同人PBM『隔離戦区・禁神忌霊』第5回 〜 京都・大阪:西亜剌比亜


WA5『 The evil of the beginning 』

 本日の献立は、神州結界維持部隊の戦闘糧食II型、通称パック飯のNo.10「やきとり」。メインの焼き鳥が食欲をそそる。主食の1つは豆御飯だが、
「グリーンピースが乗っているんだよねぇ」
「命ちゃんはグリーンピースが苦手だったかしら?」
  橘・柑奈(たちばな・かんな)二等陸士が首を傾げて尋ねる。仕草に合わせてボリュームのある茶色のセミロングの髪が揺れ、豊かな膨らみの胸が弾んで見えた。一般的な健常男性隊員が横目で感嘆の声を上げるが、柑奈に尋ねられた当の 先山・命(あずやま・みこと)二等陸士は未だ10歳にも満たない。しかも美少女然とした其の顔立ちからは、柑奈を羨む素振りは感じられなかった。将来の体型より、今はグリーンピースと睨めっこ。
「いや、特に苦手という訳じゃないんだけど……」
「俺は直ぐに焼き鳥を御飯にぶっかけて、丼風味にしてしまうから気にならんがなぁ。――兎に角、作戦が発令したらお前達にはまた身体を張ってもらわなければならん。残さず腹に収めておけよ」
 中部方面隊第3師団・第37普通科連隊第377班長の言葉に、先山と柑奈達は頷いて返す。
 第377班が大阪シティエアターミナル――通称「OCAT」(オーキャット)の包囲網に加わってから一ヶ月が経過していた。大阪を蝕んでいた『クスリ』の出所が、七十二柱の魔界王侯貴族が1柱にして、七つの大罪『姦淫』を掌る大魔王 アスモダイ[――]だと突き止めて、拠点であるOCAT攻略を開始。前回の戦闘で地下階で阻んでいた異形の竜アジ・ダハーカを撃退し、最深部に到達したモノの……
「アスモダイは複数能力の持ち主で、しかも大罪『姦淫』とやらで同時使用が可能と……」
 食事を終えて後始末をしながら、柑奈が再び状況を思い浮かべる。現在、目視が確認されたアスモダイの能力は操氣系、幻風系、異形系、氷水系。他にも強化系や火炎系を有しているだろうと予測は付いた。地脈系と雷電系、祝祷系は判らない。其々の威力が強力なのもさながら、最も厄介なのは同時に行使してくる事。
如何に強大な超常体であっても、同時に能力を行使するのを確認した例は其れまで無かった。アスモダイの他にも複数の能力を有するモノはいる。だが同時に其れ等を行使出来るモノはアスモダイ以外に居なかった。
「能力を同時に行使する――其れが大罪の1つ『姦淫』だという事らしいけれども」
「自分は『姦淫』と聞いたら、もっとエロい影響を与えるとばかり……」
 男性同僚が漏らした呟きに、柑奈だけでなく他のWAC(Women's Army Corps:女性陸上自衛官)が一斉に冷たい視線を浴びせる。男性隊員はたじろぐが、咳払いをして気を取り直すと反論。
「いや、でも、パリカーとか呼称している完全侵蝕魔人はエロいじゃないか。エロいじゃないか!」
 男性同僚にとって大事なのか、2回言った。柑奈は莫迦に対して呆れた溜息を吐く。
「さておき――不思議なのは其処なのよね。アスモダイの前身が、ゾロアスター教の悪魔に由来する事は判明している。アジ・ダハーカだけでなく、パリカーを指揮しているジャヒーという完全侵蝕魔人?もゾロアスター教の伝承で有名だから」
 パリカーは魔女、そしてクスリによってヒトを通り越して超常体と化したドルグワントはゾロアスター教典アヴェスターの神学で「不義者」を意味する。
「そもそもアスモダイはOCAT地下で何やっているんだ? クスリの生産拠点だけとは思えん」
「何かしらの儀式――計画を行っていると?」
 皆で頭を悩ませる。先山は頬を膨らませて唇を尖らすと、
「いずれにしてもアスモダイを倒さないと。能力の同時使用が出来ても、同時に意識を向けられる相手は、そうそう多くは無いんじゃない? 認識出来ない相手に攻撃出来ない等、何等かの制限があるはずだから」
「……成程。飽和攻撃」
 柑奈が思わず手を叩くと、先山は首肯する。但しと言葉を続けた。
「尤も能力制限無しの並列思考とか出来るんだったら……核手榴弾とか片手に特攻する程度しか思い付かないや」
「……其れ、私達も終わっているわ」
 乾いた笑みを浮かべる先山に、柑奈達も肩を落とすしかない。そんな一同に、第377班長は咳払い。
「兎も角、焦る気持ちは解るが、未だ突入の準備が整うまで待機だ」
 地上階や周辺の超常体の掃討を終え、後顧の憂いを断ってから、アスモダイ攻略の突入へと傾注したいらしい。また地下とはいえ至る所に抜け道が存在する。其れ等を把握し、可能な限り封鎖して、万が一、アスモダイ達が包囲網から脱出するのを防ぎたかった。そういった事前準備を終えてから、アスモダイ攻略の突入を図る。
「場所が地下だから大部隊をという訳にはいかない。確実にアスモダイを葬り去らなければならない。だからこそ少数精鋭による作戦だ。幸いなのかどうか判断に困るが……第377班は最もアスモダイに肉薄した、経験豊かな戦闘部隊だ。俺はお前達を信じる!」
 第377班長の言葉に、先山と柑奈達は敬礼で応じるのだった。

