三重にある伊勢分屯地。天照坐皇大御神[あまてらしますすめおおみかみ]を祀る皇大神宮――通称『内宮』を防衛する為に駐屯する神州結界維持部隊。
神宮の奥宮には、天照坐皇大御神の受容体であり、やんごとなき生まれの御方がいらっしゃる。また殿下は、神宮に隠されている“ 唯一絶対主 ”に至る御坐たる『バベル』の管理者であり、裁定者だという。
三重は元来、殿下の御力の影響もあって、超常体の活動が少ない。6月末から意に介さず侵犯してきた天使共(ヘブライ神群)も、7月下旬に入ってから急に勢いを無くし、姿を消した。一度だけ高位のパワー数体が和歌山から越境してきたが、直ぐに弱体化――動きを鈍らせて失速、其の侭、墜落していったのが観測されている。
とはいえ、隣接する奈良や和歌山、愛知では未だに空を飛び回っており、魔群(ヘブライ堕天使群)と小競り合いを交わしている。また推定敵は超常体だけでなく、和歌山の熊野本宮神社を今も占拠している駐日沙地亜剌比亜王国(サウジアラビア)軍――其の内部に潜んでいるだろう阿剌伯(アラブ)諸国連盟の部隊が虎視眈々と狙っていると考えてしまうのは疑心暗鬼だろうか?
加えて静岡に“柱”を立てたデーヴァ神群が急速に版図を広げてきている。デーヴァ神群は維持部隊、ひいては日本古来の天神地祇に友好的な態度を表明しているが、油断は禁物だというのが大体の意見だ。
其の様な中、7月も末になった頃、或る優秀な警務科隊員に代わって、新たに着任した精鋭2名は、多くの幹部隊員(士官や下士官)から注目されていた。
「……普通だな」
「――普通ですね」
警務隊長に続いて、殿下の身辺を直接護る侍女部隊とも呼ばれる近衛部隊長代理が口を開く。2人の視線に、白樺・十夢(しらかば・とむ)二等陸士と、其の相棒の観的手が居心地悪そうな顔をした。
「――京都解放の立役者と聞いていたから、どれぐらい素っ頓狂な人物かと思っていたが……」
「意外に普通でしたね。むしろ普通が野戦服を着用している……といった感じで」
随分な言われ様に、白樺と観的手が顔を見合わせた。そして溜め息混じりに口を開く。
「――背格好や目鼻立ちが平均的な日本人並みだと自覚しているが、其処迄『普通』と連呼されるとは……」
白樺の責める視線に、警務隊長は「失礼した」と謝罪する。
「前任の――、そう、君達を推薦、紹介してくれた男が実に特徴的な井出達だったからな」
「特戦群出身者は全員おかしいモノとばかり」
風評被害だーっ!
思わず、白樺と観的手は抗議の怒声を上げようとした。しかし自分達は兎も角、知り合いに覚えがあるのだから何とも言えない。複雑な感情が入り混じって、最終的に重苦しい溜息と共に漏れた。
「荒金……絶対にぶん殴る」
「――というか、あいつ、どんな格好していたんだ、此処で?」
周囲に聞いて回るまでも無く、タキシードに仮面という奇抜な元同僚の話を耳にして、眩暈を覚えるのだが、其れはさておき。
気持ちを切り替えると、前任者の役割の引き継ぎしていく。とはいえ流石に警務科の任務は引き継ぎ出来ない。白樺が引き継ぐのは警備支援だ。愛用のXM109ペイロードライフルを担ぐと、観的手と連れ立って鎮守の森へと足を踏み入れる。
「――先ずは地形を把握し、どの場所から敵が出現しても対応して狙撃出来る様、複数の地点を調査する必要があるな」
「罠の設置場所にも気に配らないとなぁ。……しかし天使共や魔王は兎も角“這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)”みたいなヤツに狙撃が効くのかね?」
観的手の悪態に、白樺は肩をすくめて見せると、
「だからと言って、私達に調査任務は厳しいぞ? 調査任務なら警務の役割。私達は、荒金さんが首尾よく事を運べる様に支援し、必要ならば武器を持って駆け付けるだけだ」
