同人PBM『隔離戦区・獣心神都』最終回 〜 北海道東部:南亜米利加


SA6『 輪の中にいる者 』

 最高位最上級超常体テスカトリポカの襲撃から1ヶ月経た、第2師団司令部のある旭川駐屯地。当時、破壊された設備や機能も復旧を終えていた。だが警戒レベルは依然として高く、むしろ最前線にあるかのような緊張もある。
「あらあら。皆さん、お疲れ様」
 偵察用オートバイ『カワサキKLX250』を停めて、潮野・信代(しおの・のぶよ)一等陸士が警衛へと挨拶。本来は衛生科に所属している信代だが、オートの機動性を大いに利用して、駐屯地内部や周辺の巡邏警戒に引っ張りだこになっていた。緊急時の医療が求められる場面もあるだろう。
「――師団長より、テスカトリポカが倒されたとはいえ駐屯地の警戒は怠るなと厳命されていますから」
「やっぱり――困ったちゃん達への対策?」
「二階堂士長の発破で、自暴自棄になる連中は減っていると思うんですけどね」
 かく言う自分も士長の放送が無ければ危うかったのですが、と警衛の1人が告白する。天草で叛乱を起こした 松塚・朱鷺子[まつづか・ときこ]の煽動演説により維持部隊は各地で混乱が生じていた。北部方面隊も同様だったが、タイミング良く第1電子隊所属の 二階堂・弘昭(にかいどう・ひろあき)陸士長の言葉に目を覚まし、多くの隊員達が決意を新たにして守り、そして戦いの任務に就いた。
 こうして問題は沈静化したと見られたが、それでも第2師団長の 沼部・俊弘[ぬまべ・としひろ]陸将は一層の警戒を厳命。89式5.56mm小銃BUDDYを構えた複数の歩哨が、油断無く弾薬庫や補給処に詰める事になった。
「あらあら。……とはいえ、何が起こるか判らないのが神州だもの。備えがあれば憂いなく、万事塞翁が馬よ? うふふ」
 微笑むと信代はハンドルを握り直す。警衛達に見送られて、次のポイントに向かうのだった。

 駐屯地施設の奥まった一室。モニター画面の灯りで憔悴し切った二階堂の顔が浮かび上がっている。画面に映っているのは半裸姿の美少女がベッドに横たわり、誘うように手を広げて、カーソルのクリックを待っていた。
「『……お兄ちゃん、いいよ。優しくしてね』」
「――何で、美少女ゲームみたいな画面表示されているのか、説明を求む。誤解を招くような遊びをするんじゃないっ!」
 ウンザリしながら二階堂は吐き棄てた。やはり、この電波妖精を自称する セスナ[――]という存在は、冷静さや礼儀正しさを忘れさせる何かがある。否応無く突っ込み要員として成長させられている気がする自分の姿に、二階堂は目眩を覚えた。
「……まぁ、冗談はともあれ、指示というか提案通りに電子機器を介して、敵味方の位置取りしたけれどもね。心配性だなぁ。――間違っていないけれども」
「……やはりか」
 二階堂の呟きに、セスナは画面の向こうで首肯してみせる。下着姿の肩紐をずらす動きは不要だが。
「んー。まぁ、君の放送で危うく間違いを起こし掛けた人は大分減ったみたい。小波――『すすきの』の女王様も感謝していたわよ」
 人的諜報(ヒューミント)を司る機関の長の名を口にした。セスナが説明するには、朱鷺子――フトリエルの煽動により維持部隊を離反するモノ、しないモノ。これは信念だから、対抗演説したところで決めた意志は変えようがない。問題なのは混乱により己を見失う者達だ。情報の真偽を見分ける事も出来ず、ただ場に支配された雰囲気に飲まれ、流される。維持部隊の大半を占めるのは、そういう、ある意味“普通の”人間である。
「――君の言葉は、彼等に今一度、何が大事なのかを気付かせたという事で評価されているの」
「……そう言われると嬉しいが、しかし頬を染めて恥らう姿は要らない」
 頬をひくつかせる二階堂の拒絶反応に、だがセスナはからかう態度を改めようとしない。なのに口調と内容は真面目だから、二階堂も強く出られない。他の隊員に見られたら、俺の人生終わったも同然だろうなと不吉な思いが脳裏を横切った。
「でも、その大事な物がない者が馬鹿な襲撃を起こすかもしれない。……やる事が懲罰部隊に送られる程ではないけれども、だからこそ見過ごされたまま、この日を迎えてしまったクズもいるから」
 下手すれば俺も懲罰部隊送りかもと溜息を吐く。気付かぬ振りをして話を続ける。
「――まぁクズ共よりも怖いのは、ヘブライ神群をはじめとする超常体側に付いた……本当にヒトの世を捨てた連中ね。彼等は確固とした信念を以って行動する。もしも敵方の指導者クラスが旭川にまで出張ってきていたら、襲撃は凶悪なものとなるわ。千歳や札幌なんか大変みたいよ?」
「そういうものの対策として、俺は君に色々と頼んでいるんだが。――電子機器を通じて居場所を把握出来るだろう、『グリッドマン』みたいに」
「――説明しよう!」
 二階堂が語る『グリッドマン』とは、1993年から放送された円谷プロダクション制作の特撮テレビ番組『電光超人グリッドマン』の事である。大きな特徴として、コンピュータワールドで実体化させた怪獣をパソコン通信で何処かのコンピュータに侵入、暴れさせてプログラムを破壊し、その結果、人間界が大混乱に陥るという、当時普及していなかったインターネットやコンピュータウイルスの登場を先取りした、基本パターンが挙げられるだろう。但し時代を先取りし過ぎた難解な設定であったことに加え、全国ネットではない放送形態であった事等から大ヒットには至らず9ヶ月で終了した。
「……以上、ウィキペディアより一部抜粋し、修正した上で、解説終了。著作権については置いといて」
「解説はありがたいが……メタ的な台詞なのは気の所為か?」
 セスナは泣きそうな顔をして、
「『――お兄ちゃん、御免。アタシ達、実の兄妹だったらしいの』」
「……電源落としてやろうか」
 握り拳を固めて立ち上がる二階堂に、だがセスナは嬌声を上げると、
「電源落としたぐらいで毒電波は止まらないわよ。 主電源が入っていなくても、アタシは自動的・強制的にもとれる手段で起動させて、電子機器を動かす事が出来る。――電波妖精を舐めるな。まぁ、どちらかというと、ウィル子に近いんだけれどもね」
「――何だ、それ?」
「んーと。……こっちの世界では出版されるはずがないライトノベルの――ヒロイン?の話」
「だからメタ的な話はするな、と。それと何故、疑問形なのか」
「さておき――。電子機器がある以上は、アタシは無敵。けれども逆に言えば電子機器がなければ一切の干渉を出来ないのが問題点ね」
 つまり電子機器を持たない相手が、電子機器から離れた場所で活動すれば察知は不可能。尤も、そういう者は敵超常体――特に知性を有するモノでは、滅多にいないけれども。
「……何故?」
「銃火器、弾薬もそうだけれど、文明の利器は助けになって役に立つから。元・人間で、知性が高ければ高いほど、その便利さを手放す事が難しくなるわね」
 そこを突くのが俺の役割だろうと二階堂は自負していた。腕を組んで、
「とにかく優先順位は嵐山公園、旭川駐屯地、帯広駐屯地。――特に、サマイクルの力による加護は守り通さないと」
「自分の尊厳も大事にした方が良いわよ? もうすぐ通信科のWAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)が顔を出すから。ほら、残り3、2……」
 慌てて二階堂は画面を消す。次の瞬間、扉を開いて差し入れを持ってきたWACが、勢い余って倒れ込んだ二階堂の姿を見て、不思議そうな顔をしていた。

*        *        *

 歓声と万歳三唱。大山・恒路(おおやま・こうじ)二等陸士の帰還を、嵐山公園は――というか神州結界維持部隊北部方面隊・第2師団第9普通科連隊・第204中隊第3小隊・第248班が総出で、拍手を以って出迎えた。
「おー! お帰り。旭岳で風雪の柱が立ったのを見て、心配していたんだが、五体満足で帰ってきて何より。……と、死傷者も出ている以上、失言だったかな?」
 だが悪びれている様子も無く、いつもの調子で第248班長の 古川・均[ふるかわ・ひとし]三等陸曹が笑顔を浮かべている。軽くアフロ髪に手を添えるように敬礼する大山に、古川もまた返礼しながら、
「戻ってきてくれてありがたいのは確かだが……そのまま旭岳で活躍してもらっても構わなかったのに」
「そうだったんで? いや、そもそも第248班所属なのだから、自分も同様に公園の防衛に努めるべきだろうと思っていたんだが」
 頬を掻く大山に、古川は苦笑すると、
「――そこはそれ。『暴論的なまでの実力主義』だからな、維持部隊は。元いた所属長に気兼ねなく動き回ってくれても問題ないんだ、これが。部隊単位でも、己の采配で好きに出向して活躍出来る」
「……縄張り意識とか無いのか?」
「さすがに方面隊レベルの垣根を越えられたら、問題が起こるだろうが、応援に来てもらって感謝こそすれ、恨みは持たないさ。まぁ挨拶は最低限の礼儀だから忘れるな。それに――縄張り意識の過ぎる連中は隔離政策初期で超常体の数に圧されて、ことごとく死んだらしいからな。……巻き添えになった部下達が気の毒ってもんさ」
 肩をすくめて見せる態度とは裏腹に、古川の言葉に厳しいものを感じた。
「だから――逆に言えば、俺が上司として使えないと思えば、いつでもお前は自分のやりたいように動いても構わんという話。……まぁ戻ってきてくれて嬉しいのは本当さ。アフロがいてくれると楽が出来るから」
 大物なのか、馬鹿なのか。大山も苦笑するしかない。そして古川は唇の端を歪ませると親指で示しながら、
「――コロポックルも、お前が戻ってきてくれて嬉しいみたいだしな」
「そ、そんな隊長! な、何を言っているんですか」
 顔を真っ赤にしながら、小山内・幸恵[おさない・ゆきえ]二等陸士が抗議する。口笛を吹いたり、何故か大山の肩や背を叩いたりする第248班の仲間達。とても照れ臭い。
「……まぁ、重火器も爆弾も、僅か1体相手に使用するのでは味方を巻き込む危険性が高まる為、旭岳の戦いには余り役立てないだろうと判断したのもあるんだけれどもな」
「――そういうお前とは入れ違いに、柳沢は重火器を嬉々として担いで、旭岳に向かったみたいだぞ」
「……さすがだ、ブラザー」
 重火器や爆弾における同好の士に、大山は思わず感服。しかし、なればこそ嵐山公園防衛に戻ってきたのは間違いなかったとも思う。
「とはいえ何もせずに向かった訳じゃねぇんだろ?」
 大山の言葉に、古川は満面の笑顔を浮かべると、設置されたままの35mm2連装高射機関砲L-90を指差す。
「第204中隊第3小隊、第248班の諸君よ、運用は任せた――だと。好き勝手に使って良いぞー」
 眼が点になっていた大山が口を開く。再び驚嘆が漏れた。
「……さっ、さすがだぜっ、ブラザーっ!」

