同人PBM『隔離戦区・獣心神都』第1回 〜 北海道東部:南亜米利加


SA1『 蜂鳥の左足 』

 顔を構成する部位の内、人目を引くのは大きな眼。両眼は左右に大きく離れ気味。そして唇の端を歪めて笑っているような、これまた大きな口。
「――イ、インスマンス面」
 神州結界維持部隊北部方面隊・第5師団第5後方支援連隊・治療中隊第2班乙組長、森・緑(もり・みどり)二等陸曹が思わず口走った単語に、だが言われた男は気にする風も無く、
「まぁ、そう言われる事もあります」
 むしろ第2師団第25普通科連隊・第274班長、縣・氷魚(あがた・ひうお)三等陸曹は鼻歌調子に応えた。失礼しましたと緑は頭を下げる。
「いやいや、気にしないで下さい。……しかし僻地というには、随分と人が集まったものですね」
 縣が周囲を見渡した。北海道根室支庁にある別海駐屯地は、名実共に僻地とされる。何故ならば、隔離前において内陸部隊にも関わらず、唯一僻地手当が支給されていたからだ。だが先月末より降って沸いたような騒ぎで大賑わいになっていた。
「……キミもクッシーに会いに来たんですの? 隔離前――1997年6月ぶりの出現ですものね」
 先月末に川湯温泉周辺を警戒中の第27普通科連隊第503中隊の第534班が、霧の中で巨大な影と接近遭遇をしたのが発端だ。報告を受けて、最初は半信半疑だった第503中隊長だが、続く多数の目撃報告と、それを証明する痕跡に重い腰を上げた。そして別海駐屯地司令(第5偵察隊長兼任)は屈斜路湖北側に在る美幌駐屯地の第6普通科連隊長にも共同調査と撃退を要請したのだ。
 遭遇した巨大な影の正体について、クッシーが最有力候補として隊員達の話に上っている。クッシーは日本最大のカルデラ湖――屈斜路湖で目撃証言のあるUMA(Unidentified Mysterious Animal:謎の未確認動物)だ。隔離前――全国的に知られるようになったのは1973年辺りだが、古くはアイヌの伝説にあるほど昔から謂れのあるUMAだ。正体について生き残りの首長竜説、イトウ説、アメマス説が上げられている。
 だが緑の問いに、縣は自分を指差してから小首を傾げてみせた。
「……僕ですか? いえ、僕はどちらかというと民俗学の方でして。生物学は専門外です。超常体研究としては、福岡の幹部候補生学校にいる教官が高名らしいですけどね」
 縣の言葉に、UMAマニアの同志でないと緑は意気消沈。替わって話に加わったのが、
「民俗学ですか……宜しければ詳しく御教授頂けますか? 巨大な影について調査しているんです」
 やや線の細い少年が敬礼をしてきた。佐伯・正巳(さえき・まさみ)二等陸士に、縣は目を向けると、
「――生物学的な意味でなく?」
「ええ、どちらかというと……オカルト説的な意味で」
 オカルト説――未だ噂や都市伝説の類だが……ある種の群れを形作る超常体が神州に対応する世界各地の神話・伝承に似通っている点に注目した説だ。そして群れを統率しているだろう主神級の存在さえ倒せば、超常体が居なくなるという。希望とする反面、夢物語として切って捨てる者も少なからずいる。
「――本来ならば第5師団管区の釧路支庁に、第2師団の縣三曹が出向されてこられた理由は、やはりそれでないかと思いましたもので。是非にもお力添えを」
 第2師団長、沼部・俊弘[ぬまべ・としひろ]陸将がオカルト説信奉者という噂は最近、北部方面隊内で流布されている。神居古潭と周辺区画の封鎖が出所だが、実際、縣も事実でないかと睨んでいた。
「アイヌ伝承としては神の山の意味を持つカムイヌプリ、摩周湖のカムイシュ(老婆神)、藻琴山のトエトクシペ……調査する事項は幾らでもありますが……」
「確かに。……伝承や情報を纏め上げるだけでも大変な量になりますね。虱潰しにするとしたら、どれぐらい時間が掛かるか判りません。私はとりあえずカムイシュに当たりをつけて行動する予定ですが……」
 縣は指を立てると、迫るように佐伯へと顔を近付け問い質す。
「……正直な話として、あなたはどう考えているのですか? アイヌ伝承の存在ならば、巨大な影と整合が付きません」
「屈斜路湖には、蛇のカムイがいるという伝承もありますわよ。クッシーと同一視される、そのカムイの仕業で御神渡りが起きますとか」
 緑が口を挟む。湖面に出来た氷が収縮と膨張を繰り返すと、湖面に氷の山が出来上がり、一見すると蛇のような形になって湖面を縦断する。これが御神渡りと呼ばれるもので、有名なのは諏訪湖だが、屈斜路湖でも砂湯から10kmに及ぶものが観測された事があるという。
「そこから蛇のカムイの伝承が生まれたというのは、よく考えられそうな話ですね。……とはいえ、佐伯二士が考えている伝承は、別のところにあるかと」
 縣と緑の視線に、佐伯は気恥ずかしげなものを感じながらも口を開いた。
「実は……僕は高位上級超常体イタクァの捜索と討伐の為に訪れたのです」
「イタクァ……函館の? これは意外な着眼点。興味深いですね。――イタクァ=ザ・ウェンディゴ。北米先住民アルゴンキンに伝わる精霊の名」
「ウェンディゴなら、アタシも知っていますわよ。サスカッチやビッグフットとも言われるUMAですわ」
 緑の知識も間違っていない。だが佐伯が懸念するのは、いまや神州において予言者とも陰口叩かれるラヴクラフト――彼の信奉者であった、ダーレスが『風に乗りて歩むもの』として書き表した事で、有名になった存在だ。
「……とはいえ卵か鶏かの論法ではありませんが、件の高位超常体は、書物のイタクァに似ているから名付けられた訳で、超常体の存在を察知したダーレスが書き表した訳ではないはず……です、が――」
 しかし神州各地に出現する超常体は、神話伝承で語り継がれている存在に酷似している事は明白だ。超常体は神話伝承から名付けられているが、本来は逆で、かつての超常体を語り継いだものが神話伝承であるというのが、オカルト説の有力な根拠となっている。そしてラヴクラフトが予言者と称される訳も。
「とはいえ函館にて交戦した第28普通科連隊から得たイタクァの情報と、川湯温泉周辺で目撃された影との大きさや形状を対比しますと……」
「イタクァでない可能性が高い……と?」
 縣の言葉に、佐伯が首肯し、緑は安堵の息。
「それで正直なところ……イタクァではなく、テスカトリポカやアウォナウィロナではないかと疑っているのですが……」
 ここで様子疑いの視線を佐伯は送る。縣は小首を傾げると、
「――テスカトリポカらしき超常体は、神居古潭にいますね。しかしアウォナウィロナとはマイナーな」
 苦笑した。アウォナウィロナは亜米利加南西部ズニ族の神だ。思念から霧を生む両性具有の神らしい。
「――霧といえば、それも怪しいと思い始めちゃうのは俺だけかね?」
 今まで耳を傍立てて発言の機会を待っていたのだろう。中肉中背の青年が手を挙げた。短く不揃いに切った黒髪に、やや釣り眼気味の黒目。だが縣とは別の意味で締まらない表情――緩んだ笑顔が特徴的な、地之宮・続(ちのみや・つづく)二等陸士は、緑と縣の階級を思い出したように敬礼をすると、
「失礼。――自分は巨大な影の事に加え、全域に立ち込めている霧の事も気になっているのですが。尤も未だ被害は特に出ておらず、ただの霧という可能性も高いのですけれどもね」
 地之宮は苦笑。濃い霧は、太平洋を北上する暖かく湿った空気が北海道沿岸で急激に冷やされる事で発生する。冷たい霧は外輪山を越えてカルデラの中にたまり、摩周湖を覆いつくすが、発生頻度としては沿岸部の釧路市周辺や釧路湿原に比べるとやや少ない。
「それでも、一応、調査しておくに越した事は無いだろうかと」
 唇の端を歪めて、地之は宮笑みを形作った。
「……なるほど。実に興味深いですね」
「霧と、その影響の調査が、ですか?」
 縣の呟きに反応して、佐伯が問うと、
「――いやいや、これほど人が集まっているというのに、着眼点が各人で違うという事ですよ。しかし、僕と森二曹は屈斜路湖。残るあなた達は、摩周湖が重点となるでしょうから……調査中の警戒が大変ですね」
「――大丈夫ですわ! 私達がしっかり砲撃支援しますわ! 護衛戦力が存在するとは言え、野戦特科の存在意義は常に火力!」
 声に振り向けば、第5師団第5対舟艇対戦車中隊・第2小隊長の 月兎・うどん(げっと・―)准陸尉が高笑い。だが副長らしき女性が耳打ちする。
「……お姉様。96マルチを装備している私達は普通科部隊ですわ」
 実は96式多目的誘導弾システムは、野戦特科(※諸外国軍での砲兵)の装備ではない。それでも些細な事だと、うどんは意に介さずに続ける強い女傑だった。
「機動力のある砲撃部隊として調査部隊を支援しますわ。――とはいえ、目的を達する為には、前方に展開する調査部隊との連携が必要です」
 周囲を見渡すと、
「即応性の高い砲撃部隊としての存在価値を示す為にも、複数の出現予測位置に対応する砲撃ポイントの選定と、ポイント間の移動ルート確認などの事前行動計画を練ります。なので調査部隊からも練った計画の提出をお願いしますわよ」
「ちょっと待って下さい。火力という事は……もしかしてクッシーを殺害? 捕獲? そんな事をするなんてトンデモナイ」
 緑が抗議の声を上げる。拍子に帽子が落ちて、まとめて入れられていた長い三つ編みを振り回す事になるのだが、本人は気付かぬほどに興奮して意見を主張。佐伯は、緑とうどんの間を取り直そうと右往左往する。それを他人事のように眺めつつ、
「……まぁ、実際には巨大な影と遭遇しても、攻撃行動を控えるべきだよな。動向や様子等を観察して、情報を得る事が第一だろうし」
「見掛けによらず合理的なのですね、あなたは。確かに、現時点での情報では正体に見当が付きません。急がば回れが正論ですな」
 地之宮と縣は頷き合う。
「ところで……縣三曹殿の本当の狙いは?」
「私ですか? ……そうですね。維持部隊の力になってくれる神を見つけ出すのが真の狙い――と言っておきましょうかね」
「……それもオカルト説信奉者の沼部陸将殿から?」
 そうとも言えるし、そうとも言えない。県は曖昧に笑う事で返すのだった。

