第六章:ノベルス


個人運営PBM『隔離戦区・神人武舞』 最終回 〜 山陽:南欧羅巴


SEu6『 迷宮化した戦場 』

 肉薄した 山口・金剛丸(やまぐち・こんごうまる)三等陸曹が84mm無反動砲カール・グスタフでの零距離砲撃。如何に高位上級超常体ケルプといえども堪らない。肺腑を撒き散らしながら、地に沈んだ。浴びた体液が、虎刈りの頭に無精鬚の金剛丸をますます凶相じみたものに変える。拭おうとせずに、
「――待たせたな」
「ああ、まだ雑魚やら何やらが居るが……」
 金剛丸の言葉に、童顔に似合わぬ酷薄の笑みを唇の端に浮かべて、結界維持部隊中部方面隊・第13旅団第13特務小隊と組長の 周防・樹(すおう・いつき)陸士長が頷いた。
 見据えた先は、元・駐日仏軍第3外人落下傘連隊所属 ジョゼフィーヌ・ヴィニョル[―・―]少尉――否、処罰の七天使が1柱 “ 神の怒りログジエル[――])”。背より放たれた雷光が三対の翼を形作っており、抑制下にあるとはいえ、その羽根1つで感電死させるに容易い。
 だが、金剛丸も周防も、異口同音にシャウト!
「「――ようやく、これで終わりに出来るぜ!!」」
 ……しかし2人ともすぐにメインディッシュに取り掛からなかった。野獣の勘か、それとも予め警戒していたのか。周囲の不穏な動きに周防が誰より先に反応する。金剛丸の足を払って、地面へと倒した。
「――何しやがっ!」
 怒鳴りつけようとする金剛丸だったが、続いて襲う爆発に転がる。立ったままだと直撃を食らって、致命傷を負っていたのは間違いない。
「……天使共が最終目標だが、その前に障害になりそうな連中を殲滅するのが先だ。態勢を整えるぞ」
 周防の苛立ちに、金剛丸も犬歯を剥き出して唸る。
「――くそったれ!」
 ロクジエルを前にして、一旦退く。攻めの勢いは堰き止められ、逆に周防達の手足をもぐような苦しみとなって返ってきたのだった……。

 時は少し遡る――駐日仏軍より状況を見極めるべく展開していた、アルベール・フロケ(―・―)軍曹の分隊は、“神の杖(フトリエル)”の爆弾発言により続く恐慌と混乱において暴徒と化した維持部隊に巻き込まれていた。とりわけ敵味方を問わずといった壱参特務の強行策――敵味方問わずの無差別攻撃に、部下の多くが死傷した事に大きな喪失感を覚えた。
「――フルケ軍曹だったな。お前は敵か味方か?」
 角フレームの眼鏡を掛けた、顔馴染みの維持部隊員――第17普通科連隊・第1312中隊第2小隊長の 迫水・慧(さこみず・けい)准陸尉の言葉に、
「――貴方はどうなのです?」
「少なくとも壱参特務は敵だと認識した。亡くなったと聞いていた井伊が告発してくれた御蔭で、郷田を野放しにしていた理由がようやく腑に落ちた。第一、奴等は部下を殺した。……笑いながらだ!」
 拳を血がにじむ程に固く握り締める。
「……海田市駐屯地が消滅したらしいとの報がある。撤退するつもりだったが、状況がこうだ。混乱収拾の為にも、壱参特務を排除する」
「――共闘出来ませんか? 理由は私も同じです」
 しばしの逡巡。だがアルベールの申し出に、迫水は重く頷き返した。分かれると、お互い無線で配下に呼び掛けて、再び展開する。更にアルベールは、かつての部下へと通信を入れた……。

 壱参特務ち組長の 谷鯨林・康馬(たにげいりん・やすま)陸士長の顔色は、赤や青、そして黒くなったり、白くなったりと目まぐるしく変化していた。
「――サンダルフォンの回収を!」
「莫迦が。それどころではない。金剛丸や周防に任せて、ここは一刻も早く撤退しろ」
 混乱する状況下でもありながら、豪快に高いびきをして爆睡している第13特務小隊長の 郷田・ルリ[ごうだ・―]准陸尉を回収――89式装甲戦闘車ライトタイガーに引きずり込みながら、バルバリッチャ(悪意の塊)改め ハルパス[――]が怒鳴りつける。防弾シールドを構えた 藤・剛人[ふじ・たけと]一等陸士が流れ弾から護っているが、最前線で取り残されたような状況なのは間違いない。欲を出して、サンダルフォンの身柄まで確保しようとしたのが、裏目に出た。舌打ちしてライトタイガーに搭乗すべく振り返った瞬間、生じた爆発で谷鯨林の巨体が吹き飛んだ。3門のカール・グスタフから放たれたHEAT対戦車榴弾が相手では防弾シールドもベニヤ板に等しい。そして直撃を受けたライトタイガーは爆発四散して炎上していた。部下の殆どが血を流しながら呻き声を上げている。ルリの回収と、谷鯨林に呼び掛ける為にハッチから身を乗り出していたハルパスは、運良く鉄の棺桶から脱け出していたものの、満身創痍なのは間違いない。
「ぶっ、ぶひぃ! 愛しのマイハニーを傷付けたのは誰であるか!?」
「――そっくり、そのまま返してやる。お前等は俺の部下の仇であり、魔群の手先だ。壱参特務への射殺許可は常時出ているしな!」
 カール・グスタフを放り捨てて、迫水は9mm機関拳銃エムナインで斉射。この状況下でも目が覚めないルリを抱えると、防弾シールドで身を守りながら、谷鯨林は慌てて逃げ出した。
「待つである。聞いて欲しいのである! 先ほどの井伊冬月……いや完全侵食された超常体の発言は欺瞞に満ちているのである。先ず特務部隊は魔群と全く関わりが無いのである。その任務は天使サンダルフォンの封印の護衛だったのである」
 必死に抗弁しながら、銃弾が飛び交う中を走り抜ける。防弾シールドでカバー出来ない方向から、5.56mmNATOが跳び込んできたが、抗弾チョッキと厚い脂肪で衝撃も感じない。今はただ安全な場所へと隠れ潜み、金剛丸や周防等の救援を待つしかなかった。
「……そこに井伊は物資搬入を装い、天使を潜入させようとしたのであるが、結局、そのテロは我輩の高度な戦術眼により水際で防いだのである。……そして捕虜となった井伊は、本来即座に銃殺されるべきを、嗚呼、なんと心優しき郷田准尉は一命をお救いになられた! しかし、井伊はその恩を仇で返し、結果は御存知の通りである」
 跳び込んだ廃屋に身を隠しながら、訴え続ける。
「だが我輩達は諦めない! 郷田隊長も第一線で我輩達を鼓舞して下さっているのである。彼女こそ、まさに天使っ!」
「――寝ているけどな」
 ハルパスの冷たい指摘を、敢えて無視。
「そして、ジョゼフィーヌと井伊冬月こそ、天使、いや、あえて言おう、彼らこそ人の皮をかぶった悪魔であったと。皆、あの淫婦が背中から生やした羽を見るのである。あれが異形の証である。そして彼等は今まさに同胞を殺害しているのである! これは百万言を弄したところで偽れぬ! さぁ、立ち上がれ隊員諸君。今こそ、我輩……もとい、守るべきこの大地の為に立ち上がるのである!」
『 ――どこまで虚飾と捏造で塗り固め、罪を重なれば気が済むのです?』
 声がした。廃屋を包囲する迫水のものではない。
「井伊であるかっ!?」
 まさしく元・第13旅団第13後方支援隊・補給隊の班長(一等陸曹)であった、井伊・冬月(いい・ふゆつき)の声。だが井伊は応えず、
『……ベリスという魔王がいるそうです。残虐公を冠する、七十二柱の魔階王侯貴族が1柱。だが特筆すべきは――』
 哀れむように、言葉を続ける。
『……稀代の大嘘吐きだとか。完全侵蝕されたあなたは、まさしくベリスとなるのでしょうね』
「酷い言い掛かりである!」
『……何にしても、あなた達は御仕舞いです』
 井伊の言葉が終わると同時に、巨大な落雷が廃屋を直撃。一瞬にして崩壊へと導く。業を煮やしたハルパスが89式5.56mm小銃BUDDYを手に跳び出ようとした。
「――危ないである、マイハニー!」
 忠告も聞かずに、BUDDYを乱射しようとしたハルパス。一条の銃声が轟き、幼い肢体が宙に浮かんだ。そして地面に叩き付けられる。
『 ――対象を狙撃。命中し、射殺に成功』
 迫水の無線機に、対人狙撃銃M24の照準眼鏡を覗き込んだまま 草間・和也[くさま・かずや]一等陸士が報告を入れた。額を撃ち抜かれて、事切れたハルパスへと、谷鯨林は地面を張って近付く。涙と鼻水で顔は汚れていた。見下ろす影に気付いて、顔を上げる。エムナインの銃口が額に突き付けられた。無数の銃声が轟き、薬莢が地面に転がり落ちた。
「対象を掃討。……状況を再確認する。郷田は廃屋の中だ。排除しろ!」

