第五章:初期情報/神州結界事典


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 初期情報 〜 九州:アフリカ 其伍


『 奇々怪々な中心 』

 西暦1999年、人智を超えた異形の怪物―― 超常体 の出現により、人類社会は滅亡を迎える事となる。
 国際連合は、世界の雛型たる日本 ―― 神州 を犠牲に差し出す事で、超常体を隔離閉鎖し、戦争を管理する事で人類社会の存続を図った。
 ―― それから20年。神州では未だに超常体と戦い続けている……。

 全土が超常体との戦場と化した神州だが、まだ治安維持隊の駐屯地を中心にした各県中心部は、生活環境が未だ残っており、比較的安全といえる。
 西部方面隊総監部と、第8師団駐屯地のある熊本市もまたその一つと言えた。
 それでも、やはり夜間ともなれば外出には制限が掛かる。これは自由を束縛するもので無く、生命の安全を護る為であるからには仕方ない。
 かつてはアーケード街として夜遅くまで賑わった上通町・手取本町・下通1丁目2丁目・そして新市街(※某大ヒットゲームのアーケードの場として有名)も、今では人通りも無く閑散としている。見上げればアーケードの被弾した箇所から、星が見えた。
 警務隊所属の 堂屋敷・助五郎[どうやしき・すけごろう]三等陸尉は軽く息を吐くと、苛立ち紛れに爪先で壊れたシャッターを蹴った。
 警務隊は、神州結界維持部隊・長官直轄の部隊のひとつであり、旧日本国陸上自衛隊警務科と、日本国警察組織機関が統合された、つまりは神州結界内での警察機関である。警護・保安業務のほか、規律違反や犯罪に対する捜査権限(と、あと査問会の許可による逮捕や拘束権)を有する。
 朝方起きた事件解決の為に夜間の巡邏に赴いたのだが、相棒にして部下たる一等陸士は、立小便として裏路地の陰に引っ込んだままだ。常に2人以上1組での行動が義務付けられている為に、動きたくとも動きようが無い。
 焦れた堂屋敷が、声を暗がりに向けて張り上げる。
「おい、いい加減にしろ。さっさと移動するぞ ――」
 怒鳴りつけて、殴ってでも連れて行こうと裏路地に足を踏み込んだ堂屋敷だが、尿素とは異なる臭いに、腰に吊るした愛用するニューナンブM60回転式拳銃を抜いて構える。
 旧日本国自衛隊を根幹とする結界維持隊の制式採用されているのは9mm自動拳銃SIG SAUER P220であるが、かつてこの地に存在していた警察官という職業に憧れていた堂屋敷は、そのこだわりから不利を承知で、ニューナンブM60を特別に配給してもらっているのだ。
 置いた親指でセイフティを外し、その2インチの銃身の先を暗がりに向ける。むせるような血の臭いが、鼻腔を貫いた。暗がりの奥で転がるのは、かつて相棒であり、部下だった男の亡骸。その亡骸の傍に佇んでいるのは……。
「―― 超常体」
 黒い燕尾服に山高帽。サングラスを掛けた貧相な小男。
 国民皆兵と等しい環境の中で、そんな格好をしているものが、普通の人間であるはずが無い。堂屋敷は警告もせず、迷わずに銃弾を放った ――。

*        *        *

 堂屋敷が、相棒にして部下たる男とともに事件捜査を開始したのは、その日の朝の事だった。
 熊本市中心部の水道町交差点より国道3号線を北上する事、約800m。警務隊の駐在する旧熊本北警察署を右手に過ぎて、県道1号線が合流するところにある鳥居から東に参道を抜けると、かつて藤崎八旛宮と呼ばれていた社屋がある。
 社伝によると、平将門・藤原純友の乱の時、追討と九州鎮護との勅願によって、石清水八幡宮より分霊を迎え、承平五年(九三五)に奉斎したのが創祀という。勧請の時、勅使は、石清水の藤の枝を鞭として神馬を曳いて、神霊の感応の地に栄えるよう鞭を立てたところ、繁茂したので祭地を定め、藤崎と呼ぶと社名起源の伝説があった。
 その藤崎八旛宮跡の境内にバラバラ遺体が見つかった。
 警務隊の駐在署とは目と鼻の先である。当然、警務隊の威信をかけて捜査が開始された。隊員による殺人と、そして超常体による戦闘の両方の捜査で進められ、状況検分の為に堂屋敷や、野次馬根性丸出しの普通科隊員達の多くもまた現場を訪れた。
「堂屋敷三尉、鑑識は終了したとの事で……あ、痛っ!」  拳骨で頭を叩くと、堂屋敷は眉間に皺を寄せて訂正を求める。
「その階級で呼ぶな。自分の事は 警部 と呼べと、いつも言っているだろう」
 物心ついたときから憧れていた警察官という職業。刑事という職種。堂屋敷は職務熱心で知られてはいたが、また変人とも知られていた。
「すみません、堂屋敷警部。……で、やはり超常体ですかね? 人間の身体を引き千切るなんて」
「魔人という推論も捨てられないのが難点だな。憑魔の力を以ってすれば、ヒトを異常現象で殺す事は簡単だろうさ」
 現場を見渡す。この日本から神と呼ばれる存在がいなくなって久しい。だが、それでも神社跡の境内で血生臭い事件を起こされた事は、神聖な領域を穢された気がしてならない。
 眉間に皺を寄せたまま参道を見遣る。目を細めた。
「何だ? あの十字のマークは?」
 路面に血で塗り刻まれた十字の印。腰を屈めて近付くと、写真に撮る。
「さあ? もしかしたら狂信者による殺人事件で、その狂信者が自己顕示で刻んだのかも」
 馬鹿馬鹿しい話だ、と堂屋敷も、また傍に耳に挟んだ隊員達も一笑に付した。
 ……そして、それが相棒にして部下たる男にとって、最期となる朝の出来事だった。

*        *        *

 .38S&W弾は確かに、燕尾服に命中しているもののその動きを完全に殺す事は出来なかった。見た目よりも頑強な超常体らしい。
 燕尾服は差し出すかのように、右手を突き出してくる。堂屋敷は補正の為に添えていた左手をニューナンブM60から離すと、身体をかわしながら、外から内側に円弧を描くように掬うように受ける。そして燕尾服の突進を利用して前方に流させると、体勢を崩させた。そのまま腹部に回し蹴りと同時に、ニューナンブM60を持つ右手の肘を曲げると、脾臓のある辺りを突いた。
 人型であるとはいえ、対人用攻撃が効果あるとは思えない。だが少しでも怯ませる事は出来るはずだ ――。
 だが、そんな堂屋敷の思惑を嘲笑うかのように、燕尾服は攻撃を物ともせずに、堂屋敷の背後に素早く回るとその右肩に触れた。
 ただ触れられただけだというのに、まるで毒蛇に噛まれたような激痛が走る。そのまま痛みに耐えかねて蹲る堂屋敷は、死を覚悟した。
 だが ――。
 ……動きが無い。痛みに涙を流しながら、周囲を見渡した堂屋敷は、燕尾服の小男の姿が影も形も無くなっていることに気付くと、安堵すると同時に気を失っていった。
 ……警務科だけで無く、普通科の連中にも応援要請をしなければ、奴を処理する事は出来ない ―― そう思いながら。

■選択肢
C−01)健軍・西部方面隊総監部にて活動
C−02)熊本城周辺域で捜査
C−03)江津湖周辺域で捜査
C−04)金峰山周辺域で捜査
C−05)熊本港跡地域で捜査


■ジャンル
 ホラー/アクション/ディテクティブ


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