同人PBM『隔離戦区・神人武舞』初期情報 〜 四国:濠太剌利


『 Break the Dreamtime 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物――超常体の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本――神州を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ――それから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 神州世界対応論によると濠太剌利に当たる四国地方は、隔離後の現在も穏やかな戦場といえる。無論、飽く迄も他の地方と比べての事で、いつ終わるとも知れぬ超常体との戦いを強いさせられている点では変わりは無い。それでも強力な超常体が姿を現す頻度が少ないので、やはり「平穏無事」と他の戦域から羨ましがられているのだ。
 勿論、話はそう簡単なものではない。元々、四国を預かる第2混成団(※註1)は、部隊展開の利便性を考慮した結果、第13師団から切り離されて独立した組織である。その為、人員数は多くない。実質的な国民皆兵時代となった現状でも人手不足は解消されておらず、超常体の総数が少なく、交戦頻度が低く、比較的平穏無事な事は、第2混成団にとって死活問題に直結する重要点なのだ。
 だが、その比較的平穏無事な日々も終わりを告げる事になった。報告を受けて、第2混成団長である 綾熊・敏行[あやくま・としゆき]陸将補が、第15普通科連隊長を連れて作戦室に入る。着席した第2混成団長に促されて、幹部が状況を読み上げた。
「――第15079班が、愛媛の伊予市と内子町にて低位下級の小型超常体・通称モコイの群れが壊滅しているのを発見。周囲を探索したところ、同じく低位下級のヨーウィーが多数死んでいるのを確認しました。なお該当区域において第15079班以前にここ数週間で巡邏及び交戦したという報告は上がっていません」
 隔離戦区構想において、超常体の殲滅は原則禁じられている。かつて――超常体の頻出地区に対して爆撃機によるナパーム弾を投下する作戦を実行に移した事があった。超常体の出没する地域を、徹底的な爆撃により超常体もろとも根こそぎ焼き払う事で、敵が出現する空間そのものを消し去ろうとしたのだ。それによって確かに一時的には超常体の出現は減ったかのように見えた。
 だが、それが致命的な戦術ミスであった事が後に判明する。その後も統計を取り続けた結果、確かに爆撃を行なった地域の超常体出現確率は低下したものの、そのすぐ近隣の地域で、超常体の発生確率が上昇しているという、ドミノ倒し現象が起きている事が発覚、しかも爆撃によって焦土と化した地域には猛烈な勢いで奇怪な樹木が繁茂し始め地域を覆い尽くし、その地域での超常体発生確率は再び以前と同様に高くなっているという事実が観測されたのだ。
 ……この事により、神州が隔離された今でも、超常体に対して、大掛かりな爆撃や砲撃は余程の非常事態でない限り認められていない。特に数の調整がしやすい低位下級超常体の群れを壊滅させる事は、より強力な存在を招きかねない事として倦厭されていた。
 モコイの群れや、ヨーウィーが大量死するのは異常としか言いようが無い。より強力な超常体が出現し、モコイらの縄張りを侵した結果とも考えられるが……。
「――愛媛か。遠いな」
「愛媛は、松山駐屯地に派遣している第4と第7の2個中隊が管轄していますが……正直、調査に費やす人員を回すには不足しています。こちらの第5から回すには、瀬戸内が不穏過ぎます」
 そして第1中隊からは第2混成団司令部警備もあって絶対に回せない。第15普通科連隊長の意見を受けて、綾熊は唸る。
「――宇和島にSBUの分隊が居たはずだ。何とか回せないか?」
 SBU(Special Boarding Unit:特別警備隊)は2004年に江田島に密かに発足された、旧海上自衛隊由来の特殊部隊だ。旧海上保安庁の勢力を吸収し、沿岸部における特殊超常体殲滅活動に従事している。船舶や舟艇が著しく制限されている神州において、SBUは数少ない操船技術や水中作戦の専門家達であった。SBUはその後、神州各地に密かに分遣隊を設立しており、四国には高松・徳島・高知・宇和島の計4つが置かれている。
「……申し訳ありませんが、江田島本隊主導による広島湾の宮島攻略戦が近付いています。高松もそうですが、宇和島分隊はそちらの支援で動かせません」
 SBU高松分隊から連絡役として出向してきている幹部が恐縮しながら断りを入れてきた。綾熊は目を細めると、大きく溜め息を吐く。
「それでも幾人か派遣出来ないか? 陸上は勝手が違うとはいえ、普通科隊員の支援だけでも助かる」
「……一応、手配はしておきます」
「頼んだ。私からも連絡を入れるが、何しろ旧海自と旧陸自だ。私に命令権限があるとはいえ、やはり歓迎されないだろう。……沖縄の仲宗根陸将補のようには、人気がないからな、私には」
 苦笑してみせる。が、すぐに気を引き締めた。
「高知の第50普通科連隊にも連絡。数名を調査に回すよう打診しろ。また松山――愛媛県域だけでなく、四国全域で警戒レベルを引き上げるよう徹底しておけ」
 綾熊の言葉に、敬礼で応える幹部達。……だが、指示命令が適う事は無かった。
 伊予―内子の異変を皮切りに、各地で超常体との戦闘が頻繁に勃発。各自、対応に追われたからである。そして決定的な事件が起きる――魔群(ヘブライ堕天使)によるSBU徳島分隊の征圧である。