 地面が抜けて身体が飲み込まれそうになるのを、転がるような勢いで回避する。落とし穴は開くと同時に仕掛けられていた地雷が爆発。爆風で火傷を負いながらも金剛丸は駆け抜けた。
「くそっ! 俺は金剛丸様だぞ!」
 疾風さえ奪い取れれば、不利な状況から脱け出す事が出来ると信じて、駆け抜けた。
「――周防! 谷鯨林! 返事をしやがれ」
『……こちら、周防。畜生っ! 部下の多くが罠に掛かって死んじまった。井伊の野郎が!』
 通信から漏れる怨嗟の声に、舌打ちしながら金剛丸は目当ての物――高機動車『疾風』を見つけた。ドアを開けて、ハンドルに寄り掛かる死骸を放り捨てると、操縦席に取り付いた。手持ちの爆弾等を確認すると、ログジエルへと向かって突撃を掛けようとする。だが発進直前で横腹に突っ込まれた。駐日仏軍の特殊車輌Phanhard社のAVXL APC(Armored Personal Carrier)。怒鳴り散らす金剛丸を見付け出したアルベールが無表情に頷く。合図を受けて、疾風ごと暴徒用ネットが被せられた。
「俺様は山口金剛丸だぞっ!」
「……知っていますよ。探していましたからね」
 ネットで包めて引き摺り出す。アルベールだけでなく、フィデール・アルカン[―・―]二等兵と バルタザール・デュラン[―・―]一等兵という猛者に左右前後を押さえられて、金剛丸は一瞬、唖然。だが、すぐに笑い出した。笑い声は爆音のように響き渡る。
「……おまえ等に捕まって殺されるのは真っ平御免だ。――俺様の名は山口金剛丸、地獄に落ちても忘れるな! いや、おまえ等、天使に味方するなら、イクなら天獄か!」
 アルベールが警告を発するより早く、金剛丸は忍ばせていた爆薬に信号を送る。そして爆発四散した。

 爆発音が1つ轟くたびに部下からの通信が途絶える。こちらも追い掛けてくる相手を罠に誘い込んで多数仕留めたが、それでも被害は甚大だ。防弾シールドや地形で相手の弾を避け、トラップを警戒しながら部下の支援を囮に接近してきた。――そして目標、井伊を見付ける。気付かれる前にM16A1閃光音響手榴弾を投擲。視界と聴覚を奪ったところで、続いてMk2破片手榴弾放り込んだ。油断せずにレミントンM870を撃ち放つ。
「……あの時、殺さなかったのを後悔しているぜ」
「――未だ倒れる訳にはいかないのですけどね」
 手榴弾の破片を浴び、そしてショットシェルを至近距離で受けた井伊は満身創痍ながらも、周防を睨み付ける目の光は衰えていない。騒音に気付いた ミシェル・ユニ[―・―]一等兵が駆けつけてくるのを察知した周防は大きく舌打ちしながらも、逃走を決め込んだ。既に逃がして退路を確保させた部下と合流出来れば、生き残る事も可能だ。もはや谷鯨林も、金剛丸からも応答は無い以上、ログジエルと決着を付けるのは叶わぬ願いだった。井伊を倒せただけ御の字である。ナイフの仕掛けを発動させて、刃を飛ばしてミシェルの出鼻を挫き、スタンロッドを叩き付けて動きを止める。そして周防は陰に消えた。
 井伊には、もはや周防を追撃する力はない。ましてや抗弾チョッキを身に着けていても、衝撃は防げず、内臓破裂は間違いなかった。それでもM24を握ると、谷鯨林達が逃げ込んだ廃屋へと狙いを付ける。屋上では、ようやく目覚めたのか、欠伸をしながら背伸びするルリの姿。ログジエルが降り注ぐ雷撃の雨の中を、何事もないように悠然と歩む。そして照準眼鏡を通して井伊と視線が合った。ルリは人を馬鹿にした嘲笑を浮かべると、戦闘上衣の前を開けて豊かな乳房を曝け出す。親指で心臓の位置を示した。
 ――そして轟雷の音が鳴り響く中でも確かに聞こえた銃声が1つ。
 ……崩れ落ちるルリの姿を確認して、井伊もまた倒れ込んだ。スタンから回復したミシェルが助け起こすのも、もはや意識の外。ただ空に浮かぶ六翼の使徒を見上げて、
「――御武運を」
 息を引き取ったのだった……。

*        *        *

 四国の北北西端――今治。本州(広島)と四国(愛媛)に挟まれた、芸予諸島(げいよしょとう)を貫くしまなみ海道の南端である地に、第2混成団から抽出された攻勢部隊が展開していた。大三島を占拠し、猛威を振るう ポセイドン[――]を攻略する第13旅団の支援要請に応じたものであり、普通寺の第9普通科連隊に加えて、第2混成団長の 綾熊・敏行[あやくま・としゆき]陸将補直属の第15特務小隊も参戦している。
 第9普通科連隊長の天幕が張られた糸山公園に、航空科の多用途回転翼機UH-1Jヒューイが降り立つ。柏原・京香(かしわら・きょうか)二等陸士は礼を言うと、逆巻く風にポニーテールを揺らしながら、天幕へと案内された。
「――柏原二等陸士です」
 生来のきつい目付きだが、敬礼する京香の様を凛々しく映えるものにする。だが応えたのは……
「あ、自分、松山とか西条の方で石土毘古封印開放と“闇の跳梁者(ハンター・オブ・ダークネス)”殲滅作戦で行動してた者っス。向こうが一段落したんで、救援要請があった、こっちに派遣されてきたっスよー。ひとつお願いするっス!」
 京香が先ず抱いた印象は、ほわほわした愛玩的小動物系の少女。ぴっと擬音が立つような敬礼をしているが、すぐにニパッとか顔が崩れるようなタイプ。
「――あ、自分、名乗ってなかったスね。ノノって言うっス! 宜しく、カッシー!」
 その挨拶もどうか。だが 藤原・ノノ(ふじわら・―)二等陸士の笑顔に悪気は見えなかった。
「……わざわざ、本州から済まなかった。さっそくだが、君は敵の首魁――ポセイドンと直接相対したと聞いている。その点も含めて、意見を聞きたい。……ああ、彼女はこれでも君と同じく、冗談抜きで最高位最上級の超常体と直接相対しながらも生き残った強者だ。SBU(Special Boarding Unit:特別警備隊)に知り合いもいるらしく繋ぎ役として出席させている」
 どもどもっス。第9普通科連隊長(一等陸佐)の言葉に、ノノが再び笑顔を振りまく。同期の友人とは違うタイプのムードメイカーだと京香は人物評価した。
「――いや、連隊長。俺も一応出席しとるのやけど。そんなに俺って影薄いん?」
「あ、しゅーちゃん二曹。いたっスか?」
「ずっと、おったわ! 俺も藤原と同じく“闇の跳梁者”撃破の功労者やで! SBUとも、高知分遣隊基地奪還作戦からの長い付き合いや!」
 没個性的な顔立ちの青年――第15普通科連隊・第15071班長の 三笠・修司(みかさ・しゅうじ)二等陸曹が悲痛な顔で主張した。連隊長が咳払いすると、ふて腐れた顔で座り直す。
「――彼等は、四国のSBU部隊に同行して、大三島攻略の一端を担う」
「え? 俺は入れ違いにあっちに行くんやけど」
 三笠が抗議するが、連隊長は聞こえなかったのか京香に話を促す。
「……彼等の為にも、北の方の作戦概要と、意見を上げてくれ」
「はっ。……北のメインは人型戦車になると思われるわ。なので、こちらは大島、伯方島を打通し、大三島南部から圧迫を加え、大山祇神社に居座るポセイドンの討伐を目指す」
 作戦目的は相違ない。連隊長をはじめ、天幕に集った隊員達は首肯した。
「――攻撃主力を2つに分ける事は、万一どちらかがトリアイナ(希臘語:三叉銛。トライデント)……江田島と、海田市を消滅させたポセイドンの攻撃を受けた場合も片方は残るようにと北も覚悟を決めているわ。ポセイドンにとっては、幾ら単体が強大であろうとも、本陣に攻め寄せられており、主要司令部が疎開して指揮系統を狙う事が出来なくなっているのだから……考えられるのは戦力そのものを叩くか、補給線を叩くか。補給を遮断するなら橋を落とすのがもっとも確実かつ効果的だけれども、もう一本ルートが残っていれば効果は激減するもの」
「……なるほど。了解した。ハズレくじは引きたくないものだが、その時は向こうの奮闘を祈って、散っていくとするか」
「――押忍!」
 連隊長の苦笑に、だが生真面目にもバンカラ風の男が応えた。第15特務小隊長、八木沢・源道[やぎさわ・げんどう]准陸尉にとって最前線で命を懸ける事が責務であり、懲罰部隊にとっての贖罪である。死線に投入されて、文字通りの血路を切り開くのは彼等の役目だ。その事に重い空気が支配したが、
「――大丈夫っスよ。ゲドー准尉は死なないっス」
 片目を瞑ってノノが、八木沢の肩を叩いた。八木沢は苦笑を浮かべながら、
「押忍。……ちなみにゲドーではなく、ゲンドウ」
「気にしちゃ駄目っスよ」
「いや、そこは気にするやろ、さすがに!」
 三笠がツッコミ、ノノがトボケる。良い意味で緊張がほぐれた。そして作戦をすり合わせ終わったのは、夜も更けての事。辞退した京香は隊用携帯無線機で、第13旅団第13施設中隊・秋吉台分遣隊へと連絡を入れる。だが――
( ……やはり、連絡が取れないわ)
 連絡を入れたい対象―― 羽村・栄治[はむら・えいじ]陸士長は先日から行方を眩ましているという。フトリエルの演説もあって脱柵した隊員も少なからず居るらしい。各駐屯地や分屯地では混乱の収拾に躍起になっているらしく、羽村の捜索も後回しに。
( 大山祇神社に潜入しようと事前に見掛けた彼――明らかに羽村士長な猫背かつ操気系能力で気配を断った男。色々と問い質したい事はあるのに……)
 両手のバンテージを巻き直しながら、京香は独りごちるのだった。

