同人PBM『隔離戦区・獣心神都』第3回 〜 北海道西部:北亜米利加


NA3『 The sediment, the rankling love 』

 かつて日本三大歓楽街の1つと言われた、札幌市中央区にある『すすきの』。歴史は比較的に新しく、1871年に北海道開拓使が、周辺に点在していた旅籠――実質的な売春宿を当地へ移転させ、「薄野遊郭」と命名して遊郭地帯に指定した事が始まりらしい。売春街建設の理由として、開拓に従事する労働者を札幌に繋ぎ止める必要があった事等が考えられるが、隔離後においても、一部のWAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)ないし、男性によって性的サービスの提供は形を変えて継続し、戦闘員の慰安と同時に戦闘を拒否する者の捌け口とされているだけでなく、性犯罪の抑止も考慮されて黙認を受けている点から考えてみても、理と情に適った策だったかも知れない。
「……風俗は兎も角、天然温泉もあるんですよねぇ」
 神崎・零(かんざき・れい)二等陸士が心弾ませながら呟いた。任務では山中を駆けずり回り、また空いた時間があれば、少しでも訓練に費やす零でも、やはり稀にでものんびり身体を休めたいと思う。まず遊郭が先に発展してきた『すすきの』だが、1986年に天然温泉が掘削されており、すすきの温泉と呼ばれて周辺のホテルで利用されていたらしい。
「任務に忙しくて、すっかり温泉入るの忘れてましたねぇ〜」
 神州結界維持部隊北部方面隊のエリート、NAiR(Northern Army infantry Regiment:北部方面普通科連隊)の一員である零は、今は原隊を離れて行動しているが、特殊任務で忙しいのに変わりは無い。まだ活きている施設に顔を覗かせると、心身を癒すべく、入浴を希望。応対する需品科隊員が何故か浮かべた怪訝な表情を物ともせずに部屋に入ると、
「それにしてもぉ〜不思議なお風呂場ですねぇ〜何故かベッドまで在りますねぇ〜」
 入浴後、すぐに横になって快眠を取れるようにしてくれたものなのだろうか。そう考えながら、汚れた戦闘服を脱いで、小柄にしてスレンダーながらも胸のある肢体を露わにする。
「おまけに、バスチェアの真中、なんでかUの字型になってますねぇ〜」
「……そりゃ、まあ、そういう施設だから。この浴場もアタシ達が“仕事”で使っているところよ? しかし本当に、胸があるのね。キヒヒ★」
「そうなんですかぁ、宇津保准尉達が使っているならば納得ですぅ〜……って、何でここにいるんですか、宇津保准尉!?」
「――いや、だから、“仕事”だってば。独り寂しく、火照る身体を持て余す、うら若き少女を慰めようとサービスするわよ。キヒヒ★」
 ローティーンとしか思えない愛らしい容貌ながらも、同性でも心奪われる程の妖しく艶やかな仕草。だが特徴的な笑い声を上げて、第11師団第11後方支援連隊補給隊に所属する 宇津保・小波[うつほ・さざなみ]准陸尉が零に迫ってくる。
「……いやぁ、その自分、ノーマルですぅ」
「大丈夫、アタシ、バイだから。いや、むしろ男よりも女の方が……」
 本気で貞操の危機を感じる零だったが、
「――漣様。からかわれるのはそこまでになされた方が……」
 苦笑も混じった声に救われる。零は 藤森・葵(ふじもり・あおい)二等陸士に感謝の念を捧げた。小波は肩をすくめると親指で着替えが入った籠とロッカーを指し示す。
「――御注文の最新の戦闘服を届けに着たわよ。1時間後にいつもの場所に来なさい。それまで邪魔しないから、束の間の休息で心身を癒しておく事」
「しょ、承知しましたぁ」

 指定された時間に遅れる事無く着席した零へと、札幌市街の地図に目を落としていた、第11師団第18普通科連隊・第1113中隊第1小隊長の 殻島・暁(からしま・あかつき)准陸尉が顔を上げる事無く、
「――合法ロリータ、でも実は三十路過ぎのセクハラ准尉にからかわられたって?」
「どうしてぇ、それを?」
「本人が言い触らしていた。」
「……なっ何ですとぅぉぉぉぉ!!」
 御愁傷様。合掌してくる第11師団第18普通科連隊・第1164班長、三月・武人(みつき・たけひと)三等陸曹へと、思わず恨みがましい視線を送る。
「――同じ需品科管理でも、その手のものとは別の入浴施設がありますから。今後はそちらを利用なされては?」
「……旧サッポロファクトリーであるか。あそこは確かにお勧めだな」
 第120地区警務隊に所属する 蛭子・心太(えびす・しんた)二等陸士の言葉に、零からの視線から慌てて逃れようとしていた三月が同意する。旧サッポロファクトリーは隔離前に開業したショッピングモールを中心とした大型複合施設である。第11後方支援連隊補給隊が管轄しているが、かつてのフィットネスクラブや温泉リゾートの設備がある。個人的な基礎体力造りや、性的サービスを伴わない入浴を望む場合、旧サッポロファクトリーを利用するべきだろう。
「それはさておき。――何度も繰り返して悪いが、情報整理と作戦行動の確認をするぜ」
 斑に染めた髪を掻きながら殻島が、地図上の北海道神宮にピンを挿す。神宮内に潜入を果たした蛭子が再度の報告を上げた。拝殿の奥に祀られていたのは、長方形のコンクリート塊。
「……放射線を遮るかのように分厚いコンクリートで塗り固められていましたソレに、何故か石棺という言葉が脳裏に浮かびました」
「円山にて接触しました大物主様もぉ『熱して液状化した毒のある金属に沈められた後、冷えて身動きの取れぬまま、そして石のように固まる泥で塗り固められた』と仰っていましたぁ〜」
 蛭子の後を引き取って零は続け、
「つまり大物主様はぁ、劣化ウランで固められて、コンクリ詰めになってるということですねぇ〜放射能大丈夫かなぁ〜」
「……待て。劣化ウランはさすがに無いだろ。融点どれぐらいだと思っているんだ?」
 ウランの融点は摂氏1,132度。封じられている 大物主[おおものぬし]がどのような状態かは窺い知れないが、熱せられて液状化したウランに沈められたというのは想像に難い。
「毒性のある金属といえば……有名なところでは鉛とか、水銀であるな」
「加えて放射線遮蔽物として有名でかつ常温で固体とくれば……鉛でしょうか。石棺を遮蔽コンクリートと考えますと納得がいく話です」
「つまり劣化ウランは外れぇですか〜?」
「少なくとも一般的ではねぇな。というか、本当に劣化ウランだったとしたら、お前どうやってぶち割るつもりだったんだ?」
「こう、『地竜くん』の超振動でぇ〜」
 さておき、三月達が魔王共を引き付けてもらっている間に、零が単身潜入を図るという事に。
「了解した。ヴォラクの恨みを買っているので、引き付けて止めを刺すぐらいは任せてもらおう。影が薄いからメインを張れないとかでは決して無いぞ」
「誰もそのような失礼な事は考えていませんよ」
 何となく悲哀漂う三月の呟きに、蛭子が苦笑を浮かべながら慰める。
「……ホントはぁ、殻島准尉に拝殿まで跳躍してもらって大暴れしている隙に、大物主をって流れが楽なんでしょうけどぉ」
「言葉じゃ簡単だが、空間を跳躍するっていうのは精神集中しなければならないし、距離によっては疲労もでかいんだよ。ましてや北海道神宮は、封じられているとはいえ大物主の力が満ちているからな。逆に寧ろ“跳ぶ”と阻まれる。無理に突破しても、疲れているところをバシンに襲われたら、どうすんだ?」
 駄目ですかぁ〜、駄目だ、の遣り取り。
「……しかし順風満帆とは言い難いが、早期に大物主との接触が叶った事が、逆に引っ掛かったりもするな。魔群の巣窟である総領事館の直近で大物主が解放されれば、魔王共でただでは済まねぇはず」
 殻島が唸ると、蛭子もいつになく怪訝な表情を浮かべた。確かに警戒は厳重だが……
「その割には、迎撃が手抜きに感じられるような? 少なくとも、必死さは感じねぇ。“傲慢”故のお遊びなのか――それとも解放は折り込み済みなのか」
 殻島の言葉を受けて、三月も腕組みして首を傾げた。零が挙手する。
「魔群はぁ〜解放と同時に、その力を逆利用しようとしているのかも〜」
「根拠は?」
 問い質す声に答えたのは神州結界の裏について最も精通していると思われる人物。キヒヒ★と笑うと、
「……『遊戯』は陣取り合戦なのよ。自分の支配地域に旗を立てる必要がある。それが天使共ならば、燭台の灯と称される光の柱であり、魔群ならば地獄門と呼ばれるもの。歪められた龍脈は、大物主が封じられた北海道神宮――引いては函館に澱んでいると考えるのは間違いないわね。そして大物主の解放に当たって、澱んだ力が爆発するのも。でも、その結果で何が生じるか、何を企んでいるかは予測の範囲を超えないけれども……暁、零、いいところに気付いてくれたわね。大物主を解放する際にも罠が張り巡らされているものと考えて、細心の注意を払って頂戴。キヒヒ★」
「――ファーストネームで呼ぶな。そして最後でまとめて、いいところ取りするな」
 更に作戦行動を詳細に打ち合わせした後、小波が手を打ち鳴らしたのを合図に解散。各自、準備に取り掛かる。その中で、1人情報端末を睨んでいるのは葵。
「どうしたの? 携帯通信端末を睨んで?」
「あっ。……いえ、私の知人に領事館に顔の聞く方がいるかと思ったんですが……」
 葵の言葉に、小波は微笑むと、
「ああ! 葵の知人ってイコール常連だからね。下手に頼むととんでもない事になりそうね。キヒヒ★」
「うっ……ただでさえ今の状況が終わったら『必ず』指名するからね、とか端末に来ているのに……無難にエミーさんのつてだけで行った方が良いですね」
 溜め息を漏らして持ち場へと向かう葵。黙っていた殻島が、消えいく葵の後ろ姿を見遣りながら、
「……大丈夫なのか、奴は? 先日に総領事館の、しかも魔王と友好的な単独接触を果たしたと聞いているが。この場での情報が漏れる恐れは?」
「今回は結局、正攻法だから問題無いわ。でも皆が気にするならば、次から用心の為に会議から外すけど。それに……ハニートラップを仕掛けたつもりで逆に虜にされていたというのはよくある話よ。――あの娘も、その覚悟はしているわよ」
「……今は苦笑しながら見守るしかねぇな。だが、いざとなれば――いいんだな?」
 殻島が確認すると、小波は唇の端を吊り上げるように笑うと三日月を形作った。 「――キヒヒ★ どうぞ、御自由に。アタシもだけれども、調査隊員はそういう使い捨ての駒だからね」

