同人PBM『隔離戦区・獣心神都』第2回 〜 北海道東部:南亜米利加


SA2『 皮を剥かれた我らが主 』

 たどたどしいものの、それでも一生懸命に吟じようと物語る。自然の神々の神話や英雄の伝説を、口伝えの言葉による豊かな表現で、語り伝える。コロポックルという愛称で呼ばれるWAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)―― 小山内・幸恵[おさない・ゆきえ]二等陸士の声に、神州結界維持部隊北部方面隊・第2師団第9普通科連隊・第249班長の 稲生・香子(いなお・かこ)准陸尉が目を細めて、柔和な笑みを浮かべた。だが、すぐに眉間に皺を寄せる。
「――で、古川三曹は何をしておるのか?」
「んー。木を削っている」
 周囲の部下達が香子へと敬礼するのに、唯1人、第248班長の 古川・均[ふるかわ・ひとし]三等陸曹だけが作業の手を休める事がない。この礼儀知らずの痴れ者を今日こそは斬り捨ててしまおうかと香子は腰に提げた愛刀へと手を掛けたが、作業を見て思い止まった。乾燥させ、およそ70cmの長さに切り揃えられた枝。露わにされた木肌の表面を、古川は銃剣で端の方向に薄く削る事を繰り返していた。あたかも枝の先から木肌の削ったものが、沢山ぶら下がっているような形。
「――それは?」
「イナウとかいうものらしい。お前の名前に似ているな。カムイに捧げる、本州以南の日本神道で用いられている御幣……みたいなもの?」
「いや、僕に問い返されても」
 香子は呆れ顔。幸恵が詠っていたアイヌに伝わる叙事詩ユーカラを中断し、激しく頷いて見せた。
「……何でまた?」
「治療中隊の和華っちに頼まれてさ。作戦で使うんだと。どうせ神居岩に行くならば、持っていけばいいとも言われて。で、手隙の合間に削っているんだが」
「和華っち……。ああ、内藤三曹か」
「で、お前さん達の第249班も削らん? 和華っちの第9班も暇があれば削っているが、多くあるに越した事はないそうで。刃物の扱いは得意だろ」
「……僕を何だと思っておるのだ、古川三曹」
 第204中隊第3小隊を構成する班長として肩を並べている同僚であるが、一応、階級は上なのだけれどもな。毎度の事ながら、古川の図太さに怒りを通り越して、呆れてしまう。空いた席に座ると、
「……精神集中を養うにも良さそうだ。部下にもやるように勧めておこう。ところで、その内藤三曹は?」
「んー。色々と上申しに会議へ参加してくるって」

 神州結界維持部隊には暴論的なまでに実力主義がまかり通っているところがある。20年もの間、隔離封鎖された神州日本において培った経験と実績が、それを是とした。日本国の陸上自衛隊が根幹であり前身組織であるが、若くして将官や佐官に上り、連隊や中隊を率いる事が認められているのは、まさに其れ故だ。沼部・俊弘[ぬまべ・としひろ]陸将は陸自のエリート幹部出身であるが、それでも超常体との戦闘に明け暮れる神州において、頭脳労働向きの学者然とした容貌ながら師団長に納まっているのは、相応しい戦績を残しているからだ。
「――それでは現状の再確認といこうか」
 鼻に掛かった瓶底眼鏡の位置を補正しながら、沼部が発言する。幕僚幹部だけでなく、出席と発言を許された上申ある隊員達が情報を出し、意見を求め合った。
 旭川駐屯地に司令部のある第2師団は西にある神居古潭を封鎖し、また東南東にある大雪山連峰の旭岳に居座る最高位最上級超常体 ケツアルコアトル[――]の撃退を、主要な作戦に置いていた。第5師団司令部や北部方面総監部の要請に応えて、負傷者の受入れも考えられていたが、
「――先日のテスカトリポカ来襲より、ここも最前線となりました。警戒レベルを上げての、施設内での爆発物や重火器の使用も許可されています」
 黒いジャガーに変じた最高位最上級超常体 テスカトリポカ[――]の襲撃。テスカトリポカと直接相対した 柳沢・健吾(やなぎさわ・けんご)一等陸士が視線を巡らす。一同、首肯して柳沢に先を促した。
「再度の襲撃に備え、旭川駐屯地内外の幾つかのルートを強固に閉鎖。これは物理的な意味も含みます。それにより敵の侵入経路の選択肢を狭め、また開いたままのルートには罠を仕掛けたいと思います」
「――意見あり。要塞化させて、罠を張るのは基本的に同意するが、出入りするのは超常体だけではない。割り出したルートを閉鎖し、また残るものにも罠を張る事は現実的に不可能ではないか」
「肝心の部隊や人員、物資の出入りも出来なくなるぞ」
 旭川駐屯地の機能を丸ごと無視してしまえば、柳沢の案も完全な形で活かされるだろう。だが現実的ではない。超常体の侵入に好適なルート限定としても、テスカトリポカの異形系変身能力から言って、隊員に化けて通常のルートから侵入してこないとも限らないのだ。魔人には付近の超常体を察知する活性化があるが、侵入を防ぐには足りない。結局、活性化も事後的なものなのだ。
「……とはいえ、柳沢一士の提案を無碍にする訳にもいかないだろう。状況が許される範囲で、仕掛けを施し給え。なお罠の位置に関しては警衛に徹底させておくように。自爆は避けたい。その結果、敵に聞き出され、無効化されたとしても止む得ないものとする」
 沼部陸将の言葉に、柳和は敬礼をして着席。旭川駐屯地防衛案について詰められていく。
「次、神居古潭の区画封鎖について。大山二士」
 自分は場違いではないかと思うが、大山・恒路(おおやま・こうじ)二等陸士は声に呼ばれて起立した。集まるお偉いさんの視線に、いつになく緊張。趣味と実益が絡む爆弾弄りの方が余程気楽だ。今ならば鼻歌交じりでニトログリセリンの原液が入った瓶でジャグリングしても良い。それでも意を決すると、
「――北海道各地に出現した、魔王級超常体は目的を持って、そこに残留しています。奴等がその地にとどまる事が主神召喚の儀式を完遂するのに必要であるならば、その土地に何等かの意味、重要性が存在するはずです」
「……実際に、旭岳へと調査に向かった畠山一士や、十勝岳で交戦した第05特務小隊からも裏付ける報告が上がっている。――続けて」
「しかし、それを調査しようにも敵が陣取っているのでは探索のしようもありません。ですが、テスカトリポカにおいては別です。奴は特定の場所にとどまっては居ない為、場所を特定しての探索は難しいが、上手くいけば鬼の居ぬ間に家捜しを行える可能性もあります」
「柳沢一士の防衛案が功をなせば、少なくとも旭川駐屯地に釘付けは出来るな」
「はい。そして拠点はハッキリとしていないが、魔王級が存在する以上、神居古潭周辺に何かが存在することは確実であると思われます。敵の撃破を考えずに済むという事を考えると、現状最も手掛かりを集め易いのは神居古潭封鎖区画でしょう。十勝岳においては施設の再建を行っているように、こちらでも超常体が何らかの画策をしている可能性もあります」
 先程、第05特務小隊――零伍特務からの報告を伝えた情報幹部が頷いてくれた。
「畠山一士が報告に上げた敵の目的――トナティウの復活を阻止するという点でも、旭川防衛という点でも、封鎖区画内の調査に戦力を割く事は有用かつ重要です。従い、封鎖区画への進入許可および進入に伴って退路を確保する部隊の派遣を希望します」
 逆に一同を見回すと、
「防衛戦力が減少する事は考えられるが、敵の特性を鑑みると多数の部隊で駐屯地を固める事に大きな利点はなく、むしろ多数であるからこそ、そこから分けた人員をもって神居古潭の探索に当てるのが有効な手でしょう」
 意見を述べてから、再び敬礼。注目を受けて、大山の喉が渇く。意見に何事か思案していた沼部陸将の瓶底眼鏡が光ったように錯覚した。
「――了解した。留萌の第26や滝川の第10に通達。封鎖と警戒に当たっているものから、区画内調査に人員を割かせよう。だが旭川駐屯地の防衛は、元より普通科は第9の1個連隊しかない。生憎と、区画調査へとそれ程人員は割けんぞ?」
「1個班――いや、2個班から1個小隊もあれば」
 許可しようと認印を押された。
「次、旭岳だが――」
「ちょっと待って。テスカトリポカや神居古潭に関して、ぼくからも意見を」
 華奢な風貌をした少年――第2後方支援連隊・治療中隊第9班長の 内藤・和華(ないとう・わか)三等陸曹が慌てて挙手をした。黒髪黒瞳の童顔さも相俟って中性的な印象を周囲に与える。そんな内藤は物怖じもせずに意見を述べた。
「神居古潭から十勝岳・旭岳を繋ぐ龍脈の拠点――チノミシリである嵐山公園の死守は不可欠です。嵐山公園が陥落した場合、地形的に旭川の防衛は困難になってしまいますし」
「嵐山か……確かに封鎖の一環として配備しているが、先程も言った通り、駐屯地を直接防衛する戦力が厳しい。これ以上の人員は割けられないぞ。それとも……君が応援に向かうか?」
 口調は問い掛けだったが、有無を言わさぬ迫力が沼部陸将にはあった。内藤は音を立てて唾を飲み込むと、決意を眼差しに込めて、頷き返した。
「――解った。後衛として救護班も必要だろう。現在配備している部隊に協力し、嵐山を死守せよ」
 厳命に、内藤は敬礼で応えた。
「では旭岳だが……引き続き第02特務小隊を先遣させ、後続の名寄の第3、遠軽の第25が準備を整えるまでの繋ぎ役とする。展開状況は?」
「第3、第25普通科連隊。旧・旭川空港にて合流。配給を受領後に松山温泉地跡に移動予定です」
 宜しいと頷く、沼部陸将。ここで待ったを掛けるのは、先日に旭岳の調査に向かった 畠山・政五郎(はたけやま・まさごろう)一等陸士。挙手すると、
「現状の零弐特務の装備では、ケツァルコアトルの元に辿り着く前に、全滅しかねませんよぉ」
「……それが、何か問題があるかね?」
 だが沼部陸将だけでなく、他の者も不思議そうに聞き返してきた。
「忘れるな。第02特務小隊は懲罰部隊である。貴重な人員の消耗を避けるべく、だが事前偵察の必要性から先遣させているのだ。第3、第25普通科連隊に対する防寒具の配給も満足でないのに、懲罰部隊である第02特務小隊に現状以上の装備を回す余裕はない」
 にべもない。需品科幹部もまた視線を冷たくして、
「……それとも畠山一士が第02特務小隊の分について手配をしてくれるというのならば、話は別だが」