 ――山口駐屯地との音信不通。光の柱は確認出来ずとも、対ログジエル戦に失敗し、壱参特務並びに第17普通科連隊は壊滅した疑いがあり。
 岩国に仮移転した第13旅団本部からの連絡に、今治港で残存する舟艇を掻き集めようと奔走中のSBU高知分遣隊・第9班イ組長、有馬・喜十郎(ありま・きじゅうろう)海士長は眉間に皺を寄せた。
「……人間の屑だとは思っていたが、天使を倒せずに逝ってしまったか。不甲斐無い」
 状況は未だ把握出来なかったが、天使が勝ち残ったというのであれば、願いを聞き届けて貰うように努めねばなるまい。有馬は自慢の口髭を撫でながら唸る。
「……お祖父さん。いや、有馬士長。こちらの準備は整ったよ」
 ボディアーマーに身を包んだ巨漢――第4班ロ組長の 大山・積太郎(おおやま・せきたろう)海士長が声を掛ける。
「……そうか。しかし揚陸作戦の志願者が、わしと積太郎の2組――1班程度しかおらんとは」
「……仕方ないよ。元々、SBU隊員は少ない上に、舟艇も数少ないんだから」
 更に言うならば、ポセイドンは海神と謳われる以上、眷属の超常体も海棲が多い。実際、大三島の北面と西側はヒッポカンポスやネレイデスが阻んでいる。陸路や空挺以上の危険性。揚陸以前に全滅してもおかしくない作戦に志願する命知らずはいなかった。
「――いやだー! 俺は、今治に残るー! こんな無茶な作戦、成功するはずがない!」
 泣き喚く 木野・宗太[きの・そうた]二等海士を 音無・玲子[おとなし・れいこ]二等海士がなだめているが、大山と有馬の間には気まずいものが流れた。
「……残っても構わんのだぞ」
「いや、ポセイドンを倒さないと、由良ちゃんのお昼寝に安心して付き合う事も出来ないから」
 大山の言葉に、北条・定美[ほうじょう・さだみ]二等海士が手拭いを噛んで恨みがましい視線を送ってきているが、見なかった振りをして、
「……そうか。帰りを待っておる者がいるのじゃから絶対に死ねんな」
「航海や揚陸時の護衛は、僕に任せてくれよ」
「――うむ。頼りにしているぞ。敵の探知は……そういえば、慎吾はどうした?」
 有馬は定美に問い掛けるが、首を横に振るだけ。
「……師匠、遅くなりました」
「――顔色が悪いぞ。大丈夫か?」
 ようやくで顔を出した 北条・慎吾[ほうじょう・しんご]一等海士は努めて気丈に振舞っているが、額に浮かぶ脂汗は見逃せなかった。だが、
「……大丈夫です。それよりも、ポセイドン攻略に向かいましょう」

*        *        *

 生口島のしまなみ海道・瀬戸田PA(パーキングエリア)で可愛らしい声を上げるのは、白衣と緋袴に千早と呼ばれる無地の白絹を羽織った少女達。普段は油汚れた作業服に身を包んでいる事が多い所為か、異なる衣装に、周囲も本人達も喜色満面であった。
「――ポセイドン相手の必勝を祈願して〜皆を応援致しますぅ〜」
 隊員達の歓声に、第13戦車中隊・士気鼓舞組『ラヴリィガールズ』長の 綾科・那由多(あやしな・なゆた)陸士長が喜色満面で手を振った。
「――生きて帰ってきたらぁ、ボクがたっぷりサービスするのですぅ」
 大仰な身振りに、ツインテールだけでなく、隠しきれない豊かな胸も揺れる。若い男子隊員達が固唾を飲み込む音が聞こえてきたのに、護藤・みこと(ごんどう・―)二等陸士が苦笑いで頭を掻いた。絶壁に近い自分の胸を撫で下ろす。
「――いや、でも、元気さなら負けないもん」
 袖を捲くって健康的な小麦色の肌を見せると、拳を握って対抗心。八重歯が覗いて見えた。
 三軒屋の第7施設群第349施設中隊が急遽組上げた舞台には、海田市から脱出してきた第13音楽隊が音調整をしている。中心は復帰したトップアイドル、式神・ユタカ[しきがみ・―]一等陸士。華美ではないが、それでも本人の魅力と元気さを醸し出すステージ衣装に身を包んで打ち合わせをしていた。
「……ふっふっふ。ラヴリィガールズとの夢のコラボレーション! 士気を上げ、希望を繋ぎ、今まで戦ってきた理由を思い出させるのだ! あざとい? 上等! 反乱なんてくだらねぇぜ! ユタカの歌を聴けえぇぇぇ!」
「ヒートアップし過ぎよ」
 我知らず叫んでしまったみことだったが、丸めた進行表で軽く叩かれた。振り向くと、三角・ヘルガ[みすみ・―]准陸尉が微苦笑を浮かべていた。心配そうにユタカを見詰めている第13音楽隊カウンセリング担当の 速谷・光輝(はやたに・みつてる)准陸尉と、渡瀬・知世[わたせ・ともよ]一等陸士が続く。ユタカがこちらに気付いて降りてきた。ヘルガが戦況を読み上げ、知世が軽く触診する。
「……しかし、本当ならば中継地点とはいえ、戦場に出向いてもらいたくないんだけど」
 微笑を浮かべているような顔の造りから誤解されやすいが、いつになく速谷は心配していた。声を小さくすると、
「……現在、ポセイドン攻略と並行して、大山津見祇開放作戦が進められているそうです。大山津見祇が解放されるとオリンポス神群に属する……ユタカさん達も影響を受けて、下手すると消滅してしまう危険性があります」
 四国の石土毘古や、福岡の宗像三女神が解放された時の状況は報告を受けている。大魔王すらも弱体化させ、駐日エジプト軍兵士を悶死させたという話だ。しかし、
「――ええ。覚悟しているよ」
 ユタカは屈託なく笑い返した。速谷だけでなく、みことも仰天する。
「ああん、もう! 本当ならば、ユタカちゃんやヘルガさん達に可能な限り大山津見祇解放前に遠くへ退去する事を強く強く強く勧めたい!」
 ツインテールを振り乱しながら、みことは地団駄を踏んだ。そして俯くと、
「……山陽に大戦力を持ち、ゼウスもまた潜伏している以上、オリンポス神群を大山津見祇解放の際に出る影響から除外する事は出来ない。ああ、もう出来るなら何もかにも全部投げ捨てて、えるおーぶいいーらぶりーゆたかーと叫んでたいよ!」
 絶叫。ヘルガが「叫んでいるわよ」と冷静にツッコミを入れるが、みことは馬耳東風。そのままアップダウン激しく、
「……でも、そんな事、自分に許せるはずがない。皆、それぞれ最善を尽くして戦ってるんだから。……ああ板挟み」
「それでも! 僕はユタカちゃんに退去してもらいたい。だって大好きな君に死んで欲しくない」
 真顔での一世一代の告白。
「皆の為に日本原から、日本中に届くような唄を歌って欲しいんです」
 速谷の熱意に、ユタカは顔を赤らめていたが、
「……先生の気持ちは嬉しいし、みことさんの悩みも解るわ。でも、決めたの。――アタシはペルセポネー。冥界の妃にして大地の娘。アタシは歌う――それしか出来ないけど、必ず力になれると信じて!」
「……それに、日本原に退避しても大山津見の影響から免れるかどうかは微妙ですね。逆に無線を通してではユタカさんが歌に乗せる氣力付与の効果は望めません」
 しかし、と更に説得しようとする速谷を、知世が止める。微笑むと、
「光輝くんは今まで学業一筋だったから、まだ恋愛について初心ね。――好きな女の子が覚悟を決めたならば、それを黙って見守って上げるのも、男の甲斐性よ」
 速谷を補佐し、そして才能を見出した女性は、母親のように慈しむ眼差しを向ける。速谷は年相応の少年に戻って眼を涙で滲ませた。
「……ところで、大好きとか告白されていたけど。ユタカさんはどうするの?」
「う−んと。夢の中で『速谷先生とお付き合いするのも悪くないかな』って答えたけど――そうね、まずは良いお友達として☆」
 女性陣に対して、無邪気な笑顔で返すユタカ。沈む速谷に、知世が慰める。
「――光輝くんはもう少し女性という生き物を学ぶ必要があるわね」
 ……気のある言葉をもらったからといって、有頂天になって、いきなり恋人気取りでいたらマイナス効果。ようやく立った攻略フラグを自ら潰す事になりかねないので注意しよう。ましてや相手はトップアイドル。ストーカー紛いからたくさん狙われているのだから。
「さておき。作戦群長からよ」
 ヘルガがメモを渡すと、ユタカが目を通して頷いた。そして士気鼓舞の演奏が始まると、熱気と注目が集まる中、ユタカは口を開いた。
「――皆には心配を掛けたね! ユタカ、ただいまから復帰だよ!」
 老若男女の興奮の声が上がる。
「さて、いきなり、小難しい話で、アタシも困ったんだけど、よく聞いて。……皆も知っている通り、つい先日、アタシ達は天の御遣いを名乗る人から提案を持ち掛けられているわ。そしてポセイドンからも」
 フトリエルの演説、そしてポセイドンからの降伏勧告。ユタカは再び繰り返す。ざわめく一同。だがユタカは力強く笑みを浮かべると、
「――だけど! 自分の愛すべき人々、この日本を今この時に蹂躙しているモノの口約束など信ずる価値など無いと思う!! ポセイドンと呼ばれる輩を見て! 己の力を誇示する為に多くの友達が殺された……。また、一歩間違えば地獄の様なこの日本で、未来を担う我々の子供達すら大勢、殺されるところだった。そんな輩の下で奴隷として生きるなんて真っ平御免よ!!」
 呼応して拳を振り上げる隊員達。
「――そして、天使に従うならば心して! 『同胞を撃ち殺し、正義を追い求める』覚悟を! でも、アタシ達が真に欲しいのは、そんなものじゃないはず!」
 欲しいものは――!
「皆の笑顔。暖かな団欒。そして優しい温もり! だから、それを勝ち取る為に、アタシは歌う! アタシ達は歌うの! ――最初のナンバーは名曲『愛、覚えていますか』のカバー!(※註1)」

