第六章:ノベルス


個人運営PBM『隔離戦区・砂海神殿』 第1回 〜 北九州:埃及


Eg1『 すべてを枯らすモノ 』

 音楽科部隊が士気昂揚の為に演奏する中、黄色のマフラーを着用した隊員達が整列し、一斉に敬礼する。久留米駐屯地での出陣式に、遠巻きに見守っていた幹部候補生達が歓声を上げた。
「御覧下さいませ、妃美子お姉さま。戦車でございますわよ!」
 ポニーテールを揺らして、WAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)が指を差してはしゃぐ。何処となく丸く思える顔立ちは、そこはかとない愛嬌さを醸し出していた。
 少女の言葉を受けて、長く美しい黒髪のWACが何故か苦笑した。石守・妃美子[いしもり・ひみこ]陸士長。隔離以来、幹部候補生学校一の才媛と呼ばれる少女だ。妃美子は困ったような顔をすると、説明をしようと口を開きかけたが、
「馬鹿ねぇ、アレは戦車じゃないわよ。じ・そ・う・りゅ・う・だ・ん・ほ・う! 自走榴弾砲。野戦特科よ。―― 丸美、貴女って本当に馬鹿よねぇ」
 妃美子の取巻き達が先に笑い声を上げると、丸顔ポニーテールの少女 ―― 麻曲・丸美(あさまがり・まるみ)二等陸士は口を尖らした。
「……ええ、ええ! 判っております! 妃美子お姉さまにほんの少しばかり笑顔になってもらいたくて、した冗談でございますわ!」
「どうかしら、丸美の事だからマジボケなんじゃないの? まぁ隣に駐屯している部隊を間違えるなんて事は余程の馬鹿じゃないとあり得ないけどね〜」
 候補生一の“ 才媛 ”たる妃美子に対して、丸美は“ 候補生一の落第生 ”と呼ばれる事もあった。幹部候補生でありながら、入学直後に大きな失策を犯して、前代未聞の1階級降格処分を受けた身だ。将来性や潜在能力を買われていた為に、放校 ―― 前線送りへとされずに済んだとはいえ、丸美の立場は学校中で最も低い。最近では妃美子への熱狂振りから、“ 妃美子の忠犬 ”と揶揄される事もある。
 さておき。
 幹部候補生学校の名で知られる、前川原駐屯地。そして隣接する久留米駐屯地には、第4野戦特科連隊や第4高射特科連隊が駐屯している。
 特科とは、諸外国の軍隊でいうところの砲兵。野戦は対地、高射は対空と覚えておけば問題無いが、戦車を有する機甲科とは異なる。
 確かに、野戦特科で主力を占める火砲 ―― 155mm榴弾砲FH-70『サンダーストーン』はともかくとして、装軌式(※走行方式がキャタピラ)の203mm自走榴弾砲『サンダーボルト』は知らぬ者が見たら戦車と見紛う事があるかも知れない。車体上に剥き出しで搭載されている大口径砲、重さ90kg以上の弾で堅固な目標の破壊や広範囲な地域の征圧に威力を発揮する。
「 ―― それではお尋ね致しますが、自走砲と、戦車の違いを誰か御説明出来る方はいらっしゃいまして?」
 丸美の反撃に、取巻き達は口篭もる。自走砲と戦車の違い。口頭で説明するとなると、これはなかなか難しい。沈黙の中、妃美子が答を発しようとした時、
「 ―― コラ、何を騒いでいるか!」
「 …… やべっ、ヒヒ軍曹」
 赤ら顔をますます紅潮させながら、幹部候補生学校教官、戸渡・学[とわたり・まなぶ]一等陸曹が怒鳴り声を上げながら向かって来る。
「 ―― 今から飯塚の死地へと赴く諸先輩がたを見送る式に、何を騒いで邪魔しているか! お前達は、もう少し敬意というものをだな …… 」
 一番式を騒がしているのは、ヒヒ軍曹ではございません事? 憤りと笑いを入り混じった思いで、丸美達は戸渡に追い付かれる前に、その場を散った。当然、丸美は妃美子と一緒だ。
 久留米駐屯地の敷地を抜け、幹部候補生学校の学舎前へと逃げ延びたところで、妃美子が立ち止まって敬礼してみせた。見れば、学舎より教官が出て来るところだった。丸美も慌てながらも妃美子に倣って美しい敬礼を試みる。
「成瀬教官は、出陣式の方には顔を出されないのですか?」
 問われて、成瀬・蔵人(なるせ・くろうど)陸士長は、興味が無いと言い捨てた。
「飯塚を襲撃した超常体が一匹でも捕獲出来たと言うのならば、食指も動くが」
 亜米利加合衆国の大学で生物学の助手をしていたが、超常体研究の為に自ら危険な神州へと帰国。成瀬は、階級は低いものの、その学歴・経験から候補生学校教官を任じられている。
「飯塚の襲撃も、今までに例の無いほどのものだ。その原因も、一匹でも捕獲して調べれば解かるだろう」
「 …… 人吉では魔王が出たという噂もありますが」
 成瀬は大きく頭を振って頷くと、
「おおう、その通り! その通りだよ、君達! 人吉や飯塚だけでは無い! 全国各地でも超常体に組織的な動きが見られる。奴らの習性や生態も改めて考え直さねばなるまい! その魔王という高位超常体も捕獲出来れば研究も弾むというものだ!」
 興奮して高笑いを上げると、成瀬は上機嫌な面持ちで学舎へと再び入り直す。丸美が視線を寄越すと、妃美子も微苦笑を返してきた。
 そこを突然振り返る、成瀬。
「 …… おおう! そうだった! 上から通達があった。―― 飯塚の影響がここまで及ぶとは、僕には思えんが、一応、超常体の襲撃に備えて警戒が一段階厳しくなる。夜間、寮を抜け出す事が無いように。石守君からも皆に言い聞かせておいてくれ」
 
 男が怒鳴り声を上げると、先ほどまで黄色い声で騒いでいた女生徒達が蜘蛛の子のように散っていくのが視界の端に映った。
「何とも緊張感が無いですね、候補生学校の子供は。アレが将来、部隊を率いて、結界維持を担うとなると考えると……頭が痛くなりませんか、隊長」
 部下の苦言に、だが結界維持部隊西部方面隊・第4師団第4高射特科大隊・第40分隊 ―― 通称『ツングースカ隊』隊長、神宮司・業子(じんぐうじ・のりこ)准陸尉は穏やかな笑みを崩さず、
「まぁまぁ。私達も周りから見れば、浮いているみたいなものですよ」
 ツングースカ隊は、ロシア製対空自走砲2S6統合型防空システム『ツングースカ』を試験運用する部隊である。ネーミングはそのまんまだが、女性のみで構成された部隊であり、余り似つかわしいとは言えないかもしれない。何しろ、隊長の業子自身が、年齢不詳とも言える程のナイスバディの持ち主であるからだ。ツングースカも地対空誘導弾『改良ホーク(Homing All the Way Killer)』を索引運搬するトラックが並ぶ中では、異彩を放っていた。
 自走対空砲ZSU-23-4シルカ(錐)の後継として1986年に東独逸(当時)によって開発されたのが、統合型防空システム2S6ツングースカである。
 レーダーとコンピュータで制御された2A38M二連砲身式自動機関砲2基と、9M311対空ミサイル8発を組み合わせたもので、自動車化歩兵と機甲部隊を突然襲う低空の敵攻撃機から味方を防御し、更に巡航ミサイル等に対処する低高度対空システムとして設計されている。また移動中でもミサイル及び機関砲による交戦が可能という。
 ある意味、虎の子とも言えるツングースカ隊も出動させるには理由がある。
 ―― 先月末に、謎の砂漠化現象と、超常体の大規模な襲撃により、高射特科の第2団並びに第3群、そして第2施設群が駐屯している飯塚が陥落した。
 救援要請を最後に、通信は回復する様子を見せない。また砂漠化現象は拡大し続け、超常体も勢力を広げている事より、飯塚駐屯地の隊員達の生存は絶望視されていた。
 これに伴い、第4師団長たる 立花・巌[たちばな・いわお]陸将は非常事態宣言を放ち、神州結界を維持すべく各駐屯地に、飯塚の奪還の為に出動するよう命じたのだった。
 久留米を出発する特科部隊は、小郡から国道200号線を北上する進路を取る事にした。
「 …… 粕谷や篠栗で、福岡の第19普通科連隊と合流をすべきでは?」
 火力において機甲科に優るとも劣らないと自負する特科部隊だが、防御面では薄紙のようなものだ。随伴する普通科隊員はいるが、全てをカバーするには足りない。当然ながら、部下は不安を口にするが、
「そうですね。しかし立花陸将の性格からいって、私達との合流より先に、連隊を飯塚へと移動させようとするでしょうね」
 それに、幹部達は超常体の拡大がそれほど大きく且つ急速に広まっていると考えていないようだった。飯塚手前で合流し、包囲網を形成出来ると踏んでいる。その楽観視が仇とならなければ良いが……。
「何にしろ、ただでさえ少ない対空部隊が減少しても、再建される可能性は高くありません。損害を押さえて再編成しなければ、無くなってしまう可能性すら否定出来ませんから。迅速に救出が出来ればそれに越した事はありませんよ」
 穏やかな笑みのまま業子は言って聞かせると、部下は不安を飲み込み、出発の最終段階に掛かった。その様子を見ながら、
「しかし …… 人員の補充は間に合いませんでしたか」
 一瞬だけ顔を曇らせ、業子は嘆息を吐くのだった。