*        *        *

 唐突に、くしゃみをした 柳沢・健吾(やなぎさわ・けんご)一等陸士へと、第2後方支援連隊・治療中隊第9班長の 内藤・和華(ないとう・わか)二等陸曹が心配そうな顔を向ける。
「風邪? 山の気候は移り変わり易いから、体調管理には気を付けてね」
「はい、ありがとうございます。装備に抜かりはございません。むしろ……内藤二曹の方が心配なのですが」
 高山であるところから旭岳――大雪山系を登る際には天候の急変に備えた装備が必要。夏でも凍死者が出る程である(※註1)。柳沢の指摘通り、内藤が率いる治療中隊第9班には、寒冷地用の基準装備しか配られておらず、より厚手で特殊な個人携行品はまとっていない。冬季用個人携行装備に限らず、率いる部隊の規模が大きくなればなるほど全員に装備が行き渡らない事はままならない事だ。運ぶ足の確保も必要になってくる。
「――その点、自分みたいなフリーは動き易いけどな」
 相方の観測手である北部方面調査隊員と共に、登山靴の履き心地を確かめていた、地之宮・続(ちのみや・つづく)二等陸士が、いつもの締まらない笑顔で口を挟む。肩をすくめながら、
「少数精鋭が求められるのは、そういう理由もあるんだろう」
「まあ……足りない分は、私と新谷とでカバーするつもりですが」
 治療中隊第9班副長の 皆縫・拓[みなぬい・たく]陸士長の言葉を受けて、新谷・亜貴[しんたに・あき]二等陸士も八重歯を見せて笑う。
「おれと皆縫さんに任せてよ! 操氣系2人もいれば、ある程度の寒さは緩和出来るもん。……噂に聞く、寺岡さん程じゃないけれども」
「ああ、寺岡の姐さんは特別だからな。……気にするな。比べる方が間違っているから」
 尻すぼみになる新谷だが、実際に作戦を共にした事のある地之宮が慰める。
「……そうですとも。少なくとも前回とは違って、輸送機が付いていますからね」
 遣り取りに顔を出したのは、第3、第25普通科連隊の選抜部隊と共に、旭岳を観測していた第274班長の 縣・氷魚[あがた・ひうお]三等陸曹。全員、初対面という事もあって特徴ある顔付きに驚きを隠せなかったが、縣は知らぬ振りして話を進める。指し示すのは、特殊部隊用大型輸送回転翼機MH-47Gチヌーク。
「……白岩准尉のとはまた別な感じがする」
 第5後方支援連隊・救急飛行小隊長の 白岩・礼手[しろいわ・れいて]准陸尉の世話になった事がある地之宮が口笛を吹く。尤も礼手のチヌークはキャビンを緊急医療用に改装しており、今あるタイプとは全く趣が違うのだが。
「函館から帰還したばかりだそうですよ。北部方面航空隊の第1対戦車ヘリコプター隊試験伊組」
 視線に気付いて 糸工・美鈴(いこ・みすず)准陸尉がこちらを振り返った。慌てて、一同が敬礼。答礼を返すと、美鈴は内藤達へと近寄り、互いに自己紹介をし合った。
「――空中機動が可能という事は、奇襲も作戦に考慮出来るのですね?」
 柳沢の確認の声に、美鈴は是と答える。
「カンヘルといった敵魔人の妨害もあるでしょうから航空優勢確保が必要ですが。それには、私の方から古巣へと支援要請も出しています」
「――大盤振る舞いですね」
「どちらにしろ、今回の作戦が失敗すれば、最早、動けなくなりますから。航空燃料も底を尽き始めており、大規模な部隊運用は禁じられています」
 やや悔しそうに美鈴は唇を噛む。――6月21日までに現在進行中の作戦を完遂させる事が出来なければ、撤退ないし放棄が厳命されている。以降は駐屯地等の死守防衛のみ。戦闘機はおろか機甲車輌も動かす事は許されなくなる。
「問題を自分達の手で解決出来るかどうかの時間制限か……これも所謂、試練みたいなものかな」
 地之宮が軽い調子で呟くが、美鈴は真面目な顔で、
「……“神”に逆らう者には滅びが約束されているが、“神”が滅ぼされる前に我らの手で滅ぼす事は、“神”のお喜びに成られる行為である」
「……深いですね」
 溜息混じりに柳沢は苦笑した。
「サマイクルの助けも旭岳には至っていないからね。……サチリでもいれば良いのだけれども」
 内藤の呟きに、皆が不思議そうにする中で、その手の知識に詳しい縣だけが頷いてみせる。
「サチリ――アイヌ伝承におけるオコジョですね。ウパシチロンヌプ、エコイノンノとも言われるとか。女性のカムイとして扱われるそうで」
「――オコジョ? と、いうと……イタチだったかな」
 正確にはイタチ科の哺乳類の中で、ムステラ(オコジョ)属と呼ぶ一群を独立したものを呼ぶ。肉食性で鼠類を特に好み、天敵として益獣とされる。また、狩りや伐採等の山仕事にたずさわる人達の間に、深い信仰を育くんでいる。
「本州島では、変わった別名もありましてね。管狐って御存知ですか?」
 管狐とは、細い筒の中に住むとされる日本の妖怪・妖精・精霊の一種。天狗や外法使いに使役される式神と言われる。
「……流石はオカルト説派の沼部陸将が信頼しているというガマガエルといったところですか。豊富な知識ですね」
「信頼されているかどうかは、僕も首を捻っておりますが。どうも使い勝手の良いパシリ役としか思われてないのでは?」
 ガマガエルについては否定しないんだ。心で汗を掻くが、ともかく内藤は質問を続ける。
「――で、サチリは見掛けませんでした?」
「アイヌの血を引いている訳ではありませんから、断言出来ませんが……少なくともサマイクルが解放された際に呼応するような気配はありませんでしたよ」
「……そうですか」
 同じカムイですら居場所を察知出来ないという伝承があるくらいだから、他の者が探し出して封印出来る訳がない。そういう期待を抱いていたが、縣の言葉に気落ちし掛ける。しかし、それこそ ケツァルコアトル[――]が健在の為に、姿を顕す事が出来ずに、未だに隠れ潜んでいるというのでは?と前向きに考え直した。
「……さて、個人の信条は兎も角として、仕事をしましょうか?」
 美鈴の言葉に、情報交換や作戦の練り込みが行われる。縣は一歩身を引くと、
「では、皆さんの御武運を祈っています」
「……縣三曹は同行しないのか?」
 意外そうな面持ちで尋ねると、縣は肩をすくめて、
「僕は、ここ、青年野営場で待機し、敵の攻撃を警戒しておきますよ。やはりベースキャンプが潰されたら嫌ですし。敵はアステカ系だけとは限りませんからね。皆さんもケツァルコアトルをやっとの思いで倒して、意気揚々と凱旋してきたところを襲われたら……たまらないでしょう?」
 それに、と頭を掻く。
「正直に話しますと、ケツァルコアトルと直接戦えるだけの戦闘能力も根性もございませんし」
 前回、相対して身に染みたそうな。