 作戦群全部に染み渡る、ユタカの歌声。瞑目して聞き入っている作戦群長(一等陸佐)に、第13戦車中隊・次世代戦車試験部隊長の 桑形・充(くわがた・みつる)准陸尉が苦笑しながら
「演説の一つもぶつように進言しておいたが……まさか、こういう手を取られるとは」
 同様に、演説の草案を提出していた第46普通科連隊・第13066班長の 大倉・隆一(おおくら・りゅういち)一等陸曹も苦笑しながら同意する。
「しかし、落ち着かせるどころか、打って変わって興奮の坩堝だな」
「――上層部が幾ら口達者に演説したところで、何を今更と逆に疑いを募らせる事もある。疑心暗鬼とは結局、そういうものだ。……そして身近に肩を並べて戦い抜いてきた戦友の言葉に優るものはない」
 上層部が敵の煽動に対して、何等有効な策を打ち出さない理由の一旦を作戦群長は渋面で口にした。
「……火事はぼやのうちに消し止めれば、被害が少なくてすむ。現状に不満を持つ者は少なくない、明確な敵と具体的な手段を与えられれば、不満が爆発して後先考えない行動に訴える奴も出てくるだろうからな。やれやれ、共産主義者共が歌った『地上の楽園』と対して代わりはせんというのに」
「まぁ、音楽隊の役割は慰問や士気鼓舞だけでなく、そういった不満から目を逸らす為の意味もある」
 作戦群長は悲しげに笑った。さておきとテーブルに広げられた地図に視線を落とす。
「――現在、瀬戸内の航空優勢は9割方こちらにある。もはや制空権を確立したといっても過言ではない」
 第13飛行隊・機種統合試験部隊の 笹山・健(ささやま・たけし)准空尉の言葉に、
「岩国の米海兵航空隊も動いているのか?」
「フトリエルのアジテーションもあって米軍上層部は沈黙するつもりだったようだが……敵にトリアイナがあるからな。天使相手はともかく、対ポセイドン戦においては米軍も支援要請に応じてくれている」
 とはいえ、笹山は肩をすくめると、
「対空がやっかいなので、ポセイドンへの直接攻撃は諦める。――存在そのものが、いかさま過ぎる」
 大きく溜息1つ。誰ともなくテーブルの端を叩くと、
「ポセイドンに流れる力を奪えるかどうかが戦いの行く末を分けるな」
 大倉が挙手。
「考え様によっては三村峠に展開している超常体は、狭い地形に膨大な戦力を集結している事になります。そして、超常体の射程兵器は人間の持つ兵器に比べて射程が短いと言う弱点があります。そこで……」
 大倉の提案が呼び水となり、議論が交わされる。
「ポセイドン自身への攻略支援は? 三村峠に集中しているとはいえ、敵超常体は膨大だ」
 色白のひ弱な手が挙がった。というか大倉に挙げさせられた。一同の注視に、天然パーマのぼさぼさ髪を青年は傍目で挙動不審な動きをするが、
「――いや、その……ぼくが海岸線から長距離射撃で支援します」
 安藤・義正(あんどう・よしまさ)二等陸士の発言に、だが桑形は微笑むと、
「――却下」
「えー?!」
「海岸線からというのが却下だ。地図を見ろ、地図を。ポセイドンが確認された大山祇神社は、大三島の西に位置しており、残る三方を山々に囲まれている。狙い撃ちならば大崎上島か大横島だが、アイギスを移送する手段がない。だから戦車隊とともに砲撃支援に徹してもらうぞ」
 海岸線からの遠方砲撃等は、野戦特科や普通科の対戦車誘導弾の出番だろう。
「――正面から圧迫をかけ敵側の戦力を誘引する。正面攻撃で迎撃を強要すれば、護衛戦力を削る結果になる。……そして山林や丘陵、遮蔽物が多い複雑な地形は人型戦車こそが最も有用なのだ。頼りにしているぞ」
「あっ、はっ、――はい!」
 そして笹山は立ち上がると敬礼。
「――では、私は広島空港に戻り、準備を進めます。皆さん、御武運を」
「「「――御武運を!!!」」」

*        *        *

 ……気が付いた、というのは大変な語弊があるが、殻島・破音(からしま・はおん)二等陸士の意識は薄暗くて、仄明るい、空間を漂っていた。
「一名様、ごあんなーい」
 声の方に振り向くと、虹色に鈍く光る銅のニシキヘビを全裸に絡ませた、巳浜・由良[みはま・ゆら]海士長が万歳をして……
「――って、シーン描写の使い回し! ドリーミング空間で電波だからこそ口から出せるメタ発言!」
「あはっ。ば〜れ〜た〜」
 ……破音が普通寺駐屯地に由良を訪ねたのは、夢の世界にてポセイドンの弱点を見出そうとする為であった。ロジックよりもフィーリングで仲良くなった由良は破音を導き、深く、浅く、意識を沈めて……
「――ここが。あっ、注意点の再録は無用だよ」
 両手を交差してバッテンを形作ると、由良は唇を尖らせた。だが、すぐに笑みを浮かべると、寝惚けた眼で下(と感じた)方を見遣る。
「きたよ〜。あなたの親であり、あなた自身であり、そして、あなたの敵が」
【 ――来るぞ。油断するな!】
 肩の辺りにいたモモンガ……のようにも、リスのようにも見える存在が破音に警告を発する。大地母神、怪物達の母、蛇神、蝮の女…… エキドナ[――]が意識の奥底より浮かび上がってくるのだった。

 ――戦いで消耗したが、己自身とひとつとなった事で確たるものを得た破音。飲み込まれ、そして飲み込み、半身が蛇のそれとなったが、破音として在る。
「――戦闘はぁ、四国:オセアニア編の最終回ノベルでお楽しみ下さーい」
 由良が明後日の方向に呟く。さておき、
「……ポセイドンの力を感じるよ。こっちだ」
 ヘシオドスの叙事詩『神統記』によれば、エキドナはポセイドンの系譜に連なる。エキドナに限らず、希臘神話の怪物の多くは、ポセイドンに繋がると考えれば、如何に零落もしくは貶められたかが窺がえると言えるだろう。
「ポセイドンが覇権主義に陥ったのも、ゼウスやアテナに苦汁を舐めさせられた反動だよねー」
 納得はするが、同情はしない。エキドナともなった破音はポセイドンの存在を見出した。だが夢の世界であっても、近付いて介入するには危険過ぎた。それほどまでに強大な存在感。ポセイドンの存在へと、強大な力が注ぎ込まれている。いや――
「……奪い取っているんだ。つまり力の源に、大山津見がって、何これ!」
 意識を力の源へと向けようとした瞬間、引き裂かれそうなほどの憎悪を受けた。封じられ、ポセイドンに力を奪われながらも、だが劣る事なき憤怒の存在。猛る山であり、かつては荒ぶる海を統べる祇。
「――起こしちゃいけない。鎮めるには莫大な犠牲が必要になる」
「……そう。起こしちゃいけないよね。如何に“子”に当たる日本人でも、鎮魂の儀もなしに、しかも対等に交渉出来るなんて驕った態度に出れば、大目玉を食らっちゃうよ。ね、エキドナ?」
「……俺の背後に立つな。それと、その名で呼ぶな」
 太い眉をした、隔離前でも指折りの暗殺者を真似た劇画調の印象で、破音は応える。すぐに顔を崩して、
「――ヘルメス。オリンポス十二神の1柱が、夢の世界にお出まし?」
「そこの世界に、ボクを受け入れる肉体が無かったからね。こういう形でしか接触出来ない。こちらの世界に戻ったアテナ姉さんもキミに会いたがっていたけど、『遊戯』のルール上、もう接触する事は許されないんだ。御免ね」
 美少年―― ヘルメス[――]が屈託なく笑う。一見、無邪気な童のようにも思えるが、百目巨人アルゴスを殺した強者。そしてアルゴスはエキドナを殺めている。神話での力関係で言うならば、遥か上位に当たる存在。
「伯父さんの力を弱める事は邪魔しない。だけど夢の世界では心の強さもそうだけど、存在感が何よりも大きいから、近寄るだけで飲み込まれちゃうよ。力の供給を断つには、そこの世界で直接に流れを断つしかないね。でも鎮魂の儀式も整っていない状態で、荒御霊となっている大山津見を開放したら駄目だよ。間違いなく、ポセイドン伯父さんだけでなく、ハーデス伯父さんにペルセポネー義伯母さんも、それからゼウス父さんやアポロン兄さんやアルテミス姉さんも……皆、死んじゃうね。キミは四国にいるから影響下を免れるだろうけど」
「――ゼウス達は生きているの? 那岐山で?」
 破音の追求に、ヘルメスは困った顔をすると、
「半死半生、半夢半醒だよ。アテナ姉さんが騙されたほどだ。……父さんは、ヒュプノスに化けた“這い寄る混沌(ニャルラトホテプ)”とポセイドン伯父さんとの罠に掛かって、意識を夢の世界に囚われ、肉体は石化されている。受容体は、健常な状態であれば、そこの世界で力を発揮する器だけど、見方を変えれば檻だ」
 ゼウスは顕現したものの、意識を離され、肉体を身動き出来ない状態のまま、那岐山に封じられているらしい。完全に死なせてしまえば元の世界に戻るのだろうが、それはオリンポス神群が『遊戯』で敗北した事に繋がる。少なくとも現在、アポロンとアルテミスはゼウスを死なせないように護り続けているらしい。
「ゼウスは復帰出来ないんだね?」
「――もう無理じゃないかなぁ。復帰しても『黙示録の戦い』に間に合わない。悪足掻きしても、準備不足のままヘブライ神群や、ルキフェルの配下に襲われて終わりだよ。――アテナ姉さんか、そこの世界の人間達の手に掛かって死ねば、良かったんだけどね。誰も那岐山まで偵察にも来ないし。このままタイムアウトだね」
 ヘルメスの言に嘘がなければ、ゼウスの件は終了だ。もはや時間切れで手の打ちようが無い。ゼウス達は『黙示録の戦い』まで無為に生き残り、そして殺されるだろう。だが、そこに人間が勝ち得るものはない。
「――話は戻して、ポセイドンだけど」
「あ、うん。ポセイドン伯父さんも随分と強気に出ているけど、終わりじゃないかな? 知らなかったとはいえ、ペルセポネー伯母さんのいる場所を狙ったのは失敗したよね。あの温厚なハーデス伯父さんを怒らせちゃったんだもの」
「――ハーデス強いの?」
 ヘルメスは頬を掻きながら苦笑。
「――強いよ。オリンポス十二神の座を辞してまで、唯1柱で奈落(タルタロス)を監視しているんだ。その実力は……推して測るべしだね」

