西暦1999年、人智を超えた異形の怪物――超常体の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
国際連合は、世界の雛型たる日本――神州を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
――其れから20年。神州では未だに超常体と戦い続けていくはず……だった。
転機が訪れたのは3月下旬に各地で大発生した超常体の襲撃。此れまで群れ成すだけだった超常体が、組織的に作戦を行ってくるという悪夢。高位の存在や完全憑魔侵蝕魔人によって統制された超常体の群れは、幾つかの駐屯地が壊滅させ、少なくない人命を奪っていった。
其れは『遊戯』と呼ばれるモノの前哨戦。世に言う『黙示録の戦い』で力を誇示する為の準備であり、篩い分けであった。
夏至の日を境にし、高位の超常体が、神州の支配権を巡って相争い始める。天を覆う、神の御軍。地を埋める、魔の群隊。人々は拠点を死守するのに精一杯だった。
――しかし、其れでも人々の中には、抗い、挑み、屠る事を目指して、戦いを辞めぬ者も居続ける。剣刃を研ぎ澄まし、銃筒に火を落とす。生きていく為に、智慧を巡らし、仲間の手を握り、明るい日を見る為に……。
……此れは、人と、魔と、神の、裁き。
黙され、示されぬ、戦いの記録である――。
携帯情報端末やラジオ電波受信機に留まらず、隊用の携帯無線機や個人に配給されている短距離無線機、全ての通信媒体に“ソレ”は現れた。
姿形や音声は視聴する者によって千差万別。だが同一の存在が語り掛けてくる。
『――おはこんばんにちは。電波妖精セスナです』
神州結界維持部隊・幕僚監部・人事部広報担当を称する セスナ[――]。無認可で裏通信番組『神州の夜明け』を発し、各地の戦況を伝える“彼女”。
だが、セスナはいつもの『神州の夜明け』でのオドケタ口調でなく、淡々と言葉を紡ぎ始める。『新雌雄の夜明け』でキャラ造りに迷走しているのを聞き知っている者ですら、違和感を覚える声色だった。
――問題は其れだけではない。
電波妖精が全ての通信機器、演算処理機の管理権を強奪した事に通信科隊員が悲鳴を響かせ、先の少なからぬ被害を生じせしめた“ 神の杖( フトリエル[――])”の煽動の経験から警務科隊員が怒号を上げる。……だが、セスナの姿形と音声は、視聴出来たモノ以外の情報端末や通信機に影響を及ぼさなかったという不可解な記録と証言が残されたのだった。
さておきセスナは言葉を紡ぐ。昨日から続き、そして明日へと挑む為の戦いを。
『――其れでは皆さんに、改めて現在の戦況を御報告致します。先ずは北海道から……』
北部方面隊が管轄する北海道。
札幌に封じられていた天神地祇の1柱、大物主[おおものぬし]を解放したものの、千歳にて“ 神の裁き( ショフティエル[――])”が建てた“光の柱”より『天獄の扉』が開き、ヘブライ神群が続々と溢れ出してきている。
千歳より後退した第7師団を迎えた第11師団は、傷病者や非戦闘員を旭川に疎開させると、札幌にて抗戦の構えを取っていた。
旭川では、神州古来の超常体である神威(カムイ)群の英雄 サマイクル[――]の支援を得て、第2師団が後方の護りを固めている。また帯広の第5師団も、側面から千歳への警戒を向けていた。
対する千歳一帯を占拠したヘブライ神群は、札幌への侵攻を開始するだけでなく、室蘭から内浦湾を越えて函館へと飛来する姿が確認されている。
ヘブライ神群の狙いは、函館を制圧して本州への足掛かりを得ようとする事だろう。しかし函館駐屯地の第28普通科連隊はハストゥール召喚阻止作戦で多大な損害を受けており、ヘブライ神群の侵攻を邪魔する戦力は皆無だった。非戦闘員や傷病者は青森――第9師団を頼って疎開し、残った者も駐屯地に籠城するしかないという。
続いて、其の青森がある東北だが、管轄していた東北方面隊は、元東北方面総監の 吉塚・明治[よしづか・あきはる]の日本政府に対する独立宣言で瓦解。また神州古来の超常体である妖怪という勢力も潜在しており、混沌とした状況下にある。
吉塚は、神州古来の大地母神である 荒吐[あらはばき]を擁立すると、人為的な魔人兵による連隊を組織して周辺地域の統制や関東方面への進攻を開始した。