*        *        *

 神州結界維持部隊には暴論的なまでに実力主義がまかり通っているところがある。20年もの間、隔離封鎖された神州日本において培った経験と実績が、それを是としていた。第7師団長の 久保川・克美[くぼかわ・かつみ]陸将その人が体現者であるからして、広く開かれた会議室に、幹部(士官)のみならず、下級幹部(下士官)から一介の陸士に至るまで、意見ある者達が席を着いているのは、他国には無い光景と言えよう。そして単なるオブザーバーではなく、作戦当事者として第5師団第5対舟艇対戦車中隊・第2小隊長、月兎・うどん(げっと・―)准陸尉が地図を前にして唸るのも、もはや珍しくない光景となっていた。
「……現在の状況を確認する。恵庭駐屯地以西から支笏湖以東以北、そして札幌岳(※国道230号線)以南の旧・大演習場において、我が師団と米軍による部隊、魔群の大混戦状態と考えて相違ないな?」
 久保川陸将の発言に、うどんは挙手して補正を求める。注目が集まる中、
「魔群の注目度が高まる一方で忘れがちですが、天使共の存在もあります」
「ふむ。失念していた。……月兎准尉の隊には、天使によると思われる戦死者が出ていたな。申し訳ない」
 特科や機甲科嫌いで有名な久保川陸将だが、仮令、相手が目下や外様でも、非を認める素直さはある。そうでなければ混迷の隔離戦区で一介のWACからのし上がれなかったという事もあるだろう。
 4月中旬から下旬に掛けての魔王級戦車との交戦において、追跡した観測手と護衛の3名が惨殺された。最期に遺された通信記録から、加害者は天使の群れと予測されているが……。
「魔群の活動範囲は支笏湖伊藤温泉にまで拡大していますが、やはり南西部には天使の群れが残存しています。劣勢とはいえ、えにわ湖の117号線から16号線に掛けて、両者の小競り合いが確認されています」
 大演習場の勢力図を簡単に分ければ、北西に魔群、南西に天使、そして東側が人類――これが3月末。ここ最近、魔群の勢いが増して西側の7割程を蹂躙。次第に北側から東へと拡大の傾向は見られていたが、魔王級戦車が姿を現してから勢いは益々増している。敵の主戦力は異形戦車群のみならず、地上の脅威はフレイムドレイクとビーストデモン。リザドマンやインプが随伴する。
「しかし先日の戦いで、東側に侵攻してきた魔群の多くを撃退しています。異形戦車も、魔王級の他に残るは90式戦車が3輌、89式装甲戦闘車が8輌、73式装甲車が12」
「多いな、おい。そして敵に74式戦車がいないのが皮肉としか思えんぞ」
「陸将が就任される前までは、第7師団は機甲師団として名を馳せていましたから。さておき……」
 状況報告を上げていた参謀が視線を流すと、部屋の隅に追い遣られていた1人の男に注目が集まる。警衛が張り付き、拘束衣も着せられたままの第07特務小隊(※零漆特務)隊長、鈴元・和信[すずもと・かずのぶ]准陸尉は、だが意にも介さず集まる視線に口元を歪めて見せて返した。随分と慣れたとはいえ、未だにうどんの憑魔核は、鈴元の存在に警告を発している。うどんだけでなく、他の隊員も嫌悪感や違和感を覚えているところは違いないらしい。それでも航空機を撃墜する魔群の狙撃手――魔王バルバトスとやらを、鈴元が誅殺したというのだから邪険にも出来ない。
「……とりわけ零漆特務がバルバトスを打ち倒してから、状況に多少の変化が見られてきました。何というか、戦力集中、攻勢一辺倒に思えていた魔群が警戒や偵察行動を始めているように見受けられます。魔群の勢力が拡大されたのは、逆に考えれば……」
「慎重になっていると?」
 久保川陸将の問い質す声に、うどんが思わず呟く。
「……魔軍の数を減らし過ぎましたかね?」
「数自体は、打ち出の小槌でもあるようにどこからともなく沸いてくる。但し、全体的に薄く広がり過ぎて戦力自体が弱まっている感は否めないな」
「……バランスは何処まで回復したのか調査する必要性はありますかと。適度に牽制し合ってもらう事が、結界維持部隊の役割ですから。……個人的には滅ぼしてしまった方が問題無いような気もしますけどね?」
「――それが出来れば苦労は無いさ」
 隔離前からの日本国民共通の思いだ。とりわけ陸自出身者は口に出さずとも、その思いは強い。だが現状に不満はあろうとも、九州――熊本の天草のように叛乱を決起するのは行き過ぎだろう。
「……とは言え、天使側に強力なユニットが観測されてない事ですし、作戦通りに異形系戦車へ攻撃を続行で宜しいでしょうか? 但し、天使側に対する偵察行動を索敵や砲撃観測の陰に隠れて実施する必要があります」
 うどんの言葉に、一同が首肯する。
「魔群の拡大も、見方によっては広範囲に渡って何かを探しているとも考えられます。いくら強大な固体が確認されていないとはいえ、ここまで天使が静か過ぎるのも逆におかしな話ですし」
「……演習場に何かあるとしても、探り出すなら特殊部隊。悪くても、普通科部隊でしょうか」
 ミサイル抱えて敵の目の前を彷徨くのは馬鹿ですしと、うどんは独りごちる。
「人選は任せる……特務は引き続き、魔王級との最前線へと張れ。それがお前達の役割だ」
 久保川陸将の言葉に、鈴元は前髪で隠れていたものの、奥から暗い光を瞳に湛えて見せた。
「――索敵や観測は、突発的な戦闘も強いられる。腕に覚えのある部隊にしか回せないぞ。――誰か、志願者いるか?!」
 躊躇いもせずに挙手したのは、金のおかっぱ髪の少女。第7師団第11普通科連隊・第7013班甲組長、斉藤・明海(さいとう・あけみ)陸士長だった。
「第701中隊第1小隊の……確かに、岩部達――小隊の他班の連中が函館から帰ってきていない今、人数不足とはいえ、遊ばすのは勿体無いな」
 第701中隊第1小隊は、やや特殊な編成をしている。第7011班が実質的に2個班の規模である事から、第7012班は現在欠番。そして明海の部隊が書類上と規模は組ながらも、実質的な第7013班であった。小隊長は函館に展開している第7011班の支援に回っており、小隊規模の作戦が出来ない以上、代わって明海の部隊には遊撃任務が与えられていた。
 規模は組だが、構成は明海をはじめとして全員が第二世代魔人。実力もさる事ながら、魔王級が強制侵蝕現象を引き起こしたとしても、早々に不覚は取らないだろう。威力偵察任務にはうってつけと思えた。
「申し出に感謝します。しかし……ああ、無理は決してしないように、最悪は高位以上の潰し合いに巻き込まれる可能性がありますから」
 うどんの言葉に、明海は敬礼を返すと、
「了解しました。期待に応えるよう頑張ります」
 幾つかの打ち合わせをしてから解散。各員、戦闘準備をすべく持ち場に戻って行く。明海もまた戻って役割を伝えると、肩に『戦鬼』と書かれたボディアーマーを着用した4人の巨漢が顔をしかめた。
「……姉さん、僕等で魔王をやらないんですか?」
「んっ、今は必要無い」
「でも、あれって姉さんの敵でしょう?」
「うん。ただ、私達が事を成す為には、今は双方が潰しあってくれないと困るんだ」
 明海の冷静な回答に、4人は素直に頷いて見せた。