*        *        *

「蒔かれた者」という意の名を付けられた超常体スパルトイの正体は、成人男性の親指大という小型の異形系憑魔核である。無機物や死体に取り憑いた異形系核は己を生かす為に滋養を求めて、生命体を襲う。餌を求めて維持部隊に群がり、向かってくる姿は、さながらゾンビ映画のソレだ。
「――LAM用意!」
「「「押忍っっっ!!!」」」
 八木沢の怒号に、壱伍特務隊員が応じる。後方へとカウンターマスを飛ばして、110mm個人携帯対戦車榴弾パンツァーファウストIIIからロケット弾が撃ち出された。
「――ペイロードは弾数が貴重ゆえに温存して。元よりスパルトイには効かないけど」
 京香の言葉に首肯。吹き飛ばされたスパルトイの群れへと八木沢達は破砕鎚を手にして突入していく。
「――ラッシュ、ラッシュ!!」
「跳ね飛ばせ! 轢き潰せ!」
 壱伍特務が開いた来島海峡大橋を、第9普通科連隊員が搭乗した疾風や96式装輪装甲車クーガーが通過。京香も便乗させてもらい、大島に上陸を果たした。
「……伯方島をも打通するに掛かる日数と時間は?」
「最低でも3日」
「遅いわよ!」
「無理を言うな。航空偵察によれば、大島と伯方島にキュクロプスの姿を確認している」
 上空を笹山が率いるF-15Eストライクイーグルだけでなく、米海兵隊のAV-8BハリアーIIもまた飛び回る。発射された空対地ミサイルがキュクロプスを薙ぎ倒すが、投石による撃墜も少なからず出ていた。
「――タロス確認!」
 京香は疾風から身を乗り出すと、パンツァーファウストを構えた。周囲の部隊がBUDDYをタロスへと撃ち込むが、まさに豆鉄砲。だが気を引くには十分。操縦士が巧みな運転で回り込むと、京香は脚に向けて叩き込む。タロスという名称だが神話のオリジナルとは別物だ。むしろ大型のスパルトイや、鎧を着込んだ火炎系を有するキュクロプスという感じ。従って踵という神話上の弱点を狙っても意味がない。
「――それでも、気休め」
 脚を傷付けて動きを止める。八木沢が手にしたXM109ペイロードライフルで25×59BmmNATO HE弾を叩き込んだ。京香の搭乗した疾風は踊るように路上を回転して大三島へと一気に加速。続く疾風やクーガー。
「――こちら、笹山。第9普通科連隊は予定通りに大島を突破の模様。支援空爆を続ける」
『 ――了解した。多々羅大橋でも激戦中。こちらにも幾割か回してくれ。サンダーボルトの対地攻撃だけでは追い付かない』
「――Roger.」
 笹山は操縦桿を傾けると、合わせてストライクイーグルの機首が1時の方へと向けられる。
「――ズバッ刀!」
 掛け声に気合を乗せて刀を振り下ろす。叩き切るのではなく、裂き斬る。キュクロプスを両断すると、20式人型戦車アイギス2号機――那由多は踏み込むペダルの勢いのまま、橋上を駆け抜ける。足元にまとわりつこうとするのはアラクネの群れ。
「――邪魔ぁ!」
『右にずらせ!』
 指示に、アラクネを振り払いながら機体を右に跳躍。橋を揺らしながら着地と同時に、桑形の指示を受けた戦車随伴部隊が96式40mm自動擲弾銃を撃つ。放たれたグレードは炸裂し、アラクネの群れを吹き飛ばした。それでも雲霞のごとく迫りくる小型超常体。
「――うわぁん。数は暴力ですぅ」
「それでも、ここは負けじと突貫!」
 大倉の合図に、坂本・護[さかもと・まもる]二等陸士がライトタイガーのアクセルペダルを踏み込んだ。
「荒れるぞ! とにかく撃ちまくれ」
 大倉の怒号に、第13066班員はガンポートから突き出したBUDDYの銃口から、5.56mmNATOをバラ撒いた。周囲を群がるアラクネに対して外す事がおかしい。
「――味方を孤立させんな。俺等も突っ込むで。ハチヨン用意!」
 疾風を駆り、三笠は部下にカール・グスタフを構えさせる。
「――対岸占領! 戦車を通すんや!」
「……た、隊長。アレ!」
 アレ? 突如として周囲を暗くする影に三笠は振り仰いだ。タロスが手にした直剣を振り下ろそうと……
『 ――させるかっ!』
 安藤の駆るアイギス3号機が20式37mm小銃で狙い撃つ。胸部を穿たれたタロスが後ろに向けて崩れ落ちた。その間にも那由多がキュクロプス相手に大立ち回り。足下を逃げ惑うアラクネを、大倉や三笠といった普通科隊員達が掃討。
「――多々羅総合公園跡地に到達。主賓を迎えろ」
 上浦中学校跡地にラベリング降下し、大三島に橋頭堡を築いていた部隊と合流。桑形率いる第13戦車中隊・次世代戦車試験部隊、M1A2エイブラムスSEPの勇姿に歓声が上がった。

 今治から出港したSBUの舟艇は、老朽化した漁船だった。有馬が舵輪を回す隣で、初めて海に出たノノが船酔いで顔を青褪めていた。
「……ヒっ、ヒロインとして、ここで吐くとか醜態を見せる訳にはいかないっス」
「……誰が、ヒロインじゃと?」
「……大丈夫なんスか、本当に?」
 乗っておきながら、今更後悔しているノノ。
「播磨の海で鍛えられたわしにとっては、この程度の海など凪も同然じゃ!」
 笑う有馬だが、眼は緊張を忘れていなかった。海棲の超常体への警戒は当然の事だが、慎吾の憔悴が気に掛かる。無理はさせられないが、かといって航海において慎吾の操氣系探知能力は必須だ。
「――師匠。11時の方角にセイレーンが3体。海中にヒッポカンポス2、ネレイデス3」
 脂汗を垂らしながら、慎吾が警告を発する。
「――聞いたか、積太郎?」
『 ――解った。迎撃する。今こそ人間魚雷の力量を見せよう!』
「……それって帰ってこれないんじゃないっスか?」
 船酔いで呻きながらも、BUDDYを構えながらノノが律儀に突っ込み。……そうだね、魚雷だと帰って来れないね。改めて、
『今こそ水陸両用MSズ●ック型ヒューマンの力量を見せよう!』
 断っておくが人間はそもそも最初から水陸両用である(呼吸や水圧の問題はさておき)。……ともかく潜水用具に身を包んだ大山は、水流を操りながらも、ヒッポカンポスやネレイデスから漁船を護り抜いてみせた。漁船は海の警戒陣を突破して、旧・宮浦港湾に辿り着く。湾から立ち昇る大渦巻きの柱を苦々しげに見上げながら船から降りる有馬達だったが、
「……師匠。残念ですが、僕の船旅はここまでのようです」
 苦しそうに荒い息を吐きながらも、慎吾が笑う。察した有馬と定美、そして揚がってきた大山が息を飲んだ。操氣系は探知能力だけでなく防護や回復にも優れるが、ソレを行使するという事は半身異化をし続けている事に変わりない。攻撃に参加させなければ安全という訳ではないのだ。ましてや慎吾はレヴィアタンやデカラビアから発せられた強制侵蝕を身に浴び続けてもいる。もはや終わりだ。無事に揚陸成功まで意識を保たせていただけでも幸いだった。
「――御武運を」
 慎吾は9mm拳銃SIG SAUER P220をこめかみに当てると微笑み、そして引き金を振り絞った……。
「……済まん。わしの配慮が足らんかったばかりに」
 黙祷、そして敬礼を送る。
「――必ずや、目的を果たそうぞ」
 頬を伝うものを拭う。有馬とノノ、そして大山は立ち上がり、目的に向かって分かれて行動を開始した。

