同人PBM『隔離戦区・禁神忌霊』初期情報 〜 京都・大阪:西亜剌比亜


『 The beginning of the madness and the betrayal 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物――超常体の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本――神州を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ――それから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 ……京都は、神州が隔離されて直ぐに天使の群れの大規模な襲撃を受けて陥落した土地であり、今や天使(ヘブライ神群)共の巣窟だ。桂駐屯地にいた人員の生存は絶望視され、そもそも記録自体が抹消されている有様だった。
 京都への突入は、高位上級に分類される超常体――セラフ(熾天使)の中でも更に抜きんでている四大元素天使が阻んでいる。四大元素天使とは“ 神の如しミカエル[――])”、“ 神の人ガブリエル[――])”、“ 神の薬ラファエル[――])”、“ 神の光ウリエル[――])”の4柱。火・水・風・土の順に当て嵌めてはいるが、此れは中世から近代までの神学や著作物によるもので、実際に能力が近いかは判明していない。たとえばウリエルは土元素とあるが別名を“神の炎”と呼ばれる通り、火炎系ではないかと疑われている。
 さておき史跡や文化財等を無視して戦術核の使用を米国が声高に主張し……実際に維持部隊にも無断で発射したものの、四大元素天使によって撃墜されたという報告がなされていた。

 ――京都、旧・二条城跡。改装された一室に、二十歳前後の青年の姿が4つあった。陽に焼けた肌の、短髪の青年――ミカエルが口を開く。
「イオエルから報告があった。シナイに対応する地を掌握すべく行動を開始すると」
「フトリエル、ログジエル、ショフティエルも行動を開始したようですわ」
 ウェーブのかかった長髪の女性――ガブリエルが報告を続ける。
「マカティエルは敵の息が掛かった者に妨害され初動が遅れていますね。クシエルは目標を発見したようですが罠の可能性が高いと」
 前髪をオールバックにした青年――ラファエル溜息を漏らした。そして残る青年――ウリエルと視線を移した。
「最後の『懲罰の七天使(パニッシュメント)』は未だ覚醒していない状態らしいぜ。プシエルが大阪で“彼”を発見したそうだが……」
「心配ですの? 此の世界で受肉したプシエルは、ウリエルの受容体の実の妹ですし」
 ガブリエルの言葉に、ウリエルは苦笑した。生来的に天使として覚醒した“ 神の火プシエル[――])”と違って、ウリエルは完全侵蝕――昇華した存在だ。元の人間の性格や気質を若干引き継ぐ。ウリエルが受容体にしている青年の、妹として生まれたプシエルの心配をするのは無理なからぬ事だろう。
「だがプシエルの心配をしていても仕方あるまい。“堕ちたモノ”共や他の淫祀邪教の輩が蠢いている。またヒト共の抵抗も激しい」
「やれやれ。“主”の愛は無限ですが、其れを忘れた愚かな方達に付き合わなければならないとは……」
「念の為に四方をケルプに警戒させていますわ。弟妹達にも油断しないように言い渡しております」
「兎に角、俺達は伏見稲荷の封じた獣魔より“主”の恩寵を取り戻さなければいけねぇしな」
 ウリエルの言葉に一同が首肯して返す。
「長い時間を掛けてきたが、祇園や菅原には隠されていなかった」
「伏見だと早い段階で判っていれば、もう少し手際良く進められていましたわね」
 京都中央から見て、伏見はやや外れにある。当然ながら戦力の配置が薄い。
「ケルピムに任せているとはいえ、我等が四方の護りを緩ませる訳にはいくまい。適任なる弟妹を選ぶ必要がある」
 ミカエルの言葉に、ガブリエルが軽く挙手。
「ではハニエルとザドキエルを推挙しますわ」
「異存在りません」
「無いぜ」
 ラファエルとウリエルが追認した事により、ミカエルが頷いた。
「では“主”の御名においてハニエルとザドキエルに伏見稲荷の浄化を任せよう」