*        *        *

 約20年近い、天使共(ヘブライ神群)による京都の制圧。ようやくの思いで橋頭保を築き上げられた。だが感慨に浸るだけに留まらず、第10高射特科大隊・試作自走対空砲小隊長の 村田・巌(むらた・いわお)准陸尉は第一陣の代表者の1人として、更なる京都奪還の為に精力的に動き回る。
 其れでも天幕を訪れた立役者を手厚く歓迎した。敬礼する 白樺・十夢(しらかば・とむ)二等陸士と相棒の観的手へと、答礼を返して席を勧めた。
「――御苦労だった。おまえ達の活躍の御蔭で、京都奪還の糸口が切り開かれたのだから」
「恐縮です。汚い恰好で失礼致します」
「需品科が野外入浴セット2型を建てていたはずだ。ひとっ風呂浴びてきたら、どうだ? 野外洗濯セット2型も置いてあるはずだぞ」
「潜入任務が続きそうなので、御厚意だけ受け取っておきます」
 白樺は笑みを浮かべた後、肩をすくめて、
「……結局、神頼みになってしまいましたが」
 苦笑する白樺。伏見稲荷に封じられていた 宇迦之御魂[うかのみたま]を解放し、其の力で低位超常体を一掃。高位超常体もまた宇迦之御魂の影響により、弱体化している。此の好機を逃さずに、村田小隊は京都東の障害であった“ 神の人ガブリエル[――])”を退けて突入を果たしたのである。
「だが其の神に頼られたのは間違いなく、おまえ達だよ。だから京都奪還の最大の功労者は、おまえ達に違いない。誇ってくれ」
「余り神に頼るのも、頼りにされるのも、困りものですがね。神は敬い、そして畏れる存在。感謝すると共に、障りや祟られぬよう祀るぐらいで丁度良いかと」
 障りと祟りで、京都で天使共に従っていた人々を思い出す。宇迦之御魂の波動により、影響を受けたのは超常体だけでは無い。天使に従属する事で生き延びてきた人間の大多数は、命まで取られなかったものの精神的な衝撃で幼児退行や記憶障害を起こしているらしい。神の情けか、其れとも罰かは見解が分かれるところだろう。医師の見立てでは、数年かけて回復しても後遺症は残るらしい。
「衛生科や需品科が悲鳴を上げているがな」
「要介護者の増大は、戦時に於いて重荷にしかなりませんからね。……此れは私達への罰でもあるかも」
 とはいえ宇迦之御魂は穀物の神である。糧食面の心配はないだろう。
「そういえば補給線や増援はどうなっているんですか? 其れにMAiRと零参特務ですが……」
「補給線や増援は、大津駐屯地と連携して問題は無い。とはいえ6月上旬までは、今居る者達で敵を削っていかなくてはならないが」
 其れからと沈痛な表情を浮かべる。傍で話を聞いていた壮年の男が、村田に代わって説明を続ける。
「春に、北や西から突入してきた部隊は、残念ながら天使共に壊滅させられてしまったよ。だが私達の中には彼等に助けを貰ったし、こうして京都の外の人間が未だ見捨ててくれていなかった事を教えられ、勇気付けられた」
 壮年の男は、20年という過酷な歳月でも天使に屈せず、抵抗していたグループの1人だという。MAiR(Middle Army Infantry Regiment:中部方面普通科連隊)や零参特務(第03特務小隊)と接触し、彼等が遺していった武器弾薬を受け継いだという。
「俺の小隊と、無理を付いてきてくれた普通科の連中、そして彼等が、現存する京都で戦闘可能な部隊だ」
 現状の優位を確保し続ける為にも、村田達は作戦会議を行い、役割を調整していた。
「しかし戦力が乏しいのは変わらない。ガブリエルにも結局は止めを刺せず、逃げられてしまったし」
 憎々しげに吐き捨てる。村田小隊に攻められて、ガブリエルは旧二条城まで逃げ込んだ。他にも京都北に“ 神の光ウリエル[――])”が府立植物園、南は“ 神の如しミカエル[――])”が京都駅、そして“ 神の薬ラファエル[――])”は太秦映画村を拠点にしている。
「奴等を倒す事が京都を奪還するのに繋がる。たとえ刺し違えてでも……」
 決意を語る村田。ならばと白樺が挙手する。
「簡単に倒せる相手だとは思いませんが、此の状況以外で倒せる相手ではないでしょう。ならば、仕掛ける以外の選択肢はありませんな。――カブリエルの方は仕留めてみます」
 潜入しての狙撃ならば、お手の物だと笑みを濃くする。昨日、今日だ。他の3柱と違って、ガブリエルを護る天使は少ないだろう。
「……宇迦之御魂神様はどうする?」
「伏見稲荷大社の警護を増援にでもお任せしたいところですが。……封印から解放された宇迦之御魂神様に危害を加えられるのは、高位上級の魔王や群神クラスでしょう。私達で四大元素天使の動きを抑えられれば、手は出せないかと」
「了解した」