*        *        *

 旧海自時代の戦闘服装に身を包んだ男2人が、徳島・旧小松島海上保安部――現SBU徳島分隊官舎の屋上でだべっていた。
「だからよぉ。おめぇにはパンク・ロッカーの魂が解かってねぇんだ」
 髪を逆撫でにして固め、耳には星型のピアスをした男が、押し黙っていた相方に喚き散らす。袖まくりをした腕へと多重に絡まっていた貴金属のリングが、身震いする度に耳障りな音を奏でていた。
「……では、パンク・ロックの魂とは何だ? 大方、オヌシは単に聞きかじった言葉を並べているだけではあるまいな」
 やや古風な喋り方をする男は、鮫のような眼差しでパンク風男を見遣る。パンク風男は舌打ちをした。
「いいじゃねぇかよ。パンクだぜ、ロックだぜ! 体制を打ち破り、暗黒の世に、黎明の衝撃を与えるのに、俺のハートがビンビンと叫ぶ訳よ! Oh, Yea!」
 どこからか取り出したギターを掻き鳴らす。ただしエレキでなくて、アコースティクだから格好が付かない事甚だしい。鮫顔の男は重苦しく溜め息を吐いた。
「往々、何だ。今の溜め息は。俺の魂のSHOUTが気に入らねぇって言うのか?」
「……気に入るも、気に入らないも無い。今のオヌシは馬鹿丸出しだぞ。全く……受け皿を間違えたのではないか?」
「はっはっは。……てめぇとは長い付き合いだが、喧嘩売っているなら、買うぞ?」
「売っているつもりは無いが、買いたいのならば、教育的指導も兼ねて差し上げよう」
 不気味な笑いを上げながら睨み合う2人の男。一触即発の雰囲気は、だが屋上の扉が蹴り開けられて、前傾姿勢で警衛が突入してきた事で霧散した。かつて海保SST(Special Security Team:特殊警備隊)が着用していた黒色の立入検査服装にボディアーマー。手にしたH&K MP5A4サブマシンガンで圧倒してくる。警告無しに連射撃してきた。……だが、
「おいおい。どーするよ? 問答無用で攻撃ったぁ、三・一五事件かよ」
 放たれた9mmパラペラムは、パンク風男が突き出した掌の前で反射し、射撃主へと逆に襲い掛かっていた。ボディアーマーを着込んでいたとはいえ、弾雨に晒された警衛達は痛みを訴える。
「……それは昭和初期における社会主義・共産主義への弾圧事件だ。オヌシが言いたいのは五・一五事件であろう」
 呆れて鮫顔の男が嘆くが、その瞳は厳しく警衛を見詰めたまま。
「ともあれ、問答無用で射殺を敢行するというのは間違っていない。何故ならソレガシ等は既に憑魔による侵蝕を完全にして受容体となった。また相互理解を経て、意識の共有化を図ったのだから。つまり彼奴等から見れば、超常体に違いない」
 完全侵蝕された魔人は、既に「人間」ではなく、「超常体」と看做されて、射殺が厳命される。鮫顔男の語る言葉が真実ならば、警衛等の判断は間違ってないだろう。ただし判断は間違っていなかったが、実力を推し測り損ねていたのが死を招く事になった。
「……もっともオヌシは現世体の記憶と意識から多大な影響を残し過ぎだ。まさか知性も引き下げてしまうとは思いもよらなかったぞ。親友とはいえ嘆かわしい」
「てめぇこそ、そこまで時代掛かった喋りなのは、元人格の影響を残したからだろうが」
 降り注ぐ弾雨の中を、だが2人は微風の中にでもいるかのように会話し続ける。弾切れと同時に焦れた警衛の一人が警棒を伸ばして叩き付けてきた。が、鮫顔男が軽く手を振っただけで、ボディアーマーをものともせずに身体は両断される――絶命。
「オヌシ等の不幸は――」
「俺達が魔王だっていう事だ! 俺の名はデカラビア! 五芒公デカラビア!」
 鮫顔男の言葉を遮って、パンク風男――デカラビア[――]が叫ぶ。鮫顔男は言葉にならぬまま口を開くのを数度繰り返してから、やっとの事で絞り出す。
