昨日に降った雨も上がり、晴れ間が覗いている4月2日。整備員から手渡されたゴーヤージュースに口を付ける。ゴーヤー(にがうり)と、林檎や梨とのミックス・ジュースは思ったよりは飲みやすい。
神州結界維持部隊・那覇駐屯地に隣接する、旧那覇国際空港 ―― 那覇航空基地において、第1混成団・第101飛行隊第7小隊長、西村・哲夫(にしむら・てつお)准空尉(=准陸尉)が身体を休めていた。部下達も日陰で思い思いに骨を伸ばしている。
船舶及び飛行機の所有・運行は脱出阻止の為、国連並びに日本国政府によって著しく制限・管理されている。浅くて小さい河川を渡る手段としての舟艇はあるが、船舶の多くは超常体との戦闘で沈められたり、また脱出を阻止する者達の手で破壊されてしまったりしている。そして船舶を操縦出来る者は限られており、彼等の存在もまた秘匿されている。船を操縦する技術自体が喪失してしまったのではないかと笑えない冗談もあるぐらいだ。
那覇航空基地は、本州列島と沖縄を結ぶ数少ない玄関口であり、また南西諸島に展開する維持部隊にとっても移動の要所だ。現在もひっきりなしに回転翼機(ヘリコプター)が離着陸を繰り返している。
「 ―― レスキュー・ウイングがやけに多く飛んでいるようですが、何処かで救助要請が?」
那覇救難隊のU-125A救難捜索固定翼機と、UH-60J救難回転翼機のペアが離陸していく様を見て、西村は整備員に尋ねた。
ちなみにレスキュー・ウイング(救難隊)は航空自衛隊の流れを組む機関であるが、これに限らずも空自は神州結界維持部隊発足において維持部隊・航空科(※陸上自衛隊航空科が前身にして根幹)に再編制されている。無論、海上自衛隊隷下の航空集団も同様である。
陸自に吸収された形になる為、元海自航空集団操縦士や、元空自操縦士の中には、陸自上がりの操縦士に対して敵愾心を持つ者も少なくない。維持部隊の階級呼称が基本的に陸自のものを準拠しているのに反発して、海佐や海士、空尉や空曹を名乗り続けている者もいる。維持部隊は暴論的なまでの実力且つ個人主義な為に、作戦遂行や余りにも組織維持に当たって問題が無いのであれば、咎められる事は少ない。
別に、西村自身は(相対的に冷遇されているとは言え)現状に反発感を覚えている訳では無いが、やはり空自上がりである事と、そして部下の反発心をなだめる為にも『空』階級呼称を余儀なくされていた。
閑話休題。
西村の質問に、整備員が作業リストにチェックを入れながら答えてくれた。
「先月未明に、先島諸島近海で中共(※中華人民共和国)の潜水艦が、超常体によって撃沈させられたという騒ぎがあったじゃないですか」
中共は関東地方に進駐して過去に大日本帝国から受けた苦辱を晴らした事に満足せずに、沖縄・先島の南西諸島の占領を狙っている。しかし沖縄諸島は駐日米海兵隊が居座り続けていた。中共が比較的に亜米利加の軍備が薄い先島諸島に目を付けるのは当然。だが海棲超常体に対する怖れの為か、未だに上陸作戦を強行してこなかった。とは言え、ディーゼル潜水艦キロ級636型による領海侵犯を繰り返し、先島周辺海域の情報収集を行なっていたらしいのだが、ついに超常体によって撃沈されたらしい。乗組員の多数は、半人半魚の中型低位中級超常体ディープワンによって海の餌となったという話だ。
「いざという時の為に備えて、救難能力をより向上させておけという通達が下ったそうです」
「成る程。それでですか」
しかし維持部隊が、海上戦力は皆無と言っても良いのは、周知の事実である。今更、海上救難能力の向上とは……。
「 ―― ついに重い腰を上げ始めましたか?」
何かが急速に動き始めている。そんな気がしてならなかった。本州列島各地において、大規模且つ組織的な超常体の襲撃が報告されているそうだ。これも何か関係があるのだろうか? 自らの役割と、先ほど上官から受けた命令を咀嚼しながら、西村は考えをめぐらせた。
と、その思考を邪魔するような歓声が遠くから聞こえて来る。
「 …… な、何ですか? 何かのイベントが?」
遠くを見れば、第1混成団・名(迷?)物の5人組と、普通科隊員数名が騒いでいる。
「あー。あれですか。…… 内地から着たお客さんと、そのグルーピーですよ」
グルーピーという言い方も随分と古いですね、貴方。内心で突っ込みながらも、説明に耳を傾ける。
「市ヶ谷(※幕僚監部)の命で出向してきたんだそうですが、前は習志野に居たとか。若くて低い階級なのに、かなりのVIP扱いされているそうですよ」
「 …… 習志野。第1空挺団ですか? それとも、特戦群?(※ 註1)」
第1空挺団は長官直轄の機動運用部隊で、前世紀では日本唯一の落下傘部隊(エアボーン)。名言は『空挺なめるな!』と『細心大胆』。信条は『精鋭無比』。東部方面隊第1師団・習志野駐屯地に所在。訓練が苛酷な為『第1くるってる団』もしくは『あぼーん』等と呼ばれる事もある。
そして特殊作戦群。魔人や高位超常体、ゲリラ・コマンド制圧を目的とするという噂の、長官直轄の特殊部隊 …… と西村は聞いた事があった。
「さあ、僕には判りませんが …… 陸自の奴等も一挙一動に戦々恐々としているらしいですよ」
激しくクシャミをする、若いWAC(Woman's Army Corps:女性陸上自衛官)。迷彩2型戦闘服の上位両袖に着けられている略章は、二等陸士を示していた。
「どうした? 八木原、那覇に着任早々で風邪か?」
如何にも暑苦しい …… 失礼、懐かしの70〜80年代青春ドラマ(或いは戦隊ヒーローものリーダー)風の顔立ちをした男の笑い声に、八木原・祭亜[やぎはら・さいあ]二等陸士が口をへの字に曲げる。
「一誹二笑三惚四風邪 …… 誰かが悪口を言っている気が」
クシャミを一度したら誰かに悪口を言われている、二度なら誰かに笑われている、三度なら誰かに恋をされている、という意味だ。
「続けて連発しないところを考えると、悪口を言われているのだろうな」
「ヤだなー。ボク、ここに着任してきたばかりだから、そんなに悪い事した覚え無いんですけど …… 未だ」
「 『 未だ 』…… って、いつかはやるつもりか!?」
「いやいや、そんな事は無いですよ、炎先輩」
「おれから目を逸らしながら言うなよ!」
祭亜から先輩と呼ばれた、青春ドラマ風男が突っ込みを入れた。炎・竜司(ほむら・たつし)陸士長。第1混成団音楽隊・第140組を束ねるリーダーだ。
祭亜から先輩呼ばわりされるのは理由がある。現在は音楽科に所属しているものの、前歴として竜司もまた習志野で鍛錬や任務に従事した事がある身だ。直接の知り合いではなかったものの、竜司は『習志野の太田さん』と本人の知らないところで呼ばれていたらしく、それで祭亜は一方的に知っていたという。
…… しかし、太田さんって誰? 少なくとも『俺に銃を撃たせろ〜』が口癖な、90年代の警察ロボット作品のサブキャラクターではあるまいが。
さておき首を傾げる祭亜に代わって、茶化すように声が上がる。
「それは決まっているわよぉ。勿論、あなた達『 Great Old Ones 』が原因でしょぉ?」
暑苦しい …… もとい熱血風味の竜司とは別の意味で、好青年 ―― さわやかさを持った、角刈の髪に小麦色の引き締まった体付きの 山之内・アリカ(やまのうち・―)陸士長。だが(差別的表現である事を承知で言うが)男らしい外見に反して、その口から出たのは、女言葉だった。
「 ―― 黙れ、オカマ」
「 『 Great Old Ones 』より、あたしの方がマシだわぁ」
竜司が束ねる音楽隊第140組は、魔人のみで構成された精鋭部隊であるが、上層部 ―― というか第1混成団長、仲宗根・清美[なかそね・きよみ]陸将補の趣味で作られた「超神戦隊『 Great Old Ones 』 」だった。背景設定が“ 古い封印された存在達 ”が現代に蘇って内部抗争するという物語で、戦隊ヒーロー達が象徴存在の先兵という英雄とは思えない設定が売りである。…… 売りなのか?