視界に捉えた影へとAK-74M(アブトマット・カラシニコバ・1974年近代型)機関騎銃を乱射する。だが影は素早い動きで火線を翻弄し、直撃を許さない。逆に樹上から逆襲の連射が返ってきた。大きく舌打ちをして、駐日露西亜連邦軍・露西亜空挺軍第819独立親衛特殊任務連隊のヨシップ・グリゴロフ少尉こと、スラヴ神群の獣神 ヴェーレス[――]は野性味溢れる面差しを厳しいモノにする。犬歯を剥き出しに、全身を太く硬い獣毛に覆い、半獣半人の姿に変わると咆哮を上げた。ヴェーレスの咆哮に畏れを覚えたのか、敵対する影の一部が硬直。ヴェーレスの部下である魔人兵がAK-74Mで5.45×39mm弾を撃ち放った。
――悲鳴は上がらない。僅かな呻き声を、ヴェーレスの聴覚が聞き付けただけだ。けたたましい銃声に掻き消せられる程の微小な呻きだ。よく訓練されている。敵ながら天晴であり、また憎々しげにも思えた。
ヴェーレスが率いる駐日露軍――スラヴ神群の仮初めの部隊が、デーヴァ神群の部隊と交戦を開始してから、本日で1週間となる。6月下旬に長野を通過したデーヴァ神群はスラヴ神群へと宣戦を布告。日本国の維持部隊は駐屯地死守を堅持し、また白山連峰を影響下に置く 菊理媛[くくりひめ]は、デーヴァ神群とスラヴ神群との対峙に傍観を決め込んでいる。尤も、流れ弾や必要以上の戦闘行為で、白山連峰や維持部隊員達が傷付けられる事は許さない。
天照坐皇大御神が天父神たる伊邪那の正当後継者である事に対して、菊理媛は地母神である伊弉那美の後継者と看做されるという説もある。事実、菊理媛を怒らせる事になれば、スラヴ神群もデーヴァ神群も壊滅的な損害を被るだろう。
とはいえ怒らせれば怖い菊理媛だが、実際の処、スラヴ神群やデーヴァ神群を壊滅する余裕は無い。神州の時空間に生じた綻び――“門”を〈括る〉のに力の多くを注いでいるからだ。特に、北海道の十勝岳に開いた穴、青森の恐山に開いた綻びと、山口の秋芳洞にある“奈落(タルタロス)”という3つが厄介とされている。十勝岳の“門”は第05特務小隊によって監視下にあり、恐山に開いた“門”も現在はデーヴァ神群旗下のヤクシャ神群の王 クベーラ[――]によって管理されていた。残る3つ目の“奈落”は秋芳洞を爆破する事によって落盤――物理的に埋没した上にオリンポス神群最強と謂われる冥王神 ハーデス[――]が今も警戒を続けている。
閑話休題。……力の大半を“門”を〈括る〉事に費やしているとはいえ、菊理媛を怒らすのは得策でない。ヴェーレスだけでなく、デーヴァ神群の部隊を率いている ハヌマーン[――]もまた慎重に戦闘を進めているようだった。
(……デーヴァ神群は、日本古来の天神地祇と友好的な関係を堅持するつもりだからなぁ)
現在のところ『遊戯』で最大の優勝候補はデーヴァ神群だ。天使共も“柱”を立てているが、主神格ともいえる長兄“神の代理(イオエル)”(※小ヤハウェ、メタトロンとも謂われる)が倒されており、『遊戯』での敗北は決定している。
主神格が残っており、まだ『遊戯』に敗北していない勢力は、ゼウス[――]が主席のオリンポス神群、ルキフェル[――]が盟主たる魔群、そして……トリグラフ(※三神一体のスラヴ神群の主神格)の一角たる雷神 ペルーン[――]が率いるスラヴ神群だ。
スラヴ神群が敗北を認めていないからこそ、北陸へとデーヴァ神群が遠征してきたともいえる。
(……だからこそ俺が貧乏籤を引いている訳だが)
肝心のペルーンは、駐日露軍が駐留している石川の辰口丘陵公園跡地奥深くに引き籠ったままだ。主神格のペルーンが倒されれば『遊戯』の敗北になる――だから籠城するのは戦術的に正しい。しかし前線で戦う兵士からすれば、たまったものでは無かった。
「――デーヴァ神群の主神格であるヴィシュヌは最前線で指揮を執っているんだっけ?」
思わず口に出る。逆に、ヴィシュヌ[――]は自重するよう、側近が懇願しているらしい。
「……デーヴァ神群を敗北させるとしたら、其処を突くしかないか」