*        *        *

 飯塚の救援・奪還を目指して、人員が忙しく立ち回る博多の福岡駐屯地。総作戦指揮を執る第4師団司令部の他にも、第19普通科連隊をはじめとする部隊が出発準備を整えていた。
 だが作戦を達成するには、現地の情報が余りにも乏し過ぎた。砂漠化している領域では、砂嵐が度々発生しており、交信は依然困難だ。また絶望視されてはいるが、生存者の報告も欲しいところである。
 第4通信大隊が歯噛みする中、期待が寄せられるのは機甲科・第4偵察大隊である。87式偵察警戒車ブラックアイや、73式偵察用小型トラックの他、偵察用オートバイが並び、最終整備が為されていた。
 同大隊所属、風守・和也(かざもり・かずや)二等陸士は搭乗するホンダXLR250Rの車体をオリーブドライブ一色から塗り替え、カーキ色を基礎地に合計6色で乾燥・砂漠地帯用のデザート・カモフラージュ・パターンを施していく。濃い茶色の横縞や、黒色で砂礫の陰を表した凝った物であった。だが、風守はふと顔を上げて同僚の車体を見た途端、垂れ気味の黒眼を細める事になった。
「 …… デジタルカモ・デザートか」
 風守が思わずした呟きに、米海兵隊より入手したMCCUU(Marines Corps Combat & Utility Uniform)デザートに身を包んだ、雪村・聡(ゆきむら・さとる)二等陸士が振り返った。風守と同じく長めの黒髪が、光加減でやや茶色っぽく見えた。姿勢はいいのだが常に自信のなさそうな表情をしている雪村を、風守は苦々しく笑う。
「 …… 僕が、何か?」
「いや、雪村の装備は本格的だなって思ってな。いつものお前らしくないな。他の奴らより浮いているぞ」
 そういう風守も、砂漠化現象を考慮して、肌をなるべく晒さないよう、また十分な水量として水筒を2つ確保しており(※定数は隊員一人につき1個)、通常装備のままの他の偵察隊員と比べると目立つ方だ。
 だが雪村は米海兵隊から入手しておいた、より本格的な砂漠用個人携行装備で身を固めていた。最新のデジタル迷彩が施された戦闘服に、88式鉄帽。デザートブーツに、ダスト・ゴーグル。89式5.56mm小銃BUDDYもカーキ色に塗り染められているという念の入りよう。備えは万全だった。更には……。
「 ―― キャメルバックか」
「う、うん。これがあれば、オートに乗ったままでも休止する事無く飲めるから」
 本来は商標であるキャメルバックだが、背に負う型のハイドレーション・システムの代名詞となっている感がある。縦長のビニル製内袋をキャリング・バックに収納したモノだが、容量は通常水筒の約3倍。何より専用チューブにより背負ったまま飲む事が出来るのは、偵察任務時に相応しいと言えるだろう。
( …… 俺なりに砂漠対策をしてみたが、やはり本格的なモノには適わんか )
 神州結界維持部隊は、個人の判断・裁量を尊重している。前時代的精神論且つ画一的であった陸上自衛隊が前身たる組織とは思えないほどに、暴論的な迄に実力主義であり、個人主義だ。20年にも渡る超常体との戦いの中で、任務達成と生存の為にも個人各々に見合った装備を認めている。雪村が持つ日本刀もまたそれの現われだ。
 気だるげな表情の裏で、風守はそう冷静に分析していた。経験と持ち前の勘が、雪村の用意周到な装備を羨ましく思わせた。とはいえ、そろそろ出発だ。手配するにしても時間が無い。
 隊員達を呼び集める小隊長の声に、雪村も風守も視線を向ける。その上空を回転翼機(ヘリコプター)が飛んできた。
「チヌーク? それにブラックホークか」
「多分、相浦の西方普連だと思うよ。立花陸将が上機嫌だって評判だから」
 
 胡座を組んだままの状態で、同僚のWACに話し掛けていた西部方面普通科連隊(WAiR:Western Army infantry Regiment)所属の陸士長、真名瀬・啓吾(まなせ・けいご)は、多用途回転翼機UH-60JAブラックホークが着陸体勢に入った事に気付いて、部隊長に訝しげな視線を送った。
「もう、飯塚に着いたんすか?」
 軽薄な笑みを浮かべての真名瀬の問いに、部隊長は瞑目したまま、
「いや。先ずは福岡だ。今時の作戦は、第4師団長・立花陸将の総指揮下で動く。飯塚へと先行する偵察小隊の斥候からの報告待ちになるだろう」
 今や、西部方面隊の切り札部隊として知られているWAiRは2005年に創設された方面総監直轄のヘリボーン部隊であり、当初は緊迫する隣国(※中華人民共和国・朝鮮民主主義人民共和国)との関係に警戒しての、島嶼防衛の為の特殊部隊として計画されていた(※ 註1)。
 本来ならば、西部方面隊総監たる 加藤・忠興[かとう・ただおき]陸将の指揮下で動く部隊ではあるが、加藤陸将は全国各地で勃発した超常体の活発化による大規模戦闘に伴い、第4師団だけではなく、南九州の第8師団や南西諸島の第1混成団をもまとめるべく熊本・健軍の西部方面総監部から身動きが取れない状態にあった。そこで、やむなく立花陸将に指揮権を委譲したのだ。
 なお胡座を組んでいるのは真名瀬だけではない。輸送機内ではWAiRに限らず、隊員は胡座を組むのが通常である。空挺降下装備や背嚢を腹部に抱きかかえる事で、かなりの衝撃にも耐えられるという。
「立花師団長なんかの顔を窺わず、このまま飯塚へ電撃的に進攻して、空挺降下して、武力征圧すれば話は早いんじゃないすか」
「現地の情報が乏しい。もしも超常体が強力な対空攻撃を有していれば、航空機なんぞ近寄れん。空挺なんぞもっての外だ」
 空挺降下作戦が大成功を収めたのは、ベトナム戦争期が最後という。前世紀末には、第三世界のゲリラですらも強力な個人携行対空火器を所有しており、低速・低空飛行をする回転翼機など、良い標的にしか過ぎなかったという。これは意外にも対戦車攻撃回転翼機にも言える事だ。
 超常体が対空攻撃を所有していないとも限らないのであれば、下手に近付いて精鋭を無駄に失う事にもなりかねなかった。
「対空攻撃ね …… 心配しなくても、そんな奴はオレが撃ち殺してやりますよ」
 だが真名瀬は笑みを浮かべると、そう軽口を叩く。……そんな瞳の奥に暗い光を湛えていた事に気付いた者は …… 誰もいなかった。
 
 WAiRの着陸と入れ違いに、福岡駐屯地より第4偵察大隊が出発を開始する。遅れて、軽装甲機動車ライトアーマーをはじめ、高機動車『疾風』や96式装輪装甲車クーガーに搭乗した第19普通科連隊が続くのだった。
 一部は古賀市を経由して北面からの攻勢に回すものの、第19普通科連隊の主力は国道201号線を東進。目指すは生存者の救出と、飯塚駐屯地の奪還である。