音楽科所属として広報活動を担っていたはずだが、行先行先でトラブルに巻き込まれ、すっかり娯楽を提供する存在として定着していた。まぁ、戦時下であっても、いや戦時下だからこそ、笑いは必要だ。…… そういう事にしておいて。
「 ―― だが、しかし。番組のマンネリ化は防がねばならない。そこで、だ」
竜司は、その場で回転するように大仰に振り返ると、ポーズを決めて歯を光らせて笑う。
「おれ達は、八木原に、番組の出演を依頼しに来た訳だ。地域番組、各地の紹介。任務としての番組の製作。ヒーローによって紹介される名所巡りツアー」
「うわぁ。本気で言っているわよぉん、この男」
アリカが嘆息するが、竜司の目は本気と書いて『マジ』と読むものだった。
「 ―― 番組に出演してくれるなら、調査活動に協力するが? 自分の知識と、番組を通じてのファンからの情報提供、それに番組自体の蓄積情報を利用して調査活動を行える。どうだ?」
「そうねぇ …… その手の情報収集となると、あたしには今のところお手上げだわぁ。護衛に関しては、手は回せるんだけど」
アリカは待機している部下達を見遣る。第1混成団第1433班乙組。
「乙の『乙』は、乙女の『乙』よぉん」
「…………」
アリカの言葉に、乙組所属の 本田・勝正[ほんだ・かつまさ]一等陸士が眉間に皺を寄せた。僅かだが、凶悪そうな顔が益々酷い事になる。何か言い返したい事でもあるのだろうが、とりあえず沈黙を続ける。
見なかった振りをして、
「 ―― ははは、おれ達『 Great Old Ones 』も腕に覚えはあるしな」
祭亜が御嶽(ウタキ)や琉球神話を調査しに南西諸島に現われたというのは、公然では無いが周知の事実であった。だが超常体との戦いで語り継ぐ者もいなくなり、資料も散逸した今、現地調査(フィールド・ワーク)が主となる。当然、それは結界維持部隊や駐日米軍の治安領域外へと赴く事になるだろう。
独りでは容易では無い作業。調査や護衛に『 Great Old Ones 』や第1433組乙班が申し出たのは、そういう点もある。…… 多分。
現に、自ら申し出る者だけでなく、
「えぇと …… 陸士長らと比べて力足らずではありましょうが、小官も八木原二士の護衛を仰せつかっております!」
ポニーテールを揺らしながら、ボディアーマーを着込んだ少女が一同に敬礼して、自分をアピール。なおボディアーマーとは、防弾チョッキにセラミック性の防弾プレートを追加挿入するタイプで、抗弾力を高めている。
竜司とアリカだけでなく男達の多くがポニーテール少女を見詰める。
「な、何でありますか!?」
見詰められて、ポニーテール少女が赤面した。
「 ―― いや、『 鬼小島 』に比べられたら、非力なのはおれ達のような気が……」
「 …… そうねぇ。あたしんとこの勝っちゃんでも、真琴ちゃんには力負けしそうだもの」
小島・真琴(こじま・まこと)二等陸士。徒名は『 鬼小島 』―― 怪力少女。戦場において破砕鎚『鬼殺丸』を振り回す姿は、まさに鬼神のごとし。
「というか、おまえ、自分の所属班はどうした?」
「 …… いや、その。小官を残して、先日に……」
問われて顔をうつむかせる真琴。その肩を抱くようにして、
「馬鹿ねぇ、竜司ちゃん。それ以上は訊かないものよ。真琴ちゃんはデリケートなんですから」
「う……。それはすまなかった」
「と、とにかく、それで銘苅小隊長から、八木原さんのかん …… うぉっほん! そ、その、護衛を任されまして」
「今しれっと監視って言わんとしなかったか?」
「い、いえいえ。そ、そんな事はっ!!」
竜司の突っ込みに、慌てて首を横に振る真琴。その度にポニーテールが大きく揺れる。
「 …… 銘苅小隊長の言い出しそうな事だわぁ。まぁ同じオンナノコ同士だし。個人的な場面での護衛には向いているかもねぇ。その時は任せたわよぉん」
「はい、任せて下さい!」
改めて敬礼する真琴だったが、
「何か、ボクの事なのに、意見を聞かれていない気がしますね……」
祭亜が、遠くを見詰めながらすねていた。それでも真琴と向かい合って、気を取り直したのか、
「 …… えーと。真琴ちゃんでしたよね。これから宜しく! 特に入浴時とか、就寝時とか! 大丈夫、ボクはレズだけど、お姉ちゃんが一番ですから!」
「それは、もしかして二番とか、三番としては可能性があるという事なのでは……」
思わずたじろぐ、真琴。何故か、祭亜が真琴を見る目つきが怖いものに思えるのは気の所為か? ああ、口元に溢れる涎を拭いているし。
「あらぁん。何て堂々とした告白なのかしらねぇ。あたしってば、これに感服しちゃって『 祭亜ちゃんを手伝いたい 』って思ったものだからぁ」
「それ、色々間違っている気が……」
さて、自己紹介や顔合わせが、一先ず終わり。最初の調査点に向かおうとした一行だったが、
「 ―― Wait a minute! (ちょっと待ちなさいよっ!)」
駆け込みセーフで、小柄で華奢な体格の、金髪碧眼少女が怒鳴り込んできた。
全地球的に効果があるという新迷彩ATC(All Terrain Camouflage)―― これ1つで森林地帯でも、乾燥・砂漠地帯でも使用出来るとしている ―― が施されたACU(ARMY Combat Uniform)。肩に負っているのは、U.S.M16A2アサルトライフル。
「 …… The U.S. Army soldier is for what? (米陸軍兵士が何の用です?)」
一同、目を丸くしながらも、駐日米陸軍兵士に質問する。ちなみに英米語は必須であり、神州において会話・読解が出来ない者はいない、と言われている。
金髪碧眼少女は姿勢を正すと、
「Because Mi-Go was confirmed in Okinawa city, I was sent because of the peace maintenance. Probably, if examining, you are the letting-out to want to attend which is assigned the same time of Mi-Go's being confirmed. I think that it is unrelated but I think that it does an observation object tentatively. (沖縄市街地で超常体ミ=ゴが確認されたから、治安維持の為に派遣されたのよ。どうも調べたら、あんたは、ミ=ゴが確認されたのと同時期に赴任してきているみたいだしね。無関係だろーとは思うけど、一応観察対象ってことにしとこ、と思ってね)」
「And then specially? Am I being popular? (それで、わざわざ? ボクってモテモテ?)」
「 ―― 何で、そうなるんですか」
思わず日本語で突っ込む、真琴。だが祭亜は(真琴に見せたような“怖い”)笑顔を向けると、
「I am glad to get rough in what form and for the acquaintance to increase. Thank you. (でもどんな形であれ、知合いが増えるのは嬉しいです。宜しく)」
祭亜の笑顔に思わずたじろんでしまったが、
「Yes. ―― My name is May Masefield. (ええ、こちらこそ――あたしの名前は メイ・メイスフィールド(―・―)よ)」
メイ・メイスフィールド二等兵は腕を組んで自己紹介をするのだった。
…… なお以降、日本人混じりの英会話は、原則的に『 』で表現したいと思う。そのつもりで。
那覇駐屯地施設内。資料室へと続く廊下を、第1混成群・第1403中隊第1小隊長の 銘苅・昌喜[めかり・まさき]三等陸尉と、副官が歩いていた。2人の後ろを第1433班甲組長の 松永・一臣(まつなが・かずおみ)陸士長が続く。
「 ―― それで山之内は、あの二士の元に行っちまったのか」
溜め息を吐く銘苅に、松永は曖昧な表情を浮かべた。
「はぁ。…… 呼び戻しますか?」
暫くの沈黙。考えた末か、
「 …… いや。第1432班が先日に壊滅して、再編制中だ。―― 御蔭で小島を押し付ける事が出来たが」
「それ、小島が聞いたら泣きますよ」
「薄々感づいてはいるだろうさ。とにかく …… 第1403中隊第1小隊は開店休業にした方が良いな。勿論、第1431班を遊ばせておく気はないから、近郊の警戒任務を与えたが。―― そういや、お前んところの班長は何と?」
「 …… あの人は、元々後方支援向きですから ―― 憑魔核に寄生されなければ、一生前線に出てこなくても良かった人でしたからね」
「そういや、そうだったな」
「御蔭で現場に関しては、俺や、山之内で好き勝手させてもらっています」
松永の言葉に、銘苅は苦笑したようだった。そのまま会話も無く資料室に向かっていたが、
「 ―― よう」
資料室扉の横、壁に背を預けていた男が銘苅達に軽く手を挙げて挨拶する。何故か、松永の憑魔核が活性化を覚えた。
活性化は、憑魔が別の超常体の存在を感知した時に示す様々な反応の総称。
この状態になると、小型の超常体と化してしまい、身体能力が激しく強化される。ただし相手が小型の超常体の場合は、活性化が起きない場合の方が多い。同様に、戦友の憑魔に反応して活性化するような事はなく、ある程度の大きさがある相手でないと近くに潜んでいても判らない。…… はずだ。