とはいえスラヴ神群の継戦能力を考えれば難しいだろう。やはり“柱”を立てられなかったのは大きい。ヴィシュヌを倒してデーヴァ神群を敗北に追い込んでも、自陣の勝利には結びつかないからだ。菊理媛が封印から解放された以上、今更“柱”を立てるのも不可能である。
「……尉、グリゴロフ少尉――!」
気が付けば戦闘行為が中断していた。いつもの“休憩時間”かと思いきや、部下が蒼白な顔して通信機を渡す。人身に戻ったヴェーレスは受信端末を取ると、辰口丘陵公園跡地からの連絡を耳にした。そして、
「――やった! ペルーンが、くたばったか!?」
乾いた笑い声を上げた。続いてヴェーレスは部下に武装を解除させ、対峙するデーヴァ神群へと降伏を伝えた。降伏の合図を受け取ったデーヴァ神群の兵士が樹や岩陰から姿を顕す。隊長を務めるハヌマーンへとヴェーレスは敬礼で迎えた。
「――スラヴ神群はペルーンが倒れた事を受けて、敗北を認める。以降、デーヴァ神群の指揮下に従うつもりだ」
……辰口丘陵公園跡地の駐日露軍キャンプ地に、ガルダ[――]率いるデーヴァ神群の別働隊が奇襲。ペルーンはガルダの強襲を受けて、奮戦虚しく倒されたという。
「……ようやく敗北が確定して、肩の荷が下りた。さてハヌマーンよ、どうすればいい? 自決しろっていうんなら、さっさとやるが」
ヴェーレスの言葉に、ハヌマーンも苦笑。
「デーヴァ神群は多種多様な神々から成り立っている。かつての敵もまた呑み込んでいくものだ。ヴェーレス殿も宜しければ、戦列に加わって貰いたい」
「まぁ……やるとしたら引き続き北陸の抑えというところかな? 俺達、スラヴ神群は」
苦笑を返しながらヴェーレスは頭を掻くのだった。
――其の日、地獄の顎が開いた。剥き出された牙が天空に喰らい付くが如く、美しくも妖しく、そして禍々しき虹色の柱が立ち昇る。
大阪の住吉大社を警戒観測していた 橘・柑奈[たちばな・かんな]二等陸士達、4人は伊丹から立ち上る虹の柱に暫く茫然とするしかなかった。
「……アレが“柱”。魔群の“地獄門”か?!」
「発生地は――伊丹です!」
擬装を施して、廃墟に隠れ潜んでいた96式装輪装甲車クーガーの操縦席で、ラリー・ワイズマン[――]二等兵が大きく舌打ちをする。操氣系の リリア・エイミス[――]は半身異化もしていないのに“地獄門”の彼方から強大で、かつ大勢の超常体の気配が近寄ってくるのを感じて戦慄した。対して柑奈は其の“地獄門”から住吉三神の悲哀の籠った声を聴き、苦悶の表情を浮かべる。
「――住吉大社で、ジャパンのホーリーゴーストが微弱な存在にしか感じられなかった理由が解ったわ。彼等が、まるで瀕死の抜け殻だったのは、既に伊丹へと強奪されたエナジーが渡っていたから……」
7月上旬に魔群――“七つの大罪”が1つ『暴食』を掌る大魔王 バールゼブブ[――]に征圧された住吉大社。封じられていた住吉三神(底筒男命・中筒男命・表筒男命)の力は、“七つの大罪”が1つ『憤怒』を掌る大魔王 サタン[――]が待ち受ける伊丹駐屯地に送られており、そして“地獄門”を開く為に利用された。柑奈達が魔王級異形戦車プールソンを打破している最中にも、伊丹駐屯地では“地獄門”を開く儀式を粛々と進めていたのだ。結果、8月上旬の今日、“地獄門”が開く。
「……7月に伊丹駐屯地へと強行偵察した時に、私達は見ていたはずなのに! 何かの作業を終えたサタンが、儀式を執り行い、虹色の光を生んでいたのを!」
下唇を噛む。力の余り、血が滲み、割れて溢れ出した。滴り落ちて赤い華が地面を彩る。
「――“地獄門”が開いた。事実を受け止め、作戦を練り直そう」
ラリーの言葉に我に帰ると、リリアと マリー[――]、そして柑奈はクーガーの車中に身を沈めるのだった。
……米海軍航空母艦キティホークの改装した一室。サタンからの報告を受け、金髪碧眼の男が満足気に頷き返した。
「――“地獄門”が開いた。此れで、ようやく万魔殿の礎が設けられたか」
