西暦1999年、人智を超えた異形の怪物――超常体の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
国際連合は、世界の雛型たる日本――神州を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
――其れから20年。神州では未だに超常体と戦い続けていくはず……だった。
転機が訪れたのは3月下旬に各地で大発生した超常体の襲撃。此れまで群れ成すだけだった超常体が、組織的に作戦を行ってくるという悪夢。高位の存在や完全憑魔侵蝕魔人によって統制された超常体の群れは、幾つかの駐屯地が壊滅させ、少なくない人命を奪っていった。
其れは『遊戯』と呼ばれるモノの前哨戦。世に言う『黙示録の戦い』で力を誇示する為の準備であり、篩い分けであった。
夏至を境に、高位の超常体が、神州の支配権を巡って相争い始める。天を覆う、神の御軍。地を埋める、魔の群隊。人々は拠点を死守堅持するのに精一杯だった。
――しかし、其れでも人々の中には、抗い、挑み、屠る事を目指して、戦いを辞めぬ者も居続ける。剣刃を研ぎ澄まし、銃筒に火を落とす。生きていく為に、智慧を巡らし、仲間の手を握り、そして明るい日を見る為に……。
……此れは、人と、魔と、神の、裁き。
黙され、示されぬ、戦いの記録である――。
第41普通科連隊が駐屯していた別府。前の第41普通科連隊長、大上・陽太郎一等陸佐――其の正体は最高位最上級超常体“七つの大罪”が1つ『貪欲』を掌りし大魔王にして、七十二柱の魔界王侯貴族の1柱『炎大侯』であるアメンの騒乱の傷跡が未だ残っている。闇の渾沌蛇アポピスが振るった猛威は凄まじく、復興は困難を極めると予測されていた。
「――加えて、気が付けば6月末から天使共が我が物顔で飛び回っている有様で……大分全域で目視されているんだっけ?」
愛車の偵察用オートバイ『ホンダXLR250R』を休ませながら、雪村・聡(ゆきむら・さとる)二等陸士は溜息を吐いた。茶色っぽい黒髪は軽く癖が付いていて、耳に掛かる程の長さ。其の自身のなさそうな表情からは、誰が雪村を福岡で“ 這い寄る混沌( ニャルラトホテプ[――])”の化身に対して大立ち回りをやった人物だと窺い知れようか?
雪村の独白にも似た問いに、周囲を観測していた 風守・和也(かざもり・かずや)二等陸士は気だるげな表情のまま頷き返した。片眉を上げて、
「……やはり総本宮が怪しいな。各地の維持部隊に連絡し、調べて貰ったら正解だ。八幡神社を拠点に天使共が異常発生している」
「そういえば若狭湾での戦いでは、福井にある三方(※註1)の八幡神社を天使共が拠点にしていたという報告もあったなぁ」
「……そして大分にあるのは日本全国に約44,000社とも言われる『八幡様』の総本宮――宇佐八幡宮。此処に天使共の親玉がいる可能性は高い。逆に言えば宇佐八幡宮を押さえられたから各地の神社を拠点にされたという推察が成り立つ」
八幡神(やはたのかみ、はちまんしん)については一般には応神天皇と言われているが、今なお謎や異説が多い。本地垂迹では阿弥陀如来となっているが、これもまたよく解らない。渡来神である事は間違いなく、一説には巨大氏族・秦氏(※自らは秦の始皇帝の一族と名乗りながら、パレスチナから流れてきた猶太人という説さえある)が運び込んできたヤーヴェが正体というのもある。強引ながらも八幡という名には「ハチマン→ヤハタ→ヤーヴェ」が隠されているというのだ。
風守は携帯情報端末を操って、データを雪村にも送信する。秘密機関『落日』から大体の情報は得ていたが、風守個人の伝手からのモノは有難かった。
「えーと。『宇佐八幡宮を制圧後、他の八幡神社へと働き掛けられるかの可能性について……困難』って、何此れ?」
「天使共が宇佐八幡宮から各地の八幡神社へと働き掛けているのと同じ事を俺達も出来るかどうかについて訊いてみたんだがな……」
「――誰に?」
「……嫁さんに」
雪村の冷ややかな視線に、風守は面倒臭そうにそっぽを向いた。タイミングを狙っていたのか、微笑と共に波打つ茶褐色の髪をした女性が姿を現した。雪村は顔を綻ばせて挨拶。
「あ、月子さんも来ていたんだ」
「さっき来たばかりだけどね。……お待たせ、和也! 寂しかった?」
風守・月子[かざもり・つきこ]二等陸士は風守の傍へと自然な流れで近寄ると腕を絡ませた。押し掛け女房が満面な笑みを浮かべるのに対して、風守は苦々しい表情のままだ。
