――神州結界維持部隊・東北方面総監だった 吉塚・明治[よしづか・あきはる]が計画した日本国政府への叛乱。太古の地母祇である 荒吐[あらはばき]を神輿に担ぎ上げた吉塚は、NEAiR(North Eastern Army infantry Regiment:東北方面普通科連隊)に荒吐の力を施した、人造魔人部隊――通称『アラハバキ連隊』を編制。吉塚の計画を察知した維持部隊の深奥たる秘密機関『落日』によって特殊戦略群の強襲を受けたものの、此の春からの超常体の大規模攻勢に隠れて計画を進行。遂に叛旗を翻した。
吉塚の反旗を受けて素早く手を打ったのは、維持部隊長官直轄の警務科部隊。警務科の素早い動きの御蔭で、吉塚に恭順の意を示すモノは少なく、また東北に隠れ潜んでいた日本古来の土着の超常体――妖怪も離れてしまう。
其れでも吉塚をはじめとする、荒吐を神輿に担ぐモノ共は周囲に睨みを利かしながら、南方へ進軍。茨城の大甕倭文神社に封じられた服わぬ神、天津甕星香香背男[あまつみかほしかかせお]を取り込もうと、警護していた駐日人民解放軍(※駐日中共軍)と交戦を開始。だが維持部隊の有志による破壊工作を受けて、戦線を維持出来なくなり、遂には岩手にある達谷窟の“光の柱”を破壊されただけでなく、吉塚も暗殺。
此れ等を受けて、荒吐と慕うアラハバキ連隊員は戦意を喪失。山中に隠れて消えたという――。
……と、此処迄の騒動をまとめて、桃山・城(ももやま・しろ)二等陸士は大きく溜め息を吐いた。WAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)に相応しからぬ、白色ベースのクラシックドレス風に見立てた魔女っ子ボディアーマーを着用している。だが数日前迄は、血と泥に塗れ、硝煙の臭いが染み付いた戦闘迷彩II型を着用して東北を縦断していたのだ。息抜きも兼ねて、趣味の衣装を着ていて何が悪い?
「……あら? 此の格好は私の趣味でしたかしら?」
確か、最初は慰労の為に企画された魔法少女番組の撮影衣装として押し付けられた様な気もしない訳でもないが……。うん、趣味という事にしておこう。
「何にしろ似合っているから良いんじゃね?」
首を傾げていた桃山の眼前で、胡坐をかいて盃を重ねていた美女が笑う。
酒類が禁止されている神州日本に於いて、美女が傾けている盃を満たしているのは清水だ。其れでも満足気に美女は盃を呷る。桃山は溜息を吐いた。
「――瀬織津姫様の御姿も似合っていらっしゃると申し上げて善いのか、悪いのか」
桃山の溜め息に、美女―― 瀬織津姫[せおりつひめ]が大笑いする。露出度が高くなるように改造した戦闘迷彩II型。下衣は膝上の位置で破り捨てられ、健康的な生足を惜しげもなく曝し出している。防寒戦闘服外衣を羽織っているが、内は迷彩柄のビキニブラを着ただけ。女性の目からしても羨むばかりの美しい胸の谷間が見え隠れしていた。
(……此れが祓戸大神様なのですからねぇ)
瀬織津姫は『倭姫命世記』において八十禍津日神の別名とされ、また祓神かつ水神で、穢を川や海に流す役目を持つ祓戸四神の1柱だ。宇治の橋姫神社では橋姫と習合されている。また祇園祭鈴鹿山の御神体は鈴鹿権現として、能面をつけ、金の烏帽子を被り長刀と中啓を持つ瀬織津姫を祀る。此れは伊勢の鈴鹿山で人々を苦しめる悪鬼を退治した鈴鹿権現の説話に基づく(※註1)。
岩手の遠野、早池峰神社でも祀られており、神州結界・隔離政策時に、此処に封じられていたらしい。荒吐の助力を求めた吉塚によって、封印から解放されたという。しかし荒吐に助力した後は、中立的な位置付けで吉塚と相対していたとか。そして桃山だけでなく戦友達も瀬織津姫に匿ってもらったらしい。
そう――吉塚が死に、荒吐とアラハバキ連隊員が戦意を喪失しても、岩手や宮城は桃山にとって今なお敵地に変わりない。補給や休息を求めて駐屯に気軽に立ち寄る事は叶わないのだ。