*        *        *

 窓を補強する防護戸に打付けられる砂の音と、甲高く響く散発的な銃声の中、山本・和馬(やまもと・かずま)は呻き声とともに寝具から飛び起きた。身体もそうだが、頭が痛い。大きく横に頭を振って意識を無理矢理に覚醒しようとする山本だったが、覗き込んできた看護師に止められた。
 ペンライトを手にした看護師は、半ば呆然としたままの山本の片目を大きく開かせて、真正面から相対する。胸元の身分証カードから飯塚駐屯地衛生隊所属、佐藤・茜[さとう・あかね]二等陸士と名を窺い知る事が出来た。ツインテールにローティーンと思わしき幼い顔立ち。だが、それらとはアンバランスなほどの大きく柔らかな膨らみが、看護衣の内から自己主張をしている気がする。
「 …… もしもしぃ〜? 御自身の名前と階級が判りますかぁ〜?」
 心配そうな光を湛えた瞳に見詰められ、山本は何故か感じた罪悪感を咳払いとともに振り払うと、
「 …… 俺は ―― 自分は飯塚駐屯地警衛隊ろ組長、山本和馬三等陸曹だ。超常体の襲撃を受けて …… そうだ! 部下は、部隊は、駐屯地はどうなった!?」
 痛む身体を無視して立ち上がろうとする山本だが、茜が必死に押し止めようとする。
「お、落ち着いて下さいぃ〜、山本三曹」
 無針注射器を持つ茜の懇願に、山本は猛る気持ちを鎮める事にした。
 気を落ち着かせると、ようやく周りが見えてきた。山本と同じく呻きながら寝具に横たわっている怪我人に、それらの間を忙しく立ち回る衛生科隊員達。壁に掛かった時計の短針は、3の数字近くを差していた。
「 ―― 今は、夜中なのか? 薄暗いが」
 思わず呟いた山本の疑問に答えたのは茜では無く、
「 ―― 現在、15時12分です、三曹殿。砂嵐が太陽光を遮り、また交信を不可能にさせています。幸いな事にここまで嵐が激しいと、敵超常体も容易には襲ってこられないようですが」
 室内に入るなり、ボブカットのWACが説明を入れてきた。黒地に白文字で「警務」と書かれている腕章を着けている。警務科WACは上半身を起こしただけの山本に敬礼を送ると、
「飯塚駐屯地分遣警務隊所属の 宮元・鈴鹿[みやもと・すずか]二等陸士です」
 警衛隊と、警務隊は一字違いだが、別種の部隊である。警衛隊は、駐屯地の警備や防衛に当たる部隊であり、普通科隊員で構成される。陸自時代は常任する事無く、多数の部隊で持ち回りになっていた。しかし維持部隊となった現在では、超常体に対する常時警戒もあって専門の部隊が編成されている。
 対して、鈴鹿が所属していた警務隊は、神州結界維持部隊・長官直轄の部隊の1つであり、旧日本国陸上自衛隊警務科と、日本国警察組織機関が統合された、つまりは神州結界内での警察機関である。警護・保安業務の外、規律違反や犯罪に対する捜査権限(と、あと査問会の許可による逮捕や拘束権)を有する。
「 ―― 現在、第40普通科連隊第42中隊長、火狩・京介(ひかり・きょうすけ)一等陸尉の案内役を仰せつかっています」
 鈴鹿に紹介されて、老紳士然の火狩が入室した。慌てて答礼を返そうとする山本に対して、安静するように火狩は合図を送ると、可愛い掛け声とともに茜が肩を押さえて枕に沈ませてくる。
「先ほど紹介をしてもらった、第42中隊の火狩じゃ。現在、飯塚駐屯地の総指揮を預からせてもらっておる」
「小官は、飯塚駐屯地警衛隊 …… 元ろ組長の山本三等陸曹であります。それで不躾ながらも、小官の部下や、他の部隊で生き残った者は……?」
 だが火狩は沈痛な表情で頭を横に振ると、
「わたしが応援要請を受け、慌てて駆け付けた時は、残念ながら山本君を除く警衛隊や高射特科の他、武器を手にした戦闘員の多くは……。駐屯地司令の陸将補殿も戦死しておった。…… 何とか非戦闘員だけは護る事が出来たものの、敵勢に取り囲まれ、また砂嵐に阻まれて、脱出もままならん状態じゃ。―― 何とも力足らずで済まん」
 現在、飯塚駐屯地を守備するのは、生き残った僅かの戦闘要員と、火狩が率いる第42中隊だった。
「第42中隊が駆け付けて下さらなかったなら、飯塚に駐屯していた非戦闘員も全てが死亡していたでしょう。…… 火狩一尉の助力に感謝します」
「じゃが、御蔭で問題が生じておる。1個中隊と生き残った者で、無事な糧食や水、医薬品を分け合うとなると …… 半月も保たん計算じゃ」
 救援により全滅は免れたものの、代わって篭城するに足る物資が不足してしまったという、残酷な結果となっているのだ。
「切り詰めれば1ヶ月は保つかも知れん。外でも恐らくは救助と、飯塚奪還の為に多くの部隊が派遣されてくるじゃろうが …… 」
「外との連絡が取れない状況だと聞きました」
 山本の言葉に、火狩が頷いた。
「現状、防衛態勢はどうなっていますか?」
「ここでは何じゃ。…… 生き残った幹部を集めて会議を行なう。とはいえ、幹部の多くも戦死しており、准幹部(下士官)も出席してもらう事になるのじゃが …… 山本三曹、大丈夫じゃな?」
「問題ありません …… では」
 安静を申し付けようと抗議する茜を無視して、山本は包帯を巻かれた身体に、迷彩2型戦闘服を羽織る。と、気付いた。
「憑魔核が活性化している……?」
 もはや怪我の痛みは無かった。傷口も塞がって薄い皮膜が張り、切れた神経繊維や血管、折れた骨なども繋がっているだろう。魔人は、そうでない者よりも傷の治りが早い。だが、事実上で半不死に近いと言われる異形系でもないのに、この治りの早さは尋常では無い。活性化している憑魔核が、宿主の生命力を補っているのだろう。それは逆に言えば、
「 …… 憑魔が、身体を乗っ取ろうとしている」
「 ―― もはや、この飯塚駐屯地で憑魔が活性化しないで済む場所は無いじゃろう。御蔭で超常体の接近を感知する事も出来なくなっておる訳じゃが」
 活性化は、憑魔が別の超常体の存在を感知した時に示す様々な反応の総称である。
 この状態になると、小型の超常体と化してしまい、身体能力が激しく強化される。但し相手が小型の超常体の場合は、活性化が起きない場合の方が多い。同様に、憑魔に反応して活性化するような事はなく、ある程度の大きさがある相手でないと近くに潜んでいても判らない。逆に言えば、活性化を利用して、超常体の接近を感知する事が出来たのだった。
 そしてまた、憑魔は宿主の神経にまで根を張って寄生しているので、長時間活性化が続くと痛みや震えなどの症状が現われるのだが。
「 ―― 馴れてしまったのか、活性化に伴う痛みは麻痺してしまっておる。動作に支障は無いはず …… 強制侵蝕さえ無ければ、じゃが」
 火狩に言われて、襲撃を受けた時を山本は思い出した。飯塚駐屯地で待機していた魔人の多くが、突如生じた憑魔の強制侵蝕による激痛と衝撃で無力化された。飯塚の守備力が瞬く間に瓦解した原因の1つだ。俗に魔王や群神クラスと呼ばれる高位超常体の中には、憑魔の強制侵蝕を引き起こす存在もあるという。ならば……。
「 ―― 魔王もしくは群神クラスが、飯塚に?」
 山本の呟きに答えられる者は、今は未だいない。
 
 会議室に集まってきた士官・下士官が、普通科第42中隊副官の指し示す地図に注目する。
「 ―― 現在、飯塚駐屯地は敵超常体により包囲されていますが、その数はおよそ1個大隊と思われます」
 1個大隊! 驚きが場を支配するが、先を促すように火狩が咳払いすると、副官は現状説明を続けた。
「更に悪い事を言いますが …… 飯塚駐屯地包囲網から離れていく超常体もいて、戦場を拡大させている様子も伺えられるそうです ―― 恐らくはこちらの救援部隊を阻止しようと狙っているのかもしれません」
「加えて言うならば、砂嵐により外との交信はほぼ不可能。こちらも、あちらも様子は判らず仕舞いか」
「 ―― 防衛の状況説明を」
「はい。…… 現在、飯塚駐屯地の防衛戦力は、第42中隊と飯塚の残存隊員 …… 100名前後です」
 普通科1個中隊が120〜180名であるから、もう1個中隊ほども残っていない計算になる。
「 …… 傷病者と、非戦闘員も含めれば1個大隊ほどにはなりますが」
 実質的な国民皆兵時代とはいえ、全てが戦闘に馴れた者ではない。極論ではあるが、1個の戦闘部隊を維持するには、支援要員がその数倍も必要になるという。勿論、彼等とて銃器を持たせられれば戦力としては数えられるだろうが、狙撃能力が期待出来ない以上は弾幕を張り続けるしかない。物資不足な状況の中では、むしろ致命的な事態になりかねない事でもあった。
 非戦闘員の足し算は聞かなかった事にして、
「 ―― 当初、ここに来る迄にわたしが立案していた多層陣地による遅滞戦術は、一瞬にして飯塚駐屯地を襲撃され、防衛線を突破されてしまっておる現状では無意味となってしまった。…… 何しろ、下がるべき後方が無いのじゃからな」
 火狩は口惜しげに呟いた。
「しかし、第42中隊の救援により、こちらも防衛線 …… と言うほどのものではありませんが、少なくとも建物の戸口や内部数ヶ所にバリケードを築く時間は出来ました」
「 ―― 施設科の底力を見せてもらったな」
 火狩の微笑みに、発言した中肉中背の男 ―― 第2施設群所属、鹿島・貴志(かしま・たかし)三等陸曹が複雑な表情ながらも笑って返した。駐屯地内の地図に差し替られると、施設科隊員が築いたバリケードの位置が書き加えられていく。
「武器科とも協力して、罠なども張っています。規模を限定且つ縮小する事になりますが、火狩一尉が立案されていた遅滞戦術を活かせます」
 特別に目立つような顔立ちでは無いからこそ、鹿島の精悍な眼光が、より印象的に輝いて見える。火狩は深く頷くと、
「そう言ってくれると、嬉しいわい。わたしの立案も無駄ではなかったという事じゃからな」
「防衛線の構築は出来ましたが、問題は糧食や物資です。単純計算したところ、半月も保てるかどうか」
「 ―― 武器科よりも報告する……ですが、銃器や弾薬は使いようにもよるますが一週間程度で使い切ってしまうかと」
 独りだけ陸士階級である、飯塚駐屯地業務隊武器部所属の 後藤・辰五郎[ごとう・たつごろう]二等陸士が幹部・准幹部が集まっている中、慣れない敬語を使いながら報告をしてきた。
 一同、顔を見合わせる。
「銃撃戦に代わって、徒手格闘戦や白兵戦も考慮にいれなければなりませんな」
「敷地内にあるはずのビックブルにさえ辿り着ければ …… また話は変わるんだろうけどな」
 鹿島がぼやいた。
 施設科の操る重機の1つ、75式ドーザ『ビッグブル』は、機甲部隊に随伴出来る機動力(時速45km)と、敵の攻撃から操縦席や車体主要部を防護する装甲が与えられている。ドーザブレードをもってすれば大型の超常体といえども、戦えない事も無い。
「いやいや、でも、やはり決め手になるのはビッグブルでなくて、戦車だよ戦車! 魔人が無力化されるかもしれない危険を孕んでいる今、敵の親玉を倒すには火力・防御・機動力を兼ね備えた戦車こそが必要だ」
 鹿島は思わず持論を力説する。とはいえ、元は機甲科の戦車隊員だった鹿島が、返り咲くのを夢見ているのは駐屯地の大部分に知れ渡っている事だから、驚くのは火狩達第42中隊の者ばかり。
「う、うむ。戦車が必要かどうかは充分に話し合わねばならぬが …… 鹿島君の言う通り、魔人がいつ無力化されるか判らない問題もある。これは激痛化などによる単純なものだけでなく……」
「 ―― 完全侵蝕により、ヒトを辞めさせられ、結果として敵超常体に寝返ってしまう事もありうる」
 火狩の言葉に続いて、山本が呟いた。一同、唾を飲み込む。その場合の解決方法は1つしかない。皆、暗黙下で覚悟を決めた。
「何にしろ、篭城戦においては救援の到着が不可欠。そして外との連絡網を確立せねばならない訳ですが …… 通信機がアテにならない以上は」
 徒歩による直接伝達。だが、それは敵超常体の包囲網を突破しなければならないという危険をも意味する。
 そんな誰もが尻ごみする中、
「 ―― 小官が参りましょう」
 唯1人、山本が挙手した。
 驚きと安堵の入り混じった溜め息が漏れたのは気の所為か。火狩が目を細め、
「 …… 行って、くれるか」
「 ―― お任せ下さい」
 鹿島は立ち上がると、山本の肩を叩き、
「他に志願者がいないか、募ろう。…… 済まん、山本さん。出遅れちまった」
「気にするな。―― 駐屯地の防衛は任せたぞ。もしかしたら残る方が地獄かもしれない」
 山本の言葉に、鹿島は不敵な笑みを浮かべると、
「それこそ ―― 気にするな、だぜ」
 