*        *        *

 嬌声と喧騒が響き渡るのに混じって、重低音が轟いていた。原色光がサイケデリックに室内をまだらに染め上げ、煙る香が充満している。男も女も肌も露わに絡み合い、不規則ながらも小刻みに揺れる。其の度に男の眼は獣のソレに近くなり、また女の舌が糸を引いて艶めくままに天を突いた。
 忘我のままに欲望にふける彼等は、室外で息を潜め、突入を計っていた者達に気付く事もない。ショットガンがドアを破壊し、続いて閃光発音筒(フラッシュバン)が放り込まれる。元々、音楽と薬で感覚が麻痺していた彼等にどれほど意味があるのか謎だが。
「――警務隊だ! 全員、動くなっ!」
 雪崩れ込んでくる完全武装の警務科隊員達。室内に立ち込める薬を遮断すべく、全員が防護マスク4型で覆い、顔を窺う事は出来ない。9mm拳銃SIG SAUER P220だけでなく、9mm機関拳銃エムナインで場を制圧していった。
 欲望に陶酔していた多くの者が無抵抗に拘束されていったが、我に帰った者も数人いた。裏から逃げ出そうとするが、脱出口の外で控えていた応援の普通科隊員が構える89式5.56mm小銃BUDDYを突き付けられては降参していく。だが、
「――班長! 半身異化し掛けています!」
 逃げ出そうとした1人が獣の唸り声を上げた。眼は焦点があっておらず、正気を喪っていたのは明らかだ。強化された身体能力で跳び掛かってくる。
「発砲を許可する。超常体と看做して射殺せよ」
 冷徹な指示が下され、5.56mmNATO弾の雨が降り注いだ。魔人は単体において戦車すら上回る最強戦力と云われる。躊躇いは甚大な被害を広げてしまう。班長の判断を非難する者はいないだろう。蜂の巣にされた元人間の遺体が転がった。

 ……多くの逮捕者を出したが、其れでも氷山の一角だ。今年に入ってから急に此の手の事件が増えた。大阪の風紀は乱れていた。
「――アルコールも確認されました。此の神州で何処から入手してきたんでしょうね?」
 部下からの報告に、警務科の班長は眉間に皺を刻んだ。
 料理酒を除き、アルコール類の摂取は厳罰ものだ。酩酊状態は、多くの仲間に迷惑どころか致命的状況を生み出しかねない。従ってアルコール類其の物が流れる事が無いはずなのだが……。
「闇の流通ルートか。薬も其処から入手したのか? 化学科に回してくれ」
「しかし薬の摂取で憑魔の侵蝕が早まるなんて……」
「前世紀の漫画みたいだな、おい。『デビルマン』って知っているか?」
「デビルイヤーは地獄耳って奴ですよね?」
「其れはTVアニメの方だ。此の状況は原作に近いな」
 兎も角、警務隊は激務に疲れていた。警務隊は、神州結界維持部隊・長官直轄の部隊のひとつであり、旧・日本国陸上自衛隊警務科と、日本国警察組織機関が統合された、つまりは神州結界内での警察機関である。警護・保安業務のほか、規律違反や犯罪に対する捜査権限(と、あと査問会の許可による逮捕や拘束権)を有する。
「……班長。意識がある奴を尋問したところ、大半の出所がミナミのようです」
 別の部下の報告に、班長が更に皺を深くする。ミナミとは島之内・道頓堀・難波・千日前といった地域に広がっていた元繁華街の総称だ。超常体の巣窟となっており、普通科の部隊も滅多には突入出来ない。過去何度も伊丹の第36普通科連隊総出で掃討をしたものの、半月もしないうちに超常体の棲息地に戻る程の厄介な地域だった。
「――普通科に引き続き応援を要請しなければならないな。ミナミの武力偵察を本格的にしなければいけないようだ」
 班長の言葉に敬礼で応じると、部下は任務に戻っていく。其の後ろ姿を見ながら、
「……しかし退廃にも程がある。何かが狂ってきたとしか言いようがない」

