西暦1999年、人智を超えた異形の怪物――超常体の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
国際連合は、世界の雛型たる日本――神州を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
――其れから20年。神州では未だに超常体と戦い続けていくはず……だった。
転機が訪れたのは3月下旬に各地で大発生した超常体の襲撃。此れまで群れ成すだけだった超常体が、組織的に作戦を行ってくるという悪夢。高位の存在や完全憑魔侵蝕魔人によって統制された超常体の群れは、幾つかの駐屯地が壊滅させ、少なくない人命を奪っていった。
其れは『遊戯』と呼ばれるモノの前哨戦。世に言う『黙示録の戦い』で力を誇示する為の準備であり、篩い分けであった。
夏至を境に、高位の超常体が、神州の支配権を巡って相争い始める。天を覆う、神の御軍。地を埋める、魔の群隊。人々は拠点を死守堅持するのに精一杯だった。
――しかし、其れでも人々の中には、抗い、挑み、屠る事を目指して、戦いを辞めぬ者も居続ける。剣刃を研ぎ澄まし、銃筒に火を落とす。生きていく為に、智慧を巡らし、仲間の手を握り、そして明るい日を見る為に……。
……此れは、人と、魔と、神の、裁き。
黙され、示されぬ、戦いの記録である――。
……黒を基調としたゴシックロリータ衣装を纏うのは、雪のように白い肌の美少女だった。凛とした面持ちは清楚を過ぎて、冷酷な印象をも周囲に与えつつもあるが――
「「「よっしゃ! キター!!!」」」
黒ゴスロリ美少女を出迎えたのは、熱狂的な歓声。空を響かせ、地を轟かせんばかりの声を上げたのは、神州結界維持部隊北部方面隊。北部方面総監部と第11師団、そして超常体――天使共(ヘブライ神群)の猛攻を受けて千歳一帯を放棄し、札幌周辺に間借りし、部隊を展開している第7師団だ。男性だけでなく女性の姿も少なからず見えるのは、其れ程迄に、黒ゴスロリ美少女―― 遠野・薫(とおの・かおる)二等陸士が歓迎されていることの表れだろう。
薫が所属している音楽科は、音楽演奏を通じて隊員の士気を高揚させ、合わせて地域住民との交流を促進させるのが役割だ。神州が隔離された後は、娯楽に乏しくストレスの溜まりがちな状況を少しでも緩和する為の慰問機関として再設定されてきた。音楽演奏に限らず、舞台演劇・活動写真(映画)・曲芸技をはじめ、いわゆる芸能活動にまで広がっている。
ましてや夏至の日以降は駐屯地堅持が、維持部隊に下された絶対遵守の命令である。千歳を追い出された第7師団の鬱憤は如何ばかりか。加えて調子に乗った天使共は札幌にまで襲撃を広げている。夏至の日以降、超常体同士での争いが主であり、人類を脅かす件は少なくなっている。だが、此れは別に超常体が人類を襲わなくなったという事では無く、攻撃対象として優先順位が下がっただけに過ぎない。事実、札幌に辿り着く迄にも、薫は天使や魔群(ヘブライ堕天使群)との交戦を経験している。
兎も角、東北方面音楽隊・魔法少女番組撮影班『魔法少女マジカル・ばある』の主演の1人だった薫の知名度は北部方面隊でも高かったらしく、当番で無い維持部隊員が物見遊山で出迎えに来たという訳だ。……だが花束だけでなく、弾薬や缶飯(戦闘糧食I型)を贈り物にするのは正直どうかと思う。
余りにもな熱狂な歓迎振りに、一瞬、薫の冷たい双眸も崩れ掛けたが、其処はプロフェッショナル。努めてクールに返した。『マジカル・ばある』終了後に新たに組織された撮影番組スタッフに替わって応対するよう合図すると、心得たとばかりに動き出す。かつてマネージャーを兼任していたWAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)程ではないが、其れなりに付き合いが出来た仲だ。薫の“秘密”も承知している。
さておき札幌駐屯地へ着任する挨拶と称して、北部方面総監部の司令室へと歩を進めた。歩を進める薫の周囲を警務科が固めているが、護衛のつもりだけではないだろう。……冷やかな笑いがこぼれた。
警衛に敬礼を交わしてから、司令室の扉を叩く。許可を貰うと、薫は室内に足を踏み入れた。好奇と警戒が入り混ざった視線が注がれてくるが、薫は意にも介さず凛として敬礼。北部方面総監の 酒山・弘隆[さかやま・ひろたか]陸将だけでなく、真駒内駐屯地から第11師団長と第7師団長が答礼を返す。