 夕刻になり、ようやく砂嵐が弱まる。だが、それは超常体の襲撃が再開される事でもあった。
 壁や天井を震わす破砕音。第42中隊隷下の班員が緊張の面持ちで、バリケードを睨み付ける。班長の指示で、横体二列。前列は伏射ち、後列は膝射ち体勢。
「目標、前方バリケード突破の超常体。単射準備」
 棹桿を引いて初弾を薬室に送り込む。BUDDYの安全装置を解いた。
「「「――準備良し」」」
 バリケードの向こう側から連続する打撃音。遂に一角が崩れ、人間男子1名ほどがようやくくぐり抜けそうな穴が開いた。蛇型の低位中級超常体ネヘブカウが威嚇音を発しながら、覗き込んで来る。胴体から生えた人間のような手がバリケードを築く瓦礫を掻き分けて、その蛇身を内へと踊り込もうとした。
「――射て!」
 班長の号令でネヘブカウに斉射。5.56mmNATO弾を喰らったネヘブカウの身体が衝撃で跳ねる。
「 …… 射ち方待て」
 ひとしきり体液を撒き散らしながら、のた打ち回った後、ようやく静かになったネヘブカウ。そしてバリケードに開いた穴からは続いて、弾雨へと飛び込んで来るような間抜けな超常体はいない。…… ただ、バリケードの向こうから打ち続けて来る音と振動が益々大きくなってきた。
「 …… 3発制限点射準備」
 班長の指示に、レバーを『タ』から『3』に切り替えたと同時、破砕音が一際大きくなり、バリケードが突貫された。そのシルエットは、さながら首を切られた罪人の群れ。低位中級人型超常体アケファロスが押し寄せて来る。
「 ―― 射て!」
 アケファロスの集団に対して、BUDDYが唸る。だが銃弾雨の中、傷付きながらも突進して来る勢いに衰えはない。そして、間隙を縫うように天井や壁、床を高速で這いずって来るネヘブカウ。その毒牙が、班員の肩に喰い込んできた。
「 ―― 後退、後退、後退!」
 班長が泣き叫ぶように言葉を発するが、既に白兵戦距離にある。幾度も銃剣で突き刺し、またナイフを振るう。BUDDYを捨てて、9mm拳銃SIG SAUER P220を抜き放ったものの、構える事も許されずに頭を叩き割られた班員もいた。
「 ―― 後退を支援しろ!」
 背後に付いた他班がBUDDY単射で、逃げ道を切り開く。かなりの負傷者が出たものの、追っ手を喰い止める事が出来た。
 個人携帯短距離無線機からは救援や、攻撃を訴える怒声が響き渡ってくる。作戦室にて、全体の状況把握に努めている火狩は、唇を噛んだ。
「本当に増援が来なければ、長くは保たんな……」
 施設科が築き上げたバリケードは、また後方深くまで存在している。建物の構造(地形)を利用し、応急陣地を構築させながら防衛を行なえば、遅滞戦術は可能となろう。
「だが …… 思った以上に損害が大きい」
 無意味と解かっていながらも時計を睨んだ。
「 ―― 任せたぞ、山本君。一刻も早く、外からの救援を誘導してくれ」
 
 飯塚にある、とある廃墟の一室。蒸し暑い室内で円陣を組むように座り、山本は全員の装備を確認した。遠雷のように銃撃音が時折響く中、おもむろに話を切り出す。
「あー。…… この装備で戦闘続けるってのは、死んで下さいと言われているようなものだと思うんだが、皆はどうかね?」
「 …… 冷静に考えればまさしくその通りかと」
「俺も、同感」
「ど、同感ですねぃ〜」
 それでも全員に防弾チョッキが行き渡っているだけマシな方かもしれない。だが十重二十重に囲む敵超常体を突破するにはやはり無謀だ。しかし彼ら ―― 鈴鹿、後藤、そして茜の3人は自ら志願した。山本はこの命知らずどもを必ず生き残らせたいと考えている。…… もう部下を失うのは御免だ。だから、
「 ―― いいか。他の連中は飯塚に残って頑張っている。が、俺らは、どうしてもって場合以外は戦闘を避け、生き残りを優先させるぞ。残酷で非情なようだが ―― 外との連絡を確立する事。これが俺らの任務だからだ」
「「「――了解」」」
 本当のところ、後ろ髪引かれる思いもあるだろう。だが、それでも彼らは返事した。山本は深く頷く。そして更に注意を付け加える。
「 …… 飯塚が陥落する時、俺は物凄い激痛を感じたが ―― これは恐らく高位上級の超常体による強制侵蝕による可能性が高い」
 注視される中、山本は続ける。
「一見、人間そうでも、よく観察しろ。完全侵蝕した魔人或いは人型の超常体の可能性がある。少しでも違和感があったら接触は避けろ。場合によっては射殺しても構わん。―― 責任は俺がとる」
 そして …… と暗に命じた。激痛を感じたという事は、自分も魔人なのだ。つまり完全侵蝕された場合は射殺しろと。
 立ち上がる。敵の目は、駐屯地に残留した者達が引き付けてくれている。彼等の奮戦に報いる為にも少しでも早く救援部隊と接触しなければならない。
「 ―― 行くぞ!」
 体力を温存させる為にも、日中や夜間は休息に当てなければならない。動くには、日没後、数時間の内だ。冷たい満月が昇っていく空の下、山本達は廃墟に隠れながら歩き出した。

*        *        *

 月の満ち欠けが、オカルト方面で多大な影響を与えているのはよく知られた話ではあるが、別に魔術の儀式に限ったものでもない。生きるモノ全てに影響を与えているのだ。 ―― それは超常体も例外では無い。
 4月8日。月光が照らす、幹部候補生学校内で、数名の女子が探索を行っていた。―― この学校に、超常体を“ 神 ”と崇める狂集団 ―― 秘密の魔術倶楽部が存在する。その噂の真偽を確認すべく、寮を脱け出した少女達だ。
 実質的な国民皆兵時代。彼等を率いる幹部候補生が必要であり、日々育成に務めているとはいえ、比較的に普段から人の気が少ない区画は幾つか存在する。そのうちの1つに当たりを付けて、調査に出た。満月の夜は、儀式が行なわれていても可笑しくは無い。そう踏んでの事だ。儀式という現場さえ押さえれば、こちらのモノという考えもあった。
「ドアを開けるのですか? 危ないですからわたくしが開けますわ」
 竹刀を手にした丸美は敬愛する妃美子に対して力強き微笑みを浮かべると、扉を慎重且つ大胆に押し開く。月光が差し込まれた室内は、だが閑散としていた。
「 …… ほら。やはり噂に過ぎなかったのですよ。さあ明日も早いのですし、また何も無かったとはいえ夜が危険なのは変わりません。早く寮に戻りましょう」
 妃美子が何処となく安堵した声色で、丸美や取巻き達を促す。強固に反対していた妃美子だったが、丸美までもが積極的な有様にようやく折れて、同行してきたのだ。丸美が見たところ、何事も発見出来なかった現状を一番喜んでいるのは妃美子だけだ。
 お宝を見出せなくて不満顔の取巻き達だったが、
「 …… あれ? 何か火の玉みたいなものが近付いて来るよ?」
 誰かの呟きに、悲鳴と歓声が入り混じった叫びを上げて、構えを取る。妃美子1人が困った顔をしていたが、丸美が背中にかばうように前に出た。
「大丈夫、お姉さまには指一本触れさせませんわ」
 光源が近付いて来る。一同に緊張が走った。
「こら、お前等、こんなところで何をしとるか!」
「やばっ、ヒヒ軍曹じゃん!」
 光源の主は戸渡だった。手には油断なくBUDDYを構え、一緒の警務隊員とともに怒声を上げる。
「 ―― まったく。石守陸士長も付いていながら、何たる事だ! 厳罰が待っていると思え!」
 怒りの矛先は、平等に“ 最優等生 ”たる妃美子にも向けられたが、
「いいえ、お姉さまに罪はありませんわ。わたくしが無理に誘い出したのです。罰ならば、わたくしが代わってお姉さま分までお受け致します」
 丸美が訴え出るが、妃美子は首を横に振ると、
「いいえ。私にも責はあります。謹んで罰をお受けします、戸渡教官」
「しかし、お姉さま!」
 かばい合う丸美と妃美子だったが、
「安心しろ。お前らの考えはよく解かった。石守陸士長も分け隔てなく罰を。そして、本人の望み通り、麻曲二士には2倍の罰を与えよう」
 素晴らしき戸渡裁きに、一同の顔が蒼白となった。
「さあ、今夜はさっさと寮に帰った帰った!」
 そして戸渡に追い立てられ渋々解散するのだった。
 
