同人PBM『隔離戦区・神邦迷処』第3回〜 東海:南亜細亜


SA3『 母殺しの剣、闇に飲まれる 』

 駐日印度共和国軍(※駐日印軍)を壊滅させて、諏訪大社を占拠した完全侵蝕魔人――アスラの集団。マルトやディティといった超常体の群れを率いるアスラ達の目的は諏訪大社に封じられている太古の祇の解放と推測されているが、真の狙いは判っていない。
 諏訪大社に奉られている祇は 建御名方[たけみなかた]だが、古事記では天津神によって追い遣られたという説話がある。だが別の説では出雲から、太古から此の地を支配している祇を制圧したというモノもあるので詳しい事は判らない。
「――いずれにしても解封の段階は進んでいると思っていいだろうな」
 神州結界維持部隊の東部方面航空隊・第1ヘリコプター隊強襲輸送班長の 佐竹・史郎(さたけ・しろう)准陸尉の言葉に、一同が頷いた。
 4月下旬に行われた第2回奪還作戦は、上社前宮を占拠していたラーフを多大な犠牲を払って討ち倒したものの、上社本宮では ヴリトラ[――]を倒す倒せない以前に、代わって現れた謎の黒き壮年の圧倒的強さによって軽くあしらわれた。其の脅威を目の当たりにした 山辺・進(やまのべ・すすむ)二等陸士はいつになく厳しい表情で唇を噛む。
「――駐日印軍の生存者からの報告にはなかったアスラ……否、もはやヒトの領域を超えた存在……最高位最上級の大魔王クラスでした」
「アンダカ……ではなかったな」
 駐日印軍の壊滅を招いた裏切り者 アンダカ[――]の容姿とは異なる。アンダカは依然、諏訪高島城址で見え隠れしているという。
「では、アレは何だと思いますか?」
 狙撃銃の照準眼鏡越しとはいえ脅威を味わった1人、佐藤・一郎(さとう・いちろう)二等陸士の問い掛けに一同詰まる。山辺は眉間に皺を刻むと、
「――マハーカーラでしょうか。シヴァ神の化身(アヴァタール)の1柱と聞きます」
 ヴィシュヌと並んでヒンドゥー教の最高神の1柱とされるシヴァ(※最高神が2柱以上いるというのは、ヒンドゥー教の複雑な成り立ちの結果である)はアンダカ、スカンダやガネーシャの父神である。デーヴァ神群に分類されるが、ヴェーダ神話に登場する暴風雨神ルドラを前身としており、アスラ神群の1柱とされる事もあった。
 マハーカーラとは、千以上の別名を持つシヴァの化身の1柱。マハーは「大いなる」、カーラは「暗黒」を意味し、世界を破壊する際に恐ろしい黒い姿で顕れるという。仏教に取り入れられると「大黒(ダイコク)天」となり、更に日本神道に習合されると読みから転じて「大国(ダイコク)様」、つまり 大国主[おおくにのぬし]に転じる。尤も別の神である事は、神州世界に生きるモノにとっては当然だが。
 兎に角、黒き壮年がマハーカーラだとするのならば、ヴリトラ(と取り巻きのアスラ数体)と踏んで突入したのは準備不足だったかも知れない。
「まぁ敵は中ボスだと思って挑んだら、出てきたのがラスボスだったんだから、其れはレベル不足でやられるわな」
 鈴木・太郎[すずき・たろう]二等陸士が悪態を吐く。軽口を叩いているが、内心は怒りが煮え滾っている事だろう。仲間達が倒されていくのを見る事しか出来なかった辛さは解る。だから佐竹は拳骨を喰らわす事はしなかった。
「問題は仮称マハーカーラの情報が少ない事だ。異形系と強化系を有する事は推測出来る。衝撃波を使っていた事だが、空間系か幻風系かのどちらかだろう。そして魔人にとって厄介なのは強制侵蝕の波動を使ってくる事だ」
 あの時の恐怖を思い出したのか、知らずに山辺の身体が震えた。奥歯を噛んで、恐怖を噛み殺すと、
「しかし光に弱いらしい事が伺えられます。朝陽を忌避するような動きを見せていました」
「閃光手榴弾の手配が必要だな。ダメージまで与えられるか判らないが、怯ませる事は出来るだろう」
 問題は物資が届くのが、次の作戦まで間に合うかどうかだ。
「兎に角、時間が無い。前回、解放した前宮だが、秋宮以上に禍々しい雰囲気が漂っているらしい。封印の解放段階が進められていた証左だ」
 4宮に施されている封印の全てが解除されない限りは何事も起こらないだろうという予測はあるが、楽観視の気休めに過ぎない。ましてや再封印する手段が判明していない以上、外れ掛かっているままなのだ。危険極まりないだろう。
「では今度こそ奪還に向け、総力で本宮に?」
 佐藤の質問に、だが佐竹は頭を振る。
「またマハーカーラが出た場合、被害が大き過ぎる。悪いが今度の本宮は情報収集が優先事項で、奪還は可能であればというのが上の判断だ。有効な作戦を練るには情報が足りなさ過ぎる」
 という訳でと佐竹は佐藤達に視線を送ると、
「狙撃班は本宮の支援でなく、春宮の奪還――マダの撃破に尽力してもらう事になる。俺は本宮へと山辺を送迎しなければならんが」
「マダは呪言系でしたね。確かに誘き寄せれば、鈴木と私とで処理も期待出来ますが」
「しかし、いっそ対地ミサイルで社宮諸共に吹き飛ばせねぇのか?」
 鈴木の言も尤もだ。しかし、
「其れで確実に対象を倒せればの話だがな。そして社宮を破壊する事のリスクが予想だに出来ん。封印に刺激を与えてしまったら元も子もない」
 佐竹の指摘に、鈴木は口をへの字にする。
 とにかく作戦の方針は決まった。後は何処まで力を尽くせるかどうかだった……。