従って岩手で活動するに当たって、中立を標榜する遠野を拠点とさせてもらっていた。
「匿ってもらっている時点で中立も何もないと思いますけれども……」
「そう言うな。少なくともアタシのテリトリーで誰であろうと暴れさせる気はねぇんだよ」
そう言ってから悪態を吐くと、瀬織津姫は桃山へと複雑な表情を向ける。
「……茨城で姿を消したアラハバキが、今は岩手に隠れ潜んできているのは確かだよ。とはいえアタシのすぐ膝元である遠野でないから好きにしな。だがアラハバキの“子供”が多いから、追い詰めるのはお勧めしないねぇ」
瀬織津姫に言われて、桃山は眉根を寄せた。先日に同行していた『落日』の 結野・静花[むすひの・しずか]准陸尉達は、荒吐が姿を消したという連絡を受けて、もう用は無いとばかりに瀬織津姫への挨拶もそこそこに別の戦地へと向かった。静花達との別離で、桃山は多少の寂しい思いをしたものの、
「しかし担ぎ上げられていたとは言え、主神格なのは間違いありませんわ。勢力として離脱して頂く為にも、決着を付けましょう。其れが礼節だと思いますので」
可能性も手に入りましたし……と桃山は布の切れ端みたいなモノを大事そうに取り出した。比礼だ。女性が首に掛けて、結ばずに左右から同じ長さで前に垂らす装身具。しかも只の比礼ではない。
「――蛇比礼(おろちのひれ)か。其れをアタシに向けるんじゃないよ」
心底苦手そうな顔をして瀬織津姫が呟く。物部氏の祖神である饒速日命が伝えたとされるモノ――十種神宝の1つである蛇比礼。饒速日命は那賀須泥毘古が奉じていた神だったが、神武東征において裏切りとも取れる行いをしている。何とか蝦夷に逃げた那賀須泥毘古は、新たに荒吐を奉じるのであるが……。
「瀬織津姫様も苦手ですか?」
「蛇比礼は蛇の神性に関わるモノ全てに影響があるからな。アタシは祓神かつ水神。水と蛇の神性は結び付いているからねぇ」
というか蛇の神性を持たぬモノの方が珍しいんじゃねぇか?と瀬織津姫は唇を尖らす。桃山は苦笑しながら、
「兎も角、試みて見ましょうかと。其れで駄目なら、諦めるしかありませんね」
「まぁ……アラハバキを弱らせて封じるには役立つんじゃねぇかな? とはいえ――葬れるとか考えるのは辞めておけ。というかアラハバキを無視して、別の戦いに蛇比礼を持っていた方が良かった様な気もするんだが……」
「確かに。二大決戦に参加とか、色々考えてみましたけれども……。でも敬意を払うという意味で、こうなりました。悔いの無い終わり方をしたいですからね」
桃山の言葉に、瀬織津姫は天を仰ぐ。そして清水を盃に注いで、乱暴に呷った。
「――此れが“意思”による選択か。なら、仕方ねぇわな。だが最後に1つだけ忠告しておいてやる」
桃山に向き直ると、
「アラハバキは絶対に殺せねぇ。というか外津神の連中がアタシ等――神州日本古来の天神地祇を封じるだけだったのは何故だと思う?」
再び盃を傾けた。
「――アタシ達が“此の世界”だからさ」
――北海道、旭川。
北部方面隊第2師団が駐屯する此の地は、春から初夏に掛けたテスカトリポカの攻勢により、大規模な損害を受けた。
だがカムイの英雄 サマイクル[――]が封印から解かれ、また7月には千歳を押さえていたヘブライ神群(※天使共)の処罰の七天使が1柱“神の裁き(ショフティエル)”が討ち倒された事もあって、北海道における超常体の脅威度は大幅に減少。旭川も例外でなく平穏に作業を進めていた。
「函館の方もようやく体を成すぐらいには復興が進んできているって話だし、北海道は安泰かねぇ」
報告書から顔を上げると、大きく背伸び。第9普通科連隊第248班長の 古川・均[ふるかわ・ひとし]三等陸曹は欠伸を噛み殺す。
「……青函トンネルの往来は、安全とは言い難かったですけれども」
小柄なWAC―― 小山内・幸恵[おさない・ゆきえ]が咎める様に呟くと、古川は座り直して頭を掻いて見せた。