*        *        *

 4月も末となれば、暦の上では春ゆえに、陽射しを受けて多少の暖かさを期待するだろう。しかし渡島半島を覆い隠すような暗雲は未だに晴れる事無く、肌を切り裂き、内腑を凍て尽くすような冷気の風雪が荒れ狂う。
「……それでも、幾分かは和らいだ感があるな」
 外敵からの防衛用として窓や扉には格子やシャッターが下ろされている。隙間を外の様子を覗かせていた第7師団第11普通科連隊・第7011班長、岩部・秀臣(いわべ・ひでおみ)准陸尉が呟くと、寝台で横になっている副長の 天野・忠征(あまの・ただまさ)陸士長へと視線を移した。天野は先の五稜郭防衛線で完全侵食された敵魔人――元・第11特務小隊(※壱壱特務)隊長の 壬生・志狼[みぶ・しろう]准陸尉と死闘を繰り広げた結果、辛くも勝利を手にしたものの受けた傷も深く、戦場への出入り禁止の安静を言い渡されていた。小和田・ユカリ[おわだ・――]二等陸士が付きっ切りで看護……というか、病室から脱走しないように見張っているのが現状だ。対外的には護衛であるが対内的には監視も兼ねて、西井・順平[にしい・じゅんぺい]一等陸士と 石上・陽介[いしがみ・ようすけ]一等陸士が協力し合って第7011班乙組の指揮を執り、旧・市立函館博物館五稜郭分館の周囲を警戒している。
「……石上達には五稜郭の調査を命じていたのだが」
「副長の身を、皆、心配しているんです! 目を離せば愛刀を手にして前線に出るでしょう! 班長からも、副長にきつく言っておいて下さい」
 ユカリが口を尖らすと、岩部は勢いにたじろいで、苦笑しながら頷くしかない。
「……という訳だ、天野。今は静養に専念しろ」
「元からそのつもりだったが……信用ないのだな」
 溜め息を吐くが、さらにユカリが噛み付いてくる。
「本当ならば、もっと施設の整った場所に入院してもらいたいぐらいです」
 五稜郭のすぐ前には函館五稜郭病院があるが、有事の際に即動けなければ、意味がない。壬生に重傷を負わせしめたとはいえ、他の完全侵蝕魔人MIB(※Men In Black)やモスマン、ビヤーキーといった超常体が再び襲撃を行わないとは限らないのだ。警備と調査を命じた天野と、彼の身を心配する乙組員との妥協が五稜郭での警護である。これ以上は、班長の岩部が口を出そうとしても、乙組員は譲らなかった。
「――失礼。入室しても構いませんかしら」
 ノックと共に、穏やかな声が掛かる。石上が見舞い人の名を上げると、岩部と天野は室内に招き入れた。曽我・桜子(そが・さくらこ)陸士長が会釈をして入室。優雅な振る舞いだが手には二振りの日本刀。内、一刀を天野へと返す。
「……戦いの衝撃で寄生している憑魔が弱まっていると言えますかしら。刃毀れや鎬が減っていたり反りが歪んでいたりしていたところもありましたわ」
「……手入れが大変だな。強化系憑魔が快復すると共に幾らか自動的にも己の身たる刃の調子を修繕すると思うが」
「そうですね。憑魔武装はそれ自身生きていますから。使い手共々、充分な休養を与えれば……。また、あなたの活躍を期待していますわ」
 桜子は微笑みながら、さらに道具を渡す。
「こちらが手入れ道具。それと勝手とは思いましたけれども、破損していました拵え――鍔や柄も需品科や武器科に手配しておきました」
「感謝する。……ところで、その手にしたものも?」
 天野が目を細め、桜子の手に残った一刀を注視した。桜子の笑みが深くなる。
「さすがに目敏いですわね。あなたのと同じ無銘の憑魔武装です」
「――否。俺のよりも上の業物と見たが。まさか?」
 前線に出るつもりなのか。天野が視線で問うと、桜子は笑みを崩さぬまま、
「年寄りの冷や水かも知れませんけれどもね」
「まさか。噂に聞く二の太刀要らずの示現流。曽我陸士長を侮る者は痛い目に遭うだろう」
 では、と頭を下げて退室する桜子。岩部も療養に努めるよう言い聞かせてから続く。
「……石碑を倒しに行くと聞いておりますが」
 扉を閉めた岩部に、先に出ていた桜子が確認の声。見舞いのタイミングを逃したのか、芦屋・正太郎(あしや・しょうたろう)二等陸士もソファに座って待機している。2人に対して岩部は頷くと、
「――イタクァこそ排除したものの、荒天が奴の及ぼしたものではなく、ハストゥールの影響である可能性も鑑みて、排除を続行する事を選んだ。乙組を欠くものの、敵の切り札である壬生が復調する前に削っておくべきだという判断だ」
「そうですわね……。そして壬生の『裡』にいたモノ、あれはハストゥールなのでしょうかしら?」
 天野が振るった乾坤一擲の斬撃に倒れ伏した壬生。断面から隙間風のように『外』へと吹き込もうとしていた狂氣。思い出して、芦屋が身震いをする。
「――イタクァとビヤーキーを従えるのでしたならば、壬生を庇うような動きにも説明が付きますわ」
 止めを差そうとした岩部達から庇うように現れたイタクァ。攻撃を一気に引き受けたイタクァは、壬生を救い出すと絶命している。
「……V字型に並べた石碑も、ハストゥール召喚の為のものであると何かで見た覚えがありますが……アレがハストゥールだとすると、もう完全に召喚されてしまっているのでしょうか?」
 桜子の問いに、だが答え得る者は誰も居ない。
「……だが壬生を斬り倒すまでハストゥールらしき感覚が無かった事から、少なくとも壬生がすなわちハストゥールの状態ではないとも考えられる」
 肺腑から苦しみ出すように岩部が息を吐く。桜子も我知らず青褪めた表情のまま頷いた。
「召喚が不完全でしたのならば、未だ石碑を全て破壊する事で動きがあるかも知れませんわね」
 しかし、召喚は完成しているが現出するのに時間が掛かるとか、ハストゥールの行いとして生き物に憑依するというものがあるが、それをしているのか。この2つが答えであれば、石碑を破壊しても意味は無い。
「否、意味がないとは限らないだろう。報告では大沼国定の石碑を破壊した際に、一瞬でも正気の壬生らしきものが伺えられたというではないか」
 岩部の言葉に、桜子も芦屋も視線を気まずそうに合わせる。確かに、時間的に石碑が破壊した際、壬生は正気を取り戻して、苦しんでいた様相を見せていた。
「……壬生がハストゥールである可能性を説明すれば討伐にはそれなりの戦力が派遣されるはずでしょう。――であれば前線を退いた自分だけでも雪峰二士の手伝いをしようと思いますわ。役に立たないと解っていましても今にも折れてしまいそうな子供を放って置く訳には行きませんもの。少なくとも、石碑を破壊すれば壬生が戻ってくると考えている節がありますから。……今回は注意されましたのか、函館から動かないようですけれどもね」
「それなのだが……」
 岩部は言い難そうに眉間に皺を寄せる。
「……壬生と同じように『されて』しまったのではないかと内心危惧している」
 貝子沢化石公園の石碑を単独で破壊に向かいながらも、十日後に千代台公園で発見された第11特務小隊所属の 雪峰・アンナ(ゆきみね・―)二等陸士。
「……ええ。雪峰二士がほぼ無傷で発見された事が気にかかりますわ。――最悪の想像をすると、誰か彼女の事を嘲笑う影があるという事。壬生の復活に一抹の希望を抱く彼女の絶望を楽しむ影が居るのではないでしょうか」
 青褪めた表情を益々白くして、独白する。
「そんな化け物を一つ知っている為、恐ろしい……」
 知らず、全員から溜め息が漏れた。秒針が一回りぐらいしてから、ようやく芦屋が口を開いた。努めて話題を変える。
「わたしは防衛に回るよ。とにかく敵の最終目標地点は五稜郭だと予測している。とは言え、“何の為に”侵攻しているのか不明なので、はっきりとは断言出来ないけれども。しかし、空からの攻撃かぁ。自走対空車両の1台でもあればって、アレ、高いんだよなぁ……」
「静内の第7高射特科連隊は……函館から遠過ぎるか。真駒内の第11高射特科中隊も応援に来てくれるか判らんな」

 函館御陵各病院の一室。意識を回復し、検査と簡単な聴取を終えたアンナは、何の気なしにポケットを探る。検査前に全ての持ち物を預けて空のはずなのに、指先が丸いものに触れた。掴んで取り出すとイチジクの実。脳裏に浮かび上がるのは、エヴァに知識の実を食べるように唆した蛇の如き笑み。
「……夢じゃなかったんだ」
 唇の端が吊り上ると三日月状の笑みが形作られる。そしてアンナはイチジクの実を齧り付き、嚥下したのだった……。

*        *        *

 野戦特科の前進観測班が測ってきた情報を82式指揮通信車コマンダーに備えられた強力な無線通信機が受け取る。距離・方向・角度を割り出すと、99式自走155mm榴弾砲『ロングノーズ』が咆哮を上げる。甲高い射撃音に、砲身が後退する衝撃。
「――砲撃後、すぐに移動! 反撃が来るぞ!」
 警告を受けて、操縦手は慌てる事無く、だが迅速にロングノーズを後退させる。
「――月兎准尉、弾幕を張ってくれ!」
「無茶を仰らないで下さい!」
 うどんは第7特科連隊長へと悲鳴を返しながらも、96式多目的誘導弾システムが発射したミサイルは、異形戦車群へと降り注いで反撃の幾ばくかを押さえ込んだ。ロングノーズが発した砲弾と、96マルチのミサイルの雨を浴びて、数輌の異形戦車が再生も出来ぬ程に大破し、またビーストデモンやリザドマン等の超常体群を吹き飛ばした。それでも、
「――突撃、来るぞー!」
 ラインメタル120mm滑腔砲を撃ち鳴らしながら90式異形戦車が前面に被弾をものともせずに突っ込んでくる。110mm個人携帯対戦車榴弾パンツァーファウストIIIを構えて狙い撃とうとしていた普通科隊員に、弾幕を擦り抜けて来たインプが襲い掛かった。鋭い爪が肉を抉り、首へと齧り付く。89式異形装甲戦闘車が隠し持っていた79式対舟艇対戦車誘導弾が暴れ回る。そして本命の魔王級異形戦車が咆哮を上げると、全身にミサイルハッチを形成。96マルチのお株を奪うように誘導弾を発射してきた。
「――戦闘は火力ですのに!」
 図らずとも、うどんの口癖が魔王級戦車の脅威を顕示していた。そして装甲は砲弾やミサイルの雨にも持ち堪え、加えて尋常ならぬ再生力を有す。さすがに再生力に限りは有るだろうし、体内精製するミサイルや砲弾も無尽蔵ではない。
「……とはいえ、今の状態では、魔王級戦車1輌だけで千歳を蹂躙されてしまいますわよ」
 ちなみに、異形系の多脚により踏破能力も高い。障害物を配置しても易々と排除ないし迂回されるだろう。
「他の魔王級超常体が出てこないだけでも幸いと考えるべきでしょうか……」
 うどんの呟きに答え得る者は誰も居ない。魔王級戦車の猛攻に連動して、随伴歩兵の役割を持つビーストデモンが爪を振るい、凍える息を吐いた。