だが吉塚の行動に疑いを持つ者も少なくなく、岩手に駐屯していた第9師団の一部と、宮城の第6師団の主力だけが支持基盤と言えよう。
特に山形では 月讀[つくよみ]が解放された事もあり、第6師団の一部は此方に付いている。また秋田では維持部隊からも吉塚からも距離を置く妖怪勢力が逃げ込んでいるという情報もある。
だが吉塚勢力は周辺地域に睨みを利かせながらも、福島へと進攻を開始。狙いは駐日中国共産党人民解放軍(※駐日中共軍)が駐留している、茨城の大甕倭文神社――其処に封じられている 天津甕星香香背男[あまつみかほしかかせお]を味方に引き込もうとしているのではないかと推測されている。
大甕倭文神社には駐日中共軍最強と目されている 車・奉朝[チェ・フェンチャオ]六級士官と、率いる 項・充[シィァン・チョン]少尉の部隊が警戒監視を続けている。しかし南下してきた吉塚勢力と激突した時に如何なる災禍が巻き起こるか迄は、予測が付かなかった。
神州中部の白山連邦。其の主峰である御前峰に、菊理媛[くくりひめ]を祀る白山比盗_社の奥宮がある。
白山連邦の麓や山中には、封印から解放された菊理媛の影響下にあって、超常体からの脅威は少ない。北陸や中部地方だけでなく関東からも非戦闘員や傷病者が疎開してきていた。
彼等を誘導し、また護るのは維持部隊だけではない。駐日露軍――駐日露西亜連邦軍・露西亜空挺軍の第819独立親衛特殊任務連隊(スペツナズ)も共闘体制に基づき、治安の維持を駆ってきてくれている。
そんな露西亜空挺軍の特徴たるブルー・ベレー帽を被る駐日露軍の将校が奥宮を訪れてきた。訪問者の姿に、社主である菊理媛は顕現すると不愉快な表情を隠そうとしない。
菊理媛の険のある視線を、だが野趣溢れる面差しの ヨシップ・グリゴロフ[―・―]少尉は苦笑いで受け止める。ウラジミール・ラドゥイギン[―・―]大尉に次ぐ実質的な駐日露軍の2位で、其の正体は東欧羅巴スラヴ地方における獣神 ヴェーレス[――]。菊理媛にとっては仇敵だ。しかし封印から解放した維持部隊員の願いにより、菊理媛は駐日露軍や外来の超常体に対して怒りの矛を向けるのを抑えている。其れでも、
「よく顔を見せに来られましたね?」
『――『黙示録の戦い』が始まったから、謹慎している場合じゃないってね。とりあえず詫びの挨拶でも』
菊理媛は日本語で、ヴェーレスは露西亜語で会話している。だが互いの言語に精通していないにも拘らず、意思疎通に問題は無いようだ。音声という空気の振動でなく、言霊で対話をしているのだろう。
「外津神々は、豊葦原の地を『遊戯』の場とし、血で穢し、命を奪ってきました。まだ続けるのですか?」
『――否、此れからが本番だよ』
維持部隊との共闘態勢を築き上げているとはいえ、駐日露軍……其れを隠れ蓑とするスラヴ神群は未だ『敗北』を認めた訳ではない。ラドゥイギン大尉こと、スラヴの主神を標榜する雷神 ペルーン[――]が頑なに認めたがらないからだ。現在、ペルーンは駐日露軍がキャンプ地を置く、石川の辰口丘陵公園跡地から動いていない。ペルーンとしては、白山連峰の支配権を維持部隊に取り戻され、スラヴ神群としても“柱”を立ててもいない。実質的な敗北だ。しかし主神の矜持もあって維持部隊や菊理媛に頭を下げる訳にも行かないという、苦しい立場にあるらしい。
其の点、勧められた共闘態勢に応じたヴェーレスは気楽なものだ。スラヴ神群の“世界”では、ヴェーレスの言動に対して賛否両論があるものの、現実性や将来性を考えれば正しいという評価が多いらしい。特に、いずれトリグラフ(※三神一体のスラヴ神群の主神格)に替わるかもしれない“白き神(ベロボーグ)”が支持している事が大きいという。
兎も角、ヴェーレスの言葉に、菊理媛は美貌を益々険しくしていく。だが暫く睨み付けた後、溜息を漏らした。
「……くれぐれも、高天原の霊と、葦原の血肉に連なりしヒトの子の信を裏切らないように。其の時は――」
菊理媛は白山妙理権現の異称を持つが、古事記には名が挙がらぬ神であり、日本書紀の一書に一度だけ出てくるのみで、謎が多い。しかし菊理媛を主祭神として祀る白山比盗_社は、日本各地に2,700余りある白山神社の総本社である事からも考えると、神格や力は、かなり上位にある存在と看做されている。一説には、正体は伊邪那美そのものと言われているらしく、天父神たる伊邪那岐が 天照坐皇大御神[あまてらしますすめおおみかみ]を後継者としたのと対照的に、地母神たる伊邪那美は菊理媛を後継者としたという説もある。