 彼方へと声が広がり、歌が空を舞う。息切れも構わぬ隊員達は口ずさむ。曲が運んだ歌は活力となり、戦士達の希望と変わる。死地へ赴く勇気ではなく、生きて帰る為の約束。護り、護られ、生かし、生かされ合う、熱く、暖かな夢。
「……生口橋で歌っただけでも危険なのに、最前線で、しかも戦闘中にも演奏し続けるなんて!」
 気を揉む速谷に、だが熱唱するユタカを、ヘルガは目を細めて見遣りながら
「――ユタカさんが望んだ事よ。そして私はそれに反対する気は無いわ。本当にユタカさんを遠ざけたいのならば、力尽くで四国なり山陰なりに拉致誘拐するべきだったわね。式神三佐も協力したのに」
 ヘルガの指摘に、速谷は唇を噛む。
「気持ちは解るけれども、少し強引さが足りないわ。ああ見えても、ユタカさんには被虐嗜好あるのよ?」
「……とんでもないカミングアウト来ましたね」
 ヘルガは自らの髪を弄りながら、
「第一、愛の告白をすれば女はイチコロ。何でもかんでも聞いてくれる……と思っていたところが甘い。そして既に死すら覚悟済みで前線に赴いてきた少女に向かって『ここは危ない』なんて解り切った事を告げても、説得材料にならないわ」
 海田市で助け出されたユタカにヘルガは問うたのだ。前線に赴くという言葉に「下手をすれば、貴方も」と。だがユタカは覚悟を瞳に湛えて微笑み返した。その場に速谷はいなかったが、周りにいた者は皆、見聞きしていた事だ。知らなかったとは言い訳にはならない。
「――そんな事では、ユタカさんの恋人になるなんて当分先だわ。望みなしでは無いけど」
「だけど今からでも逃げれば間に合うかも……」
 速谷の抗弁に、だがヘルガは冷たく笑うと、
「大丈夫よ。――羽村士長が今月に入って秋吉台から行方不明という報告が1つ。そして先にポセイドンと対決した先遣部隊からの報告で、姿を完全に消した男がいたという報告が1つ。特徴も符合する。……羽村士長は、現在、大三島にいるわ。ポセイドンが奪う力の源を断つのが目的ね」
 だから大丈夫だと? 完全侵蝕された羽村は ハーデス[――]と意識統合したと密かに聞いている。ならば危ないのは羽村も同じはずだが……
「――まさか!?」
「そう、貴方達、人間にとって残念な結果となるわ。ポセイドンへと流れる力を断つ事が、即ち大山津見解放に繋がらない。みことさんも考えが甘かったわね」
 ヘルガは魔女の光を湛えると、
「――ハーデスと戦う事まで想定していたかしら? そして貴方達は希臘の神々が最も恐れるものを知らない。それは……」
 ……ウラノスはクロノスに、クロノスはゼウスに。ティターンに封じられたキュクロプスとヘカトンケイルはオリンポスに味方し、怒りに満ちたガイアから産み出されたギガンテスはオリンポスに叛乱を起こし、テュポーンは猛威を振るった。希臘神話は弾圧と報復の繰り返しだ。そして――封じられ、力を強奪され、子とも言うべき日本人の虐殺に使われた大山津見の怒りは如何ばかりか。
「……ハーデス様は、御自身の大事なものを、気付かれないうちに護ろうとしているだけよ」

 大三島橋近くにある小高い山の麓に木々に囲まれるようにひっそりと残る鳥居――横殿宮跡。少し離れた場所にある「みたらしの水」は海水の中から湧きでる真水であり、大昔、神が禊をする為に清水を湧き出させたという伝説を持つ。
「……かつてポセイドンはアテナイの丘を打って塩水の泉を湧かせたというけど、その逆に海岸で真水を湧かせるこの水脈には関係がないかと思ってきたけど」
 伯方島を打通する第9普通科連隊を出迎えるべく、大三島南部に割かれた部隊に混ざったみことは偵察がてら寄ってみた。ポセイドン攻略に繋がると思ったのだが……既に水は枯れ果て、かつての面影がない。
「――それに具体的にどうすればいいか判らないんだよね。結局、様子を見るだけか」
 諦めて帰ろうとした時――痛みと衝撃が走った。
 憑魔活性化による痛みと衝撃。枯れたと思われた水が湧き出る。更に、
「――ッ!」
 湧き水が、噴水と変わったのだ。噴き上がる水は流水となり、水流は龍蛇となり、そして女性の立像を作り上げる。
『交神を望む者は貴方……?』
「あなたは……」
『妾(わらわ)は、弥都波能売。水の清き流れを司りしモノ。よしなに』
 女性像―― 弥都波能売[みづはのめ]は微笑んでみせる。
「……弥都波能売? えぇと……あなた様はここに封じられているのですか?」
 いいえ、と弥都波能売は首を振る。
『妾は今もなお封じられたままですが、そもそも水と風は太古より情報を媒介する流れ。限定的ではありますが、その力は封じられた身でも使う事が出来ます。――そして此処は、汝の言葉を借りて解かり易く言うならば、情報端末と言ったところでしょうか。今の妾は言うならば“ほろぐらふ”のようなものです』
「つまり……弥都波能売様御自身は封じられて直接動けないけど、ホストサーバーとしては健在しており、水流というネットワーク機能を使用して、社殿や名所といったコンピュータ端末から情報を引き出したりする手助けが出来るという訳?」
 何だか、神という存在が身近に感じられてしまう。
 この世界において、霊や魂の存在は未だ肯定されていない。そして超常体のように、如何に力ある存在と雖も、構造や形態は異なるが肉体組織を持つ物理的な存在でしかないのだ。
 つまり日本古来の神々もまた同様なものだというならば――。神とは、超常体とは、そしてこの世界とはそもそも何なのだろう?
「……まぁ、いいや。それは置いといて、大山津見様の解放なのですが……」
『兄祇様――大山津見の怒りは凄まじく、人に仇なす荒御霊と化しております。鎮めの儀なくば、敵するもの全てを滅ぼすでしょう』
「つまり神の解放に伴う影響は神の怒り、蓄積された鬱憤の爆発だというのは間違いない? でも『遊戯』に関わらない存在を対象外に、というのは……」
『 ――愛する子とはいえども、そもそも人が神祇と対等に交渉出来るとお思いですか? 鎮められて和御霊となれば耳を傾けてくれましょうが、兄祇様が怒りにより荒御霊となっていれば……諦めなさい』
「土下座して、嘆願しても?!」
『……残念ながら、それだけで鎮められるほど神祇の怒りは甘くありませんよ』
 優しく、だが厳しく弥都波能売は答える。やがて水は崩れ、……場に残るはうなだれたみことだけだった。

 三村峠に集結した両陣営の交戦は、どちらともなく自然と開いていった。前衛のキュクロプスが圧迫し、後衛が放物線を描いて投石する。木々や坂道をアラクネが埋め尽くし、枝々や空をセイレーンが飛び交う。
「敵の浸透を許すな! 弾幕薄いぞ」
 5.56mmNATOや7.62mmNATOがバラ撒かれる戦場。双方で血と肉が飛び散り、呻き、叫びが沸き上がる。
 ……三村峠から遥か西、ポセイドン陣営の膝元では、行く末を占う2つの作戦が開始されていた。
「――こちら、第9班イ組。これより、大山祇神社に裏手より突入する」
 有馬の合図に、第9班イ組のみならず、船酔いから復活したノノも頷いた。そしてイイ笑顔で、
「あ、ちなみに石土毘古様の封印を開放した時の巫女服が、まだありますので着ておくっス☆」
 ちなみに、この衣装。山陰に向かった男が用意したものであり、ノノは返しそびれて、そのままちゃっかり自分の物にしているだけである。さておき、拝殿と神門前の大楠――乎知命手植の楠にポセイドンが座しており、大山達が攻撃して引き付けている。その間に有馬達が拝殿後方の玉垣内にある三島宮(本社・上津社・下津社の総称)へと向かう。不意に人が増えた感じがして、有馬は思わず口にした。
「――慎吾か? いや、違うのぅ。誰じゃ?」
「……失礼。姓名は羽村栄治。階級は陸士長。所属は第13施設中隊。先日より侵入して情報収集に当たっていたんだ」
「噂のえーちゃん士長っスね」
「……先ほどから連絡を入れていたが、返信がなかったのじゃがのぅ」
「そうだったの? 御免、無線や情報端末の類は置いてきていたんで」
 羽村は延びっ放しの髪を掻く。さておくと、
「――大山津見が封じられているのは本殿。護りはオリオンとグラウコス、そしてスキュラと名乗る魔人の3体。グラウコスとスキュラを頼むよ。異形系だ」
 返事をする間もなく、再び姿を消す。有馬は難しい顔をしたまま、突入を指示した。閃光音響手榴弾を放り込むと同時に、定美が炎を放つ。果たしてスキュラと思しき女性を庇って、青年に火が移った。奇声を上げたスキュラの下半身が無数の犬の群れと化して襲い掛かってくるが、
「――させないっスよ!」
 煙に乗じて回り込んだノノが電圧一杯にしたスタンロッドを叩き込む。悲鳴を上げるスキュラに、定美の火力を纏った有馬が組み付く。上背の膂力だけで放り投げると床へと叩き付けた。業火が憑魔核を、そして石化していく部位を焼いて崩していく。やっとの事で炎を振り払ったグラウコスだが、第9班イ組員が容赦なく銃弾を浴びせられて衝撃でたたらを踏んだ。異形系能力を回復に費やしているのだろうが、スキュラを打ち倒した有馬が老齢とは思えぬ鍛え上げた動きで制すると、スキュラと同じく憑魔核を焼き崩す。
「――えーちゃん士長は!?」
「……キミ達の御蔭で、オリオンの不意討ち成功。異形系はさすがにボクでも厄介だからね」
 姿を現した羽村はノノに微笑むと、だが視線を奥へと向けた。ノノが近寄ろうとするのを制して、
「……さて。御協力に感謝して、ポセイドンが大山津見の力を奪っている流れを断つよ。……大丈夫。この為に前以って潜入し、準備していたのだから」
 羽村が手をかざすと、念を凝らし始めた。引きずられてノノと有馬達の憑魔核にも活性化とは異なる衝撃と鈍い疼痛が走る。だが秒針が一回りするぐらい経った時、身体が軽くなった。羽村は息を吐く。
「――これで流れを断った。もはやポセイドンが大山津見から力を奪う事は出来ない」
「そして、解放っスね」
 ノノの言葉に、だが羽村は前髪に隠された眼に険しいものを浮かべて、
「――残念だけど、大山津見にはこのまま封じられていてもらうよ」
「……何じゃと?」
「永の封印と、ポセイドンによる力の略取で、大山津見の怒りは頂点に達している。先日から氣で探っていたから間違いないよ。荒ぶる大山津見は解放と同時に攻撃的な波動を放ち……ある少女を危険に晒す」
「確かに、大山津見祇様の怒りは尤もじゃが、詫びを入れれば……」
「そうっス! 巫女衣装も完備っスよ」
 だが羽村は厳しい表情を崩さない。
「詫びの言葉1つで鎮められるとでも? そしてキミも形だけでも儀礼がなければ、それはコスプレどころか、ただの衣装に過ぎない」
「石土毘古様は……」
「状況が違うよ。聞けば“闇の跳梁者”は封印と監視していても、石土毘古自身には手を出さなかった。だがポセイドンは違う……」
 有馬が指示するまでもなく羽村を銃口が取り囲む。
「考えてみて。動きを封じられたキミ達の眼前、奪い取られた銃で子供や孫を撃ち殺される状況を。大山津見が憎悪に満ちた怒りに囚われているのは必然だ。そして希臘の神に連なるものは復讐があると当然と考える。――だから鎮められないままで大山津見を解放させない。キミ達は大山津見を誠心誠意で以って鎮める為の覚悟と準備をしてきたのかい? そうでなければボクは力尽くでも封印を維持させる!」
 銃口を物怖じせずに羽村から波動が発せられた。有馬と定美が激痛で崩れ落ち、床に這いずり回る――強制侵蝕現象。第9班イ組員が反射的に引き金を絞るが、波動は攻撃と共に防御になる。氣の壁が銃弾を弾いた。独り侵蝕の影響を受けないノノだったが、姿を消した羽村を見失い――後頭部に鈍痛を覚え、そして視界が暗転した……。