*        *        *

 伊丹駐屯地にある中部方面警務隊本部。檜山・大河(ひやま・たいが)一等陸士は、川西の阪神病院から出向してきた40代女性の医官(准陸尉)を敬礼で迎えた。苦笑しながら医官もまた答礼で応じる。
「態々、職場から御足労頂きまして申し訳ありません」
「いや、何、ミーシャの事だろう? いつかは報告書のまとめを提出しなければならんと思っていたからな。丁度良い機会だった」
「お話が早くて助かります」
 処罰の七天使が1柱“ 神の火プシエル[――])”に追われていたミーシャ[――]。記憶を失っていた『彼』は、憑魔能力だけでなく人心の“負”の感情をも暴走させる力の持ち主であり、危険視されていた。そして七十二柱の魔界王侯貴族からも身柄を確保せんと狙われていた『彼』の正体は、“ 神の敵サタナエル[――])”でもあり、七つの大罪が1つ『憤怒』を掌る大魔王サタン[――]。どちらに目覚めるかで天使共と魔群の戦力が大幅に変わるのだが、いずれにしても人類の敵になるのは否めない。
「……そしてミーシャはサタンとして目覚めた」
「『隙あらば射殺せよ』という令も、密かに警衛隊へと下達されています」
「……あの御人好しには聞かせられない話だね」
 医官は複雑な表情を浮かべる。檜山は見なかった事にして、
「ミーシャとしての想い出が残っている以上は、直接的に『彼』が襲ってくる事は無いと思います。しかし驚異は発芽する前に潰しておくべきかと」
「とりあえずアスモダイやプシエルとの戦いに決着が付くまでは……という事かな?」
「ええ。タイミングが大事ですね。決着が付いた次の瞬間に『処理』出来れば、最良かと。早過ぎれば七十二柱の他の魔王とも決裂――前線の負担が増えてしまいます。逆に、遅過ぎればサタンとして『彼』が此方に牙を剥く可能性が高いでしょう」
「他の魔王2柱も倒すのに苦労するのにねぇ」
 現状は共闘を契約しているが、魔群は根本的に人類の敵である。将来、戦わなければならないのに変わらない。
「……其れとは別に、駐屯地の空気が不穏な事もあります。充分に気を付けて下さい」
 アスモダイが撒いたクスリによって顕在化したが、元々、隔離されて以来の不安や鬱憤等が蓄積されてきているのだ。大阪の第3師団に限らず、神州各地においても離脱や叛逆が垣間見られている。クスリによる汚染を除いたとしても、状況や人心が変わらなければ、同じような事例は今後も起こり得る。
「川西にも警務隊を派遣しておりますが、御注意を」
 檜山の忠告に、医官は溜息を吐いてから了解と首肯するのだった。