*        *        *

 旧・白金温泉に設置された望岳台のベースキャンプに降り立った回転翼機に、第05特務小隊(※零伍特務)の面々が興味津々に集まってくる。
「……1ヶ月前にも最新型のチヌークが着て吃驚したけど、これも凄いなぁ」
 多目的回転翼機UH-60を戦闘捜索救難型として開発されたのが、HH-60Gベイブ・ホーク。更に特殊部隊強襲用として派生したのがMH-60Gで――今ここに降り立っているのが、更に高価な電子装備を搭載させた発展型であるMH-60Kブラックホークである。
 基本設計並びに思想は隔離前にあったとはいえ、超常体の出現により開発や普及が難航した現代において、最新機に違いない。MH-60Gが1機当たり約1兆円を下らない事を考えると、どれほど贅沢な代物か判るというものだ。少なくとも懲罰部隊がおいそれと拝める代物ではない。まして搭乗出来るなんて夢の果て。それでも期待を込めて見詰める眼差し。
「もしかして、これに乗っても良いのか、私達……?」
「いやいや、まさかまさか。あー、でも乗れるなら、俺、予約な、予約!」
「馬鹿言え! お前、降下訓練を受けた事がないだろ」
 童心に帰って、ざわめく特務隊員達だったが、キャビンから降りてきた人物の姿に悲鳴を上げた。細身の体格に、場違いとも取れる和装。腰に差した日本刀は鞘に納められた状態といえども、禍々しい雰囲気を醸し出している。
「――“人切り”妖忌だー!」
 札幌の北部方面警務隊本部付の 西行寺・ようき(さいぎょうじ・ようき)准陸尉の名と姿は、懲罰部隊にとって死神に等しい。
「もう、お終いだー!」「逃げろー!」
 蜘蛛の子を散らすかのように逃げ出す特務部隊員。だが幾人かは踏み止まり、
「馬鹿言え、隊長を死守しろ!」「命を懸けろ!」「やんのか、こん畜生!」「こっ、怖くねぇんだからな」
 遠巻きに、西行寺を着剣したBUDDYを構えて取り囲む。西行寺に遅れて降りた、芦屋・正太郎(あしや・しょうたろう)二等陸士の額に脂汗が浮いた。
「……何事だよ、これは!?」
「くっくっくっ。――私の人気も衰えを知らんという事ですじゃ」
 顎をさすりながら不敵な笑みを浮かべて挑発する西行寺に、特務隊員達は再び奇声を上げる。腰が引ける芦屋に対して、西行寺は益々笑みを濃くした。
「……相変わらず零伍特務は愉快なところですのぅ。あなたの教育の賜物ですかな?」
「――お言葉、痛み入ります。西行寺先生」
 包囲の輪を割って入ってきた零伍特務隊長、寺岡・久菜[てらおか・ひさな]准陸尉が敬礼をする。
「……西行寺先生に御挨拶するのも随分と久し振りな気がしますが」
「前に話をしたのは、あなたが零伍特務に送られた頃でしたかのう。……詳しい事は田中一佐も『すすきの』の小娘も教えてくれんかったが、惜しい逸材を無くしたと歯噛みした覚えがある」
 そして眼を細くすると、
「――耳にしたとは思いますが……壬生が逝きましたぞ。私が斬りましたのじゃ」
「あの札幌の馬鹿騒ぎの当事者で生き残っているのは、最早、西行寺先生と小波先輩だけですよ」
「あなたもそうじゃろうが?」
「――最早、人間の身を棄てたモノが、生き残っていると言えるかどうか」
 そこで首を傾げると、
「……あれ? となると小波先輩も違うという事になりますね」
「アレは元々、異生(ばけもの)そのものじゃろう。母親は無愛想なところはあったが、それでも気立ての良い女じゃったのに……何で、あんなのが生まれ育つのやら」
 2人だけの会話が弾む余り、周りを置いてけぼりにしている事に気付いて、久菜が咳払いをする。芦屋に微笑み掛けると、
「武器弾薬の補給をして下さるとか。助かります」
 亡き山之尾から聞いていた通り、どことなく陰はあるが久菜は美女に間違いない。いつになく緊張を意識して中々口を開けない芦屋の助けに、西行寺が入る。
「うむ。懲罰部隊では満足な武器もないじゃろ? こやつと相談して色々持ってきた。土産ですじゃ、好きに使うと良い」
 ブラックホークから降ろされた武器弾薬に群がる零伍特務隊員達。FN5.56mm機関銃MINIMIに歓声が上がり、96式40mm自動擲弾銃に吼える。……が、
「――パンツァーファウスト?」
 110mm個人携帯対戦車弾の異名を口に出すが、どう見ても形が違う。芦屋が苦笑して、
「……零伍特務へ持って行くと言ったら、微妙なのを回されたんだよなぁ。それでも最新型らしいけど、標準的にMINIMIがもっと欲しかったんだけどね」
 姿を現したFGM-148ジャベリンは、2012年に初めて実戦使用されたという米国製歩兵携行式多目的ミサイルだ。主な目標は装甲車輌であるが、建築物や野戦築城、更には低空を飛行する回転翼機への攻撃能力も備える。完全なファイア・アンド・フォーゲット機能、発射前のロックオンと自律誘導能力、そしてバックブラストを抑え室内等からも発射出来る能力等を特長とする(※註2)。
「……小波先輩の手配?」
「別というか……『すすきの』の女王様より上の、武器科の『足長お姉さん』からの手配みたいだよ」
 どう考えても試験運用されているんじゃないかと疑いの余地が残る。さておき西行寺も苦笑して、
「ん? 良くは判らんですが、私は武器を一通り扱えるがの。ともあれ『非常識な相手に非常識な武器を』となれば、これしか用意出来んかったでの」
「……西行寺先生の呪言刀に勝るような非常識武器を、私は他に知りませんが」
 それに関しては芦屋も同感だ。ともあれ補充された武器弾薬の整備点検を部下達に任せて、十勝岳観察施設に入る。
「……何か変化はありましたか、マサゴロウさん?」
 久菜の声に、薄い白髪の初老の男が振り返った。畠山・政五郎(はたけやま・まさごろう)一等陸士は度の強い黒縁眼鏡を掛け直しながら、
「今のところは異常ありませんねぇ〜。おっとぉ〜初めましてぇ、畠山と申します。そして、こちらが教え子のトラちゃんさんです〜。宜しく仲良くして下さいねぇ」
 紹介を受けて、片腕を無くした畠山の介助をしていた 茶川・虎子[さがわ・とらこ]二等陸士が慌てて敬礼する。西行寺はいぶかしげに目を細めると、
「――零伍特務とは違う匂いがしますが?」
 畠山は人の好い笑顔で返すと、
「食客みたいなものですよぉ。……何しろ零弐特務の皆さんは助けられませんでしたからねぇ」
 そして決意を瞳の奥に湛えると、
「――今度こそ、お若い方々を生かして帰してみせますよ!」
「……成る程、成る程。確かに死ぬとしたら私のような棺桶に足を突っ込んだものが宜しいですからのぅ。私から見たら畠山さん、あなたも未だ若い」
 西行寺は95歳。間違いなく維持部隊最高齢。畠山よりも一回りは歳上だ。言われて、畠山は頭を掻く。
「ボクが言うのも何ですがぁ……十勝岳は危険極りないですよぉ?」
「ふむ。ここは危険じゃと? ははは、馬鹿を言われるな。この歳で前線に張り付いている事程、危険な事は無かろうさ、のう」
「……返事になっていないような気がする」
 芦屋が乾いた笑い。久菜も珍しく何とも言えない複雑な表情を浮かべていたようだった。
「西行寺さんには完敗ですねぇ。まぁお互い頑張って生き残りましょう〜。どうやら外の騒ぎを聞き付けただけでもぉ、皆さんから慕われているようですし〜。長生きの秘訣もやはりそれでしょうかねぇ」
 畠山の得心したような言葉に、西行寺は歳に似合わぬ健康的な歯を見せて笑うと、
「いや、なに。『憎まれっ子、世にはばかる』という奴じゃよ」

*        *        *

 日が暮れると、燃料等の節約の為にも灯火管制が強いられる神州では、夜間における主な光源は月か星明かりぐらいなものだ。任務の都合で明度の高い光源が必要な作業では、人が集まれば篝火が焚かれるが、個人レベルでは蝋で以って灯りを得る。そして人気を離れ、主要施設を外れれば、支配しているのは暗闇だ。
 旭川の弾薬と燃料の各支処がある近文台分屯地にも沼部陸将の厳命を受けて、警衛が立ち番や巡回を密に行っていた。篝火の薪が火花を散らし、光が闇の中で揺らめき、影をより濃くする。
「――弾薬支処Aブロック異常なし」
 定時連絡を入れ終えた警衛が欠伸を噛み殺した瞬間、暗がりより人影が躍り出てきた。黒く塗られた銃剣を手に、警衛がBUDDYを構えるより早く首筋を掻っ切ろうとした。だが、
「……うふふ。あたし、見ちゃいましたわよ」
 突如として鳴り響くオートの排気音が警報代わり。そして隠れ潜み、待ち受けていた警務科隊員や要請を受けていた第9普通科連隊からの小隊が一気に襲撃者の身柄を取り押さえるべく、状況を開始した。
「――武器を放して、両手を挙げろ! 壁に手を着けるか、地面に仰向けで横になれ!」
 BUDDYや9mm拳銃SIG SAUER P220の銃身に装着されたフラッシュライトが眩しく照らし出す。だが襲撃を実行しようとしていた影達は覚悟を決めたのか、腰に提げていた雑嚢から手榴弾を取り出すと、投擲のモーション。盾を押し出して身を守る警衛達。だが銃声が轟くと、投擲のモーション中に腕を撃ち抜かれた痛みで影が地面に転がる。警衛達は慌てて転がり落ちた手榴弾を確保すると、安全レバーとピンを固定した。
「――あらあら。危ないところでしたわ」
 オートを盾も兼ねた架脚代わりにして信代がBUDDYで、抵抗の素振りを見せる影達を狙い撃ち続ける。88式鉄帽には個人用暗視装置JGVS-V8を装着しており、BUDDY銃身部の赤外線レーザーサイトで照準を行い、夜間でも狙撃に支障はない。
「悪い子には、おばさんがお仕置きしますわよ」
 信代は鎮圧されていく襲撃未遂犯の姿に、そう苦笑するのだった。