*        *        *

 余裕がなくなってきたというのは、富士山本宮浅間大社を護る部隊も同様だった。
 北松野に出現した羅刹沙(ラクシャーサ)や羅刹斯(ラクシャーシ)の軍勢は、維持部隊と駐日印軍の混合団が布いた第1次、第2次防衛線を突破し、潤井川以南――野中を支配域に置いている。潤井川もまた突破されたら、JR東海の身延線跡の最終防衛線しか残っておらず、最悪となれば浅間大社境内まで攻め込まれるだろう。
「最早、余が直接に出るしかないだろう」
 ヴィシュヌ[――]のアヴァタールにして、駐日印軍の実質的指揮官 ラース・チャンドラ・シン[―・―・―]大尉が声を張り上げるが、彼を前線に立たせたくない者の声もまた多く、此の話は平行線のまま続いている。しかし此処まで戦況が悪化している以上、ラースを温存する利点は見当たらない。
「実質、メーガナーダ1体で戦線を圧されている様なものだからな」
 維持部隊の幹部から溜息が漏れた。羅刹との戦いの被害も甚大だ。指揮官と雖も強力な戦闘要員が前線を支えてくれるのならば、其れに越した事はない。敵の狙いの1つが、ラース自身にあるとすれば、
「殿下とメーガナーダが相打ちになってくれれば、維持部隊としては漁夫の利ですか?」
 東部方面航空隊第4対戦車ヘリコプター隊・第2飛行隊第3班長の 風早・斎(かざはや・いつき)准陸尉の指摘に、幹部が咳払いをする。
 負けが続けば厭戦気分にも侵される。そして メーガナーダ[――]さえ倒してしまえば逆転も可能だという認識。駐日印軍と維持部隊の関係は良好だが、其れでも戦いの一因がラースにあると思えば、気まずい空気も流れだす。其れは、ある種、責任転嫁とも現実逃避とも取れる考えだ。
「――敵の狙いは殿下の身だけでなく、木花之佐久夜様にある事を失念されてはいけません」
 つまりメーガナーダ、そしてラースが倒れても、敵の勢いは弱まるはずがない。何よりもラクシャーサ神群の王 ラーヴァナ[――]の姿すら捉えていないのだ。
「……今まで私共から申し上げるのも憚れるとも思いましたが、正式に印度軍に要請致します。殿下の……ラース・チャンドラ・シン大尉と、其の部隊の出動願います」  富士教導団副団長の 竹内・清[たけうち・きよし]一等陸佐が頭を下げた。味方からの正式な要請となれば駐日印軍としてもラースを立たせない軍規上の理由は無い。駐日印軍富士派遣部隊の大佐は難しい顔だが受諾せざるを得なかったようだ。
「ありがとうございます」
 竹内をはじめ維持部隊幹部が敬礼を送ると、ラースもまた返礼で応じた。ラースは直属の部下に配置展開や戦術の練り直しを命じる。
「……ところでラーヴァナの件ですが」
 風早が挙手すると、一同の視線が集まった。
「此れだけの軍勢ともなれば、支援や補給もまた莫大なものとなります。超常体と雖も、敵は生きているのですから、補給線や損失を埋めるナニカがなければ、今の攻勢は維持出来ません」
「――疑念は尤もだ。ラーヴァナの姿が見掛けられないのは、前線をメーガナーダやクンバカルナに任せ、後方深くに陣取っているからだと思っていたが……」
「いずれにしても敵後方深く探る必要が出てくるな。至急、偵察隊を編成しなければならないが……」
 竹内が唇を噛む。ラースもまた秀麗な顔を歪ませた。
「今となっては敵奥地に偵察隊を送るのは決死や特攻と同義だ。人員の選抜には時間が掛かる」
 此の戦線を維持出来れば余裕も生まれるだろうが。誰とも知らず溜息が漏れ聞こえ来た。
「――上空からで良ければ、私が志願します」
 風早の再び視線が集まった。情報量は制限されるが、現状では他に選択肢は少ない。ましてや志願ともなれば……。
「普通科隊員より魔人を募って、同行させたいところだが……コブラだったな」
「ヒューイだったら良かったんですけれどもね」
 苦笑して見せると、風早は敬礼する。駐日印軍も含めて将校や幹部達は起立すると、同じく敬礼で返すのだった。