 旧・宮浦港湾に立ち昇っていた大渦巻きの柱。次第に勢いを失い、そして轟音を上げて崩れ落ちる。その水飛沫は三村峠まで掛かりそうな衝撃だった。
「――津波の危険は?」
「笹山准尉からの観測によると、大山祇神社が被ったようですが、こちらまでは」
 渦の柱が消失した事を受けて、超常体達に動揺が広がる。だが、
「――おかしいな。大山津見祇が復活したのならば、超常体を一掃するほどの波動も発せられるはずだが」
 桑形は怪訝な表情を浮かべたが、すぐに気を引き締め直して、
「敵は浮き足立っているぞ。この機会を逃すな! 全身全速、砲撃準備!」
『 ――Panzer Vor!』
 エイブラムスをはじめとして、74式戦車が蹂躙を開始する。戦車だけではない、クーガーや疾風から降車した普通科隊員を引き連れて、ライトタイガーもまたアラクネの掃討に乗り出した。
「上空からでは観測出来ない巨人の密集地点を、アイギスや特科に送れ!」
 半身異化をしFN5.56mm機関銃MINIMIを片手で構えると、大倉は続く部下に号令を掛けた。203mm自走榴弾砲サンダーボルトから放たれた猛威は、キュクロプスを吹き飛ばす。
「……大倉班長。化けクジラが襲ってきます」
「それはまずいな。笹山准尉に空爆を頼むか」
「――既にやっています!」
 鯨に似た巨体を持つ竜ケートスが咆哮を上げながら三村峠を押し潰さんと迫り来る。エイブラムスの44口径120 mm 滑腔戦車砲でも勢いは止まらない。
「――そこに出るのがぁ、ラヴリィ・ガール!」
「アイギスでしょ!」
 安藤の支援射撃を受けながら、那由多機が踊り出る。機械人形の鈍重さを払拭するような跳躍。自重も合わせてズバッ刀で斬り込んだ。
「――跳び込み面打ちですぅ。続いて胴払い!」
 胴か頭か、判断し辛いが、那由多は操縦桿とスロットルを巧みに操作して、ズバッ刀による極至近距離での斬撃戦。皮を裂き、肉を削り、骨を穿つ。体液を撒き散らしながらも暴れ回るケートスに、駄目押しとばかりにミサイルが叩き込まれた。
「――喰らったか! 切り札のシーバスター!」
 思わず車内で腕を捲くる桑形。要請していた88式地対艦誘導弾が正確無比にケートスへと大打撃を与える。それは四国からの増援――第9普通科連隊と壱伍特務との合流が果たされた事を意味する。
「――ナパーム弾投下の許可は!?」
『……気持ちは解りますが、マーベリックで我慢して下さい、笹山准尉。米軍も遠慮しているんですから』
 苦笑で返すと、笹山も上空からケートスへと一撃を放って戦域を離脱。特科や機甲科の砲撃や、アイギスの斬撃でケートスは悪足掻きも虚しく弱っていく。
「――脳天空断ち割りですぅ!」
 ついに那由多機が振るった渾身の一撃が、ケートスに止めを差す。歓声が、戦場を支配する歌と共に響き渡った。

 大山祇神社の境内――乎千命御手植の大楠を前にして、大山とポセイドンとの間に攻防戦が繰り広げられていた。大山は防弾シールドを構えて肉薄。間合いを詰めて正面からポセイドンへと、もう片手で構えたブローニング12.7mm M2重機関銃キャリバー50を撃ち放つ。M2徹甲弾のガンベルトが遊底に吸い込まれては、空薬莢を撒き散らしていった。幾ら氣の障壁を張り続けていても、対装甲板の貫通力を有する12.7mm×99弾だ。衝撃にポセイドンが渋面を浮かべ、障壁から放射へと氣を転じた。だが重量ある大山を吹き飛ばす事叶わず、地面に跡を残すだけ。それでもポセイドンにとっては充分。氣を凝縮させて生じたトリアイナを大山へと叩き突けようとする。
「――危ねぇ!」
 だが木野が投擲した閃光音響手榴弾が割って入り、ポセイドンの視界と聴覚を僅かでも奪った。大山は大地を蹴って、大きくバックステップ。直撃を避けたトリアイナが大地を穿つ衝撃の中、キャリバー50を放り捨てて、代わりに玲子が給弾し終えた自動擲弾銃へと手を伸ばす。
「――小賢しい!」
 ポセイドンの拳。小振りながらも氣をまとった拳は咄嗟に構えた防弾シールドを貫通――内側で衝撃を爆発させた。よろめく大山の腕を取り、固め、関節を極めて組み伏し、折ろうという動き。だがポセイドンのパンクラチオンに対して、祖父譲りの柔道で脱け出す。木野が援護射撃してくるが、ポセイドンの発する氣の障壁とボディアーマー、そして頑強な肉体に対して、5.56mmNATOでは豆鉄砲に等しい。更に敵の増援としてアラクネやセイレーンが邪魔をする。
「――最初は『げ、組長強力じゃん。なら最初から本気で戦え!』とか思っていたけど……」
「そうですね。そういえば組長が戦っているのをあんまり見た事なかったですけど……」
 それでもポセイドンは強かった。さすがに凶悪なまでの火力でゴリ押しすれば傷付ける事は出来る。極至近距離で浴びせたキャリバー50の連射痕は、間違いなく血を流させている。
「――だがそれでも致命傷に至らない」
 異形系ではないが、剛健な氣力がポセイドンを地に付けようとしない。渦巻きの柱が消失し、トリアイナの威力が落ちている(でなければ一撃で大山は消失していた)事から、有馬達が供給源を断ったのは間違いない。だがポセイドン自身は弱体化されておらず、
「――先ほどの強制侵蝕現象の波動。何がお祖父さん達にあったんだろう……?」
 憔悴感が募るが、ポセイドンもまた余裕ある態度とはいえなかった。時折、奥の本殿を気に掛けている様子がある。
「……ハーデスか。暗い地底に引き篭もっていれば良いものを、この期に及んで忌々しい!」
 吐き捨てるとポセイドンは大山を睨み付ける。アラクネとセイレーンが十重二十重に囲んできた。木野が泣きべそを掻きながらもBUDDYを構え直し、玲子がP220を抜く。大山も捨て身の覚悟を決めた。厳しい表情のままポセイドンが手を振り上げると、一斉に超常体が襲い掛かって……
 その時――砲と思わしき銃声が轟いた。ポセイドンの左手が血と肉片を撒き散らした。激痛にポセイドンが叫びを上げる。
「――間ーに合ったでー! ……ちょっと外したな」
 けたたましい爆音を鳴り響かせながら、疾風が境内に突入。激しく揺れ動く車上だというのに、三笠は対物狙撃銃バーレットM82の狙撃を敢行。厚く凝縮された氣の障壁を貫いて、ポセイドンに傷を負わせた。そして同乗させてもらっていた京香がパンツァーファウストを超常体の囲みへと叩き込む。超常体が吹き飛んでいる間に素早く降車した第15071班が掃討を開始。
「――今だっ!」
 混乱した状況を利用して、大山はポセイドンへと跳び込み、そして組み付く。
「SBU基地の時のように気絶させるだけにはいかない。たとえ神だろうが首をへし折れば死ぬ!」
「――叩き潰されるのは、お前が先だ!」
 組み打ち、押し倒し、引き崩し、取り合う、徒手格闘戦。三笠といえどもポセイドンだけを狙い撃つのは不可能。もはや両者の戦いに誰も手を出せないと思ったが――
「……メドゥーサがあなたを待ってるわ」
 巧みな体捌きと歩法で両者の間合いに潜り込むと、京香はポセイドンを挟撃。巻いていたバンテージが内側から腐れ落ちる。そして半身異化した刀拳を全力込めて叩き込んだ。如何に厚く凝縮された氣の膜に覆われていようとも、大山との戦いに意識を奪われ、また三笠によって奪われた左腕の痛みが、ポセイドンの集中を散じさせていた。京香の呪言チョップを受けて顔色を青黒くしたポセイドンは吐血。そして首を極め、固めた大山が全重量を乗せて地面に投げ下ろした。鈍い音が響き渡る。
「……映画のようにバギーを突っ込ませるという熱いシチュエーションも考えとったけど……残念や。必要ないようやな」
 軽く笑うと、三笠はM14焼夷手榴弾を念の為に放り投げる。ケートスが倒された地響きと、歌に乗った歓声が聞こえてきた。こうして、大三島攻略戦は終了したのだった……