 飛び掛ってくるリザドマンを、だが明海は魔人という限界を超えた瞬発力で回避。そのまま両の手刀による鋭く重い一撃で脇腹を砕いてみせた。
「――歩く事の利点は加速も減速も変幻自在……常に先の先、後の先を取れる姿勢にあるという事……“主”を裏切った者にはこの境地、解らないでしょうね」
 手に付いた体液を振り払って、明海達を遠巻きにする超常体を冷ややかに見つめる。戦鬼と化した部下達が数任せに押し寄せてきたリザドマンの群れを、肉塊どころか粉微塵にして吹き飛ばしていた。
「――轟炎よ! 薙ぎ払いなさい!」
 明海の怒号に応えて、左腕の火炎系憑魔手甲『轟炎』が火炎放射。リザドマンやインプを焼き払う。
「姉さん。ここらの敵は打ち払いましたが、半ば、僕達は孤立状態にあるようです」
「危険を冒しての、前進観測班に志願したのです。敵の進行速度に、こちらの撤退が間に合わない事はよくあります。しかも現状では着弾観測も無意味。――敵の後背を突く感じで、帰還しましょう」
「疾風は無事です」
 擬装していた高機動車『疾風』のエンジンを暖め、搭乗しようとする4つの戦鬼と明海。だが雑魚を焼き払った炎が、凍気を受けて鎮火していくのに顔をしかめた。素早く視線を巡らすと有翼類大型蒼鬼獣魔――ビーストデモンの影が映った。一撃は車輌を易々と破壊し、皮膚は甲殻の如し。その戦闘力は1個体だけで、数個班もしくは数個小隊に匹敵する。咥内に青白い光が見え隠れしている。
「――異形戦車ではないのですか」
 だが浴びせられた凍える息を、右腕の雷電系憑魔手甲『雷電』を展開させて受け止め、威力を緩和。頬や髪に雪結晶をまといながら、明海はビーストデモンに跳び込んでいた。人間の限界を突破した雷鎚の如き、左の正拳突き。そして雷電で増幅した轟炎がビーストデモンの内側から焼き尽くす。
「……美事です。まさに“雷光”の名に相応しい。救援は必要ございませんでしたね」
「――鈴元准尉。否、道筋を付けて下さると助かります。しかし、何か邪な視線が……」
 明海を見る零漆特務隊員の興奮が伝わる。明海は、ようやく自分の姿に思い至る。衝撃を受けると瞬間的に硬化するダイラタンシー原理を利用したd3oという新素材を用いたスニーキングスーツ。戦闘迷彩II型が施されているとはいえ、
「うっ……動きやすさとか諸々考えて頼んだのですけど、これって体の線がもろに出るのですね……何か隠す物ないかな」
 部下達が視線を遮るように立ちはだかり、そして外套を渡してきた。
「――鈴元准尉。直属の小隊付はどうしました?」
「久保川陸将も馬鹿ではありませんからね。時には真面目に貢献しませんと。西側――えにわ湖の交戦区域に向かわせました。エンジェルズと遭遇しても対処出来ますから。……問題があれば処理致しますが?」
 鈴元の言う『処理』の対象は、明海を下卑た視線で眺めていた零漆特務隊員の事だろう。明海は苦笑したものの、未だ処理する必要は無いと断っていた。
「承知致しました。時が来るまで使い潰していく事にします。改心も期待出来ぬ屑でも、最大限に利用しませんとね」
 前髪に隠れているが、鈴元が薄ら笑いを浮かべているのは明海にも解った。
「――防衛線は? 駐屯地に辿り着きそうですか」
「戦線は落ち着きましたが、恵庭インターチェンジ跡まで大きく後退。北恵庭が孤島と化しています。久保川陸将は恥も外聞も捨てて、本気で真駒内――第11師団に増援を要請するつもりのようです」
「それでも『彼』を除けば、残るは90式戦車が1輌、89式装甲戦闘車が3輌、73式装甲車が6、ビーストデモンが5、フレイムドレイクが3……と確認したところでは、こんな感じですね。かなり健闘した方です。まぁリザドマン以下の超常体はゴキブリのようなものですから……」
「そうそう。警務隊の目は、小生の零漆特務に向いています。まぁ非難が出ないように『任務』は果たしていますから問題は無いでしょうが」
 鈴元なりの冗談だろうが、明海は複雑な表情をするしかなかった。

*        *        *

 妙なるピアノの調べが流れる。葵は預かったヴァイオリンを見様見真似で左肩の鎖骨の上に、そして顎当てに顎を乗せて、挟み込むようにして楽器を支える。左手の指で弦を押さえ、右手の弓で操作した。
「――えー!?」
 室内中に響き渡る金切り声に、葵自身が目を回す。エミー・オークレイこと七十二柱の魔界王侯貴族が1柱である一角公 アムドゥシアス[――]は伴奏の手を休めて苦笑した。
「最初は皆、そういうものですよ。でも葵さんは耳が良いのですからすぐに上達します」
 アムドゥシアスは微笑を浮かべると、手本として愛用のヴァイオリンを構えると軽く1小節を演奏してみせる。先ほどの失敗に恐々となりながらも、葵も続いて、優しく手解きを受けた。指使いを教えると、再びアムドゥシアスは鍵盤を叩く。そしてまた小節毎に手本を見せ、葵を優しく導いていった。葵もまた好い音が出せれば悦んだり、失敗にはいじけたりと、一喜一憂しながら時間を過ごす。
 ――最後に今日学んだおさらいとして軽く1曲演奏。1曲といっても、習いたての少年少女が演奏する練習用に編曲された易しいものだが、それでも葵は汗だくになりながら弾き終わった。仕事抜きで楽しむなんて、どれだけ久し振りだろう。熱い吐息が出た瞬間、朗らかな拍手が鳴り響いた。拍手の主はアムドゥシアスではない。――振り向くと、米軍将校の礼服をまとった金髪碧眼の青年がいつの間にか席に着いていた。
「……猊下!? いつ、こちらに御出でに?」
「執務の合間を縫って顔を出しただけだ。楽にしてくれ。――それにしても、これほど魅力的なお客様がいらっしゃるとは……エミーも隅に置けないな」
 からかうように笑う。だが葵は、自身に寄生している憑魔核を通して言いようの知れないものに打ち震えていた。それは恐怖であり、歓喜であり、そして陶酔である。国家安全保障問題担当大統領補佐官の ルーク・フェラー[―・―]氏……神州結界維持部隊の最大最強の敵。対してフェラーは葵が抱く畏怖感をまるでそれが当然のように意にも介さず、ただ全てを見透かすような蒼い視線で見詰め返していた。
「お茶にしよう。良い茶葉と菓子がある。客人にもどうか御賞味戴きたい」
 指を鳴らすと、女性士官がティーセットを乗せたワゴンを押して入室。すぐに芳醇な香りに部屋が満たされていった。旧知の仲のように話し掛けてくるフェラーに、呆気に取られていた葵もすぐに順応。恐縮しているのはエミーだけ。軽い紹介や世間話から始まり、
「……ふむ。相変わらず小波は元気そうで何よりだ」
「ルーク様は漣様とお知り合いで?」
「知り合いというには穏やかな仲ではないがね。彼女こそがヨハネ黙示録17章から18章において語られる『全ての淫婦と地の憎むべきものとの母、大バビロン』の受容体。――私達に限りなく近い存在」
 衝撃の告白に息を呑む葵。だがフェラーは笑うと茶目っ気たっぷりの視線を流す。
「……彼女の役割は、維持部隊の裏、闇、奥深くに潜入し、米国の利益――世界の平和と維持を務めるように工作する事にある。その甘言と性戯により男女共に誑かし、罠を張る。――覚えがあるだろう? そんな彼女の後輩だと大変だな」
 真実か虚偽か。フェラーの言が、戸惑う葵へと毒のように染み渡ってくる。しかし朦朧となりそうな頭を律すると、
「でも、実際そちらも大変ですね。何故か知りませんが円山球場跡とかで被害が出ているようですし、仮に神宮に被害が出ると大変ではありませんか?」
 葵の切り返しに、フェラーは愉快そうに笑う。
「――全くだ。まぁ、維持部隊にも協力を要請しているところだ。尤も、何か強大な超常体――それこそ大魔王や主神級が顕現したところで、大した被害は出ないとも。米軍や維持部隊は優秀だからね。仮令、総領事館に――私に超常体が襲い掛かってきても問題は生じない。何も問題は無いのだよ。……先ず、そういう事が起きるとは天地が逆転してもありえないがね」
 一頻り笑ってからフェラーは失礼と断った。名残惜しそうに席を立つと退室。残された葵へと、アムドゥシアスが苦笑を投げ掛ける。
「猊下はいつになく上機嫌でしたね」
「――そうですか? でも、あそこまで強気という事は……魔群には切り札があるという事ですか?」
 アムドゥシアスは困ったように肩をすくめる。だが声を潜めると、
「猊下は札幌の地に万魔殿(パンデモニウム)を顕現させようとしていらっしゃいます。その為に、私と友は力を尽くしているのです。具体的な手法は『秘密だよ』と教えて頂けませんが」
「……もしも利用されるだけで、最後には裏切られたとしても?」
「さすがに……それは困りますね。その時は私でも猊下をお恨みするかも知れません」
 だがアムドゥシアスは屈託なく微笑み続ける。どこか羨ましいものを葵は感じるのだった。