だが不思議な事に、この男の姿を見掛けると、憑魔核が疼く。―― 殻島・暁(からしま・あかつき)准陸尉。第1混成団の第壱肆特務小隊長。
第1混成団長直属の懲罰小隊。命令無視や暴走、引き金の軽い問題児はどこの集団にもいるが、彼等とも一線を画す重犯罪者 …… 上官や同僚の傷害、殺しの咎人達。
だが銘苅は意に介した風でも無く、
「 …… 暇そうだな、殻島」
「おおっ、暇だ、暇。“ 怠惰 ”な俺としては現状に満足すべきかも知れんが …… 流石になぁ」
肩を回して、気疲れのアピール。
「 …… 俺自身、何でこんな呑気な島に居るのか、懲罰なのか何かしらの意図があるのか判っていないんだが。与那国島に特攻命令が出ずに飼い殺しの状態なのは、それ自体意味があるのかね、と自問自答する始末 …… 俺って哲学者?」
殻島は犬歯を剥き出しにして口元に歪んだ笑みを浮かべていたが、
「 …… そう言えば戦隊ヒーローの撮影手伝いは?」
松永の一言を受けて、殻島はウンザリした顔で天井を見上げる。ちなみに階級は上だが、松永は殻島に敬語を使う気にはなれなかった。殻島も気にせず、
「ああ、アレか。幾ら暇だったとはいえ、アレは別の意味で苦痛だった。直属とはいえ、戦隊ヒーローの撮影に懲罰小隊を駆り出すなんて、仲宗根のオバアは何考えてんだ?」
「アレは …… うん、災難だったな」
松永が気の無い同情をすると、殻島も仕方なく苦笑した。背筋を伸ばすと、
「 ―― 資料室に、お前等も用事か?」
「俺は再編制の為の資料集めだが……」
銘苅の視線に、松永は頷くと、
「超常体の動きについて、少し。―― 殻島は?」
「 …… 同じようなものさ」
肩をすくめる。そして、またもや犬歯を剥き出して笑うと、
「どうやら、お前さんもあの嬢ちゃんの登場に警戒している口だな …… この呑気だった島々が、荒れるぜ」
「 ―― 台風の通り道だからな、沖縄は。なにぶん、台風のする事だから諦めるしかない」
殻島の含みのある視線に、諦観を込めて松永は返した。殻島は笑いながら、背を向けると、
「俺はこのまま少々荒っぽい方法で情報収集するが …… お前はどうする? 一口乗るか?」
「遠慮しておく。俺は別のアプローチで探らせてもらうよ。…… そうそう。見間違えて撃たないように気を付けるが、それでも運が悪かった時は諦めてくれ」
りょーかい、と後ろ手に振ると、口ずさみながら殻島は立ち去る。松永は溜め息を吐くと、部下に命じていた統計的資料の閲覧に入るのだった。
米海兵遠征軍(MEF:U.S. Marine Expeditionary Force)は、海兵空・陸戦機動部隊で、最大規模の戦闘部隊である。広範囲の水陸両用作戦とそれに引き続く、陸上作戦遂行能力を保有しているとされる。
しかし沖縄・具志川市近郊にあるキャンプ・コートニーに司令部を有する第3海兵遠征軍は、司令部だけで師団長や参謀等のポスト維持の為だけの幽霊師団であった。…… 超常体の出現までは。
超常体の出現と、神州の隔離により事態は激変。第3海兵遠征軍は実質的な力を有し、金武町近郊にあるキャンプ・ハンセンに駐在する第31海兵遠征隊(31MEU:31st Marine Expeditionary Unit)と共に超常体との戦いに追われていた。
コートニー施設内にある電算資料室を出た、ナンシー・ワイアット(―・―)一等兵は携帯情報端末に落とし込んでいるデータを思い出して困惑に陥っていた。淡い蒼色の髪は短く切りそろえられているが、一部は顔の前左側に編み込んで垂らしている。
現状、駐沖縄米海兵隊は、超常体との戦いにおいて積極派と消極派とで二分されている。
積極派代表は ジョージ・ルグラース[―・―]大尉。今や完全に支配された与那国島への着上陸を強行し、超常体の“ 親玉 ”と目される存在の撃破を主張。
もっとも米海兵隊の上層部は、沖縄本島及び米軍基地の護りを固め、超常体からの襲撃のみに応対すれば良いという消極姿勢を取っている。
ナンシーは消極的作戦姿勢に不満を抱いていた。消極姿勢は現状維持に過ぎず、超常体の根絶に繋がらない為だ。心情的にはルグラースに寄っていた。が、
「 …… ただ、キャプテン(※米海兵隊大尉)の積極姿勢も現状は具体的なビジョンが不明である為、詳細を訊ねる必要があるのよね……」
そもそもルグラースが与那国島に固執する理由が判らない。超常体の“ 親玉 ”と目される存在を撃破すれば、超常体は姿を消す ―― それは終わりなき戦いに明け暮れている日本人に流れた、夢物語ではなかったのか。
( …… いや、日本人だけではないわ。わたしも…… )
故郷への慕情。平穏を、家族を奪った超常体と、己の身に寄生する憑魔核への憎悪。ナンシーは我知らずに唇を噛んだ。―― その時、何故か憑魔核が疼き始めた。活性化に似た痛みに、顔をしかめていると、
「ワイアット一等兵、調べものかね?」
憑魔核の疼きに対するのとは、違う意味でナンシーは顔をしかめる。声を掛けて来たのは ジョセフ・ウィリアムス[―・―]大尉。消極派の代表。
だが、ナンシーが嫌うのはそれだけではない。ウィリアムスの醜悪さだ。生理的嫌悪感を醸し出す。
脹れぼったい眼は、ナンシーの肢体を好色そうな視線で舐め回す。其処彼処にかさぶたが出来ているような皮膚。首の両側はしなびており、皺が寄っていた。また薄い頭髪は、年齢の割に大きく後退している。
上官 ―― 将校でなければ、追い払うか、それとも足早に去っていただろう。ナンシーは拳を握り締め、落ち着けと内心で繰り返し呟いた。
それに、ルグラースについてウィリアムスが知っている事を聞き出す最大にして最後の機会かも知れ無い。少なくとも自分からこの男に尋ねに行く気は起こらないだろうから。
「ルグラース大尉の戦歴について少々……」
努めて冷静さを保ちながら、応答した。
「ジョージについてか。君のような若い女性に見詰められて、彼が羨ましいな。それで何か判ったかね?」
セクハラめいた事を口にしながら、ウィリアムスはしわがれたような声で笑う。
「 …… いいえ、特には。ルグラース大尉が南極に出向いていた経験でもあるのかと思っていたのですが」
残念ながら見当たらなかった。そもそも、米海兵隊員が南極に出向く理由を考えるのが難しい。
ウィリアムスは口元を歪めると、
「 ―― 与那国島が超常体に完全占拠されたのは、今世紀に入ってすぐだ。だが当時、ジョージも私も未だ女も知らなかった童貞小僧だよ。…… いや、ジョージはチェリー健在中だったかな。ワイアット一等兵、ジョージを一人前の男にしてあげたらどうだ? 上官思いの良い部下だと可愛がられるだろう。出世間違いなしだ。…… 彼が嫌なら私でも良いがな」
明らかなセクハラだ。それなりの部署に訴えたら間違い無く勝てる。そんなナンシーの憤りを知らずか、もしくは知っていてわざとなのか、ウィリアムスは嫌な笑いを続ける。
「 ―― 少なくとも彼と私が与那国に関わり合いになれるはずがない。燻っているだけだ。表向きはな。…… ただ、ジョージはリーコンに所属していた事がある。可能性があるのなら、そこかも知れんぞ」
ナンシーは片眉を微かに動かした。
フォース・リーコン ―― 米海兵隊武装偵察部隊(U.S. Marine Corps Force Reconnaissance)は、MEUの着上陸時における支援及び援護を主任務とする、情報収集の特殊部隊である。
確かにルグラースの経歴に、フォース・リーコンに志願していた期間があった。第3偵察大隊(3rd RECON Btn.)は沖縄に駐留している。具体的な作戦内容は、データベースからも抹消されていたが、その時、与那国島に関与していた可能性が高い。
ちなみに、
「 …… そう言えばルグラース大尉の姿をコートニーでお見受けしませんが ―― 今どちらへ?」
「ジョージなら、ハンセンだろう。リーコンでのコネを当たっているかも知れん。諦めの悪い奴だ」
聞くが早いか、ナンシーは敬礼もそこそこに立ち去る事にした。背中を …… いや下半身を、ねめ付けて来るウィリアムスの視線が不愉快だった。
「 …… そうそう、ジョージは熱心なプロテスタントだ。求愛するならば、宗派に気を付けたまえ」
しわがれた嫌な笑いが、背中に届けられる。ナンシーは握り拳を固め、奥歯を噛み締めて、一刻も早くコートニーを出ていこうと足を早くする。が、
「 ―― la mayyitan ma yatabaqa sarmadi fa itha yaji ash-shuthath al-mautu qad yantahi. …… せいぜい足掻くが良い。我が神の目覚めはもうすぐだがな」
ウィリアムスの祈りにも似た呟きに、思わず振り返ってしまった。既にウィリアムスの姿はない。
そう言えば、と思い出した。
「 …… ウィリアムス大尉は、わたしと会話中に一度でもまばたきをしていたかしら?」
ブーツ・キャンプ(※ 註2)並みの訓練が行なわれている、キャンプ・ハンセン。
アンクルサムが大好きな
俺が誰だか教えてよ
ワン・ツー・スリー・フォー
ユナイテッド・マリンコー
ワン・ツー・スリー・フォー
アイラブ・マリンコー
アイ・コー ヨア・コー
ワラ・コー マリンコー!