*        *        *

 隙間風が入らないように、艶消しのブラックテープで目張りする。先日まで巣食っていた小型の超常体を掃討し、第05特務小隊――零伍特務と第5i教練班は廃屋然とした施設――十勝岳温泉地を拠点とした。
「――上富良野に泊めてくれても良いのにな」
「俺達はお尋ね者だからな。懲罰部隊を間借りさせたいところは、そうないさ。ましてや上富良野は第2師団の勢いが強いし。第5師団長直属のうちでは肩身が狭いよ」
「それでも温泉があるだけマシだ。――掃除が終わったぞ。手の空いた奴から交代で入浴しろ。湯冷めしないようにな」
「……の奴は厳重に見張っておけ。あいつの罪状は痴漢と覗き、そして婦女子暴行未遂じゃなかったか?」
「昔の話じゃ! ここに来て真人間になったわい!」
 大休止中の零伍特務の荒くれ共がしている雑談を耳にして、第5i教練班の 山之尾・流(やまのお・ながれ)二等陸士達は首を捻った。
「……どうした、坊主共? 不思議そうな顔をして」
「いや、実際、半月ぐらいとはいえ、一緒に過ごして思ったんだが……零伍特務は気の好い人達ばかりだから懲罰部隊と言われてもピンと来なくて……」
 山之尾の言葉に、零伍特務の大人は照れ笑いを浮かべた。頭を掻くと、
「――まぁ。うちは良い方だな。とはいえ、構成している連中が、元々人が好いという意味じゃない」
「直接率いてくれる隊長や、ボス――師団長の性格によって、懲罰部隊といっても様々な顔や特色を持つ。元は同じような重犯罪者の集まりにしか過ぎなかったのがな」
「……話に聞くと、零肆特務は第4師団長の立花陸将がどうしようもない程の馬鹿だから、隊長も暴力自慢で部隊環境は最悪らしい。性質の悪いヤクザやチンピラの集まりだと」
「ところが同じ西部方面隊でも零捌とか壱肆は好戦的な部隊に仕上がっているが、統制は取れているとか」
「師団長よりも隊長の実力だな。ちなみに零捌と壱肆の隊長は一卵性双生児とか聞いた事あるぜ。……あれ、第11師団にも似たような奴がいるって話もあったな? じゃあ三つ子か?」
「壱伍は昔ながらのバンカラ風って話だぜ」
 口火を切った途端、他の懲罰部隊の噂が飛び交う。そして最後には誰もが自分の部隊――零伍特務について、こう言うのだ。俺達はここで良かった、と。
「……坊主達、前にも言っただろう? 俺達が今いるのは隊長のお蔭だ。隊長が“許し”てくれたからだ」
「――隊長は、聖女であって聖女ではない。娼婦でもあって娼婦でもない。妖艶だが淫乱ではない。穢れてもいるが故に、許しを知る慈母でもある」
 一斉に頷く零伍特務の一同。その背に、美しいが何処か陰のある声が掛かった。
「――私がどうかしたかしら?」
「たっ、隊長!? いつ、上富良野からお帰りで?」
 零伍特務隊長の 寺岡・久菜[てらおか・ひさな]准陸尉は、声だけでなく雰囲気や容貌もまた陰のある美女だ。久菜を前にして荒くれ者共は一斉に母親を前にした悪戯好きの児童のような顔をした。
「物資や弾薬の補給を受けてすぐに帰ってきたら、この騒ぎ。BUDDYの分解洗浄は終わっているのかしら?」
「イエス・マム!」
「……そう。ならば自由時間に。ゆっくりと身体を休めなさい。明日からまた忙しくなりますからね」
 蜂の子を散らすように逃げようとする零伍特務隊員達。だが久菜は呼び止めると、手榴弾を並べた。
「必要になるかも知れないと思ったから、“すすきの”の女王に話を通して手配してもらったわ」
「焼夷手榴弾に、閃光手榴弾に……何ですか、この小型酸素ボンベみたいなのは?」
 覗き込んだ山之尾が尋ねると、
「――液体窒素。ウェウェテオトルの御老体には有効でしょう。使い方に意見があれば提案しなさいね」
「手榴弾もいいですが、うちらもMINIMI辺りの重火器が欲しいところです。手持ちの純粋な火力だと坊主達に負けるんですぜ、うちの小隊?」
 零伍特務隊員の意見に、久菜は困った顔すると、
「分隊支援火器になると半月ぐらい掛かりますわよ」
 ならば仕方ないやと今度こそ散っていく零伍特務隊員。久菜は山之尾達に振り向くと、銃器ケースを取り出した。中に納まっているのは、H&K XM8小銃。米軍の次期制式アサルトライフルとして開発され、今年に発表されたばかりの最新型である(※註1)。G36アサルトライフルを基本設計に、強化プラスチック等の新素材を多用。人間工学的にデザインされており、使用者の身体に丁度良くフィットして自然な姿勢で射撃出来る為、反動を軽減して命中精度を向上させている、非常に革新的で優秀な代物だ。
「……御注文の品ですよ。“すすきの”の女王が一緒に武器科の“あしながおねぇさま”に話を通してくれていたみたいね」
「――感謝します」
 受け取って手に馴染むように構えてみせる。その山之尾の様子を見ていた久菜は、
「先日の戦いで教練班を指導していた陸曹長は亡くなり、当てがないのかも知れませんが……私達――懲罰部隊と行動を共にしなくても宜しいのに。何度も言いますが、貴方達は私達のような罪人とは違います。菅家陸将には口添えをして上げますから、別の戦地に出向して教練しなさい。……尤も十勝平野は“緑の貴婦人”により壊滅は必至だそうですが」
 本気で心配してくれている口調はありがたい。だが、
「確かに零伍特務は懲罰部隊ですが、俺達、教練部隊よりは立場と……そして何よりも実力は強い。だから零伍特務の方針を優先して協力する方向で活動するのに変わりないさ」
 意識的に強振ったつもりはないが、久菜からはどう見られたのだろうか? 内心で山之尾は緊張していたが、久菜は微笑み返すと、握手を差し出してきてくれたのだった。

*        *        *

 地震の続く十勝平野。絶え間のない揺れは、徐々に震度を大きくして移動するのも用心を重ねなければならない始末。卓上の物にはテープ等で補強しているが、天井が落ちてきたら無意味になるかも知れないと、第5師団第5後方支援連隊・救急飛行小隊長の 白岩・礼手(しろいわ・れいて)准陸尉は漠然と思った。
「……本州への傷病者の移送か」
 難しい顔をして、礼手が提出した作戦書に目を通しているのは第5師団長の 菅家・輝生[すがや・てるお]陸将である。帯広駐屯地にある第5師団司令部の執務室。地震の影響で壁にも亀裂が走っているが、菅家陸将をはじめ、スタッフはギリギリまで帯広駐屯地を放棄しないつもりのようだ。
「はい。――発生した損害を鑑みて、救助と平行し、収容出来ない患者を本州側の医療施設に搬送していただけないかと」
 礼手の言葉に、菅家陸将は顔を上げると、
「――正直に言うと、難しいな。……まぁ、待て。睨み付けてくれるな」
「……私、怖い顔をしていましたか?」
 菅家陸将の表情に、思わず礼手は頬を撫でる。
「一瞬だがな。――神州各地で超常体の動きが活発化しているのは耳にしているはずだ。やれ組織的に動いているだとか、やれ魔王が現れただとか、やれ……駐屯地が壊滅したとか」
 襟裳分屯地のような悲劇はここだけではないという話だ。つまり、
「どこの医療施設も、外部から傷病者を受け入れる余裕はないだろう。鳥取に重傷者でも受け入れてくれる天才外科医がいるらしいが……随分と遠いしな」
「では、見殺しにしなさいと?」
 収容出来なかったり、処置が間に合わなかったりすれば、それは見殺しに他ならない。助けられるはずの命も失わせてしまうのであれば、何の為の救急飛行小隊か。礼手の詰問に対して、菅家陸将は諸手を挙げての降参ポーズ。
「――傷病者の搬送はするさ。帯広からの撤退指示は出している。酒山総監をはじめ各師団長やそれぞれの駐屯地にも窮状は伝えている。それで勘弁してくれ」
 いざという時、第5師団司令部を釧路に移す準備もしているらしい。
「近場は鹿追だが、十勝岳の対策もあるしな」
「……解かりました。では、宜しければ更なる警戒用の人員の手配もしていただければ」
「無茶言うな。十勝岳への応援の人員も確保出来ていないというのに……。やはり先日の襟裳奪回作戦の失敗は痛かったな……」
 苦虫を潰して煮え湯で飲み下したような表情を浮かべる菅家陸将に、さすがに気の毒に思えてきた。礼手は敬礼をすると、祈りの言葉を告げる。
「――全ては神の名の下に」
「俺だったら神様ぶん殴るところだけどな」
 気持ちは解らないでもない。菅家陸将の吐露に、礼手もまた複雑な表情を浮かべてしまった。