*        *        *

 神居古潭と周辺区域と一概に言われているが、正確には春志内トンネル以南の神居国道(国道12号線)から深川市との境まで、旧・函館本線の伊納駅跡から納内駅跡までを指す。
「……神居古潭が通行不能となりますと、道央自動車道があるとはいえ道西部との連絡が難しくなります。さらに旭川が落ちると道北部の維持部隊との連携もまた著しく困難になると思われます」
 黒目黒髪、穏やかな人柄――ゆえに没個性的とも取れる青年、柳沢・健吾(やなぎさわ・けんご)一等陸士が淡々と説明すると、第9普通科連隊第248班長の 古川・均[ふるかわ・ひとし]三等陸曹は戦闘糧食II型番号3――通称『ビーフカレー』を食べながら感心したように頷いた。
「――うん、やはりパック飯は美味い」
「……私の話を聞いていらっしゃいましたか?」
 柳沢が引きつった笑みで尋ねると、代わって小柄なWAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)が激しい勢いで謝ってくる。ただでさえ座高の位置が低いのに、深く頭を下げると――
「いたーい!」
 鈍い音が響き渡った。テーブルに激しくぶつかった赤くなったオデコを押さえる。涙目の 小山内・幸恵[おさない・ゆきえ]二等陸士――愛称コロポックルに、隣のテーブルで食事を摂っていた第9普通科連隊第249班長の 稲生・香子(いなお・かこ)准陸尉が濡れて冷やした手拭いを渡した。赤毛に北欧系の血を濃く残した顔立ちの香子は、事実、露西亜連邦軍出身という異色の経歴を持つ。極東軍管区第11航空軍・第23防空軍団第530戦闘機連隊パイロットというエリートであったが、理由あって隔離された神州――日本国へと帰化した。ちなみに航空でなく陸戦部隊を率いているのは何か色々な事情があるらしい。そんな香子に対して再び頭を深く下げようとする幸恵を制して、
「――食事中とはいえ、話を聞く態度として相応しいものとは思えぬが。古川三曹はいつもそうであるな」
 士道を重んずる日本人を祖父に持つクォーターで、香子もまた影響を大きく受けていた。第248班長の古川とは第204中隊第3小隊として肩を並べる間柄だが、水と油の仲で喧嘩が絶えない。尤もお気楽極楽が信条で無責任と軽薄を地でいく古川が、香子をからかって遊んでいるという見方もあるが。
「ちゃんと話は聞いていたよ。これでも、こちとら副長を失ったんだ。神居古潭の危険性と、旭川の重要性は理解しているつもりだってば」
 そう言いながらもスプーンを立てて振るという、余り行儀の良いと言えない仕草に、香子は愛刀を抜いて斬り払いたくなるが……じっと我慢。
「――痴れ者は放っておこう。ところで小山内二士は神居古潭に詳しいようだが、僕にも聞かせていただけないだろうか?」
「神居古潭には時間を遡ったり、早めたりする妖怪がいて、そして白面の者の肉片が……」
「――いいから、古川三曹は黙っておけ。この漫画オタクが!」
「稲尾准尉、殿中でござる! 堪忍を!」
 本当に斬り捨ててしまおうか。周囲の目がなければ、刃傷沙汰も止むを得ないのだが……。さておき、
「詳しいと言っても……私が知っているのは、ニッネカムイの伝承ぐらいなもので、すっ、すみません」
 ニッネは『悪』。カムイは『神』。つまり悪神や魔神……魔王みたいなもの。伝承によればニッネカムイは石狩川に大きな岩を投げ込み、往来するアイヌを溺れさせようとしたが、ヌプリカムイ(山の神)が見咎めて岩をどかす。ニッネカムイは怒ってヌプリカムイと争ったが英雄サマイクルがヌプリカムイに加勢。ニッネカムイは逃げようとしたところ川岸の泥に足を深く沈めてしまい、動きが止まったところでサマイクルに切り殺されたという。
「――川岸に残る大きな甌穴は、そのときにニッネカムイが足を取られた跡であるといわれています。また周辺に見られる奇岩は、ニッネカムイの首やサマイクルの砦という話です」
「……サマイクルはさすがに知らんなぁ」
 古川が無念そうに呟く。幸恵も サマイクル[――]について、道北道東を中心にして活躍した人文神としか知らないようだ。
「しかしニッネカムイとは……」
「――つまり神居古潭には悪神が封じられているとの噂がある。そして南米で悪神といえばテスカトリポカだな」
「おっ、アフロマン。まだ爆死していないとは、相変わらず運が良いやつめ」
 顔を出したアフロ髪の青年、大山・恒路(おおやま・こうじ)二等陸士に古川が手を振った。通称――突撃爆破員、神風ランナー、爆発をこよなく愛する漢。悪人ではないが、傍迷惑なのは間違いない。古川は嬉々として、柳沢と香子は複雑な表情で迎えると、大山は勧められた席へと座った。
「テスカトリポカはジャガーに変化出来るとの事だから、もしかしたら報告に上がった黒豹が魔王なのかな」
「黒豹でなくて、まんまジャガーだったんけどな」
 豹と似ているが、背面にある黒い斑紋に囲まれたオレンジ色の斑紋(梅花紋)――更にその輪の中に黒点がある事、ジャガーの方が体格が頑丈で、頭骨が大きく足が短い事等において異なる。ジャガー(Jaguar)という名前は南亜米利加ネイティブの“yaguara”という言葉が由来であり、これは「一跳びで獲物を殺す獣」という意だ。
「まぁ、悪神が南米のものである確証も無いし。とりあえずは調査が先決だろう」
 テスカトリポカ[――]はアステカの主要な神の1柱であり、最も大きな力を持つという。名は「煙を吐く鏡」を意味するが、黒曜石のものを指すらしい。そしてテペヨロトルというジャガー神の側面を持つ。
「更に付け加えるならば、『ナウイ・オセロトルの終焉』だとか、逃げる最中に聞こえてきたんだが……」
「――ナウイ・オセロトルはぁ『4のジャガー』という意味ですよぉ」
 古川の台詞を引き継いで、畠山・政五郎(はたけやま・まさごろう)一等陸士が解説した。かなり薄い、白くなった頭髪を頭に張り付かせている、分厚いレンズの黒縁眼鏡を掛けた老人だ。在野の動物学者として知られており、通称「マサゴロウさん」。
「ボクも色々と調べておきましたがぁ、ナウイ・オセロトルというのは、アステカ神話における1つ目の時代らしいですねぇ」
 アステカ神話によると、ナウイ・オセロトル、ナウイ・エエカトル(4の風)、ナウイ・キアウィトル(4の雨)、ナウイ・アトル(4の水)という4つの時代を経て、現在の世界は『ナウイ・オリン(4の動き)』と呼ばれる5つ目の時代らしい。
「オカルト説が正しいとするとぉ、道東での4つの異変は、現在の世界を終わらせるためのものではないでしょうかぁ」
 ナウイ・オセロトルは、ケツァルコアトルの策略でジャガーに変じた、支配者テスカトリポカ自身によって終焉を迎えた。ナウイ・エエカトルは、テスカトリポカの策略で、支配者ケツァルコアトル自身によって滅ぼされた。
「……テスカトリポカも、ケツァルコアトルも、お互い様って気がするんだが」
「一般にはテスカトリポカが悪神でぇ、ケツァルコアトルが善神として言われていますがぁ……」
 人身御供の是非という1点における、欧米人の主観によるものでしかない。神話を紐解けば、善悪二元論で語り尽くせるものでなく、飽くまで表裏一体の関係でしかないという事か。事実ケツァルコアトルもジャガーに変じる等、テスカトリポカと重複する要素を抱えている。
「さておいて……トラロックに支配されたナウイ・キアウィトルは炎の雨で、チャウチウィトリクエに支配されたナウイ・アトルは大洪水で終焉を迎えています」
「――だとしたら、今の時代であるナウイ・オリンの終わりは?」
「はい。“動き”という意味からして……」
 困ったような顔をすると、
「――大地震だそうです」