(其れでも腕を振り解いたり、邪険にしたりしないんだよねぇ)
雪村は2人の姿に思わず笑みを浮かべた。なお旦那である風守・和也の表記は「風守」、妻である風守・月子の表記は「月子」とする。
――閑話休題。
「あー。さておいて。月子の話によると宇佐八幡宮を俺達が占拠しても、各地へ働き掛けるのは難しいという事だ。何故かというと――」
「ヒトとしての限界であり、だからこそヒトである。そういう事なの。そして八幡宮は“ 唯一絶対主 ”を祀る経路として利用は出来ても、其れ自体には何の天神地祇も封じられていないし、また封じる事も出来ない」
似たようなものとして、熊本の阿蘇の地に秘められていた幣立神宮を月子は挙げる。
ちなみに幣立神宮の縁起に拠れば、天神の大神が幣(ぬさ)を投げられた時に、その幣が原に立ったのでその地を幣立と言ったらしい。高天原神話の発祥の地とされ、また世界五色の地球人類の各々の祖神が此処に集い、御霊の和合をはかる儀式を行ったという伝承もある。主祭神は、神漏岐命・神漏美命。両神は人類の平和を願い火の玉に移ってここ幣立の地に降臨された宇宙からの神なのだと言う。ほか大宇宙大和神、天御中主大神、そして天照大御神とある。
「何か在りそうな場所で、実際に高位上級の超常体と接触出来たのだけれども、幣立神宮自体に天神地祇は封じられていなかったわ。また幣立神宮を制御出来る程の力をヒトは持たない。――宇佐八幡宮も同じ」
制御出来るとしたら龍脈の逆鱗を護っているという、八木原・斎呼[やぎはら・さいこ]一等陸尉ぐらいだろうと月子は告げた。あとは主神や大魔王といった最高位最上級の超常体。なお月子に其れだけの力は無い。
「大分に封じられている天神地祇は別に要るという事なのかな? 月子さん、知っている?」
雪村の問いに、大きく首を振る月子。
「私の担当は福岡だったから。アメン閣下が担当していた大分はよく知らないのよ」
「……成程。だが、もう少し周りを考えてから情報を出せ。――雪村の眼が痛い」
月子は七十二柱の魔界王侯貴族が1柱、吟詠公グレモリーの受容体だ。風守に惚れ込んでからは『グレモリー』としてではなく『月子』として行動しているが、其の言動を知らぬ者が聞いたら怪しむしかないだろう。幸いな事に雪村は“或る程度の事情”を『落日』から聞き及んでいる。とはいえ風守が叱るのは当然だった。
「……とりあえず宇佐八幡宮を僕達が押さえても活用する事は不可能に近いんだね」
「ああ。其れでも八幡宮に巣食っているのを倒せば、各地の天使共の動きは止まるはずだ。其れで良しとしよう」
其れで宇佐への偵察行程について再確認と、調整に入ろうとする風守と雪村だったが、
「――邪魔をしますわい」
入室してきたのは、日本刀を差した和服の老人。そして魔女っ子スタイルの少女という奇妙な組み合わせだった。流石の風守も当惑する。
「……ど、どちら様で?」
「私は西行寺・ようき。人類の存亡を掛けた此の一大事に、老いた身でも何か出来ないかと考えていたところ、天使共の動きを探る御仁がいると聞いて、馳せ参じましたのじゃ」
御老体はカクシャクとした動きだが、やはり戦場へと連れ出すには躊躇われる。だが隣の少女が呆れて溜息を吐いた。
「……何、初対面の人だからって騙すような事をしていますのよ、“人斬り妖忌”が」
魔女っ子のツッコミに、御老体は意地が悪そうな笑みを浮かべた。
「流石に九州では私を知る者がおらんからと、折角、か弱い老人を演じてみたかったんですがのぅ。東北のアイドルも居るとは失敗ですじゃな」
御老体―― 西行寺・ようき(さいぎょうじ・―)准陸尉は唇の端を歪めた。最高齢の維持部隊員にして、北部方面を中心に、荒くれ者から恐れられている警務科の魔人だ。関西より南になると流石に名が伝わってこなかったが、念の為に携帯情報端末で照合したら、信じられないような歴戦の記録が出てくる。風守と雪村は顔を見合わせるしかない。
そして、其れまで独り悩んでいた月子が突然歓喜の声を上げた。
「『魔法少女 マジカル・ばある』の国恵ちゃんね!」
「……何だ、其れは?!」
突っ込みたくなるのも仕方ない。だが月子は、
「東北方面で有名な魔法少女番組よ。3人娘の中でリーダー格……?なのが、国恵ちゃんなの」
何故に途中で疑問形なのか。雪村は頭を掻く。
「――式神・ユタカなら知っているんだけどなぁ」
「まぁ……西部方面で『アイドル』って言ったら、先ず名前が挙がるのはユタカだしなぁ」