*        *        *

 第7師団第73戦車連隊シンボルマーク「勝兜」の隣には「仰天」のパーソナルマーク。轟音を響かせて90式戦車が意気揚揚と姿を現すと、出迎えた別海駐屯地の第5偵察隊や業務隊が歓声を上げた。その威容さから勢いは急に止まれない印象がある戦車だが、実は制動能力は高く、小回りが利く。尤も配備当初は不用意に制動を行った際に、上半身を車外に出していた車長が胸部を打撲した事もあり「殺人ブレーキ」等と呼ばれていた。
「――まぁ、太めの由加里ならば脂肪が衝撃を吸収してくれますよね」
「太ってないもん! 太ってないわよ!」
 部下にして友人たる操縦手の 鈴木・まゆみ[すずき・―]一等陸士の呟きに、朗らかに駐屯地への皆に手を振っていた車長――第5中隊第9組長の 国木田・由加里(くにきだ・ゆかり)三等陸曹が頬を膨らませて抗議した。だが何か合点が行った様子で笑うと、
「この前の身体測定でアタシの方が、胸囲が上だった事を気にしていたんだ。ふーん」
「胸囲が、バストの大きさではありませんわ」
 まゆみの眼鏡が静かに光った気がした。緊張が走る由加里とまゆみとの様子に、同じく部下にして友人たる砲手の 加藤・佳子[かとう・かこ]一等陸士は頬杖を付いて呆れ顔。
「……というか、あんなに不機嫌だったのに、掌を返したようにはしゃいじゃって」
 僻地である別海において90式戦車は確かに珍しく、注がれてくるのは羨望の眼差しだ。自他共に認める戦車好きの由加里にとって、我が子を誇る母の気持ちになるのは仕方ない。だが、ここに来るまで散々揉めたのも事実。以下、回想シーン……。
 …………。
 ……。
 地震が絶え間なく続く帯広。防衛警戒任務に、ついに焦れた由加里が騒ぎ出した。
「あたしにいい考えがある! 第5中隊第9組は大演習場に突撃! 仰天号、前へー!」
 千歳にある旧・北海道大演習場にて異形戦車が出現したという報告を耳にして、由加里が反応するのは当然だった。だが、
「……辞令来たよ。別海駐屯地に移動し速やかに為すべき事を為せ。――出現した恐竜の排除と、調査部隊の支援だってさ」
 佳子が水を注すと、由加里が固まった。
「……別海駐屯地? 大演習場の東辺りだっけ?」
「確かに東だけど帯広駐屯地よりちょっと東」
「地理的には根室半島のちょっと西と言った方が近いと思います」
 眼鏡を拭きながら、まゆみが補足する。
「――僻地じゃん! 僻地じゃん! ぜんぜん大演習場じゃないじゃん!」
 勿論、抵抗を始める由加里だったが、佳子もまゆみも知らぬ振り。地図を開いて、
「川湯温泉かー、楽しみだなー」
「――おなかいたいから大演習場いってくる。キミたちも一緒に行こうよー!」
「……トイレに誘うみたいに言わないでください。別海駐屯地に向けて出発します」
「まゆみひどい! 佳子ひどい! アタシ、何だか、どんどん大演習場から離れていくんだけど、これきっと気の所為じゃないよね。陰謀だよね。久保川師団長ひどい。酒山陸将ひどい」
 狭い空間の中で地団駄を踏む由加里。佳子とまゆみは顔を見合わせると、
「……間違いなく、厄介払いだよね」「ですね」
 頷き合うのだった……。
 …………。
 ……。
 回想シーン終了。それが周りからチヤホヤされると打って変わって上機嫌になるのだから、それはもう呆れ果てるのは無理もない。
「と、とにかくっ! 怪獣ならともかく恐竜程度、仰天号の敵じゃないわ!」
「……でもさ、報告によると恐竜だけでなく首長竜や翼竜も出るらしいんだよね。空から来られたら、どうするの?」
「携SAM(Surface to Air Missile)があるじゃない? 空も飛べるわ!」
「由加里の病気の結晶ですね……」
 ただでさえ狭い車内に積んでいる91式携帯地対空誘導弾ハンドアロー。確かに使わない理由がない。
「まぁ、翼竜相手には、ストライクイーグルも来ているしね」
 佳子の呟きに、ライバル出現とばかりに由加里の目が光った。

 別海駐屯地の特徴は僻地にあるというだけではなく、旧・空自の計根別飛行場と一体化している事も挙げられている。尤も隔離前は、航空機や回転翼機等の実働部隊は配備されておらず、飽くまで有事に備えた代替滑走路として運用されていた。隔離後は陸のみならず空輸の必要性から、ある程度の整備と施設向上がなされているが、それでも第2航空団第201飛行隊・第2013組長の 山田・映姫(やまだ・えいき)准空尉が率いる戦闘爆撃機F-15Eストライクイーグルは注目の的だ。
「――ここ一ヶ月の間に、別海も随分と騒がしくなったものだ。隔離前ならば町興しにでも使われていただろうに」
 駐屯地司令を兼ねる第5偵察隊長が苦笑すると、映姫もまた困った顔をして、
「相手が人肉食で無ければの話ですけれども」
「……今のところ、直接の被害は受けていないがな。しかし被害を受けてからでは遅過ぎるか」
「はい。驚異度が高いと判断しました。高射特科や高射隊と協力して対応したいと思いますが……」
 だが第5偵察隊長は頭を掻くと、
「残念だが、出向してきたのは君の隊だけだな。恐竜相手には第7師団から物好きな戦車が1輌だけだ。残る強火力は、美幌の第101特科大隊のサンダーボルトぐらいか」
「……大丈夫なんでしょうか」
「知らん。だが上がここに戦略的価値を見出していないのは今に始まった事ではないしな。UMA(Unidentified Mysterious Animal:謎の未確認動物)騒ぎが無ければ、今頃、総出で帯広の救援に向かっていたさ」

 ――空と陸の大物の到来に外が賑わっていると同じ頃、資料閲覧室では恐竜・首長竜・翼竜の正体に関して、第5後方支援連隊・治療中隊第2班乙組長、森・緑(もり・みどり)二等陸曹達が意見を交換し合っていた。
「……駄目だな。他所――十勝岳、旭岳、襟裳岬、神居古潭、等で起きている現象と、湖で発生している霧や恐竜発生に、関連性らしきものは見当たらない。暦石等のアステカ系伝承の資料・知識と、各地の状況や位置関係も考えたが、万事全てが神州世界対応論と結び付くとは限らない……か」
  地之宮・続(ちのみや・つづく)二等陸士の苛立ちに、資料を集めてきた第11後方支援連隊補給隊より派遣されてきた隊員が申し訳なさそうな顔をした。とはいえ、表向きの姿。北部方面調査隊に所属する諜報員だ。神話伝承に詳しい人を紹介してくれという地之宮の希望により、遠く札幌から派遣されてきたらしい。
「まあ、南米にいるUMAだと幾つか居ますけれども。対策をし切れませんので……」
 緑は撮影した首長竜のような超常体の写真を眺める。
「アタシは首長竜に、ポイントを絞ってみたりしました。――神話伝承の生物になぞらえて来た超常体に、首長竜という存在に違和感を覚えた事。別の神性になぞらえているにしても、本能に従っているとしか思えない行動に興味がありますね。この行動を探る事で、他の地域の超常体との関連を探りたかったのですが」
「しかし十勝平野や大雪山、神居古潭と連動している気配はなし。――三曹殿から御意見は?」
 頭を捻り続ける緑から視線を移し、地之宮は第25普通科連隊・第274班長の 縣・氷魚(あがた・ひうお)三等陸曹を見遣る。縣は泥水のような珈琲に口を付けて顔をしかめながら、
「生憎と僕も恐竜型超常体が、神話に当てはめると何なのか決めかねているところです。ショチトナル、ネシュテペワ等に当てはめると、導き出されるのは冥府の女神ミクトランシワトル? アステカ以前の神話ではトラロックが水と霧に絡んでいるようですが、恐竜は解釈出来ませんし」
 どちらにせよ、と室内を見渡すと、
「……攻撃してきた以上、敵である事は間違い無く。ならば恐竜型超常体を殲滅した後に、その背後の高位超常体が現れるものと仮定し、今回はやむなく戦闘に専念すべきかも知れません」
 珈琲カップを置くと、大仰に肩をすくめて見せた。
「それと思うのですが、各地で出現や活動が報告されています他の神群と違い、アステカの神は『滅び』が前提で行動しているようなので、話し合いや共闘の余地は無いような気もしますね」
「それでも敵の正体や特性等が判れば、最終目標が『滅び』だとしても、動きが予測されえるはずだ。二曹殿の言葉ではないが、ここまで本能的だと……」
「実は、神様じゃないのかも知れませんね」
 緑の発言は、地之宮に沈黙をもたらした。資料を見直して改めて熟考する。
「……アタシ、何か不味い事を言いました?」
「いや。各地で急激に勃発してきた超常体騒ぎの全てに何らかの企みがあると考えてきましたが……確かに視野狭窄に陥る羽目にもなりますね」
 縣も顎に手をやり、資料に手を伸ばす。
「……しかし翼竜ですか」
「白亜紀の北米では翼開長は12mにも及び、目下空を飛んだ最大級の動物とされていケツァルコアトルス。名前はアステカの神ケツァルコアトルに由来します」
「羽毛ある蛇ですか」
「……羽毛といえば、現在では一部の恐竜――獣脚類が一定の恒温性を獲得していた事はほぼ間違いないらしいです。羽毛を持った恐竜のグループもいたらしく、鳥類の先祖は、このグループの一種である事は、最早定説です」
 UMAの知識を語るには、絶滅した生物についても良く知る必要がある。緑の薀蓄に、男達は成る程と納得。頭を柔らかくする為にも話に乗ってみる気に。
「もしも恐竜土偶が本物だとして、古代人が恐竜を目撃していたとしよう。羽毛に包まれた恐竜はどんな風に目に映っただろうか?」
「そうですね……まさしくケツァルコアトルのように神として映ったかも知れません。そしてケツァルコアトルが信奉されています、マヤ・アステカ圏内が開かれたのは近世になってからです。中南米にUMAの存在が多くいるという事は、恐竜の子孫が本当に目撃されて神格化されたとも考えられます」
 加えて言うなれば。縣は口を滑らすと、
「――ユングの集合的無意識論ではありませんが、民族や人類に共通する古態的な元型は存在しえます。例えば、古今東西に洪水伝説や、巨人ないし怪鳥の存在がありますが、氷河期の終わりや恐竜や翼竜の目撃があったのかも知れませんね」
「巨人? アステカ神話にも巨人が?」
「アステカよりも、マヤ神話に。怪鳥の姿をした巨人と、その子供2人が、双子の英雄神に退治されるという伝説、が……」
 何かが閃くのを感じると、一同は顔を見合わせるのだった。