其の菊理媛が本気で怒り狂うならば、ヴェーレスといったスラヴ神群だけでなく、駐日露軍兵士も鏖殺されるに違いなかった。
だがヴェーレスは苦笑いするだけ。其の様子に、菊理媛も毒気を抜かれた様に再び溜息を漏らす。
「……くれぐれも余り力を使わせないように。妾は其方達、外津神々の『遊戯』によって乱された瑞穂の地の時空の綻びを括り直さなければなりませんからね」
神州各地で発見されている“門”と称される、時空の綻び。『柱』によって生じるモノと違い、制御出来ないソレを修繕する事は、菊理媛といった限られた神にしか出来ないらしい。
「特に、北海道の十勝岳に開いた穴、青森の恐山に開いた綻びと、山口の秋芳洞にある“奈落(タルタロス)”という3つが厄介です」
十勝岳の“門”は第05特務小隊によって監視下にある。恐山に開いた“門”は出現したラクシャーサ神群の支配下にあるが、王ラーヴァナが静岡で倒された事により『遊戯』では問題外と看做されている。……其れでも人類にとって脅威に違いないが。残る3つ目の“奈落”は秋芳洞を爆破する事によって落盤――物理的に埋没した上に、オリンポス神群最強と謂われる冥王神 ハーデス[――]が今も警戒を続けている。
「他にも大小の違いは在れど、瑞穂に生じた綻びは数多い。妾の括りの力を以て、綻びを正していかなくてはなりません」
『“門”ねぇ……。そういえば、また最近、『柱』の近場でもないのにヘブライの天使共の姿を確認するようになったが、其れも“門”が新たに生じたからか?』
ヴェーレスの問いに、だが菊理媛は静かに首を横に振る。そして厳しい顔付きで、
「――戸来(へらい)の神使が我が物顔で飛び回るのは、八幡(やはた)の社が制圧されたからです。綻びでは無いので、妾でも如何にも出来ません」
八幡宮は神州各地に約44,000社も存在する。つまり菊理媛の言葉によれば、
『―― “柱”とは別口で、神州全てがヘブライ神群によって侵蝕されていっている……という事か!?』
ヴェーレスの驚愕の叫びが轟くのだった……。
――セスナからの現状報告は続く。
『……長野の諏訪湖に封じられていた建御名方と八坂刀売は解放されました。しかし更に奥底に眠っていた祟り祇までも解き放とうと企んでいた“這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)”の化身が1つ“ 嘆き悶えるモノ(ウェイリングライザー)”こと、ナーハリの行方は不明のままです』
また“ 這い寄る混沌( ニャルラトホテプ[――])”は数多くの化身を以って、様々な陰謀を張り巡らしていた。幾つかの化身を打ち破ったものの、デーヴァ神群の主神格 ヴィシュヌ[――]の化身(アヴァターラ)が1つであるクリシュナを騙ったモノによって、秋葉山本宮秋葉神宮が消滅してしまっている。封じられていたはずの火之夜藝速男も“無”に帰してしまったという。
「其のヴィシュヌはカルキとして、富士山本宮浅間大社を中心にデーヴァ神群の“柱”を形成。デーヴァ神群は維持部隊と友好関係を結んでいますが、周辺の超常体を駆逐しながら、徐々に支配領域を広げていっています」
富士山本宮浅間大社に封じられるはずの 木花之佐久夜[このはなのさくや]は、だが早々にヴィシュヌ自身によって解放されている。其の点もまたデーヴァ神群に対して維持部隊から責める理由が無い事の1つ。そして木花之佐久夜は、迎えに来た 天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命[あめにぎしくににぎしあまつひこひこほのににぎのみこと]と共に、宮崎の高千穂に身を移しているのだった。
超常体が出現して以来、京都を占拠していたヘブライ神群の四大元素天使を激闘の末、排除に成功。宇迦之御魂[うかのみたま]が解放されて復興が約束されていたはず……だった。
しかし入れ違うように大阪が魔群(ヘブライ堕天使群)によって制圧。解放されたばかりの京都は、大阪から撤退してきた第3師団主力と共に魔群への抗戦の構えを取ることになった。