さておき感激の余り、魔女っ子の 田中・国恵(たなか・くにえ)二等陸士へと抱き付いてくる月子。国恵は笑顔のまま抱擁されるが、
「――あなた、ヒトじゃないですわね」
「国恵ちゃんもね」
囁き2人は互いに含み笑いを浮かべる。傍から見たら微笑ましい光景だが、実際は何かが渦巻いていた。
「自己紹介も済みましたな。さて勝手とは思いますが、私等も八幡宮偵察に同行させて頂けませんかのぅ」
携帯情報端末で照合して得られた記録によれば、戦力としては申し分ない。問題は道中の足だが、
「……まぁ『落日』に頼めば、近場迄の移動手段は都合が付くかなぁ。勿論、目的地に近付いたら可能な限り交戦を避ける為に、見晴らしの良い海岸線は避けたり、山中を紛れたりしながら進む事になるだろうけど」
「解りましたわ。こう見えてもサバイバルには自信がありますのよ」
月子から解放された国恵が胸を張る。西行寺も不敵に笑い、昔取った杵柄を見せてやると豪語した。
「とはいえ直ぐに宇佐には向かわない。一旦、中津に寄ってみる」
「ふむ? 先に潜入して偵察している部隊がいますかのぅ?」
西行寺の尤もな質問に、風守と雪村は目配せをして、
「隠れ潜んでいるラー神群が宇佐を警戒監視しているらしい。連絡が取れれば、情報が入手出来るし、そして八幡宮潜入時に協力を頼めるかも知れないからな」
宇佐を迂回する為、一同は国道500号線を西進。山中を通る事は上空からの天使共の眼を避ける理由もある。そして国道212号線に合流してから北上した。
風守と雪村は自前のオートに、西行寺と国恵、そして風守の友人1名が、月子が運転するパジェロベースの73式小型トラックに搭乗する。
「あなたは何が出来るの?」
「狙撃だ。とはいえ此の面子の中では、頼りにならんと思うがね」
狙撃手は肩をすくめて見せる、さておき風守が感心するように、
「……そういえばATV(All Terrain Vehicle)を運転していた事があったな……アレは幻覚の中だけだと思ったが」
「アレは幻覚だったけれども、一応、騎乗出来るのよ。和也や聡みたいには巧くないけど」
「兎に角、足を貸してくれて助かりましたわい。しかし脱柵扱いされるかと思ったが、何も咎められなかったですのぅ?」
「いや……あなた、本来は私達みたいなのを取り締まる側でしょう?」
西行寺の疑問も尤もだ。上からの通達は駐屯地の絶対堅守であり、超常体同士が争う現状への介入は許されていない。だが別府を離れて、宇佐八幡宮に向かおうとする雪村達を咎める者は無かった。逆に、雪村と風守が書面を見せると、糧食や武器弾薬、燃料等を提供するといった協力的な素振りを示した。
「……ふむ」
訝しげな表情を浮かべる西行寺だったが、双眼鏡で周囲を確認していた狙撃手が警告を出す。
「前方――中津上空に発光体を多数確認。黄金の隼1に、アルカンジェル3、エンジェルスたくさん!」
たくさん!……って、お子様か? だが狙撃手がそう言うしかないのは国恵にも理解出来た。向かう方向の空が光に覆われている。エンジェルスが発する光の連なり、重なりだ。そして……
「――気を付けろ! 六翼の天使――高位上級超常体もいるぞ」
狙撃手の怒声にも似た言葉に、西行寺の眼に凄惨な笑みが宿る。国恵もまた可愛らしい笑顔の裏に不屈な闘志を燃やした。
「黄金の隼はラー神群のホルスですな。救援に入りますぞ。敵目標は天使――各員、状況開始!」
やはり年の功。其れとも階級か。兎に角、西行寺が指示を出すと、皆の顔付きが引き締まる。
「――突っ込むぞ!」
狙撃手が89式5.56mm小銃BUDDYを構えて、車窓から身を乗り出す。そして連射。エンジェルスが此方に気付くが、運転しながら月子が幻惑映像を張ると、一瞬だけだが動きが止まった。
其の隙に、西行寺は跳躍して降車。地面に近い、低空を飛ぶエンジェルスを撫で斬りにしていく。
「――半身異化する程でもありませんわい」
雪村もまた大太刀“月桂”を抜くと、騎乗しているオートの突進力と合わさってアルカンジェルを張った氣の防護壁ごと叩き斬った。斬光の軌跡と切れ味に、西行寺が笑うと、雪村の腕を褒め称える。
「――良い筋をしていますな」
残るアルカンジェルが2人に突撃してくるが、間に入り込んだ国恵が腕を捉まえる。そして相手の勢いを利用して地面に組み伏せた。咄嗟に氣の防護膜を張るアルカンジェルだが、
「――サブミッションは王者の技ですわ!」