「……ソレガシは水域侯フォルネウス。……虚しい」
 鮫顔男――フォルネウス[――]は呟いた後、肩を落として重苦しい溜め息を吐く。対してデカラビアは相方の悲哀等、知った事じゃねぇとばかりにノリノリだ。アコースティックギターを抱えると、
「俺の歌を聴けー!」
 一部の警衛――魔人達がデカラビアの空間を震わすシャウトに反応する。突如襲ってきた激痛と衝動――憑魔強制侵蝕現象。暫らくのた打ち回っていた彼等だが、痛みが収まれば2柱の魔王に従う配下として立ち上がる。勿論、それを黙って見過ごす者ばかりではない。魔人でない事を逆手に勇敢にも射撃を試みるが、
「――退くのもまた勇気であるのに……愚かな」
 フォルネウスが指を鳴らす。瞬間、空間が爆発して超常体が出現する。有翼類大型蒼鬼獣魔――ビーストデモンが咆え声を上げた。その戦闘力は1個体だけで、数個班もしくは数個小隊に匹敵する。一撃は車輌を易々と破壊し、皮膚は甲殻の如し。吐く息は吹雪となり、全てを凍て付かせる。……地獄が到来した。
「……ふいー。片付いた、片付いた」
 数時間後、完全に征圧したSBU徳島分隊司令室にてデカラビアが肩の筋肉をほぐす。フォルネウスは支配下に置いた兵員や武装の確認を忘れない。
「――こちらに下った魔人兵は9名。内訳は強化5、異形1、地脈1、火炎1……それに喜べ、デカラビア」
「……何を?」
「ソレガシ等と同じく魔王の受容体に相応しきモノがいる。未だ意識の統合調整はされておらず、飽く迄、可能性があるという段階ではあるが、このままこちら側に誘導すれば、一月もせずに覚醒するだろう」
 朗報に口笛を吹くデカラビア。
「浴槽公は……熊本の阿蘇に未覚醒状態のオンナノコがいると暗黒大陸侯が話していたっけ? じゃあ、そいつは誰の受容体だ?」
「現時点では判らぬ。何度も述べるが飽く迄、可能性の話だ。ただの雑兵で終わるか、魔王の受容体となるか、それとも……」
「逆に熾天使として覚醒するか。他にも意外な神格を受け入れるかも知れねぇし」
 デカラビアの茶々入れに動じず、フォルネウスは頷くのみ。書類をめくる。
「――名前は、巳浜由良。SBUの候補生だ。つい先週に訓練で本人に会った事がある。その時はソレガシも覚醒していなかったから気付かなかったが」
「……女か」
「――夢見がちの15歳少女だった。それでも階級は海士長。基礎憑魔は異形系」
「美人だったか?」
「好みは人それぞれだと思うが。髪は長くて、色は黒。垂れ目がちで、しかも眠そうな半開き。惚けっとしている事が多かったな」
「よく、そんなんでSBU候補生になれたな!?」
「元々は需品科として回されてきたのだ。ところが憑魔を見出された上に、神経は鈍そうながらも、勘が良くて危険回避能力が高い。体格は細身で縦長、スタミナ不足なのが難だが」
「……俺達に下ったんだよな。今、何やってんの?」
「正確には『身柄を確保出来ただけ』といったところか。完全に魔王として覚醒するまで油断は出来ない。今は状況に流されているだけだ。従い、彼女の友だった魔人に監視も兼ねた対応を任せている」
 巳浜・由良[みはま・ゆら]の書類をまとめながらフォルネウスは眉間に皺を寄せた。
「いずれにしても、レヴィアタン殿が来訪される頃には覚醒しているのは間違いないが」
 七つの大罪が1つ“嫉妬”を司りし大魔王 レヴィアタン[――]。その巨体は瀬戸内海や四国や九州の近海を漫遊しているというが、何が目的で徳島に来訪するのか。それでもフォルネウスの言葉に頷く、デカラビア。ギターの弦を弾くと、
「……まぁ、それまで徳島を占拠し続ければの話だけどな。もっとも俺はソウルが弾けるライヴが出来れば充分だがな!」