……吉塚が暗殺され、アラハバキ連隊の戦意が失われたとはいえ、東北は未だに平穏とは言い難い。月讀[つくよみ]が復活している山形、瀬織津姫が坐しているだけでなく荒吐が隠れ潜んでいるという岩手を除けば、今年の春から活性した超常体が蔓延っているのだ。青森は恐山を拠点にしたデーヴァ神群の クベーラ[――]が夜叉や羅刹の混成部隊を率い、天使共に替わって勢い付いてきたヘブライ堕天使群(※魔群)と交戦している。主神格である ヴィシュヌ[――]は維持部隊に友好的である為、デーヴァ神群が青森の駐屯地へと襲撃を掛けてくる事は無いだろう。しかし万が一を考えて非戦闘員の多くが青函トンネルを抜けて、北海道に疎開を続けている。
燃料不足の問題から空輸は難しい。また海運は隔離されて以来、政治上の問題から艦船や舟艇が廃棄されてしまった事もあり、不可能だ。本州との連絡網は陸路しかない。青函トンネルが超常体に奪われたら、其れこそ死活問題だった。
「……まぁ、現在の最大の激戦地は奈良だったっけ? 中部の連中には悪いが、此方は羽を伸ばして休ませて貰っても罰は当たるまい」
と思い出した様に、古川は視線を幸恵に改めて向けると、不思議そうに首を傾げた。
「……アフロマンは?」
「すみません、はぐれちゃいました。私が旭川に戻る為、青森駐屯地に挨拶した時には、既に……」
「……存外に根性無しのヘタレめ。折角2人きりの御膳立てをしてやったのに」
悪態を古川に、幸恵は不思議そうな顔をする。古川は溜息を漏らすと、
「まぁ戦場を求めて走り回っているんだろう。――激戦地と云えば、零伍特務が十勝岳から帯広に帰ってくるそうだぞ?」
第05特務小隊(※零伍特務)――重犯罪者で構成された懲罰部隊の1つである。懲罰部隊は各師団毎に存在しており、零伍特務は帯広の第5師団長、菅家・輝生[すがや・てるお]陸将の直轄下にある。春からの超常体との激闘時、十勝岳に開いた冥府(ミクトランもしくはシバルバー)の“門”を常時監視かる任務を与えられていたはずだが……。
「どうも『“門”が括られた』とか、何とか……。本州中部の白山連峰の媛祇様の御力らしいな」
神州日本に開いた、時空間の裂け目――“門”。大きなものは3つあるという。十勝岳のミクトランもしくはシバルバー、恐山の地獄、そして山口の秋芳洞に埋没したタルタロスだ。恐山はデーヴァ神群が押さえており、また秋芳洞にはオリンポス神群最強と謳われる ハーデス[――]が監視を続けているというから、菊理媛[くくりひめ]は十勝岳の“門”を最初に“括った”ようだ。
「とはいえ、現時点で最大の激戦地は奈良だ。幾ら激戦地に送られる懲罰部隊とはいえ、零伍特務が奈良へ派遣されるのは筋違いだろう」
「……向こうの特務はどうなっているんですか?」
幸恵は当然の疑問を口にする。だが古川は複雑な表情を浮かべると、頭を横に振った。奈良を管轄する第3師団の懲罰部隊――零参特務は、京都奪還作戦時に壊滅しているからだ。
「兎も角、俺達はする事がないんだな、此れが。『魔法少女マジカル・ばある』みたいに動ければ話は別だけれど。其の点からもアフロマンには期待していたんだが……」
途中で言い淀む。そして古川は再び溜息を漏らすのだった。
――子を想う母は強く、また母を護らんとする子の想いも強い。
追跡の果てに、隠れ潜んでいた荒吐とアラハバキ連隊残党を発見した桃山を出迎えたのは激しい抵抗だった。茨城で戦場を離脱した頃より、荒吐を取り巻くアラハバキ連隊員の数は倍近くまで膨れ上がっている。数が多くなった分、追跡は容易くなったが、比例して抵抗の度合いも激しくなっていた。
「――不要な戦闘は回避したかったのですけれどもね」
愛用の96式40mm自動擲弾銃改を撃ち放しながら、桃山は思わずため息を漏らした。
此れでも事前に必要な情報を仕入れ、準備を整えての追撃だ。迎撃を警戒し、慎重に進めていた事もあり、かなりの距離を詰める事に成功している。だが暗殺とまでいかなかったのは、アラハバキ連隊残党という荒吐の“子供”が周囲を固めていたからだ。全てが完全に侵蝕された魔人であり、粗製乱造とはいえ数で固めれば充二分な脅威と変わる。