「 ―― 糞蟲どもめ! 大声出せ、タマ落したか!」
マラソンする海兵隊員に対して、叱咤怒声が響いて来る。臨時の執務室としてあてがわれたオフィスで、ルグラースは苦笑して見せた。
「懐かしいやら、悔しさを思い出すやら複雑な気分だな。…… なぁ、ジョン?」
「 ―― Sir, yes sir!」
直立不動の状態で、ジョン・スミス(―・―)伍長が同意する。ひょろっとした体格からは想像がつかないが、筋金入りのU.S.マリーンだ。
「 …… 正直、君の申し出はありがたかった。志願者が一人も居なければ、やはり流れてしまったところだからね」
「軍隊とは、身も蓋もなく非常時に備えるもの。そう習いましたから……」
スミスは、ルグラースの命令より一早く、海兵隊の、空挺並びに島への着上陸訓練を提案していた。
「ジョン、君の提案はおおむね了解だ。これならば、中佐にも納得してもらえるだろう。私の説得は何とも感性だけで、理性が伴わないところがあるからね」
「そう言って頂けると嬉しく思います、キャプテン」
そう言うスミスだが表情の変化は乏しく、機械のごとく。スミスの様子に、ルグラースが肩をすくめてみせるが、顔は安心しきったものだった。そして、
「 …… リーコンには、私も志願しようと思っている」
「 ―― キャプテン自らが?」
スミスの眉間に僅かに皺が寄った。ルグラースは言いよどみながら、
「 …… とにかく残る時間はそれほど無いんだ。ウィリアムスも明らかに何かを企んでいるし …… それに日本の特殊部隊“ 落日 ”も動き始めている」
ルグラースの眼差しに、必死の色が見え隠れしていた。スミスは考えながらも、とにかくルグラースの言を記憶にとどめようとする。
「 ……“ 這い寄る混沌 ”に、真っ先にドナンを押さえ込まれてしまったのは痛かった。あの当時は“ 兄弟姉妹 ”も未だ充分に動けなかったとはいえ ……」
苦悩するルグラースの手が、救いを求めるように机上の聖書に伸ばされる。アーメンと呟いていた。
「 ―― 解かりました。キャプテンには部隊の指揮をお願い致します」
「すまない。…… とにかく時間が残り少ない。与那国島を超常体から解放した上で、“ 落日 ”よりも先に確保しなければならないのだ。志願者を募ってくれ。そこからの人選や訓練は任せる」
ルグラースの期待に応えるべく、スミスは声を張り上げて敬礼した。
「 ―― Sir, yes sir!」
最近、頓に第1混成群隷下の小隊や班の出動、そして超常体との交戦が相次いでいる。それらは1人のWACが着任してきたのと時期を同じくするが、
( …… しかし別に彼女が活動している場所だけに限られた話では無いようだが )
ビルの一室。対人狙撃銃レミントンM24の照準眼鏡から、伏射体勢で松永は目標を覗いていた。
那覇市街地。晴れ間が続いた一週間も昨日で終わりを告げ、今朝から曇天、時々雨が降っている。
目標 ―― 祭亜は、ここ一週間で親交を深めていっている友人達とともに、米軍人向けのファースト・フード店で、遅めの夕食を取っているようだった。卵で綴じたニガウリをハンズに挟んだゴーヤーバーガーを頬張っている。
( 二士が上から特殊な任務を受けている事はほぼ確実。だが、それが当結界に悪影響を与えないかとも憂慮したが …… 考え過ぎか )
確かに祭亜が着任したと時期を同じくして、沖縄本島だけでなく、超常体が巣食っている与那国島方面からも不穏当な動きが見られる。中共の潜水艦が撃沈まで到ったのも関係が無い訳ではあるまい。だが、沖縄だけに限らず本州列島各地においてもまた大規模且つ組織的な超常体の襲撃が報告されているそうだ。南九州では、熊本の人吉が陥落。北九州では、福岡の飯塚が壊滅し、おまけに砂漠化現象が突如として生じた。瀬戸内海では巨龍が猛威を振るい、山陰では巨人族が暴虐を尽くしていると言う。近畿、中部、東北、関東、北海道 …… みな、同様だ。超常体では無いが、天草において1個中隊が叛乱決起している。
これら全てを祭亜に関連付けるのには無理があった。監視警戒を続けながら苦笑する。が、ここで松永は考え方を逆転させてみた。
( …… 彼女が動いたから超常体が活発化したというのは確かに無理がある。だが、超常体が活発化するのを予め知っていたからこそ ―― 超常体が活発化する時期に合わせて、沖縄に派遣されてきたと、考えたらどうだろう? )
とすれば、ますます祭亜が受けているという特殊任務に注意を払う必要があるのではないだろうか?
知らず唇を噛んでいた松永は、覗いていた照準眼鏡からの光景に、驚愕の余り目を見開いた。
( …… まさか、こちらの居場所を感知出来るはずが無い! 何しろ俺は偽装して隠れているし、距離もある! 見つけられるはずが無い! )
だが食事を終えて移動する一行の中、確かに照準眼鏡の先の祭亜が、松永に向けてビクトリー・サインを送ってきていたのだ。
突然、彼方の方向にビクトリー・サインを送った祭亜に、一同は呆然とした。真琴が代表して口を開く。
「 …… 八木原さん。やっぱり何か……」
思わず可哀想な人を見る目。奇妙な声を上げると、祭亜は口元をひくつかせて、
「 …… 真琴ちゃんが、ボクをどういう目で見ているのか、今夜こそ、じっくり聞きたいところですね ―― 風呂とか、布団の中とかで」
いやいやいや。顔を真っ赤にして、首を横に激しく振りながら、真琴は遠慮のポーズ。咳払いをして、竜司が場を引き締めた。
『 あー。ところで調べ物の方だが、御嶽を案内するにしても、ある程度の予備知識が必要だと思うんだが 』
「あらぁ。あなたにしてはマトモな意見よねぇ」
茶化すようなアリカの微笑みを軽く流して、
『 御嶽だけでなく琉球の神話、そして『 キンマモン 』を調べていると聞いているが…… 』
祭亜はストローを口に咥えつつ、器用に
『 今月下旬迄には、知念半島へ行ってみたいなぁと思っているんですけど 』
『 知念半島? …… 斎場御嶽ですか?』
『 そうそう。…… 浜比嘉島にも行くかは悩んでいます。時間が残っているか判りませんからね 』
真琴の言葉に頷く、祭亜。
斎場御嶽(せーふぁうたき)は、琉球開闢の祖アマミチューが造ったとされる国始め七御嶽の1つに数えられる、沖縄最大の聖地である。沖縄最上位の神女(ノロ)、聞得大君(きこえのおおきみ)の即位式もこの地で行なわれたという。
解説する竜司に、メイが不思議そうな顔をする。
『 ―― 聞得大君? キンマモンとは違うの? キンマモンは、海の彼方から来るマレビトとも、神女とも言われているらしいけど…… 』
メイの言葉に、一同が意外な顔をする。その顔に、メイが眉間に皺を寄せた。
『 何だよ、その不思議そうな顔は。あたしが口を開いたら、そんなに変? 』
『 いや、ちゃんと調べてきてくれたんだ……。そこまで熱心に調査に協力してくれるとは思っていなかったもので。…… ボクの知合いは米国人嫌いですから。ある事無い事言い含められてきたんですけど、考えを改めないと。…… 御免、そして、改めて宜しく』
手を差し伸ばしてきた祭亜に、思わずメイは握り返そうとした。だが、それでも躊躇ってしまう。鼻息を鳴らして腕を組むと、顔を背けた。
『 …… べ、別にあんたの為じゃない。あたしの目的の為に協力しているんだから、勘違いしないでよね。仲良くする気は全く無いから。あたしは、あたしをこんな体にした奴らを許さないだけ。絶対にね…… 』
祭亜は差し伸ばした手の行き場に暫く困っていたようだが、気を取り直して話を続けてきた。
『 メイちゃんが調べてきた事は正しいです。キンマモンは、漢字で、君真物と書き…… 』
ストローから垂らしたジュースで、テーブルに字を書く。それを受けて、竜司が続ける。
『 袋中上人の『 琉球神道記 』によれば ―― 琉球神道における最高神であり、「最高の精霊」の意味を持つ。そして、うちなー口(※琉球弁)では「君」の字には「神女」や「巫女」の意味があるんだ 』
『 更には海底の宮に棲むとされていまして。…… 柳田國男が書いた『 海神宮考 』には ―― 君真物の語義は「正なる巫女」であり、それが転じて神そのものを指すようになったのではないか ―― と記されていたとか。現物を読んだ事無いから判りませんけど』
『 じゃあ、とにかく琉球神話とやらを調べてみたら万事解決じゃなくて? 聞得大君や、アマミチューとの関係も解かるかも知れないわぁ 』
アリカの何気ない言葉だが、竜司とメイ、そして祭亜は首を横に振る。
1609年、島津に征服されて以来、琉球神道は徹底的に弾圧されてしまい、君真物に関する詳細は不明になってしまった。1973年に沖縄の神道系教団・龍泉(いじゅん)の出現で、主奉神として復活したとされるが……。
『 超常体との戦いに巻き込まれて、その資料も散逸したと聞いているわ。何処かから見つけてくれば良かったんだけど…… 』
髪の毛を弄りながらメイが呟く。腕を組んだ竜司は締め括ると、
『 とりあえず! 資料はまた各自で探してくるしかないだろう。―― だが現状と重ねてみるならば『 君真物 』は女性限定の憑魔とも言える。郷土史を基点に見るならば、主要行動地点の御嶽もしくは、宮たる海底神殿に、封印されて居るとも解釈出来る。さて、該当する施設は…… 』