*        *        *

 一ヶ月程に渡る因縁だったが、これが最後かと思うと何やら寂しく……
「――思えないであるな! さすがに!」
 M320グレネードランチャーで撃ち放たれたM463信号照明弾が派手に存在をアピールしてくれる。七十二柱の魔界王侯貴族が1柱である龍総統 ヴォラク[――]は三月を見出すと、怨嗟の声を上げて襲い掛かってきた。異形系とはいえ組織細胞が治癒するには至っておらず、焼け爛れた姿にかつての美童の面影は無い。それどころか下半身は騎乗していた大蜥蜴を模しているのか、名の通りの地竜として猛威を振るっていた。
「――殺してやる! 殺してやるっ!!」
 半狂乱のヴォラクが叫び続ける。振り向き様の89式5.56mm小銃BUDDYの連射もものともしない。
「同じ手が通用するか!」
 逆上はしていても、前回同様の罠を警戒してか、すぐには突っ込んでこない。代わって吐き出されるのは、
「――毒液噴射!」
 地竜となった下半身は別の首を持ち、体内精製された強酸を口から高圧噴射する。浴びて樹木は見る間に枯死し、また岩肌も焼ける。張っていた鋼線も音を立てて溶け落ち、罠を誤作動させる。指向性対人用地雷M18クレイモアが虚空に向かって炸裂。更に灯油が撒き散らかされると、ヴォラクがお返しとばかりにライターを放り投げてきた。引火すると、燃え上がった炎の舌が、舐めるように三月の身へと襲い掛かる。
「熱っ! 退避、退避!」
 周囲の陰に潜んでいた部下達も炎に炙り出される。弾幕を張るが、皮膚を分厚く硬化したヴォラクは、熱気を浴びながらも狂ったように押し迫ってくる。
「――HAHAHA! 死んじゃえ!」
 狂笑を上げるヴォラクと対照的に、無念そうに唇を噛み締める三月。
「……万事休す――と思ったかねっ!」
 だが次の瞬間、唇の端が歪んだ。三月の拳が大地を叩き割る。予め掘り進めて、空洞化していた地面が大口を開いてヴォラクを飲み込んだ。
「――なっ!」
 生み出した無数の擬足や触手を伸ばして、周囲の木々に絡めたり、穴の縁に掛けたりして、落ち込む身体を支えようとするヴォラク。だが、その瞬間を逃す三月達ではない。84mm無反動砲カール・グスタフを直撃させて追い落とすと、穴へとボンベを叩き込んだ。ボンベから溢れ出した液体窒素を浴びて、深い穴の底に沈んだヴォラクの動きが緩慢となっていく。
「――こっ、コッ、コロス……コロシテヤル」
 まさに地の底から響く怨嗟の叫びに、だが三月は感慨も持たずに呟き返す。
「――生憎と、此処でお別れである」
 駄目押しの集中砲火を浴びせるのだった。
「……状況終了。だが警戒は怠るな! 他の魔王が接近中かも知れぬ!」
 仕掛けていた罠は出し尽くしたものの、味方の為にもう1柱ぐらい魔王を引き付けておく覚悟で、三月は号令を発するのだった。

 だが思惑が外れて残念なのか、それとも幸いなのか。もう1柱の獅子頭王 ヴィネ[――]は別の因縁相手と戦闘中だった。
 淡島・蛍[あわしま・ほたる]二等陸士が斧槍を振り下ろす。ヴィネは避けられぬと判断したのか、鬣に雷光をまとった。帯電した獅子躯が生じた斥力により、小柄な蛍の身体が反発し、派手に吹き飛んだ。蛭子が着地点に割り込み、衝撃に受身の取れぬ蛍を優しく抱き留める。左手で抱えて庇うように背を向けながら、蛭子はヴィネへと空いた右手に握ったM1911A1コルトガバメントで連射。狙い定める事無く発射された.45ACP弾が、雷球を放ったヴィネの頑強な皮膚を削る。だが銃弾と擦れ違うように雷球もまた蛭子へと命中。ボディアーマーを焦がす程の衝撃と痛みが蛭子を苦しめる。
「――ちょっと大丈夫!? アタシを庇って格好付けている場合じゃないわよ!」
 蛍の怒声だが、最初に発したのは蛭子の怪我を心配するもの。身体は痛みで悲鳴を上げているが、それでも笑みがこぼれそうになる。痛みに動きが一瞬でも止まったのはヴィネも同じ。次の雷球が放たれる前に岩陰に潜り込んで、弾倉を交換する。
「先の戦いと、今の一撃で判った事があります。魔王級といえども能力の行使には、幾らかの制限があるという事」
 早口ながらも蛍にも解るように口に出す。
「雷電系能力で磁場を生み出し、斥力で銃弾や攻撃を逸らすといっても、能動的なものに近いのです」
 勿論、危険回避の条件反射的に無意識にも発せられる事があるだろう。だが雷球という明確な攻撃手段と同時に発せられない。
 憑魔能力は想像力と創造力によって無限の多様性を内包しているが、行使面においてはそうでもない。
 まず人間としての知覚や認識力の問題がある。
 記録によれば憑魔能力の遠隔発動は、最長200mの球形空間に及ぶ事が確認されている。但し発動者の知覚・認識が及ぶ範囲までであり、通常は前方視界が発動空間となる。また200mの球形状といえども上空や地下、それほどの水深は無茶であり、また背面も難しい。更に障害物により視線を遮蔽しているものや、擬装で隠密下にある相手に対しても困難だ。結局、器官(眼・耳・鼻・舌・肌)で知覚された情報を、正しく頭脳で認識並びに分析処理し、そして意思を以って憑魔を支配しなければ能力発動は不可能と言えるだろう。
 そして次に集中力。解り易い例えとして上げられるのは操氣系だ。大まかに分けると、相手の位置や能力を見付け出す〈探氣〉、逆に自分達の存在を隠匿する〈消氣〉、武器や防壁を造り出す〈練氣〉、そして自他の心身を整える〈活氣〉……等といった使い方がある。状況に応じて操氣系は最も選択肢が多いが、だからこそ的確な判断力が求められる。〈探氣〉〈消氣〉〈練氣〉〈活氣〉は同じ『氣』を『操』るものであるが、方向性は異なる。方向性が異なれば集中力が散漫となる。憑魔能力の行使は、精神集中が大事なのだ。
「これは例えば複数の憑魔核を有していたとしても、同時に異なる能力を行使出来ない事を意味します」
 人間としての限界もあるだろうが、高位超常体といえども制約から逃れられないようだ。現時点の記録によれば、異なる複数の能力を同時に行使する超常体は存在していない事になっている。
 ……ちなみに五大能力の相生効果による増幅は、あくまで最終的に発せられるものに集約される為、『同時』発動とは意味が違う。
「……説明が長いようだけれども、つまり?」
「雷電系も同じ。磁場を生み出すのと、純粋な攻撃に回すのとでは、同時に発動する事が不可能なのです。他方向からの同時攻撃が有効!」
 そして磁場の斥力効果による攻撃を逸らすといっても、強力な勢いを完全に殺す事は出来ない。
「難しい事は兎も角、つまり押して押して行けば、勝利は見出せるって事ね?!」
「ええ。そして……相手が攻撃してきた瞬間こそが、こちらの攻撃の絶好の機会という事です!」
 言葉を発した同時に散開。降り注ぐ雷撃の雨を掻い潜って、蛍が間合いを詰める。ヴィネもまた大型肉食獣としての体躯を活かして俊敏かつしなやかな動きで蛍を迎え撃つ。紫電を纏った牙と爪が蛍へと襲い掛かろうとするが、蛭子の放つ.45ACP弾が妨げる。連携の取れた攻撃でもってヴィネと渡り合うが、それでも磁場による斥力空間を貫く事が出来ない。そして小柄故にスタミナに劣る蛍の息が荒くなってきた。〈活氣〉で疲れをカバーするが、それでも集中力は落ちてくる。動きが鈍くなってきた獲物にヴィネが咆哮を上げて止めをささんと雷球を放った。だが――
「かかった!」
 雷球が直撃した威力を、氣の防護膜で少しでも緩和した蛍は、お返しとばかりに隠し持っていた手榴弾を放る。閃光と衝撃がヴィネの鼻面の先で炸裂。動きが止まり、また攻撃を放った瞬間に生じた隙に、ヴィネの腹へと跳び込んだ蛭子が、ありったけの銃弾を叩き込む。剛毛と頑健なる体躯すらも引き裂く.45ACP弾をたらふく喰らったヴィネは、大きくのけぞると断末魔の咆哮を上げたのだった……。
「――起きれる? 心太」
「……助け起こして下さると嬉しいです」
 倒れ伏したヴィネの下敷きになった蛭子を、蛍は苦笑を浮かべながら引きずり出す。そして頷き合うと、AN-M14焼夷手榴弾でもってヴィネの遺体を処理する。
「さすがに……ちょっと限界が近いかも」
 張り詰めていた氣が切れると、蛍は微笑みを浮かべたまま身体を預けて眠りに付く。蛭子は優しく抱えると、隠していた疾風へと足を向けるのだった。