*        *        *

 隊用携帯無線機へと送られてくるのは各班からの報告。OCAT地下に突入し、アスモダイ攻略を支援する味方の声だった。
『――第303中隊第2小隊、上階のドラグワント掃討進捗率9割』
『第3107班、難波サンケイビル方面地下を封鎖。引き続いて現状維持に努める』
『第3108班、ローレルタワー難波の……』
 通信に第377班長へと振り返って傾注。第377班長は頷くと、甲組長の 田南辺島・清顕(たなべじま・せいけん)陸士長が号令を発した。
「――突入!」
 銃剣を装着した89式5.56mm小銃BUDDYを構えて、第377班甲組がOCAT地下2階を進む。個人用暗視装置JGVS-V8が映し出すドルグワントやアパオシャ、ブーシュヤンスターを排除。先行する甲組の側背を、第377班乙組が警戒し、他班が援護や退路の維持を確保。そして目標の地下3階の昇降口へと到る。
「閃光手榴弾、投下」
 他班員が閃光発音筒を投擲、衝撃と閃光に遅れて田南辺島達は広大なフロアへと躍り出た。かつて医療法人による健診施設があったフロアはぶち抜かれ、700坪という広大な空間を開けている。閃光発音筒の効果は如何ばかりか悩むところだが、続いて投擲する発煙手榴弾や、Mr2破片手榴弾の目晦ましにはなった。
 ただでさえ暗い地下。閃光で視力を奪い、更に煙で視界を遮る。赤外線に反応して映し出された周囲のパリカーと思しき標的に対して、柑奈がBUDDYで弾幕を張る。
(――味方がアスモダイに対して近接戦闘を仕掛ける時に、邪魔にならないよう取り巻きを攻撃する。其れが私の役割!)
 視界を奪われたとはいえ、強襲への備えはしていたのだろう、パリカーは氣の障壁を張って衝撃を緩和。柑奈達へと銃撃を応酬してきた。
 ――憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行。
 戦闘防弾チョッキに加えて、5.56mmNATOをも弾く龍鱗の鎧を纏った田南辺島が咆哮を上げた。BUDDYを乱射して、中央に悠然と待ち構えていた美髯の男へと突撃。暗視装置に映し出されたアスモダイが口元を歪めたのを捉えた。BUDDYから発射された5.56mmNATOを氣の膜を張った左掌底で受け、または捌く。対して右は手刀を形作り、鋭利な氣の刃が繰り出してくる。アスモダイの俊敏な動きに翻弄されて田南辺島のBUDDYが切断された。だが肉薄してくる瞬間に、円弧を描くような中段蹴りで返す。見掛けよりも重量あるアスモダイの身体が一瞬だけでも宙に浮く。其処に小柄な身を活かして割って入ると、先山がアスモダイの横腹へと向けてバールを払った。
「一歩踏み込んでぶん殴る!」
 練った氣の塊がバールの先端に集中。鋭角なバールな尖端に加えて、重い打撃が乗った。
「更に踏み込んで、またぶん殴る!」
 勢いを逃さず、打突を続ける。
「其の程度しか出来ませんから、そうするだけ」
 払い除けるようなアスモダイの腕の動きに合わせて、瞬間解放した呪言能力でカウンター! 肉を腐食する臭いが鼻に付く。
「……娘、なかなか楽しませてくれる」
 腐れ落ちていく腕を切り離しながら、其れでも余裕綽々とアスモダイ。腕の切断面から氷冷の飛礫が放たれた。咄嗟に顔を庇う。纏うインターセプターボディアーマーが先山の身を護るが、其れでも勢いを殺された。だが援護へと田南辺島が突き出した9mm拳銃SIG SAUER P220が炎を噴く。9mmパラベラムの直撃を受けても直ぐにアスモダイの傷は塞がるが、
「――田南辺島さん! アシスト感謝です!」
 バールへと呪言の力を流す。バールに憑いた憑魔核は呪言の力に抗するように氣を膨らませた。膨らんだ氣が呪言の力を受け流し、そして――
「――いくよぉぉぉぉぉっ! 葬らん!」
 やったね、班長! 明日はハンバーグだ!
 呪言の力を乗せた氣の塊。先山が振り下ろしたバールは、アスモダイの身を氣の障壁ごと断った。アスモダイの再生力に勝る、腐食が傷口から侵蝕していく。
「――柑奈さん!」
 先山の声に、柑奈はBUDDYを下に落とすと、替わってバレットM82A2を肩に担いで構え直す。周囲のパリカーから目標をアスモダイに変更。一瞬の躊躇いや遅れも許されない、流れるような武装交換に、そして12.7×99mmNATO徹甲焼夷弾の発砲に、誰かが賛美を込めて口笛を吹いた。
 ――銃弾はアスモダイの肉片を更に襤褸屑にし、テルミット法による高熱燃焼が細胞を灰に変えていく。其れだけに留まらず、駄目押しに先山は焼夷手榴弾も加えた。
 ……アスモダイだったモノの肉塊が消し炭となった時には、パリカーとの戦闘も終わっていた。
「意外に……呆気ない?」
 誰かの呟き。だが緊張を解かずに周囲への警戒を怠らない。
「クスリをバラ撒いていた理由も結局、何だったんだろうね? 確かに大阪は混乱し、多くの完全侵蝕魔人という犠牲者も出たけど……」
『――あの御方を顕現させる為よ』
 先山が漏らした疑問に、美しくも艶のある女の声が答えた。懐中電灯で照らし出すと同時に、柑奈はM82A2で発砲。残念ながら ジャヒー[――]に間一髪で避けられた。
『……大人しく喋らせてくれたら嬉しいのだけれども、様式美というのが解ってないわね?』
 ジャヒーの批難に、だが戦場に様式美は要らない。容赦なく弾幕を張り続ける第377班。しかし、
「5.56mmNATOや9mmパラ程度では効果無し……か?」
 田南辺島が見抜いたように、厚い氣の障壁が弾丸を阻んでいる。ならばと援護射撃を受けながら、先山と田南辺島が接近戦を挑むべく駆け出した。氣の障壁を貫通する威力を持つ柑奈は発砲を続ける。
 だがジャヒーを捉える前に、強大な波動が先山達を襲った。吐き気を及ぼすような重苦しい衝撃に、神経網を駆け巡る激痛。そして、静かに怖気が全身を蝕み、まとわりついてくる。膝が床に落ち、魔人以外の者も床を転がる程に苦悶の表情を浮かべる者がいた。他班の操氣系魔人が、息も絶え絶えながら対抗の障壁を張る。そして驚愕の悲鳴を上げた。
「……何だ、と!? アスモダイが生きている?」
「いや、でもアスモダイは細胞1つも残さず焼き尽くして……」
「だがアスモダイの気配が、核が、存在する……」
 そしてジャヒーを指した。
「奴の胎内だ!」
 暗視装置に映し出されるジャヒーが妖艶な笑みを浮かべた。腹部を撫でながら、
『御名答。アスモダイの核は切り離して、私の胎内に。貴方達が倒したのはアスモダイが氣で操った肉人形。其れでも倒すなんて立派だったわ』
 さて、と。舞台女優の様に天井を仰ぐように両手を広げると、
『さあ……仮初めの姿を捨てて、あの御方が、此の世界に顕現する! 始源の闇。暗黒の神王――アンラ・マンユが!』
 此の世界に魂は存在しない。だが氣の力は確証されている。クスリによって増幅された氣はOCAT地下へと集まり、流れ込み、そして アンラ・マンユ[――]を受肉するエナジーとなる。ジャヒーの腹部が膨らみ、そして破裂したかのように闇が溢れ出した。闇の中からアスモダイに似た、だが非なる“ナニカ”が姿を表した。精悍な体躯をした大柄の男。肌は闇を凝縮したかのように漆黒。そして産声を上げるかのように氣を爆発させた。空間が割れる程の衝撃に、第377班員達が吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。
「――何か、未だ来るわよ。あの割れ目から!」
「もしかして、あの割れ目って、噂に聞く……“門”とか『柱』みたいな物かな?」
 割れた空の隙間から、無数のナニカが此方の世界を覗き込んでいる。隙間を広げるべく手を掛けてきた。だが空間にも傷口を修繕しようとする力があるのだろう。簡単には隙間は広がらない。
「とはいえ時間の問題のようだ。早く、どうにかしないと超常体の群れが流れ込んでくる!」
 しかしアンラ・マンユが易々と見逃すはずがない。手をかざすと氷の混じった吹雪が襲ってきた。戦闘防弾チョッキをも切り裂く氷の破片に、第377班員達の身は襤褸にされる。
「――撤退する!」
「また、このパターン?! いい加減、飽きられるよ」
 申し訳ないが、アンラ・マンユの顕現を予測していなかった時点で、此の流れは仕方無かった。悔し紛れに、先山が閃光発音筒を放り投げる。そして、生じた隙に一同は弾幕を張りながら、撤退を開始した。
 ――閃光を浴びた一瞬にアンラ・マンユが顔を歪めていたのを、逃げながら先山は脳裏に刻み込んでいた。
 暗黒神アンラ・マンユだから……光が苦手? まさかね……。