*        *        *

 ……広島航空基地で笹山が溜め息を吐いた。
「やはり離陸許可は下りないのか」
「申し訳ありませんが……上の命令により航空燃料の供給すら出来ません」
 ポセイドンとケートスを倒した時点で、大三島攻略戦終了と判断された。主力の第46、47普通科連隊は岩国に。特科と機甲科も日本原へと引き上げてさせられた。増援の第9普通科連隊や壱伍特務も同じだ。
「――大山津見様を残念ながら解放出来なかったっス。えーちゃん士長の莫迦野郎っス!」
 愚痴るノノに、みことと京香が難しい顔をした。
「……生き残ったら、羽村士長を一人前の男にするプロジェクト推進しようと思っていたのに」
「先ずはお友達から始めようと思っていたわ」
 2人とも大きく溜め息を吐く。結局、羽村が見張りに付いた大山津見の封印は今なお施されたまま。有馬が再戦を希望したものの、撤退とSBU徳島基地の復興を命じられて引き上げるしかなかった。その後、羽村はタルタロスを監視すべく秋吉台に再び戻ってきたようだが……最早、大山津見がどうなったかを確かめるすべはない。
「……山陽を放棄する方向で第13旅団長は決定したようだな。非戦闘員の山陰への疎開命令が出ている。日本原は超常体が山陰に侵攻しないよう死守する要塞と化すそうだ」
 日本原に戻った大倉は部下達に上の考えを伝える。四国に戻った三笠も普通寺にて四国への侵攻を食い止めるように命じられていた。その普通寺でモモンガと戯れながらも、破音は溜め息を吐く。仲良くなった由良は、戻ってきた大山と歓談しているようだが、
「……那岐山の捜索も駄目か」
 当然ながら、ゼウス捜索と討伐の作戦は却下。ポセイドンは倒されたものの、どんな形であれ主神が存在している以上、オリンポス神群の超常体は今も山陽を闊歩している。
「――でも、まぁ、動いちゃ駄目というのは表向きの話だもんねぇ」
 破音と由良だけに渡された召集令状。
「これが話に聞いていたアレか。……貴官の活躍を認め、黙示録の戦いへの参加を要請する――落日中隊って書いてある。強制じゃないから、召集に応じなくとも別に咎めは無いみたいだし」
 というか活躍したっけ? 首を捻る破音。由良もという事は、活躍云々というより、異生(ばけもの)となった2人の動向を掴む為のものであろう。
「どうしよっかなー?」
 モモンガが餌をねだるのを無視して、破音は再び溜め息を吐いた。

 ――そして夏至の日。世に言われる黙示録の戦いが始まった。高位の超常体が、神州の支配権を巡って相争い始める。天を覆う、神の御軍。地を覆う、魔の群隊。人々は拠点を死守するのに精一杯だった。

 しかし人々は戦い続ける。愛するモノを護る為に。日本原では那由多率いる少女達が挫けようする仲間を励ましている。ユタカの歌声が活力を呼び起こし、何度でも銃を手に取り、護り続けていくのだ。

*        *        *

 ……宙空に漂い、眠る胎児を前にして、雷光をまとう六翼の御使いに問い質してみた。
「光の柱が再び立つのは、どれぐらい掛かるのか?」
 迫水の問いに、ログジエルは難しい顔をするが、
「ベルフェゴールが倒れた以上、サンダルフォンが目覚めたら、すぐにでも。とはいえ7月の半ばまで堪え忍ぶ必要がある。――山口の自衛官達の多くが施設を放棄して撤退、或いは投降してくれたのは、君の説得の助けが大きい。感謝する」
 微笑むとログジエルは頭を下げてきた。慌てて迫水は頭を振るう。……山口駐屯地が完全に沈黙し、駐日仏軍も攻撃に動いてくる素振りはない。むしろ聖約によって戦力は増していく一方だった。
 そして……天が――割れた。
 ログジエルが3対の光翼を広げて歌う。
    み恵みを受けた今は
    われらに恐れはない。
    み力により頼んで、
    主のために進みゆこう。
 サンダルフォンを囲んでいたエンジェルスや魔人兵が唱和する。アルベールも加わり歌っていた。人の耳に聴こえぬ歌声を上げる。
    さあ進め、たゆみなく、
    さあ歌え、声たかく。
    み恵みに生かされて
    われらは主に従おう。
「――貴方の御業は偉大であり、驚くものべきものです。“ 主 ”よ。万物の支配者である神よ。貴方の道は正しく、真実です。諸々の民の王よ」
 ――“ 主 ”よ。誰か貴方を恐れず、御名を褒め称えない者があるでしょうか。唯、貴方だけが、聖なる方です。全ての国々の民は来て、貴方の御前に平伏します。貴方の正しい裁きが、明らかにされたからです ――
「……彼等は全世界の王達のところに出て行く。万物の支配者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼等を集める為である」
 ――こうして彼等は、ヘブル語でハルマゲドンと呼ばれるところに王達を集めた――。
「……そう。この地こそが、メギドの丘。神州と呼ばれし、極東の島国が!」
 歌い終えたログジエルは振り返る。
「戦いは終わり。そして、これから始まる。――“ 主 ”の栄光の下で、真なる安息と至福を勝ち取る為の戦いが。……だが怖れる事はない。既に、我等に賛同した多くの新たな兄弟達が、神州各地で決起している」
 意気揚々とログジエルを見詰める迫水やアルベール、そして同志達。ログジエルは微笑んで頷き返すと、
「――さあ戦い抜こうではないか!」

*        *        *

 岩国――薄暗い室内に、拘束衣で縛り付けられた周防がいた。共に逃げた部下も道中で散り散りになり、生死は判らない。唯独り、周防だけが岩国まで辿り着き、そして拘束された。壱参特務が壊滅した今、周防1人を生かしておく必要は無いという事か?
「……周防、樹。階級は士長。間違いないな?」
 突然、明りを浴びせられて目を細める。光の中に人の影。声からして男。やけに煙草臭い。
「――長崎からの帰りに、思わぬ拾い物だ」
 男は近寄ると、煙草を咥えたまま器用に唇の端を歪めてみせた。そして周防の拘束を解くと、
「――『落日』中隊への転属する気はないか?」
 周防は犬歯を剥き出して笑い返してやった……。

 


■状況終了 ―― 作戦結果報告
 中国・山陽地方(南欧羅巴)作戦は、今回を以って終了します。
『隔離戦区・神人武舞』第13旅団( 山陽 = 南欧羅巴 )編の最終回を迎えられた訳では在りますが、当該区域作戦の総評を。
 全体的な点を申し上げますと、残念ながら山陽は人間側の敗北で終了しました。
 旧・山口刑務所は状況ゆえに、方向性に偏りが見られたと思います。偏に自分の描写技量不足をお詫びしますが、それでもログジエル側も壱参特務も、智慧を働かせて戦い抜いていました。結果として敵の増援等、不確定要素が大きく左右し、壱参特務の敗北となりましたが、気を落とさずにお願い致します。逆にログジエル側の皆様は、あの困難な状況から逆転を果たしまして、お見事でした。
 タルタロスの封印は柏原二士のアイデアが秀逸でした。作戦に思わず唸ったものです。またヒュプノスに関する戦いは速谷准尉の粘り勝ちです。ただしユタカ攻略の為には、もう少し頑張って乙女心への配慮をお願いします。
 日本原では、対テュポーン戦における巧みな戦術を以っての攻略は見事でした。人型戦車の活躍がいま少しと感じたとしましたら、それは自分の描写技量不足から来るものであり、大変申し訳ございません。また個人的には最後まで那岐山へと偵察に向かう行動が無かったのが残念でなりませんでした。
 そして大島(厳島神社)攻略戦から繋がる、対ポセイドン戦は、終了まで後手に回っていましたのが、痛恨の極みでした。大山津見を鎮める用意がなく、またそれゆえに羽村士長が解放を妨害する事になってしまいました。更に苦言を申し上げるならば、神祇を便利な戦略武器扱いのように見受けられていたのが残念でなりません。
 それでは、御愛顧ありがとうございました。
 この直接の続編は、当分先になると思います。とりあえずは、時間を少し溯りまして、同時期に北海道での作戦に御参加頂ければ幸いです。
 重ね重ねになりますが、ありがとうございました。

●おまけ・設定暴露:
 第46、第47普通科連隊を率いた、宮島及大三島攻略作戦群長は、式神ユタカの実父。ユタカが幼い時に妻の式神三佐(ユタカママ)とは離婚しました。陸自出身の操氣系魔人ですが、侵蝕率が高くなった為に、やむなく最前線から退いたものの、数年前から指揮官として戦い続けています。根っからの戦人なのですが、実はユタカ・ファンクラブ会員No.1でもあります。フルネームは考えていません(ユタカの式神姓は、母親のもの)。

※註1)愛・おぼえていますか: 1984年6月5日に発売された飯島真理のシングル。アニメ映画『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』の主題歌。これ以上の説明は要らない名曲。カバーも多数存在する。


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