*        *        *

 断続的に余震が起こる十勝平野。襟裳分屯地が壊滅して以来、止まる事を知らず、むしろ日を追う毎に震度が増している。いずれ十勝平野全域が壊滅的状況に陥るだろう。
 北海道十勝沖から露西亜カムチャツカ半島沖にかけて存在している千島海溝。太平洋プレートが北アメリカプレートの下に年間数pの速度で沈み込んでいる。この為、両プレートの境界で歪みが発生し、その歪みの開放により発生する逆断層型地震……それが十勝沖地震だが、さすがに尋常で無いと考えられていた。また超常体も活発的に動き始め、各地で孤立した部隊が第5師団司令部のある帯広駐屯地に救難要請を送ってきている。
 帯広駐屯地内の十勝飛行場では、大地が静まったタイミングを見計らって誘導員が合図を送る。誘導に従い、特殊作戦用輸送回転翼機MH-47Gが離陸した。
「機材に若干の違和感がありますが、申請していたドクターヘリを運用する許可が下りましたわ。これで、普通車両では間に合わなかった患者を救助出来るようになります。さあ、皆さん頑張りましょう!」
 第5師団第5後方支援連隊・救急飛行小隊長の 白岩・礼手(しろいわ・れいて)准陸尉の言葉にスタッフ一同が応じた。
 輸送回転翼機CH-47チヌークの派生型であるMH-47Gは、液晶コックピットを採用してローターを改装した近代化改修のF型に燃料タンク倍増、FLIR(Foward Looking Infra Red:前方赤外線監視装置)追加、航法装置改良、装甲追加、空中給油用プローブ追加等を施した最新モデルである。戦闘捜索救難機(ドクターヘリ)としては、やや過剰な程の性能を有するが、それでも常態戦時とも言える神州日本においては備えて足りない事は無いだろう。装備されたブローニングM2重機関銃キャリバー50は、要救助者を包囲する超常体の群れを薙ぎ払う為にある。それも……
「……航空科は、回転翼機と燃料と運用人員を回してくれただけで手一杯らしいですわね。流石に作戦参加していない限り、常時航空支援までは難しいと言われました。あっちもあっちで、カツカツな運営を強いられていますから」
 礼手は溜め息を吐きながら苦笑する。隔離された神州において燃料は貴重極まりない。戦車もだが、加えて維持の問題もある。物量や人員を空から送り込める利点から輸送機は未だ存在意義を認められているだけ良い方であり、戦闘機に至っては邪魔者扱い――十勝の第1対戦車ヘリコプター隊や、千歳の飛行隊等は肩身が狭い思いをしているらしい。
「それでも、菅谷陸将の御理解も頂けた事に感謝致しましょう」
 第5師団長の 菅家・輝生[すがや・てるお]陸将は、礼手の上申――第5師団のみならず、北部方面隊全域の衛生科各部隊との連絡体制や調整に応じてくれた。災害による多数の要救助者が予想される為、事前の受け入れ体制の確立に口添えしてくれるのはありがたい。
『――救急飛行小隊に連絡。浦幌にて救難通信を発する部隊があるとの事。地震は変わらず断続的に生じている。健闘を祈る』
「承知しました。……では参りましょう。神は常にお優しく、そして、厳しいお方です。神の助けを求める者は、自ら十全の努力を怠ってはいけませんわ」

 空に上がるチヌークを羨ましそうに見遣るのは、90式戦車。第73戦車連隊シンボルマーク「勝兜」の隣には「仰天」のパーソナルマーク。愛称もずばり「仰天号」だ。車長は、第7師団第73戦車連隊・第5中隊第9組長の 国木田・由加里(くにきだ・ゆかり)三等陸曹。黒髪黒目、背中まであるウルフカットの容貌よりも、溢れんばかりの活力漲る言動で知られている少女だ。尤も空回りする事も多いのが玉に瑕。今、由加里は頬を膨らませて不満を漏らしていた。
「久保川師団長、酷い! 酒山陸将、酷い!」
 管区外の第7師団に所属する由加里が帯広に出向してきたのは理由がある。……隔離以来、東千歳駐屯地に隣接する旧・北海道大演習場ではヘブライ神群と魔群(ヘブライ堕天使群)との三つ巴が繰り返されてきた。しかし最近になって魔群が優勢を誇り始め、高位上級の超常体――魔王クラスの出現が噂されていた。当然、由加里は溢れる元気で迎撃を主張したのだが、上司より「超常体の内輪揉めに首突っ込んでいる暇があったら第5師団の救援にいってこい」と出向を命じられたのだ。間違いなく遠ざけようとしている。
 実際、第7師団長である 久保川・克美[くぼかわ・かつみ]陸将は、隔離後に第11普通科連隊を率いて目覚しく活躍した陸自出身のWACという経歴の持ち主で、機甲科の存在に否定的。戦車に維持費や燃料を回すよりも、普通科部隊に今以上の対戦車武器を携帯させた方が良いと主張しかねない人であり、第7の機甲師団という栄光の過去に対しても煩わしく思っているという陰口もある。そして北部方面総監の 酒山・弘隆[さかやま・ひろたか]陸将も時代の流れに則し、機甲科の存続に消極的だという。
「……それでも由加里は未だ認められている方なんだけどね」
 部下にして友人である砲手、加藤・佳子[かとう・かこ]一等陸士が頬杖を付きながら呟いた。無駄に溢れる活力のお陰か、何故か由加里は久保川と酒山へと人脈があるのだから。機甲科部隊の縮小に乗り出さないのも、こういった細々ながらも幾つかある人脈の所為かもしれない。それでも冷遇されているのは変わらないが。
「さておくとして……このまま第73戦車連隊・第5中隊第9組は、南の超常体への睨みを効かしておけばいいのね?」
 同じく部下にして友人である操縦手、鈴木・まゆみ[すずき・―]一等陸士が眼鏡を拭きながら、確認してきた。不整地での移動を可能にする履帯といえども、余震が断続する状況下での使用は想定されていない。由加里自慢の90式戦車も駐屯地の警備として威圧を誇るしかないのが現状だ。さぞかし不満を募らせているだろうと心配しているようだが……
「――うん。抑止力として眼を光らせているだけでいいわよ。何もなければ、それに越した事はないから」
 由加里の言葉に、まゆみの片眉が動いた。佳子も信じられないものを見るように、
「――突撃戦車女のアンタとは思えないわね。何か、悪いものでも食ったの? あれほど拾い食いは止めておきなさいって言っておいたのに」
「キミ達……あたしの事を何だと思っているのよ」
 爆発し掛けの由加里だったが、
「――警備、御苦労様」
 美しいが陰のある声を掛けられて、我に帰る。第05特務小隊――零伍特務の 寺岡・久菜[てらおか・ひさな]准陸尉。各師団・旅団には団長直属の危険集団が存在する。上官や同僚の傷害、殺しの罪人――重犯罪者を懲罰する部隊。最前線に投入される必死の部隊。零伍特務もまたその1つ。久菜はかつて札幌駐屯地の北部方面警務隊本部に勤めていたほどの凄腕のWACだったらしい。それが懲罰部隊を率いるようになった経緯は不明だが、陰のある雰囲気は美貌と相俟って何故か身震いするほどの空恐ろしさを周りに感じさせる。事実、久菜が近付くと、由加里の憑魔核は軽い刺激を発していた。
 ――活性化。憑魔が別の超常体の存在を感知した時に示す様々な反応の総称。この状態になると、小型の超常体と化してしまい、身体能力が激しく強化される。ただし相手が小型の超常体の場合は、活性化が起きない場合の方が多い。同様に、戦友の憑魔に反応して活性化するような事はなく、ある程度の大きさがある相手でないと近くに潜んでいても判らない……はずだ。それにも関わらず、憑魔が反応して活性化してしまう久菜は一体……?
「――これより十勝岳に、ですか?」
 警戒心をおくびにも出さず、表面上は敬礼すると由加里は久菜へと声を返した。答礼と共に、久菜は微笑む。
「ええ。可愛い坊や達と一緒に……」
 美女から坊やと言われて、複雑な表情を浮かべるのは 山之尾・流(やまのお・ながれ)二等陸士をはじめとする少年達だ。
「では御機嫌よう……」
 会釈すると、飛行場へと向かう零伍特務と少年達。用意されたチヌーク2機に分乗して、旧・上富良野演習場へと空輸される。そこから徒歩で十勝岳を目指すらしい。
 敬礼して見送っていた佳子が囁くように尋ねてくる。
「アタシ達も、経験豊かっていう歳じゃないけどさ、あんな子達で大丈夫なの? しかも問題のある懲罰部隊と一緒で」
「……大丈夫よ。あの子達、皆、魔人――しかも第2世代のデビル・チルドレンらしいから」
「詳しいんですね」
 眼鏡の奥から見通すような視線で、まゆみが由加里へと振り向く。
「――私達の役割は警備って言ったよね。完全侵蝕魔人が十勝岳からの負傷者に紛れ込むのが当面一番怖いから、配属者の一覧を貰っているのよ。あの子達は、第5i教練班。『i』という虚数番号を割り触れられた実験部隊……という噂だわ」