*        *        *

 抵抗グループに案内を頼み、普通科部隊の援護を受けて対空戦闘指揮装置改1輌と35mm2連装高射機関砲L-90改4基が進む。ウリエルが根城にする府立植物園へと向けて、村田小隊は河原町通から下鴨町通の府道32号線を北上していた。
「烏丸通(国道367線)からの正面を避けて、奇襲を狙ったつもりだったが、やはり上手くはいかないモノだな」
 村田小隊だけでも大仰だが、加えて普通科部隊の高機動車『疾風』や96式装輪装甲車クーガーが随伴しているのだから隠密は難しい。其れでも機甲化しての迅速な奇襲が可能と思っていたが、やはりガブリエルの敗北が京都全域の天使共に警戒心を抱かせたのだろう。宇迦之御魂の影響もある。敵が防御を固めるのも当然の流れと云えた。
「其れでも現状が好機なのは違いないのだ」
 既に普通科隊員は降車して迎撃に出てくるパワーやヴァーチャーと交戦を開始していた。宇迦之御魂の影響で弱体化しているとはいえ、鎧のような外骨格に包まれたパワーが振るう練氣の剣は防弾チョッキの上から隊員を両断し、氣の防護盾は5.56mmNATOを弾く。しかし普通科隊員の奮闘で動きが止まったところをL-90改が35mm×228砲弾を放ち、パワーを挽き肉に変える。ヴァーチャーが火炎を放つのを、身を乗り出した村田が氷壁を張って威力を和らげた。
「――隊長! 前方にドミニオン、ケルプ……そしてウリエルが!」
「……やはり府立植物園から出てきたか」
 戦略シミュレーションゲームで言えば、MAP兵器に相当するのが四大元素天使だ。府立植物園の屋内で籠城するよりも野戦場に出てくるのが、強大な力を振るうのに適している。そして恐れていた通り、ウリエルは力を放った。手にする炎の剣を路面に突き込むと、大地が鳴動する。炎の剣を増幅器として、地脈系の力が爆発した。震動がクーガーや疾風を砕いていった。氷水系である村田にとって、地脈系攻撃は致命的だ。指揮装置改に搭乗しているとはいえ、全身の血肉や臓腑を揺さ振られ、神経や脳が沸騰するような激痛。血反吐が咽喉奥から溢れ出す。
「隊長!」
「……俺の事は心配するな。――宇迦之御魂神の御蔭だな。加護が無ければ死んでいただろうが、生憎と俺は健在だ」
 崩れ落ちそうな膝を奮い立たせると、猛反撃を命じる。L-90改のエリコンKDB 35mm機関砲が水平射撃。咆哮にも似た唄声を上げる人面獣ケルプを捉えると、其の重戦車のような体躯に傷を負わせる。背に2対の翼を持つドミニオンが衝撃波を放ってくるが、抵抗グループの青年が相打ち覚悟で突撃。青年はドミニオンの衝撃波を受けた事で、全身を大地に叩き付けられて絶命。四肢はあらぬ方向に曲がっていた。だが青年が最期の力を振り絞って投げ付けていたナイフがドミニオンの翼を傷付ける事に成功。姿勢を崩した処に、
「――射てっ!」
 普通科隊員が横転したクーガーに搭載されていたブローニングM2重機関銃キャリバー50を引き摺り出し、12.7mm×99NATO弾を叩き込む。
 ドミニオンを撃墜した横では、閃光発音筒で視界を奪ったところにケルプの腹や背に取り付く普通科隊員達。振り落とさんと暴れるケルプに、普通科隊員は銃剣を必死に握り締めて、抉り込む。叫びを上げるケルプの口へと目掛けて破片手榴弾や焼夷手榴弾を投擲。
「――御替わりは未だあるぜ!」
 110mm個人携帯対戦車弾パンツァーファウスト3から発射された対戦車榴弾がケルプの咥内で爆発した。駄目押しにL-90が砲撃を加える。
 ケルプを倒し、ドミニオンも撃墜。全体的に優勢とはいえ、犠牲もまた多大に出ていた。そして1柱だけでも盤面を引っ繰り返す力を持つウリエル。ウリエルが放つ震動波に、全身の骨を砕かれ、臓腑を掻き混ぜられ、体液を沸騰させられる隊員達。直撃を受けたL-90改1基が潰れる。射撃装置を操作していた部下が逃げ遅れて、命を散らすのを村田は血涙で見届けた。我知らず叫びを上げていた。怒りの叫びは、冷たき力となってウリエルへと向かっていった。地の障壁を張るが、凍った力は貫き、そして炎の剣を叩き折る。流石のウリエルも驚愕。生まれた隙を逃さず、集中砲火。無数の5.56mmNATOの、12.7mm×99NATOの、そして35mm×228砲弾を浴びて、ウリエルの身は形も残せずに塵と化した。肉片は飛び散り、血は霧となって空に舞う。念の為に焼夷手榴弾が放り込まれて、テルミット法による高熱焼却がなされる。
 ウリエルの死に衝撃を受けて、未だ生き残っていたパワーやヴァーチャーが背を見せて逃げ去ろうとする。冷静さを取り戻した村田は追撃を命じながら、
「――ウリエルを撃破。京都北面の奪還に成功す!」
 宣言に、部下や普通科隊員、そして抵抗グループの皆が泣きながらも歓声を上げるのだった。