 遠間から物陰に潜んで、彼女達の様子を隠れ見ていた成瀬は独りごちる。
「 …… 僕が考えるに、あからさまに怪しい反応をする者。それを連れ回すのでは、隠密行動が失敗するは当然だ」
 とはいえ、現時点で決め撃ちは出来ない。仕方無く、宿舎に戻る事にする。隠密行動は得意というほどでは無い。戸渡や警衛隊に見つかれば厄介だ。
「とにかく監視を続行する必要がある。…… しかし折角の満月が、無為になってしまったか。惜しいな」

*        *        *

 超常体の出現は、自然環境や生態系にも多大な変化をもたらした。憑魔による変形だけではなく、交配による世代変質。対超常体に用いられた核兵器や化学物質による汚染。奇怪な植物が繁茂する中で、適した進化を遂げていく。
 頭部の皮膚が角質化した鼠を捕らえると、風守は銃剣で、馴れない手付きながらも、割と器用に捌いていった。
「結構使えるもんだな、銃剣 …… でも、やはりサバイバルナイフが欲しいところだが」
「そんなに器用に捌けるなんて、あんただけだよ」
 信じられないものを見たような顔付きで、雪村が賛嘆混じりに突っ込むが、
「なら、その日本刀を貸してくれ」
 風守が要求すると、押し黙った。まぁいずれにしても、刀もまた解体作業には不向きであろう。
 刃で切った鼠の首から流れ出る血。躊躇無く風守は舐める。血は水分・塩分・蛋白質・鉄分を含む完全栄養食だ。肉もまた空腹を満たしてくれるだろう。
「本当に食べられるの?」
「化学科の、成瀬という奴の研究によると、こいつはただの鼠に過ぎないらしい。有害物質も無いし、何よりも超常体を食べるよりは、抵抗は少ない」
 捕らえた低位超常体の食糧転化実験は、各地で行なわれている。抵抗感を覚えるものの、いざ戦場では贅沢は出来ない。
 携帯端末に落としたデータを確認しながら、風守は軽く火で炙った肉を口に入れていった。
 福岡駐屯地を出た第4偵察大隊の一部は、古賀市を経由しての北回りルートを探っていた。この地にもまた砂漠化は広がっており、乾いた土が崩れ、強い風を受けて砂となって流されていく。
 博多と飯塚の間には、西山・犬鳴山・管嶽・鉾立山から若杉山・鬼岩山・砥石山・三郡山・宝満山と、山地が連なっている。
 飯塚への速やかな移動を狙って、第19普通科連隊主力は国道201号線突破を試みているが、大部隊の移動であれば、より平坦な北回りルートの方が展開し易いかもしれなかった。また砂漠化現象の拡大状況を測る必要もある。風守と雪村が、北回りルートから目指しているのはそういう理由からだった。
「山陽新幹線の福岡トンネルが利用出来れば良かったんだけど……」
 雪村の言葉に、だが風守は頭を振る。顎で自分の愛車に積んでいる無線機を示し、
「連絡によると、そちらを試していた部隊が命からがら逃げ出す羽目になったそうだ。やはりトンネル内や地下は、超常体の営巣地となっていると考えた方が良い。突破は決死。つまり急がば回れ、というやつだな」
 2人は九州自動車道に沿って北上している。古賀市を抜け、宗像に入れば、南下するだけだ。
 首筋に言い寄れぬ空気を感じて、風守は顔を上げた。背嚢から双眼鏡を取り出すと、身を屈めながら廃ビルの屋上へと向かう。そこから眺め見る、彼方に。
「 …… どうしたの? 超常体?」
「 ―― 宗像の、駐日埃軍だ」
 宗像に駐留しているエジプト軍(※以下、埃軍と略)が飯塚陥落を受けて、救援の申し出をしたというのは聞いていた。第4師団長の立花陸将は、何か裏があるのでは無いとか疑っているようだが……。
「少なくとも、ここから観察するに限ってだが ―― 真面目に交戦しているようだな」
 北へと移動する数匹のバジリスクへと、AKMで連射している。駐日埃軍・飯塚救援部隊は、福岡国際CC(カントリークラブ)跡地に前線基地を敷くと、敵超常体の北面侵攻を喰い止めているようだった。
「本当に協力してくれているんだ……」
 感慨深げな雪村だが、風守は冷めた目で見る。
「――どうかな。砂漠化と超常体侵攻が拡大すれば、次に落ちるのは宗像の埃軍駐留地が確実だ。一概に、俺達の為とは言えんだろう」
 しかし、駐日埃軍の動きについては、報告しておかなければならない。無線機へと戻り、連絡を入れた。
「さて …… 俺は、更に東に向かうつもりだが、雪村は真っ直ぐに飯塚か?」
「うん。飯塚周辺の偵察をし、主力部隊に報告を入れないと……。あんたは何で、東へ?」
 雪村の問いに、風守は携帯情報端末を弄りながら、
「観測班によると、砂漠化現象の中心は、飯塚より少しばかり北東寄り ―― 直方の辺りではないかという疑いがあってな。それに、俺の勘が告げるんだ」
 愛車を軽く見て回り、砂を掃き出すと、
「 ―― 死ぬほど危険な何かがそちらにあるって」
 
 班長が何種類かの数字を叫ぶと、照準が合わされたサンダーストーンの薬室内に装填された砲弾の後ろに、装薬装填手が筒を挿入した。
「射撃5秒前、4、3、2、1」
 班長の秒読みの間に、砲弾装填手と装薬装填手は耳を塞いでしゃがみ込む。鈍く重いようで甲高い大きな射撃音。砲身が60cm以上も後方に下がった。
 黒色の信管が取り付けられていた砲弾は、空中爆発して破片を敵超常体の頭上にバラ撒く。続けての援護射撃の中、随伴普通科隊員がBUDDYで狙撃を行なう。
 久留米から飯塚へと救助・奪還に向かっていた野戦特科・高射特科の混合大隊は、国道200号線・冷水峠付近で敵超常体の群れと接触。交戦を開始した。
「峠を押さえろ! 高地から一斉掃射だ!」
 大隊長の指示が雑音混じりの通信機から放たれる。電波障害は益々酷くなっており、徒歩で命令を通達しなければならない場合もあった。
「 …… あら。やはり普通科連隊との合流してからの、飯塚への展開を考慮すべきでしたか」
 砲弾が空中や地上で炸裂し、多大な損害を敵超常体に与えているものの、純粋な地上戦力では劣る。火砲に取り付かれたらお終いだ。降り注がれる破片や弾雨の中を、俊敏な動きでネヘブカウが突破して来る。火砲随伴普通科隊員だけでは押さえ切れない。
「 ―― 神宮司准尉! 大隊長より水平砲撃の支援要請が!」
 悲鳴に似た部下の言葉を受けて、業子はツングースカを発進させる。地上の軟目標攻撃も可能な2A38M 2連砲身式30mm自動機関砲が下方修正された。
「 ―― 撃ちなさい!」
 毎分5千の発射速度を有する2連砲身式機関砲2基4門が30mm砲弾をバラ撒くと、塵となったネヘブカウ数体が次々と宙に舞う。
「敵後方より小型超常体の飛来を確認 ―― 低位下級鳥型バーの編隊ですね」
 ホットショット・レーダーが捉えたデータを把握した業子は、だが慌てず騒がすに、
「2号機は機関砲を対空射撃に切り替えなさい。弾幕を張って、撃ち落とすのです! グリソンの発射も許可します」
 機関砲から放たれた弾幕が、バーの編隊を撃ち落としていく。そしてツングースカ最大の特徴とも言うべき9M311 ―― NATOコード:SA-19グリソン対空ミサイルの発射筒が上空へと向けられた。
「砲撃開始 ―― 発射!」
 放たれたグリソンは編隊中央に命中。多くのバーを巻き込んで爆散した。その間にも機関砲が、その唸りを辞める事は無い。
 榴弾砲もまた絶間無く射撃を、地上に浴びせていく。地上戦力の掃討を為し終えた業子機も対空攻撃に加わる頃には、敵超常体は撤退を開始。
 こうして冷水峠は、特科混合大隊によって確保された。
 だが、やはり普通科連隊との一刻も早い合流が望まれるのだった。
 
