第五章:初期情報/神州結界事典


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 初期情報 〜 九州:アフリカ 其弐


『 神州脱走計画・捕まったら銃殺だ! 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物―― 超常体 の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本 ―― 神州 を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ―― それから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 んがっ、
「こんなところで、いつまでも戦ってられっかー!」
 熊本県鹿本郡植木町役場跡に陣取って、青年が怒鳴り声を上げていた。西部方面隊第8師団・第42普通科連隊・第848班班長の栗木・真[くりき・まこと]三等陸曹は、戦闘糧食II型番号3 ―― 通称『ビーフカレー』を食べ終わるやいなや、呪詛を吐いている。
「だいたい、どうして俺達がこんな目に会わないといけないんだっ! 毎日毎日苛酷な訓練を課せられて! 命がけの最前線に送り出されて!」
 そこで、一旦、静止。頭を掻くと、
「……いや、まぁ、この国全土が最前線なんだから、いまさら送り込まれたというかどうかはさておく」
 隔離封鎖されたこの国で生まれ育った栗木は、国民皆兵と等しい環境の中で物心つく前から訓練を受けて、そして超常体と戦い続けてきた。ましてや栗木は憑魔持ち ―― 魔人だ。さらに言うならば本人の愚痴とは裏腹に、まだ二十歳に満たない身でありながら、多くの戦績を残し、三曹という下士官の階級と、班を率いるちょっとした英雄であった。
 だからこそ栗木の日々の問題発言を咎める者もない。いつものごとく食事を進めるか、栗木に続いて不満苦情を吐露して鬱憤を晴らすのだ。そして、また元の日常、果て無き超常体との戦闘へと身を戻すのだ。
 ―― だが、その日からは違った。
「栗木さん、こちらを」
「おおぅ?」
 食事中の休憩とはいえ、いや休憩中だからこそ周囲への警戒を怠らず、また連隊本部からの通信に注意を傾けていた隊員が、演説ぶっていた栗木に伝える。
「えぇと、何々……。っ! 人吉が陥ちたっ!」
 栗木の驚きに、皆、呆然とそして愕然となった。
「また、未確認ではありますが、天草方面で慌しい動きがあります。緘口令らしきものが布かれていますが ―― どうも松塚・朱鷺子[まつづか・ときこ]一尉が率いる第85普通科中隊がクーデターを起こしたという噂が……」
「未確認と言う割には、えらい具体的だな」
 苦笑しつつ栗木が、こちらを見回して来る。皆、緩和していた食事風景から一転して、緊張感を漂わせながら武器装備を点検している。
「……あー。俺んところは? 天草と人吉に転戦しろってか?」
「いえ、熊本北部の警戒をし、現状維持に努めろと。どうも、福岡の第4師団も激しさを増しているそうなので……」
 その報告に、栗木は暫く何事か考えているようだった。だが、唇の端が微妙に吊り上がり、そして下目蓋が引きつっているのを見逃さない。
 ―― ああ、何か悪い事を考えている顔だ。皆で、上官命令を無視して超常体の一群に突撃したり、どこからか持ち込んできた酒で宴会したりした時の顔だった。
「よし。決めた。―― これは絶好のチャンスだ」
 言いつつ、愛用の9mm自動拳銃SIG SAUER P220の弾倉をチェック。そしてスライドを引いて初弾を薬室に送り込んだ。
「―― やっぱ、命令無視して、人吉に応援行きますか?」
 そんな言葉に、だが栗木は笑い飛ばすと、
「―― 脱走する」
「ああ、脱走ですか。そいつもイイですね……って、脱走!?」
「正気っすか!? いや、班長がいつもイカレているのは百も承知ですが」
 そんな驚愕の言葉には耳を向けずに、栗木は空を仰いで、
「俺な、来週で二十歳を迎えるんだ。二十歳となれば、新たな人生の門出となる歳だ。そう、こんな日本とはオサラバして、新天地へ!」
「えーと。マジか冗談か判断つきにくいんですが……。準備はどうしますか」
 そこんところは抜かり無し!と栗木は指を鳴らす。
 栗木の戦績により、第848班には小型トラックなどではなく96式装輪装甲車クーガーが配備されている。また5.56mm機関銃MINIMIと9mm機関拳銃 ―― 通称エムナインがそれぞれ1丁ずつある。
「はっはっは、こんな事もあろうかと、装備を充実させていたのだよ」
 加えて、
「そして、実は佐世保の駐日米海軍の将校ともマブダチでな。そこまで逃げきれば、国外脱出は間違いなく!」
 そんな力強い栗木の言葉に、マンセー・コールが沸き起こる。ブラボー栗木。これでこんな国からグッバイさ!
 だがこの班にも、冷静な奴もいるわけで、
「待って下さい、三曹殿。どこまで信頼できるか判りませんが、その佐世保の知合いをアテにするのは了解しました」
 了解したのか、あの説明で。
「ですが、佐世保までどうやって行くつもりですか? まず脱走の実行までに本部にばれないようしなくてはなりませんし。暫くは、脱走した事実も誤魔化さなければ行けません。単独・暴走プレイはうちの十八番とはいえ、さすがに県境を越えたら、言い訳は立ちませんよ。逆に言えば、県境を越えるまでは誤魔化せますが」
「また、脱走兵を追跡するなんて余分な戦力はないと思うんですが、これから向かう側との偶発的な遭遇となれば話は別。連絡の行った第4師団が邪魔するだけでなく、超常体と不幸な遭遇もあったりなんかして。戦闘が起これば武器弾薬が不足するし、つーか補給は受けられないよ、ぶっちゃけ」
「他にも問題はあるでしょうが、それらに対する具体的なプランをお聞かせ願いたい」
 皆の質問に対して、栗木は鼻を鳴らすと、
「イイか、よく聞けよ……」
 緊張のあまり、咽喉を鳴らす音が響く。そして栗木の目が見開いた。
「計画はこうだ! ―― ひとりはみんなのために! みんなはひとりのために!」
 …………。
 ……………………。
 …………………………………………。
「……………………………………………………………………………………つまり、あれですか。佐世保までの道中は考えていないと」
「そう。……苦労ハ皆デ分ケ合ウものダヨ……カクカク」
 うわー、すげー無責任。そして、なぜ視線を逸らしてカタコト言葉か。
「つーわけで、具体的プランはお前達に任せた。俺は、お前達の意見を聞いて計画を実行する。Xデーは4月5日。マイバースデー! 俺に素晴らしき誕生日プレゼントを!」
「うわー、相変わらず、無茶苦茶だよ、この人ッ!」