*        *        *

 滋賀、大津駐屯地。京都の天使共と戦う最前線の陣営であり、今津や豊川にも増援要請が日々出している程だ。外では高射特科や野戦特科の車輌が並び、普通科隊員達もまた訓練に明け暮れている。
 そんな施設の一室では屈強な隊員達が、指揮官の言葉に傾注していた。
「――以上が諸君等に命じられた任務である。繰り返すが、第1に敵地である京都の偵察。第2に敵の中核を担う四大元素天使の撃破だ。困難な任務であるが、諸君等の奮闘に期待する」
 室内に集められたのはMAiR(Midle Army Infantry Regiment:中部方面普通科連隊)。島嶼防衛を目的とした西部方面普通科連隊に倣って、隔離後に各方面隊で発足されて方面司令部直轄の精鋭部隊だ(※註1)
「京都突入に成功後は本部からの支援は期待してはいけない。各自、智恵と体力を駆使して任務をこなしてくれたまえ」
 部隊長の言葉に、全員が席を立って敬礼で応じる。
「――宜しい。なお注意事項が1点ある」
 少し難しい顔をしたが、
「第3師団長の要望により、零参特務も突入に加わる事になっている。また他にもMAiR隊員とは別に普通科隊員の志願も募集しているそうだ」
 零参特務――正式呼称は『第03特務小隊』。各師団長直属の懲罰部隊の1つだ。命令無視や暴走、引き金の軽い問題児はどこの集団にもいるが、特務に送られる連中は一線を画している。懲罰部隊は重犯罪者の集団……上官や同僚の傷害、殺しの罪人達だ。
 一般の普通科隊員の志願もそうだが、懲罰部隊の突入ともなれば不安要素でしかない。味方に足を掬われかねない事態に、MAiR隊員の間に緊張が走る。
 しかし与えられた任務を果たすべく全力を尽くすのが務め。MAiR隊員は決意を込めて再び敬礼を行うのだった。

*        *        *

 中部方面警務隊よりミナミ捜索の協力要請を受けたとはいえ、普通科部隊は通常任務をこなしていかなければならない。
 万博記念公園跡地の警邏へと出ていた第398班は、山田駅跡近くの中央環状線の高架下で倒れている人影を発見した。BUDDYを構えて慎重に近寄る。
「女の子――? いや男か?」
 ライトに照らし出された人影は、歳の頃は10代後半。女性とも男性とも判断の付かない顔立ちに、華奢な体格。断言出来るのは「美しい」という事だけだろう。其の“彼”が苦しそうな声を漏らして身動ぎする。自らの身を照らす明りに気付いて、眩しそうな表情を浮かべながらも顔を向けてきた。
「……大丈夫か? 所属と階級、名前は言えるか?」
 事実上の国民皆兵と言える神州では、進学や研究の為に教育機関に向かう以外、維持部隊の一員として生活している。“彼”もまた維持部隊の戦闘迷彩2型を着込んでいる為、先ずは誰何をする。此の神州で単独で行動するのは余程の実力でなければ死を意味する。単独行動するとしたら脱策(※脱走の意)したか、所属部隊が壊滅して隊員達がバラバラになったかが考えられる。或いは……完全侵蝕したか。其の為、用心として部下に銃口を下ろさせない。
 銃に気付いた“彼”は怯えた表情で班長を見詰め返してきたが、口を開く前に班長は助け起こそうとして手を差し延ばす。自身が魔人であるという油断もあったのかも知れない。――其れが班長にとって悲劇を招いた。
 班長が空を仰いで絶叫する。膝が崩れて、其の場にぶっ倒れると地面を転げ回った。泡立つように無数の肉腫が膨れ上がり、内側から肉を引き裂いていく。引き裂かれた肉から血が吹き出し――裂けた肉の間を異常な速度で根を張り出した神経組織のようなものが埋め尽くしていく。“彼”へと差し延ばしていた手は、今や無惨に宙を掴もうと戦慄いていた。
 班長の異変にBUDDYの引き鉄を絞ろうとする班員達。だが5.56mmNATOが“彼”を貫く前に、其の身体は炎に包まれた。
「――邪魔よ、人間!」
 彼方から駆けてくるのは赤髪の少女。5つの人影が遅れて近付いてくる。銃口を構え直す間も与えずに赤髪の少女が塵を払うように手を振ると、また数人が炎に包まれる。炎に呑まれなかった者も、少女の後に続く男達が練気の剣で両断していった。
「……チッ。逃げられたわ!」
 気が付けば“彼”は逃げ出しており、其の姿を見失っていた。生きているモノは班長だった超常体と、少女達のみ。班長だったモノは起き上がると少女目掛けて跳び掛かる。だが一瞥で消し炭にされた。そして何事も無かったように“彼”が消え去ったと思われる方角へ目を向ける。
「――〈憤怒〉の力ね。早くアイツを保護しないと」
「……しかし初対面の印象としては最悪だったと思いますが」
 副官らしき壮年の男が呟くが、赤髪の少女は口を尖らすだけだった。
「兎に角! 追い掛けるわよ!」