関節を痛め付けられては、どんなに氣の防護膜で表面を堅くしても意味は無い。激痛で氣が散った瞬間に国恵は“呪”を注入すると、アルカンジェルを絶命させる。
「……此の面子の中で、俺が一番、戦闘能力が低いんだよなぁ。だから交戦は避けたかったんだが」
苦笑しながらも風守は破片手榴弾を投擲して、エンジェルスを散らしていく。両手を放していても、風守の意思通りにオートは敵陣を縦横無尽に駆け抜けた。
思わぬ襲撃に浮き足立つ天使共に、ホルス[――]が広げた翼から光線を発す。扇状に拡散した光線は天使共を撃墜していく。
指揮官の六翼天使が怒りの雄叫びを上げて、注意を集める。思わず振り返ってしまう一同の中で、風守だけが首筋に厭なものを感じとった。――其の瞬間、熾天使が放った強い視線に、西行寺達は眼を射抜かれた。兇悪な眼光、邪視だ。射抜かれた一同の心臓の動悸が狂ったように鳴り響き、冷たい汗が流れ落ちる。息が苦しくなり、視界が真っ赤に――
銃声が鳴り響くと、驚愕の表情のまま目を見開いた熾天使が地に落ちていった。危険を感じ取った風守は敵から目を逸らして邪視を逃れると、直ぐさまBUUDYで反撃したのである。
指揮官の死に、残った天使共が逃亡を図るが、
「――俺達の存在を知られると困る。殲滅するぞ」
遅かれ早かれ中津の部隊が帰ってこなければ異常は感じ取るだろう。だが、少しでも時間は稼げる。宇佐に潜入するぐらいの時間は。また中津で何が起こったか判らない事で警戒が増し、慎重になり、動きが鈍れば御の字だ。中津に割いた警戒の分、其れだけ宇佐は手薄になる。
風守の考えを悟った一同は、逃げ惑う天使共を残らず撃墜していくのだった。
傷付いたホルスが羽を休めると、隠れて様子を伺っていた少女が姿を現した。敬礼してくる少女――堀田・鳩子一等陸士……其の正体は ハトホル[――]に対して、答礼を返す。其れなりに洗濯しているのだろうが、ハトホルが身に纏っている戦闘迷彩II型は血と汗で付いた染みもあった。
「ラー神群の皆さんに、宇佐八幡宮に関しての情報提供を願います」
用件を述べると、ハトホルは中津市役所跡へ一同を案内する。奥の部屋に通されると、左半身を失った少年が横に伏したまま目礼してきた。看護している2人の女性もまた敬礼で一同を迎える。警戒で唸っていた黒犬も、少年と少女の1人がたしなめると、尾を下ろした。西行寺達が面しているモノ達全てが、高位上級の超常体だった。
少年の姿をした最高位最上級超常体が口を開く。
「報告で、オシリス王は異形系と聞いていましたが」
「……昼夜問わず、心休まるところ無く、天使共から襲われ続けていたら、流石に強力な異形系と言っても力尽きるぜ。王が今の状態なのは、そう言う事だ」
看護していた、もう1人の少女―― セルケト[――]の言葉に、オシリスが申し訳なさそうな顔をすると、
「すみません、御力になれなくて。もう暫く休ませて頂ければ、戦場に復帰出来ると思うのですが」
「承知した。オシリス王は回復に努めてくれ。とりあえず俺達は戦力よりも情報の提供をお願いしたい」
風守の言葉に、イシスが頷いた。セルケトに看護を、黒犬アヌビスに警護を任せると、隣室に移動する。そして一同に席を勧めてから、
「先ず、此の中津にお越しになったという事は、私達についても御存知かと思います。アメン様が渾沌蛇アポピスを召喚した罪滅ぼしと、『遊戯』を降りたケジメとして私達は、密かに宇佐を支配下に置いていた“神の代理(イオエル)”の警戒役を任じ、中津に潜んで監視する事にしました」
“ 神の代理( イオエル)”とは、ヨエルであり、ヤハウェルであり、つまりはメタトロンである。
「……国東半島はシナイの地に対応し、両子山には熾天使長イオエルが居座っていたのです」
「そして宇佐を制圧したイオエルは、各地にある八幡神社を通じて、封印から解放された天神地祇の影響を掻い潜ると共に、配下の天使を送っているという事ですじゃな?」
確認を問い質す西行寺の言葉に、イシスは深く頷いた。だが此処迄は予測していた事でもある。更に知っている情報を引き出したい。其の考えは御見通しだったのだろう。イシスは数日間とはいえ警戒監視して得られた敵戦力を伝えた。
「――敵の戦力の多くはアルカンジェルを隊長にしたエンジェルスの編隊です。プリンシパリティやパワー、ヴァーチャーの姿も其々10は下りません。しかし、其れ以上の天使として……」
低位超常体のまとめ役としてドミニオンが1羽。八幡宮の護りとしてケルプが2羽。だが問題は熾天使。