祭亜にしか聞こえぬように呟いた。
「 ―― おれ達に割り振られた役割からすれば、ルルイェに奉られる“ 水 ”か?」
「 …… というか、先輩。今の言い様だと、ボクが沖縄に着た目的と理由を、薄々解かっているんじゃないですか?」
さてどうだろう? 竜司が笑って返そうとした時、
「 …… その目的と理由とやらを、俺にも教えて貰えるかな?」
疾駆してくるバイク。髪を斑に染めた男が、犬歯を剥き出しにして笑う。そして、片手にした9mm機関拳銃エムナインが連続する銃声を上げた。
同時刻。西表島上空を厚く覆う雲。その雲の上、満月の明かりを受け、大きな機影が落ちていた。
E-767早期警戒管制機 ―― 旅客機ボーイング767型の機体をベースに開発され、地上レーダーやE-2早期警戒機ホークアイの能力が及ばない“ 遠方の洋上空域 ”まで進出し、警戒監視・要撃管制を行なう為の機体である。
「 ―― H.Q., this, Pinocchio. Over 」
『 ―― This is H.Q.. Over 』
「 Iriomote-jima sky at present I keep a guard watch of Yonaguni-jima area from this. Over 」
『 Roger. Be careful sufficiently. ―― Out 』
「 Roger. ―― Out」
通信士が交信を終えたのを確認すると、機長たる戦術調整士官 ―― ピノキオ・リーダー は緊張の面持ちで、E-767の滞空、周回飛行を命じた。
「航空状況をデータで流すだけの仕事ですよ。ああ、“ 処理 ”をするのは忘れずにね?」
航法士が現在位置・距離・方位を測り、センサー操作士官が電波探知識別装置を睨む。
「 …… いやな、月夜ですね」
ピノキオ・リーダーは独り呟く。副機長が黙って頷いてくれた。
中共潜水艦が撃沈されてから、南西諸島に極秘に配置されている特殊部隊SBU(※ 註3)は、与那国島方面の警戒を更に強化していた。ピノキオ達は厳密にはSBU所属では無い。だが、その能力故に支援要請を受けたり、或いは買って出ていたりしていた。
眼下の雲が風に流されてしまい、E-767は洋上に影を落とす。その時、E-767胴体上部の円形ドームに搭載された捜索用レーダー ―― 目標の方位・距離・高度が測定出来る三次元レーダーが異常を探知した。収集した情報が、機内スペースの大部分を占有しているコンピュータとコンソールにより処理される。だが表示されたデータは、
「 …… な、なんだ、これは……?!」
奇怪な数値が表れては目まぐるしく、変わっていく。時には数値として出るはずの無い記号も画面に表示されていた。
ふんぐるい むぐるなふ くとぅるふ
るるいぇ うがぁなぐる ふたぐん
通信士が悲鳴を上げた。そして電波探知装置が海面の異常を探知。
「海が、煮立っている……?!」
煮沸しているように泡が海底より沸き上がってきている。魚群が跳ねている。白き浪に踊り狂う超常体の姿が混じっていた。ディープワン。そして ――
「海中より、6m超の高位上級超常体ダゴンが浮上! …… い、いや、それどころじゃない! なっなな、何々だ、アレはッ!?」
本来、E-767が捉えるのは航空状況であるが、狂ったように空間の異常を醸し出す。何か巨大な物が、海底より隆起してくる。ポイントは、与那国島新川鼻沖約100mを中心としている ―― 1986年に海底遺跡があると認知された場所だ。
嘲笑うかのように、月に咆声を上げる奇妙にして巨大な影。
見渡す限りの海面を埋め尽す、ディープワンの合唱。
ふんぐるい むぐるなふ くとぅるふ
るるいぇ うがぁなぐる ふたぐん
「 ――ッ!」
ピノキオ・リーダーは声にならぬ叫びを上げて、席から崩れ落ちた。突然身体を蝕む激痛に堪えかねて、転げ回る。泡立つように無数の肉腫が膨れ上がり、内側から肉を引き裂いていく。引き裂かれた肉から血が吹き出し ―― 裂けた肉の間を異常な速度で根を張り出した神経組織のようなものが埋め尽くしていく。
―― 憑魔異常進行。強制侵蝕現象。
狂気に犯されているのは、ピノキオ・リーダーだけではない。E-767を運用している部下達は憑魔核に寄生されていないはずだ。しかし、耳やコメカミを押さえ、眼から涙を溢れさせ、鼻血を垂らし、口から泡を吹く。痙攣を起こし、人事不省に陥る者まで居た。
ふんぐるい むぐるなふ くとぅるふ
るるいぇ うがぁなぐる ふたぐん
「 ―― 伊良部島に帰投します! それまで正気を保ち続けるのです!」
完全に気が狂うか、意識を失うかする前に、ピノキオ・リーダーは泣き叫ぶように命じた。機首が巡る。
台地が海底から急速に浮上した事により、巨大な水柱 ―― 否、水壁が生じる。それは大津波となって周辺へと襲い掛かっていた……。
時は少し遡り、那覇市。
エムナインの銃口から放たれた十数発の9mmパラベラムが、祭亜に降り注がれると判断する前に、真琴は咄嗟に突き飛ばした。そして立ち塞がる。
突き飛ばした先で、派手な破砕音が聞こえた気はするが、それよりも弾雨に身を固くする。
最初から威嚇射撃のつもりで放った弾丸は周辺に撒かれただけで、数発が真琴にかすったものの、身を包むボディアーマーで無傷。
「 ―― What's happened!? 」
驚くメイの横を通り過ぎた殻島は、ホンダXLR250R偵察用オートバイを急ターン、急ブレーキ。オートから降りつつ、口元を歪ませて笑った。
第1433班乙組が89式5.56mm小銃BUDDYを構えて、殻島を取り囲む。アリカの号令一下で斉射されるところを、竜司が押し止めた。
「 ―― 殻島准尉、何をする!?」
「おや。『 Great Old Ones 』も居やがったか」
殻島は口笛を吹く。主に力仕事やエキストラ撮影スタッフとして、竜司は殻島と顔見知りだった。殻島の悪役らしい登場の仕方だが、撮影は兎も角として、今のは正直洒落になっていない。勿論、殻島にとって洒落ではなかった。
「 …… 殻島さんですって? 何処の殻島さん?」
突き飛ばされて色んな物に激突。最後にはアスファルトを転げ回り、擦り剥いた鼻の頭を押さえながら、祭亜が立ち上がって来た。
「 ―― 八木原さん、大丈夫?」
心配する真琴だが、
「 …… 正直に言うと、真琴ちゃんに突き飛ばされた方がダメージ大きかったような」
それはさておき。
「何処のって …… 俺は、壱肆特務の殻島だが」
「 ―― 懲罰小隊、札付きの悪よねぇ」
アリカから銃口を突き付けられながらも、殻島は意に介さずにエムナインを片付ける。代わって取り出すのはナイフ。そんな殻島に、祭亜が再び尋ねてきた。
「質問を言い改めますね。……“ 七つのうち、どちらの ”殻島さん?」
祭亜の言葉に含められた意味に気付き、殻島は口元を更に歪めた。
「 …… 成る程、俺の、真の正体を知っていやがる。すると、お前は“ 落日 ”か。―― どおりで仲宗根のオバアが自由にさせるはずだぜ」
「 …… 回答プリーズ」
「教えてやる ―― 俺は“ 怠惰 ”の殻島だ」
そう告げると、祭亜は満面の笑みを浮かべた。
「良かった良かった。となれば“ 銀の鍵 ”を持ってきてくれていますね。それ、ボクにください。そして“ 怠惰 ”ですか。“ 力 ”を解放してくれれば、アイツの影響を抑え込められるかも知れません」
「 …… 馬鹿言え。心まで異生(ばけもの)になってたまるか」
殻島と祭亜の間に繰り広げられる会話。だが他の者にはチンプンカンプンである。特に、
『 ―― ちょっと! 何が起きたの、この男は誰? 敵!? 憑魔核が反応したから、もしかして超常体!? 誰か説明してよ! あたしにも解かる言葉で喋ってってばーッ! 』
メイが怒鳴っていた。一同、思わず頬を掻く。
アリカがメイに今までの遣り取りを説明。そして英米語で仕切り直し。
『 …… とにかく殻島准尉。こんな暴挙に出た理由を教えて欲しいところだが 』
『 何、とても簡単な話だ。与那国島で何が起こったのか、何が起こりつつあるのか調べていてな ―― 部隊上層部か判っているだけの情報を引き出しておこうかと思っている。何よりも、派遣されてきたWACが気になってな。…… お前らもそうだろ? どんな目的で派遣され、何を調べているかが判れば、真相に近付けそうな気がしてな 』
竜司の質問に、殻島は正直に答えた。続けてアリカが問い質す。
『 なら、何で攻撃を仕掛けるのよぉん? 』
『 決まっているだろ。こいつ自身が情報収集をしているという事は …… こいつが持つ情報を当てにされているのでは無さそうだ 』
指差されて、祭亜は乾いた笑みを浮かべる。
『 ならば、何らかの特殊な能力を持っているのでは …… と考えた。そして、身元を調べるより、直接やりあった方が手っ取り早い 』
『 何というか …… 単純と言うか、暴論と言うか 』
聞いていた、メイが頭を抱える。