 廃墟と化したビルの屋上から騒ぎを眺めていた影が3つ。
「……出遅れたのが良かったのか、悪かったのか」
「しかし厄介なのが出てきたな。“彼”の身柄を押さえられたら逃げ帰るしかないぞ」
 大きな溜息3つ。
「兎に角“彼”と接触し、此方側に付けなくては。“彼”がどちらに覚醒するかで流れが大きく変わるのだから」
「問題はアレだけでなく、人間――維持部隊が面倒をもたらさないかどうか」
「『復讐公子』が維持部隊の目を引き付けているのではないか?」
「いや……どうにも動きが怪しい。他の七十二柱の魔界王侯貴族とは無断で、独自の戦力を拡充しているようだ」
「此の大阪に、俺達の味方はいないのか……」
 さらに、また大きな溜息が漏れたのだった。

 

■選択肢
WA−01)京都の状況を偵察・観測する
WA−02)京都の四大元素天使1柱挑む
WA−03)京都・伏見稲荷の制圧/調査
WA−04)大阪:ミナミを捜索/掃討す
WA−05)大阪:“彼”を追跡・保護す
WA−06)中部地方西側の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該初期情報で書かれている情報は、直接目撃したり、あるいは噂等で聞き及んだりしたものとして、アクション上での取り扱いに制限は設けないものとする。
 また強制侵蝕が発生する可能性が高い為、注意する事。
 なお京都へ突入したとしても、脱出するのにもアクション1回分を消費し、都度、成否判定がある事を了承せよ。京都とは異なる地域(愛知・三重・大阪・中部地方の何処か)を選択しただけでの移動は認められない。脱出の為のアクションが無い場合は失敗もしくは死亡したとして処理する。そして再び突入する際にも厳重な判定がある。(※註2)
 対してヘブライ神群(天使群)側としてキャラクターを作成し、アクションを掛ける事も出来るが、高位天使の監視は厳しいので警戒を怠らない事。但し京都の出入りは人類側と比べて易しく、他の地域(愛知・三重・大阪・中部地方の何処か)を選択するだけで移動は可能である。

※註1)方面司令部直轄の精鋭部隊……東北方面普通科連隊のみ解散されている。詳しくは『神州結界・神邦迷処』参照。

※註2)京都の突入/脱出の特別ルール……
1.「WA−01)京都の状況を偵察・観測する」「WA−02)京都の四大元素天使1柱挑む」「WA-03)京都・伏見稲荷の制圧/調査」の3つから選択する。
2.突入する方角(東・西・南・北の4つ)を選び、突入する為だけのアクションを別に明記する。上記選択肢における行動とは異なるアクションとして処理される。此れは複数行動に当たらない。もしも突入アクションが明記されていない場合、自動的に京都突入は失敗する。最悪、死亡。
3.京都から脱出する場合は「京都とは異なる地域(愛知・三重・大阪・中部地方の何処か)」を選択する。
4.脱出する方角(東・西・南・北の4つ)を選び、脱出する為だけのアクションを別に明記する。上記選択肢における行動とは異なるアクションとして処理される。此れは複数行動に当たらない。もしも脱出アクションが明記されていない場合、自動的に京都突入は失敗する。最悪、死亡。なおアクション判定で失敗した場合、其のキャラクターのプレイヤーには京都のノベルが送られる。
5.突入/脱出する方角を護る四大元素天使やケルプが倒されていた場合、アクション判定における難易度は大幅に下がる。


隔離戦区・禁神忌霊 初期情報 「The beginning of the madness and the betrayal」

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