第五章:初期情報/神州結界事典


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 初期情報 〜 九州:アフリカ 其壱


『 人吉、陥つ! 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物―― 超常体 の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本 ―― 神州 を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ―― それから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 愛称BUDDY(仲間) ―― 89式小銃の銃口から閃光が発せられ、トンネルの内壁を照らし出す。排莢が甲高く地面を叩くが、それ以上に銃撃音と、そして5.56mmNATO弾の雨を浴びた化け物ども ―― 超常体の叫び声がトンネルに轟き渡っていた。
 銃撃を受けた化け物どもは弾丸が全身を抉り、挽き肉になるのにも関わらずになおも前進を続けてきた。銃撃音に呼応するように身体中の肉が弾け、手足が吹き飛び、眼球を抉られ、仲間(彼等にそのような意識があるのならば)を失いながらも、向かってくる。殺意の煮えたぎった目で、牙を剥いて迫ってくる。
 2足歩行類小型犬頭人身の超常体 ―― 通称コボルトは、脅威段階では最低位に当たる最弱の超常体と知られている。旺盛な繁殖力と、成長速度により、その数は圧倒的にもなるだろうが、筋力・跳躍力・耐久性・知力・敏捷性といった戦闘に直結した身体能力は10代前半の平均男児並みであり、たいてい銃弾を浴びせれば、怯んで逃げていくのが落ちであった。
 だが、八代方面から、えびの駐屯地へと帰還中に、旧日本国陸上自衛隊・西部方面隊第8師団・第24普通科連隊・第822班が遭遇したコボルトの群れは、まるで狂犬病にかかったかのように狂暴化し、そして目に映ったものを襲い、貪り喰らう集団となっていた。
「―― 撤退、撤退ッ! いいから、逃げろッ!」
 班を率いる陸曹長が支援射撃をしながら、怒鳴る。かといって、背を向けて一目散に逃げるわけには行かない。威嚇射撃をしながら、じりじりと後退。銃弾が尽きる前に、輸送トラックの荷台に辿り着かなければ、死は確実だ。
 せめて日の当たるところには出たかった。
 現在、第822班が位置するのは、九州自動車道・肥後トンネル内。八代IC(インターチェンジ)から人吉ICまでの間に多数存在するもので最長たる肥後トンネルは約6kmだが、班員達にとっては明けぬ夜のようにその距離は永遠に近いものだった。
「班長、駄目です! もう弾倉がありませんッ!」
 悲鳴を上げる。あと少しだ。あと少しで全員を乗せる事が出来る。そうすれば、この悪夢の洞を抜け出す事が出来るのだ。
 陸曹長は覚悟を決めた。禁じ手を使うしかない。
『―― 憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行』
 己の丹田の辺りにうずくまるモノを右腕へと流し、集束させる。ソレ ―― 氣を固めると、班長はコボルトの群れへと右掌を突き出した。
「……これでも、喰らいやがれ、ワンころッ!」
 氣弾は、コボルトの群れの前面中央に命中し、爆発四散した。先程までの狂騒が、嘘のように静まりかえる。まるで憑き物が落ちたかのようだった。
 その間に乗車を急がせると、班長もまた荷台に飛び移ろうした。
 ―― その時、異変が生じた。
 班長が天井を仰いで絶叫する。膝が崩れて、その場にぶっ倒れると地面を転げ回る。異変は班長だけではない。憑魔を持つ班員が身体を蝕む痛みに堪えかねて、悲鳴を上げていた。
「……侵蝕が進行している?」
 無事な班員があとずさる。手にしていたBUDDYを、友人に向けて構えていた。
 泡立つように無数の肉腫が膨れ上がり、内側から肉を引き裂いていく。引き裂かれた肉から血が吹き出し ―― 裂けた肉の間を異常な速度で根を張り出した神経組織のようなものが埋め尽くしていく。
 僅か数秒で、その場にうずくまっていたのは新たな、そして最も恐ろしい……隊服をまとった人型の超常体だった。
「う、うわぁぁぁぁっ!」
 悲鳴と銃声が響き渡った ――。

*        *        *

 人吉が陥落したとの報告に、熊本健軍にある西部方面隊総監部は愕然とした。人吉は陸路における要地である。阿蘇が特別封鎖地区となっている以上、人吉を取り戻さねば、宮崎・鹿児島の師団との連携もおぼつかなくなり、そして各個撃破されてしまう。
「現在、八代に第42普通科連隊から部隊を派遣しています。第8特科連隊と随伴する普通科の部隊に九州自動車道を南下させ、まずは山江SA(サービスエリア)を橋頭堡として確保するよう指令を出しております。また西からは国道219号線より普通科部隊を移動させます」
「八代は、天草の叛乱にも対応させねばなりません。それを忘れないで下さい」
「えびのの第24連隊も健在です。人吉奪還の為にいち早く北上を開始させました」
「しかし……生存した部隊員の報告によりますと、憑魔の侵蝕が突然進行したとか。原因は不明ですが、魔人の派遣は避けるべきかと……」
「―― まさか」
 報告を受けながら、西部方面総監・加藤・忠興[かとう・ただおき] 陸将は思わず呟いていた。
「……いるというのか、魔王 が。高位上級の超常体が ―― 人吉に!」

■選択肢
S−01)九州自動車道を南下し、山江SA確保
S−02)九州自動車道を南下し、人吉に潜入
S−03)国道219号線―人吉街道より潜入
S−04)国道445号線より人吉を目指す
S−05)八代にて人吉関連で行動


■ジャンル
 シリアス/バトル/デーモン・ロード


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