『 ただ、俺が何者かをこいつは知っていたし、維持部隊の“ 上 ”では無く“ 裏 ”から派遣されてきた事が解かった。おまけに“ 銀の鍵 ”を狙っていやがる。―― 目的と理由は何だ!? 』
殻島が睨む。一同が息を飲む。すると祭亜は、
『 目的? 沖縄に封じられているはずの、日本神の解放ですけど。そして、この神州結界を破壊する事 』
あっさり答えた。これにはいささか拍子抜け。愕然とする一同を見渡しながら祭亜は続ける。
『 この沖縄の何処か …… 恐らくは与那国島に、日本の神 ―― 言うなれば日本土着の高位超常体が封じられているはずって、ボクんところの中隊長が。ただ問題が沢山あって …… どんな神が封じられているか、どのようにすれば封印を解けるのか …… そもそも与那国島だとしても“ 這い寄る混沌 ”に支配されている挙句、傍で眠っている“ 大いなる海神龍 ”がいつ目覚めるか判りません。…… ちなみに“ 銀の鍵 ”があれば、封印解除手段を探すという手間が1つ減るだけでしかないんだけど、それでも便利ですし 』
「ちょっちょっと待って下さい ―― 今、日本の神を封印から解放して、神州結界を破壊するのが目的と聞こえましたけど……」
思わず日本語で真琴が問い質す。冷汗がにじんでいるのが、真琴には解かった。
「神州結界が破壊されれば、それは……」
『 ―― 勝ち過ぎず、負け過ぎない戦いを強させられ、隔離戦区とされた日本が解放されます。すなわち 』
『 …… あたしの故郷 ―― ステイツにおける超常体の出現率が再び上昇するという事よね 』
メイは手にしていたM16A2を祭亜に突き付けていた。殻島に突き付けていた第1433班乙組のBUDDYもいつの間にか下がっており、迷いや悩みが伺えられる。
『 …… しかし、あっさりと白状したな。協力者が離れるとは思わなかったのか? 場合によっては警務科に引っ張られるぞ 』
殻島が空いた手で耳穴をほじくりながら、問い質した。祭亜は微笑み返し、
『 目的を隠しておいて最後で裏切るような形になるよりは、最初から明かしておいた方が余程良いと思いますけど? それでも味方になってくれるのか、それとも敵に回るのか ―― 判断材料は早めに渡しておいた方が良い。…… 目的や理由をウヤムヤにして、利用するだけ利用したというのは嫌いなんです、ボクが 』
『 ―― それが本音だな 』
殻島は思わず苦笑する。
『 警務科についても問題ありません。―― 何故なら、日本政府も、国連や亜米利加合衆国をはじめとする他の国も、“ 日本の神霊が封印されている ”という事は公には認めていないんですから! 無い事を理由に、権力でボクを拘束しようとする事は出来ません 』
意地悪く笑った。そして視線を遠くに向ける。
『 だからボクを止めようとする時は、こういう風に ―― 直接的に暴力に訴えかける事です! 』
祭亜の言葉に反応して、小銃を構えたU.S.マリーン達や、BUDDYを手にした維持部隊員達が物蔭から姿を現わした。憑魔が活性化している。マリーンや維持部隊員の身体が縦に、内側から裂け、
「 ―― Mi-Go!」
メイの叫びが戦闘の合図となった。
物蔭に飛び込んで遮蔽とする。第1433班乙組はアリカの指揮の下で円陣を組むと、全方位と相対した。5.56mmNATO弾が飛び交う。
「あらぁ厄介な事になったわねぇ。―― 勝っちゃん、気合いを入れていくわよぉん」
「勿論ですよ、武」
頷く本田。アリカは笑いながら、背を叩いた。
「嫌だわ。アリカって呼んでよねぇ」
その隣では、メイがM16A2でミ=ゴの1体に3点射を浴びせていた。横目で祭亜を睨むと、
『 ―― 勘違いしないでよ! ステイツに再び悪夢を招こうとする、あんたを助ける為じゃない。ただ、あたしは、奴ら ―― 超常体を許せないだけ! それに神州結界破壊について、もっと詳しい事を追求したいから、あんたに死なれたら困るのよ! 』
叫びながらメイは鞘に収められているM9MPBSを意識した。全長30.85cm、刃渡り17.9cm、重量397gの多用途銃剣だ。小銃に着剣するだけで無く、サバイバル・ツールとしても使える。勿論、コンバットナイフとしても……。弾薬が尽きた場合は、これを抜いて接近戦闘を強いられる。
自信はあるが、低位上級超常体ミ=ゴだ。相手は甲殻類に似た身体に、茸のような頭部を有する。そして超常体でありながら、人間の武器を鋏状の触手で器用にも使いこなす存在だ。少なくとも敵が張った弾幕を縫って、肉薄するのはちょっと無謀。
敵数はそう多く無いが、位置取りが厄介だった。四方八方を囲まれており、身動きがままならない。何か、攻勢の転機が……。
『 …… って、あんたもちょっとは戦いなさいよ! 』
見れば、他人事のような態度で祭亜は構えている。
『 …… いや、ボクが動いたら一部から文句が言われそうなんで。第一、皆だけで何とか出来そうですし 』
聞き捨てなら無いのは、アリカだ。微笑むと、
「あらぁん。祭亜ちゃんってば自信があるのねぇ。そうねぇ、戦闘シーンで大活躍して、皆の美味しい所を掠めていくのは許されないわねぇ」
が、すぐに祭亜の胸座を掴むと、
「 ―― が、人が働いているのに、高みの見物されるのもむかつくんだよ! いいから、てめぇも戦闘しろ」
「サー、イエスサー、サッサッサー!!」
アリカが凄むと、祭亜は壊れたラジオのように怯えて繰り返す。アリカの豹変に、メイも血の気が引いた。
『 あらぁ、祭亜ちゃんが素直でいてくれて、あたし、嬉しいわぁ。―― どうしたの、メイちゃん? 』
『 いえ、別に何でもありません…… 』
日本のオカマ侮り難し!
さておき、祭亜は9mm拳銃SIG SAUER P220を抜く。そしてメイに、
『 …… ベレッタ貸してください 』
『 ベレッタ? ああ、M9ね 』
ベレッタM92F ―― 米軍制式名M9拳銃を借り受けると、さらに真琴のP220をも祭亜はお願いしてきた。そして携帯情報端末から伸ばすイヤホンを耳にはめると、
「 ―― 選曲、林原めぐみ『 Give a reason 』 」
歌を口ずさみながら祭亜は円陣から踊り出た。驚く皆を尻目に、曲のリズムに合わせてか、激しく踊る。両手にした銃を横に寝かしたタランティーノ撃ち。火線が祭亜に集中するが、
『 ―― 銃弾が停まった? 俺の空間湾曲とは違うようだが…… 』
殻島が目を細めて唸る。祭亜を中心にして、半径1mの空間に停止させられた銃弾が固定されていた。
さらに銃弾が作る踊り場の中で、祭亜はもう1つ銃を取り出すとジャグリングしながら、全方位に曲芸射撃。まるで死角が無いように正確に撃ち抜いていく。
「 ―― 落日中隊所属、八木原祭亜二等陸士。コールサインは『 ガンドレス・ガール 』!」
「 …… ネタが色々混ざっている。ていうか、自分でコールサインをバラすか、フツー!?」
呆れた殻島だったが、祭亜に火線が集中した隙に踊り出た5人の戦士達を見て、
「 …… そう言えば、お前らも居たんだったよな」
視線の先、ミ=ゴを殴り倒す、赤き士長。
「真紅の炎 ―― オールド・フレイム!」
蹴りで薙ぎ払うは、黒き陸士。
「漆黒の雷 ―― オールド・サンダー!」
掌拳で投げ飛ばす、黄の陸士。
「昏黄の地 ―― オールド・アース!」
手刀で切り裂くは、白き陸士。
「純白の風 ―― オールド・ウィンド!」
体捌きで受け流す、青き陸士。
「碧青の水 ―― オールド・アクア!」
5人の陸士は、タイミングを測ったように集結すると、ポーズを決めた!
「「「 ―― 超神戦隊!『 Great Old Ones 』!」」」
ちゅっどーんっっっ!!!
竜司達の背後で、爆発の光と音が鳴り轟いたような幻覚があった気がする……。
『 ―― 日本人、侮り難し! 』
『 いや、あんなの、あの人達等だけですから…… 』
感心するメイに対して、真琴は頬をひくつかせた。その真琴も後ろから、
「真琴ちゃんも格好良く名乗ってみたら、ほらぁ」
アリカによって放り出された。第1433班乙組の援護射撃が飛び交う中で、自然に味方の視線が集まる。
期待する視線に真琴は顔を赤らめたが、意を決し鬼殺丸を振り回すと、
「 ―― 第1混成群所属、小島真琴! 不本意ですが、徒名は『 鬼小島 』!」
喝采が上がる。恥ずかしさやら何やらで赤面した真琴は、照れ隠しも込めてミ=ゴを打ち払っていく。涙混じりながらも、返り血(というか体液)を浴びる真琴の姿は、まさしく『鬼』。
既に攻守は交代していた。弾薬尽きた双方は近距離戦に移行。だが竜司達を相手にするには、ミ=ゴでは戦力不足だった。逃げに転じた、数体のミ=ゴが夜空に舞い上がる。
『 ―― 逃がさない、絶対に許さない』
M9MPBSを投擲すべく、追いすがろうとするメイ。だが苦し紛れにミ=ゴは反転するとM16A2を向けてきた。ハンドガード下部に装着されているアクセサリーは……
『 ―― グレネードランチャー!』
M203 40mmグレネードランチャーから炸薬榴弾が発射されようとしていた。この近距離で、しかも直撃したら魔人といえども即死は免れない。思わずメイは目を瞑る ―― ダディ! マム!