*        *        *

 愛媛・西条――旧国道11号線沿いを第15041班が慎重に捜索する。僚友の第15042班が松山自動車道跡・石槌山SA(サービスエリア)で大休止の報告をしてから丸一日が経過している。モコイの全滅が確認されてから、異常事態は愛媛県域に広がりつつある。通信の応答も無い為、第154中隊第1小隊長は第15041班に捜索の命令を出した。
「……いくら低位下級とはいえ超常体の群れを壊滅させた事態ですよ。本官らだけで足りますかねぇ」
 不安な声を上げる二等陸士だが、班をまとめる陸曹長からどやしつけられる。
「――仲間が危機に陥っているかもしれんのに、怖気付いて、どうする!」
 そのまま小言を続けようとする班長だったが、副長の陸士長が手を挙げて沈黙の合図。鼻を鳴らすと、
「――臭います。肉が腐ったようなやつです。最悪の事態かもしれません。各員、警戒を」
「……各員、戦闘準備」
 89式5.56mm小銃BUDDYを構えて、全周警戒のダイヤモンド・フォーメーション。二士も不安と緊張を顔では露わにしながらも、弱音を吐くのを止めた。
「――遺体発見。身元確認します」
 先頭の隊員が藪の向こう側を覗いて顔をしかめながらも報告。班長は合掌して暫し黙祷。そして、うつ伏せ状態の遺体をBUDDYの銃先に付けた剣を使って引っくり返した。思わず口元を押さえた。胃から込み上げてきそうになったが、脂汗を流しながらも堪える。
「……報告にあったモコイの遺骸と似ています。同じ奴がここらにも出没したという事でしょうか」
 遺体の腐敗は酷く、粘り気のある糸を引いていた。だが皮膚は熱風を浴びたかのように火傷を負って、乾燥――白く炭化している。さらに不可解な事には、衣服や装備には燃焼や損傷の痕跡が見受けられない事だ。
「……まだ一日も経過していないのに、どうしてこんなに腐敗が激しいんでしょうか?」
「解らん。とにかく身元を確認すべく認識票を回収。遺体を数えるのも忘れるな。第15041班の人数は定員通りに10名だ」
 感情を殺して作業に取り掛かる第15041班。
「周辺を捜索したところ、9名まで遺体の数を確認しました。1名足りません」
「聞いた話では第15042班の魔人は1名だった。強化系らしい。……生き残っているとしたら、彼か?」
「さあ、そこまでは。装備品は不思議にも無事でしたが、必ずしも一致するとも限りませんし……回収して専門の機関に任せるしか――っ!」
 何処からともなく聞こえてきた笛のような音に、一同は身を屈めて遮蔽を取る。外れた音程が狂ったように甲高く響く笛のような音。木々の葉が合唱するかのようにざわめいた。
「風が……出てきましたね」
 副長の言葉は、風と音を発している怪物を捉えていた。見上げる先には、消えたり顕れたりを繰り返す、半ポリプ状の浮遊物体。翼を持たずして空を飛び、絶え間なく癌細胞のように肥大した体から触肢を出したり引っ込めたりしている。また発声器官らしきものもないのに、どこからとも無く風と音を吹き出していた。
「――各員、合図あるまで発砲するな。一斉に仕掛けて、反撃される前に止めを刺す」
 初見の怪物――後日、フライング・ポリプと名付けられる高位下級超常体は、狂奏を撒き散らしながら近付いてきた。こちらに気付いた様子はなく、完全に仕留められるという距離にまで接近したと班長が判断した、その時、不幸な事故が発生した。
「……う、うわぁぁぁぁぁっっっ!」
 緊張の糸が切れたのか二士がBUDDYを乱射する。目標は狙っていた1体ではなく、いつの間にやら背後から現れた、もう1体。この背後に新たに現れた1体は5.56mmNATOの弾雨をまともに受けたが……。
「効果なし! 繰り返す、銃弾の効果なし!」
 少しよろめいただけで依然、宙に浮遊したままだった。そして風が発せられる。おかしな風だった。フライング・ポリプから発せられた風を正面から受けた二士は、吹き飛ばされるのではなく、逆に引き寄せられていった。触肢が伸ばされて二士を撫でると、肌は瞬時に罅割れ、炭化していく。そして崩れた肉片は粘つく糸を引きながら地に落ちた。
「銃弾が効かない敵が、前後に合わせて2体。しかも呪言系か? ――各自、何としてでも生き残れ」
 投擲されるM26A1破片手榴弾。だが飛び散る弾体の破片と衝撃を受けても、なおフライング・ポリプは健在。必死に逃走を図るも、引き寄せる突風の中では足が鈍い。
 ――もう駄目だ。
 さすがの陸曹長も死を覚悟した、その瞬間。
「――スーパーデンジャラス・キーック!」
 雷光の蹴撃! 突然に飛来してきた人影が、電光をまとった蹴りでフライング・ポリプを叩き落とした。だが感謝の念より先に沸き立つのは、
「……へ、変人だ!」
「そうとも、私の事は、蝙人バットマ――」
「とりあえず、仮称『蝙蝠男』という事で!」
 副長が、怪人の名乗りを慌てて遮る。怪人は不満そうだったが、それでも瞬く間にもう1体のフライング・ポリプを追い払ってくれた。
 ……そう。救い(?)の主は、まさに怪人。蝙蝠を模したアイマスクをして、全身は硬質ラバー製と思われるボディスーツに身を包んでいる。何故か、笑うと白い歯が光り、爽やかな印象を醸し出す――その部分だけ見ればだが。2本の指を揃えると、音を立てるように振って、別れの挨拶。
「――では、諸君。縁あれば、また遭おう! ウルルの封印は、この私に任せておきたまえ!」
 高笑いをしながら去っていく、蝙人。黙って見送っていた班長だったが、我に帰って、
「――追跡しろ!」
「無理です。それにまた先ほどの浮遊物体が現れたら、今度こそ全滅します」
 副長の言葉に、班長は歯噛みする。それでも第15041班と亡くなった部下の遺体を回収が先決と判断した。……が、
「……だ、誰か、そこに居るのです……か……?」
 蝙人が消え去った方向から、突然に藪を書き分けながら満身創痍の男が姿を見せ、次の瞬間にはぶっ倒れてしまった。