随分と遅々とした進行状況だ。金髪碧眼の男――国家安全保障問題担当大統領補佐官ルーク・フェラーの肩書と名を持った、最高位最上級超常体、“七つの大罪”が1つ『傲慢』を掌りし大魔王ルキフェルは状況を改めて確認すると、苦笑を浮かべた。
仇敵とも云える“ 唯一絶対主 ”を僭称する輩を盲信する傀儡共は、長兄たるイオエルが打破された事で『遊戯』に敗北した。“天獄の扉”が2つ残っているが、直ぐに敗残兵共は狩り尽くされるだろう。
「――問題は、ヴィシュヌが率いるデーヴァ神群だな。ぶっちゃけ盲信者共より、アソコは厄介だぜ?」
突然に、粗野な声がルキフェルに掛けられた。部屋の隅に控えていた主天王 ペイモン[――]が流れるような動きで警戒の構えを取るが、
「――バールゼブブか。助かったよ、役割を果たしてくれて感謝する」
ルキフェルが笑みを浮かべると、何時の間にか部屋に現れた男はバツが悪いような表情を浮かべた。
「……驚かんね、お前は」
斑に脱色したボサボサの頭髪に、左腕にはコブラの刺青。バールゼブブは机の縁に腰掛けると、得物のナイフを弄りだす。
「役割を果たしたって言っても、8月に入ってから、プールソンを倒した4人組は、期待していたのに住吉大社に来なかったからなぁ。他の誰も来なかったし。サタンの儀式――伊丹から目を逸らす囮役になったんだか、なってないんだか?」
「君は居るだけで充分役割を果たしてくれたと思うよ。そもそも住吉大社を攻め落として、天神のエナジーを確保してくれたのは君じゃないか」
親友の働きを労わるルキフェルに、バールゼブブは照れ隠しか顔を背ける。そして話題を変えた。
「――で、先ずは“地獄門”だが。ビーストデモンを1個大隊規模ぐらい呼び寄せるか? インプやコボルトは無限に沸くが、弱っちいのに変わりないからな」
バールゼブブの問いに、ルキフェルは暫く考えた後、
「……否。未だ『遊戯盤』に上がっていない盟友に来てもらおうと思う。其の方がきっと有効だ」
「ビーストデモンという兵卒1個大隊よりも、魔王クラスの将校が1〜2柱来てくれた方が嬉しいってか」
「――君の言い分は、喩えが解り易くて良いな」
「皮肉か、其れは? ……今の俺の受容体は“借り物の器”だからな。品性に関しては文句言うなよ? 本来ならば俺は熊本の人吉で『遊戯』から降りていたんだぜ。此れで召喚されなければ終わってたんだ」
胸ポケットから銀の鍵を取り出して、バールゼブブは苦笑。そして、
「――ああ、また話が逸れた。で、俺はどうする? 奈良に行ってデーヴァ神群と戦ってこようか?」
しかしルキフェルは頭を横に振ると、
「君は那岐山に行ってくれ。オリンポス神群に『遊戯』の敗北を宣告してきて貰いたい」
オリンポス十二神の主席であるゼウスは、“ 這い寄る混沌( ニャルラトホテプ[――])”とポセイドンの罠によって、魂の牢獄に囚われたままだ。身動きの取れないゼウスを、太陽神 アポロン[――]と処女月神 アルテミス[――]が護っているという。
「今のゼウスを片付けるのはインプやコボルトでも足りるが、アポロンとアルテミスがなぁ……。下手しなくても刺し違えが良い処かなぁ。まぁ、今の俺はイレギュラーなんだから、相打ち上等なんだけど。巻き添え喰らうオリアスが大変そうだ」
星幽侯 オリアス[――]を連れていく事は、本神の了承を得る迄もなく確定事項らしい。
「――アスタロトとベリアルも呼び出せないか?」
だがルキフェルは肩をすくめると、
「生憎とログジエルを片付けた後、彼等には暫く休憩してもらい、デーヴァ神群との決戦に備えて貰うつもりだ。だから――頼んだぞ、親友」
「へいへい。了解したぜ、親友」
互いに笑みを浮かべながらルキフェルとバールゼブブは手を打ち合わせる。
「那岐山は岡山か……。結構、近いようで遠いなぁ」