*        *        *

 奪還作戦が開始され、地上では銃声と超常体の叫びが響く。其の上を攻撃回転翼機AH-1Sコブラ2機に護られて回転翼機MH-60Kブラックホークが舞っていた。アスラに勘付かれるのは承知で作戦は夜明け直ぐに開始されている。黒き壮年の男への対処方法である。
「……流石に、もうイグラはねぇだろう」
 佐竹は軽口を叩くが、内心は冷や冷やモノである。携帯式地対空ミサイルへの警戒はしつこいぐらいしておいた方が良い。空挺部隊が持てはやされたのは回転翼機の登場からミサイル兵器やロケット弾が発展するまでの極短い間だ。実際、ベトナム戦争では対ゲリラで多大な成果を上げたが、同じくらいの損害を受けている。
 地対空ミサイルが無いにしても、アスラに限らず魔人の大半は強化系や操氣系だ。腕の良い魔人によればナイフ一本でも高度にある戦闘機を撃墜してみせる。魔人が戦車や戦闘機を含めて最強の単体戦力と呼ばれているのは過言でないのだ。
 幸いながら、コブラやブラックホークは晴天下でも撃墜される事無く目標上空に到達。
『……昼間とはいえ危ないと思ったら、とっとと救難信号を出せ!』
 佐竹からの通信に頷くと、山辺をはじめとする空挺員は宙に舞った。上社本宮を護るのはアスラよりも超常体の姿が多くなってきている。またアスラも銃器ではなく銃剣で攻撃してくる。魔人である以上、油断は出来ないが、物資弾薬が乏しい証左だ。
「――周辺を制圧! マハーカーラの姿は確認出来ず。一気に社殿に突入する」
『幸運を祈る!』
 扉を蹴倒して、Mk2破片手榴弾を放り込む。爆発音より先に、内側より噴出した業火が弾帯を吹き飛ばした。業火は蛇の――否、龍のように身をくねらせると山辺達に襲い掛かる。
「ヴリトラ1体ですか」
 身を包むボディアーマーが、自己防衛で氣の障壁を張ると直撃を防いでくれた。とはいえ、
「――火炎系に有効な装備は持ってきていないんですけれどもね」
 両手に構えたFN P90に寄生している憑魔を宥めると、毎分900発の銃弾をバラ撒いた。山辺の弾幕でヴリトラを引き付けているところを、第1次奪還戦でヴリトラと痛み分けした魔人が凍気を放つ。
「山辺二士、済まないが引き続き援護を頼む。『例の作戦』だ」
 予め決めていた符牒に、山辺は首肯した。そして流れるように弾倉を交換し、更に叩き込む。ヴリトラとしては山辺の弾幕も煩いが、
「――氷遣いが本命だろう! 其の手は食わんよ!」
 相生相剋によれば、火炎系のヴリトラにとって氷水系能力こそが不得手となる。だが逆に言えば氷水系の動きさえ見極めれば問題ない。
 ……其れが命取りになるとも知らず。
 山辺のP90から放たれる銃弾が尽きた。其の合間を掻い潜り、ヴリトラは一気に氷水系隊員へと肉薄する。だが――
「……なんだ、とっ!?」
 山辺のコートが伸び、いつの間にかヴリトラの足を絡め取る。そしてコートが縮む事で、山辺が急接近を果たした。手にしているのは変哲もない銃剣。だが半身異化を成した山辺に掛かれば、ヒトを解体する等、造作もない。血飛沫を浴びるよりも早くヴリトラの咽喉を切り裂いた。そして床を蹴る。残るのは血を噴出する哀れなヴリトラの姿。止めの凍気が憑魔核を包む肉体ごと氷漬けにし、散華させた。
「――山辺二士の協力に感謝する」
「いえ、任務ですから。しかし……」
 山辺が目を細めて社殿の奥を睨み付ける。唾を飲み込んで氷水系隊員も視線を送った。
「封印は解除されてしまっていましたか」
「ああ、そのようだな」
 下社秋宮で垣間見た光景が、其処にあった。床を下から突き破るように露出する柱。まとわりつく蛇のような黒い影は消える事無く、絶えず蠢いて見えた。