 円山から響き渡る銃声や砲撃音。時折、衝撃が走り、光と炎が踊る。北海道神宮拝殿まで届く激しい攻防の遣り取りに、だが米陸軍兵士は動揺せずに周囲の警護に務めていた。
( ……2度に渡って〜浸透された反省からぁ、警戒レベルが跳ね上がっているとはぁ、予測していましたけどぉ〜 )
 統率され、猫の子一匹も通さぬような警戒網が布かれているのに、零は頬を膨らませる。三月達が魔王を引き付けている間に、西側――円山競技場跡地から単身突入、蛭子と蛍が先日に到達した地点まで辿り着いたものの、そこから先が困難極まりない。蛭子は異形系憑魔能力を活かして拝殿内へと進入を果たしたが、零は強引な力押しを選択。半身異化する事によって向上した身体で以って突入を図る。遠く彼方へと投石してワザと大きな音を立てる。注意が逸れた瞬間に跳ね上がった瞬発力で駆ける。――だが、
「――Intruder's there being! The fire!(侵入者あり! 発砲!)」
 怒声が上がると、サーチライトと同時に弾雨が降り注ぐ。零が駆け抜けた後の地面を穿つ5.56mmNATO弾。零は奥歯を噛み締めると、滑るように空を仰ぐように身体を傾けると足先から突撃。拝殿の床下に繋がる格子を蹴破った。外から騒ぐ音が聞こえ、サーチライトが射し込まれるが、狭所で体勢を変えるのに難航しながらも急いで更なる奥へと零は逃げ込む。
( 真っ暗ですぅ。神様、大物主様、どこですかぁ )
 手の甲に浮かび上がった蛇の刺青が蠢くように感じる。床板を挟んでも伝わる力強い思念。
( えぇ〜とぉ〜。大物主様、真下まで来ましたぁ〜。あの〜このまま、大物主様を解放しちゃったら、どのくらいの神罰をくだしちゃいますかぁ〜?)
『……参ったか。我単身では力の加減が上手くいかぬが、異邦の魔や我に仇なす輩を葬り去るのは造作も無い……と告げたいところだが――弥生より日の出方角に巨大な存在がいる。我が全力を以っても勝て得るかどうか。だが、我が怨みはこの乾いた大きな地を満たすであろう』
( ええぇとぉ。荒魂を鎮めなくちゃいけない場合って、どんな事すればいいのですかねぇ〜)
『……我が力を以って、敵に罰を下すのが不満か? この社を囲む輩を鏖殺する等、赤子の手をひねるよりも簡単であるが』
( いや、その……うむむぅぅ、巫女さん衣装を来て、かっ、神楽舞をしたりしたら大物主様はぁ〜、よっ、喜んでくれますかねぇ〜、がっがんばりしゅ!  ……んにゅぅぅ!! しっ、舌かんじゃたですよぉ……そこ!! 笑わないでくださいぃ〜)
 ともあれ、先ずは解放だ。コンバットナイフ『地竜くん』を抜いて床板へと構える。寄生した憑魔が覚醒し、刃に触れた物を振動粉砕する。降り注ぐ木屑を払いながら、更に上を塞ぐコンクリートを砕く。報告に上がっていた石棺に違いない。そして重金属――鉛の層へと刃先が到達。そのまま封を開こうとした時、
「――あれぇ?」
 鉛塊が突然に持ち上げられ、刃は宙を突いた。
「――何をやっているでござるか?」
 振動する刃を指で摘むと、床穴を覗き込みながら呆れたような口調で問いかけてくる。濃紺に染められた頭巾と頬被り。同色の胴着に、内には艶消しの墨で塗られた鎖帷子らしきもの。首には格闘戦には不利な気がするような掴み易い長布がマフラーのように巻かれていた。
「……何とも強引極まりない遣り口。これが、某が憧れ夢見ていた本場ジャパニィズニィンジャーとは嘆かわしい!」
 大仰に頭を振ると、指差してきた。
「さては、偽者だな! 恥を知れ!」
「そ、それはこちらの台詞ですぅ〜。そんな格好恥ずかしくないんですかねぇ〜、私だったら恥ずかしくて死んでしまいそうですねぇ〜」
 だが怪人物の反応は零の斜め上を行った。
「この侘び寂が解らぬとはニィンジャーの風上にも置けぬ。何とも哀れな……」
 逆に零が可哀想な人であるような視線で見下ろしてきた。教訓――他人から見て明らかに誤っていたとしても、己に絶対不動の自信を持っている者には、挑発は無効。むしろ反射して、こちらが傷付くだけ。
 さておき、物体の分子結合を粉砕する地竜くんを指で摘み、傷1つ無い怪人物に戦慄。よく手応えを感じ取れば、摘む指との間に直接刃に触れぬよう氣が凝縮されていた。
「――蒼白公バシンはぁ、強化系もしくは火炎系の憑魔能力を有しているはずではぁ?」
「某の事を調べてきたとは情報収集を確りとしているのでござるな。初めて感心したでござるよ。だが某はニィンジャーの奥義たるオーラを使いこなす事に開眼したでござる! そう、あれは辛い修行の日々でござった……」
「こっ、この人、真性だぁ〜! 真正のアメリカンコミックニンジャーだー!」
 思わず冷静さを失って泣きそうになる零。だが冗談のようでも、実力は本物。地竜くんを引き抜くと、土煙を巻き上げた。
「……ふっ。腐っても、やはりジャパニィズニィンジャーでござったか。見事な土遁の術でござる」
 バシン[――]の感嘆する声を尻目に、自らにも振り注ぐ土砂にも構わず、零は逃走を図る。だが、脱出口から放り込まれるのは……
「手榴弾! 状況、ガス!」
 零は腰に提げていた防護マスク4型を着用。抜け出す瞬間に地竜くんで、逃走ルート上に邪魔する米軍兵を大地に引きずり込み、そして一気に走り抜けようとする。だが逃げる零へと間断無く降り注ぐ弾雨。そして数発の銃弾が貫いた。幸いにして最新のボディスーツの御蔭か致命傷は免れ、何とか逃げ切る事に成功する。だが文字通り死力を尽くした零は個人携帯無線で救援要請を発したと同時に、意識を失うのだった……。

 北海道神宮拝殿周辺で騒ぎが生じたと同時刻。旧開拓神社周囲で勃発した小競り合いは公園口鳥居を経て円山川に差し掛かった時には、死傷者が出る程、互いに洒落にならない状況に発展していた。米陸軍兵士が構えるM249分隊支援機関銃が炎を上げると、逃げ遅れた維持部隊員が肉片を撒き散らしながら倒れる。仲間の仇とばかりにM249を撃ちまくる兵士をBUDDYで排除した瞬間、頭部を撃ち抜かれて絶命する部下。
「――くそったれ! 見誤った!」
 敵よりも先ず己を呪って、殻島が左拳を右掌底に打ち鳴らす。魔王を挑発する為に戦闘の流れを総領事館に誘導したものの、蓋を開ければ総領事館をも警護する米陸軍との本格的な銃火の応酬。
「――小隊長! ハチヨンの使用許可を!」
 カール・グスタフを背負う第1113中隊第1小隊員からの必死の要請に。殻島は音を立てて歯軋りして見せた。コマンダーに飛び込んでくる各班からの通信は、どこも血で血を購う怒声と悲鳴だ。
「第3班は南から回り込んで、第2班の支援。そのまま円山方面へと撤退。頃合いを見て、円山墓地から脱出――死傷者も見捨てんな。弔いは俺がする!」
 送信器に怒鳴ると9mm機関拳銃エムナインを手にする。舌打ちが鳴り止まない。
「直属はこのままシキツウの防衛。危ないと感じたらスタコラ逃げろ。すすきのまで逃げ込んだら、女王様がかくまってくれらぁ。第1班で、死に急ぎたい奴だけ、俺を援護しろ! 第2、第3の撤退の為に敵を撹乱してくらぁ!」
 偵察用オートバイ『ホンダXLR250R』に跨ると、後続が追いつく前に駆け出した。目算の甘さから来た、尻拭いは自分でしなければならん。
「――北海道神宮よりも警備が厚いとはな。それとも本気で潰しにきやがったか」
 殻島の乱入に米陸軍兵士の火線に迷いが生じた。だが、それも一瞬。すぐに5.56mmNATOが集中してくる。降り注ぐ銃弾の雨を、だが殻島は空間を湾曲させて掻い潜る。傍若無人に突破を図る殻島に対して慌てて取り出して構えようとするのは――
「対戦車弾! バックブラスト無視かよ!?」
 AT-4個人携行対戦車弾! 殻島の空間湾曲能力といえどもある一定の破壊力を超える兵器を回避出来るものではない。出来たとしても甚大な精神集中を要するだろう。ならば、撃たれる前に……
「――轢き逃げアタック!」
 ウィリー状態で浮かび上がった前輪が、AT-4を構えていた米陸軍兵士の頭を陥没させる。だがバランスを崩してオートは転倒。殻島はオートをそのまま武器に転用して敵兵が密集箇所へと滑らせる。本人は跳躍して着地。激突してオートは激しく爆発炎上した。
「……新しいのを受領しないとな」
 エムナインで威嚇射撃。撃ち尽くせば、素早く仕舞って、コンバットナイフを抜いた。
『――小隊長! こちら死傷者の撤収完了! 健在な者集めて、すぐに救出に向かいます』
「……阿呆。独りでも帰れるから、お前等は仲間の別れの準備を進めておいてくれ。すぐに戻る! 俺の責任だからな」
『……承知しました。御無事で!』
 通信終了。とはいえ、囲みを抜けるに、空間跳躍は集中が必要だ。銃弾の雨を掻い潜って脱け出す事は容易いが……
「――そうは問屋が卸さないか。魔王級が出張ってはな。……初めましてかな、総領事?」
 殻島の問い掛けに米軍兵士の囲みを割って姿を現して会釈する。糸のような細い眼に真紅の唇が印象的な白人女性―― パウラ・モードリッチ[―・―]総領事。だが殻島は魔王級の超常体と確信する。堅い事務的なスーツ姿は戦場にそぐわないが、
「……その構えはカンフーか?」
「昔のフィルムでブルース・リーに憧れた事があってな。……といってもジークンドーではなく、軍隊格闘術も加えた我流クンフーだが」
「憧れるなら、モンローにしておけ」
 殻島は軽口を叩きながらも間合いを計ろうとする。だがパウラは怪鳥音を発すると、瞬く間に殻島の懐へと滑り込んできてワンインパンチ。着込んでいた戦闘防弾チョッキが衝撃の幾らかを吸収してくれたとはいえ、
( 当たりどころが悪ければ骨折……いやショック死もありうるぞ! )
 続く連打。殻島は血反吐を捨てると、天性の動体視力と反射神経で防ぎ切るだけでなく、お返しとばかりに刃を閃かせる。だが紙一重の動きで避け切ってみせるパウラ。一進一退の激しい攻防に周囲の米陸軍兵士も見守る事しか出来ない。
( ……とはいえ埒があかねぇか )
 無念に奥歯を噛み締めた瞬間、高い放物線を描いて何かが飛来してきた。そして、
『小隊長! 助けに来ました!』
 無線を通じての部下の声に、殻島は咄嗟に目を瞑る。放り込まれた手榴弾が炸裂すると、閃光と衝撃が走った。一瞬だが、逃がす事は出来ない隙。殻島の繰り出すナイフの刃がパウラの首を掻っ切る――ところをブロックに入った右腕に塞がれた。同時にローキックが殻島の脚に響く。折れてはいないが動きが鈍る。
( ……全く、いい勘しているぜ! )
 雪崩れ込んだ部下達の銃撃で出来た混乱に乗じて、殻島は撤退を決意した。去り際にM26A1破片手榴弾を放り投げる。炸裂する弾体は、だがパウラの身を傷付ける事は無い。
( 空間湾曲?! ……通りで肉弾戦を持ち込んだ訳だ。方向性は違うが俺と似たタイプか! )
 空間を“跳躍”し、安全域まで退くと、殻島はようやく一息吐いた。