*        *        *

 警衛隊や警務科のみならず、需品科と武器科の各部隊にも上申して回った柳沢が一息吐いたところに、香子が珈琲を差し出した。礼を述べてから、啜る。苦味と甘味のブレンド、そして五臓六腑に染み渡るような熱さが疲れた意識と身体に活を入れてくれる。
「――大規模な駐屯地という事もあり、超常体が攻めてきたところで1個連隊に敵うはずもありませんが、念の為に。そして、そうだとしたら弱点を突いてくるでしょうし」
 柳沢は苦笑する。
「……ただし相手が本当にテスカトリポカならば、魔王や群神クラスと称される高位上級超常体――それどころか、更に上の主神や大魔王クラスであれば、1個連隊でも心許ないですが」
 カップを握る手に力がこもる。
「……ましてや完全侵蝕魔人が相手だとすると普通の罠は使い辛いですし」
 口には出さないが、柳沢の考えではこうだ。雪中にワイヤーを張れば、普通なら先ず発見不能な反面、幻風系で飛んできたり、氷水系が雪で波乗りしてきたり、雷電系が磁気探査してきたり、地面の下を掘り進んできたり、と憑魔能力常時全開で来られると対処が厄介極まりない。
「――とにかく発見する事が最優先。発見さえすれば多勢に無勢ですよ」
「テスカトリポカの神性から、憑魔能力を推測するとしたら……如何かな?」
「相手がテスカトリポカ1柱だけならば、いいですけれどもね。1柱だけとしても、伝承によれば様々な顔と力を持ちます」
 テスカトリポカの神性は、夜の空、夜の翼、北の方角、大地、黒曜石、敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争や争いといった幅広い概念と関連付けられている。またアステカ部族神であり最高神であったウィツロポチトリや、マヤ王家守護神たるボロン・ザガブとの類似点も指摘されている。マヤの太陽神キニチ・アハウは夜にジャガーへと変ずるという。
「……テスカトリポカ1柱だけでも厄介ですのに、高位上級超常体特有の力――強制侵蝕現象で敵に回った魔人も加われば、最悪、旭川は陥落します」
 異常は神居古潭だけでない。旭岳や十勝岳の災害によって避難してきた部隊の中に紛れて潜り込んでくる可能性もある。疑い出せば限が無いが、担当部隊から配属者の一覧を貰って衛生科とのチェック体制が北部方面隊全域に布かれていた。
「もしかして、神居古潭の封鎖も、完全侵蝕現象による被害の拡大――敵魔人が増加する事を危惧しての事かも知れません」
「という事は、下手に突っ込むと……」
 香子の表情が険しくなったところに、部下が慌てて報告に入る。耳打ちされて、香子が声を荒げた。
「――あの痴れ者が! 第249班、出動する。古川三曹の耳を引っ張ってでも連れ帰るぞ!」

 鼻歌交じりにコードを弄る大山の後から、古川が興味深そうに覗き込んできた。大山は親指を立てると、
「春志内トンネルの設置は終了したぜ。本当ならばC-4も取り付けたかったんだけど」
 さすがにトンネル全域が崩落して、将来的に陸運の支障が出れば、懲罰部隊行きは間違いない。トンネル爆破は緊急時の最後の手段とする事に、古川と大山の間で合意された。
「煩いのが出てくる前に、何とか旧・神居古潭駅まで行ければいいんだが」
 89式5.56mm小銃BUDDYを構えて、第248班は慎重に警戒しながらトンネルを抜ける。古川の呟きに、
「そこならば仕掛けても問題ねぇのか?」
「指定文化財になってはいるが、専ら滝川との間の休憩所としか利用してなかったしなぁ」
 ヤッチまいなよ!という古川の笑顔に、大山も嬉々として応じる。
「――実際、ジャガーがねぐらとするならば、そこか、トンネルぐらいだろうし」
「だな。完全侵蝕された魔人や、超常体といえども夜露をしのぐ場所は必要だろう」
 そういえば他に気になる点として、と大山は地図を広げて指摘する。山間にある史跡マーク。
「何だい、これ?」
「……神居岩だと思います」
 自信なさげではあるが、幸恵が答えた。
「留萌にも『神居』が付く名称の土地があるけど、関係あんの?」
「神居岩公園ですね。そもそも神居古潭という言葉自体、『神の住む場所』という意味でして……地形の面や、或いは神聖な場所であるとして、人が近寄り難い場所によく付けられる名称ですから。十勝の大樹町にある景勝地や、小樽の石狩湾沿岸にも名付けられているそうです」
「わお。オカルト説に従えば、どこに神様が封じられているか、わかんねぇな」
 大山はおどけて見せるが、幸恵は付け加える。
「但し、神居岩公園にかつてあったとされる岩ですが、今は存在しません。神居古潭が『神の住む場所』という意味ならば……」
「神居岩は『カモイワキ(神または魔物の住む岩)』という意味になるぜ。……うーむ。爆砕してみたら、どうなるだろう?」
「……大山さんってば、畏れ知らずですよね」
 幸恵は泣きそうな表情を浮かべて、大山を見る。ある種、和やかな雰囲気だったが、
「――神様ってやつに対する畏れは兎も角、ちぃっと恐れを克服してもらう必要はあるわな。お客さんのお出ましだ。しかも、いっぱい」
 古川の合図で、全周囲警戒。樹木や奇岩の陰に見え隠れする多数の人影。前傾姿勢ながらも、明らかに二足歩行する獣頭人身。戦闘迷彩服II型のみならず、贅沢にも防弾チョッキも着込んでいる奴もいて、大山達は息を呑んだ。
「――副長!」
「……“元”な。各員、容赦も躊躇もいらない。完全侵蝕された魔人に対しては、問答無用の射殺命令が出ている。――楽にさせてやれ!」
 古川の怒号で、BUDDYが5.56mmNATOをバラ撒いた。俊敏に動き回るオセロメー(※ジャガー人)への命中率は極めて低い。それでも弾幕を張れば、幾つか命中して衝撃で身を仰け反らせた。一瞬でも動きが止まったところに、追撃の集中砲火。だが――
「……異形系は厄介だぜ」
「焼夷手榴弾、持ってきていないのか?」
「生憎と1つだけ。古川サンこそ、手持ちは?」
「――元副長の弔いにと用意していたんだが、こちらも1つだけなんだな、これが。3匹以上もいるとは聞いてないぞ!」
「古川サン、それ、逆ギレじゃねぇ?」
 軽口を叩き合いながらも、兎に角、白兵戦距離に近付けないように弾幕を張り続ける。慣れない手付きで予備弾倉を交換しようとする幸恵に、
「――まどろっこしい! トロい! 鈍臭っ!」
「酷いですよ、大山さん! 私だって一生懸命なんですから!」
「というか、予備弾倉の余りがあったら寄越せ。オマエじゃ、埒が明かん」
「そんな余裕は――」
「今から作る!」
 ホルダーから抜くと同時に、ピンを弾く。大山の手からM26A1破片手榴弾が放物線を描いてオセロメーへと投げられた。
「パイナップル(※Mk.2破片手榴弾)じゃないんだ」
「やはり、オレにはこだわりのレモンでしょ」
 M26A1はMk.2の後継種として開発された手榴弾で、小型かつ装薬が増量しており高い殺傷力を有している。予算の関係上、維持部隊ではMk.2が広く浸透しているが、爆発をこよなく愛する大山としてはM26A1が手放せない。さておき、
「――どうする? トンネルまで後退し、奴等を引き込んで、仕掛けているクレイモアで一掃するかい?」
 破裂した弾体と爆風でオセロメー達がのた打ち回っている間に、幸恵から予備弾倉を受け取る。脅威の再生力を有する異形系魔人といえども、さすがに満身創痍にされては、動きが鈍るようだ。
「――その手もいいが、やっぱ逃げ帰るだけってのは、好きじゃないな。子供じゃないんだからさ」
 派手に響き渡る銃声が無線の会話を外に漏らさずに掻き消してくれる。とはいえ、オセロメーも元は維持部隊員。作戦の打ち合わせは、極秘に。
「だな。せめて旧駅舎まで到達したいぜ。とはいえ、戦力不足は如何とも、し難く……」
 84mm無反動砲カール・グスタフを叩き込めればと思うがタイミンクが難しい。少しの間でもオセロメーを押し止められれば……。悩んでいる時、北東から銃声が加わった。香子が率いる第249班の増援。
「よう、遅かったじゃないか」
「――遅かったじゃないかではないぞ、痴れ者が! 帰ったら反省房に叩き込んでくれるっ!」
 アブトマット・カラシニコバ104騎兵銃を構えて、香子はフルオート。口径7.62mm×39。AK-104はAK-103短縮型で、外観はAKS-74U(アブトマット・カラシニコバ・スクラドニム・プリクラドム1974ウコチェニィム)――通称クリンコフに近いカービンライフルだ。射撃時の安定性を犠牲にしてでも携行性と取り回し易さを追及したモデル。
「――反省させたきゃ、助けてくれぃ」
「……介錯はしてやるから安心しろ」
 軽口を叩き合ってはいるが、第249班の援護射撃に活路を見出したのは確か。大山はカール・グスタフを構えると合図を発して、HE弾を撃ち放った。大火力にオセロメーでもひとたまりもない。2個班の戦力に、生き残ったオセロメー達も撤退していく。
「――さて。おやすみ」
 古川や幸恵達、第248班は焼夷手榴弾によって、元副長のオセロメーを火葬にする。そして香子からの説教を聞き流しながら、旧・神居古潭駅舎に到着した。周辺を警戒しながら、慎重に中を窺う。
「逃げ込んで、潜んでいたら厄介だ。――大山、爆破してくれ」
「イエッサー!」
 慎重に、だが迅速にC-4を仕掛けると、安全圏まで後退。遠隔操作で旧駅舎を爆破した。爆炎の中に蠢く影を幾つか確認し、軽く合掌。
「一旦、駐屯地に帰還するか。神居岩を調査するにしても弾薬やら装備が心許ない。オセロメーがあれでお仕舞いとは思えないし……もっと人員が集まればな。留萌の第26とか、滝川の第10に増援要請していたんじゃなかったか?」
 古川のぼやきに、香子は憮然とした表情で、
「――深川で警戒に当たっているらしい。現状を報せれば、ここまで突入してくれるだろうが……生憎と僕にはツテがない。上申内容によって打開するかも知れないが……現時点で未だ封鎖中という事を忘れるな」
「うーむ。神居岩が怪しいと思うんだがなぁ。とはいえ、偵察するにも退路の確保が必要だ。……稲生。相談があるが、俺達が調査中、お前さん達の第249班が駅舎跡で警戒待機してくれねぇ?」
「莫迦を申すな。ここで待機するとなれば、古川三曹の第248班であろう? 調査ならば僕達がしよう」
 笑いながら、睨み合う香子と古川。その間にも大山は抱いた疑念を払うべく、爆破跡を入念に調べる。そして振り返った。
「――テスカトリポカらしき黒豹の遺体がないぜ。隠れていやがるのか、それとも……?」
 大山の言葉を受けて、両班共に緊張を取り戻す。BUDDYを構え直しながら古川が呟いた。
「……豹じゃなくて、ジャガーだっての」

