NA−05)キャンプ千歳を探ってみる
NA−06)函館で黒服集団を追撃交戦
NA−07)残る黒い石碑の1つを破壊
NA−FA)北海道西部の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に、当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
 なお残る黒い石碑は6/9(×駒ケ岳、×大沼国定公園、●上磯ダム公園、●湯の沢水辺公園、●渡島支庁木古内町、●檜山支庁上ノ国町、●檜山支庁厚沢部町、×貝子沢化石公園、●豊浜トンネル)。PC1人のアクション1回――約2週間で破壊出来る数は1つとする(※準備や会議等はカウントされない)。
 大演習場では魔王等による強制憑魔侵蝕現象の危険性もあるので注意する事。

※註1)吉野裕子……1916-2008。日本民俗学の代表者の1人。1977年、筑波大学文学博士号取得。在野の学者として著書多数。


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