*        *        *

 堀川通から旧二条城へと突入する抵抗グループの勇士達。零参特務やMAiRの遺品であるBUDDYを構えて、迎撃に出てきたパワーやヴァーチャーに対して奮闘する姿を眼下に確認出来た。
「――目標、方角1時5分程にいるパワーの戦列。此の位置ならば2体まとめて吹き飛ばせる」
 相棒の観的手に了解の合図をすると、白樺は25mmHE弾を薬室に送る。そしてXM109ペイロードライフルの引き金を絞った。パワーズの外骨格を貫き、地に叩き付ける号砲。白樺の狙撃に気付いた敵勢を、だが抵抗グループの弾幕が接近させようとしない。
「……味方の存在が、助かる」
「1ヶ月余りも2人だけで奮闘していたからなぁ」
 次弾を装填しながら、白樺達は苦笑。京都国際ホテル最上階。全域とまでは行かないが、二条城を見下ろせる位置に白樺と相棒は身を置くと、敵戦力を削っていく。白樺の狙撃支援を受けて、抵抗グループは東大手門の護りを突破。二の丸御殿に詰めていた天使共の防衛線に手を掛けた。
「国宝って話じゃなかったかな、二の丸御殿?」
「戦時中の今、其処まで配慮は出来ないさ」
「そうだよなぁ。しかし狙撃に適した位置を見過ごすなんて、随分と舐められていたもんだ」
 京都国際ホテル最上階から眺める景色に、観的手が口元を歪める。白樺は氣を集中させて、二条城の奥にある本丸御殿を探りながら、答えた。
「驕り……だろうな」
「……驕りか」
「ああ。まさか俺達が京都四方の護りを潜り抜けてくるとは思わなかっただろうし、宇迦之御魂神を封印から解き放つとも考えていなかっただろう。そして自由意思を奪っていたと思っていた京都の住民が諦めず、反抗してくるとも、な」
 其れが驕り。七つの大罪が1つである『傲慢』を、忌み嫌うべき天使共が陥ったとは皮肉な話だ。さながら京都国際ホテルは旧約聖書で謳われるバベルの塔か。だが罰せられるのは神の御使いを騙る超常体。
 そして、ついに白樺は探り当てる。4月上旬の作戦で大勢の維持部隊員を殺戮した存在の気を。宇迦之御魂の影響や、先日の戦いにおける負傷で弱まっているとはいえ、其の存在を白樺が忘れるはずは無かった。
「――捉えた! ガブリエルだ」
 直接では目視出来ないが、意識を集中させると、脳裏に射線が浮かび上がる。遮蔽物が数枚あるが、問題ない。貫徹してみせる。
 火薬等を調整した強装の25mmAP弾を装填。観的手が風速を読む。照準眼鏡の先、遮蔽物の向こう側にガブリエルを捉え続ける。意識は鋭く照門の先に結ぶと、目標との間に張り詰めた1本の線が見えた。愛銃に宿る憑魔が力を振るい、砲身が紫電を纏った。そして優しく、だが渾身の氣を込めて白樺は引き鉄に触れた――。
 ……轟音が響き渡り、目標は爆砕した。
 続けて何事が起こったのか理解出来ずにいるパワーズを排除していく白樺。そして数十分後に二条城は陥落した。ガブリエルの遺体を確認して焼却処分したとの報告を受けて、ようやく愛銃を下ろすと大きく息を吐く。
「……残る四大元素天使は京都駅のミカエルと、太秦映画村のラファエルか。拠点を捨てて逃げ出される前に倒してしまわんとなぁ」
 相棒の言葉に、だが白樺は肩を落とすと力なく笑う。
「そうだな。だが今は休息したいところだよ」