 分隊支援火器FN5.56mm機関銃MINIMIが咆哮を上げると、音を立てて空薬莢が飛び跳ねていく。警衛の隊員が退いたところで、Mk.2破片手榴弾を放り投げた。屋外とは違って、ある程度の密室効果が期待される。
「――やったか!」
「死骸を確認するまで油断をしないで下さい!」
 歓声を上げようとする同僚達を、柳沢が叱咤する。200発の弾丸をベルトリンクという形で収納するM27弾倉を再装填。唸り声に引き鉄を絞った。
「……未だ生きていやがる」
 悲鳴に似た、焦燥の声が同僚の口から漏れた。爆風と飛び散った弾体で傷付いた室内に、黒いジャガーが構えていた。口元と前脚は、維持部隊員の血で赤く汚れている。5.56mmNATOの弾雨を浴びた肢体は、瞬時に回復しており、如何なる攻撃も無傷――という誤解で、絶望を覚える程だ。牙と爪は、鋭利な黒曜石のナイフのごとく防弾チョッキの上から易々と身体を切り裂き、心臓を抉る。
「ですが何よりも恐ろしいのは……」
 心臓を抉られて生命活動を停止したはずの同僚達が起き上がり、憑魔能力を行使し始めたことである。
「――リストによれば、彼は魔人ではなかったはずですが……」
 よく観察すると抉られた本来の心臓の代わりに、黒い憑魔核が埋め込まれていた。高位超常体の中には、憑魔核を寄生させるモノもいるというが、まさか黒いジャガー――恐らくテスカトリポカ――もそうだったとは。後に、この哀れな犠牲者はヨワルテポストリ、もしくはヨナルデパズトーリと識別名称を与えられる。名の意味は「夜の斧」。由来によれば、首の無い朽ち果てた死体の姿として現れるテスカトリポカの化身、或いは眷属。明確に心臓部――憑魔核という弱点が判明している分、攻略は容易い。だが依り代自体が死んでいる事で痛覚を持たない所為か、強化された身体能力が厄介だった。
「それでも銃火器を扱う知性がない分、マシでしょうけれども――」
 死ぬまで手にしていたBUDDYを槍や棍棒代わりに振り回す。装填された銃弾が誤動作で発射されてもお構いなしだ。
「……しかし」
 黒いジャガーはあらゆる警戒網を突破して侵入してきた。柳沢が唇を噛む。
( まさか私と同じ憑魔能力の使い方をするとは )
 驚異的な再生力からして、黒いジャガーの基本憑魔能力は異形系に間違いない。だが異形系の力は再生力に限らず、己の身体構造をも変形させる。僅かな隙間、狭い空調路、下水溝等から黒いジャガーは粘液状に変じて、文字通り“浸透”してきたのである。その出現は、煙のようだとも言える。
「まさしく“煙る鏡”と、冗談でしかありませんね」
 それでも、柳沢が意見具申して警戒を厳重しておいた甲斐があった。易々と司令室にまで侵入してきた黒いジャガーを警備していた柳沢が早期発見し、対応良く迎え撃つ事が出来たのだから。
【――強き戦士達の姿を見付けたり。次の時代、新たなる太陽に捧げし、良き供物になろう】
 声ならぬ思念が発せられる。柳沢の眼には黒いジャガーが笑ったように見えた。黒いジャガーは後ろ脚で立ち上がると、強靭な壮年男性の姿と代わる。黒き肌に、だが顔には黄色の横縞が引かれている。
「――我はテスカトリポカ。『ナウイ・オセロトル』の太陽にして、終焉を送りしモノ」
 悠然と見渡すと、
「今日は挨拶代わりだ。次、来る時は、この地を赤く染め上げてくれる」
 哄笑を上げると、テスカトリポカは黒い粘液状に変形し、まるで暗がりに溶け込むように隙間から消えていった。負傷者の救護や、残ったヨワルテポストリの掃討に隊員達が走り回る中、
「――沼部陸将、御無事ですか?」
「……ああ、攻撃を避けた際に、少しばかり足を挫いたぐらいだ。指揮を執るには問題ない」
 瓶底眼鏡と身嗜み良く揃えられた口髭。雰囲気もまた学者然とした、痩身の初老の男が応えた。第一印象通りに博識で知られる沼部は、頭脳労働向きの最たる人物だ。オカルト説信奉者と噂されてもいる。沼部は司令部の惨状を見渡し、また駐屯地各所から上げられてくる被害報告を耳にすると、
「――駐屯地とはいえ、最早、安全とは言い難いな。最前線と考えて、警戒レベルを更に上げたまえ。施設内での爆発物や重火器の使用も許可する。勿論、損害について配慮はしておけ」
「――はっ! 承知しました」
 敬礼する柳沢。
「しかし……こうして攻めに転じられますと、厄介極まりございませんね」
「第2の時代以降の滅びは、暴風と炎の雨と、大洪水によってもたらされるが、ナウイ・オセロトルの終焉はそういった天災とは異なるからな。畠山も懸念していたが、現状、道東で起きている4つの異変が何かの儀式だとすると――テスカトリポカが一番、働きまくらなければならん訳だ」
 そうだとすれば、そこが逆転の糸口にもなろう。そう呟くと沼部は深い熟考に入ったようだった。

*        *        *

 日本脱出阻止の為、船舶及び飛行機の所有・運行が国連並びに日本国政府によって著しく制限・管理されている神州においては、主な交通網といえば陸路だ。
 空輸も存在するが、飛行型超常体の襲撃を受けての墜落の危険性や、運用コストから考えても、余り一般的ではない。
 そして船舶を操縦出来る者は限られており、彼等の存在もまた秘匿されている。船を操縦する技術自体が喪失してしまったのではないかと笑えない冗談もあるぐらいだ。
 浅くて小さい河川を渡る手段としての舟艇はあるが、船舶の多くは超常体との戦闘で沈められたり、また脱出を阻止する者達の手で破壊されてしまったりしているのが実状である……。
「――という訳で、第274班の半数近くでボートを漕いでいるのです。何しろ舟艇用エンジンがありませんから」
 縣の説明に地之宮は曖昧な笑みを浮かべて返事をする。なお残った班員は摩周湖の岸辺で警戒待機。エンジンは掛かっていないが、非常の際、速やかに撤退出来るように高機動車『疾風』を中心として防護を固めていた。そして摩周湖中央にある断崖の孤島――カムイシュ島の調査に赴く縣に付き添って、地之宮もボートに同乗していた。
「……記録。摩周湖の水質サンプルを採集。湖中の植物並びに棲息動物に外観上の異常行動は見られず」
 携帯情報端末に記録しながら、地之宮は研究資料の採集を行う。湖水を試験管3本分採集して、衝撃に備えて慎重に内包した。摩周湖は日本で最も透明度の高い湖の1つ。急激に深くなっている事とその透明度から青以外の光の反射が少なく、よく晴れた日の湖面の色は「摩周ブルー」と呼ばれている。
「――尤も生憎の天気。……薄く霧が出てきたな」
「伝承によると摩周湖の霧は、生き別れた孫が現れたかと喜ぶ、カムイシュの嬉し涙との事。カムイシュの涙が雨であり霧であり吹雪なのだそうですよ」
 カムイシュ島は比高210mを越える溶岩ドームの頂上部分が湖面上に現れたもので、丸く崖に囲まれた形状をしている。伝承によるとアイヌ同士の争いで逃げた老婆が、途中ではぐれた孫を待ち続けて島となったという。
「――どう考えても、上陸は難しそうだが」
 いぶかしむ地之宮だが、
「それでも気になるところは潰しておきませんと。それに摩周湖自体が神聖なもの。マシュウという名の由来は諸説あって不明ですが、アイヌ語で『キンタン・カムイ・トー(山の神の湖)』と」
 摩周湖は約7000年前の巨大噴火によって生成された窪地に水が溜まったカルデラ湖。周囲は海抜600m前後の切り立ったカルデラ壁となっており、南東端に「カムイヌプリ(神の山)」――摩周岳がそびえている。
「だが、この湖が、法的には水溜りに過ぎないとは」
 摩周湖に流入ないし流出する河川はない。なので隔離前において、北海道開発庁(※註1)が管轄する「湖」ではない。ついでに言うと、管轄する樹木も存在しない為に農林水産省の管轄でもない(※註2)。その為、摩周湖は国有財産として管理される不動産に、大量に蓄積した水、つまり法的には水たまりとして認識される。尤も河川の出入りが無いにも関わらず、年間を通じて水位の変動が少ないのは、伏流水として南東8km先の地に湧き出しているからだそうだ。
 地之宮が事前調査したり、観測や採集したりして得た自然科学的情報と、縣の知る伝承等の民俗学的な情報の交換をしているうちに、カムイシュ島に辿り着いた。断崖の島へと上陸する準備を部下が整えている間にも、縣は意識を集中――己に寄生する憑魔を活性化させる。
 ――憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行。
 濃くなってきた霧――大気中の水分子をセンサー代わりにする。また湖中の動体反応も探知した。
「……この大きさはマスでしょうかね? 話に聞く、鯨――湖上の舟を転覆させる大きさには程遠いようですが」
「有機物の流入が少ない事から、餌が乏しく、むしろ体長は従来のものより小さいらしいな」
 落胆にも似た縣の呟きに、地之宮が答える。摩周湖において巨大生物の存在が否定的な理由の1つとして、餌の問題が挙げられる。UMAであれ、生物である以上は滋養を得なければ、存在は許されないからだ。
「森二曹殿には気の毒だが、摩周湖はハズレだな」
 地之宮が肩をすくめた。苦笑していた縣もまた、十数分後には疲労困憊の表情を浮かべる事になる。何とか部下の手を借りてカムイシュ島に上陸し、調査をしたものの、UMAどころか、超常体らしき存在も感知出来ない。
「最初からアテにしていた気はありませんから」
 気を取り直したのか飄々と言うと、縣は撤収を部下に命じる。対して地之宮は上陸する機会も無いカムイシュ島での貴重なサンプルが採集出来て満足だった。
「さて……駄目元で屈斜路湖の中島も当ってみましょうかね」
「引き続き同行させて頂くが、いいかな?」
 地之宮の申し出に、縣は苦笑しながら快諾。疾風のある岸辺へとボートを漕ぎ出した。
「……霧が濃くなってきたな」
 配給されているものより防寒効果の高い素材で造られた積雪地用戦闘装着セットに身を包んだ地之宮を少々羨ましく見ながら、縣はふと思いついた事を尋ねてみた。
「――餌の問題ですが。近辺の食用可能な動植物の数が激減したという報告は……?」
「正確な数値は、俺が報告を提出しないと何とも。但し樹木に齧られたような痕跡があるのは間違いなく」
 それらの証拠が積み重なった故に、第503中隊長は重い腰を上げたのだから。
「ふむ……超常体といえども、基本は生物には変わりなく、何らかの手段で滋養を得なければ存続すら危ういのですから――巨体となれば、それを維持するに多量の食物が必要となるでしょう」
「原始的生物であれば、食料で罠を張れるかね?」
「罠に引っ掛からなければ、貴重な食材を無駄遣いした事で叱られますけれどもね」
 霧中といえども、縣の指示で大きな問題も無く湖岸に辿り着く。慎重にボートから降りると、霧の中で離れないようにロープを掴んだ。縣が疾風の方角を探るべく、探知に意識を集中させようとした。
「――! ……困りましたね。動体反応を確認してしまいましたよ。体高は恐らく……12mぐらい」
「報告より、かなり小さいな。距離は?」
 すぐ近く――そう言葉を発しようとした縣の顔が引きつった。霧の奥から現れたソレの姿に、地之宮も開いた口が塞がらない。鋭く分厚い大きな歯が並んだ上下の顎。体の大きさに比して前肢は異常に小さく、指が2本あるのみ。逆に頭部は非常に大きく、血走った眼がこちらを向いた。餌を前にした犬のように、鼻息荒く、地之宮や縣達の臭いを嗅いでいる。一度観たら忘れられないフォルム。遥か遠い過去に絶滅したはずの肉食生物。知識と認識が一致した瞬間、思わず悲鳴に似た叫びが全員の口から発せられた。
「「――ティラノサウルス・レックスだとぉ!!」」
 彼の名前は――暴君竜。