「ようこそ。遠野二士の来訪を北部方面隊総出で歓迎する。……と言っても君は維持部隊員の慰問に来た訳ではないようだが」
酒山陸将の苦笑に、薫は冷然と微笑み返した。第7師団長の 久保川・克美[くぼかわ・かつみ]陸将が不敵な笑みを浮かべる。
「――大体の目的は解っているぞ。千歳に向かうのだろう? 支援してやりたいのは山々だが、生憎と命令は駐屯地の絶対堅守だ。大手を振って応援は出来ん」
隔離以降、暴論迄の実力主義に則り、二等陸士から陸将まで上り詰めた女傑。だが久保川陸将は心底から悔しそうに呟いて見せる。
「……同行者を募りたかったのですが無理ですか」
薫の言葉に、久保川陸将だけでなく酒山陸将や第11師団長も揃って首肯した。
「少なくとも組織や機関として協力する事は出来無い。個人的に仲間を募るのには目を瞑っても良いが」
久保川陸将の提言。酒山陸将が咳払いをして、
「厳密に言うと、規範を乱し、命令に背く……どころか、脱柵扱いになるのだがな」
「其処は其れ。『落日』が何とか処理するだろう」
酒山陸将の困り顔に、第11師団長が頭を掻いた。
(そう……『落日』。あぁ、アレね)
兎も角、薫は眉を微かに傾けると嘆息。
「個人的に……と仰っても、人数分の食料と装備の見込みがありませんので、無理は言えませんね」
「心情的にはハチヨン担いで、遠野二士に付いていきたいところだがね」
流石は生きる伝説。第7師団長という肩書や立場を放り投げ、無茶に乗っかろうとして来る。冷や汗を掻きながら酒山陸将と第11師団長がたしなめた。
「久保川陸将……頼むから自重してくれ」
「ただでさえ札幌一帯にも天使共が襲撃を掛けてきて、攻勢に出る余裕も無いというのに」
ボヤキを耳聡く聞き付けて、薫は問い掛ける。
「……其れです。“天獄の扉”が開いた千歳は兎も角、札幌一帯は大物主様の御力で護られていると聞いていましたが――どうして?」
薫の質問に、だが御三方は顔を見合わせた後、
「「「……解らん」」」
と異口同音で答える。
「指摘する通り、パワーより上は兎も角、大物主神の影響でプリンシパリティ以下の低位超常体は札幌に接近する事も適わないはずだ」
「しかし6月末になってからアルカンジェルが率いるエンジェルスの編隊も近郊で目視されている」
其れもあって容易に千歳へと反転攻勢が出来ないのだ。千歳の“ 神の裁き( ショフティエル[――])”がまとめる天使共は札幌へと襲撃のみならず、函館を経て、青森――本州へと南下しているという。流石に日高山脈を越えるのは容易でないようで、帯広への大規模な侵攻はないが、其れでも襟裳岬や夕張、狩勝峠に天使共の姿が散見されるらしい。
「函館はハストゥール騒動の痛手から完全に回復していないからな……」
溜息を吐いてから酒山陸将は顔を上げると、
「兎も角、話は戻すが、原則的に組織や機関レベルとしては支援出来ない。どうしても、というならば……」
「すすきの、だな」
「ああ。……宇津保准尉を頼るしかないだろう」
苦笑と諦観と、そして何故か絶望が入り混じった表情を浮かべる久保川陸将と第11師団長。御三方の表情に、薫の背筋にも冷たいモノが流れる。
「……すすきの。宇津保准尉ですか」
「宇津保・小波。需品科……第11師団第11後方支援連隊補給隊の准陸尉。通称『すすきのの女王』。北部方面隊における人的諜報(ヒューミント)の長だが……」
言葉が澱む。暫く頭を掻いてから、
「正真正銘の異生(バケモノ)だ。油断すると獲って喰われるぞ。――性的な意味でも」
性的な意味というのが、よく解らないし、解りたくもないが、
「……多分、大丈夫です。わたしも似たようなものですから」
努めて冷静を装って、薫は返す。そして、首を傾げると、
「今更ながら思うのですが、よく、わたしと対面する気になりましたね? 東北方面隊から出向してきたモノですよ。吉塚の手のモノと御疑いにはならなかったのですか?」
薫の問いに、久保川陸将は苦笑で返すと、
「予め小波から情報を寄越して貰っていたし。其れに」
「……其れに?」
「青森から『丁重に扱わんと、青函トンネル封鎖する。津軽海峡の往復船便も、三沢の航空便も出さんぞ』と脅しの声が――」
青森に駐屯している第9師団は東北方面隊隷下にあるが、反吉塚派だ。吉塚が日本政府に叛旗を翻しても、追従はしなかった。だが、其れよりも……