神宮の内側に限らず、外周部にある地点を洗い出す。白樺達が来る迄も、敵が狙撃してくるに適した地点の目星を付けていたが、其れでも防衛線――籠城を主とした警戒しかしていなかった。白樺と相棒がつぶさに検知した事で、神宮を攻撃する敵を側背から狙撃するという作戦に幅が出来たのは大きい。
「神宮を包囲する敵の目を掻い潜り、出入りする隠しルートの選別はこんな処か。次の地点へと敵の追撃をかわして移動する道と、費やす時間は……」
実際に89式5.56mm小銃BUDDYだけでなく愛用の対物狙撃銃XM109ペイロードライフルを担いで走り回る。超常体の存在を感知する事で、憑魔核が活性化し、強化系でなくとも、魔人は平均的成人男性よりも身体能力を上回るが、其れでも重量や取り回しから移動には苦労する。
「……やはり基本的にヒット&アウェイには向いてないよな、ペイロードライフル」
「そもそも対物ライフルに限らず、無反動砲や誘導弾といった重火器で、ヒット&アウェイしようとする発想が無茶の極みなのだが」
神宮の周辺地図に書き込みをしながら、軽口を叩き合う。
「……しかし平穏無事だな。対する京都は緊迫状態に陥っているらしいぜ」
「大阪の伊丹で“地獄門”が開いたからな。魔群の主戦力は奈良方面――東側に集結しつつあるとはいえ、京都に北上する部隊が無いとも限らない」
また南側に隣接する和歌山には、仇敵関係にある天使共の残党が巣食っているらしい。熊野本宮大社には沙地亜剌比亜王国軍が駐留しているが、魔群の尖兵との衝突は充分に考えられた。もしも和歌山にも魔群が版図を広げるのならば、近隣を通過される信太山駐屯地は心穏やかではないだろう。信太山駐屯地から非戦闘員を避難させようとも、南は和歌山、東は奈良と激戦区だ。比較的安全な四国に逃げさせようとしても、先ず魔群を突破して兵庫に辿り着かなければならない。
「魔群が信太山駐屯地を食い荒らそうとしない事を祈るばかりだな」
「信太山には対アンラ・マンユ戦の勇士が残っているからな。魔群としても余計な手出しをして痛い目に遭いたくないとは思うが」
飽く迄も『黙示録の戦い』は超常体――神群と神群との戦いだ。駐屯地堅守の絶対命令も在って、超常体と人間が戦い合う機会は減少しているはずである。
「そういえば奈良にはデーヴァ神群の戦力も集結していると聞いたが」
むしろデーヴァ神群が奈良に進出して来た為に、魔群も東の護りを固めたと言えよう。
「――三重を通過する際、ヴィシュヌが久居駐屯地に挨拶に来たが……何事も無く終わったらしい」
ヴィシュヌ自身は伊勢――神宮におわす殿下へと表敬訪問をしたがっていたらしいが、流石に周囲がきつく諌めたらしい。実際にヴィシュヌが伊勢を訪れるのは魔群との戦いの趨勢が見極まった頃合いだというのが、大体の予測だ。
「今の処、デーヴァ神群が優勢だが、魔群も“地獄門”が開いた事で戦力を拡充してくる。……奈良がメギドの丘になるのかな?」
「神州世界対応論に従えば、メギドの丘に対応するのは大阪の信貴山あたりじゃないかっていう話だが」
「……信貴山って奈良じゃなかったっけ?」
「なら、奈良が魔群とデーヴァ神群の決戦場になるのは間違いないのか。……洒落を言ったんじゃないぞ?」
其れはさておき。白樺は空を仰ぎながら、目を細めると、唇の端を歪めた。
「……人の世にならずとも、神の世にならずとも、悪魔の世にならずとも、さて――『遊戯』の後はどんな世界になるのだろうね?」……。
■作戦上の注意
当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
また過去作のノベルを参考にする場合、PCが当事者でない場合、然るべき理由が確認出来なければ、其の情報を用いたアクションの難易度は上がり、最悪、失敗どころか没になる事もあるので注意されたし。
全体的に死亡率が高く、下手な行動は「即死」と思って欲しい。加えて、常に強制侵蝕が発生する事態を考慮せよ。
基本的にPCのアクションは超法規的活動であり、組織的な支援は受けられない。