同人PBM『隔離戦区・呪輪神華』初期情報 〜 東海:南亜細亜


『 黒き神の策謀 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物――超常体の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本――神州を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ――其れから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 多様な民族、言語、宗教で構成される事により、欧米から「国というより大陸」と揶揄される印度共和国だが、極めて親日的な態度を取っている事は意外に知られていない。
 隔離後に進駐した印度共和国軍(※駐日印軍)もまた維持部隊に協力的な態度を貫いており、日本人に存在を歓迎されている数少ない部隊の1つだった。
 駐日印軍が駐留する主要な地は2つ。1つは諏訪で、もう1つは此処――富士である。約1,300あるという浅間神社の総本宮である富士山本宮浅間神社に展開する部隊は、母国にあるヒンドゥー教の寺院と並ぶぐらいの礼節を以って接していた。
 二重の楼閣造で知られる本殿の前にて優雅に座する ラース・チャンドラ・シン[―・―・―]大尉はチャイを味わうと、
「――サクヤにも、余の国の文化を楽しんでもらえればいいのだが」
 と奥の方へと微笑んだ。温かな気配の持ち主が本殿奥から美しい声で返してくる。
『 ――殿下のお気持ちだけで充分に幸いです』
「……ふむ。封は解いてあるのだから、サクヤはもっと外に出て来れば良いものを」
『お戯れを。他の神祇に比べて、わたくしは殿下によって厚遇されている身。此れ以上を望めば、夫君より叱られてしまう事でしょう』
 声の主の言葉に、ラースは美麗な顔に苦渋を刻むと、
「サクヤの夫君は未だに解放されておらぬのか。……高千穂の方であったな。生憎と余の力は静岡内にしか及ばぬ。申し訳ない」
 本殿の奥へと頭を下げる。
「……しかし、余も、妻を早く見つけ出したいものだ」
『わたくしに良く似ているという……』
「然様。余の妻とサクヤには、もしや時空を越えての縁があるのやも知れぬな」
 ラースの言葉に、本殿の主は暫く沈黙する。
『 ――殿下が無事に奥方様と御逢い出来ます事を心よりお祈りしております』
 うむ、と頷き返すラース。和やかな雰囲気の中、熊のような巨漢が失礼を詫びてから声を掛けてきた。
「殿下。維持部隊富士教導団の竹内一佐がもうすぐ到着されます」
 大佐の階級章を着けているが、振舞う姿はラースの副官や従士のようだ。しかも其れが自然と見える。ラースもまた当然のように巨漢へと微笑むと、
「うむ。着たら、失礼のないようにな」
 高機動車『疾風』から降り立った、富士教導団副団長の 竹内・清[たけうち・きよし]一等陸佐へと、駐日印軍兵士が敬礼を送る。竹内は答礼を返すと、熊のような大佐に案内されて、本殿前に姿を現した。本殿の主へと頭を下げ、続いてラースへと敬礼を送る。
「媛祇様には、本日も御機嫌麗しく。殿下におきましては、いつも御配慮頂き、感謝が絶えません」
「階級では、そちの方が上だ。そう畏まらないでくれ」
 では、と力を抜いて勧められるままに竹内は座する。
「――各地の状況はどうであるか?」
「市ヶ谷によると各地の超常体が活発化しているのは間違いないかと。殿下が以前仰って下さった『黙示録の戦い』に向けて、各神群が躍動しているようです。静岡に至ってもヤクシャやナーガ、ラクシャーサが不穏な動きを見せています」
 そして竹内は改めて視線をラースに送った。ラースは苦笑すると、
「……心配するな。余等は今後も維持部隊に協力を惜しまん。――無論、余のデーヴァ神群もまた勝利を目指している。だが日本の神祇の協力が必要だ」
 印度共和国内で最大の信徒数を誇るヒンドゥー教だが、バラモン教を軸に印度各地の土着の神々や崇拝儀式を吸収しながら形成していった多神教である。其れ故に、デーヴァ神群を高位に置くものの、ナーガやヤクシャといったモノ達もまた別神群として下剋上を虎視眈々と狙っているという。特にアスラやラクシャーサはデーヴァとは不倶戴天の敵対関係にあるという。
「――ヘブライの輩が介入してこないとも限らん。一層、油断は出来ぬな」
 そう言って溜息を吐くものの、優雅さが崩れないところがラースらしいと思えた。其のまま情報交換や今後の計画について話し合っていたところ、熊のような大佐が血相変えてきた。
「――殿下! 一大事です!」
「……ついにラクシャーサが反攻に出てきたか?」
 だが大佐の口から出たのは、流石のラースも顔色を変えるもの。其れは――
「……諏訪の部隊が壊滅しただと!? 莫迦な、彼の地にはスカンダやガネーシャ……シヴァの眷属が布陣していたはずだ! アスラの群といえども簡単には落とせぬ!」
「――其れが生存者の報告ではアスラを率いていたのは他ならぬシヴァ様――化身が1柱、マハーカーラ様だったとの事」
 ラースが驚愕の余り、席を立つ。大佐に更なる質問を重ねようとした時、
『 ――殿下。敵が来ます』
 本殿の主の言葉に、ラースや竹内が我に帰る。察した大佐が無線で迎撃準備を整えさせている間に、竹内はラースへと別れの挨拶を告げていた。
「板妻の第34普通科連隊に出動要請を出しておきます。其れと……諏訪の方は松本にも当たって、維持部隊でも情報収集や対策を練るよう務めます」
「――宜しく頼む。とりあえず敵の排除に先ずは全力を傾けるとしよう。サクヤの力を狙っての事だと思うが……」
 敵が来ると告げられた方角へと向くと、ラースは不敵な笑みを浮かべる。
「――どうやら余の宿敵でもあるようだからな」