*        *        *

 曇りが晴れる事はなく、雪もまた降り止まぬ事は無いものの、ここ数日は穏やかな天気が続いていた。格子付きの窓越しに見下ろす光景は、屋根から下ろした雪を掻き集め、土塁の補強にしている姿だった。
「……MIBや超常体の襲撃は無し、か」
 鈍らないように身体をほぐしながら、天野は呟く。異形系ほどではないが、どの魔人も治癒能力は常人の倍以上である。致命傷でもなければ、重態の身でも半月程で完治する。だからこそ過信して無茶をしないように、周囲から監視を付けられているのだが……。
「再び剣を握って最前線に赴けるようになるのは、もうすぐだ」
 愛刀を抜いて、目を凝らす。手入れもさる事ながら、寄生している憑魔に充分な滋養を与えてやれば、依り代である物も自然と修繕される。
「……よし」
 臥薪嘗胆、砂を噛む思いで待ち続けるのは、もうすぐ終わりだ。だが、
「――MIBや超常体の襲撃が無かったのも、もしや壬生の回復を待っているからなのか?」
 ならば、次こそ決着を付ける。天野は決意を新たにすると、再びリハビリに励むのだった。

*        *        *

 豊浜トンネルは、1962年に発生した豊浜山津波を機に狭隘な罹災現場のルートを避けて山側を掘削し、1973年に開通した。渡島支庁と檜山支庁とを結ぶ国道229号の一部であるトンネルだ。なお1996年に落盤事故があったのは後志支庁にある同名トンネルで、
「……つまり別物」
「落盤事故があった後志支庁の豊浜トンネルではVの字を描きませんから……」
 89式装甲戦闘車ライトタイガーの車長が、岩部に断りを入れた。岩部は暫く沈黙をした後、
「――石碑がトンネル付近にある以上、超常体の巣窟になっている可能性もあり、今まで以上の数の超常体が伏せている恐れがある。万全を期して事に当たれ」
 間違いをさておいた。無論、岩部に突っ込みを入れる者は第7011班内にいない。
「――状況報告。石碑周辺にはビヤーキー13、昼間という事で夜行性のモスマンは8体ですが、班長が危惧する通り、トンネル内に巣を作っていると思われます」
 井口・尚人[いぐち・なおと]二等陸士を護衛に伴って目標の偵察に赴いていた 工藤・明彦[くどう・あきひこ]一等陸士が報告を入れる。
「……目標は石碑の破壊だが、後顧の憂いは断っておいた方が良い。工藤、井口……それに沢田は、自分と共にトンネル内を掃討する」
「――わたしも御一緒させて頂いても宜しいでしょうか?」
 第7011班に同伴していた桜子が挙手する。アンナが心配なのは確かだったが、函館から動こうとしないのであればと、石碑破壊を補佐する事にした。
「……といっても、わたしが出来るのは周辺の偵察や警戒ぐらいだけですけれども」
「曽我士長の申し出はありがたいが、大事をとって魔人のみで突入したい」
「もしも強制侵蝕現象が発せられたら、第一世代のあなた達だけでは無力化するどころか、最悪、壊滅してしまいますわよ」
 文字通りの老婆心ながらの指摘に、岩部も唸る。
「了解した。自分と井口、そして曽我士長とでトンネル内に突入する。他の者はライトタイガーと共に、豊浜トンネルの入り口にて待機。敵の増援阻止や自分達の撤退支援を頼む」
「――八雲町側口はどうします?」
 工藤が挙手すると、岩部は口を固く結んだ。天野の乙班が不在なのは重ね重ね痛いものだ。
「……抑えるには人手が足りん。トンネルに目を引き付けている間に、工藤と沢田は石碑をパンツァーファウストで吹き飛ばせ」
 敬礼すると工藤達はパンツァーファウストを担いで山道へ消える。桜子は愛刀を抜き、井口が5.56mm機関銃MINIMIを構えた。岩部は2人に自分の後ろへと下がるよう指示すると、焼夷手榴弾をトンネル奥へと放り投げた。更に、
 ――憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行!
 焼夷手榴弾を種火にして、憑魔能力を打ち込む。劫火はトンネルの床や壁、天井を舐めるように走り、奥に潜んでいたモスマンを断末魔の叫びを上げる前に焼き尽くしていく。八雲町口が開いている為に、完全なる閉鎖空間とは言えないが、狭所故、威力は甚大なものになる。
 同時、豊浜トンネルの異常に騒ぎ始めた隙を狙って工藤が110mmHE弾を撃ち放つ。狙い外さずに石碑に着弾すると、目標を破壊。怒り狂ったビヤーキーが追撃してくるのを 沢田・信司[さわだ・しんじ]二等陸士が銃剣で切り払う。そして、すかさず強靭な足腰で撤退。
『――班長。工藤一士の撤退完了。敵、追撃を諦めて退散していきます』
「御苦労。トンネル内の状況を確認後、すぐに合流する。だが警戒を怠るな。通信はこのままONに」
 暗視装置V8を着けると、井口を先頭に慎重に足を踏み入れる。鎮まったとはいえ、残り火が消し炭となった超常体の遺骸を闇より浮かび上がらせていた。このまま掃討が完了したのを確認出来れば、問題なかったはずだが……
「――音が聞こえませんか? 何かが振動しているような……」
 桜子が警告を発すると井口はMINIMIを奥へと向け、岩部もBUDDYを構えた。奥へと慎重に足を踏み入れる度に、耳障りな振動音が大きくなってくる。そして何かが割れる音と共に、不規則な緑色の発光現象。
「――何か、来るっ!」
 緑の光源より襲い掛かってくるのは鉤爪或いは蹄が付いた様々な触肢。咄嗟にMINIMIが張った弾幕を摺り抜けてきた幾つかを桜子が連撃で打ち砕く。一撃必殺、二の太刀要らずで知られる示現流だが、立ち木打ちという稽古方法に見られるように、左右に激しく斬撃する手段もある。先手必勝の初太刀も『髪の毛一本でも早く打ち下ろせ』という雲耀の教えに基づいているのだから、反撃も許さぬ鋭い連打もまた示現流といえよう。砕かれた触手は、それでもなお床にのた打ち回り、異様な生命力を表していた。
「――何だ、アレは!?」
 南西諸島に現れる大型超常体ショゴスに似ているが、明らかに違う、腐敗した肉塊。蒸気と固形物で構成された、のた打ち、泡立つ体に目と口が開いたり閉じたりしていた。形成と溶解を繰り返す体から、唾液と体液が滴り落ちる。立ち上る蒸気と滴り落ちる膿汁が混じり合い、無数の触手が踊っていた。そして異様で恐ろしいホゥーホゥーというような吠え声と共に、腐った臭いのする風が吹き荒れる。
「――あの劫火でも焼き尽くせなかったのか!?」
 岩部の怒声に、だが腐敗した肉塊は応える事無く、八雲町側へと退き始める。その大きさとトンネル内という状況故に緩慢と錯覚するが、その動きは流れる風のように速い。異常を察した他の第7011班員が到着する頃には完全に姿を消していた。
「……アレもまたハストゥールの眷属だというの?」
 桜子の言葉に、答えうる者は誰も居なかった。
 ……そして函館に帰還した者達を待ち受けたのは、更なる惨劇の予兆であった――。

