第五章:初期情報/神州結界事典


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 初期情報 〜 九州:アフリカ 其肆


『 阿蘇の地獄 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物―― 超常体 の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本 ―― 神州 を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ―― それから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 FN5.56mm機関銃MINIMI左側から装着されたベルトリンクは、銃口から閃光が走るたびに空薬莢とに分離されて右側に流れていく。落ちた空薬莢が路面を叩き続ける甲高い音に負けじと、西部方面隊第8師団・第42普通科連隊第811班を率いる陣内・茂道[じんない・しげみち]陸曹長が大声を張り上げた。89式5.56mm小銃を構えた班員達が横列に並んで、突進していく。
「―― こちら811。菊池戦区を通常巡回中に、国道57号線・室交差点にて超常体の群れと遭遇。交戦を開始した。……ああ、何だって!? 聞こえねぇだと! もう一度言うぞ! 戦っているんだよ、クソったれ!」
 怒声をもって無線機にがなり立てる。
「あん? 応援なんざ、イラねぇよ。もうすぐ掃討出来るからな、このまま化け物の巣を叩いて駆除完了だ。シャンパン用意して待っていろや」
 だが通信相手は、慌てて第811班による追撃の制止を命じてきた。
『―― 待て。陣内陸曹長。このまま57号を東進する事は許可できない。そこから先は阿蘇特別戦区であり危険度は最大級のモノとなる。敵を撃退後、速やかに豊岡の旧演習場にまで帰投せよ ――』
「何、ふざけた事言ってやがる。危険だからこそ、調子のいい時に少しでも削っておくんだろうが! 行くぜ、俺達は。―― 野郎ども、行くぞ!」
 通信を切って捨てると、陣内は部下を叱咤して構わず前進。
 Sir! Yes. Sir!
 荒くれ者どもは、高機動車『疾風』に乗車すると、MINIMIをぶっ放しながら暴走を開始した。密かに積載したカーステレオがエルビス・プレスリーのロックンロールを心地良く響かせる。
 JR豊肥線と県道が交差した地点で、双眼鏡で前方警戒していた部下が声を張り上げる。
「―― 兄貴! 前方に超常体発見! 通称アナンシです! 阿蘇特別戦区に突入しました!」
 アナンシは下位上級の蜘蛛型超常体である。――菊池や上益城でもはぐれた数体が確認されてはいるが、おもに活動が報告されているのは阿蘇特別戦区。逆に言えば、アナンシのいるところこそが阿蘇特別戦区とも言える。
「全員降車! 展開し、蹴散らせ!」
 陣内の号令一下で班員達は5.56mmNATO弾を吐き出した。弾丸をものとせずに押寄せてくる。八本脚を駆使したその動きは巨体にも拘わらず異常に素早い。だが第811班員も恐怖する事無くむしろ嬉々として迎え撃つ。
 轟く銃声と、昼間ながら視界を灼く閃光。
 頭部を撃ち砕かれたアナンシが動きを止めるが、倒れた仲間の屍を乗り越えて迫ってくる。既に半身異化した班員達もまた銃剣やナイフ、或いはその拳を以って近接戦闘に移行していった。
 ―― 果てしなき修羅地獄と思えたが、いつだって終わりは来る。だが、それはアナンシの全滅でも、第811班の壊走という形でもなかった、
 突如、降り注がれる戦車砲弾。慌てて班員達が後退、回避した。アナンシもまた、文字通り蜘蛛の子を散らすかのように建物や木陰等に隠れていく。
「―― 特科連隊……いや、違うな。TA-54 ―― 何で、駐日アフリカ連合軍がこんなところにいやがるんだ?」
 旧ソ連が開発したTA-54戦車は、1960年代以降のアフリカやアジアにおける主要な戦争のほとんどに参加し、今なおアフリカ諸国において、しぶとく生き残っている。逆にいえば、こんなロートルな戦車を扱っている国は貧乏なアフリカ諸国と決まっているというのが、陣内の見解だ。とはいえ、ロートルといえども戦車は戦車である。
 神州結界維持隊は、旧日本国自衛隊を根幹とするが、超常体を一身に引き受けている建前上、各国の軍隊も支援の名目で派遣されてきている。駐日アフリカ連合軍(※駐日阿軍)もまたそのひとつだ。……なお、超常体という共通の人類の敵が現れる前まで、民族紛争等を繰り返していた経済弱小国たるアフリカ諸国は、神州への派遣軍はアフリカ諸国連合という形をとっている(※エジプトだけは特別で、一国で軍隊を派遣)。
 TA-54から降車したアフリカ兵がAK-47(アブトマット・カラシニコバ1947年型)突撃銃を構えて警戒態勢を布く。TA-54に乗車したままの隊長と思しき黒人が厳つい顔で、陣内を見下していた。
「―― 駐日アフリカ連合軍少佐アドゥロ・オンジ[―・―]だ。日本国の応援要請を受けて、貴様らの救出にきた」
「そりゃ、どーも。日本国陸上 自衛 隊・陸曹長の陣内です。わざわざの御足労、ありがたくって反吐が出ますわ」
 自衛という単語を強調して、陣内は敬礼をしながらも悪態を吐いた。アドゥロは見下ろしたまま鼻を鳴らすと、
「陣内陸曹長には帰投命令が出ている。先ほどまでの戦闘で武器弾薬が欠乏していることだろう。我々が豊岡まで護衛しよう。安心したまえ」
 アフリカ兵達が取り囲んだ。陣内は唾を路面に吐き捨てると、
「いいだろう。―― だが、次もおとなしく従うと思うなよ」
「そのまえに、営倉で充分に命令違反の反省でもしておくんだな」

*        *        *

 豊岡の旧演習地に帰還した第811班のメンバーだったが、人吉陥落と天草方面の非常事体によって、営倉にぶち込まれる事無く、反省文の提出と厳重注意のみが下されただけだった。
 だが陣内は面白くなさそうだ。天幕の内でも不機嫌そうな表情のまま。
「……変な話じゃねぇか。方面総監の加藤陸将も、師団長の細川陸将も人吉や天草のドタバタで、俺達を制止出来る状況じゃなかった。どうも、上の方から奴らに応援という名の制止要請が出たみたいだ。それに……」
 駐日阿軍は阿蘇特別戦区を封鎖警戒しているのではなく、まるで外敵から阿蘇の超常体を護るかのよう……。
「……何か、あるな。阿蘇には」
 陣内の呟きを耳にした多くの者が深く頷くのだった。

■選択肢
E−01)菊池戦区より阿蘇特別戦区に潜入を試みる
E−02)上益城戦区より阿蘇特別戦区に潜入を
E−03)駐日阿軍キャンプ地に探りを入れる
E−04)上熊本・第8師団駐屯地で調査


■ジャンル
 ミステリー/コンバット/タブー


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