 その普通科連隊もまた拡大してくる砂漠化現象と敵超常体の前に足止めを受けていた。
 博多より出発し、そのまま篠栗を経て飯塚へと抜けようとした第19普通科連隊主力。だが国道201号線は、山間路入口たる城戸交差点より狭くなり、また角度の急な折り道が続く。機械化された普通科部隊を活かすには、篠栗IC(インターチェンジ)より八木山バイパスに上って穂波西ICで降りた方が良い。久留米から北上して来る特科混合大隊との合流も観点に入れれば、そちらの方がより都合が良かった。
 だが、敵超常体と砂漠化現象の拡大の早さは、予測を遥かに上回っていたのである。低位上級の中型超常体バジリスクの群れを前面に押し出して、八木山バイパスを突破。またアケファロスの横隊が国道201号線をも閉鎖したのである。
 銃撃音と、砲声が響き渡る。BUDDYの連射撃がバジリスクを削るものの、損害を気にするでもなく毒液を撒き散らしながらクーガーへと突進を駆けてきた。
 上空からバーの編隊が襲ってくる。爪や嘴の威力1つひとつは大したものでは無いが、数は馬鹿に出来ない。ましてや顔や関節部などの防備の薄いところを突付き、引っ掛けられては堪らない。また、バーが視界を遮り、部隊の連携を分断。混乱している間に、敵地上戦力が肉薄して来る。いたるところでファブリック・ナショナル社の傑作の1つ、5.56mm機関銃MINIMIが弾丸を大量に消費していた。
「 …… BUDDYも嫌いじゃないんだけどね」
 弾幕を抜けて後方深くに浸透して来るバーを連隊本部陣地にて、狙撃していく。独りごちる真名瀬や他のWAiR隊員に、部隊長が収集を掛けた。
「俺達にしか出来ない役割がきた」
 部隊長はそう言うと、任務を手身近に説明する。敵後方にリペリングし、挟撃をかける。ただ、それだけだ。それだけの事ながら、実際にやるとなれば困難極まりない。だが現状を打破するには、それが求められてくる。その為の切り札たるWAiRだ。
 大型輸送用回転翼機CH-47J/JAチヌークに、乗り込んでいく同僚達に対して、真名瀬は支援すべくブラックホークに乗り込む。空挺作戦成功には、航空優性の確立と、敵対空攻撃の排除、そして味方を安全に降着させるべく援護射撃が必要とされる。
 真名瀬はBUDDYから、愛用のSIG550アサルトライフルを手にした。瑞西軍がStrumGewehr90という呼称で制式採用している5.56mmの小口径突撃銃だ。
 軽量化を実現させたファイバー製のハンドガード、グリップ、ストック。機関部はBUDDYと同じくセミ、フルの他に3ポインテッドバースト機構を持つ。だが特筆すべきは、M16を凌駕する命中精度。精密且つ堅牢なサイトシステムに、高倍率のスコープを搭載すれば高性能狙撃銃に早変わりする。小口径狙撃銃の欠点は、弾道が風に影響を受け易い事であるが、それを埋めるだけの性能がSIG550にはあった。
 ブラックホークの側扉が開放されると、真名瀬は伏せ撃ち体勢でSIG550を構える。巻き上がろうとする長髪を掻き揚げ、後ろで無造作に、ゴム紐で縛ってまとめる。軽く脱脂綿を耳に突っ込むと、回転翼の爆音と、援護射撃をする12.7mm重機関銃M2キャリバー50の打撃音を和らげてくれた。
 眼前には、チヌークの後ろ扉を開け、垂らされたロープを懸垂降下していく同僚の姿が見える。真名瀬は群がろうとする超常体を的確に射殺していった。引鉄を絞り、スコープの先で一匹また一匹と射殺していく真名瀬は、己の口元が緩み、端に歪んだ笑みが浮かぶのを、他人事のように感じとる。
 いつの間にか漏れていた含み笑いは、だが幸いな事に回転翼の爆音と、同僚の機銃の打撃音で誰の耳にも届かないだろう。哄笑を上げたくなった。
「 …… 敵の指令塔もお出ましか!」
 バーの編隊をまとめているだろう一際大きな鳥型超常体が、スコープの射角を横切る。低位上級超常体ベンヌ。形はセキレイに似ているが、その体毛色は赤味がかった黄。そして陽の下で輝く金色の鶏冠を有する。まさに鳥型超常体の王に相応しい。
「 ―― オレの弾を避けるのか!」
 興奮と喜悦、感嘆と悔恨が口に付いて出た。SIG550から放たれる速度785発/分の5.56mmNATO弾が、尋常ならぬ速度でもってベンヌにかわされていく。
 枯れたと思っていた心に一滴の水が染み込んでいくような何か。楽しい …… 愉しいな。
 瞬く間に変わる射距離、移動速度。だが真名瀬は歌を口ずさむ事で、ベンヌの空中機動のリズムとパターンを感じ取り、未来修正量を測ろうとする。
 視えた!と感じた瞬間に、指は引鉄を絞っていた。将来の空間に弾が放たれ、ベンヌはまるで自ら当たりに行くように射界に飛び込んできた ―― 着弾。だが、
「 …… 当たりどころが悪かったか」
 被弾した事で速度が若干落ちたようだが、未だベンヌは健在だ。次弾を放とうとする真名瀬から逃げるように、傷付いた身を翻すとバーの編隊とともに飯塚へと逃げ飛んでいく。
 バー編隊の蔭に射線を遮られ、諦めてスコープから目を離した。同僚の空挺降下作戦は成功し、側背に攻撃を受けて敵超常体地上戦力は瓦解。散り散りになって逃げていった。
「 ―― 俺自身が降りる必要はもう無いな」
 肩の力を抜くと、SIG550を弄り出すのだった。
 ……こうして敵超常体を蹴散らした第19普通科連隊主力は、国道201号線の警戒と掃討をWAiRに任せると、八木山バイパスに突入を開始。筑穂トンネルにて少なからぬ損害を負いつつも、穂波町に移動。北上してきた特科混合大隊と合流を果たすのだった。
 
 飯塚への救援・奪還部隊が、各方面で快進撃を行なっている中、先行していた第4偵察大隊もまた飯塚周辺の情報収集や偶発戦闘に明け暮れていた。
 雪村は騎乗したままで日本刀を振るう。オートの速度を合わせた刃の威力は、アケファロスを両断するに充分であった。
 素早く振って、体液と脂を払う。特別な業物では無いものの、数匹斬り倒してもなお目立った毀れが無いのは雪村の腕によるものか。だが、その表情には剣に掛ける誇りも、戦いへの気力も、敵超常体への怖れも無い。あるのは空白。無が在るという矛盾。感情は無い。疲れたとも思わない。ただ場に流されるままに、自動的に、機械的に、刃を振るっていく。限界を越えた時は、ただその場に力尽きて倒れるだけだった。
 更に2、3匹を切り倒したところで限界が訪れた。オートが横倒しになり、雪村の身体が砂地に転がる。既に飯塚周辺は、土だけでなく岩やアスファルトすらも粉々になり、砂の粒子と変わっていた。転倒による痛みを軽減してくれたのは嬉しいが、口や目に入った砂が別の苦しみを与えてくれる。
「もう、僕、あかんかなぁ……」
 アケファロスに取り囲まれた雪村は、砂塗れになりながら呟く。だが握った刀は決して放さなかった。
 アケファロスの蔭が、身に差しかかった。―― その時、銃声が響く。
「 ―― 無事ですか!」
 凛々しい女の声。続けて、更に遠くから男の怒声が聞こえて来る。
「宮元、しゃがめ!」
 耳に届くや否や、雪村は誰かに覆い被さられた。泥と血の臭い、そして女性の汗の匂いが鼻に付く。連射音が響くと、アケファロス数体が沈み、残ったのも逃げ出していくようだった。
「 ―― 大丈夫か、宮元。そして……」
「助けてくれてありがとう …… 僕は第4偵察大隊所属の雪村二等陸士だけど …… あんた達は?」
 ボブカットの女性から解放された雪村は敬礼をしながら、隊長格と思しき男に問い掛ける。隊長格の男は、周囲への警戒をしながらやってきた他の2人とも目配せをすると、
「 ―― 元・飯塚駐屯地警衛隊ろ班長の、山本だ。残るは同じく生存者の後藤二士、佐藤二士 …… そして宮元二士だ」
 山本の袖に縫い止められている三等陸曹の略章に、慌てて姿勢を正す雪村。
「 ―― 改めまして、助けて頂きましてありがとうございます。山本三曹殿。…… 僕は飯塚駐屯地の状況を偵察すべく斥候に参りました。現在、各方面から飯塚の救援と奪還を目指し、部隊が集結中です」
 そこで情けない顔をしてしまう。
「救援にきて、逆に助けられてしまう事態に陥った訳だけど……」
 そんな雪村に、山本は笑って返すと、
「お互い、立場は同じようなものさ。―― 飯塚駐屯地内部の現状について報告したい。救援部隊本部への連絡と、案内を頼む!」
「少なくとも、この場を移動するべきかと。先ほどの超常体が仲間を引き連れて、戻って来ないとも限りませんから」
 茜が緊急医療セット2型を広げて雪村の治療をしようとするのを視線で止めると、鈴鹿が意見を述べてきた。山本は頷くと、鈴鹿とともに周辺警戒しながら移動を開始。雪村を介助すべく茜が肩を貸した。なお横倒しのオートは、後藤が引き起こし、押して移動する。
 …… 数日後、雪村は飯塚の生存者を連れて、飯塚市街地中心部に陣地を張っていた救援及び奪還部隊本部に到着。山本は休息も後回しにして、すぐさま飯塚駐屯地内部の窮状を訴えるのだった。
 部隊本部は、飯塚の生存に喜ぶとともに、救援と奪還の作戦にますます思い悩む事になるのである。