*        *        *

 北熊本駅跡地に設けられた物資集積所。
 補給物資のリストを睨んで可愛い顔の眉間に皺を寄せていた、第8師団・第8後方支援連隊補給隊に所属する栗木・亜矢[くりき・あや]陸士長の耳元に、北部方面から戻ってきた隊員の1人が囁いた。言葉に、亜矢の顔色が瞬時に青褪める。
「……へっ!? お兄ちゃんが、だっそ……」
 とっさに口を塞ぐ。周囲の隊員達が怪訝な表情を浮かべるが、亜矢と連絡役は曖昧な笑みを浮かべて誤魔化した。
 そして物資の陰に移動して、小声で相談。
「お兄ちゃんの暴走は、いつものことだけど……ちょっと、それは洒落になってないよー」
「いや、栗木先輩の暴走はいつだって洒落になってないと思いますけど……とにかく、警務隊に通報しておきますか?」
 警務隊は、神州結界維持部隊・長官直轄の部隊であり、旧日本国陸上自衛隊警務科と、日本国警察組織機関が統合された、つまりは神州結界内での警察機関である。警護・保安業務のほか、規律違反や犯罪に対する捜査権限(と、あと査問会の許可による逮捕や拘束権)を有する。
 その名前を聞いて、亜矢がますます顔色を蒼白にした。
「お願い。お兄ちゃんのことは、まだ警務科に通報しないで欲しいの」
「でも、脱走は……」
 脱走は重罪だ。脱走隊員に対しては(現場の判断によるが)たいてい即時に射殺許可が下りる。射殺されないまでにしても、捕まったら何らかの施術がなされて激戦区に送られるのが慣例だ。
「何とか、思い止まらせるなり、邪魔して諦めさせるなりしないと。警務科に対しても何とか誤魔化すようにしないといけないし。……もう」
 涙ぐんで亜矢は絶叫した。
「お兄ちゃんの馬鹿ぁ〜っ!」

■選択肢
N−01)脱走計画、何とか本部の目を誤魔化せ
N−02)脱走計画、ルートを決めろ
N−03)脱走計画、とりあえず邪魔する奴を撃退だ
N−04)脱走阻止、警務科にバレませんよーに
N−05)脱走阻止、何とか説得してみよう
N−06)脱走阻止、言っても判らん奴は実力でお仕置きだ


■ジャンル
 コメディ/エスケープ/サバイバル


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