「――『マジカル・ばある』の熱烈なファンでしたわね、あの御方」
直接的な協力は期待出来ないが、縁と繋がりは易々と断ち切れない。そして今、青森にいる仲間を思って、薫は口元を微かに綻ばせるのだった。
対面する老体の男は派手にクシャミをした。白色を基調としたクラシックドレス風の魔女っ子、桃山・城(ももやま・しろ)二等陸士は一瞬、顔をしかめるが、
「――いやはや、誰ぞ、儂の事を噂しておるのかの? 国恵ちゃんか、其れとも薫ちゃんかのぅ」
好々爺を越して、好色爺の笑みを浮かべる第9師団長の顔に文句を付ける気が失せた。
「……つい先日、吉塚派に暗殺され掛けたとお聞きしましたから、顔を出したものの……随分とお元気です事。心配無用でしたわね」
呆れた声で口を尖らすと、第9師団長は茶目っ気を込めてウィンクしてくる。再び軽く溜息。
東北方面隊第9師団が駐屯している青森。現在、東北方面隊は大きく吉塚派と非吉塚派の2つに分かれている。面倒な事に、組織的な縦割りで分かれている訳でなく、宮城の東北方面総監部から距離が近いか遠いかで吉塚の影響力が伺えられるという、境界線が曖昧なところが厄介だ。同じ駐屯地内、同じ師団内、同じ普通科連隊内であっても、誰が吉塚派かそうでないかは判断がし辛い。とはいえ多くは、6月の決起時に動向が判っている。だから問題は工作活動員として潜伏している連中の事だ。警務科が洗い出しを進めているが、まさか踏絵じみた事が出来るとは思えない。そもそも怪しい素振りと言うだけならば……、
「人間に紛れ込んでいる妖怪達も考慮しなければなりませんわね」
日本古来の土着の超常体――妖怪が、東北や北陸に駐屯している維持部隊の中に紛れ込んでいるというのは暗黙の了解、公然の秘密だ。ところが今まで怪しい素振りがあっても「そうかもしれないなぁ」で済まされていたものが、吉塚派の決起により「害を及ぼす動きでは?」と疑心暗鬼に駆られてしまいがちになる。警務科もさぞかし頭の痛い事だろう。
其の様な状況で人手を募るのも難しい。桃山もまた馴染みのお偉いさんに挨拶するついでに戦力を増加させようとしたが、
「……南からは荒吐連隊が牽制しておるし、北からは天使共の来襲しておるからのぅ」
また駐屯地堅守は絶対命令だ。余程の事態が動かない限り、組織的な協力は望めない。第9師団長は申し訳なさそうな顔をしながら、
「まぁ……個々人が白ちゃんの呼び掛けに応じるというのには目を瞑るが」
「そうですか。――大丈夫ですわ。いざとなれば、わたし独りでも何とか致しますから」
「やはり……恐山か」
「ええ。色々とお世話になりましたから、返礼はしておきましょうかと」
恐山に開いた時空の綻び、裂け目――通称“門”から現れた羅刹(ラクシャーサ)神群に後れを取り、撤退せざるを得なかったのは、つい先月の事だ。下北半島を封鎖し、野辺地町役場跡に分屯地を置いての警戒監視が続けられている。幸いにして羅刹神群は恐山に陣を置き、下北半島を制圧したが、其れ以上の版図の拡大は止まっていた。野辺地町からの観測によると、津軽海峡を越えて来襲する天使共や、何処からともなく沸いてきた魔群と潰し合いをしているらしい。
「羅刹神群の動きが止まったのは、静岡で奴等の王が倒された事も大いに関係するだろうというのが、上からの見解じゃが」
「其れでもヤミー様の安否が気になりますわ。“向こう”でもヤマ様が動いているという噂もありますが」
何れにしろ超常体――デーヴァ神群の事情であり、確証は得られなかった。此のままでは咽喉に刺さった小骨の様に、桃山としては気に障って仕方ない。戦力を募って恐山に向かおうとするのは悪鬼羅刹に身柄を拘束されている ヤミー[――]の安否が気遣われるからだ。出来るならば救助したいし、他の勢力が動いているのならば確認もしたい。
桃山の決意を見て取ったのか、第9師団長は暫く沈黙。秒針が何周かしてから、ようやく口を開く。
「……観測されたデータから推察されるに、羅刹や天使、魔群とも異なる人型の超常体が実際に動いているらしい。荒吐連隊の人造魔人とも違う。此方との接触は今のところ無いが、彼等の動向にも充分に気を付けていくのじゃぞ」
返答代わりに、桃山は優雅な動きで敬礼をしてみせたのだった。
市ヶ谷駐屯地に在る防衛庁舎の執務室で、長船・慎一郎[おさふね・しんいちろう]維持部隊長官(※註1)は、秘書官の 八木原・斎呼[やぎはら・さいこ]一等陸尉から状況報告を受けていた。