*        *        *

 貫流している石狩川が貫流し、支流の美瑛川、忠別川、牛朱別川が分かれている旭川を内藤は見下ろした。
「――旭川が川の街、橋の街とも呼ばれる由縁だね」
 旭川市中心部から西方約5kmの山岳丘陵地――嵐山公園。京都の嵐山に似ている事が名の由来だが、実際に西京(京都)に対する北京を置くという構想が明治時代にあったらしい。嵐山展望台から1.5km程、尾根伝いに歩くと辿り着く、近文山の頂には国見の碑が建立されていたという。
「そして地政学上だけでなくオカルト的にも重要拠点という事ですか」
 部下の少年の言葉に、内藤はやや笑って頷く。
「――嵐山の一帯はチノミシリ……聖なる地として崇め、神送りの場として利用していたと聞いているよ」
 アイヌの子孫である内藤は、両親から聞き覚え、また自ら学んだ知識を思い浮かべる。1899年に施行された北海道旧土人保護法による日本民族(※和人。シサム・シャモ。本州島の弥生系人種)への同化政策で文化の破壊は進んでいたが、1970年代から伝統文化復興運動が高まり、ついには1997年にアイヌ文化振興法が成立された。だが超常体の出現に伴う隔離政策により、アイヌ文化復興運動も下火になり、また伝える人や記録も初期の戦渦で失われてしまった。ちなみに幸恵もまた子孫の1人(※正確には和人との混血)であるらしいが、正確な知識は受け継いでいないそうだ。
 さておき、旭川……というより近文は北海道を代表するアイヌ部落だった。近文(ちかぶみ)は音訳。本来の語は「チカプニ」で、意味は「鳥いる所」。鹿をも簡単に掴んで飛ぶ事が出来た巨鳥が石狩川沿いの崖にいたという伝承に由来するらしい。そして隔離前に観光用も兼ねた博物館「アイヌ文化の森・伝承コタン」の一部として復元された住居が、今なお超常体による戦禍を免れて、形を留めていた。
「……しかし厳重に警戒されている、この地に敵が出没するでしょうか?」
「重要性は高いんだけれどもね」
「神居古潭の区画封鎖もあり、余程の事がなければ突破はありえないかと」
「でもテスカトリポカは旭川に出没したよ。テスカトリポカは死体に憑魔を寄生させて、ヨワルテポストリという超常体を作り出す。宣戦布告がなされた以上、用心に越した事はないって」
 内藤の言葉に気を引き締める第9班員達。慣れない手付きながらも89式5.56mm小銃BUDDYの準備を忘れない。衛生班とはいえ、いざという時、自分の身を護るだけでなく、仲間を支援する必要もあるのだ。そうしていると嵐山公園の警備を任せられている部隊の1つ、第9普通科連隊・第204中隊第3小隊長(准陸尉)が定時連絡に顔を出してきた。敬礼する内藤に、
「……うちの古川と稲生からの預かり物だ」
 返礼代わりにイナウを手渡してくる。恐縮しながらも受け取る。
「お二人には助かったと伝えて下さい。……神居古潭に突入していったと聞いているけど」
「御蔭様で、こちらの戦力が心許無い。いれば傍迷惑な連中だが、いなければ不安になるな」
 苦笑いする准尉。内藤も釣られて笑うと、
「では2班の無事を、ぼくからも祈っておくね」
 頼むぞと背中越しに手を振って去っていく准尉。自分達の班でも用意した物を合わせると、充分すぎる程のイナウが揃った。
「これで……出来ればカムイ復活のヒントでも得られればいいけれども」
 上川アイヌの酋長・クーチンコロを讃える顕彰碑を掃き清め、内藤はイナウを捧げると、カムイの加護を祈った。――途端、憑魔核が熱を発し、活性化に似た痛みと痺れが全身を貫く。脳裏に声が響いた。
【……アペにて岩を清め、力を注げ】
 ――そして巨大なシマフクロウが岩に翼をはさまれて動けない幻視。立眩みを覚えた内藤だったが、眉間に皺を寄せると、
「……アペ。火? そして力を注げ……って」
 どういう意味か。唇を噛み締めるのだった。