 同僚から上がってくる報告に、二階堂はチェックを入れていく。
「――ポイントA−3にて不穏分子の征圧を完了。ポイントC−2をクリア、異常なし。ポイントE−12に挙動不審な男女を発見、ただの逢引だったので厳重注意してから解放。羨ましい……もとい人騒がせな。ポイントR−5で糧食の数を誤魔化そうとしていた馬鹿共を一斉検挙」
 疲れた顔を上げて、モニター画面のセスナへと呆れた視線を送る。
「……おい。不穏分子だけでなく、犯罪者予備軍も芋蔓にしてないか? 警務科が悲鳴を上げているぞ」
「これからの篭城戦に向けて、内規を引締める事が出来て良かったじゃない。旭岳で壊滅した零弐特務の補充要員として沼部師団長も大喜びよ、きっと」
 セスナの言いように何かが違うと二階堂は思った。ともあれ全面的な協力により、旭川だけでなく、帯広や札幌でも一斉に叛乱蜂起したモノ、或いは未遂の時点で身柄を確保出来たのは成功といえよう。各地でも大きな混乱や被害はないという報告を受けている。
「しかし……反結界維持部隊派――とでも言おうか? 連中の行動や思惑等が、本当に全て手に取るように情報収集出来るとはな」
「カイドーの根回しのお陰があったからね。それでも北海道限定だけれども。まぁ展開によっては、違うブロックのアタシも同じ助けをしているかも知れないわ。九州、中国、四国はそうでなかっただけで」
 相変わらず意味不明な事を口にする。電波妖精と自称するだけはあり、発言は“まるで時間と空間を超越している”ようだ。
( もしかして“世界そのもの”すらも超越しているのでは?)
 第1電子隊内部でも極秘ないしは禁忌扱いとされている情報は確かに存在する。方面調査隊ですら関わろうとしない、或いは意図的に避けさせられている維持部隊の闇、深奥――『落日』。
( ……の割には、その気があれば関係者と思しき人物に簡単に接触も出来るんだよな )
「――当たり前じゃない。情報操作の基本よ。敢えて接触する事により、都合の良い情報を流し、悪いものはうやむやにして煙に巻く。だんまりを決め込んで逆に興味を引いてしまって好奇心猫を殺す事になんてなるよりも、調子を合わせて適当にあしらう方が肝心要の秘密を厳守出来るのよ。お解かり?」
「だから俺の心を読むな。サトリか、君は!?」
 二階堂の叫びに、画面の向こう側でセスナは肩をすくめて見せると、
「――人間も、突き詰めてしまえば、電気信号で動く生体機械でしかないからね。脳波も同じようなもの」
 とはいえ、セスナのような芸当は、通常の魔人では無理。重過ぎる負荷により意識混濁や神経衰弱……それでも良い方で、最悪になると脳が破裂する。笑いながらセスナは脅しを掛けてきた。
「……成る程。確かに異生だ、君等は」
 効果があるのならば自分の持つ全力を叩き込んで今すぐにでも葬りたくなる衝動を、二階堂は必死に抑えた。人間の世に絶望して家族に牙を剥く馬鹿たれ共の気持ちが不覚にも解る気がした。アステカ神群や天御軍等に“誑かされた”のだけが全てではない。そうだ――まさしく“反抗期の子供”に近いのだろう。
 ともあれ重い息を吐くと、
「……しかし何とか現場だけでなく、先回りして粉砕も出来たのは、君のお陰だ。礼を言う」
 だが、ふと疑問に思った事を口にしてみた。
「それにしても……小規模で、互いに意思疎通や協力関係、共同作戦や連携がなかったはずなのに、まるで示し合わせたように同時期に蜂起したのは何故だ?」
 二階堂の言葉に、セスナが笑った。まさしく地獄の底より、そして天獄の高みからの、人に非ざる笑み。気付いた時、二階堂の手にはP220があり、全弾が発射されていた。被弾したモニター画面や電子機器が粉々になっており、銃声を聞き付けて慌てて突入してきた警衛が目を丸くする。
 だが二階堂は騒ぎ出す周りを気にも留めずに、咆哮と共に引鉄を絞り続けていた。耳に残り、何度も繰り返されるのは、セスナの囁き。
 ――だって、そうなるように、アタシが誘導したんだモノ。下手に潜伏されるより、まとめて検挙した方が色々と効率的でしょ?
「――それが『落日』。維持部隊の闇、その深奥だ」
 肩を叩かれて、ようやく正気に戻った。瓶底眼鏡の奥で深い哀しみを湛えた沼部陸将が、力なく首を振るう。銃を持つ手を下ろして二階堂は床に身を沈めた。虚無感が重くのしかかっていた。沼部陸将は室内の惨状を見渡しながら、
「……『落日』に気を許すな。超常体と同じ――否、それ以上に危険な連中だ。頼むべき味方であるが、また倒すべき敵でもある」
「……いつか、勝てるんですか、あの異生共に?」
「さて。だが味方であれ敵であれ関わる以上は、相応の傷を負う事を覚悟しろ。幸いかどうか判らないが、セスナは随分とお前の事を気に入ったようだからな」
 この惨状については不問にしておく。そう明言すると、警衛を引き連れて沼部陸将は退室する。
「――嵐山公園には天使側と思われる超常体や叛乱者が襲撃を掛けてきたらしい。状況の確認を頼む」
 去り際の言葉に、しかし唇を噛み締めたまま二階堂は暫く無言で座り込んでいた。それでも、ようやく立ち上がると先ずは室内の掃除に取り掛かるのだった。

*        *        *

 MINIMIが唸りを上げると、空薬莢が次々と排出されていく。装填口へと5.56mm×45箱型予備弾倉M27からベルトリンクで繋げられた弾薬が送られ、敵を撃墜していく。
「……とはいえ、速さが毎分725発程度だから、ベルトでも30秒も保たないんだよなぁ」
「――な、何か、言いましたかっ!?」
 跳ねようとする銃身を軽々と抑え込み、架脚無しにMINIMIを構える大山のぼやきに、給弾を担当していた幸恵が舌を噛みそうな震えっ振りで返してきた。
「とにかく弾をくれ、コロポックル!」
「承知しました!」
 尽きた箱から、別の弾倉を素早く交換。この辺、幸恵は手慣れたもので淀みなく、銃手にストレスも与えず、また敵の接近をも許さない。
 敵は――千歳から大きく外れてきたのか、それとも道東部にも棲息していたがアステカ神群により今まで押しやられていたのか、普段は見掛けなかった有翼人身の低位上級超常体エンジェルズ。そして旭川駐屯地より事前に連絡があった不穏分子3名だ。正確な数、装備も守備隊へと筒抜けになっている事も知らず、嵐山公園を襲撃してきたのである。面白いように大山が仕掛けていた罠に引っ掛かる様子は、むしろ可哀想に思えてくる程だ。
「――しかし、あいつら、本当に鶏頭だろ?」
「そういえば、天使の事をよくチキンと呼ぶのは何故ですか?」
「あー。……隊長、何故だ?」
 漫画大王にして雑学博士の古川へと、大山は質問を丸投げ。BUDDYで敵を狙い撃ちする手を休めると、古川は弾倉交換しながら首を傾げ、
「……確か、色彩画で描かれる天使の羽は、鶏のものがモデルだからという理由だったような」
「本当に、答えが来るとは思わなかったぜ!」
 自信なさげに答える古川に、だが最初から期待していなかった大山は逆に驚嘆する。ちなみに題名は忘れたが、オカルト物の少女漫画が知識の源泉らしい。
「さておき――何が鶏頭だって?」
 耳聡く聞き付けていた古川が質問してくる。大山はアフロ髪を撫でるように触れると、
「――サマイクルが解放されて力を振るっている今、敵超常体は弱体化しているんだろ?」
 千歳や、遠い天草から話に聞く、エンジェルズお得意の祝祷系による光学迷彩や〈安らぎの光〉と称された精神攻撃。だが顕彰碑を依り代にして加護の力を振るうサマイクルの前では、満足に発揮する事も出来ず、ただ光線を放つぐらいだ。それでも縦横無尽に上空を飛び回り、高度と機動性の優位を確立されたら、また厄介な相手だったろうが……
「ぱっぱっぱっぱ〜♪ える・きゅうじゅー!」
 国民的人気を誇り続ける、青色の耳なし猫型ロボットの真似(※註3)をする古川。35mm2連装高射機関砲L−90を嬉々しながら操っている第248班員は、親指を立てた。
「おおー。派手にバラ撒いているだけあって、よく鶏が落ちていくな。しかし弾足りるのか……?」
 それでも圧倒的に守備側が優勢なのは否めない。
「だが、だからこそ、鶏共はサマイクルを害すのに必死なのだろう」
「哀れな特攻隊だな……」
 サマイクルを再び封印ないしどうにかする事でしか、弱体化から逃れる手段は無い。だが、どうにかすべくサマイクルに接近する事は弱体化が避けられない。二律背反する状況の中、それでも千歳や各地に展開している天御軍(アマツミイクサ)の兄弟姉妹の為に、突撃を繰り返す。
「――せめて魔人や、力のある信奉者が組織し、指揮して襲ってきたら、サマイクルの加護があってもオレ達が守り切れない恐れもあるんだが……」
 溜息を吐きながら大山は、84mm無反動砲カール・グスタフを肩に担いだ。そして外骨格に似た氣の鎧を身に纏った完全侵蝕魔人――パワーへと砲口を向ける。やっとの思いで大山が仕掛けていたM18指向性対人用地雷クレイモアの罠を突破してきたパワーだったが、カール・グスタフを向けられた驚きで硬直した。
「――グッバイ!」
 84mmHE弾が炸裂した。
「……状況終了。完全侵蝕されていない叛乱者で、まだ息のあるヤツは分縛って、警務科に引き渡せ。皆、お疲れ様!」
「「「お疲れ様でした!!!」」」
 大山や幸恵だけでなく、多少、傷を負いながらも元気良く第248班全員が声を上げた。