「……別府からの報告によりますと、宇佐八幡宮には有志5名が突入する模様です。また伊丹でも2名が潜入を図るとの事。如何致しましょう?」
「命令は『駐屯地の堅守』だ。其れは変わらない」
だが長船は不敵に笑いつつ、
「とはいえ彼等が自発的に動いたのならば仕方ない。くれぐれも“誤魔化し”の方は宜しく。死に物狂いで戦ったのに、帰ってきたら『脱走』扱いとして処刑されるなんて心が折れる」
手にしたペンを振りつつ、
「――彼等が帰ってこられる場所を護る事。其れが私達の出来る最大の手助けだと思うよ」
だからこそ広げられた地図上を睨む。視線の先は関東。つまり長船の首元だ。
「警務科が、子谷陸将補の周辺を洗い直しや、駐日中共軍の動向を監視していますが、現在のところ、おとなしい模様」
ちなみに『黙示録の戦い』の流れ弾に擬装して、吹き飛ばしてしまえと言う、別の意味で監視しなければならない強硬な意見も在ったり無かったり。
「駐日中共軍と言えば、氷川神社の周大尉はどうなっている? そして最も注目されている茨城だが……」
長船の確認に、斎呼は頷き返すと、
「氷川神社の駐日中共軍埼玉派遣部隊は『黙示録の戦い』でも静観を決め込んでいます。周大尉は抱いていた野心を10年前に失っていらっしゃいますから」
駐日中国人民解放軍(※駐日中共軍)埼玉派遣部隊は、氷川神社へと要らぬ襲撃をしてくる天使共や魔群を撃退するぐらいしか動きは見せていない。大宮駐屯地の維持部隊と上手く棲み分けしているらしいが、積極的な交流とまでは行ってないようだ。
「問題は、大甕倭文神社の駐日中共軍の茨城派遣部隊です。吉塚軍の先遣部隊と接触――交戦が開始されました」
太古の地母神である 荒吐[あらはばき]を擁立する 吉塚・明治[よしづか・あきはる]は、人造魔人を編制して日本政府へと叛旗を翻した。自身の意向に沿わぬ者達――青森や秋田、山形の維持部隊には牽制の動きを見せているが、現在のところ、積極的に進攻とまでは行っていない。勿論、工作員の浸透が考慮出来る為、各駐屯地の警務隊は有事に備えての警戒を怠っていない。
兎も角、北や西に睨みを利かしながら、吉塚軍の主戦力は南下。本隊は福島を占拠し、先遣部隊が茨城に進入。大甕倭文神社を護る駐日中共軍茨城派遣部隊と接敵したという。
「人造魔人で編制されている荒吐連隊ですが、駐日中共軍も大半が魔人兵です。加えて宝貝(パオペイ)と称する憑魔武装を持っています」
「――殲滅したのか?」
どちらが、どちらを、とは問わない。意を汲んで、
「生憎と、吉塚の先遣部隊は撤退に成功。偵察任務は果たしたと看做されます。数日後には本隊も茨城へと進攻するでしょう。駐日中共軍茨城派遣部隊との激戦は回避出来ません」
駐日中共軍茨城派遣部隊の実質的指導者である 項・充[シィァン・チョン]少尉は、埼玉派遣部隊の 周・国鋒[ヂョウ・クオフォン]大尉と共に、駐日中共軍三本指に入る実力者だ。また大甕倭文神社にある要石―― 天津甕星香香背男[あまつみかほしかかせお]が封印されているというモノを直接護っている、車・奉朝[チェ・フェンチャオ]六級士官は最強と謳われている。簡単には吉塚軍も目的を果たせないだろう。
「念の為に、勝田駐屯地へとEAiR(Eastern Army infantry Regiment:東部方面普通科連隊)の展開を急がせています。また滅日大尉と結野准尉にも至急、練馬で待機するように要請中です」
「『落日』の隊長、副官も抑止力として出すか。出来れば『落日』が表に出てくる事は避けたいのだがな」
長船は苦虫を噛み潰して、熱湯で咽喉奥へと無理矢理流し込んだような沈痛な表情を浮かべる。其れ程迄に嫌なのだろう。だが斎呼は素知らぬ顔のまま、更に悪い情報を追加。
「――聞きたくないが、何だね?」
「セスナに不審な動きが見られます。痕跡は消していますが、どうも国外に対して何らかの通信を行っている模様です。不自然な電力量の消費も確認されました。検針の数値上は問題無いように見えますが、改竄されています」
電波妖精を自称する セスナ[――]は電子戦のエキスパートだ。其の正体は『落日』でも極秘扱いになっており、長船でさえも知らされていない。情報生命体もしくは精神寄生体ではないか?という推測を笑い話として、斎呼へ口にした事があるが、肯定も否定もされなかった。
そんなセスナが不穏な動きを見せている……?