“子供”の八割は強化系のモムノフ(桃生)だが、額に角のような憑魔核を生やした操氣系のヤト(夜刀)が追っ手に対する警戒として〈探氣〉を発していたからだ。戦闘迷彩2型を着用して視覚を誤魔化し、能力の行使を可能な限り抑えていても、全ての警戒網を潜り抜ける事は不可能に近い。
「仕方ないですわ。行きますわよ! 広域必殺! アルティメット・ボム!!」
発射された40mmグレネード弾頭に詰められたサーモバリック爆薬が、周囲を焼き尽くそうと焔の顎を開く。サーモバリックの三段階による爆発現象が、接近してくる“子供”を焼き払う。加えて桃山の力が炎の勢いを倍増させた。更には――持っているだけでも影響を及ぼすのだろう。蛇比礼が目標の荒吐だけでなく取り巻くヤトや異形系のヤツカハギ(八握脛)をも弱らせ、動きを鈍らせる。
――近江雅和の説によれば荒吐から変容したとされる門客人神の像は、片目で祀られている事が多いという。片目は製鉄神の特徴とされており、また「アラ」は鉄の古語であるという事や、山砂鉄による製鉄や其の他の鉱物採取を実態としていた修験道は荒吐信仰を取り入れられ「ハバキ」は山伏が神聖視する「脛巾」に通じるとしている。
他説として吉野裕子は「ハバキ」の「ハハ」は蛇の古語であり、「ハハキ」とは「蛇木(ははき)」あるいは「竜木(ははき)」であり、直立する樹木は蛇に見立てられ、古来祭りの中枢にあったと唱えている。
またヤトの名の由来である夜刀は『常陸風土記』によると、蛇体で頭に角を生やした神という。
――名は呪である。荒吐は言うまでも無く、夜刀も蛇神。八握脛は土蜘蛛の異称であるが、ハバキに連なる事から、やはり蛇と通じる。蛇比礼の影響を受けるのは当然の事だった。
「ですから問題なのは――モムノフですわね」
額に滲み出る汗も数秒後には蒸発する熱さの中、だが独り涼しげな表情で戦況を分析する。炎で焼かれ、身を焦がしながらも蛇比礼の影響を受けないモムノフは、強化された身体能力任せに桃山を排除しようと迫り来る。憑魔に寄生された屍体さながらの力押しに、原始的な恐怖が桃山を襲うが、歯を食い縛って耐えた。
「……こうなれば、もう機械的な作業ですわね」
桃山は弾薬嚢を手探りして残る数量を確認する。そして母を護らんとする“子供”へと容赦無く撃ち放つのだった……。
一方的ではなかったが、蛇比礼の影響もあって桃山は優勢のまま戦況を押し切れた。其れでも荒い息を吐き、汗を拭う。汗は周囲に燃え広がる爆炎の熱気の所為では無い。単純な疲労からくるものだ。弾は尽き掛け、能力も駆使して、“子供”の殲滅を終えた。少しばかり後味が悪いが、抵抗してきてくれた事がせめてものの心の救いになるのは、何という皮肉か。
「……残るのは、荒吐様だけですわ」
最後まで取っておいた弾頭を装填し、“子供”を抱き締めて嘆き悲しむ荒吐へと砲口を向ける。息を整えて、意識を集中。残る全ての力を注ぎ込んで、発射した。荒吐に直撃。荒吐が纏っていた遮光器土偶に似た外骨格が割れ砕け、また高熱で融け落ち、吹き飛ぶ。
「――終わりましたわ」
だが、
「……嘘ですよね? 直撃で……しかも私の全力ですわよ!」
――荒吐は無傷。爆炎に囲まれ、衝撃を叩き込まれていながらも、其の玉体に汚れを見受けられなかった。
其れでも桃山が呆然自失となったのは僅かにして1秒に満たない。外骨格に護られたからではないかと推測し、9mm拳銃SIG SAUER P220を突き付けて発砲した。もうグレネード弾も無く、能力を行使するには疲労が濃い。火力は劣るが、其れでも武装だ。全弾発射された9mmパラペラムは、荒吐の美しい肌へと叩き込まれた……はずだった。
「――無傷。損傷を与えられないですって?」
銃弾は確かに直撃している。皮膚が銃弾を寄せ付けない程に硬い訳でもなく、また氣の障壁が瞬時に張られた様子も無い。――存在そのものが不可侵。