*        *        *

 凌雲中学校跡地――千代台公園跡地に隣接する廃校舎の屋上にて、芦屋は相方の観測手が用意した戦闘糧食II型……通称パック飯の5番「チキンステーキ」を口に運んでいた。芦屋が食事している間、相方が双眼鏡で周囲の警戒を怠らない。降り積もる雪は屋上に張った天幕を覆い隠してくれる天然の擬装具だ。
「……嫌なほど、静かだな。5月に入って未だ1回も函館での戦闘報告がない」
「でも最終目標が五稜郭なのは間違いないんだ。そして奴等は北上してきていた」
 胡椒が効いたジャーマンポテトの食感を味わいながら、芦屋はスプーンを立てる。行儀の悪さはさておいて、MIBとの交戦記録を口で上げていく。
「五稜郭の前が、旧・函館警察本部。その前は千代田小跡。そして今いる千代台公園跡で――」
 MIBとの最初の戦闘は、函館駐屯地への襲撃であったが、函館市役所跡地からの北上線で警邏巡回している班との遭遇が生じている。
「突き詰めていけば、南端にある大鼻岬方面に奴等の拠点がある可能性は高い。本当ならば敵の攻撃が緩んだ今のうちに追究しておくべきだろうが……」
 何しろ度重なる戦闘による死傷者多数。動ける者が少ない。芦屋としても凌雲中で狙撃配置に着くのが精一杯だ。敵味方の進行が容易い83号線を見張り、また超常体の営巣地になりやすい千代台公園跡地を警戒出来る。オーシャンスタジアムや陸上競技場は敵味方にとって展開し易い中間拠点になりうる。
「それに……千代台公園で雪峰君が発見された事も気になるし」
 芦屋の呟きに、驚いたのは観測手。双眼鏡を覗きながら警告を発した。
「――おい。アレは、その、雪峰二士じゃないか?!」
 チキンの最後の一切れを口に放り込むと、芦屋は慌ててXM109ペイロードの照準眼鏡で見下ろした。83号線を無防備にも歩むアンナの姿を確認。積雪地用の白色迷彩が施されているが、見失うはずも無い。そして姿を確認した瞬間、憑魔核が震え出した。動機が速くなり、舌が乾く。だが肌は寒気を感じる。
「何だ! これ?!」
 覚えがある感覚――五稜郭の戦いで、壬生の内から溢れ出ようとした『名状し難き恐怖』と直面した時に似たものだ。歯の根が合わずに音を打ち鳴らす。
「――MIB確認!」
 建物の陰からBUDDYやMINIMI、11.4mm短機関銃M1A1トミーガンを手にしたMIBがアンナの前に姿を現す。XM109の引き鉄に指を掛ける芦屋だが、25mm弾の威力は掠っただけでも人体を水風船のように破裂させる。アンナを無傷で救出するのは難しい。そしてアンナはMIBの出現にも意にも介さず、その足を止める事は無い。まるで夢遊病者のように、だが軽やかに足を進めていく。そして二度目の驚愕の声が、芦屋達から漏れた。
「……MIBが攻撃しない?」
 邪魔だとばかりにアンナが手を払うと、動きに合わせてMIBの列は左右に割れて道の側に控える。そしてアンナが通った跡を護るように再び道を固めた。まるで女王を出迎えて護衛するギャングスターのように。
「――ヤバイっ! このまま雪峰君を敵地に行かすな!」
 巻き込んでも止む無し。いや、むしろアンナを狙い撃つように芦屋は引き鉄を絞る。発射された25mmAP弾は射線上に割り込んできたMIBを破裂させながらアンナをも吹き飛ばす……はずだった。一瞬にして張られた氷壁が砕け散りながらも、アンナの身を護る。振り返ったアンナの視線が芦屋を射抜いた。歪んだ笑いが聞こえてくる。
「……ふたりは、ずっと一緒にいなきゃだめ、なんだよ……。神父様もそう言ってたもの。だから……邪魔するヤツは、みんな消えちゃえっ!」
 アンナの言葉に合わせて降る雪がそのまま兇器と変わる。着込んでいた戦闘防弾チョッキの御蔭で傷は浅いが、鋭利な刃物と化した氷雪は続く狙撃を阻む。更には奇声を発しながら、南方の空からビヤーキーの群れが襲い掛かってきた。相方はFN P90で弾幕を張り、芦屋もまたXM109からMK48 Mod0に持ち構えて応戦を開始した。反撃にビヤーキーは散り散りになって逃げ去ったが――
「……雪峰君の姿を見失った。MIBも消えている」
 そして――強大な狂気の波動が放たれた。
   いあ! しゅぶ=にぐらす!
      千の仔を孕みし 森の黒山羊よ!
 廃屋の影から沸いた歓喜の歌声が聞こえてくる。MIBだろうか。それともビヤーキーだろうか。だが芦屋達には嘲笑に聞こえた。第二世代であり、半身異化していないにも関わらず、芦屋を激痛が襲う。憑魔核が恐怖に脅え切っている様だった。思わず口走る。
「……ハストゥールと同等の何かが目覚めた」

*        *        *

 札幌すすきの――それなりに質が良い調度品が並べられた一室。趣味が反映されたファンシーな物に囲まれて、バスローブ姿の少女が髪を梳いていた。
『――宇津保准尉。おっ、お客様です』
 何故か上擦った声に不思議がりながらも、
「……あら? 一仕事を終えたら2時間は休憩のはずよ。予約も入ってなかったと思うし……帰ってもらって」
『そっ、それが。フェラー大統領補佐官です!』
 ……数分後、相対する少女と金髪の青年。
「フェラー大統領補佐官がロリータポルノ愛好家だと広まったら、ゲイズハウンド国務長官が大喜びするのじゃなくて? キヒヒ★」
「――スキャンダルは怖いが、函館の状況を考慮すれば、些事を気にしても仕方ない。……単刀直入に言おう。函館の状況が悪化した。維持部隊の働き振りは申し分なかったのだが……」
 フェラーは美麗な顔を歪ませると、
「“這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)”が、また『遊戯』において不正を働いた。――“千の仔を孕みし森の黒山羊(シュブ=ニグラス)”を顕現させたのだ。正確には本体ではなく、あくまでも分身であり、しかも幼体に過ぎないが、それでも最高位最上級超常体に匹敵する」
「――!? ちょっ! ちょっと!! もしかして報告に上がっていた、これ?」
 小波がアンナ失踪の報告書の写しを投げ渡すと、フェラーが頷く。小波が舌を打った。
「こちらは人手が少ないってのに……」
「こちらもだ。千歳に回している盟友を回す訳にもいかん。……東北で働いている盟友を動かしたいのだが、君の協力が必要だ。移動手段の提供と、函館の維持部隊に共闘を持ち掛ける為の根回しをして欲しい」
「……所属、姓名、階級は? アタシに協力を頼むという事は米軍関係者じゃないわね」
「東北方面隊第9師団・第5普通科連隊所属、奥里明日香陸士長。――星幽侯オリアスだ。呪言系を有する」
「シュブ=ニグラスといった異形系には天敵ね。接触攻撃が出来ればの話だけれども」
 考え込む仕草で、秒針が一回りの沈黙。
「――了解したわ。でも正体を伝えるわよ?」
「構わん。オリアスを排斥するというのも人間の選択だ。だが“這い寄る混沌”が『遊戯』を逸脱したからには、こちらも些か裏技を駆使せねばならん」
「こういった密約も、ある意味そうだけれどもね。共闘期間は“千の仔を孕みし森の黒山羊”が倒されるまで。指揮命令権も貰うわよ。……ナイ神父とハストゥールは?」
「生憎と奴等を倒すのは維持部隊の役割だ。“千の仔を孕みし森の黒山羊”を倒した時点でオリアスは撤退させる」
 ケチと悪態を吐いて小波は舌を出した。フェラーは肩をすくめると、立ち上がる。
「……そうそう。礼の代わりとして情報を1つ差し上げよう。――千歳で『天獄の門』、つまり燭台の灯が点されようとしている。場所はこちらでも捜索中だが、充分な戦力が護っていると考えて間違いない」
 フェラーの置き土産に、小波が顔を真っ赤にした。
「――人手が足りないって言っているでしょ!」

 

■選択肢
NA−01)亜米利加総領事館にて陰謀
NA−02)北海道神宮に潜入を試みる
NA−03)大演習場で魔王を見敵必殺
NA−04)大演習場で天使どもを殲滅
NA−05)キャンプ千歳を探ってみる
NA−06)函館にて五稜郭の死守防衛
NA−07)函館で黒服集団を追撃交戦
NA−08)残る黒い石碑の1つを破壊
NA−FA)北海道西部の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に、当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
 なお残る黒い石碑は5/9(×駒ケ岳、×大沼国定公園、●上磯ダム公園、●湯の沢水辺公園、●渡島支庁木古内町、●檜山支庁上ノ国町、●檜山支庁厚沢部町、×貝子沢化石公園、×豊浜トンネル)。PC1人のアクション1回――約2週間で破壊出来る数は1つとする(※準備や会議等はカウントされない)。
 大演習場並びに函館では魔王等による強制憑魔侵蝕現象の危険性もあるので注意する事。
 ちなみに東北方面隊第9師団・第5普通科連隊所属、奥里・明日香[おくざと・あすか]陸士長――星幽侯オリアスは呪言系高位上級超常体(完全侵蝕魔人)。特性はグラップラー/スカウト。23歳、男性。共同作戦の提案がない場合、基本的にオリアスは「NA-07」を選択して単独行動――見敵必殺、“千の仔を孕みし森の黒山羊”撃破を試みる。


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