…… だが遠い射撃音が響くだけ。
恐る恐る目を開くと、グレネードを放とうとしていたミ=ゴは頭部を撃ち抜かれて墜落していた。空中で逃げ惑うもの達も、次々に撃墜させられている。
『 ―― 狙撃? 』
「あら。もしかしてカズちゃん?」
呟きに反応してか、アリカの個人携帯無線から声が響く。想像していた通り、松永からだ。
『 カズちゃんと言うな、山之内。…… さておき俺の組に連絡を入れていた。もうすぐ応援に駆け付ける 』
「 ―― ちょうど来たわよぉん。ありがとね」
第1433班甲組がBUDDYで対空射撃。ミ=ゴを1体も逃さずに、殲滅していった。
戦闘が終結し、負傷者や建物の被害を確認する。真琴が浴びた返り血を拭うべく、タオルを差し出していた祭亜が突然に身を強張らせた。
「 ―― 来るッ!」
叫びと同時に、強大な狂氣が襲ってきた。
突如として泡立つように無数の肉腫が膨れ上がり、内側から肉を引き裂いていくような激痛と衝撃に、一同が悲鳴を上げる。
―― 憑魔異常進行。強制侵蝕現象。
堪えられずにメイが崩れ落ちた。三半規管が振り回され、嘔吐感が込み上げてくる。竜司やアリカは、血が昂ぶり、衝動的な破滅願望を覚える。無論、真琴や本田、そして遠くでは松永も、目が血走り、口から泡を噴き出していた。
竜司達、魔人だけではない。魔人では無いはずの隊員達までもが影響を受けて、のた打ち回っている。
平気なのは、少しばかり顔をしかめた殻島と……
「 ―― どっせぇーいっっ!!」
怒声とともに祭亜の氣が膨れ上がり、伝播してくる狂氣とぶつかり合う。ぶつかり合った氣が嵐となって暴れ回るが、すぐに静かになった。
「 …… 氣をぶつけて、相殺させやがった」
殻島が唸る。その間にも、祭亜は真琴やメイを介抱すべく駆け寄ってきた。真琴の胸に掌を当てて、氣の流れを正調していく。続いてメイに。
「 …… それが、お前がここに選ばれた理由か」
殻島の問いに、祭亜は深く頷いた。
「うん。落日中隊の中でアイツの狂氣を相殺出来るのは、ボクか、最愛のお姉ちゃん。あとは東北に居る、宮沢・静寂[みやざわ・しじま]二曹だけ」
軽く溜め息を吐くと、
「 …… 静寂はアラハバキ連隊の警戒監視で東北を離れられないし、最愛のお姉ちゃんは幕僚監部の膿み ―― 老人どもを黙らせておく為にも、市ヶ谷から動けない。…… 中隊長がふらついているから」
「まぁ、お前んとこの事情はさておくとして …… アレだけの強大な狂氣を相殺出来るなんて、やっぱりお前も……」
殻島が目を細めると、祭亜は口元を歪めて、
「そうですよ。ボクも異生です」
「 …… その割には活性化が起きなかったが」
「操氣系ですから。訓練次第で自分の氣を完璧に抑え込む事が出来るようになります。ちなみに銃弾を停めたのも念力 ―― 操氣系能力です」
なるほど。どうやら、この少女は自らの手の内を訊かれれば幾らでも晒してくれる様だ。だが全てが真実とも限らない。9割の真実と、1割の重大な嘘を混ぜ合わせるのが、人を騙すテクニックだからだ。油断は出来ねぇな、と殻島は内心で呟いた。
「 …… しかし、何だ、あの狂氣は。遥か西に突如沸き上がったようだが ―― アイツとは?」
殻島は犬歯を剥き出しにしながら尋ねる。祭亜は表情を固くすると、
「 ―― そは永久に横たわる死者にあらねど、測り知れざる永劫のもとに死を越ゆるもの」
「なるほど。H.P.ラヴクラフトが記した……」
大いなる海神龍 ―― クトゥルフ。分類されるは、最高位最上級の超常体。
殻島と祭亜は、沈痛な表情で見詰め合っていた。そこに男達の情けない呻き声が届く。
「 …… すまんが、一大事なのは判るんだが」
「あたし達も回復してくれないかしらぁ」
死屍累々となったままの竜司達と、アリカ達。更にはメイがコメカミに青筋を浮かべて、
『 ―― いつまで人の胸に触っているのよ! 』
ありゃと呟くと祭亜はメイに微笑みかけてきた。頭にきたメイは、起き上がり様に渾身のヘッドバット。祭亜は目を回してひっくり返る。メイも涙目。
一早く回復してもらった真琴1人だけが、他の皆の面倒を見るべく働いていたのだった。
与那国島近海に台地が隆起し、狂氣を孕んだ衝撃が南西諸島を襲った事により、駐日米軍や維持部隊にただならぬ犠牲が生じた。これを受けて、国連や合衆国政府も最高位最上級の超常体存在を公的に認めざるを得なかったようだ。
波動を喰らって倒れ伏していたナンシーは、ようやく混濁していた意識と低下した体調を回復させると、普天間海兵航空基地へと急いで向かった。ベル/ボーイングMV-22Aオスプレイに乗り込むルグラースを間一髪で捕まえる事に成功する。
「 ―― ワイアット一等兵か。10分待つ。準備を整えて、搭乗せよ」
「 …… Sir, yes sir!」
有無を言わさぬ口調に、慌てて武装を整えてオスプレイに乗り込んだ。オスプレイには、既に武装偵察1個小隊が搭乗しており、ルグラースはスミスと打ち合わせをしていた。ナンシーが乗り込んだと同時に、オスプレイは離陸体勢に移る。
航空史上初の実用ティルト・ローター機は、回転翼機と同じように垂直離着陸が出来、翼端のエンジン・ナセルの角度を変えて飛行出来る。航続距離2,590km、最大速度550km/h、乗員3+兵員24名。CH-46中型侵攻輸送回転翼機シーナイトの後継機として配備が進められていた。
流されてオスプレイに乗り込んでしまったが、ナンシーは、ルグラースに全面賛同している訳ではない。ルグラースに向き合い、与那国島制圧作戦の目的と理由について尋ねてみた。
「 …… わたしは、同じく現在の消極的作戦姿勢に不満を抱いておりますが、素直にキャプテンの積極策に応じている訳でもありません。それは具体的なビジョンが不明である為であり、詳細を訊ねる必要があると考えているからであります」
続けろ、と促すルグラースの瞳。ナンシーは唾を飲み込む。控えているスミスが無表情で見詰めていた。
「キャプテンが与那国島上陸作戦に固執する理由は何でありますか? キャプテンがリーコンに所属していた経歴があり、恐らくは与那国島への威力偵察任務があったと、わたしは考えております」
聞いていたスミスの片眉が微かに動いた。意に介さずに、ナンシーは口調を改めて、
「 ―― キャプテン。あなたは、一体、何を見てきたの? 与那国島には何があると言うの?」
ルグラースは天井を仰いで嘆息をすると、MCCUU(Marines Corps Combat & Utility Uniform)の下衣のポケットより、聖書を取り出した。そして短く祈りを捧げると、
「スミスも聞いてくれ。…… 私は、ワイワット一等兵が調べてきた通り、リーコンに所属していた。その時に極秘任務として与那国島への威力偵察があった。但し、その時は戦術上の目的は無く、ただ超常体に占拠された島を、ステイツの威信をかけて取り戻す為の先行偵察に過ぎなかった。そして……」
続く言葉に、ナンシーとスミスは耳を疑った。
「 ―― 部隊は全滅した。生き残ったのは、ジョセフと私の2人だけだった。侮り過ぎていた。あの島に巣食う超常体は、狂気の産物だ。それ以降、我等が勇敢なるマリーンといえども消極姿勢にならざるを得なかった。…… だが、それでも私はあそこを取り戻す使命があるのだ」
ルグラースは簡単な海図を広げると、
「 ―― 南西諸島は、地球上でも大きな地殻変動が起き易い地として知られている。それはフィリピン海方面から押し寄せる地殻プレートが、ユーラシア大陸側プレートに潜り込んでいることが原因だが、この圧力が一定の限界を越えると地殻が破壊されて、地震エナジーが放出される。…… これは地学の説明だが、昔は、地に臥す龍の仕業とされていた」
日本列島から南西諸島へと線を引く。
「そもそも、日本列島自体が不安定な、だが爆発的とも言える程の強力なエナジーの上に成り立っている不思議な土地だ。地のエナジーは龍脈とも呼ばれ、龍穴という場所で放出され、その地を栄えさせる。日本に隔離結界を施した力の源泉は龍脈にあると言われている」
「 …… レイラインに、パワースポット。すると、与那国島は!」
気付いて、ナンシーとスミスが同時に声を上げた。
「そうだ、パワースポットの1つ。今は“ 這い寄る混沌 ”という最高位最上級超常体の化身が1つ ―― ハウリング・トゥ・ザ・ムーンに占拠されている。…… このまま放っておけば、つい先日のような狂氣の波動が、いずれは日本全土を、いや結界すらも突破して、ステイツや世界各地に及ぶだろう。―― 私はそれを防ぐ為に戦っている」
ルグラースは嘘を吐いているようには思えなかった。だが全ての手札を晒した訳でも無いだろう。それでもナンシーは意を決すると、
「 ―― わたしは、自殺志願者ではありません。でも、座したまま、朽ちるつもりもありません。…… 私には還りたい場所があるんです」
敬礼をする。
「キャプテン。私、ワイアット一等兵は与那国島制圧作戦に志願するつもりであります」
そして、自分が暖めていた案を提出した。
「西表島もしくは、石垣島への偵察部隊派遣と、与那国島への定期偵察に、現地自衛隊との共同哨戒です。…… 今回の衝撃で危機感が増したとしても、現状では与那国島への制圧作戦は、まず却下されるでしょう。ただ、与那国島の超常体が活発な活動をしているのも事実であり、今後、彼らについての情報はより精度の高いものが求められます。―― その為、与那国島の脅威を確認する意味でも、最も島に近い場所に偵察部隊を派遣するべきです。また、定期的に航空機による偵察も行い、この事により沖縄本島防衛においても、万一、大規模な攻勢があった場合、事前に察知出来るようになります」
ナンシーの説明にルグラースとスミスが聞き入る。
「また、我等がマリーンは世界最強を自負しておりますが、戦力的には心許なく、そもそもマリーンの着上陸を認めてもらう為にも、最前線哨戒は日本国自衛隊と協力して行う必要があるかと。…… どうでしょうか?」
ナンシーの提案を受けたルグラースの瞳は輝いていた。スミスを肘で突付く。
「 ―― 驚いたな、ジョン」
「全くであります、キャプテン」
いぶかしむナンシーに、ルグラースは微笑むと、
「ジョン ―― スミス伍長もまたワイアット一等兵と同じくする提案を行なっており、ここ数日間、部隊は空挺降下や集団戦闘、野外活動等の訓練を徹底させていた。また自衛隊との協力案も申し出ている」