「――随分と穏やかな話ではないな」
「はい。……もしもセスナが狂ったとしたら、維持部隊の――否、地球上全ての情報通信網が、人類の敵に回ります」
アルカンジェルが指揮を執るエンジェルスの哨戒班が上空を過ぎていく。気配は充分に隠しているつもりだが、派手な黒ゴスロリ風のボディアーマー。少しでも隙を見せたら、すぐさま発見されるだろう。
「こんな事ならばギリースーツを要請するか、そうでなくともポリシーを捨てて、標準の迷彩服を着用すれば良かったわ」
内心で毒吐くと、薫は慎重に前進を再開した。天使共の哨戒だけならず、要所には大量の罠が仕掛けられて潜入を阻む。古典的なスネアやホールヌーズだけでなく、デッドフォールにスピアトラップ、そして指向性対人用地雷M18クレイモア。地面や木陰に隠されている罠を発動させるワイヤーに触れぬよう、目を凝らし、耳を澄ませ、臭いを嗅ぎ分けなければならない。
「報告によると、“神の裁き(ショフティエル)”の側近の熾天使1羽にサバイバルの達人がいるのね」
幾重にも張り巡らされた罠を仕掛けたのは、間違いなくソイツの仕業であろう。6月半ばの突入の際にも苦しめられたと聞いていた。
木々の合間から山頂を仰ぎ見る。樽前山の頂から立ち上る光の柱――燭台の灯と、其れによって開かれた『天獄の扉』が遠くからも確認出来た。
支笏洞爺国立公園跡地に属する、樽前山は溶岩ドーム(※樽前山熔岩円頂丘)を有する世界的に珍しい三重式火山である。4万年前に爆発を起こした支笏カルデラの南縁部に形成された後カルデラ火山だ。
山頂にはコンクリート造の樽前山神社奥宮があり、明治初年、樽前山周辺の原野を開拓するに当たり、山麓に大山津見を祀ったのに始まる。そして樹木の神である久久能智、草原の祇である 鹿屋野比賣[かやのひめ]を合祀した。だが、往古より秀麗なる尊容から山そのものを神体と仰ぎ、あるいは山嶺を神が居る崇高なる霊域と仰ぎ、祭祀を厳修してきたという。
だが大山津見は瀬戸内の大三島にある大山祇神社に封じられたまま。久久能智は鹿児島の屋久島にある縄文杉に封じられていたところを解放されている。残る鹿屋野比売が封じられ、そのまま天使共に囚われての燭台の灯の燃料代わりにされているというのが、大まかな推測だ。
「光の柱はコアになる存在が必要だと噂に聞いているけど……鹿屋野比賣様だとは」
鹿屋野比売の別名は野椎。『野の精霊(野つ霊)』の意味であり、後に転じて蝮とされるようになったり、蛇の化け物と言われるようになったりしている。野椎は、野槌とも表記され、名前から頭と尻は同じ大きさで柄のない槌の形をしているとされ、人の足に食いつくとされた。都市伝説のツチノコと同一視される説もあるが……。
「零落させられた天神地祇の末裔や眷属ともいうべき存在――すなわち妖怪。つまり、わたし達の――」
改めて意を決すると、更に先を進む。慎重かつ迅速に……。
罠や哨戒への警戒をしながらの登山路は困難を極めた。だが込み上げてきそうな焦燥を冷たい心で押し潰して、黙々と進む。携帯している糧食には余裕があるが、時には山菜を採取したり小動物を狩猟したりして腹を満たす。
そして太陽と月が2周ぐらいした頃に、ようやく燭台の灯の根本――樽前山神社奥宮と、熾天使共の姿を視界に捉えた。
周囲は鎧に似た外骨格を備えるパワー数羽が配置に付き、人頭獣身のケルプが奥宮前に座する。傍には四翼の天使ドミニオンに指示をするショフティエルの姿があった。
(……側近である3羽の熾天使の姿は確認出来ず)
何処かに潜んでいるのだろうか? 札幌の襲来や、函館そして青森への遠征に出ているのかも知れない。何れにしろショフティエルを倒すのであれば、側近不在の今が好機とも言えた。
樽前山頂には身を隠せるような物は無い。火山性の土壌であり、斜面は開けている。〈消氣〉で薫の事を察知し辛いとはいえ、何かの拍子に注視されたら絶対に見付かる。其れでも敵の指揮ユニットを撃破する可能性があれば、此の好機を活かすべきだろう。
薫は背負っていた得物を組み立てると構えた。XM109ペイロードライフル。重要構造物の破壊から駐機中の航空機、対人戦闘等まで幅広く使用され、其の破壊力と命中精度によって少数精鋭の特殊部隊の戦闘攻撃力を飛躍的に高めており、そして神州において此処、数か月の間で最も愛用されているだろう対物ライフルだろう。操氣系魔人が張る障壁や雷電系魔人の斥力結界どころか、空間系と呼ばれる能力で生じた湾曲空間さえも貫く大火力。特にショフティエルといった“処罰の七天使”は空間系をも有していると言われており、XM109はそんな奴等へも効果的に大打撃を与える武器として周知されている。