 摩周湖岸辺で悲鳴が上がるのと前後する。屈斜路湖でも驚愕の事実に対面していた。
「――森さん。湖底より巨大物体が急速浮上!」
 捜索用音響探知機で湖中を探っていた部下が悲鳴を上げる。調査として屈斜路湖に乗り出した緑達と、引き摺られる形で加えられた佐伯は、中島の探索を終えた。中島では何の成果も得られなかったが、帰還中に湖底を泳ぐ謎の巨大生物の存在を感知。撮影機材を構えると、緑は喜色満面でボートから身を乗り出して下方を観察しようとするが、
「――このままだと転覆しますっ!」
 佐伯がインバネスコートの力を解放――風をまとうと緑を抱えて飛び上がった。直後、急速浮上した巨大物体が立たせた波に飲まれて、ボートが転覆。助け損なった治療中隊第2班乙組員は必死になって、引っ繰り返ったボートにしがみついていた。
「……これが、クッシー!」
 レンズを通した先に写し出されたものは、20m近くある巨大な首長竜。ネッシーの進化元と仮定されていたプレシオサウルスの体長が2〜5mといわれており、4〜5倍以上の存在といえる。ちなみに陸棲の草食恐竜ブラキオサウルスが体高16mに及ぶらしい。
「けれども、本当に実在するなんて……」
 摩周湖とは違う理由で、屈斜路湖もまた餌となる魚類が少ない。屈斜路湖は酸性であり、一時期、ほぼ全滅した事さえあるという。従って捕食する大型生物の存在も懐疑的であった。
「――でも、これはどう考えても、超常体ですよね」
 活性化した憑魔核が、鈍い刺激を送ってくる。イタクァやテスカトリポカとは全く異なるが、それでも超常体に違いない。観察する佐伯と、撮影する緑を無視すると、首長竜は必死に泳いで逃げようとする隊員を餌として口を開いて飛び掛った。
「――危ないっ!」
 もう片方の空いた手で構えていた幅広大型な三角形の穂先を付けた長槍――パルチザンの刃を向ける。集中すると氣の刃が発せられて、首長竜の身体に傷を負わせた。首長竜は怒りの唸り声を上げるものの、湖中に身を沈めていく。
「感謝しますわ――撮影に浮かれてしまって、危うく部下を失うところでした」
「とにかく急いで月兎准尉に連絡して支援攻撃を。また浮上してくる前に撤退しないといけません」
 緑を岸に下ろすと、佐伯は再びコートを翻して空中浮揚。救難信号を打ち上げた後、隊員達が泳いで逃げ切れるように身構えた。と、南方で爆発音。
「――摩周湖でTレックスが出現したそうですよ!」
 隊用携帯無線機で連絡を取っていた緑が声を張り上げるのだった。

 起こされたコンテナからガス圧で発射されたミサイルは、点火されたロケットモーターで飛翔。光ファイバーで情報処理と射撃指揮の装置から誘導される。96式多目的誘導弾システム――96マルチから発射されたミサイルは、第三展望台に潜む(仮称)Tレックスへと襲い掛かる。濃霧とはいえ赤外線探知機が目標の追尾と認知を可能にさせてくれる……はず。
「なお愛称の『マルチ』は某18禁美少女ゲームのアンドロイドが由来です。マジな話。業が深いですね」
「誰に解説していらっしゃいますの?!」
 赤外線テレビ画像で確認しながら誘導する射手の言葉に、うどんは思わずツッコミ。そうこうお喋りしている間にもミサイルは目標手前の空へと急上昇。そしてTレックスに向かって鋭角に落下した。上面からの攻撃に、だがTレックスは咆哮を上げると当る直前に後ろへと跳躍。
『――嘘ぉ! 直撃を避けた?!』
 着弾観測要員が、霧の中へと目を凝らして叫ぶ。ミサイルは次々と降り注ぐが、何かがせわしなく動き回る音と地響きは止む事が無い。それでもTレックスに傷を負わせているのは間違いなく、緑色の体液――が爆発と共に周囲に撒かれていった。悲鳴に似た叫びを上げるとTレックスと思しき影は、
『――摩周湖に跳び込んだ?!』
「……レックスは水陸両棲でしたか?」
 うどんが呟くが、部下の射手や操縦手達に答えようが無い。少なくとも――
「超常体であるのは間違いないですわね」
 活性化した憑魔核から疼痛に似た刺激を受ける。屈斜路湖のも合わせると、ロストワールドの肉食巨大生物が、最低でも2体……
「――訂正。3体ですわ」
 大きく影が差し込んだ事に、ただでさえ霧に包まれて視界の悪い周辺域が、暗闇と化した。反射的に上空を仰いだうどんの顔筋肉が引き攣り、思わぬ笑顔を形作った。空には比較する対象が無い為、正確な大きさは判らないが……
「ちょーぉっ巨大な影――嘘でしょう……翼竜?」
 屈斜路湖で避難を終えた緑から、
『――メキシコのアカンバロで、恐竜土偶が発見されて騒がれましたが……』
「アレは捏造されたものっていう話が有力説だ」
 UMA好きの言葉を、地之宮が切り捨てる。
「しかし首長竜の存在は百歩譲ったとしても、アイヌの伝承において恐竜と翼竜については謳われていないですけれどもね」
『……何にしろ、ここがトンデモ・ワールドなのは間違いありません』
 縣の言葉に続けて、佐伯が皆の意見をまとめた。
 ……なお地之宮が採集しておいたTレックスに似た超常体の体液だが、後日に化学科および衛生科より研究調査の報告が上がってきた。
「――地球上に存在する如何なる生物の遺伝子組織とも異なる配列を確認。またモルモットに体液成分を直接血液に注射投与したところ、短期間で成長して肥大化。性質もまた凶暴なものに変化した。……但し毒素としては弱く、粘膜接触ないし呼吸器官による摂取は起こり得ない」
「……つまり体液を浴びた程度では影響力は無いという事ですね」