*        *        *

 ――憑魔活性化では近距離(25m)内の“存在”を感知する事しか出来ない。その方角、距離、数、強さが探知出来るのは操氣系の半身異化だけ。しかも有効距離は半径200mという段違いの索敵能力を有する。
「……どうやらぁ、いらっしゃったようですねぇ」
 のんびりした声の調子はいつも通りであるが、額に滲み出る汗は大粒だ。精神を集中させて氣を張り巡らしていた畠山が衝撃に息を呑む。それは釣りで大物を引き当てた感覚に似ているという操氣系魔人もいる。獲物が大きければ竿を引く力も強い。そして、探知はアクティブソナーと同じだ。相手を探ると同時に、こちらの存在も声高に叫ぶ。相手が操氣系であれば居場所を報せる事にもなる諸刃の剣。
 それでも畠山は放送設備の送信機を手にすると、
「……やれやれ、ケツァルコアトルさんの仰った通りですねぇ――御兄弟はこのように仰ってましたよぉ」
 いつでも飛び掛かってきてもおかしくない猛獣を前にして裸1つで語るようなものだ。だが、その緊張を声や面に出さずに畠山は続ける。
「――『テスカポリトカさんは、戦う事しか語り合うすべを持たない愚か者だ』と。いやいやケツァルコアトルさんからは、確かに王者の風格を感じましたが、それにひきかえ、あなたときたら……」
 だが、畠山の言葉に対して
【――随分と安い挑発。誇り高き戦士というよりも、むしろ小賢しい猿といったところだな】
 氣を逆に探知しての、テスカトリポカのする返礼は嘲笑。そして――
【だが不遜な態度に気分を害したのは事実。己が浅はかさを後悔するがよい!】
「――っっっっっ!!!!!」
 旭川駐屯地を強大な氣が襲った。テスカトリポカの放った強制憑魔侵蝕現象。その強大さは駐屯地を覆い尽くして、警戒待機していた魔人を一気に激痛によって沈黙させるに充分。嘔吐感が込み上げて来るが、柳沢はそれでも遠のきそうになる意識が辛うじて繋がっている内に、ボタンを押した。
 直後、駐屯地全域を揺るがす衝撃が走る! 爆音と爆風はそのまま凶器となって荒れ狂い、建物の一部が吹き飛んだ。爆発と同時に痛みが和らいだものの、叩き起こされた憑魔は柳沢や、畠山の身体が律動を止めない。心臓の動機は異常に速まり、吹き上がりそうな勢いで血が流れる。高揚した意識が破壊衝動を欲しようとするのを柳沢は壁に拳を打ち付ける事で落ち着かせようとするが、まだ鎮まらない。畠山が暖かな手で触れてくれた事でようやく落ち着いた。
「……ありがとうございます」
「――いいえぇ。しかしぃ、やられました」
 目を細めて畠山は飛び込んでくる惨状に心を痛める。完全侵蝕された魔人が暴走しているという報告に、沼部陸将は速やかなる射殺の許可を出した。
「……だが元凶のテスカトリポカはやったはず」
 だが畠山は唇を噛んだ。床に落ちた黒縁眼鏡を拾って掛け直すと、
「だと良かったのですがぁ……」
「――? しかし爆破地点の威力が想定以上です。それと鎮火作業は? ……まさかっ!」
 畠山の沈黙を察して、柳沢が唸る。慌てて仕掛けを施していた通路へと駆け出した。近付くにつれて底冷えする凍気が肌を刺す。
「……確かにテペヨロトルの身では、細胞全てを焼却する程の猛火には耐えられん」
 異形系といえども再生には活力を使う。物損には強くても火傷等による組織変質の蘇生は手間だろう。爆発物による損傷で再生に力を割かせ、続く銃撃で追い討ちを掛けて、手榴弾で止めを差す。……それが柳沢のプラン。――だが破壊された通路跡にて威風堂々に待ち受けているのは、黒き肌に、だが顔には黄色の横縞が引かれている、強靭な壮年男性の姿。
「……ですがぁ、テスカトリポカが持つ、別の側面としての名はイツラコリウキ」
 重武装の警衛と共に、追い付いた畠山が喉の奥から吐き出すように言葉を紡ぐ。ケツァルコアトル――トラウィスカルパンテクトリと共に明け方を支配するモノ、イツラコリウキ。ナワトル語で「すべてを寒さにより曲げる者」あるいは「植物殺しの霜」の意。
「……という事は水蒸気爆発ですか、あの威力は!」
 黒きジャガー(テペヨロトル)から元に戻り、イツラコリウキの氷水系能力を行使して、相殺。爆炎の直撃から身――つまりは核さえ護り抜けば、水蒸気爆発で肉片として散らばっても異形系の力で復活を遂げる。
「とはいえ、仕掛けられていた火薬の臭いを嗅ぎ取れず、また力の行使どころを少しでも間違い、そして遅れていれば、危うく死滅するところであった。流石は我の認める戦士達よ。小賢しい猿の挑発もあったが、それもまた戦士の計略として認め直そう」
「――戦士と認めて頂けるなんて光栄です。出来ればついでに御教授願いませんか? 今の“太陽”は誰ですか? そして戦士を集め、戦う相手は?」
「我等の伝承を紐解けば判ると思ったが? 今の“太陽”はトナティウに相違ない。そして勘違いがあるが、戦士は“太陽”の活力の源として捧げる贄よ。ケツァルコアトルとショロトルは最後まで、贄を捧げる事に反対していたがな」
「アステカではぁ『太陽の不滅』を願って人間の新鮮な心臓を捧げていましたぁ。捧げられる事は社会的にも名誉な行為とされており、時には勝者が捧げられる事もあったそうですぅ。また戦争捕虜が……」
 柳沢は、テスカトリポカが以前に襲撃してきた時の言葉を思い出す。――強き戦士達の姿を見付けたり。次の時代、新たなる太陽に捧げし、良き供物になろう。
「……つまり、私はトナティウに、いや、次の世界の“太陽”に捧げられる名誉ある贄として認められている――という事ですか!」
 テスカトリポカと喋る間にも柳沢と畠山、警衛は銃撃の雨を浴びせていく。だが蚊程にも感じないのか、テスカトリポカは受けるに任せていた。
「――再生力は枯渇しないのですか! 肉片までバラバラにされながら!」
「勿論、無限ではないし、腹が減る。だから……」
 瞬時に動いた。BUDDYを構えていた警衛の懐に飛び込むと――身体が口のように裂けた。牙が現れて、警衛を“食べ”た。悲鳴すらも残さず丸呑みして、吸収する。舌なめずりをするテスカトリポカ。
「……トナティウに捧げるだけなのは勿体無い。我自身も力を付ける必要がある」
 うそぶくテスカトリポカに、柳沢は流れるような動きで肉薄。テスカトリポカの俊敏な動きに合わせられずとも、巧みに手刀を繰り出す。耳に嵌めた受信機から囁く畠山の誘導に従って、針と化して指先がテスカトリポカに突き刺した。
「――殺った!」
 致命毒を生成して注入する。だがテスカトリポカは唇の端を歪めると、
「我と同じく異形の力を有するのに、中和が出来ないとは思わなかったのか?」
 言葉の意味を理解して驚愕する間もなく、悲鳴と恐怖が柳沢の心より湧き上がった。テスカトリポカに突き刺さった指先から腕が埋没していく――“食われ”ていく!
「……異形の力を有するモノを殺す方法は幾つかある。主だったものは細胞1つも残さず、焼却する。核を見付け出して狙い撃つ。或いは……より強い力で“食らい”尽くして、吸収する――尤も人間の脆弱な心身では適わぬ手段であるがな!」
 肩まで飲み込まれ掛けた時、咄嗟に柳沢は腕を切り落とした。そして残った、もう片方の手でM16A1閃光手榴弾のピンを器用に抜く。放り投げると同時に大きく後ろへと跳躍。荒い息を吐きながらも身構えた。
「……呼吸器官の阻害という手段は?」
「生憎と無酸素状態でもぉ、長時間動ける生物を知っていますぅ。異形系って本当に厄介ですねぇ」
 最早、打つ手無しか。正直、見通しが甘かった。
 ――神性は夜の空、夜の翼、北の方角、大地、黒曜石、敵意、不和、支配、予言、誘惑、魔術、美、戦争といった幅広い概念に結びつき、アステカ部族神であり最高神であったウィツロポチトリや、マヤ王家守護神たるボロン・ザガブとの類似点が指摘される。マヤの太陽神キニチ・アハウは夜にジャガーへと変ずるという。テスカトリポカがアステカの神々の中で最大の力を持つと謳われているのは間違いない。
 駐屯地のあちこちで完全侵蝕された魔人、特に異形系はオセロメー(※ジャガー人)となって暴走している騒ぎが起こっている。怒号や悲鳴が飛び交い、銃撃音が饗宴を彩る。人間にとっては絶望の、だがテスカトリポカにとっては歓喜の宴。しかし……突然、テスカトリポカの顔が不機嫌に歪んだ。大きく舌打ち。
「――神居岩に辿り着いた戦士がいるか。封じた神は我には脅威にならずとも、解放されては厄介だ」
 嘆息するとテスカトリポカは黒い粘液状に変形すると、またもや暗がりに溶け込むように隙間から消えていった。
【……まぁいい。護るよりは攻める方が愉快よ。取り返されたならば、また奪うだけ。楽しみだ!】
 哄笑だけが残った。……旭川駐屯地、半壊。完全侵蝕された魔人の大半は銃殺されたものの、生き残ったものの行方は不明である――。