大阪湾には、今や魔群の旗艦となった亜米利加合衆国海軍航空母艦キティホークが、米海軍第七艦隊を引き連れて鎮座しており、中部方面総監部の在った伊丹駐屯地は万魔殿(パンデモニアム)と化している。大阪は『七つの大罪』を掌りし大魔王が3柱も集まっているだけでなく、七十二柱の魔界王侯貴族が護り固める難攻不落の地だ。大阪を拠点に置くと、魔群もまた支配領域を拡大しつつあった。
山陰ではアース神群が討たれ、島根の出雲大社に 大國主[おおくにぬし]と 須世理比売[すせりひめ]が帰還。ダーナ神群と共闘体勢が培われつつある山陰地方は安泰かと思われがちだ。
しかし山口は“ 神の怒り( ログジエル[――])”にの制圧下で、サンダルフォン[――]の力を以って“光の柱”を立て“天獄の扉”を開こうとしている。
また七十二柱の魔界王侯貴族にして、大魔王に限りなく近いとされる実力者の恐怖公 アスタロト[――]と偉大公 ベリアル[――]が、中国山地の何処かに拠点を持っており、天使の群れと絶え間も無く争いを続けている。
反面、オリンポス神群の主神である ゼウス[――]は意識を幽閉、肉体は石化の上で、那岐山に封じられているという。『遊戯』に参戦する事も出来ず、また敗北する事も許されず、 アポロン[――]と アルテミス[――]が護っているそうだ。
大山祇神社には 大山津見[おおやまつみ]が怒れるままに封じられている。ポセイドンから引き続いて封印を堅持しているのはハーデスだ。オリンポス神群最強と謳われる冥王神は秋芳洞にて“奈落”への警戒も続けていた。
其の状況の中、四国は比較的平穏のまま。アルケラ神群の代表、偉大な銅のニシキヘビ『 ユルング[――]』の巫女、 巳浜・由良[みはま・ゆら]海士長は惰眠を貪っているのだった。
身を伏せて、双眼鏡で彼方の空を覗く。薄く発光しながら隊伍を組むエンジェルスを確認し、小さく舌打ちした。
長崎の相浦駐屯地。西部方面普通科連隊(WAiR:Western Army Infantry Regiment)がヘブライ神群の動きを警戒していた。携帯する89式5.56mm小銃BUDDYで撃墜してやりたくなるが、上層部からの命令は駐屯地の死守防衛であり、超常体からの侵攻に対して籠城で構える事だ。歯噛みしながら、エンジェルスが長崎の空を蹂躙していく様子を観察するしか他ない。
熊本の天草で“光の柱”を立てて、“天獄の扉”を開いたフトリエルは熊本中心部への侵略は諦め、代わって長崎へと矛先を向けた。天草五橋の先――三角より東は、阿蘇の 健磐龍命[たけいわたつのみこと]の影響下にあってヘブライ神群は弱体化する。其の為、飛行能力を活かすと、長崎を橋頭保として侵攻してきたのだ。
超常体の侵攻に際して、佐世保にある米海軍基地は沈黙を保っている。亜米利加合衆国の上層部は天使派と魔群派で二分化しているという噂だ。そして魔群派の多くは大阪湾の第七艦隊に集合しているといわれ、逆に天使派はキャンプから動かないか、もしくは最寄りの“光の柱”へと部隊を派遣しているという。
「……どちらにしても米軍は信用出来ないって事だ」
思わず、悪態が口に出た。幸いにもエンジェルスとアルカンジェルは物陰に潜む維持部隊員に気付く事無く、上空を過ぎていく。
長崎を橋頭保にしたヘブライ神群フトリエル隊は、佐賀を通過して福岡に侵入。山口のログジエル隊と合流を図ろうとしているようだった。また熊本中心部の突入も企んでいるのは間違いない。
だが熊本中心部は健磐龍命が、福岡は宗像三女神が睨みを利かせている。そして天使にとって最大の誤算は佐賀上空を飛び回っている魔王だった。七十二柱の魔界王侯貴族が1柱、不死侯 フォエニクス[――]は人類に積極的に攻勢を掛けて来ない点では特異な魔王だった。唯、佐賀上空を飛び回っているだけ。其の分、空輸が滞りがちだったが、やり過ごす事が出来れば脅威ではない。
其れでも天使と魔群は不倶戴天の仇敵であり、フォエニクスも例外ではない。人類には寛容ながらも、天使に対しては徹底的に潰しに掛かる。天使が佐賀の侵入を図ろうとすると、フォエニクスはワイバーンやドラゴンといった飛行型超常体を顕現させて、周辺に展開。伊万里−武雄−嬉野のライン上で天使と魔群が激戦を繰り広げている。