*        *        *

 飛び交う報告に慌しくする情報将校達。福岡駐屯地・第4師団司令部の作戦会議室にて、立花陸将は大机に広げられた地図を睨み付けながら唸っていた。
 刻一刻と変わりゆく状況に、既に地図は無数の書き込みを受け、朱色に染め上げられている。これで3枚目だった。
「 …… 駐日埃軍は?」
「依然、福岡国際CC跡地に陣を広げて敵超常体の北上を喰い止めています」
 九州自動車道・若宮ICにて攻防戦を繰り広げているらしい。飯塚への積極的な救援策は実行していないものの、
「下手な動きをされるよりは随分とマシだ」
 立花陸将は鼻を鳴らした。
「それで、飯塚の包囲網はどうした?」
「飯塚市街地にて、第19普通科連隊をはじめとする西方普連等の博多発部隊と、久留米発の第4特科混合大隊が合流を果たしました。飯塚駐屯地の救援及び奪還を目標に、展開を開始しています」
「別府発の第41普通科連隊2個中隊は、現在、豊前市付近にて拡大する砂漠化現象と敵超常体の侵攻により苦戦中。飯塚到着には後一週間は掛かるとの事」
「 ―― 遅い! 連隊長の大上の奴は何をしているのだ! まさか恐怖に駆られてサボっているのではあるまいな?」
 立花陸将の暴言に、別府から出向していた情報士官が眉間に皺を寄せる。
「 …… 大上一佐は、別府駐屯地近郊に現われた怪物体の警戒監視中であります」
 だが立花陸将は鼻で笑うと、
「報告書は読んだ。だが現状で危険性は薄いのだろう? 味方の救援要請を無視してまで、連隊長自身が居残る必要があるとは思えんがな。―― 別府駐屯地司令(※陸将補)に任せておけば良いのだ」
 そして、また地図を見下ろす。
「 …… 飯塚駐屯地には未だ多数の生存者が抗戦中と聞いているが」
「はい、敵超常体の包囲網を突破した数名を、偵察大隊が保護しました。襲撃当時、付近を警戒巡回していた第40普通科連隊第42中隊が救援要請を一早く聞きつけ、敵包囲網完成前に飯塚へと到着。駐屯地内部隊と協力し、篭城しているとの事です。脱出直前の状況ではありますが …… 傷病者を含めて300名近い人数が内部で踏ん張っているらしいです」
「 ―― そうか。人が残っているのか」
 …… なら強硬手段が取れないじゃないか、ああ面倒臭い。―― そんな立花陸将の呟きは作戦会議記録から除外されており、居合わせていた者も口を噤んでいるという。
「 …… 救援及び奪還を円滑に成功へと運ぶ為には、内部との連絡が必要不可欠な訳だが」
「残念ながら、電波妨害が激しく、無線での通信は引き続き不可能との事」
「徒歩での伝達手段しかない。…… が、好き好んで敵地を突破する奴がいるか?」
「 …… 西方普連に空挺降下させましょうか?」
「選択肢の1つだが、対空攻撃があるかも知れん」
「 …… 第4偵察大隊から志願者を募りましょう」
「それも選択肢の1つだ。他にも土地勘を有している者が望ましいな …… まぁ志願者を募れ。十中八九、命を捨てる危険な役割だが、作戦成功に不可欠な要素だ。実力と覚悟の無い奴は行かすなよ」
 立花陸将の言葉に、情報将校は頷くと前線へと打電する。ノイズが激しく、通信状況の不良は、博多まで覆ってきているようだった。
 超常体の侵攻は各方面で阻止しているものの、砂漠化現象までは抑え切れていない。5月半ばにも到らぬうちに北九州(福岡・佐賀・大分)が砂漠に飲み込まれる恐れがあるとは、観測班の不吉な予言である。
「 …… そういえば、砂漠化現象の調査はどうなっている? 原因が判らなければ、飯塚を奪還しても解決にはならんぞ」
「 ―― 偵察員の一部を散らせていますが、何しろ通信状態が悪いものですから …… 思った以上に情報収集に戸惑っているようです」
 その言葉に納得したかのように、立花陸将は頷いたが、
「もう1つ。―― 小倉発の第40普通科連隊主力からの報告がないが。今ごろ、直方市に展開していても可笑しく無いはずだ。…… まさか、途中で超常体に壊滅させられたんじゃ無いだろうな」
 言ってから自ら冗談だと笑い飛ばす立花陸将だが、観測班から出向していた情報将校は顔を青褪めてしまう。直方市は ―― 砂漠化現象中心部の疑いが最も強い場所だったからだ。
「 …… まぁ、良い。とにかく今は飯塚駐屯地内部とのパイプ役の選出だ。急げよ」

*        *        *

 頭上から降り注いでいるはずの太陽光だが、口から漏れるは、寒さにより白くなった息。一歩踏み込むほどに熱が急激に奪われていく感覚。ベージュ色をベースにした迷彩服の下は、低体温症で軽い火傷に似た痛みを覚えていた。
 渇き枯れた物質は、風の強さに脆く崩れて、砂塵となって舞い上がる。生きるモノ、形あるモノの姿はここには ―― 無い。
 風守はエンジンの放熱を湯たんぽ替りにして、完全な砂砂漠と化した直方市近郊を進んでいた。熱量だけでない。運動力量そのものが奪われていっている気がする。こうして足を進ませていくだけでも苦痛だ。だが歩みを止めれば、在るのは確定した死だろう。
 砂漠化現象の中心部へ歩むに連れて、灼熱の気温は急速に冷え込み、灰色の世界となった。空気は乾燥しており、うっかり呼吸をすれば咽喉をやられる。ボンベ内の酸素は尽きてはいたが、呼吸器官を護る為に防護マスク4型で覆う。
 そして遂に目標点を双眼鏡で捉えた。直方市街地の中心 ―― かつて直方駅があったと思われる空白地に、蜃気楼ともオーロラとも思える、奇怪な空間の“ 歪み ”を確認した。その“ 歪み ”の中と言うか、彼方と言うかに、巨大な影を確認する。
 それは西洋に伝わる竜によく似た超常体だった。今は畳まれているが、広げれば天蓋を覆うほどに大きな翼。首は蛇のように長く、土豚にもロバにも似た醜悪な顔付きをしている。“ 歪み ”にて、まるで呼吸をするように、運動力量を奪っていく。その度に“ 歪み ”の狂いが直っていくような……。
「アレは……?」
 風守は思わず疑念を口に出した。呟きに応えられるモノなど誰一人周辺には居ないはず。だが、
「アレは、セト。―― ラー神群の悪業を一身に背負わされた不遇の王弟。七つの大罪を司る大魔王にも匹敵する、最高位最上級超常体が1柱」
 美しい女声が響く。背筋を駆け抜け、脳髄を貫くような危険信号。風守は振り向き様にBUDDYを発砲しようとする。
 瞬間、目眩に襲われ、そして彼女に魅了された。
 無骨なATV(※All Terrain Vehicle:最前線地域での軽物質の輸送、伝令任務等に使われている全地形車輌)に騎乗したWAC。第2種礼装の両肩には准陸尉の階級章が、襟部分に武器科の徽章が着装されている。
 いつの間にか風守は防護マスクを外して、しかも敬礼。だが、それを疑念には思わなかった。
「第4偵察大隊所属、風守和也二等陸士であります! この度は砂漠化現象中心部を特定するとともに、警戒観察を行なう為に、危険を承知で参りました」
 問われても無いのに、答えてしまう誘惑。完全に風守は、彼女の虜になっていた。…… だが首筋を駆け抜け、脳髄を貫き、鳴り響く警鐘は止む事が無い。
 ―― 危険だ。この女はとてつもなく危険だ。だが、美しい、愛しい、全てを捧げたいとも思ってしまう。
 内心で狂おしいばかりに悶えている風守に、WACは微笑してくる。
「私も似たような役割よ。セトが“ 歪み ”を抜けて、この世界へと顕現しようとするのを警戒監視しているの。お仲間ね、風守二士」
「俺の事は『 和也 』と気軽に呼んで下さい、准尉殿!」
「ありがとう、そう呼ばせてもらうわ、和也」
 一層の微笑みを向けられて、風守はその場でのた打ち回りたくなった。だが鳴り止まぬ警鐘が、理性を繋ぎ止める。
「それで、アレと、この砂漠化現象の関係は ――?」
「この砂漠化現象は、セトがこの世界に顕現するのに必要な運動力量を吸収し、変換する余波みたいなモノなの。この一帯に下手に踏み込むのは、蟻地獄か底無し沼に引き摺り込まれるようなモノ。憑魔核を有していたら、尚更ね。―― 和也は大丈夫みたいだけど」
 笑みを濃くしたWACに対して、風守は赤面するだけだ。…… ああ、危険なのは解かっているさ!
 WACは髪を掻き揚げると、
「じゃあ私は報告に上がらないといけないから失礼するわ。…… 和也、色々と今後とも宜しく、ね★」
 ウィンクするとWACはATVを駆って、瞬く間に姿を消していった。
「 …… さて呆けている場合じゃない。セトについて報告を入れないと。―― 通信は困難か、くそっ!」
 悪態を吐きながらも、何とか情報を届けるべく通信機を弄るのだった。