*        *        *

 ――時は前後する。神居古潭周辺の封鎖区画。古川率いる第248班と香子が率いる第249班は、神居古潭駅舎跡を目指していた。西側――深川で警戒していた第26や第10普通科連隊からの選抜チームを出迎える為にも、神居古潭駅舎跡へと強行偵察を敢行していた。可能な場合は露払いをし、再確保するのが望ましい。
「――第2143班が旧・神居支所前にてオセロメーと遭遇、交戦を開始したそうです」
「……挟撃という形になったな」
 隊用携帯無線機を背負った第248班員からの報告に、香子が唸ってみせた。
「まぁ先日の突入の際に撃ち漏らしていたオセロメーは少なくなかったという事だろう?」
「オレが仕掛けた際に、僅かな火薬の臭いを嗅ぎ付けたんだな。やるな、豹の癖に!」
「……ジャガーだっつーの」
 大山の感嘆に対して、お約束のツッコミ。さておき幸恵が背負っている雑嚢からイナウを引き抜くと、大山は見詰めた。香子が解説する。
「内藤三曹が協力の礼代わりにと、幾つか分けてくれた。どこぞの痴れ者とは違い、礼儀を知る御仁だ」
「いやー照れるぜ」
「……本当に斬り捨ててくれようか?」
「稲尾准尉、殿中でござる! 堪忍を!」
 敵地に突入する緊張も緩みがちな、いつものじゃれあい。しかし大山はノリに合わせる事なく、
「……封ぜられていたのはテスカトリポカではなかったんだな」
「……アフロが真面目な顔をしている。絵的には笑えるが、ここは真剣に話を聞いた方が良いだろうか?」
「僕に問い質すべき事か? というか、そのような考えを持つならば、最初から口に出すな」
「……本当に仲が良いね、お二人さん」
 大山の呆れた口調に、香子は即座に否定。
「――発言の撤回を求める!」
「落ち着け、稲尾准尉、殿中でござる! 堪忍を!」
 香子と古川の遣り取りを無視して、大山は独白じみた口調で、いぶかしむ幸恵へと、
「いや、そもそも封ぜられているという考えが間違いだったんだろうな。神居古潭とは神の居る場所であって、封じられているとは限らなかった。オカルト説を信じると、アイヌの神がいる可能性が高い場所だと思う。――サマイクルだったかな?」
「ええ、道北道東を中心にして活躍した人文神だそうです。……すみません。詳しくは内藤三曹の方が御存知だと思います」
「ちょっと話を聞いてみりゃ良かったな。古川隊長達と違って、真面目そうだから話し掛け辛くて」
「――俺が真面目でないというのか!?」
「それよりも『達』とは何だ! 僕は、この痴れ者とは違うぞ!」
 一斉に上がる2人からの抗議に、大山と幸恵のみならず第248班員達は失笑。第249班員達も必至に込み上げて来る笑いを隠そうとする。
「……親近感が沸くという意味だったんだけどな。しかし、アイヌの神が日本人――和人に友好的かどうか判らないが……まぁ、そこら辺は後で考えよう」
 実に大山らしく結論付けた。替わって、香子が顎に手を遣り、考える仕草。
「伝承では、ニッネカムイが甌穴に足を取られたというのだな? 僕はそこに興味を抱くが……超常体に対して、何らかのトラップの効果があるとか」
「いや、ただの考え過ぎだろう?」
 甌穴は河底や河岸の岩石面上にできる円形の穴だ。河底や河岸の表面が硬い場合、表面に割れ目等の弱い部分があると水流による浸蝕の結果、窪みになる。この窪みの中に礫が入ると渦流によって回転――丸みを帯びた円形の穴へと拡大させる。穴の直径、深さとも数cmのものから数mのものまで様々であり、
「大きいものには人やら何やらが足を取られた事もあるだろうし、そういった自然現象への後付的解釈だな」
「……確かにそうかも知れぬが」
「しかし、古川サン。その答えはちょっと浪漫がないぜ。もっとソウルフルな回答を!」
「……お前等、俺を何だと――」
 香子が目配せすると、古川は頷いた。大山はM26A1破片手榴弾を取り出すと、ピンを抜いて放り投げる。放物線を描く途中でレバーが外れ、落下地点に爆発の衝撃と破片塊を撒き散らした。隠れ潜んでいたオセロメーが姿を現したところへ、香子の号令一下で第249班の斉射!
「射撃中心で当たれ! 接近させるな!」
 オセロメーは完全侵蝕された異形系魔人だ。魔人はどの系統であっても単体(戦車や戦闘機等も含める)において最強の戦力である。何故なら、彼等は(当たり前だが)人並みの知恵があり、知識があり、武装するからだ。
「……相手もBUDDYを持ち込んできたぞ」
「獣が小銃を構えるか。何とも不条理な」
 カバーする古川の呟きに、香子は悪態を吐く。だが武装して無くとも、魔人は身体そのものもまた凶器である。特に、憑魔能力。完全侵蝕された事によって使用の制限が外れたと考える事も出来る。
「――援護射撃の下、抜刀ないし着剣による白兵戦闘に移る! 突撃、僕に続け!」
 愛刀を構えると、部下2人を左右に連れて、香子は駆け出す。古川達が香子達を狙おうとするオセロメーへと制圧射撃で邪魔をする。舌なめずりをして大山がFN5.56mm機関銃MINIMIを脇に抱えた。
「――弾けろ、青春!」
 毎分1,000発の速度で放たれる5.56mmNATO弾。200発箱型弾倉では15秒も保たずに撃ち尽くすが、
「――援護感謝!」
 香子達が肉薄して躍り掛かるには充分。剣身には辰砂――硫化水銀が塗られて、朱に彩られていた。古来より、練丹術(外丹法)で水銀の精製に用いられてきただけでなく、顔料や漢方薬の原料として珍重されてきたもの。更には魔除けの効果もあると聞く。が――
「異形系の細胞蘇生を阻害出来ねではないか!」
「というか、真に受ける奴がいるか、おい!?」
 香子と古川の怒鳴り合い。だが、2人の目はそれぞれの敵を捉え続け、2人の手は戦いを休める事はない。オセロメーの鋭い爪が香子の身を裂くが、着込んでいた防刃インナーが肌を傷付ける事を許さなかった。
「――よし、いい調子だぜ、稲生サン!」
 大山の合図に、部下を散開させる。香子もまた転がるように身を退かせると、
「――喰らえ、ハチヨン!」
 敵の意識が香子達に集まっていた隙に、大山が担いだ84mm無反動砲カール・グスタフが火を噴いた。異形系といえども直撃を受ければ、ただではすまない。吹き飛んだ肉片を、再生する前にAN-M14焼夷手榴弾で焼き払う。
「……月末には、火炎放射器を申請しよう。こう、敵の主力が異形系ばかりだと後始末に便利だ」
 古川の呟きに、大山はシタリ顔で頷いた。
「――第2143班が敵を突破! もうすぐ合流します」
「「「遅いよ!」」」
 皆で突っ込み。だが肩の荷が軽くなったのは事実だ。第2143班と、続く選抜チームと合流を果たした後、中継地の確保を任せて、稲生達は神居岩へと向かう。道中のオセロメーも退かせながら、ついに目的地に辿り着いた。
「周囲の警戒と、いざという時の退路の確保は任された。調査を頼む」
 香子の言葉に、親指を立てての承諾の意を示すが、
「――で、どうすればいいんだ? 怪しい事、この上ないのは確かだぜ。アイヌのものか、中南米のものかは判らないが、何かがあるかも知れねぇ」
 アフロの髪に手を埋めるように、頭を掻く。
「……何も無ければ爆破しよう。何かあっても爆破しよう。そんな意気込みで、どうだろう?!」
「――待てぇぃっ!」
 喜び勇んでC4をセットしようとする大山に、流石に香子が慌てて止める。替わって神居岩に近付くのは幸恵。イナウを捧げてみせた。――途端、神居岩より何かが発せられた気がした。
「『……アペにて岩を清め、力を注げ』?」
 幸恵が呟く。我に帰った香子が頭を振りながら、
「小山内二士は、何かを視、そして聴いたのだな?」
「……岩に巨大な鳥が挟まれているような」
 幸恵の言葉に、大山は頷くと、
「やっぱり爆破した方が……」
 言葉の途中で、盛大な爆発音が轟いた。一同の責めるような視線が大山に集まるが、
「オレは未だ何もやってねぇー! ……って、駐屯地の方だぞ、何がどうなった!?」
 ……神居岩への対処は中断。旭川駐屯地に連絡を取り、状況把握に努める。
「――テスカトリポカの襲来で駐屯地が半壊。しかし俺達が神居岩を確保した事で、奴はこちらに向かってくる恐れが高いそうだ」
「ハハハ。腕が鳴るぜ!」
「……それと、もう1つ。悪い報せだ」
 続く香子の言葉に、一同は息を呑む。
「第3、第25の展開完了。命令が下り次第、旭岳への作戦行動を開始する。しかし時間稼ぎを行っていた先遣の零弐特務は壊滅したそうだ。帰還者は――ゼロ」

*        *        *

 否応無く、十勝岳の噴火の規模は大きく、頻度もまた多くなってきている。泥流や火山弾によって極めて困難になりつつあるが、それでも登山を敢行する。
「――分隊支援火器を要請する前に、航空機が必要になってきますわね」
 久菜の呟きに、零伍特務隊員達が苦笑する。山之尾が口を挟んだ。
「となると、ブラックホークやオスプレイは兎も角として、やはりチヌークが?」
「機体そのものは必要ねぇ。航空科に支援要請を通せるようになるだけでもだいぶ違う。それでも俺達、特務には見果てぬ話だ」
 山之尾の頭を撫でるように叩きながら、零伍特務隊員が笑う。
「……さて無駄口は、ここまで。隊長?」
「――敵超常体、高位上級の魔王/群神クラス2柱。他の雑魚はなし」
 頷くと意識を集中させて、探知の氣を張り巡らせる久菜。零伍特務隊員達は口笛を吹く。
「前は大魔王クラスじゃなかったですか?」
「下方修正しました。が、強敵なのは変わりません。各員、状況を開始しなさい!」
 久菜の激に、零伍特務隊員がBUDDYを構えて突入。久菜の氣が色を変えて、暖かなものに変わる。緊張で昂ぶっていた意識が良い具合にほぐされた感じに、山之尾は唇を舐めた。
「――来ます! 身構えて!」
 久菜の警告に、特に魔人が腰を落として奥歯を噛み締めた。次の瞬間、目標から発せられた強大な波動が襲い掛かってくる。だが久菜が前以って張り巡らしていた精神防壁と、覚悟していた事もあって、刺激された憑魔の暴走も我慢出来ない程ではない。そして第5i教練班はデビル・チルドレンの特性を最大限に活かしての先手を打つ。目標の施設跡出入り口へとFN7.62mm機関銃MK48 Mod0で制圧射撃。憑魔強制侵蝕を引き起こす波動に続いて炎の渦を吹き出そうとしていた老人―― ウェウェテオトル[――]を尻すぼみにさせた。
「……中々やりおるわ。では、これではどうじゃ?」
 ウェウェテオトルは呟くと、凝視。零伍特務隊員の1人が炎に包まれた。地面に転がって消火しようとするが勢いは強く、数秒後には炭化して黒い塊となった。仲間の死に、怒りに燃える零伍特務隊員達がウェウェテオトルへと集中させるが、
「――4時の方向に注意!」
 久菜の警告に、山之尾が真っ先に反応。H&K XM8で薙ぎ払うように連射。襲い掛かってこようとしたジャガー面の壮年―― トラロック[――]は被弾を避けるべく、大きく後ろへと跳躍せざるを得なかった。舌打ちの音が山之尾の耳に確かに届く。
「――周囲に張られた氣の網が厄介な。だがウェウェテオトルの言っていた通り、確かに覚えのある氣」
 トラロックは唸ると、次の瞬間には大地を蹴って大きく跳躍。防護の氣を張り続けて、無防備に近い久菜へと肉薄する。5指の先から噴出した水の刃が、鋭利な爪となって久菜の引き裂かんとする。しかし山之尾が許さない。身を捻ると、躊躇わずに発砲。再び舌打ちしたトラロックが咄嗟に水壁を張って直撃を防ぐ。肉を抉る6.8mm×43SPCにトラロックは呻き声を漏らすが、それでも水の爪は久菜の左肩を切り裂いていた。しかし久菜は苦痛の悲鳴を上げる事無く、間近のトラロックを睨み付けると、手品のように素早く抜いた9mm拳銃SIG SAUER P220で連射。回り込むように避けるトラロックへと更に氣を込めた回し蹴りを放つ。久菜の鋭い蹴りを、だがトラロックは危なげなく受け止めると、掴んだ脚を捻るようにして身体を地面へと叩き付けた。久菜もまた骨折せぬよう動きと力に沿って、巧みな体術で受身を取る。氣が衝撃を緩和したのか、すぐに立ち上がり、間合いを取った。
「――ようやく何者か判ったぞ」
 一方で零伍特務の攻撃をいなしていたウェウェテオトルが口を開いた。トラロックが沈黙のまま、だが視線で先を促す。久菜も腰を落としての構えを取ったまま沈黙。
「……だが本来はテスカトリポカに従いし汝が何故、ヒトの子等の味方をする! 答えよ、トラソルテオトル!」
 ウェウェテオトルの糾弾に、暫らく時が止まったように山之尾には感じられた。久菜は否定する事なく、
「……“寺岡久菜”の意識が、“トラソルテオトル”より優った――それだけです」
 久菜の言葉で、ようやく時が動いた。零伍特務は躊躇う事なく久菜の援護射撃。
「――坊主共、今は詮索は無しだ! 隊長を信じて戦え!」
「……いっ、言われなくとも!」
 山之尾がXM8を連射。第5i教練班の仲間も慌ててMk48 Mod0で支援する。だがトラロックは素早い動きと狙い済ました水芸、ウェウェテオトルは大雑把ながらも広範囲の火炎でものともしない。そして弾切れ。
「――リスクは高いけど、文句を言っても敵が消える訳ではないし、デビル・チルドレンとしての力を使いますかっ」
 ―― 憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行。
 山之尾をはじめとする第5i教練班員が憑魔能力を行使すべく半身異化。しかし山之尾も危惧していた通り、相生を利用して倒そうにも、力を重ねる時間が必要。時間を稼ぐべく零伍特務が援護射撃で牽制してくれるものの、
「――だが山之尾! どっちを先にやるんだ?!」
 悲鳴に似た仲間の声に、山之尾に悩みが生じた。現在、トラロックもウェウェテオトルも離れて動いているといってもよいだろう。まさしく好機。だが単体でも強く、逆に山之尾達は実戦不足だった。どちらか一方、敵戦力を削減させられれば良い――甘い考え。最初から狙いを定めて作戦を練るべきだった。そして、その一瞬の悩みがトラロックとウェウェテオトルを仕留めるべき絶好の機会を逃す事になる。
「……何を企んでいるかは知らぬが、易々とさせると思うか」
 吼えたトラロックは散水。だが一滴が小型の手榴弾の如く人体を貫く。氷水系に強い雷電系魔人が電撃を放つが、ウェウェテオトルの業火の壁が阻む。
「……互いにカバーに入られた」
 更にウェウェテオトルは炎の輪を作り上げると、
「――ナウイ・キアウィトルの終焉には未だ早いが、こやつらをシバルバーから呼び出すには充分よ。雑魚とはいえ、数が多いし、面倒になってきた」
 炎の輪より蝙蝠に似た超常体の群れが現れる。大きな牙と鋭い鉤爪、ナイフに似た鼻を持つ中型超常体の群れは、零伍特務隊員を瞬く間に切り裂いていく。
「カマソッソ! シバルバーと繋げたの!?」
「ミクトランの炉より噴き上がりし炎の柱シウテクトリは儂の別名じゃからな」
 ウェウェテオトルがうそぶいた。久菜は唇を噛み締める。戦力削減どころか、増強された敵陣営。悪化した状況に撤退を命じる。トラロックもまた傷を癒す必要があったのだろうか、追撃してこなかった……。