「……言っただろう、『絶対に殺せねぇ』と」
声に振り返ると、瀬織津姫が頭を掻きながら立っていた。周囲を燃やす炎の熱気に顔をしかめて、手団扇で風を送る。
「蛇比礼がなければ雨を降らして消火するんだがなぁ」
愚痴る瀬織津姫に、桃山は胡乱気な視線を送った。
「……どういう事ですの?」
「前にも言った通りさ。外津神と違って、高天原や葦原中國(※註2)の天神地祇は、“世界”の一部であり、端末であり、其のものだ。本当の意味で倒すには、其れこそ『世界を滅ぼす程の炎や光、熱』が必要だな」
だからこそ外津神は『遊戯』するに当たって、天神地祇を倒して『遊戯盤』から降ろすのでなく、封印するしかなかった。そして其の神体に有する“世界”の力を、“柱”を立てるといった風に利用していたのだ。
「……では、どうすればいいと?」
桃山の問いに、瀬織津姫は蛇比礼を指差した。
「『遊戯』からアラハバキを降ろしたいのならば、封印すれば良いんじゃないかな。但しアラハバキ程の存在に対する封印の維持には蛇比礼が必要だ。尤もソレを他の連中への喧嘩に利用する事は出来なくなるが」
蛇の神性を持つ存在に有効な蛇比礼を手放すのは痛い。だが荒吐を封じるにはコレが必要不可欠というのならば……。溜息を吐くと、
「解りましたわ。封印の遣り方を教えて頂けませんでしょうか?」
「封印しようという“意思”が在れば其れでも行けそうだが、儀式があった方が確実だな。いいぜ。……何なら、一緒にアタシも再封印するか? アタシの封印の維持には蛇比礼は必要ないぞ」
からかう瀬織津姫の言葉に、桃山は溜息を吐いてから頭を横に振った。
「随分と魅力的な御言葉ですが、また問題事が起きそうなので辞めておきますわ。――其れでは手解きの程、宜しくお願い致します」
――数刻後、荒吐の封印はなされ、其の場所は再度の解放が為されぬ様に、桃山と瀬織津姫のみの秘密とした。尤も……
「丹内山神社の胎内石の様に、荒吐様の御力が漏れ出して、自然と祀られそうな気もしますけれども」
「其ればかりは、どうにも出来ねぇしなぁ。地下深くに埋めたとしても、周辺の土地が霊験あらたかになっちまうかも知れねぇし、将来に誰かが掘り起こさないとも限らない。――いっそ、永遠に人を寄せ付けない様にオマエが番でもし続けるか?」
瀬織津姫の提案に、桃山は眉間に皺を刻むと、
「――流石に遠慮致しますわ」
……こうして、東北地方を揺るがした『アラハバキ連隊の乱』は終に幕を閉じたのだった。
■作戦上の注意
当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
また過去作のノベルを参考にする場合、PCが当事者でない場合、然るべき理由が確認出来なければ、其の情報を用いたアクションの難易度は上がり、最悪、失敗どころか没になる事もあるので注意されたし。
全体的に死亡率が高く、下手な行動は「即死」と考えて欲しい。加えて、常に強制侵蝕が発生する事態を念頭に置かれよ。
基本的にPCのアクションは超法規的活動であり、組織的な支援は受けられない。
泣いても笑っても、次が『隔離戦区・人魔神裁』の最終回であり、『隔離戦区』シリーズの結末である。後悔無き選択を! 幸運を祈る!
※註1)鈴鹿権現 …… 大ヒットした某PS3ソフト(或いはPSvitaソフト)の登場人物の1人のペルソナとして有名。鬼女とされる鈴鹿御前とよく勘違いされるが、全く異なる。なお天照の荒御魂という説もあり、そう考えると、アマテラスをペルソナにする少女と親友同士という関係性も納得出来るだろう。
ちなみに別名とされる八十禍津日は、某悪魔召喚士の敵として出てくる造魔や超力戦艦の呼称である。
※註2)葦原中國 …… 日本神話において、高天原と黄泉の間にあるとされる世界、即ち日本の国土。諸説あるが『神州結界』シリーズでは特定の地域を指すのでなく、単純に國津祇の出自として高天原と対比する意味合いで使っているに過ぎない。