「 ―― 数は力です。私達マリーンが負けるとは思っていませんが、損害は少ない方が良いのは当然です。ならば自衛隊と協力する事も考慮した方が良いと思います。あらゆる場合を想定しての事前協議が必要でしょう」
ナンシーは目を見開いた。ルグラースの調査に時間を費やしていた分だけ出遅れたのだ。スミスの手前、気恥ずかしい思いをしたが、
「ワイアット一等兵の提案を受け入れる。ただ、志願してくれたとはいえ、リーコンの入隊資格には足りない(※ 註4)が …… 代わりとしてスミス伍長の補佐として特別に認めよう。活躍を期待する」
「 ―― Sir, yes sir!」
ナンシーは敬礼をした。スミスとしても階級が低い身である事もあり、補佐してくれる者がいれば助かる。何しろルグラースという後ろ盾を持つ者が多い方が、隊内での行動においても都合が良い。
「但し、提案の幾つかは現状では変更しなければなりませんな」
スミスが口を開くと、ナンシーは目を細めた。
「恐らく狂氣の衝撃を受けて倒れていた為に、魔人であるワイアット一等兵は未だ知らなかったのかも知れませんが …… 現在、西表島に極秘に配置されていたSBUという特殊部隊が、先日の騒動 ―― 大津波により、かなりの被害を受けている上、ディープワンと交戦中との事です」
「 …… という事は、現在オスプレイに搭乗している、この部隊は」
「 ―― 与那国島への威力偵察任務とともに、西表島の自衛隊の救援という事になる。私達だけでなく、石垣島の陸戦部隊、宮古島並びに下地島の航空戦力の増援が先行しているはずだが」
数十分後、オスプレイは西表島上空に到着する。
「 ―― This is Pinocchio. I lead. ……Go!」
上空警戒するE-767の誘導のもと、戦いが繰り広げられている西表島へと空挺降下を開始した。
そしてディープワンの襲撃を、リーコンの救援も受けて退けたSBUは、共同作戦案に渋々ながらも応じる旨を約束してくれた。
「 ―― 自衛隊の弱みに突け込み、恩着せがましく貸し付けた形にはなりましたが」
「日本の諺でいうところの『 渡りに舟 』という事よ。少なくとも、これで協力体制が既成事実になったわ」
自分で言うのも何だが、極道風の部下が伝達を渡してきた。壱肆特務は、第1混成団長直属の懲罰小隊だ。命令権限を有するのは唯1人しかいない。
「 …… 仲宗根のオバアが何だって?」
気だるげな殻島の言葉に、極道風は繰り返した。
「八重島で攻防戦を繰り広げている特殊部隊と合流し、与那国島着上陸作戦に当たれ、との事でっせ」
石垣島周辺 ―― 八重島列島に治安維持部隊上層部が、極秘の特殊部隊 …… 海自の流れをくむSBUを置いているという噂は、限られた者の間では、そこそこ信憑性のある話、公然の秘密だった。
八重島諸島におけるSBU配備戦力の内訳は、宮古群島に航空戦力を。特に、宮古群島・伊良部島に隣接する下地島には、前世紀、日本で唯一だった民間パイロット専用の飛行訓練場が存在しており、現在SBU航空隊基地となっている。石垣島にはSBUの第1混成団管区分隊本部があり、陸戦力とともに状況の把握に務めていた。そして、西表島には艦船を有する実働部隊(海戦力)が与那国方面の警戒監視に当たっていたが、海底からの台地隆起に伴う津波に、狂氣の波動、そしてディープワンの襲撃を受けて、一部が麻痺してしまったという。幸か不幸か、米海兵隊武装偵察部隊の申し出もあり、撃退に成功したというが……。
「あんまり亜米利加さんに借りは作りたくないよな、“ 上 ”としても。…… しかし、西方普連はどうした? こんな時の為のエリート集団だろうが?」
「当然、オバアも要請しましたが、第4師団の立花のオジイが独り占めしまっているそうで」
西部方面普通科連隊(WAiR:Western Army infantry Regiment)は、2005年に創設された方面総監直轄のヘリボーン部隊であり、当初は緊迫する隣国(※中華人民共和国・朝鮮民主主義人民共和国)との関係に警戒しての、島嶼防衛の為の特殊部隊として計画されていた。だが超常体の出現により、今や西部方面隊の切り札部隊として知られている(※ 註5)。
本来ならば、西部方面隊総監・加藤・忠興[かとう・ただおき]陸将の指揮下で動く部隊ではあるが、加藤陸将は全国各地で勃発した超常体の活発化による大規模戦闘に伴い、西部方面隊を統括するべく熊本・健軍の西部方面総監部から身動きが取れない状態にあった。そこで、やむなく 立花・巌[たちばな・いわお]陸将にWAiRの指揮権を委譲していたらしい。
「 ―― タッチの差で負けたか。その分、皺寄せが来るのは俺達なんだがな」
しかし懲罰部隊の性格上、最も危険な前線に送り込まれるのは詮無き事。とはいえ最終的に命令に従うか逆らうかは、殻島に掛かっている。
「亜米利加さんも、与那国島への威力偵察を企んでいるらしいじゃねぇか。まぁ精々仲良くしてやるかね」
一方、祭亜達は、那覇駐屯地近くの大衆食堂で朝からテビチ(豚足)汁を胃に流し込んでいた。
「んー。美味いです。クセになりますね」
ジョッキに注いだゴーヤージュースを、咽喉を鳴らしながら飲み干した祭亜が上機嫌に言う。
『 …… それで、これからどうするつもり? 』
メイが尋ねると、祭亜はお品書きから眼を放して、
『 ルルイェが浮上したからには、今すぐ与那国島に乗り込みたいんですけどね。まだ封印されているはずの神の正体と、解放する為の手掛かりが判らない以上は、沖縄本島で資料を探すか、各地の御嶽巡りです。下旬には予定通り、知念半島の斎場御嶽に向かいます 』
祭亜の言葉に、竜司は腕を組んで頷く。
『 しかし最高位最上級の極大型超常体クトゥルフか …… 本島まで500km以上もあるというのに、目覚めただけで、ここまで影響を及ぼす海神龍に、どうやって勝てると言うんだ? 』
『 ああ、未だ完全に目覚めていないですから。あの波動はいびきか、寝返りみたいなモノ。完全に目を覚ます前に、殺害ないし封印をすれば…… 』
聞けば聞くほど、とんでもない話ではあるが。
「……で、カズちゃん。あたし達はどうしろって?」
「カズちゃん、言うな。―― 班長は相変わらずだが、銘苅小隊長からは『 営舎に戻り、有事に備えて警戒待機せよ 』と通達があった。とはいえ、報告・連絡・相談さえ怠らなければ、多少のスタンドプレーは目を瞑るようだが」
アリカの視線を受けて、松永が席に座る。
「とにかく狂氣の波動以来、本島においても状況がオカシイ。超常体が活発化しているだけでなく …… 感化されたのか、部隊や米軍の一部で不穏な空気があるらしい。―― 今朝も、完全侵蝕されたと判断された魔人数名に対して、射殺許可が出ている。なお彼等は現在、脱策中だ。島内を探索する際には気を付けろ」
「松永士長。…… その相手のタイプは判りますか? それと小官に関して、銘苅三尉は……」
おずおずと手を挙げる真琴に、
「現在、射殺許可が下りている脱策中の魔人は7名。…… 随分多いな。内訳は強化系が4、操氣系が2、異形系が1だ。―― それと小島に関しては『 八木原二士の護衛という名の監視を続行せよ。嫌なら小隊本部に配属させるから、営舎に戻って来い 』だそうだ」
『 さておき、メイちゃんはどうするのぉ? 』
『 分隊長から通達は受けているけど …… だいたい、あんた達と同じようなものよ。兵舎に戻って警戒待機か、或いは独自の判断で行動。勿論、報告・連絡・相談は定期的に。祭亜の行動を妨害するか、協力するかは …… 未だ決めかねているけど』
『 ―― 解かった』
皆それぞれの立場を受けて、竜司が締め括る。
『 状況は急転したが、結局は各々出来ると思われる事をするしかないという事だな。…… 実は、俺もどうするかは未だ決めかねているが、とにかく供に歩む事があろう者も、また別の道を選ぶ者にも、幸運を 』
力強い笑みで、親指を立てる。
「 ―― Good Luck!」
そんな一同の頭上、天井付近を大きな蛾が横切っていた……。
■選択肢
Sp−01)那覇駐屯地で警戒待機
Sp−02)米軍キャンプ地で活動
Sp−03)琉球神話等の研究調査
Sp−04)八重島列島で死守防衛
Sp−05)与那国島に強行着上陸
Sp−FA)南西諸島の何処かで何かを
■作戦上の注意
当該ノベルで書かれている情報は取り扱いに際して、噂伝聞や当事者に聞き込んだ等の理由付けを必要とする。アクション上でどうして入手したのかを明記しておく事。特に当事者でしか知り得ない情報を、第三者が活用するには条件が高いので注意されたし。
与那国島並びに八重島列島は、強制的に憑魔の侵蝕率が上昇する事もあり、また死亡率も高いので注意されたし。
註1)特殊作戦群 …… 現実世界においては2003年に発足した陸自初の本格的特殊部隊。国内でのテロ、それに類する不正規戦に備えて創設された。米国のデルタ・フォースを範としているらしいが、規模・武装の詳細は不明。精強無比。
神州世界において特殊部隊は幾つか在るが『魔人駆逐を主任務にした部隊』の代表は、実はこれ。
註2)ブーツ・キャンプ …… 新兵キャンプ。サウスカロライナ州パリス・アイランドと、カリフォルニア州サンディエゴで行なわれる。ハー●マン軍曹の、罵詈雑言の叱咤による新兵教練は有名。…… 現在は、ハート●ン軍曹から、ぴく●る☆ま●たんの時代か?
註3)Special Boarding Unit:特別警備隊 …… 現実世界においては2000年に発足した海自の特殊部隊。不審な船舶に移乗し、制圧・武装解除し、積荷に武器や輸出入禁止物品が積載されていないか検査する。
神州世界では2004年に発足され、沿岸部における特殊超常体殲滅活動に従事している、数少ない操船技術や水中作戦の専門家達として設定。
本部は広島県・江田島にあるが、神州各地に部隊を配置しており、特に八重島列島(宮古島・伊良部島・石垣島・西表島)駐屯部隊は最大規模としている。
註4)フォース・リーコンの入隊資格 …… 志願するには、米軍に3〜5年所属し、成績優秀で階級が伍長以上という条件を満たしていなければならない。
註5)WAiR …… 此方の世界では2002年3月に創設。「東の第1空挺、西の西方普連」と呼ばれ、自衛隊特殊部隊の1つ。島嶼防衛が主任務だが、昨今のテロ対策の一環として、屋内戦・市街戦のエキスパートでもある。