 同時刻――上社春宮の天井を突き破って、柱とまとわりつく蛇の姿が目撃される。
「――焦るなよ、佐藤」
「鈴木さんの方が焦っているように聞こえますけれどもね」
 照準眼鏡を覗き込みながら佐藤は呟く。鈴木は反論する事無く、鼻を鳴らした。
「封印は解かれてしまったようだが、俺達の役割は変わらねぇ。此処で仕事を放棄したらマダを誘い出す為に今も果敢に挑んでいる連中に対して失礼だ」
「全く同感です」
 果たしてマダを射界に誘き寄してくれるだろうか? 不安は残るが、今は信じるしかない。――そして彼等は佐藤達の信頼に応えてくれた。
「……目標を確認。射ち方用意。指命、前方1,000、マダ」
 鈴木は観測器で、風向、風速、湿度、温度を読み上げて行く。狙撃の修正材料として必要な情報。佐藤は照準の中に標的を捉えた。大きく息を吸い、ゆっくり吐いた後に息を止める。身体を弛緩させ、だが意識は鋭く照門の先に結ぶ。目標との間に張り詰めた1本の線が見えた。
「――射てっ!」
 合図と同時に佐藤の指が引鉄を絞り――轟音が響き渡った。毒沢鉱泉神乃湯の建物跡から放たれた25×59mmNATO弾はマダを直撃し、身体を水風船のように破裂させた。念入りにも佐藤は残弾を叩き込んでいく。
「……アレが普通なんだよな」
 呆気ないが、対物ライフルから放たれた大口径の徹甲焼夷弾の直撃を受ければ、如何なる超常体や魔人であれ、此れが当然の結果だ。テルミットが反応し、マダの遺骸周辺を焼き尽くしていく。
「……しかし、マハーカーラには其の常識が通用しませんでした。どうします?」
「憑魔核に直接叩き込んでやれば、流石にくたばるだろうさ。でなければ俺は逃げるね」
 照準眼鏡の向こうでは下社春宮の制圧を完了させ、建物へと延焼しないように慌てる隊員達の姿が映っていた。

 2社宮を奪還した維持部隊だったが、其の喜びは続かなかった。黒き壮年の男は深夜に上社前宮へと出現すると、警戒していた部隊を壊滅し、再強奪を果たしたのである……。
「――アンダカ。前宮の封印を解く最後はお前に任せる。やってくるな?」
「畏まりました、父上。しかし父上はどちらへ?」
「秋宮に。前宮の封印は解放されたも同然。ならば秋宮を再び手にする頃合いだろう」
 アスラの数も諏訪高島城址を護る3名しか残っていない。黒き壮年の男に忠実に従う、超常体も僅かだ。
 其れでも黒き壮年の男は余裕綽々と諏訪湖の方を見遣る。既に2つの社宮の封が解かれている事もあって、諏訪湖の中心では、虹色の発光が確認出来ていた。
「此の地に封じられし、クンダリーニの解放ももうすぐだ……」
 黒き壮年の男の口の端が醜く歪んだ。

