第五章:初期情報/神州結界事典


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 初期情報 〜 九州:アフリカ 其参


『 復楽園 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物―― 超常体 の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本 ―― 神州 を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ―― それから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 熊本西南 ―― 天草諸島の生命線の要は、宇土半島 〜 天草上島間を結ぶ天草五橋と、上島と下島を結ぶ瀬戸大橋である。
 船舶及び飛行機の所有・運行が、日本脱出阻止の為、国連並びに日本国政府によって著しく制限・管理されている神州においては、交通網といえば陸路のみといえる。
 ゆえに天草五橋の死守は、天草方面に展開している部隊 ―― 松塚・朱鷺子[まつづか・ときこ]一等陸尉率いる西部方面隊第8師団・第42普通科連隊・第85中隊にとって死活問題といえた。
 五橋入口たる三角と大矢野島を繋ぐ天門橋は通称1号橋と呼ばれ、五橋最大のものである。超常体の襲撃に備えて、小隊規模の部隊が常に両端に詰めていた。
 そんなある日、三角側の警護に就いていた隊員が緊急態勢に入る。
「―― 松塚中隊本部との連絡途絶!」
 通信員の悲鳴に、三角の小隊長が双眼鏡で、大矢野側を見遣る。大矢野側の詰め所として使われている旧観光土産センターの建物上空に、薄く白色に発光する超常体の群れを確認した。
「照合終了。―― 低位上級の有翼人型の超常体、通称エンジェルの群れです」
「エンジェルスだと!」
 エンジェルは超常体の中でも人並み以上の知性を有し、組織的に行動する厄介な存在だった。その活動範囲は最大規模で、神州の全てで確認されている。複数形はエンジェルス。アルカンジェルやプリンシパリティといった強力な超常体の尖兵として、集団となって襲ってくる。宗教色強いその姿形だが、習性は冷酷にして獰猛。少なくとも助けを求める人々に対して、救いをもたらしてくれたという報告は皆無である。
「編成終了次第、ただちに救援に向かう。一同、続け!」
 だが小隊長の言葉を遮ったのは、視認を続ける隊員の声。
「隊長! 橋の向こうから軽トラックが! 生存員と思われ ――。何だ!? どうして……」
 その驚愕を、爆音が覆い隠した。
 軽トラックから身を乗り出した隊員の1人が110mm個人携帯対戦車弾パンツァーファウストIIIを発射してきたのだ。続いて降車した隊員 ―― 襟には小銃に月桂冠と桜花を組み合わせた普通科の職種徽章ではなく、双翼の有る十字架 ―― 89式5.56mm小銃BUDDY(仲間)を構えて瞬く間に、三角の詰め所要員を拘束、抵抗する者は射殺し、無力化していく。
 ―― 状況把握も出来ぬままに、数分も経たずに三角は、双翼十字の部隊によって制圧されてしまったのだった。

*        *        *

 その日の正午。あらゆる通信機器から、電波ジャックした放送が流れた。西部方面隊の各員は、休憩していた天幕の内で、交戦する場で、訓練する場で、あらゆる場で、その凛々しい女声を耳にする。
『―― 諸君。私は、旧国連維持軍・神州結界維持隊・西部方面隊第8師団第42連隊所属、第85中隊隊長だったものである。最終階級は一等陸尉。だが、この日、これより、私は志を同じくするモノの盟主となり、我々を不当に隔離して終わり無き戦いを無理強いする日本国政府と国連に対して、独立と宣戦布告をするものである。
 我々は、日本国に生まれ育ち、そして超常体と呼ばれる来訪者達を身に宿したというだけで、自由と生存権を奪われた。その裏に、己の保身と私欲に走る愚鈍な各国政府と日本国政府との間に密約があったという証拠を我々は入手した。
 我々は、己の自由と権利を勝ち取り、そして何よりも誇りと生命を護る為、ここに決起したのだ。
 志を同じくする者達よ、各地でこの理不尽なる全てに対して抗いの声を上げよ。そして、我々とともに、戦い抜こうではないか!』

*        *        *

 第8師団師団長、細川・雅史[ほそかわ・まさし]陸将は、卓上に広げられた宇土半島以西の地図を睨み付けていた。
「―― 五橋入口をはじめ、旧三角町役場並びに三角駅は、叛乱部隊に完全に制圧されました」
「三角の部隊は波多浦駅にまで後退。現地に集結させ、鎮圧部隊の編成を急がせています。ただ、松塚一尉に呼応して数名が脱走し、叛乱部隊に合流したという報告も……」
「柴尾山の展望台に、狙撃員の姿を確認。対物ライフルを所持しており、三角西港からの大規模な部隊派遣は難しいと思われます」
「戸馳島はクリア。蔵々瀬戸を挟んで、維和島の叛乱部隊と睨み合いを続けています」
 飛び込む報告に、細川は唇を噛む。
「……海戦力が制限されているのが裏目に出たな。日本国政府からの許諾は?」
「まだです。むしろ、叛乱の事実を隠そうとする動きが……」
 細川は卓上に拳を叩きつけると、苛立ちを吐いた。だが政府を直接非難しないところが、彼の立場を露わにしている。
「―― 第8航空隊に支援要請。チヌークで天草諸島に上陸。制圧させろ」
「駄目です。天草周辺の空域はエンジェルスに握られています。瞬く間に撃墜されます!」
「海も駄目、空も駄目か……。まさか、超常体が叛乱に加担しようとはな。どうやって奴らを手懐けたのだ? 何よりも叛乱の首謀者たる松塚一尉の居場所が判らない……」
「宇土半島を封鎖すれば、彼等も糧食や武器弾薬・物資窮乏するのでは? 兵糧攻めが可能です」
「超常体との結びつきが判らない以上、長期戦は危険だ。また、松塚一尉は……」
 ここで、言葉を出し渋るかのように、
「……彼女は、数億人に1人という特別な憑魔の持ち主だ。その力は周囲の空間すらも思うがままに変貌させると……いわれている。噂によると、彼女に物理的距離は無いに等しい。物資集積所の警戒をしていても防ぐ事は実質不可能だろう」
 ひとしきり唸ると、
「兎に角、三角と大矢野を奪還し、叛乱鎮圧部隊の橋頭堡としなければならない。また特殊班を編成し、天草上島・下島へ潜入させ ―― 松塚一尉以下、首謀者数名をヒトに仇なす超常体として 処理 せよ!」

■選択肢
W−01)鎮圧部隊として、三角駅・町役場を奪還
W−02)鎮圧部隊として、五橋入口から強行突破
W−03)鎮圧部隊として、戸馳島から維和島制圧
W−04)鎮圧部隊特殊班として天草上島・下島に潜入
A−01)松塚に呼応して、大矢野・三角を死守
A−02)松塚に呼応して、宇土を制圧に向かう
A−03)松塚に呼応して、天草上島・下島で行動


■ジャンル
 シリアス/クーデター/パラダイス・ロスト


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