*        *        *

 高温多湿と言われる日本の風土であるが、現在の飯塚は乾燥した砂漠環境に在る。日が昇って数十分も足らずにバリケードの外側は灼熱の地獄と化していた。バリケードのお蔭で通気性は損なわれたが、空気が乾燥しており湿度も低いので、屋内に篭っていても堪えられないほどでは無い。
 焼けた石や鉄材に火傷しないように厚手の長袖姿の普通科隊員が見張りを務めている奥では、涼しい場所を求めて寝転がる猫のように、夜間戦闘に従事していた者達が横たわって、いびきをかいていた。
 休息中の隣では、非戦闘員達がBUDDYを分解して手入れを行なっている。射撃不良を起こさぬように機構部に入り込んだ砂塵等を取り除いていく。
 戦闘が起こる度 ―― 日が沈んで夜を迎える毎に負傷者が続出していた。今やマトモに戦闘可能なのは、80名近くになっている。
「 …… そろそろ敵の侵攻が再開される頃合か」
 目蓋に乗せていた塗れ手拭を衛生隊員に渡しながら、火狩がソファから起き上がる。貴重な水を浸してある手拭を、1人だけ使わせてもらうのは気が引けたが、総指揮官たる者は疲れを部下に見せてはならない。士気に関わる。身繕いをすると、背筋を伸ばして会議室に入った。敬礼を送ってくる部下達に返すと、
「 ―― 状況報告を」
「日没まで残り1時間ありますが、敵の一部にもう動きが見え始めています。各小隊長、各班長に隊員達を叩き起こすよう命じました」
「もう暫く休ませておきたいものじゃが。…… 君も少しは眠りたまえ」
「今夜の戦いを生延びましたなら、遠慮なく休ませてもらいますよ」
 言いながら副官は、物資の数を示した駒を減らしていく。火狩は眉をひそめた。
「あと一週間ばかりか」
「ええ、切り詰めてもこれが限界です。救援が来なければ、間違い無く壊滅します」
「通信状況が回復していないのは厄介じゃな。外の動きが判らん。―― 山本君達は、無事に外と連絡が付けただろうかのう? 何か報告は?」
 副官は頭を振る。だが瞳の奥に、希望の光は捨てていなかったように思えた ―― 次の瞬間までは。
「 ――ッ!」
 火狩は声にならぬ叫びを上げて、無様にも崩れ落ちてしまう。突然身体を蝕む激痛。地面を転げ回った。泡立つように無数の肉腫が膨れ上がり、内側から肉を引き裂いていく。引き裂かれた肉から血が吹き出し ―― 裂けた肉の間を異常な速度で根を張り出した神経組織のようなものが埋め尽くしていく。
「ひょ …… 憑魔の、強制侵蝕現象 ―― 」
 幸いな事なのか、火狩の部下 ―― 第42中隊の多くは魔人では無い。強制侵蝕現象の影響を受ける事は少ないだろうが、指揮官自体がこの体たらくでは沽券に関わる。
 何とか火狩は席に自力で座り直すと、副官に指揮官代行を任じる。そして意識を失ったのだった。
 
 別棟の物陰に隠れ潜んでいた、鹿島は息を飲む。何か強大な気のようなモノが膨れ上がり、場を狂乱状態に叩き込んだのは感じ取った。
 先月末に飯塚が強襲された時と、特に魔人が無力化された時と同じ空気だ。
 ―― 憑魔異常進行。強制侵蝕現象。
 外を覗き込んだ。擬装した監視点の中に鹿島が隠れ潜んでいる事に気付く様子はなく、超常体は統制された動きでバリケード突破を再開させていた。
 光波測距式双眼鏡を取り出した。敵超常体の後方を見遣る。そして超常体の群れを整然と統制し、魔人を極度に活性化させるような存在 ―― 高位上級超常体、所謂ところの魔王や群神クラスを確認する。
 それは、全長10m近くある巨大な鰐だった。力強い後脚2本で立ち上がっており、全高は3〜4mを越すだろう。力強く太い尾が支えを補助していた。前脚は物を持てるように進化しており、もはや腕と呼んでも差支えはあるまい。
 知性ある光を帯びた瞳をした鰐が咆哮を上げると、再び強制侵蝕を引き起こす波動が広がっていった。
「あ、アレを倒すには! 火力・防御・機動力を兼ね備えた戦車しかない! はずだ! 私は機甲科への転属を希望する!」
 しかし戦車を拝領するまで、自身が生き残っていると思うほどには、鹿島も楽天的では無かった ……。

*        *        *

 数度目に渡る戦闘が行なわれている飯塚から遠く離れた地、幹部候補生学校。夜の学舎内を、ポニーテールを揺らしながら、丸顔少女がおっかなびっくり姿でさ迷っていた。
「 …… 妃美子お姉さまは、どちらに居らっしゃいますか〜?」
 懲りずに探検。だが女子トイレで用を足している間に、妃美子と取巻き達の姿は無く、丸美は1人はぐれてしまっていた。
 さすがに独りで行動するのは怖い。竹刀を構えながらも、その歩みは震えていた。が、
『 …… の姿が …… されたそうです』
 微かに聞こえた声。丸美は背筋を伸ばすと、息を潜めて近付いていく。
『やはりセベクは …… の下についたか』
『これで我が王家の者達は、大きく二分されたという事か』
『 ―― ホルスは?』
『王妃様の戒めの言により、未だに自重してはおりますが …… そろそろ限界でしょう。いつ制止の声を振りきって、セトに挑みかかるかは…… 』
『やはりホルスは、我等が王(ファラオ)として導くには足らないね…… 』
『ヘケト殿! 王妃様の前で、ホルス殿を悪く言うは失礼に当たりましょう!』
『構いません ―― あの子が王の器に足りないばかりに、セトは彼のやり方でもって、この遊戯を征すべく事を起こしたのでしょうから』
 微かに空いた隙間から覗き込んだ先には、91式常装冬服や迷彩2型作業服、看護衣等 …… 思い思いの服装に身を包んだ男女数名の姿。
『 ―― あの御方が“ 堕ちた明星 ”と手を結んで去ったのち、あの人もまた隠れてしまった。そして我等が王家は大きく二分してしまった』
『 …… バステトは?』
『彼女もまた我等やセトとは違うやり方で遊戯の生き残りを図っている。――“ 黒き王 ”と結びついてだが』
 暫し訪れた沈黙を破ったのは、若い1人の男。
『しかし、この度、満月の儀が邪魔されたのは痛かった。正直“ 黙示録の戦い ”が始まる迄に、全ての儀式を完成させられるかどうかは微妙です。―― 王妃様の懇願故に、この度は取り止めましたが …… 次、新月の儀では、ただではおきませんぞ』
『 ―― 王妃様に代わり、私が責任をもって妨害者は排除しよう』
( …… え。今の声って? )
 聞き覚えのある声。そして欠けているとはいえ、差し込む月明かりは、場を照らすには充分だった。
 ヒヒのような赤ら顔の中年 ―― 幹部候補生学校教官、戸渡学一等陸曹。場に集まっていた他の者も、幹部候補生学校の何処かで見た顔ばかりだった。
『 それでは早速、トートよ。…… 姿を見られている。その言葉に偽り無く、処分しなよ。ケロケロ』
 ヘケトと呼ばれていた少女が蛙の鳴き声を真似て笑う。そういえば、何故か蛙の頭部を模したフード付き雨衣も着込んでいるのは狙っているとしか……。
 さておき。覗き込んでいるのがバレたと判断した丸美は慌てて逃げに入った。寮に駆け込んでしまえば、ヒヒ軍曹といえども今夜は何もしてこられまい。だが …… それよりも、
( 王妃様と呼ばれていた人の声。逆光になっていたから顔は判りませんでしたが ―― わたくしが聞き間違える訳がありませんわ。アレは確かに…… )
 ―― 妃美子の声だった。
 
 誰かが逃げ出す音に反応して、戸渡教官他数名が追跡すべく駆け出した。残る者も静かに、だが急いで、この場を離れていく。
( …… ふむ。監視を続けていた甲斐があったというものだ。やはり、あの妃美子が ―― )
 隠れ潜みながらも、ほくそ笑んでいた成瀬。だが、すぐ傍で声がしたのに、仰天する。
「ちょいと、オジサン。隠れているつもりなんだけど、残念だったね。アタイにはバレバレだったよ。もっともトートは別の奴を追い掛けていっちまったけどね」
 声に振り向くと、いつの間にか成瀬の隣に、ヘケトがしゃがんだ膝に頬杖つきながら上目遣いで見詰めていた。その様子は、フードもあって、まさに蛙。
 懐のホルダーからP220を抜いて構えようとする成瀬。しかし、より早く、跳び上がったヘケトの頭突きが顔面ヒット。成瀬は鼻を押さえて、大きくのけぞってしまった。
「おやおや。危ないものを出しなさんな。アタイはこれでも平和主義なんだ。この場の事を、他に言い広めなかったり、また儀式を邪魔しなかったりと誓うのならば、見逃してあげるよ」
「おおぅ、ありがたい! 見逃してくれるのかっ! ―― って、儀式? 何の儀式かね?」
 成瀬が興味深く聞く。ヘケトはまた蛙の鳴き声を真似して笑うと、
「 …… さすがは天下の成瀬センセーだ。向学精神あるねっ!」
「いや、それほどでも …… あるがなっ!」
 蛙の鳴き声を真似て、また笑う。
「いいね。じゃあ特別サービス。―― 儀式とは、ずばり復活の儀式だよ。隠れあそばせた我等の王を見付け出し、黄泉還らせる為のね!」
 フードの下で、ウィンクして来た。
「それが、我等の生き残りを決定付けるのさ!」

 

■選択肢
Eg−01)飯塚の救出・脱出を決行
Eg−02)砂漠化現象について偵察
Eg−03)宗像の駐日埃軍へと探訪
Eg−04)幹部候補生学校にて謀略
Eg−05)別府駐屯地で色々と調査
Eg−06)博多の福岡駐屯地で勤務
Eg−FA)北九州の何処かで何かを


■作戦上の注意
 当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
 飯塚駐屯地並びに直方市一帯は、強制的に憑魔の侵蝕率が上昇する事もあり、また死亡率も高いので注意されたし。
 砂漠化現象は広がり続けており、適した装備を獲得しておく事をお奨めしておく。キャメルバックやデジタルカモフラージュ・デザートパターン等の砂漠用個人携行装備の必要消費功績は「 」。またATVやDVP(Desert Patrol Vehicle)、FAV(Fast Attack Vehicle)を獲得するには「 10 」必要とする。
 なお飯塚駐屯地は、アクション上での武器弾薬の制限は次回も無いが、脱出・救助に失敗した場合は、飯塚駐屯地内の人員死亡は確定と考えてもらって良い。

註1) 此方の世界では2002年3月に創設。「東の第1空挺、西の西方普連」と呼ばれ、自衛隊特殊部隊の1つ。島嶼防衛が主任務だが、昨今のテロ対策の一環として、屋内戦・市街戦のエキスパートでもある。


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