*        *        *

 3度目の激突は陽が沈み始めた頃に始まった。進撃してくる羅刹鬼を12.7mm重機関銃M2キャリバー50や96式40mm自動擲弾銃から発射された弾幕や砲火が薙ぎ払う。だが羅刹鬼は恐れを知らず、そして統率の取れた動きで突き進んできた。
 対して維持部隊と駐日印軍の混合団は、ラース率いる魔人兵部隊を投入した事で、前線を維持する事に成功。ラースが振るう憑魔武具――チャクラムが敵陣を切り裂いていった。
 しかしメーガナーダとの戦いは、やはり一筋縄でいかなかったようで、ラースは互いに重傷を負うという痛み分けで戦線離脱。
 ラースを欠いた人類側は竹内が補佐した駐日印軍大佐の采配で、また羅刹側は クンバカルナ[――]が猛威を振るった事で、進退は動かなかった。
 ラースの傷は重く、異形系でないので半月近く戦闘は禁じられた。対するメーガナーダも異形系能力は有していないので前線に出てくる事が無いのは安心していい事だろうか?
 兎角、戦いの趨勢はまたも次へと持ち越されたのである……。

 国道139号線を下り、1号線に至る。そして西進して富士川を渡った。羅刹の影が見当たらない事に安堵の息を漏らし、風早は富士川駅から山越えを狙う。
 2機の回転翼攻撃機AH-1Sコブラは雨乞山と嵐山の間を抜けると、
「――此処よりは、流石に音で気付かれるでしょう。僚機、警戒を!」
『――Rojer!』
 部下の返事に頷くと、風早は一気に北松野上空へとコブラを飛ばす。超常体と雖も生きている。ましてや羅刹は人間並みの知識や文明らしきモノを持つ存在だ。果たして風早はリバー富士CC(カントリークラブ)跡地に野営地らしきものを発見した。当機を発見した羅刹が騒いでいるが、一気に高度を取って弓矢や投槍の距離から脱する。羅刹も戦闘に長けたモノの多くが前線に行っているからだろう。矢や石が放たれてもコブラに届く事が無かった。
「……とはいえ余り高度を取り過ぎると、偵察の役には立ちませんわね。――って、アレは?」
『隊長、虹色の発光を確認しましたが……?』
 部下からの報告に、自分の見間違えでない事を認識。風早はリバー富士CC跡地の中央に、波のように揺らめく青白い光、時折、薄く虹色に輝く発光現象を確認した。
 そして、其の発光部分から人影が沸いて出てくる。物資のようなものを担いでいるのは気の所為ではないだろう。
「……アレが補給線維持のカラクリ?」
 野営地に残っている敵の残数も撮影。前線に集中しているようで、後方の数は必要最低限と見て取れる。そして風早は帰投を命じた。

 ――後日、ラースに報告したところ、“門”と呼ばれるモノと判明した。
“門”と呼ばれているが、実際は、異界と繋がる時空間の境の断裂。此処を抜けてくるモノは、通常の空間爆発現象で発生する超常体とは、数も力も大きく異なる。そして一度生じた“門”は通常の手段では閉じる事が出来ないという――。

 更に加えて駐日印軍富士派遣部隊に凶報が届く。秘密裏に浜松・秋葉山本宮神社に配置されていた特殊部隊が壊滅。秋葉神社一帯は消失したらしい……。

 

■選択肢
SA−01)静岡・浅間大社にて迎撃
SA−02)静岡・ラースに挑戦する
SA−03)長野・諏訪上社本宮へと
SA−04)長野・諏訪上社前宮へと
SA−05)長野・諏訪下社春宮へと
SA−06)長野・諏訪下社秋宮へと
SA−07)長野・諏訪高島城址へと
SA−FA)東海地方の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
 印度軍兵士の多くは英語に堪能である為、意思疎通に問題は生じない。また親日で協力的である。
 なお次回、諏訪大社の下社秋宮では死亡確率が極めて高い。また強制侵蝕が起こる危険性も覚悟しておく事。


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