*        *        *

 双眼鏡を覗いて目標周辺の様子を窺っていた畠山が安全を意味する手信号を示した。Barrett XM109 25mmペイロードライフルに装着させていた照準眼鏡で覗いていた芦屋も問題無しの太鼓判を押す。
「――降下願います」
 芦屋の言葉に、操縦士はブラックホークを山頂に降下。着陸してキャビンを開放すると、久菜の号令を受けて零伍特務が素早く降り、冥府(ミクトランもしくはシバルバー)の“門”を包囲するように展開する。
「周辺の警戒を怠らないで下さい」
 運び出したMINIMIを三脚架に装着し、“門”へと向ける。周囲からの支援を受け、畠山が“門”を見張る間に虎子が、先日の手順通りにC-4爆弾の仕掛けを施し始めた。
「――やはり空輸があるのとないとでは違いますね」
 何度目になるか判らない謝意を受け、芦屋は照れ臭くなって頭を掻いた。
「そうですねぇ〜。ボク達が一時撤退して下山していた間に〜“門”から超常体がワンサカ出ていたらぁ目も当てられないところでしたぁ〜」
「何、その時はその時で私が一番に飛び降りて、切り込んでいくだけですじゃ」
 畠山の安堵雑じりの言葉に、だが西行寺は咽喉を鳴らして笑いながら些か物騒な事を口にする。久菜は呆れた調子で肩を落とすと、
「……西行寺先生が仰ると、洒落に聞こえません」
「洒落のつもりでないぞ?」
「いいお歳なのですから少しは自重して下さい。先程確認して、開いた口が塞がらなくなるところでした。函館の決戦で壬生准尉に骨まで断たれていたそうではないですか」
 何処から久菜が聞き付けて来たのだろうか。芦屋も思い出した。魔人は傷の治りが常人より早いとはいえ、確かに一月も足らずに暴れ過ぎだ。
「……ふむ。しかし老い先短い私が、冥府からお迎えに来た死神と相対する。痛快とは思いませんかのぅ」
 呆れる皆を尻目に朗らかに笑う、西行寺。零伍特務隊員が陰口を囁き合う。
「――“人切り妖忌”、何歳まで生きるつもりだ」
「もしかして“門”を潜っても生き残れるんじゃないか。『ここが私の住処じゃ!』とか嬉しさの余りスキップ踏みながら」
「……スキップ踏む“人切り妖忌”の姿は想像したくなかったなぁ」
 士気消沈したかと思われる程の零伍特務のムード。話題を変えるように畠山が目尻を深くしながら、久菜に言葉を向ける。
「――さておいてですねぇ、次に“門”から顕れる神はぁ、ボクはミクトランテクートリではないかと予想しているのですが〜」
 ミクトランテクートリは、名が意味する通り、最下層の冥府ミクトランの王だ。蜘蛛、梟、蝙蝠、間際、北の方角に関連付けられ、血塗れの骸骨または歯を剥き出した人型として描かれる。ミクトランテクートリの頭飾りは梟の羽と紙の旗で飾られており、人の目玉の首飾りを付けているとされる。
「他にも伝承によれば〜多数の姿を持つとされる為、異形系を持つ事が予想されますねぇ。……おっとぉ、大半のアステカの神は〜異形系ですねぇ」
 異形系という言葉に、西行寺がまた物騒な笑みを濃くしたが、一同は努めて見なかった事にする。西行寺の手にする大業物の日本刀には呪言系憑魔が寄生しており、危険極まりない。
「――ともかくぅ、その為に氣を用いて、心臓部の位置を探りたいと思いますよぉ」
「そうしてくれると助かるかな。わたしも氣で急所を探るつもりだけれども、狙撃に集中したくもあるし。――人間なら何処に当てても死ぬが、急所以外で倒せるような相手ばかりが来るとは思えないし」
「というか、そもそも対物ライフルで人間を撃つな!」
 総出の突っ込み。懲罰部隊の重犯罪者達からも芦屋は叱られた。芦屋が持つXM109は、米陸軍が湾岸戦争後に打ち出した対物狙撃兵器の開発を進める計画の中で、特殊部隊用に50口径(12.7mm)アンチマテリアルライフルより高性能で、より破壊力のある25mm弾を使用した重装弾狙撃銃(ペイロードライフル)の開発を打診し、米国の銃器メーカー、バーレット社が1990年代より開発を進めてきた大口径アンチマテリアルスナイパーライフルだ。超常体の出現により開発が遅れたが、2012年に制式採用され、一部米陸軍特殊部隊に先行導入されていた(※註4)。XM109は、重要構造物の破壊から駐機中の航空機、対人戦闘等まで幅広く使用され、その破壊力と命中精度によって少数精鋭の特殊部隊の戦闘攻撃力を飛躍的に高めている。
「――冗談でもぉ、人に向けて撃っていい代物では〜ありませんねぇ。相手は超常体ですから〜問題ありませんが〜」
「……ともあれ、現時刻において、敵超常体の出現は確認されておらず。引き続き警戒は密のままで――マサゴロウさん、仕掛の方は?」
 問われて、畠山は虎子に視線を送る。気付いた虎子が元気良く手を振った。そして親指を立てて、決め。
「トラちゃんさんもぉ仕掛け終わったみたいです〜。迎撃準備整いました〜」
「現在登山中の後続部隊が合流するのは明日昼ぐらいですね」
「……ヘリを往復させて拾ってこようか?」
 芦屋の申し出に、久菜は微笑むと、
「いえ、燃料が勿体無いですよ。確かに後続部隊も合流すれば心強いですが、それでも敵が出現するより先に充分過ぎる程の迎撃準備を整え直す事が出来ました。……本当に感謝します」
「明日の昼まで交代人数は最小限で監視ですじゃな。――興奮して眠れそうにないわい」
「「「――いいから寝て下さい」」」
 総員突っ込みが、今度は西行寺に向けられた。