「イオエルと、先程の“神の命令(サリエル)”を除いても4柱。“神の玉座(ケルビエル)”と“神の友(ラグエル)”、“神の秘密(ラジエル)”、そして“神の下僕(アブディエル)”です」
「確認出来ているだけでも5柱いるんだ!?」
雪村が頭を抱える。1柱だけでも厄介だというのに。加えて熾天使に比べたら雑魚みたいな扱いだったが、ケルプやドミニオンも1個中隊を翻弄するに充分な脅威だ。
「――能力まで判りますかしら?」
国恵の問いに、イシスは更に説明を続ける。天使共の戦術指揮官を務めている“ 神の下僕( アブディエル[――])”は強化系。得物は大剣で、恐らくは操氣系能力を有する憑魔武装だ。ケルプとパワーズを束ねて宇佐八幡宮の警護を担当している“ 神の玉座( ケルビエル[――])”は異形系。得物は火炎系の剣。“ 神の友( ラグエル[――])”と“ 神の秘密( ラジエル[――])”は操氣系。武装は確認出来ず。
「そして肝心のイオエルですが複数の能力を有しています。火炎系と祝祷系、操氣系、強化系は持っているでしょう。そして外見は……」
「――赤銅色の肌をした少年だな」
風守の呟きに、イシスや雪村達が驚いた顔を向ける。月子だけが微笑を崩さない。
「……遭遇した事が?」
「ああ。お偉いさん達がいっぱいいるところで顔を見た事がある。……俺の事を覚えているかは判らんが」
さておき能力だけでなく、宇佐における敵超常体の大体の配置を教えて貰い、潜入箇所を吟味する。
「くれぐれも大前提として、生存と情報の持ち帰りが再優先だ。超常体との交戦は避け、周辺の状況と危険には常に気を配ろう。動きを悟られないよう慎重に、超常体に発見されないのが最善」
だが……周りを見渡すと、いざとなれば殺る気満々なのが2人。風守と雪村は諦めて溜息を吐く。
「……王も、ホルスも、7月下旬には傷が癒えると思います。必ず支援に駆け付けますので、其れ迄、御無事をお祈りしております」
中津で宇佐八幡宮への威力偵察計画が練られている頃、九州北部は大きく勢力図が塗り替えられようとしていた。
長崎から侵攻してきた“ 神の杖( フトリエル[――])”の部隊は、佐賀上空で不死侯 フォエニクス[――]と交戦。フォエニクスと魔群は奮戦するも、結局はエンジェルスの群れに取り付かれて失速したところを撃墜。強力な火炎と尋常でない再生力を有していたフォエニクスと雖も、数の暴力には敵わず、全ての細胞組織を完膚なきまで潰されてしまったらしい。フトリエル自身がフォエニクスの討伐に登場したという観測記録もあり、相生相剋の法則でフォエニクスの火炎系能力が地脈系属性を有するフトリエルに通じなかった事も敗因に挙げられよう。また空間ごと磨り潰されていったという証言もある。
こうしてフトリエルは福岡への足掛かりを得たのだが、宗像三女神による抵抗は激しいだろう。しかし山口から南下してくる“ 神の怒り( ログジエル[――])”の部隊による挟撃もあり、福岡の陥落も時間の問題と言えた。もしもフトリエルとログジエルの神軍(かみついくさ)が合流を果たす事態となれば、九州の北半分が天使共によって征圧された事を意味する。
勿論、ログジエルの後背を突く感じで魔群が山口へと侵攻を開始している為、容易ではないだろう。だが“ 胎児( サンダルフォン)”の力を以って、ログジエルは燭台の灯を点す計画を進めていた。進捗から7月末には山口でも“天獄の扉”が開かれるだろう。
男とも女ともとれぬ端正な顔立ちの、奇妙な帽子を被った小柄な道化師の申し出。だが羽村・栄治[はむら・えいじ]陸士長は頭を掻く。フケが飛んだ。
「……悪いけれども、そういう話には興味が無いんだ」
落ち窪んだ目の下には隈があり、肉付きが悪いのか頬骨が浮き出ているような貧相な顔立ち。手入れもされずに伸びっ放しの髪は、顔を隠すかのように。おまけに無精髭。38歳独身。だが飄々とした態度の裏に隠された実力は折り紙つき。其れが羽村を受容体とする ハーデス[――]だった。
対する道化師は、七十二柱の魔界王侯貴族が1柱にして、その実力は最高位最上級超常体――主神/大魔王クラスに匹敵する存在、偉大公 ベリアル[――]。
「このままでは燭台の灯が点り、“ 唯一絶対主 ”に盲信する輩が脅威となりますが?」
ベリアル達の申し出は、対ログジエル戦の共闘だったが、ハーデスは片手を無造作に振ると、
「降りかかる火の粉は払うつもりだけどさ。ボクからちょっかいを掛けるのは違うような気がするんだよね。第一そういう事は弟に言ってくれないかい? 未だ弟がオリンポスの主なんだし」