XM109の照準眼鏡が動き回るショフティエルを捉えるべく追い続ける。微かに自身が震えている事に、薫は気付き、唇を噛んだ。……岩手の時を思い出す。其の時、薫達は最大の理解者を喪った。
心を押し殺す。大きく息を吸い、ゆっくり吐いた後に息を止めた。身体を弛緩させる。だが意識は鋭く照門の先に結ぶ。目標との間に張り詰めた1本の線が見えた。そして薫の指が引鉄を絞り――
……ケルプの咆哮が轟いた。周囲のパワーズが十重二十重の氣の障壁を張り、ドミニオンもまた分厚く巨大な防盾を形作る。其れでも25mmHEAT弾は貫き通すと、身を庇ったケルプを肉塊に変え、目標の左腕を吹き飛ばした。
「――外したわっ!」
歯噛みする余裕も無く、ただ苛立ちを吐き捨てて、薫は逃走に入る。周囲からは天使が無数に殺到してきており、一瞬の躊躇が死を招く。氣を全開にすると、宙に浮遊。其のまま天使に追い付かれない程の急速で樽前山を離脱したのだった。
……運が悪かったとしか言えない。音より速く飛来する銃弾だ。本来ならば狙い違わずにショフティエルに命中していたはずだ。しかしケルプが引き鉄を絞った瞬間、此方を向いた。気配は殺していても姿は隠せていなかった薫を看過せず、警戒を促した。
御蔭で目標を仕留める事に失敗した。其れでも邪魔したケルプの始末には成功し、またショフティエルの片腕を吹き飛ばしている。追撃されている間も、側近である3柱の熾天使の姿が無かった事から、不在なのは間違いない。
「……だと、したら……もう、少し、で、倒せる……かも、知れない、わね……」
山麓にある廃屋へと潜り込み、天使の追撃から逃げ切った薫は息を切らせながら呟いたのだった。
野辺地町役場跡に設営された分屯地を過ぎて北上、国道279号線沿いに下北半島に入れば、今や羅刹神群の支配域である。
とはいえ天使共の斥候隊が上空を垣間見える事から考えても、羅刹鬼の影響力も芳しくないと伺えられる。ホワイトドレスが上空から発見されないように、慎重に進む。北海道で活動中の同僚も同じ苦労をしているのだろうか? 九州に行っているのは……シンプルな魔女っ子仕様だから、ゴスロリやクラシックドレス程、見付かり難いかも知れない。桃山は此の時知らなかったが、九州に向かっている友人は同行者に恵まれ、現地で盛大に暴れていたという。
……さておき目的地である恐山は青森の下北半島の中央、カルデラ湖の宇曽利湖を中心とした外輪山の総称であり、高野山と比叡山に並ぶ三大霊場の1つに数えられている。外輪山は釜臥山、大尽山、小尽山、北国山、屏風山、剣山、地蔵山、鶏頭山の八峰。そのうち恐山山地の最高峰となる釜臥山に大湊分屯地があり、麓には官舎が、頂上付近には展望台がある。
釜臥山麓の大湊分屯地に辿り着いた桃山だが、官舎内に潜り込んで一息を吐く事は出来なかった。官舎を遠巻きにする形で周囲を探る。
下北半島から維持部隊が一時撤退してから半月近くは経過している。しかし誰かが、しかも複数、此処を拠点にしている形跡が見られた。
息を潜めて様子を伺っていた桃山だったが、ナニモノかの気配を背に感じて凍り付く。
「――ゆっくり両手を上げて、振り返れ」
能力で炎を撒き散らして逃走を図ろうとも考えたが、相手は複数。操氣系能力持ちだけならばいいが、火に耐性のある地脈系もいたら分が悪い。また問答無用で射殺されなかった事を考えて、とりあえず桃山は振り向いて見せた。
青黒い肌で、髪の色だけが赤い羅刹鬼――ではない。痩せぎすだが、筋骨はしっかりしていて、脆弱な印象は受けない。贅肉を絞り切った戦士の姿。そして何よりも、手にしているのが弓矢のような原始的な武器では無いのが、桃山の目を引いた。其れは現代兵器。ブルパップ方式のアサルトライフルだ。
「……マイクロ・タボール!? いいえ、ジッタラですの? 兎も角、駐日印軍(※印度共和国軍)が何故、青森に?」
以色列(イスラエル)のIMI社が最初に設計し、其の後、小火器部門が分離独立した民間銃器メーカーであるIWI(イスラエル・ウェポン・インダストリーズ)社が生産・販売する、元はイスラエル国防軍向けに開発したアサルトライフルがタボールAR21(※Tavor Assault Rifle - 21st Century)である。そして従来のタボールの設計を元に短機関銃並みの全長を実現したのが、マイクロ・タボールだ。印軍はMTAR-21を購入したが、更に口径5.56mm×30ミンサスを採用したモデルを発注。此の最終モデルがジッタラであり、主に印軍特殊部隊で活用されている。
桃山が驚くのは仕方無い。駐日印軍――デーヴァ神群が活動しているのは静岡を中心とする東海地域だ。東北の更に奥地である青森で姿を見掛けるとは……。
だが、じっくり観察して気付く。ジッタラを装備しているが、彼等は完全侵蝕魔人では無く、人型超常体だという事を。向こうも桃山を観察して、