 そして夜半。“門”を監視していた零伍特務隊員の夜番が異変を観測。極彩色の渦が巻いたかと思うと、虹色にも発光する“門”が色濃くなり、空気と大地が震動する。
「ショロトルが出現した際の前兆に酷似しています。敵襲、総員起床!」
 警戒喇叭が鳴り響く中、久菜が号令を掛けた。西行寺が愛刀を携え、畠山がJGVS-V8を装着して夜間戦闘に備える。未だ寝ぼけ眼ながらも、虎子は周りの緊張に触発されて徐々に覚醒を果たしていた。
『 ――離床する』
 操縦士の連絡に、キャビンに乗り込んだ芦屋が無線で応える。舞い上がったブラックホークから戦場を見下ろし、伏射体勢でXM109を構えた。
「――強制侵蝕現象を緩和する力場を展開します。総員、全力を尽くしなさい!」
 合図と同時に、久菜が発した氣を広げていく。西行寺が唇の端を歪めた。
「さて……この歳で演説をする柄ではないわ、私は既に人生を背中で語って見せた。臆する余り、安寧を求め、同胞を裏切る姿を後進に見せたいのであれば好きにするが良い」
 腰を落とすと、三日月状に笑う。
「――但し、斬るがな」
 すると零伍特務から返ってくるのは罵声。
『馬鹿にするな、“人切り妖忌”!』
『他の特務はいざ知らず、零伍特務に、我等が女神を見棄てる者はなし!』
『政府の思惑とか、維持部隊の存在理由なんて、小難しい話はどうでもいい! 俺達の命は、俺達の戦いは、寺岡准尉に捧げるのみ!』
 西行寺が咽喉を鳴らして笑った。
「――まったく零伍特務は女に狂った馬鹿者の集まりじゃな。私は、あなた達が嫌いではないですぞ!」
 雄叫びが上がる中、眼を凝らしていた畠山が警告を発する。
「――高エナジー体が〜来ますよぉっ!」
 そして“門”を通り抜けてナニカが姿を顕した。その数……1体ではない。
「――センセ、敵が一斉に溢れ出したネ!」
 虎子が悲鳴を上げるが、畠山は驚きながらも慌てずに指示を送る。
「焦らずぅいつも通りに〜、点火!」
「てっ……点火するネ!」
“門”の周囲に仕掛けられていた爆弾に点火信号が送られた。爆発に敵の群れが吹き飛んだ。その顔は骸骨で、手には鷲の爪を生やしているが、全体的なフォルムは女性のソレを思わせる。照準眼鏡で覗いていた芦屋の顔が苦虫を潰したようになる。
「……伝承に詳しい人っていないんだよな」
 呟きに応えるのは、久菜。
『恐らくは……シワテテオ。シワコアトルを守護神とするミクトランの使者』
 爆煙に包まれた戦場の中心に向けて、零伍特務がMINIMIやBUDDYで5.56mmNATOの弾雨を降り注ぐ。弾幕を抜けてきた数体を、西行寺が一刀両断。他の者も着剣したBUDDYで刺突する。だがJGVS-V8を装着した畠山の黒縁眼鏡の奥――でかい眼は、シワテテオに脇目を振らず、ただ“門”の中心を凝視していた。
「――本命が来ますよぉ〜!」
 シワテテオの群れに遅れて“門”を抜けて出てきたのは、スカートのように無数の蛇を腰に生やした怪物。豊満な乳房を持つ事から女性体と思われるが、一般的な美観から考えて、百年の恋も冷める程の醜い形相をしていた。上げる咆哮に憑魔核が脅え、衝撃と痛みが走るが、久菜が予め張っていた氣の幕の御蔭か、崩れ落ちて人事不省に陥る事はない。
「残念ながら〜予想は外れました〜。でも神なのは間違いないかとぉ」
「相手が神だろうとも、まず切ってみる!」
 力強く宣言して、シワコアトル[――]へと向かってシワテテオの群れを斬り開いていく西行寺。畠山は視線を送ると、虎子は頷いて担いでいたカール・グスタフから発煙弾を撃ち出した。煙幕に紛れた畠山は、虎子と共に駆け出すと、シワテテオの数に辟易し始めていた西行寺を追い越し、そして本命まで誘導する。
『マサゴロウさんと“人切り妖忌”に道を開けー』
『トラちゃん萌えー』
『この裏切り者。姐御一筋じゃなかったのか!』
 戦場だというのに元気だなぁと思わず苦笑。だが、すぐに気を引き締めると、畠山の発する氣と同調させて、芦屋は煙幕の中から敵を探り当てていく。そして高度からのXM109による狙撃。ブラックホークの揺れにも狂いを生じさせる事無く、狙い違わずにシワテテオを葬り去る大口径の雨滴。芦屋をはじめとする味方からの援護射撃により、シワコアトルに辿り着いた西行寺は愛刀の力を総動員させると、当たるを幸いに呪いを振り撒く。蛇の頭が両断され、傷口は腐れ落ち、鼻に付く臭いが充満する。だが臭いを気にせずに畠山は集中すると、心臓部の位置を探り出した。
「西行寺さん、胸元に心臓――核があります〜」
「助かりますじゃ! 正直、老体にはきついわい」
 言葉とは裏腹に、強化された身体能力で以って西行寺の剣技は益々鋭さを増す。邪魔な蛇のスカートを切り払い、胸を抉る。乳房を蹴飛ばして身を離すと、割り込んだ虎子が84mmHE弾を撃ち込んだ。
『……煙幕が晴れるぞ。折角の贈り物だ、使わなきゃ損。ジャベリン用意!』
 煙が晴れ、シワコアトルが再び姿を月の下に露わにしたところに、構えていたジャベリンを発射。駄目押しとばかりに芦屋が弾雨を振り注いだ。
『 ―各員、シワテテオの掃討に移りなさい! 1匹も残すな!』
 地響きを立てて崩れ落ちるシワコアトルを見て、歓びで緩みそうになった零伍特務へと、久菜が喝を入れる。西行寺も畠山も一息吐く間も与えられずに、敵残党を倒していくのだった……。
『 ――状況終了!』
「ようやく片付きましたか……“門”が閉まらん事には、これを繰返す事になるのですかのう?」
 昇る朝日を眺めながら西行寺が呟く。激しい運動にずり落ちそうになっていた黒縁眼鏡を掛け直して、畠山も息を吐いた。視線を北に移しながら、
「……旭岳の決戦に〜任せるとしましょう〜。ケツァルコアトルをどうにかして『柱』を倒せば〜“門”からは大物クラスは出てこなくなるという話ですし〜。若い者達の頑張りに期待ですねぇ」

*        *        *

 航空支援要請を受けて帯広から出動した北部方面隊の対戦車回転翼機AH-1Sコブラと観測用回転翼機OH-1ニンジャからなる編隊が、大雪山系の航空優勢を確保せんと、敵超常体カンヘルと格闘戦を開始した。固定翼機よりも遥かに俊敏性と機動性に優る回転翼機だが、より小型のカンヘル相手に苦戦を強いる。それでも、
『 ――糸工准尉、このまま突破しろ! Good Luck!』
 編隊リーダーの声に、敬礼代わりに応答すると、美鈴はチヌークを風雪の柱が立つ旭岳の頂へと走らせた。
「……“神”との契約により大地は既に人の子に委ねられた、聖書を疑う者は悪である」
 基督教カソリック原理主義過激派の呟きに、アイヌの内藤としては複雑な心境。カソリックに限らず、基督教徒は聖書の記述を信念に、古今東西、征服者は蛮行を繰り返してきたのだから。勿論、それは基督教といった宗教に限った話ではない。イデオロギー、貧富、民族、歴史……等々、人が同じ人を蹂躙する理由は、それこそ数多にある。相手が超常体という理由だけで戦うのは、どれほど楽な話だろうか。
「――これ以上の接近は不可能ですわ。各員、降下準備に入って下さい」
 内藤の心のうちを知らず、美鈴は淡々と状況を伝える。チヌークは風雪の柱による直接の影響が届かぬギリギリまで機体を山頂に近付けると、両弦のガンポートから突き出されたM134ミニガンやM240D機関銃で群がるカンヘルを撃ち払っていった。
「――降下、開始!」
 部隊長の合図に、先ずは第3、第25普通科連隊からの選抜員がラペリングを開始する。内藤の班は衛生科隊員で構成されており、本来は前線に赴く必要はないのだが、
「パラメディック隊、降下開始。各員、味方の救援活動に徹しなさい」
 凍えるような外気に歯の根を震わせながら、内藤は意を決すると降下を開始する。既に地上に降り立ち、カンヘルと交戦を開始している選抜員の後背や側面を護るように展開。内藤が敵に向けて光を放った。
「――拓、亜貴は防護壁を!」
「承知しています」「わかってるもん!」
 内藤の合図に、皆縫と新谷が氣の防護壁を展開し、カンヘルが器用に操るBUDDYからの弾雨を防ぎ切る。内藤は続けて光を放つと、示し合わせていた攻撃部隊はカンヘルの視界が潰されている間に突撃していった。
「負傷者の救護に全力を尽くすんだ!」
 美鈴が駆るチヌークの上空からの援護射撃もあって、選抜部隊と内藤班はカンヘルの守りを打ち崩しながら、山頂へと登り詰めていくのだった。

 正攻法の部隊とは別に、少なからず隠密裏に動く人員もいる。姿見駅跡から裾合平を経て、中岳温泉、間宮岳と時計回りに時間と距離を掛けて、旭岳北面へと辿り着く。結果として敵の目を引き付けてもらっている間に、別働隊はケツァルコアトルと風雪の柱を視界に収める事に成功した。
「――私が斥候を務めます」
 志願する柳沢を送り出してから、続いて各員もまた岩陰を利用しながら距離を詰めていく。地之宮は狙撃の位置取りを決めると、相棒と共に伏射体勢で息を潜めた。対物狙撃銃バーレットM95の薬室に12.7mm×99HEAT弾を送り込む。
『 ――柳沢一士の交渉が失敗した時点で、集中砲火を浴びせる』
 別働隊長の声に、無言で首肯。照準眼鏡の先に、柳沢の背を捉えて、事の推移を見送った。
「――憑魔核の疼きが激しい」
 ケツァルコアトルの存在が、柳沢の憑魔核を激しく刺激している。そして――ケツァルコアトルへと辿り着いた。風雪の柱の根元に座す、ケツァルコアトルは報告通りに、翼に見紛う程の多量の羽根で飾られた外套をまとっている。円錐形の帽子を被り、額には白い十字が入れ墨されていた。
「――戦いの前に話があるようだな、ヒトの子よ」
 瞑目したまま柳沢に問い質してくる。咽喉を鳴らして唾を呑み込んでから、柳沢は口を開いた。
「……主だった神を失い、ライバルたるテスカトリポカも去り、“ 唯一絶対主 ” の手勢が跋扈する今、アステカ神群に『遊戯』における勝利の可能性は乏しいのではないでしょうか?」
「……続けろ」
「――しかしミクトランから冥府の神々が溢れ出せば、この地は地獄と化すでしょう。無用な血を流す事は互いに望まないはず。『遊戯』を放棄し、退去を望みます」
 受け容れられる可能性は低いだろうが、ケツァルコアトルは生贄を嫌った事で追放されたという逸話を持つ。もしかしたらとあわやの期待を込めたが、
「――戦いには、勝つ為だけではない。負けない為の戦いもある。このまま退けば、来る『黙示録の戦い』において『戦わずの負け』という誹りを受けるだろう。そも、我が――否、アステカのモノが退く事への、ヒトの子等は何を対価とする?」
 ケツァルコアトルは、王として、神としての威厳を以って柳沢へと問い続けた。
「最早、ナウイ・エエカトル(4の風)の『柱』は立ち、我は『黙示録の戦い』を戦い抜く覚悟を決めた。その覚悟を退ける為の対価を提示せよ」
 風雪の柱が立つ前までならば、未だケツァルコアトルとの和平が成立する余地があったのだろう。だが『柱』は立ち、戦う意思を示した。それに対する交渉材料を、柳沢は持っていない。
「ヒトの子よ、汝の勇気は賞賛に値する! 隠れ潜んだつもりでいる誰よりも、我は汝を同胞に迎えると約束しよう!」
 ケツァルコアトルの閉じられていた双眸が開いた。風にあおられ外套が舞い上がり、ケツァルコアトルの氣が膨れ上がった。身構えるより早く柳沢の身を、ケツァルコアトルの氣が覆い潰す。
 ――衝撃に心身が叩き潰された。激痛に大地へと崩れ落ち、のた打ち回る。泡立つように無数の肉腫が膨れ上がり、内側から肉を引き裂いていく。引き裂かれた肉から血が吹き出し――裂けた肉の間を異常な速度で根を張り出した神経組織のようなものが埋め尽くしていく。口から泡を吹いて、悶絶と痙攣を繰り返す、柳沢。テスカトリポカの共生侵蝕現象を誘発させる波動と、ケツァルコアトルのソレは、限りなく近いが別物である。耐性が出来ているという過信が、柳沢から意識を奪っていくのだった……。