アテナが生き残ってくれていたらねぇと、ハーデスは溜息を漏らす。
「ゼウス王は封じられたままと聞いております」
「なら、アポロンとアルテミスに宜しく。少なくともボクは『遊戯』に関与する気はないよ」
にべもないハーデスの言葉に、ベリアルは肩をすくめると、頭を垂れて引き下がった。
「……式神ユタカ、ペルセポネーの受容体の身柄を押さえれば、ハーデスと雖も此方の指示に従うのでは?」
ベリアルに付いてきていた魔王1柱の意見。だがベリアルは立てた人差し指を小気味よく左右に振ると、
「ハーデスの怒りを買いたければどうぞ」
徒に喧嘩を売るのは得策で無い。神話では目立った活躍が見られないが、其れでもオリンポス神群最強と謳われているハーデスだ。十二神の座を辞して、唯1柱で奈落(タルタロス)を監視している程の実力を有する。
「ハーデスが『遊戯』に関わらないという言質が取れれば、其れで充分で御座いますとも」
慌しく状況が移り変わりつつある神州。だが香川の善通寺駐屯地では、巳浜・由良[みはま・ゆら]海士長が大きく口を開いて欠伸していた。
アルケラ神群の代表である、虹色に鈍く光る銅のニシキヘビ―― ユルング[――]を“器”に受容するドリームシャーマンへと、監視と護衛を兼ねた同僚が冷たい視線を送る。
「……お前は暢気で良いねぇ」
由良は寝ぼけ眼をこすりながら、
「そうでもないよ〜。あっちの領域の更なる向こう側で〜また怖いのが居座り始めたから〜。電波妖精を籠の中に捕らえてさ〜。もうやんなっちゃう〜」
そして頬を膨らませてから、
「もうすぐ出番が来そうな、そうでないような……」
「またメタっぽい発言を……。予知夢か何かか?」
んー、どうだろう? 由良は首を傾げると再び眠りに就くのだった。
中津から宇佐へは県道664号線を南下する事で進入。県道44号線より東進し、小倉池迄到達した。
「ちなみに中津と宇佐の境には県道666号線があるの」
「……誰得情報なんですの、其れ?」
月子の薀蓄に対して、国恵が突っ込む。さておき小倉池に車輛を隠すと、徒歩で宇佐の中心部へと潜入する。月子が可視光線を操作し、広い範囲に迷彩が施された。
「……でもアルカンジェルやパワーといった操氣系能力持ちの天使には、逆に発見され易くなったけれども」
月子の言葉に、最悪1人でも情報を持ち帰るようにするべきだと考え、西行寺が国恵に指示を出す。国恵は首肯すると、マジカル風のインターセプターボディアーマーに寄生していた憑魔が能力を発動。国恵の気配を掻き消した。
「まぁ、物音迄は隠せないんですけれどもね」
「……体臭や体温は?」
「異形系能力を使えば、何とか誤魔化せますわよ」
国恵の返答に、異形系すげぇ!と感嘆。さておき目的地への接近を開始しようとする矢先、狙撃手が頭を低くするよう手信号。上空をアルカンジェルに率いられたエンジェルスの分隊が北西に向かって飛んでいく影を目視する。
「中津に送った部隊からの報告が無いから、偵察に向かったか」
「どうする? 撃墜しておく?」
雪村の言葉に、だが西行寺は首を横に振った。
「敵陣が近いからのぅ。じゃが見過ごす訳にもいきませんわい。イシスに渡しておいた無線機で連絡。迎撃するなり、息を潜めて隠れてもらうなり、後の判断は任せるとしましょう」
国恵がイシスに預けていた隊用無線機へと、風守が連絡を入れる。イシス達は無理せずに隠れ潜んで、やり過ごすらしい。天使の屍骸を全て隠蔽するのは無理でも、指揮官だったサリエルの遺体だけでも隠せば、敵の混乱は増すだろう。
「マルコキアス。車輛の警護を頼む」
風守はオートに声を掛けると、ライトが一瞬点灯して承諾の意を返した。
小倉池から宇佐八幡宮まで直線距離にして5km。上空を哨戒の編隊が飛び回り、要所を警戒するプリンシパリティが見張っている。月子の幻覚を巧みに使い分けさせ、裏道や廃屋の中を突き切って、慎重に、時には大胆に、先を急ぐ。
「――情報通り、四方を警戒する4羽のパワーの姿を確認。ケルプは宇佐の上宮の西大門にて2羽いるな。ドミニオンやヴァーチャーは他の処に詰めているのか、宇佐八幡宮では目視出来ない」
双眼鏡を覗く狙撃手の言葉に、西行寺は黙考する。パワーの〈探氣〉からギリギリ逃れられる箇所――大善寺に隠れ潜んでいた。長い歳月による風化だけでなく天使共に荒らされたのだろう、破壊の痕が大きく残っている。雨風や夜露を凌ぐには充分だが。
「ドミニオンならば市役所の方で見掛けたよ」