*        *        *

 其の時……あらゆる通信機器から、電波ジャックした放送が流れてくる。凛々しい女声が響き渡る。
『――諸君』
 川西の阪神病院へとOCATの激戦地から送られてくる負傷者。痛みを訴える隊員へと怒鳴っていた医官が、突然の放送に訝しげな表情を浮かべた。
『諸君』
 伊丹駐屯地の警務隊本部で女声を聞きながらも事務処理を進めていた檜山は、煩わしそうに顔に掛かっていた髪を掻き上げる。
『諸君――』
 女の声は、三度同じ呼びかけをし、
『――私は松塚朱鷺子、旧国連維持軍・神州結界維持部隊・西部方面隊第8師団第42連隊所属、第85中隊隊長だったもの。天草を拠点として腐れきった日本国政府からの独立を唱え、宣戦布告をしたものとして覚えておられるだろう』
 アンラ・マンユへの対策を練っていた第377班員達が顔を見合わせる。先山が鼻で笑うとバールを振る。瓦礫が砕け散った。柑奈は12.7×99mmNATO徹甲焼夷弾の給弾を急いでもらい、田南辺島は拳を握り締めて中空を睨み付けていた。
『かつて、私はこう言った。――我々は、日本国に生まれ育ち、そして超常体と呼ばれる来訪者達を身に宿したというだけで自由と生存権を奪われ、その裏に己の保身と私欲に走る愚鈍な各国政府と日本国政府との間に密約があったという事を!』
 放送主は一息吐き、そして爆弾発言を続けた。
『その証拠を今こそ示そう! その時が来たのだ。証拠とは――』
 三鷹・秀継(みたか・ひでつぐ)陸士長の視線の先で、ミーシャと予言貴公子 ヴァッサゴ[――]は冷たい表情のまま。美貌伯 ロノヴェ[――]だけが口元に嘲笑を浮かべていた。
『――私自身だ! 私という存在がその証拠である。私は……我こそは処罰の七天使が1柱“神の杖(フトリエル)”―― 最高位最上級にある超常体、熾天使(セラフ)である!』
 奥歯を噛み締める音が聞こえた。
『我は、この世界に“主”の御命による安息と至福に満ちた国を建てる為に、愚かなる者どもを打ち倒し、魑魅魍魎を祓い出すよう申しつけられ顕現した。己が自由と誇り、生命を守る為に、当然ながら我等に抗われるだろうと覚悟の上で、だ。しかし――』
 悲しみと怒りに満ちた声が周囲に渦巻く。
『――あろうことか、愚鈍な者どもは保身と私欲の為に我等に媚び諂うと、この国を売り渡したのだ』
 糾弾するフトリエルの声が天に満ちた。
『――怒れよ、戦士達。我は、同志であれ、同志で無くとも、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んできた諸君等に惜しみない賞賛と敬意を送る。と、ともに問い掛けたい。…… 我は諸君等の敵であるとされていた。確かに我等は諸君等を殺め、命を奪ってきたものだ。だが、真なる敵は諸君等から自由と権利を奪い取り、そして何よりも誇りと生命を軽んじている者どもではないだろうか!?』
 聞く者の心に、困惑と、そして嘆きが迫ってきていた。呆然が憤然に取って代わる。
『今一度、呼びかけたい。――我は約束する! 戦いの末、“主”の栄光の下で、真なる安息と至福を諸君等に与えよう。ゆえに己が自由と誇り、生命を守る為に、この理不尽なる全てに対して抗いの声を上げよ。そして我等とともに戦い抜こうではないか!』
 ……聖約が、もたらされた――。

 ……旧二条城を制圧し、残った天使の残党を掃討しながら、安全を確保していく抵抗グループ。応援に来た勇士から渡された水筒に口を付けて小休止していた、白樺は怪訝な表情を浮かべる相棒に対して吐き捨てる。
「京都で天使に従っていた連中はどうだったのか? どんなに言葉を重ねようとも、天使の人間に対する扱いは“あれ”だ」
「だよなぁ……」
 相槌を打つ相棒。そして白樺と同じく、天使に抗する意見を村田が呟いていた。戦死した部下達へと哀悼を捧げていた村田は顔を上げると、
「……天使が人の味方だというのであれば、辻という辻に屍を築き上げたのは何故だ? 従うならば頭を垂れよ、か。下げた頭を叩き落とされるのが関の山だな」
 そして次なる戦場を見据えると、部下に――否、自身へと言い聞かせるように、
「積み上げられた同胞の屍が、天使の言葉を否定しているんだよ。――私にとってはだがな」