 ケツァルコアトルの氣が膨れ上がり、柳沢が崩れ落ちて痙攣し出したのを確認した瞬間、別働隊長から発砲の合図が下った。ケツァルコアトルへと集中する火線。だがケツァルコアトルは片方の掌を向けるだけで5.56mmNATOの弾雨を防ぎ切る。弾倉交換で生じた僅かな空白に、光線を発すると、遮蔽物の岩ごと隊員達を薙ぎ払っていく。
『 ――あと、2、3分だけでも保ち堪えてみせろ! 正面からの部隊が到着する!』
「……その時間で全滅しなければ良いけれどもな」
 思わず憎まれ口を吐きながら、地之宮は照準を合わせた。柱の影響で荒れ狂う風雪により、若干心もとないが、それでも地之宮は引き鉄に指を当てる。螺旋を描きながら銃口から射ち出された12.7mm×99HEAT弾は、氣の壁を張っていたケツァルコアトルの片腕を肩ごと吹き飛ばした。
「5.56mm弾を遥かに上回る威力だ。恐れ入ったか!」
 失った部位から焼夷剤がケツァルコアトルを焼き尽くそうと炎の舌を伸ばした。だがケツァルコアトルは焼失した部位を凍らせると、焦げた組織を切り捨て、蘇生を開始した。
「弾道がズレたが――やらせるか!」
 吐き捨てると、柳沢は薬莢を排出して次弾を送り込む。ポンプアクションの哀しさか、蘇生速度に間に合うかは微妙。だが、その差を埋めるように、生き残った別働隊員がBUDDYを乱射する。ケツァルコアトルが感心したような笑みを浮かべた。蘇生をそこそこに、今度は風雪の嵐を以って攻撃を阻む。攻撃を兼ねた嵐に、味方数名がまた傷を負ったようだが、
「――連射、連射、連射!」
 風を割って、バーレットから射ち出された大口径弾が敵を襲う。だが最初の一撃で心得たのか、ケツァルコアトルは風雪に乗って位置を素早く移動し、直撃を避け始めた。
「……『柱』というのが直接、倒せるものであったら良かったんだが」
 唇を噛み締める。『柱』と呼ばれているが、実際は凝縮された“力”の奔流が可視状態になっているもので、物理的手段で干渉出来るものではない。このままジリ貧状態に陥るのかと眉間に皺を刻んだ地之宮だったが、
『 ――時間だ。本隊到着したぞ!』
 カンヘルの防御陣を突破してきた選抜部隊が、挟撃する形でケツァルコアトルを狙う。カール・グスタフやパンツァーファウストの大型火器が惜しみなく発射された。総攻撃に、致命傷は避けながらも翻弄されるケツァルコアトル。そして――
「――先程はありがとうございました。これはお返しです!」
 皆縫と新谷によって、意識を取り戻した柳沢がスライム状に変化し、地面を這ってケツァルコアトルに肉薄していた。風雪の嵐や氣の障壁、そして光線を繰り広げるケツァルコアトルには、遠距離戦は分が悪い。ならば味方の銃弾や砲撃を掻い潜ってでも、白兵戦距離に接近する。……幸い、私は異形系ですし?
 粘液状態の一部から腕を作り出して、構えるはベネリM4スーペル90という軍用ショットガン。狙いはそこそこに、ケツァルコアトルの腹部に突き付けた銃口から12ゲージの一粒弾を叩き込む。氣の膜を張ったものの、間に合わずにケツァルコアトルの身体がくの字に曲がる。
「――もらった!」
 停まった瞬間を逃さず、狙い済ました地之宮のバーレットが火を噴いた。直撃に四散し、炎上するケツァルコアトルの肉片。更に駄目押しとばかりに、柳沢は隠し持っていたもう1つの大火力を至近距離で突き付けた。84mm無反動砲カール・グスタフ。
「――止めです!」
 爆発に、自分の身体も巻き添えで吹き飛んだ。焼夷剤が移ったのか、異形系の柳沢も全身火達磨。慌てて内藤が救護に駆け寄ってきた……。

 ……そして、美鈴は上空から観測する。
「――風雪の柱に、揺らぎを確認。崩れ落ちるように、掻き消えるように、そして溶け込むように……倒れましたわ」
 眼下で、歓声が沸き起こっていた。

*        *        *

 札幌や帯広といった各駐屯地から、傷病者や著しく戦闘には向かない老年、子供といった非戦闘員が疎開してくる。礼手の戦闘捜索救難用に改装されているMH-47Gがひっきりなしに上空を飛び交っていた。
「……主な公園やキャンプ場に張られた仮設テントはどこも一杯らしいぜ。人や物資が集まれば、それだけ警戒とか治安の問題とか生じるんじゃないの? 警務科は大変だぜ。嵐山公園も一部解放しているし」
 大山の呟きに、古川は肩をすくめながら、
「――天使共を倒し切れずに、千歳放棄せざるを得なかったらしいからな。俺達は刻限までに倒す事に成功したが、最悪、旭川や帯広もそういう結果になった可能性もある」
 巡邏している 稲生・香子(いなお・かこ)准陸尉が率いる第249班の様子を盗み見ながら、
「……アフロの懸念は間違いないが、内憂である不穏分子は二階堂士長の作戦で一掃したし、超常体という外患もサマイクルの加護があるから大丈夫だろ」
「余りサマイクル頼みというのもどうかと思うけど」
 苦笑しながら内藤が顔を出す。信代が配給していた糧食を手にしているところから、遅めのランチか。
「札幌は、和人(※シサム・シャモ。本州島の弥生系人種)のキナシュッウンカムイ……大物主だっけ?」
「うむ。お三輪様。しかし明治期、密かに北海道神宮へと移され、そして隔離政策で封じられていたとか」
「そのカムイの力で守られているとはいえ、千歳の最前線として睨み合いが続いているから、非戦闘員を避難させるのは仕方ないんだろうね」
「頼るものが増える分、サマイクルの株が上がるさ」
 大山の言葉に、内藤は複雑な表情を浮かべた。サマイクルの影響により、道東は人類が安寧に暮らせる地として解放されている。神威神群ひいてはアイヌの完全復権を目指すにはこの状況は願ったり叶ったりと思われるかも知れないが、他地域の混乱あってのものと考えれば素直に喜べないものもある。
「大雪山系が天然の障壁として立ちはだかっているから、サマイクルの加護抜きで考えれば、疎開先としては帯広が一番なんだろうが」
 内藤の心境を気にもせず、大山が言葉を続けた。
「まぁ、5月半ば、駐屯地ギリギリまで追い詰められていたからな。まだ施設の機能が完全に回復したとはいかないらしい」
「そして余剰人員を受け入れられるまでに回復した頃には、刻限が――来る」
 男達は、まるで示し合わせたかのように南西を見詰めるのだった。

 沼部陸将に上げる報告書を書き終わり、ようやく柳沢は一息を吐いた。オカルトや民俗学的見地から縣に協力してもらったが、やはりデスクワークは性分ではない。ブラザー認定してくれる同好の士と一緒になって、重火器や爆弾を弄る方がまだ心が休まるというものだ。嵐山公園の警備に回るか、旭川駐屯地の防衛に戻るか、悩むところだ。
「――と、二階堂士長? あの演説で迷い掛けた皆を救って下さった立役者が、随分と浮かない顔をしていらっしゃいますね」
 沈んだ表情で書面をいじっている二階堂を見兼ねて、柳沢は声を掛けた。力ない笑顔をようやく形作ると、眼鏡の位置を正しながら二階堂は、
「――電波な悪魔に目を付けられてね。見てみるか?」
 差し出された書面の内容に目を通して、柳沢は眉間に皺を寄せる。
「――召集令状ですか?」
「ああ。……貴官の活躍を認め、黙示録の戦いへの参加を要請する――落日中隊って書いている。強制ではないから、召集に応じなくとも別に咎めは無いと沼部陸将も助言してくれたが」
「……沼部陸将が助言?」
 いぶかしむ柳沢。更に口を開くと、
「失礼ですが、二階堂士長は戦闘に秀でた方とも思えません。確かにあの放送や電子機器を利用した警戒態勢の確立には、感服致しましたが……」
 テスカトリポカやケツァルコアトルの言葉からの類推、そして縣が立てた仮説によれば『黙示録の戦い』は今までの人間vs.超常体という戦いの図式ではない。超常体vs.超常体――否、神々同士の戦い。仮令、人間に割って入る余地があろうとも、過酷な状況に違いない。
「そうだな。正直、場違い、力不足な気はする。だが困った事に、電波な悪魔に目を付けられてね」
 再び深い溜息。口元を歪めると、
「本当に俺なんかが参戦したところで、何が出来るかも謎なんだが。尤も電子戦限定ならば――相手が神でも張り合える自信はある」