こうしたフォエニクスという思い掛けない防壁に、福岡が安全かというと、そうでもない。宗像三女神の影響下にあるとはいえ、山口のログジエル隊が南下しつつある。
また隣接する大分からもまた天使の群れが発生。福岡だけでなく宮崎や熊本への突入を図ろうとしているらしかった……。
――市ヶ谷駐屯地の何処か。
状況報告を終えたセスナが、まるで人間のように、呼吸音を繰り返す。
「……貴女でも緊張する事があったんですね」
からかうように声を掛ける。セスナがいる空間に顕れたのは、八木原・斎呼[やぎはら・さいこ]一等陸尉。維持部隊長官の 長船・慎一郎[おさふね・しんいちろう]の秘書武官であり、強力な操氣系魔人。そして龍脈の逆鱗を鎮める巫女でもある。実体は人の形を成さぬ肉塊で、今は東京城に隠されていた。執務を行う時は、強力な操氣系能力で造り上げた思念体で行動している。今、セスナの居る空間に顕れた姿も、思念で造り上げたモノだ。
「……いつものラジオみたいな遊びとは違いますから。私だって緊張しますよ」
斎呼に向けて、セスナは唇を尖らしたイメージを送る。そして苦笑もしてみせる。
「正規部隊は駐屯地等に籠って、死守防衛。そんな命令に反して、神々の戦いに割って入ろうとする蛮勇の者を支援するのが、『落日』中隊へと与えられた極秘任務。兎に角、頑張ってみます」
電波妖精の自称は伊達じゃないとセスナは豪語する。斎呼は微笑んでみせると、
「貴女の情報の収集及び伝播能力は、大変貴重な戦力です。くれぐれも頼みました」
斎呼に対して、セスナは不敵な笑みを浮かべて敬礼のイメージを送る。視線を横に向けると、
「――早速、新たな情報が。暫くお待ち下さい」
現れた情報を分析。……だが、其の高い情報処理能力は諸刃の剣にもなる。
「こ、此れは……!? クルーシャチュ方程式が組み込まれて――」
セスナが発した驚愕と悲鳴、そして絶叫。受けたイメージの余りの強さに斎呼が、思わず顔をしかめた。
「――どうしましたか?」
斎呼の呼び掛けに、セスナは沈黙。だが、不意に笑みを浮かべて返してきた。
「……なニも問題あリませン。少し情報量ガ多過ギてパにックニなっタだけデす」
エラーとノイズ交じりのセスナの言葉に、斎呼は警戒心を露わにする。セスナは口元を吊り上げるようにして三日月状の笑みを形作った。
「――何も問題はありません。しかし情報分析時間が掛かります。暫くの猶予を頂きたいのですが?」
静かだが不気味。そして何とも有無を言わさぬ威圧感を受けた斎呼は眉間に皺を寄せたまま、セスナの居る空間から姿を消した。
斎呼の気配が完全に無くなったのを確認すると、空間を波立たせて、セスナが哄笑を上げるのだった……。
……そして6月30日。神州各地で天使の異常発生が起こった。
特筆すべき点は、神州古来の天神地祇が封印から解放されて影響を及ぼす地域でも、天使の弱体化が見られなくなった事である。札幌、岩手と宮城、山形、長野、白山連峰、三重、京都、島根、愛媛、福岡、熊本、宮崎、鹿児島、沖縄。またデーヴァ神群が支配する静岡でも同じだった。
“光の柱”や“門”程ではないが、虹色の発光現象を確認。其れは神州に存在する約4,400の八幡宮から発せられていた。天神地祇の束縛を振り切った天使の軍勢は“柱”を持たぬ神群の超常体を駆逐していく。
こうしてヘブライ神群が神州を席巻し、『黙示録の戦い』が始まったのだった……。
また私は見た。一羽の鷲が中天を跳びながら、大声で言うのを聞いた。「災いが来る。災いが、災いが来る。地に住む人々に……」
「――大川ユーフラテスの辺に繋がれている四人の御使いを解き放せ。」
すると、定められた時、日、月、年の為に用意されていた四人の御使いが、人類の三分の一を殺す為に解き放された。
■作戦上の注意
当該初期情報で書かれている情報は、直接目撃したり、あるいは噂等で聞き及んだりしたものとして、アクション上での取り扱いに制限は設けないものとする。
但し過去作のノベルを参考にする場合、PCが当事者でない場合、然るべき理由が確認出来なければ、其の情報を用いたアクションの難易度は上がり、最悪、失敗どころか没になる事もあるので注意されたし。
また全体的に死亡率が高く、下手な行動は「即死」と思って欲しい。加えて、常に強制侵蝕が発生する事態を考慮せよ。
基本的にPCのアクションは超法規的活動であり、組織的な支援は受けられない。