*        *        *

 十勝平野崩壊への組曲は止まる事を知らず、確実に来る終章を迎えようとしている。地震の頻度と規模は益々増し、外縁部は津波に、内陸部には濃霧が押し寄せてくる。視界を埋め尽くす濃霧は、まさに白い闇。特殊部隊強襲用回転翼機を改装した戦闘捜索救難機MH-47Gは自慢のFLIR(Foward Looking Infra Red:前方赤外線監視装置)と航法装置が無ければ、全く以って離陸すら不可能であったろう。航法士がジャイロから計測される数値の変化に神経をすり減らし、操縦士が額に汗を垂らしながら集中する。濃霧の中でも血の臭いと音を聞きつけて、群がってくる低位超常体チュパカブラやチョンチョンを、警備隊員がBUDDYで薙ぎ払う。だが尤も厄介なのは――
「……イプピアーラの群れね」
 亜米利加州先住民グアラニー族の民間伝承に登場する妖怪の名を付けられた憑魔完全侵蝕魔人。襟裳分屯地を壊滅させ、今なお奪還部隊を退けて君臨する高位上級超常体 チャルチウィトリクエ[――]が発する強制侵蝕現象の被害者達。濃霧や津波の中を苦にする事も無く、襲ってくる。震度が大きい場所では伏せての四足歩行となるが、それでも素早く俊敏に動く。そして鋸状の歯で、地震の影響で動きの鈍った維持部隊員の四肢や喉元を噛み千切るのだ。
「――機長、これ以上の収容は無理です!」
 ブローニングM2重機関銃キャリバー50を濃霧へとバラ撒きながら悲鳴を上げる。濃霧の中で人影を見たとしても、それが要救助者かイプピアーラかの判別が付かない。ましてや魔人の最大の脅威は、人間としての知性を有したままである事。救難信号キットを使用し、誘き寄せては待ち伏せを掛けてくるのだ。
「――っ! ヘリを上げなさい! 帯広に……いいえ、たんちょう釧路に機首を向けて!」
 収容された負傷者への施術の手を止める事無く、礼手は断腸の思いで叫んだ。聞こえるはずの無い、救いの手を求める声が礼手の耳に残るのだった。
「……誰かが禍根を断たないと十勝平野はこのまま壊滅しますわ」
 所詮、救難行為は善後策でしかない。組織としては望まれないが、戦場では求められる存在――英雄の出現を、知らず礼手は待ち侘びるのだった……。

 4月25日――濃霧と、それに乗じた超常体の群れは、礼内川の南帯橋に至る。
 菅家陸将は、業務隊に第5師団司令部の移転作業を命じるとともに、北部方面隊のエリート――NAiR(Northern Army infantry Regiment:北部方面普通科連隊)に救援要請。また時間稼ぎとして第4普通科連隊の残存戦力で率いて畜産大跡地に布陣するのだった。

*        *        *

 観測の結論から言うと、霧の発生原因並びに範囲は確かに例年よりは濃度も頻度も高い方だが、それでも自然現象の範疇を超えるものではない。――地之宮の地道ながらも確実な調査は、偽りない事実を物語っていた。
「……残念でしたね」
 縣が慰めの言葉に、しかし地之宮は微笑みで応じる。
「霧そのものが自然現象に過ぎないというのならば不安の1つが払拭されたという事。また狙撃手としての本分に帰るだけさ」
「確かに狙撃は好機を得るまで耐え忍ぶもの。周囲の状況に激しく影響を受けるものですから、もしも霧が高位超常体により能力によって発生されたものでしたならば、危険を伴います。僕としても、あなたの行いの御蔭で、安心して霧をセンサー代わりに多用出来るというものです」
「――関連して朗報が1つ。十勝平野を覆い尽そうとしている霧は、超常体が氷水系能力を行使した結果、発生させた可能性が高いものの、やはりそれ自体はただの水分子に過ぎないと」
 興味深い話に縣が目を細める。通常、根本的な霧の発生の原因は大気中の水分が飽和状態に達したものであり、雲と同じである。十勝平野の驚異的な濃度の霧は、暖かく湿った空気が水温の低い海上や陸地に移動し、下から冷やされて発生した移流霧に過ぎない。つまりは襟裳に座するチャルチウィトリクエが、暖かく湿った空気を憑魔能力で陸地へと送り続けているだけ(※正確に言うと幻風系ではないので、津波という形から派生したものである)で、霧そのものには憑魔へと影響する力は無い。第4、第26普通科連隊混同の襟も攻略部隊を壊走せしめた、憑魔強制侵食現象はあくまでもチャルチウィトリクエ自身が放った影響という事だ。
「……つまり、逆に霧を利用する事も可能と」
 水辺や雨天(もしくは降雪)時の氷水系魔人は、圧倒的な力を誇る。霧もまたそうであるならば、縣独りで効果的な作戦を執行出来るはずだ。魔人が単体戦闘力において最強と言われる所以である。だが、
「力を行使し続ければ、完全に侵蝕されて超常体と化す。使い切りの捨て駒ですね」
 薄ら笑いを浮かべて他人事のように語る縣。地之宮は何とも言えない表情だ。
「……ですが、キミの御蔭で調査がかなり楽になりましたわ。ありがとうございます」
 屈斜路湖と周辺の地図をチェックしていた緑が顔を上げて礼を述べた。レーダー役に徹した縣の御蔭で、水中に潜んでいたり、濃霧の中を移動していたりの低位超常体との出会い頭の戦闘も避けられた。また縣の率いる第274班も、地之宮だけでなく、緑の治療中隊第2班乙組の調査時に、護衛の役割を担ってくれた。
「僕は自分の出来る範囲で動いていたに過ぎません」
「それでも感謝したいのさ。ところでモノは相談だが、霧の中での観測手を頼んでもいいだろうか? 縣三曹がいてくれれば、霧で視界が悪かろうが、後方からの支援狙撃の命中率が上がる」
 ふむ。そういう使われ方もあるのか。半ば感心するが、縣は軽薄そうな笑みを表情に貼り付ける事で応じるのだった。
『――森さん! 湖に動きが。餌の匂いに喰らいついたようです!』
 緑の部下が連絡を入れてきた。屈斜路湖がそれなりに広いといっても、首長竜に生物活動をしている事が伺える事から、緑は隊員を分散――縣に頼み込んでの護衛付き――させ、観測させていた。息継ぎや水面の影(時には縣の水中レーダー使用)、周辺の樹木の状況等から首長竜の活動範囲や活動パターンを見極めつつある。
「かつ、周辺に類似の超常体がいないか、守護している、もしくは捜索しているものはないかも含めて洗い出せれば良かったのですけれどもね」
 それは贅沢というもの。まぁ縣と地之宮がそれぞれ苦笑したり、首を振ったり。両者の協力もあって、屈斜路湖及び摩周湖に、それらしき形跡は無しと判断するに至った。緑が観測したのは首長竜だけであるが、摩周湖の肉食恐竜――ティラノサウルス・レックスと翼竜もまた生物的欲求、つまり本能が知性に優る大型超常体に過ぎなかったと言う事になる。
「――摩周湖や、頭上でも作戦行動が開始されたようだな」
 霧の彼方から響く砲声と、空を切り裂く爆音。耳にしながら、地之宮は愛銃を構える。SVD(Snayperskaya Vintovka Dragunova)――通称ドラグノフ。AK(アブトマット・カラシニコバ)の機関部を参考に、エフゲニー・ドラグノフによって開発されたセミオートスナイパーライフルの傑作。地之宮のは、更に空挺部隊等で使用される事を前提に傾向性を向上させたSVDSだ。緑もまた大型動物用の麻酔銃を構える。そして縣は、
「――僕自身に戦闘能力はありませんので」
 部下に首長竜を追い込むように指揮する役割を。水の振動から首長竜の浮上する速度と位置を測り、地之宮と緑の狙いを補正する。
「――激写! そして捕獲を試みます!」
 浮上した首長竜を、部下に命じていた機材で撮影。同時に麻酔弾を撃ち込んだ。腕に自信は無いが、あの図体。当たらぬはずが無い。果たして緑の放った麻酔弾は首長竜に命中した。――が、
「効いていませんの?」
「……即効性だとしても、薬が回るのはそれなりに時間が掛かるものじゃないのか?」
 地之宮が眉間に皺を寄せるが、それにしても動きに鈍る様子は無い。緑が仕掛けた餌に食い付き、そして飲み込んだ首長竜は意にも介さずに再び湖中に身を沈め始める。
「――させるか!」
 縣の指示する方向へとSVDSで狙撃。苦悶の鳴き声が聞こえてきたように思えたが、
「……変ですね」
 縣の呟きに、何が?と振り返って視線を集中。
「確かに命中しています。が、全く効果が無いような気が」
「霧を晴らす事は出来ませんの? 基本的に、水に違いないのでしょう?」
「――集中し過ぎによる憤死をしなさいと?」
 それでも縣は霧を晴らそうと精神集中。霧を構成する水分子が呼応して、僅かな間だが視界が開けた。初めて霧のヴェールなしで直視する首長竜。だが地之宮が注目すべきは、
「――傷が塞がっていく……異形系か」
「麻酔が効かないのは、その所為ですの?」
「このままだと逃げられてしまう! 縣三曹、核の位置は判らないか!?」
「……無茶を言わないで下さい。操氣系でもございませんのに」
 完全に水没する前に、慌てて緑は部下に指示。カール・グスタフが炎を上げるが、首長竜を仕留めるには遅かった。