「見慣れぬ服装だが、どうやら此方の世界の物に違いない。だが、お前――ヒトではないな? 砂漠のモノ(※註2)が変じた存在でもないようだが」
「……レディを値踏みするなんて失礼ですわ。先ず自ら名乗るのが常識では無くて?」
桃山の返しに、面食らう人型超常体だったが、
「確かに失礼した。代表して名乗るが、俺はヤマ様に仕えし『トゥルダク』のドローナという」
日本では閻魔天で知られる ヤマ[――]に従う、骸骨の姿をした死の病魔がトゥルダクだ。そして ドローナ[――]をはじめとするトゥルダク達は、羅刹鬼の虜囚となっているヤミーの救出に、此方の世界へと赴いてきたらしい。
「……私は桃山。人に紛れて暮らしているけれども、真の身姿は炎と技術の妖怪タタラ」
「タタラというと、俺達の世界ではアグニ様の眷属に当たるモノだな」
素性を伝えると、トゥルダク達は顔を見合わせる。ドローナに耳打ち。一瞬、驚きの表情がドローナに浮かんだ。そして慌てて銃口を降ろし、謝罪してきた。
「――此方の世界で羅刹、餓鬼や獄卒鬼と戦っていた勇者とは露知らず、失礼した。申し訳無い」
「あら。まぁ……。私達の活躍が向こうでも?」
津波の様に迫り来る悪鬼羅刹の群れを吹き飛ばしていた大火力の持ち主として聞こえ伝わっていたらしい。何だか恥ずかしいモノもあるが、其れよりも……。
疑問が顔に出ていたのだろう。気付いたドローナはジッタラを指すと、
「ヴィシュヌ様から、お預かりした。弓矢よりも飛距離があり、また威力も高い」
デーヴァ神群の主神格である ヴィシュヌ[――]の化身(アヴァタール)が、駐日印軍の実質的指導者だというのは公然の秘密だ。ドローナだけでなくトゥルダク達全員が印軍の武装をしている事は推測出来た。
兎に角、ここぞとばかりに桃山はトゥルダク達に協力を申し出る。
「ヤミー様の救出というならば、私も力になりますわ」
「其れは心強い。此方こそ、お願いする」
トゥルダク達に加わった事で、恐山潜入が随分と捗るようになった。祝祷系能力を持つトゥルダクは居なかったが、気配を抑えるようになれたのは、かなり大きい。勿論、道中、哨戒中の羅刹鬼や、斥候の天使との回避出来ない戦闘も発生したが、桃山の出番が来るまでも無くトゥルダク達が迅速に処理。少なくとも此方の存在が露見するのは遅らせられたと言えるだろう。其れでも油断は禁物であり、宇曽利湖へと到達したのは7月半ばだった。
「――羅刹鬼自体は少ないですわね」
下北半島全土に散っている事もあるだろうが、北から襲来する天使への警戒に戦力が割かれているのだろう。しかし、其れを差し引いても本陣の防備は堅い方に見えた。羅刹鬼の数よりも、“門”から沸いて出てくる餓鬼や、馬頭鬼や牛頭鬼といった畜獣頭の獄卒鬼が多いのだ。
「彼等は本来、ヤマ様に仕えし冥府の民なのだが、今は羅刹の王女であるシュールパナカーに操られている」
「……住人って。私、かなりの数を吹き飛ばしてしまいましたわよ? 大丈夫なのかしら?」
強張った表情で桃山がドローナへと確認する。だがドローナは苦笑を浮かべると、
「問題無い。此方の世界で受肉した身体は、元の世界のモノと近しいが、同一ではないから……だそうだ」
桃山は首を傾げるが、ドローナだけでなく他のトゥルダクも、ヤマから言い伝えられているだけで、上手く説明出来ないらしい。超常体が此方の世界に顕れるルールに関われるとの事。但し此方の世界で生態系を確立してしまった場合は別らしいが。
兎に角、今の話から シュールパナカー[――]が祝祷系に近い能力を有している事が把握出来た。
「そういえば……そもそも、恐山から羅刹神群が出る理由は解りませんでしたけれども」
「時間と空間の繋がりに付いて、俺ごときには説明が難しいが……」
苦渋の表情を浮かべるドローナ。別のトゥルダクが替わって推察を並べる。
此方の世界の恐山と、デーヴァ神群の世界にあるヤマが支配する冥府は、時空間的に近接していたと考えられる。そしてラーヴァナが餓鬼や獄卒鬼を兵力に加えるべく冥府に攻め入った際に、其の衝撃の余波で綻び、亀裂が生じ、“門”が顕れたのではないか。ちなみにラーヴァナが冥府を襲撃する件は、叙事詩『ラーマヤーナ』にも記されており、今回も其れに倣ったモノと思われる。
「そして恐山は地獄道を救済せんとする地蔵信仰――つまりヤミー様に繋がると」
強引にも思えるが、一応、話は繋がった。さて残るは……。
「ヤミー様の救出ですわね。しかし、此の数を強引に突破するには戦力がやや足りたいと思いますわよ」
「其の点は抜かりない。何とか間に合ったからな」
空には下弦の月が浮かぶ、7月13日。ドローナは腕に腕時計を指し示す。そして――