*        *        *

 事は、諏訪陥落に言及される。
 駐日印軍が守備するというものの、部隊は諏訪大社の四宮に分散されて配置されていた。上社本宮・上社前宮・下社春宮・下社秋宮である。
 国道19号線を約15km北上すると、維持部隊の松本駐屯地に到る。富士宮の浅間大社と違って厳格な警戒態勢を布いており、諏訪大社4宮への維持部隊の立入を許可しなかったものの、其れなりに友好的な交流関係にあった。
 其の駐日印軍諏訪駐留部隊が襲撃を受けたのは、3月も末。超常体の群れを率いる完全侵蝕魔人の集団に4宮同時に陥落せしめられたのだ……。

 豊かな体格を持った男の首が宙に舞い飛んだ。首を失った胴体へと容赦なく銃弾の雨が穿つ。
「――ガネーシャ!」
 義兄の死に、スカンダの異名を持つ青年将校がいきり立った。スカンダとガネーシャ2名で超常体の群れや完全侵蝕魔人――アスラを迎え撃っていたものの、多勢に無勢。同僚や部下達は超常体の牙や爪に掛かり、またアスラによる銃撃や白兵戦で散っていっていた。
 松本の第13普通科連隊に救援を要請しているものの、陥落までに間に合わない事はスカンダも理解していた。其れ程までに、襲撃は電撃的だった。
「――スカンダ義兄! 御無事ですか!?」
 義弟の声に、スカンダの口元が僅かに綻ぶ。
「アンダカ、お前は無事だったか。ガネーシャは残念な死を迎えてしまったが、お前は生き残った者を連れて維持部隊と合流せよ。俺は少しでもアスラを倒してから行く」
「――スカンダ義兄。其れでは……」
「何、心配するな。俺が簡単に敗れるとでも思っているのか」
 スカンダの言葉に、アンダカ[――]と呼ばれた青年は顔を曇らせると、
「思っておりません。思っておりませんから……」
 糸のように細目が薄く開いて笑みを形作った。
「――此処で死んで下さい」
 銃声の連続音が雷のように轟いた。まさかの裏切りにスカンダの目が驚愕に見開かれる。
「……ま、さか……アスラを手引きし……たのは?」
「小生ですよ、スカンダ義兄。ですが、此れは小生だけの考えではありません」
 地面に崩れいくスカンダを見下ろすと、アンダカは超常体の群れを割って現れた人影に頭を垂れる。地に這いつくばったスカンダが気配を感じ取って、アンダカに裏切られた時以上の驚愕の表情を浮かべた。
「――此の……気配、まさ……か……父上……?」
 混濁する瞳が最後に見上げたのは、懐かしい父の気配をした壮年の姿。
「然り。シヴァ神のアヴァターラが1柱、マハーカーラの意志なのです」
 スカンダが最期に耳にしたのは、アンダカの薄ら笑いだった……。