 同時刻――網走支庁上空。計根別飛行場から緊急発進したストライクイーグル2機によるエレメントが、翼竜を捕捉。だが空対空ミサイルのロックオンする間もなく、ドッグファイトとなっていた。
「――速いっ!」
 翼開長は12m程だが、全長20m・全幅13mのストライクイーグルと並んでも見劣りする事なく、滑空している。が、何よりも特筆すべきは、亜音速による機動性の高さ。既知(といっても化石からの推測)の翼竜が羽ばたくには足らない(それでも羽ばたけないのではないと推測されている)とされる筋力が、充分に備わっているという事か。果たして純粋なスピード勝負となれば、どれほどの速度を出すのか。M16A1 20mmバルカン砲が唸りを上げるが、身を捻ってかわす。翼竜に空対空攻撃があるはずはない……と思いたかったが、後背を取られたらお仕舞いになる恐怖が、映姫を襲う。
『――エレメント・リーダー。間に合いません!』
 亜音速のドッグファイトによるGと緊張、そして疲れが、ついに僚機パイロットに悲鳴を上げさせた。背中を取った翼竜が甲高い鳴き声を上げる。瞬間、僚機が音の振動刃を受けて、切断される。
「――ギャ●スか!」
 思わずの突っ込みと同時に、怒りが沸点を超えた。僚機が撃墜される瞬間に生じた隙に、映姫は99式対空誘導弾を撃ち放った。対航空機戦のみならず、対艦・対地巡航ミサイルの迎撃も重要視される国産誘導弾は、炸薬量が多く、そして何よりも命中率が高い。狙い違わずに命中した99式対空誘導弾は翼竜を爆散させ、撃墜せしめた。
 だが映姫は勝利を味わうよりも、僚機パイロットの生存を優先。彼方に漂う落下傘を確認すると共に、地上部隊へと回収を要請する。ようやく安堵の息を漏らすと、計根別飛行場へと帰投するのだった。

 上空から轟き聞こえてきた連続する爆発音に、顔をしかめつつも、今はただ前方の敵に由加里は専念していた。川湯温泉跡に待機していた第5中隊第9組は、Tレックス出現の報告に出動。事前に覚悟していた通り、困難な遠距離攻撃に入る事無く、戦闘に入った。車長ハッチから身を乗り出し、素早い動きで迫りくるTレックスへとキャリバー50を撃ちまくる。
「まゆみ! 弾幕薄いわ、何やってんの!?」
「無茶言わないで下さい。これでもいっぱいいっぱいなんですから!」
 7.62mm同軸機関銃を担当するまゆみが半泣き声で返す。その間にも120mm滑腔砲がHEAT弾を撃ち放っているが、
「――何故に当たらない! 最も高速な70km/hの機動力があったとしても、第三世代戦車と同程度。ヤキマで米軍を唸らせた90式の射撃統制装置なのに!」
「……まぁ、戦車は立体的に複雑な回避行動はとらないしね。96マルチの直撃を避けたってのも嘘じゃないか……」
 感心したように、佳子が呟く。これでも奥の手である操氣系能力を出して、気配を読んでの砲撃だ。だが90式の特徴たる自動装填装置の欠点として、一発撃つ毎に砲を水平に戻さないと装填出来ない事があった。僅かなタイムラグだが、Tレックスに接近を許すに充分な時間。また気配を読むのと、動きを先読みするとは若干違う。ましてや相手は人間外。下手な駆け引きは通用しない。眼前に迫り来るTレックスに、負けじと由加里はキャリバー50を構える手を離さない。
「仰天号の意地を見せてやる! 轢殺よ!」
「――頭引っ込めなって!」
 車長ハッチから身を乗り出していた由加里を佳子が引き摺り下ろす。ついに眼前に迫ったTレックス。如何にでかくても所詮(推定)体重6t前後。重量50tオーバー、1,500馬力の90式ならば、逆に……。だがTレックスは正面から打ち当たる事無く、
「――仰天号を踏み台にしたー!」
 衝撃が上面装甲から伝わる。Tレックスは勢いのままに跳躍すると、巨大な後脚で持って仰天号を踏み潰そうとしてきたのだ。如何に複合装甲の90式といえども上面が弱いのは車輌共通。だが駆け抜けたTレックスは尻尾による止めの一撃を放つ事も無く、体勢を崩してたたらを踏んだ。
「――みっ、見たか! 日本国戦車自慢の」
「伏せ! それと超信地旋回です!」
 由加里の台詞を奪い取り、替わって吼えたのは操縦手たるまゆみ。踏み込まれた絶妙な瞬間に、油気圧式懸架装置で車体を沈めて衝撃を吸収。続けての神業ともいえる巧みな操縦で、秒間1回転オーバーの速度で車体を旋回させると、Tレックスの背後を取った!
「――射てっ!」
「言われなくても!」
 佳子が放った多目的対戦車榴弾は間違いなく直撃。止めとばかりに再びハッチから身を乗り出した由加里が、110mm個人携帯対戦車榴弾パンツァーファウストIIIを構える。
「――ハンドアローといい、狭い室内のどこに隠していたかは聞かない! それよりも頭部を狙って! 核はそこにある!」
 直撃されてもなお摩周湖に飛び込んで逃げようとするTレックス。異形系として爆発で飛び散った肉片が再生をしようと蠢きながらも炎で焼かれて死滅していく。逃げられたら、元も子も無い!
「受けてみろ! 仰天号の拳!」
 佳子が捉えた目標を狙って、由加里は必殺の一撃を放つ。カウンター・マウスを背後に放出し、有翼の弾頭がTレックスへと撃ち込まれた――。
「勝ったー! って何泣いているの? 嬉し泣き?」
「……Tレックスに踏まれた足跡が残っちゃってる」
 色々傷だらけの仰天号。でも一番傷付いたのは由加里の心とか何とか。

 

■選択肢
SA−01)襟裳岬の高位超常体撃破
SA−02)帯広駐屯地放棄して移転
SA−03)十勝岳の噴火活動を阻止
SA−04)旭岳の羽毛ある蛇と交戦
SA−05)神居岩を敵から死守する
SA−06)旭川駐屯地で厳重警戒を
SA−07)屈斜路湖/摩周湖の掃討
SA−FA)北海道東部の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該初期情報で書かれている情報は、直接目撃したり、あるいは噂等で聞き及んだりしたものとして、アクション上での取り扱いに制限は設けないものとする。
 なお十勝平野では余震が続いているので部隊展開への支障を考慮する事。
 また襟裳岬、十勝平野、十勝岳、旭岳、神居古潭、旭川駐屯地では、強制的に憑魔の侵蝕率が上昇する事もあり、さらに死亡率も高いので注意されたし。

※註1:H&K XM8小銃……現実世界では2005年に米軍が次期制式アサルトライフルとして発表。但し海兵隊や特殊部隊からの猛反発を受けて決定が覆されており、採用は延期。だがH&K社は代わりとしてか、多くの民間軍事会社に売り込んでいるらしい。


Back