恐山に点在する大小の“門”が爆発的に発光した。虹色の光が乱舞する中、向こう側から人型超常体の編隊が沸き出してくる。其れは羅刹と異なる鬼――夜叉の兵士だ。剣で武装しているだけでなく、トゥルダク達の様に銃器を構えているモノもいる。奇襲に羅刹鬼が混迷している瞬間を突いて、桃山はトゥルダク達と共にヤミーが囚われているだろう恐山菩提寺へと駆け抜ける。トゥルダク達の突入に気付いた羅刹や獄卒鬼もいたが、
「モモ☆モモ☆ファイヤー!ですわ」
改良が施された自慢の96式40mm自動擲弾銃が轟くと、肉片を撒き散らす。
【……ヤマの従僕共かっ!】
外の異変に気付いたシュールパナカーが怒りの声を上げると同時に、氷の飛礫を放ってくる。火炎系である桃山は反射的に身構えてしまうが、ドローナが氣の壁を張ると同時に、
「幻惑だ! 其処に無いと見極めれば害は被らない」
シュールパナカーと共に出てきた羅刹鬼をトゥルダク達が迎え撃ち、桃山の壁となった。銃声や剣戟の音が周囲を埋め尽くす。
「――タネの判った手品だと知っても、淑女は臆病なモノですわよ?」
軽口を叩いて震える身体に気合を入れると、桃山は全力を96式40mm自動擲弾銃に注ぐ。広範囲に渡るはずの威力を、意識で誘導して一転に集中する。爆炎や弾体がシュールパナカーへと注ぎ込まれていった。其れは巨大な投擲槍の如し。まさしく……
「――必殺、真☆マジカル・ジャペリン」
断末魔の叫びも上げる事を許さずに瞬殺。同じ頃、羅刹王族のカラを仕留めたのだろう。夜叉の兵士達が勝利の雄叫びを上げたのだった。
救出されたヤミーだが虜囚時の衰弱が激しく、トゥルダク達と共に向こうの世界へ還るという。ヤミーは桃山に感謝の意を述べると共に、結局、争いが継続する事に哀しみの念を浮かべていた。
「結局……羅刹神群から、デーヴァ神群に支配者が変わっただけですわね」
カラを倒して羅刹神群に勝利した夜叉の兵隊は、“門”より王である クベーラ[――]を迎えると、恐山を対天使の前線基地として再占領。餓鬼や獄卒鬼はトゥルダクに連れられて冥府に戻るが、敗残の羅刹の群れは、クベーラの下でデーヴァ神群の兵士として再教育されるらしい。
「クベーラ様……富と財宝の神。地下に埋蔵されている財宝の守護神であり、また北方の守護神」
またの名をヴァイシュラヴァナ。仏教に於いて多聞天――つまり毘沙門天。印度から中華を経て、日本に渡る過程で、武神としての性格を有する事になった存在。ラーヴァナとは異母兄弟(※註3)であり、夜叉の王にして、羅刹をも従える。
「戦いたくはありませんが……でも何だか気になってしまいますわ」
デーヴァ神群は維持部隊に友好的だが、やはり桃山には遣る瀬無い気持ちが残る。
“門”に関してもだ。ヤミーの言葉によれば、『異なる時空を括ると共に聞き入る巫の力を司る御方』――菊理媛が封印から解放され、力を振るい始めているので、何事も無ければ遠くない未来には綻びが修繕されるらしい。だが――
「……『黙示録の戦い』の結末次第では、此の世界其の物がどうなるか判らないですものね」
時折、虹色に瞬く“門”を見詰めながら、桃山は呟くしかなかった。
■作戦上の注意
当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
また過去作のノベルを参考にする場合、PCが当事者でない場合、然るべき理由が確認出来なければ、其の情報を用いたアクションの難易度は上がり、最悪、失敗どころか没になる事もあるので注意されたし。
全体的に死亡率が高く、下手な行動は「即死」と考えて欲しい。加えて、常に強制侵蝕が発生する事態を念頭に置かれよ。
基本的にPCのアクションは超法規的活動であり、組織的な支援は受けられない。
※註1)防衛庁……現実の世界では2007年に防衛省へ移行しているが、神州世界では日本国政府の総理府・内閣府の外局のままである。防衛庁長官は、神州世界に於ける維持部隊長官を兼任している。海外の日本国政府からの派遣という形をとっているが、実質的な神州における政策面の頂点。文民統制の建前上、一切の武装及び戦闘行為は許されていない。現職(7代目)は長船慎一郎。維持部隊の暴論までの実力主義は長船の方針による。
※註2)砂漠のモノ……デーヴァ神群から見て、ヘブライ神群=天使を含む、アラブ圏内の存在を総称したモノ。ちなみに「アラブではアスラが神・デーヴァは魔」とヒンドゥー教とは逆転しているという有力説がある。ゾロアスター教が有名なところだが、イスラム教の唯一神アッラーフも語源的にアスラの流れを汲むという少数説もある。
※註3)ラーヴァナとは異母兄弟……『ラーマヤーナ』ではラーマ(ヴィシュヌ)に投降して兄ラーヴァナと戦った羅刹の王族ヴィビーシャナがいるが、クベーラと同一視される事もある。