*        *        *

 旭岳は、大雪山連峰――北海道中央部にそびえる火山群の名称――の主峰で、標高は2,291mと北海道最高峰を誇る。頂上付近は急坂の岩場が続くが道に迷いやすく、また高山である事から、天候の急変に備えた装備が必要で、最悪、夏場でも凍死者が出る。
 防寒効果の高い特製の積雪用戦闘装着セットに身を包んでいる畠山は兎も角として、装備が貧しい第02特務小隊――零弐特務の多くが脱落していた。ましてや吹雪が荒れ狂う中を登山するのは自殺行為に他ならない。最前線での戦闘を強いられる懲罰小隊だからこその蛮行と言える。
 だが、それでも畠山が事前に忠告しておいた御蔭もあり遭難という事態は避けられていた。隊員の多くは東川の旭岳温泉に留まり、零弐特務小隊長(准尉)をはじめとする体力のある者で選抜された1個班程度の少数精鋭で挑んでいるのだから。かつて張られていたロープウェイ跡に沿って姿見の池で大休止した後で山頂へと向おうと足を踏み入れる。
「……くれぐれも蛇の目的が判明するまで、攻撃は控えて下さいよぉ」
「――約束は出来ぬな」
 畠山の言葉に、だが零弐特務小隊長はにべもない。部下に担がせているカール・グスタフに、脇で構えたMINIMI等、零弐特務は雪崩等の危険性を指摘しても、なお攻撃を止める事は無いだろう。彼等は敵と相打ちする為に、生かされてきたのだから。
「ボクがぁ斥候を務めますからぁ、皆さんは待機していて下さいねぇ」
「――了解した」
 老体とは思えぬ足取りで雪や氷を踏みしめていく。山頂へと近付くにつれ、憑魔核から疼痛に似た刺激が大きくなってきた。まるで荒れ狂う吹雪の内に強大な氣を感じ、触発された憑魔核が畠山の心身を乗っ取ろうとするばかり。己に寄生した異物を、だが畠山は強き意思で鎮めた。
「――半身異化せずとも、ここまで氣を感じてしまうとはぁ……おや?」
 我知らず慄然と同時に感嘆していた畠山だったが、突如として吹雪が止み始めた事に気付いた。もしも相手が操氣系能力の使い手ならば、吹雪を引き起こす合間に探知を張り巡らせたのかも知れない。氣を抑えているとはいえ、今以上に畠山は慎重に足を進める。
 そして山頂に辿り着いた畠山が見たのは、羽毛に包まれた蛇ではなく――青年だった。翼に見紛う程の、多量の羽根で飾られた外套をまとい、禅僧のように瞑目して座っている。円錐形の帽子を被り、額には白い十字が入れ墨されていた。しかし人型ではあるが、いでたちや振る舞いもさる事ながら、周囲に張り巡らされた強大な氣が最高位最上級――俗に言う、主神/大魔王クラスの超常体である事を畠山に思い知らせる。
「――何しに来られた、ヒトの子よ?」
 瞑目しながら、青年男性の姿をした超常体は問い掛けてくる。
「……僕はぁ、結界維持部隊員の畠山政五郎と申します。あなたは羽毛ある蛇――ケツァルコアトルさん? それともエエカトルさん?」
「如何にも。我はケツァルコアトルと呼ばれ、またエエカトルも呼ばれ、地方と時代によってはククルカンとも、更にはグクマッツ、イツァム・ナーとも呼ばれる事もある」
 役割に応じた多面性――いずれも1つの本質を表す為の姿でしかない。ケツァルコアトル[――]は静かに畠山へと、そう告げた。
「……なるほどぉ、それでは僕の推測が1つ間違えていた事になりますねぇ」
「……ほう? 知識あるヒトの子よ。汝が考えを聞いてみたい。その為に、我は吹雪を止ませたのだから。兄弟のように戦いのみが語り合う手段ではない」
 愉しげにケツァルコアトルは笑う。だが畠山は言葉の中に吹雪を巻き起こしていたのは、ケツァルコアトルの力だと認識する。――幻風で増幅強化した氷水の波動。そして笑いながらも、張り巡らされている氣は緩むところは無い……操氣系。加えて、蛇身と人型に自在に変じるというのならば異形系を有するだろう。動物学者としての観察眼と、研究を記憶する癖で、素早く脳裏に刻み込むと、何事も無かったかのように、
「――この大寒波が『ナウイ・エエカトル』時代の終焉を繰り返す意図があるのならぁ、それは一種の儀式ではないかとぉ」
 身振り手振りも加えて、考えを伝える。
「道南各地で起こっている天変地異――それは、アステカにおける、かつてあった時代の終焉をそれぞれ模倣しています。そして、それらが目的もしくは手段、つまりは儀式であるとするならば……」
 ケツァルコアトルの閉じたままの眼へと、視線を合わせるかのように向かうと、
「――4つの異変は、現在の世界……第5の時代『ナウイ・オリン』を終わらせる為のもの?」
「その考えは正しい。今のところ何も間違っていないが、ヒトの子よ。間違っていた推測とは何か?」
 興味深そうに尋ねてくるケツァルコアトルに、
「――儀式で呼び出されるのは、あなただと思っていたのですよぉ。それが間違い」
「……成る程。確かに我は、今ここに在るのだから、間違っていると言わざるを得ない」
「でも、ナウイ・オリンを滅ぼす事には間違いないのですねぇ?」
 畠山が尋ねなければならない要点は2つある。相手の最終目的と……それを阻止する方法だ。呼び出されるのがケツァルコアトルではないとしても、それは些細な事柄だ。
「――如何にも。オメテオトルが、我が兄弟達や異邦の部族に命じた『遊戯』を終わらすには、最早、トナティウを呼び起こし、神州の龍脈を震わさなければならぬ」
「――神州の龍脈ですかぁ」
「汝等が北海道と呼ぶ、この地を震えで滅ぼす事が呼び水となり、神州は崩落する」
 ……日本沈没。1973年に映画化されたSF小説を思い起こす。刊行当時、畠山は10代であったが、よく覚えていた。
「――もしもですよぉ。それを僕達が阻止するとしたらぁ、どうすればいいんでしょうか?」
「ヒトの子よ。それを我に尋ねるか? それこそ愚問である。我は第5の時代の終焉を呼び起こす為に在るのだから。己の智慧より解答を見出すが良い」
 ケツァルコアトルは微笑みながら答えた。畠山は奥歯を噛み締めるのみだったが、
「――なら、とりあえず貴様を処理してから考える」
 派手な爆音が轟き、84mmHE弾がカール・グスタフから発射された。畠山諸共にケツァルコアトルを狙ったのは、話し込んでいる間に接近していた零弐特務小隊長。避けられないと判断した畠山は、憑魔を覚醒させて半身異化状態になると、氣の防護壁を張る。張った防護壁の御蔭でカール・グスタフの直撃から免れただけでなく、続くMINIMIとBUDDYの斉射から畠山の身を護ってくれた。
( 忘れていましたよぉ……彼等は零弐特務だという意味を…… )
 畠山は銃弾から逃げながら苦笑する。率いる小隊長の性格や戦法にもよるが、相手と命を刺し違えるのが懲罰であり、贖罪であるならば、味方の被害や犠牲、巻き添えも考慮するはずがない。畠山1人が死んだとしても、主神/大魔王クラスを葬り去る事が出来れば、維持部隊全体として大いなる戦果となろう。それが前線であり、特務の戦場なのだから。
「――先ず我を倒してから考える。愚直だが、1つの解として認めなければならないだろう」
 畠山と同じく――否、以上に強大な氣の防護壁を張り巡らして、ケツァルコアトルは無傷。尽きて弾雨が一瞬でも途切れた隙を突くと、光を放った。MINIMIを手にしていた零弐特務隊員が瞬間、崩れ落ちる。
「――我にも血を好みし荒ぶる面もある。呼ばれし名はトラウィスカルパンテクトリ。我が兄の側面たるイツラコリウキと共に明け方を支配するモノ」
 放たれたのは、光の槍――祝祷系か! 次々と槍で特務隊員を殺すと、ケツァルコアトルは再び吹雪を巻き起こし始めた。
「……准尉。ここは一先ず撤退を。敵戦力等の情報は収集しましたぁ」
 畠山の言葉に、零弐特務小隊長は悔しそうに舌打ちする。そして吹雪が本格的になる前に下山を命じるのだった。