 諏訪高島城にてアンダカは、黒き壮年と共に諏訪湖を眺めていた。
「――諏訪湖に施された封印を破る為に、御指示通りに4宮それぞれに強力なアスラを配置させ、作業を進ませております」
 上社本宮には ヴリトラ[――]、上社前宮には ラーフ[――]、下社春宮には マダ[――]、下社秋宮には ケートゥ[――]……伝承に名高いアスラの王を異名とする完全侵蝕魔人達。各々が4宮にて封印を破る為の作業を進めていた。
「しかし諏訪湖に封じられているのは、タケミナカタという神と聞きます。封印から解放するのは危険なのではないでしょうか?」
 アンダカが疑問を抱くのは無理もない。神州各地に封じられた日本土着の天神地祇は、侵略者に対して容赦しないだろう。其の封印を自ら破ってしまうとは……。
『 ――タケミナカタを解放するのが目的ではない』
 黒き壮年が重い口を開いた。アンダカが畏まる。
『諏訪湖にはタケミナカタより以前に、強力なクンダリニーが封じられているのだ。諏訪大社の封印はタケミナカタでなく、本来は其のクンダリニーを抑え込む為のものだ』
 建御名方[たけみなかた]だけでなく、更に旧き神の力をも利用する……其れが黒き壮年の計画だった。
「――畏まりました。父上の望みの通りに。そしてアスラ神群が『遊戯』にて勝利を得る為に!」

*        *        *

 静岡の或る場所に、印度陸軍特殊対テロリスト部隊が配置されている事を知る者は数少ない。
 林道の奥地に在る寺社に彼等は待機しており、あらゆる侵入者の接近を許そうとしていなかった。
『 ――諏訪の方に向かうべきではないか? ヴリトラの名を騙る者が出たと聞く』
『……インドラ殿、気持ちは解るが、其れ等よりも優先すべき事が我等にある。堪えてくれ』
 富士に封印されていた媛祇が、ラースの指示により解放されているとはいえ、全ての駐日印軍が倣っている訳ではない。諏訪湖に封じられている祇は未だに眠りの中におり、そして印度陸軍特殊対テロリスト部隊が守備している、此の社殿もまた同様だった。
『 ――此の神が封印から解き放たれる事があってはならない』
『神殺しの――否、世界を滅ぼす力を有するが故に』
 部隊の主核は4名。いずれも高位上級超常体――魔王/群神クラスの実力を有する魔人だった。
『……何者かが警戒網に引っ掛かった』
『維持部隊の者か? 其れとも何処かの神群の手か』
 魔人兵の1体が、侵入者に最初に躍り掛かった。だが侵入者は疾風の如き奇襲にも恐れる事無く、かわしてみせる。
『莫迦な?! ヴァーユの奇襲を避けただと』
『 ――力のある魔人か超常体と見做す。何者だ!?』
 魔人兵の1体が炎を放つと、襲撃者が灯りに照らし出された。魔人兵達が息を呑む。
『『『『 ――莫迦な?! 何故、貴方様が?』』』』
 照らし出された侵入者は諦めたのか、再び闇に消えていった。魔人兵達は恐れ戦くばかり。
『 ――気配は確かに、あの御方に良く似ている』
『しかし、あの御方のアヴァターラが同時に2つも顕現するとは聞いておらぬぞ!』
『……だか、あの姿は目で見た通りだ』
 そして侵入者の名を口にした。
『『『『 ――ヴィシュヌ様の化身が1柱、クリシュナ様が何故、此の地に!?』』』』

 

■選択肢
SA−01)静岡・浅間大社にて迎撃
SA−02)静岡・ラースに挑戦する
SA−03)長野・諏訪大社を奪回す
SA−FA)東海地方の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該初期情報で書かれている情報は、直接目撃したり、あるいは噂等で聞き及んだりしたものとして、アクション上での取り扱いに制限は設けないものとする。
 なお印度軍兵士の多くは英語に堪能である為、意思疎通に問題は生じない。また親日で協力的である。


隔離戦区・呪輪神華 初期情報 「 It sleeps in the pot. 」

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