念の為に宇佐市役所の方も見て回ってきた雪村と国恵が報告。
「……どうする? 敵の戦力が或る程度掴めた以上、無理は禁物。一時撤退して作戦を練り直すか、或いはオシリス達の復帰を待って戦力を増やしてから突入すべきだと思うが」
風守の尤もな意見に、西行寺は無言のまま眉を微かに動かした。隊用無線機で別府や福岡といった各駐屯地には簡潔ながら報告を入れている。風守達の報告を受けて、別府では駐屯地堅守の命令に背いてでも、宇佐を奪還しようとする気運が生まれているらしい。此の勢いが7月末迄続けば戦力も充分だ。
「だが……相手も黙っているばかりじゃないようだ。アレは何だと思う?」
双眼鏡を手渡されて、風守が宇佐八幡宮を覗く。
「天が――割れる?」
何時の間にか西大門に顕れたラグエルが、3対の光翼を広げて歌いだす。
み恵みを受けた今は
われらに恐れはない。
み力により頼んで、
主のために進みゆこう。
宇佐八幡宮に集っていたエンジェルスが唱和する。人の耳に聴こえぬ歌声を上げる。
さあ進め、たゆみなく、
さあ歌え、声たかく。
み恵みに生かされて
われらは主に従おう。
と、雲1つ無い空に稲妻と声と雷鳴が起こった。
『――貴方の御業は偉大であり、驚くものべきものです。“ 主 ”よ。万物の支配者である神よ。貴方の道は正しく、真実です。諸々の民の王よ』
―― “ 主 ”よ。誰か貴方を恐れず、御名を褒め称えない者があるでしょうか。唯、貴方だけが、聖なる方です。全ての国々の民は来て、貴方の御前に平伏します。貴方の正しい裁きが、明らかにされたからです ――
『彼等は全世界の王達のところに出て行く。万物の支配者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼等を集める為である』
――こうして彼等は、ヘブル語でハルマゲドンと呼ばれるところに王達を集めた――。
『……そう。此の地こそが、メギドの丘。神州と呼ばれし、極東の島国が!』
エンジェルスの光が集束し、粒子が渦巻く光の柱を形作る。虹色の煌めきが揺蕩っていた。
「――燭台の灯を点そうとしているのか!? “天獄の扉”が此処にも開くぞ!」
風守の怒号に似た叫びに、西行寺の眼が見開いた。愛刀を握ると立ち上がる。
「――各員、戦闘準備! 黙って看過すれば手遅れになりかねん!」
「やれやれ……こっそり侵入して、イオエルの首をへし折るのが理想的なのでしたけれども」
「……結局、殺る気満々じゃないかぁ」
肩をすくめて見せる国恵に、雪村が乾いた笑い。
「初めから、既に危険地帯に突っ込んでいる予感しかしてなかったんだよなぁ」
風守が諦めたように呟くと、流石の月子も励ましの声を掛ける事しか出来なかった。
「何処まで行けるかなぁ?」
「――何、斬ってみれば判る事」
雪村のボヤキに、西行寺は意気揚々と答える。そして風守と狙撃手に向き直り、
「……ふむ。BUDDYだけでは物足りませんな。2人に此れを貸しておきますわい」
FN5.56mm機関銃MINIMI2挺を渡した。
「雑魚を散らすには有難い。西行寺准尉、感謝する。――月子は祝祷系能力で、皆を支援してくれ」
では、と覚悟を決めると。
「――状況開始。突貫する!」
敵に気取られる前に、迅速に目標へと接近。パワーが接近に気が付いた時には、敵を射界に捉えていた。MINIMIが荒れ狂って弾幕を張る中、西行寺が無言のまま突っ込んでいく。
――憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行。
鋭さ、重さ、速さが増した。勢いのまま唸りを上げる太刀を振り払って一閃。鎧に見紛う外骨格に包まれたパワーが氣の防護壁ごと断ち切られる。
「御老人。御相手は僕が致しましょう」
筋骨隆々としたアブディエルが駆け付けて、大剣で西行寺の刃を受け止める。刀に寄生している憑魔の呪詛も、大剣に宿っている憑魔の氣によって届かない。力は拮抗。ならば残るは技量の勝負だった。
アブディエルの援護に、ケルプが炎の息を吐こうとするが、誰に気付かれる事無く肉薄した国恵が下顎を掴む。次の瞬間、
「――マジカル・アウトブレイク」
必殺技名と共に、ケルプの顎を引き裂く国恵。其のまま首をアームロックし、更に腐食の力をケルプへと注ぎ込んだ。崩れ落ちたケルプから跳び上がると、また光と影の隙間に潜り込む。国恵の気配を見失って右往左往するアルカンジェルの膝を蹴りで崩し、絡めた腕を捻じ曲げ、折り砕く。