*        *        *

 保護された男は松山駐屯地に移送されて、傷の手当てと事情聴取を受けるのだったが……。
「――普通科第15042班所属、石丸隆児陸士長に間違いないな?」
「……はぁ。よく解らないのですが、おそらく現在の私はそうなのでしょう」
 石丸・隆児[いしまる・りゅうじ]と呼ばれた男が自信なさそうに答える。聴取している警務科隊員の方が呆れ顔だ。
「――記憶喪失?」
 マジックミラーとなっている壁の向こうで、第154中隊長と、第1小隊長とが見詰めていた。
「一時的な精神的混乱と思われますが……幼少からの記憶や経験がゴッソリ抜け落ちているみたいなのです。自分が、自分で無いような、そんな様子です。かといって知識だけは並外れていまして……説明も無く、専門的な学力が必要な問いを挟んで質問したところ、スラスラと答えました――彼を知る者によれば、信じられないそうです。石丸が学んでいない知識も持っていると」
「……別人の恐れは? 完全侵蝕された魔人の他に、超常体の中にも人間の姿を模写する奴がいる可能性も検討した方がいい」
「その点でもうひとつ――医療の際に確認しましたところ、憑魔核の存在が検出されました」
「石丸は、魔人だったのか?」
「いいえ。第15042班の魔人は、班長だった強化系1人のはずです。そして彼の憑魔核は――おそらく雷電系」
 第154中隊長は苦虫を潰して飲み込んでしまったような表情を浮かべる。
「報告によると、蝙人を名乗るアメコミもどきと遭遇したそうじゃないか?」
「体格的に似通ったところはありますが……」
「とりあえず監視しておけ。だが新たな超常体の出現や、徳島の壊滅もある。人手不足な点は否めない。適当なところに突っ込んでおけ」
「畏まりました」
 敬礼で応える第1小隊長。後日、石丸は正式に第15041班に再編される事となったのである。

 

■選択肢
Oce−01)愛媛・伊予方面を探索する
Oce−02)愛媛・西条方面を偵察する
Oce−03)SBU徳島基地を奪回する
Oce−04)巳浜由良を保護/抹殺する
Oce−05)蝙人を追跡調査してみたい
Oce−FA)四国地方の何処かで何か


■作戦上の注意
 当該初期情報で書かれている情報は、直接目撃したり、あるいは噂等で聞き及んだりしたものとして、アクション上での取り扱いに制限は設けないものとする。
 ただし一部の関係者に接触するのは、容易では無い事にも注意。特に駐日外国軍との接触時は、言葉の壁が大きいのに気を付ける事。

※註1)第2混成団……現実世界では、2006年3月27日に「第14旅団」として改編された。だが神州世界においては、規模はともかく、組織名は超常体出現と続く隔離政策による混乱によって1999年時のままである。
 ただし第50普通科連隊は高知駐屯地に新設されている(※現実世界では第14旅団改編とともに普通寺駐屯地内に新設。2009年に高知へと移駐予定)。
 ここら辺はフィクションとして割り切って頂けるよう、お願いしたい。


隔離戦区・神人武舞 初期情報 「Break the Dreamtime」

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