 刻限までに出来る限りの復興が押し進められている帯広駐屯地。旭川に移送される傷病者相手に、第5後方支援連隊・治療中隊第2班乙組長の 森・緑(もり・みどり)二等陸曹が、迎えの回転翼機が到着するまでの間、自身の体験談を嬉しそうに話していた。
「――間に大雪山系があるとはいえ、敵は翼という飛行手段をデフォルトで有していますから、油断は出来ませんわ」
「残り少ない燃料をやりくりして、どこまで迎撃出来るかが鍵だな」
 避難民を移送する様子を見遣りながらの美鈴の上申に、第1対戦車ヘリコプター隊長は頭を掻く。正直、あと1機につき、2、3回も飛べれば良い方だ。航空偵察等に費やす余力もない。
「地上戦力も5月に侵攻された際に激減しているからな。正直、猫の手も借りたいと菅家陸将がよくぼやいている。――零伍特務は動けんからな」
「……ですわね。ケツァルコアトルといったアステカの高位上級超常体が倒れ、柱も消えたとはいえ、“門”とかいうのも無くなった訳ではないそうですから」

 零伍特務隊員は、かつて重犯罪を起こした者とは思えない程に、今では人が好い。下山の準備を進める芦屋へと別れを惜しむように涙を流しながら握手を求めてきたり、記念と称して一同集まっての写真を撮ったり、己に配給された分を割いてでもお土産として何でもいいから持たせようとする。
「――本当に、零伍特務は愉快なところですのう。無邪気な幼子を見ているようですじゃ。あなたが隊長になった時には、正直どうなるか心配したものじゃが」
 横目に見ていた西行寺が溜息を吐く。
「……こう言っては何じゃが、あなたにとっても、あやつらにとっても喜ばしいものかも知れんですのう」
 西行寺の言葉に、久菜はただ黙って微笑み返すだけ。
「――あなたの力を以ってすれば、壱参や零肆の悪童共も改心したのではないかと思いますじゃ」
「……それは、どうでしょうか? 壱参の郷田准尉は本物の大魔王だったという話ですし、もしも接触していたら、取り込まれるか、或いは私が死体になっていたかの2つに1つだったと思いますが」
「――そうなる前に、私が駆け付け、切り殺してくれましょうぞ」
 咽喉を鳴らして西行寺が笑った。しかし直ぐに顔を引き締めて、
「ケツァルコアトルが倒れて“門”から高位超常体が出なくなっただろうが、それでも監視は怠れない……か。これは一種の島流しですじゃな。今後も零伍には苦労を掛けますのう」
「西行寺先生のお気持ちだけで、報われる気が致します。……札幌に戻ったら、田中一佐や小波先輩に宜しくお伝え下さい」
 心得たと返事する。芦屋の呼び掛けに応じて、西行寺はブラックホークへと向かう。
「――マサゴロウさんも下山されるのですよね? 僅かな間でしたが寂しくなります。うちの隊員達もマサゴロウさんのサバイバル知識に助けられました。今後も教えて下さった知識を活かしていきます」
 話を向けられて、畠山は笑顔を返した。
「ボクの知識がお役に立てて何よりでした〜。あなた達、零伍特務の皆さんは〜本当に素直な生徒さん達で随分と教え甲斐がありました〜。気軽には様子を伺いに来られないでしょうが〜皆さんならば大丈夫です〜。とはいえ体調には〜本当にお気を付けて〜」
 虎子もまた芦屋同様に別れを惜しむ零伍特務隊員に囲まれていた。
「――総員、敬礼!」
 久菜の号令により零伍特務が一糸乱れずに敬礼。芦屋達が乗り込んだブラックホークの姿が見えなくなるまで、ずっと敬礼をし続けていた……。

 ――そして夏至の日。世に言われる黙示録の戦いが始まった。高位の超常体が、神州の支配権を巡って相争い始める。天を覆う、神の御軍。地を覆う、魔の群隊。人々は拠点を死守するのに精一杯だった。

 静内駐屯地付近に潜伏し、天使の動静を警戒する。照準眼鏡の先に映るヴァーチャーの姿に、地之宮は軽く舌打ちをした。
「――日を追う毎に勢力が増していますね。連絡によると札幌方面への圧力が高まっているそうですが、道東にも突破を図ろうとしているのが判ります」
 相棒の分析に首肯する。ところでと相棒は話を変えると、
「うちの『女王様』から相変わらず地之宮さんへのラヴコールが激しいのですが。落日中隊への召集令状、どうします?」
「未だ検討中だ、と返事しておいてくれ。そのうち、俺の方から返事するさ」
「……私が言うのも何ですが、ろくな部隊ではないのは確かですよ?」
 心配する相棒の声に軽く笑ってから、地之宮は再び照準眼鏡で敵を捉え続けるのだった。

 だが……人々は戦い続ける。愛するモノを護る為に。信じるもの――隣にいる者、身近にいる人々の為に、何度でも銃を手に取り、護り続けていくのだ。

 


■状況終了 ―― 作戦結果報告
 北海道東部(南亜米利加)は、今回を以って終了します。
『隔離戦区・獣心神都』第2師団、第5師団編の最終回を迎えられた訳では在りますが、当該区域作戦の総評を。
 神居古潭封鎖から始まる、テスカトリポカとの攻防とサマイクル復活は皆様の働きにより、充分以上の戦果を得ました。テスカトリポカの性格からくる神居岩の手薄さはありましたが、迅速に戦力を投入して奪取した事が大きいと言えますが、誰よりも早く嵐山公園の重要性に注目した内藤和華二曹の慧眼には感服しました。なお浅学の為にアイヌについて描写が不十分なところがありました事をここにお詫びします。
 十勝岳奪還戦でも迅速な戦力の投入があり、目的は達成しましたが、ウェウェテオトルが悪足掻きするを阻止するに足るには後一歩及ばなかった事が悔やまれてなりません。その為、使い捨てが可能な零伍特務だけでなく、貴重な戦力を監視の為に割かなければならなくなったのが、ちょっとした痛手になったと言えるでしょう。
 旭岳のケツァルコアトルにおいては、途中アプローチのない時間が生じてしまった事が、柱を立ててしまう状況にまで発展しました。これは襟裳岬のチャウチウィトリクエも同様であり、最悪、第4回という早い段階で襟裳岬に潮霧の柱が立ち、十勝平野は消滅してもおかしくない状況でした。戦力の分散は問題がありますが、敵を放置しておくのもまた大変な局面を招くとお気を付け下さい。なおケツァルコアトルに限っては、本文にあります通り、平和的に決着を付ける展開もございました。
 屈斜路湖と摩周湖の恐竜騒ぎは、コメディ・パートと用意してあったもので、過剰な戦力集中に驚いたものです。
 それでは、御愛顧ありがとうございました。
 この直接の続編は、当分先になると思います。とりあえずは、時間を少し溯りまして、同時期に東北方面及び北陸での作戦に御参加頂ければ幸いです。
 重ね重ねになりますが、ありがとうございました。

●おまけ・設定暴露:
 零伍特務の久菜と、『すすきの女王様』宇津保小波准陸尉は同世代で、(小波)先輩、(久菜)後輩の仲。久菜が特務へと追放されるまで、札幌における幾つもの問題を解決してきた名コンビだった。
 久菜が零伍特務へと送られたのは、彼女が恋した少女を取り巻く状況から解放すべく動いた為(※参加者のデータを読んでからの後付設定だが)。職権を濫用した行いは未だ良い方で、殺人にも手を染めていた。
 久菜は完全侵蝕魔人だが、統合の際に本人の意識が勝った為に、人間側として行動している。但し『認められて』おらず、また日本の神々からは『外敵』として判断されている。サマイクルの波動でダメージを受けたのはその所為。正体はアステカ神話に伝わる大地と愛欲を司る女神トラソルテオトル。名は「不浄の女神」を意味し、トラソルテオトルに罪を告白した人々の死に際に、彼等の元を訪れる。そしてトラソルテオトルはその者達の「不浄(罪)」を食べると言われる。またトラソルテオトルに仕える女性神官は、戦場に赴く者達の「聖なる娼婦」となって罪を洗うとともに、勝利を祝っての生贄として捧げられたという。
 サマイクル以外のカムイは、未だに封印されているか、或いは危険視されない程に力が弱い為に、封印される事も無いが、超常体から逃げ隠れるしかない立場にある。かつて抑え付けていた和人の神々が封印され、またサマイクルが解放された事により、徐々に勢力を取り戻していくだろうが、まだ『黙示録の戦い』へと積極的に参加出来る程ではない。そもそも参戦する資格すら与えられていない状況にある。仮に参戦出来たとしても、勢力としては一日も経たずに滅ぼされる程の力関係でしかない(サマイクルのような強力な個体は少しでも生き延びられるだろうが……倒されるのは時間の問題。旭川における加護は守勢でしか役に立たず、しかも人間と支援しあってのもの)。

※註1)大雪山系……現実世界では、2009年7月、悪天候に見舞われてツアーガイドを含む登山者9名が低体温症で死亡した、トムラウシ山遭難事故が記憶に新しい。……御冥福を御祈り致します。

※註2)ジャベリン……現実世界では2003年のイラク戦争で初めて実戦使用された。だが神州世界においてイラク戦争は勃発せず、また開発期間が長くなり、調達配備も遅れている。

※註3)青色の耳無し猫型ロボット……当然、声真似の対象にしたのは、大山のぶ代さん。現実世界では2004年で水田わさびさんに交代しているが、神州世界では、永遠に大山のぶ代さんである。平和になったらリメイクされて新しく配役が決まるだろうが……。

※註4)XM109……此方の世界では2003年に制式採用されており、つまり実在する(ノンフィクションな)化物銃である。


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