「魔王グレモリーの仕業か!」
幻惑を張り続けて味方を支援する月子へと、詠唱を中断させられたラグエルが怒りの声を上げながら突撃。だが風守は弾幕を張って妨害。そして破片手榴弾を放り投げた。
爆発――しかし氣の膜を張ったラグエルが無傷なのに舌打ち。ラグエルは氣で造り上げた矢を放つが、雪村が大太刀“月桂”で払い落とす。
「魔王に誘惑されて堕落したか、愚かなヒトが!」
「……生憎と」
風守は更に手榴弾を投擲。
「他人様には話したくない事情が有ってな。第一、誘惑された覚えも、した覚えも無いんだが、まとわり付かれてんだよ」
氣の防護壁で爆発を凌ごうとするラグエルだったが、中に紛れていた閃光発音筒が視界を奪う。其の刹那に雪村が肉薄。月桂で袈裟に斬り下ろす。
「敵将ラグエル討ち取った!」
声高に叫ぶ。声が空気を震わせ、戦場に響く。同胞の死にアブディエルの動きが鈍った。刹那の時だったが西行寺には充分。振り下ろした刃が、アブディエルの眉間を割った。致命傷――だがアブディエルは最期の力を振り絞って、死なば諸共に反撃。西行寺は跳び下って躱そうとするが、遅れた刃が折られ――
だが大剣は届かず。アブディエルの上体は背から地に付けられていた。国恵が満面の笑顔でポーズ。
「ぶいっ!」
「……助かりましたわい」
熾天使2柱に、パワー2羽、ケルプ1羽の戦果。だが……
「儀式は終わっていない!」
「――退避。大本命が来るぞっ!」
警告の言葉が来ても、回避は不可能だった。厳かな破壊の衝動を纏った氣の波が宇佐八幡宮の上宮社殿から放たれる。西行寺の憑魔が狂ったように悲鳴を上げて、激痛が神経を駆け回る。国恵と月子も苦痛に顔を歪める。西行寺程ではないが、鉛の塊で殴られた衝撃に膝を地面に付けた。
「――来るぞ。イオエルだ」
ケルビエルと、ラジエルを伴って、赤銅色の肌をした少年が上宮社殿から姿を顕す。アブディエルとラグエル、そして多くの弟妹の死に嘆く表情を浮かべてから、視線を風守達に向けた。
衝撃を受けたが、西行寺や国恵、月子とは違って無力された訳ではない。風守と雪村、そして狙撃手は必死になって閃光発音筒や、
「准尉、借りるぞ!」
催涙球2型を放り投げる。そして一瞬の隙を突いて、倒れている3人を担ぐと、全力で駆け出した。当然ながら追撃してくる天使の群れ。
「――マルコキアス!」
風守は呼び掛けながら走る。手足に力が入るようになった国恵と月子が自分で走れるようになったが、西行寺が未だ失神から戻ってきていない。
追撃のアルカンジェルが氣の刃を振り上げた。
――駆動音が轟き、ホンダXLR250Rがアルカンジェルを跳ね飛ばす。風守が自分の愛車に跨ると、月子は当然の様に、背に付く。
「先に行け! 俺達はこいつ等を蹴散らしてから行く」
「必ずだよ!」
逃げる雪村達の背を尻目に、追撃のエンジェルスに向き合う風守と月子。
「――熾天使が追撃に加わってないから大丈夫よ」
「其れだけが根拠というのは、正直不安だが」
苦笑する。そして追い駆けっこが始まった。
西行寺の意識が戻って息を潜めて隠れ忍ぶ雪村達。何とか追撃を振り切った風守達と合流出来たのは、翌日の夕方だった。
「死……ぬかと思った」
「……私は和也と一緒ならば、其れも本望だわ」
「こんな時にも惚気かしら……さておき熾天使2柱は倒したけれども、大本命は健在。そして“天獄の扉”が開く迄、時間がありませんわ」
国恵の指摘に、疲れの濃い風守の顔が更に深く沈んだ。もうすぐラー神群の応援が来るとはいえ、敵は強大だ。一筋縄に行かないだろう。
「しかし今は充分に休息を取って、傷を癒し、疲れを拭うしかないですのぅ」
西行寺の呟きに、一同頷くしかなかった……。
■作戦上の注意
当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
また過去作のノベルを参考にする場合、PCが当事者でない場合、然るべき理由が確認出来なければ、其の情報を用いたアクションの難易度は上がり、最悪、失敗どころか没になる事もあるので注意されたし。
全体的に死亡率が高く、下手な行動は「即死」と考えて欲しい。加えて、常に強制侵蝕が発生する事態を念頭に置かれよ。
基本的にPCのアクションは超法規的活動であり、組織的な支援は受けられない。
※註1)三方町……現実世界では2005年3月31日に遠敷郡上中町と合併して若狭町が誕生したために消滅した。キャッチコピーは、「いつもあなたの“みかた”です」。