*        *        *

 旭岳と異なり、十勝岳の山容は比較的なだらかで夏は一般登山者でも容易に登頂する事が出来たらしい。望岳台、吹上温泉、十勝岳温泉……等々、比較的高い標高まで舗装道路が整備されており、登山ルートは多様。一方で積雪期の新得側からの入山や各山からの縦走は難易度が高い。
「……とはいえ、私達は山への挑戦者ではありませんから。展開に容易な道があるのでしたら、そちらを利用するのが当然でしょう?」
 ましてや噴火活動の被害や、大規模な憑魔強制侵蝕現象に似た波動が発せられているのだ。初手から危険な手段を選ぶ必要は無い。零伍特務に同行している第5i教練班は、望岳台登山口より入山して摺鉢火口を通り、前十勝岳を回り込むように登る――最も容易な大正噴火の泥流跡を辿る予定だ。美瑛岳への分岐の直後に設置されている十勝岳避難小屋で大休止中、山之尾は自らの意見を久菜に述べた。
「このまま超常体を排除しながら、段階的に噴火口に接近する方がいいんじゃないか? 情報がないまま強攻策をとっても効果が怪しいし」
 思春期の多感で背伸びをする子供っぽく、山之尾はドギマギしながら久菜と正面から向かい合う。数日も久菜と共に行動すれば、憑魔核の不可思議な活性化と鈍痛にも慣れていた。だから山之尾の頬が紅潮するのは歳相応のもの。陰があるものの、久菜は美女に違いない。だが色気で零伍特務の危険人物達を束ねている訳でもないようだった。しかし聖女めいた人徳や高潔さとも違う。
『――坊主。隊長は聖女であって、聖女ではない。娼婦でもあって、娼婦でもない。妖艶だが、淫乱ではない。穢れてもいるが故に、許しを知る慈母でもある』
 零伍特務隊員は、男性も女性も揃って、そう教えてくれた。許し――それが、零伍特務の罪人達を束ねる力なのだろうか。そんな彼女が警務科を追われて、普通科で懲罰部隊を率いる事になった理由は……。
「……聞いています? 山之尾さん?」
「あっ、はい。……すまない。聞いていなかった」
 思いに捕らわれて、話を聞きそびれた。素直に詫びると、久菜は微笑む。
「ではもう一度、答えますわ。――段階的に接近するような余裕がありません。そして私達は第05特務小隊。敵を道連れに戦死を望まれる部隊です。それ故に危険な戦場に配置されます……同行している貴方達、第5i教練班には気の毒な話ですけれども」
 哀しそうな表情を浮かべると、
「……貴方達は、私達のような罪人とは違います。司令部には口添えをして上げますから、今回の偵察任務で生還出来ましたならば、別の戦地に出向して教練しなさい。魔人第2世代とはいえ苛酷過ぎます」
 山之尾達を指導する班長(陸曹長)に視線を送る。しかし陸曹長はバツの悪そうな顔を浮かべるだけしか出来ないようだった。
 ……大休止を終えて、再び噴火口を目指す。旭岳と比較して容易なのは山道だけだ。時折、降り注ぐ火山弾や泥流に苦難を強いられる。
「……伝承にて『神は、溶岩を避けることが出来るようにと、人を鳥に変えました』ならば、MH-60KかV-22。もしくは異形系の特性でも手に入れろと?」
 思わず独りごちた山之尾の頭を、陸曹長が殴る。
「――お前は頭でっかちなところがありすぎだ。何で空飛ぶのに最新鋭機が必要になる。ブラックホークやオスプレイに乗るなんて、10年早いぞ、ヒヨっこが」
「――静かに。目標に近付いてきました」
 久菜と同行している為、憑魔の活性化による超常体接近を感知する事は出来ない。だが噴火口付近より発せられる異常な程の波動が、半身異化をした操氣系魔人でもないのに、強力な超常体の存在を山之尾達にも知らしめた。
「各員、戦闘準備。目標のクラスは恐らく最高位最上級――大魔王/主神クラス。……それが2柱も!」
 久菜の警告に戦慄が走る。高位下級の超常体1体でも下手すれば1個班を壊滅させるに充分な強敵だ。BUDDYを構え、慎重に敵拠点と思しき場所――廃坑となった施設跡地へと接近を試みる零伍特務。十勝岳の中央火口丘付近から、かつて良質な硫黄が採掘されていた。しかし1962年噴火で施設が破壊され、また大正火口の噴気孔の大半が噴石で埋没した事を契機に放棄されたものだ。超常体が施設を再建し、拠点としているとの推測は、果たして間違っていなかった。
 強大な波動が発せられて、包囲陣形を展開しようとする零伍特務を襲った。絶叫した魔人の隊員が激痛に耐えかねて、地面に崩れ落ちる。血走った目で顔を掻きながら、のた打ち回った。第5i教練班もまた激しい刺激を受けたものの、山之尾達5名はデビル・チルドレンであるが故に憑魔強制侵蝕の影響はない。だが班長である陸曹長が血の混じった泡を吹いた。
「――班長!?」
 山之尾達が呆然としたと同時、久菜が甲高い音を立てて拍手を打った。暖かい氣が久菜を中心にして広がり、乱れた呼吸が治まっていく。だが間に合わなかったモノも少なからずいた。強化系の陸曹長は再び起き上がったと同時に、山之尾達へと跳び掛かってくる。
「――発砲しなさい。射殺を許可します」
 久菜が発した静かだが、厳しい声に山之尾達が我に帰る。人が変わった(元)班長へと、無我夢中で手にしていたMK48 Mod0――MINIMIを7.62mmNATO弾仕様にしたモデル――を乱射した。山之尾達だけでなく、完全侵蝕されてしまった(元)同僚の命を絶つ零伍特務隊員達。
「――どこかで覚えのある氣を感じたが」
 惨劇が終わった頃を見計らってか、2つの影が施設跡より現れる。1つは大きな眼と牙が特徴的な異貌のジャガー面を被った壮年、もう1つは焔を吹き上げる香炉を手にした老人の姿をしていた。
「……ナウイ・キアウィトルから予測はしていましたが、まさか御老体も一緒でしたとは」
 久菜が険しい表情を浮かべていた。超常体の名を口にする。
「――トラロック。そしてウェウェテオトル。水と火の神の力で、炎の雨を降らしていたのですか」
「……詳しいの。それに、その覚えのある氣。儂等が神群の受容体と思しき女であるようじゃが……」
 いぶかしむ老人 ウェウェテオトル[――]に対して トラロック[――]と呼ばれたジャガー面は唸り声を上げた。
「――たとえ同胞といえども、計画を邪魔するのであるならば容赦はしない。ヒトの子と共にナウイ・キアウィトルの終焉を迎えよ!」
 トラロックの怒号に、ウェウェテオトルが溜息を吐きながらも火口より炎を噴出させる。押し寄せる熱波と、降り注ぐ炎の雨。だが久菜が氣の防護幕を頭上に張ると損害が軽減された。
「――各員、避難小屋まで撤退します。……今回は敵の数と能力が判明しただけで充分です。地の利は相手にあります。速やかに撤退を」
 久菜の指示に、渋々と山之尾達も従うのだった。

*        *        *

 激しく揺れ動く大地と、押し寄せてくる津波。それでも礼手が率いる救急飛行小隊は、求める声に救いの手を差し伸べなければならない。
 ……十勝平野を飛び回る礼手達へと、絶望とも取れる連絡が入ったのは、4月も半ばを過ぎた頃である。
 ――襟裳攻略の失敗。第4、第27普通科連隊が壊走したという報告である。
 襟裳分屯地跡に陣取って、大洪水を引き起こしている思われる高位上級超常体 チャウチウィトリクエ[――]は、押し寄せる攻略部隊に対して、低位下級の群れを多く出現させるだけでなく、憑魔強制侵蝕現象で迎え撃ってきたという。更に、憑魔の寄生――ナウイ・アトルの終焉で人が魚になったという伝承のごとく、異形系として半魚人や水棲動物じみた姿に、隊員達を変形させていったという。
 今も救助のチヌークへと追いすがってくる半魚人共にヘリ警備要員の隊員がBUDDYを向けて、撃ち払っている。
「要救助者を収容――帯広に帰投します」
『……了解。なお収容した隊員の状態に注意せよ。完全侵蝕された魔人が潜り込んでいる恐れがある』
 如何に医療スタッフを充実させた自慢の空飛ぶ病院でも、患者が敵に回れば簡単に墜落する。献身や慈愛の心も超常体には通じない。事実、唸り声を上げて看護師に飛び掛ってきたモノを止む無く射殺し、後部ハッチを開いて突き落とした。
「……これも試練なのですか」
 礼手は唇を血が滲むほどに噛み締めるしかなかった。

 駐屯地内に収容出来ず、塀の外に張られた病院天幕の幾つか。余震が続く中、悲鳴と怒号が響き渡り、血飛沫が上がる。吼える獣声を掻き消すかの如く、銃声が轟いた。
「――アタシさ、こういう事する為に、戦車に乗ってきたつもりはないんだけどね」
 大きく舌打ちして、佳子が装填された多目的対戦車榴弾で砲撃すると、天幕から跳び出して来た超常体を吹き飛ばす。
「――非難は後から受けるわ。帯広を陥落させる訳にはいかないもの」
 断固とした口調と決意で、車長である由加里が命じると、佳子は眉間に皺を寄せながらも砲撃に従事してくれる。まゆみがキャリバー50で薙ぎ払った。
「もう、リストがあろうがなかろうが意味ありませんわね。外部からの者全員に、侵蝕されている恐れがあるのですから」
「久保川陸将達に嫌味を言われても構わないから、転属を希望するわよ、アタシは」
 地震の規模は、ますます広く、また激しくなってきている。十勝平野では満足に部隊展開が出来なくなっているほどだ。
「それでも! 今は、帯広を死守する事に全力を尽くして!」
 由加里の言葉に、佳子とまゆみは頷くと仰天号は猛威を振るった。
 ――こうして多大な犠牲を強いられたものの、帯広は死守されたのである。

 

■選択肢
SA−01)襟裳岬の高位超常体撃破
SA−02)帯広駐屯地で支援活動を
SA−03)十勝岳の噴火活動を阻止
SA−04)旭岳の羽毛ある蛇と交戦
SA−05)神居古潭の封鎖区画潜入
SA−06)旭川駐屯地で厳重警戒を
SA−07)屈斜路湖/摩周湖を調査
SA−FA)北海道東部の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該初期情報で書かれている情報は、直接目撃したり、あるいは噂等で聞き及んだりしたものとして、アクション上での取り扱いに制限は設けないものとする。
 なお十勝平野では余震が続いているので部隊展開への支障を考慮する事。
 また襟裳岬、十勝岳、旭岳、神居古潭に加えて旭川駐屯地では、強制的に憑魔の侵蝕率が上昇する事もあり、さらに死亡率も高いので注意されたし。

※註1:現実世界においては、2001年に国土交通省へと統合再編されている。

※註2:但し樹木がある為、カムイシュ島は農林水産省の管理下に置かれているらしい。


Back