*        *        *

 沸騰するかのように滾る血潮と、早鐘の如き動悸が狂おしい。長尾中学校跡地を憤った怒りの猛りが支配する。狂騒し、暴走する力の中で、ミーシャが声にならぬ叫びを上げていた。だが翻弄されるのはミーシャよりも周囲。特に憎悪の念を一心に浴びたプシエルは、全身を己が発した炎で焦がされていたのである。
 魔人や超常体であろうとも五大系能力の持ち主が、其れ等に等しいモノに傷付けられ、侵される事は滅多に無い。火炎系魔人に焼夷手榴弾を投げ付けても、器や衝撃に傷付く事はあるだろうが、灼熱に身を焦がす事はありえない。勿論、より強い能力の持ち主からの力負けで火傷する事はあるが。
 しかし自身の発した炎で身を焦がす事は通常考えられなかった。だがプシエルの身を侵す現状は、まさに考えられないナニカに他ならない。
「――此れが『憤怒』の力。力を暴走させる衝動」
 衝動に当てられて呻きながらも、三鷹は仇敵の姿を見届けていた。プシエルの全身の穴から炎の舌が揺れ動く。最早、口から漏れ出るのは声ではなく、苦悶を纏った炎。自身の炎に焦がされるプシエルが、崩れ落ちるのが三鷹の目に映った。此のまま終わると思った其の時、異変が生じた。
 ――次の刹那、プシエルがいた場所が無くなった。プシエルを中心にした約5m程の空間が消失したのだ。そして生じた真空を埋めようと、周りの存在が殺到する。全周囲からの圧力が一気に押し寄せ、そして崩壊していく爆縮現象。引き摺られ、巻き込まれないように、必死に三鷹は踏み止まる。そして疲れ果てたミーシャが気を抜いて倒れるのを、寸手で抱き上げた。荒い息を吐くミーシャを支えながら、
「――やったか?」
「……判らない。焼死体は残っていないが」
 ミーシャに代わって、ロノヴェが答える。『憤怒』の影響を諸共に受けていたとは思えない程の冷静な声。だが微かな声の震えを感じ取った。さておき、プシエルは遺体どころか灰も残らぬほど焼き尽くされたか、其れとも……。
「兎に角、生きていたとしても再起不能なのは間違いない。問題は無かろう」
「欲を言えば、俺の手で直接決着を付けたかったが」
 腑に落ちないものを感じながらも、三鷹は呟いた。
「さて……契約はアスモダイへの粛清までだったな。サタン様は如何する?」
 ロノヴェの問い掛けに、ミーシャは息を落ち着かせてから、
「行きます。お世話になった伊丹の皆様の助けがしたいですから」
「ミーシャさんがそう言うならば、自分等も付き合わねばならんな」
 対プシエル戦に参加していた第309中隊の指揮官が名乗りを上げる。いつの間にかミーシャをアイドル視している第309中隊の男女問わず全員が、指揮官の言葉に大きく頷いた。
 感謝の言葉を述べるミーシャを横目に、三鷹は唇を噛む。ロノヴェが慇懃な口振りながらも、からかうように尋ねてきた。
「――貴男様は如何なされるのか?」
 答えを窮する三鷹。忍び笑いに似た何かを含んでいるロノヴェの様子が妙に気に障ったのだった……。

 

■選択肢
WAh−01)京都の四大元素天使1柱討伐
WAp−01)京都の四大元素天使1柱護衛
WAg−01)京都の四大元素天使1柱復讐
WAh−02)京都制圧や復興へと関与する
WAp−02)京都にて人類や魔群へと抵抗
WAg−02)京都の新たな支配者を目指す
WAh−03)アンラ・マンユに決戦を挑む
WAp−03)アンラ・マンユに天誅を降す
WAg−03)アンラ・マンユに制裁を施す
WAa−03)アンラ・マンユに服従を誓う
WAh−04)伊丹や大津の駐屯地で謀略を
WAp−04)伊丹や大津の駐屯地で蜂起を
WAg−04)伊丹や大津の駐屯地で殺戮を
WA−FA)近畿地方西部の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
 また強制侵蝕が発生する可能性が高い為、注意する事。
「選択肢-01)京都の四大元素天使を狙うor護る」場合は、対象として西(ラファエル)か南(ミカエル)かを選択する事。言及が無い場合、自動的にアクション失敗もしくは没(描写すらされない)として処理するので注意されたし。

 なお維持部隊に不信感を抱いて天御軍に呼応する場合はEAp選択肢を。人間社会を離れて独自に行動もしくは魔群に与する場合はEAg選択肢を。そしてアンラ・マンユに与する場合はEAa選択肢を。

 泣いても笑っても、次が『隔離戦区・禁神忌霊』第3師団( 京都・大阪 = 西亜剌比亜 )編の最終回である。後悔無き選択を! 幸運を祈る!

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