第六章:ノベルス


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 第5回 〜 九州:アフリカ 其陸


A5『 闇 は 深 ま り 』

 
 天草上島に上陸した、敵の弾圧部隊は北海岸沿いにある国道324号線を踏破して、天草瀬戸大橋に向かっているようだった。
「 …… まぁ当然と言えば、当然だにゃあ。南海岸沿いの国道266号線は、奴等が通り抜けるには難しいからにゃ」
 龍ヶ岳町に入った辺りから、途端に路が狭くなるのだ。また海岸沿いとは言うが、山道でもある。起伏が激しく、葛折り。普通車輌でも苦労するのに、とてもではないが、維持部隊の特殊車輌が抜けられる路では無い。逆の立場からすると、罠が仕掛け易く、待ち伏せするには絶好のポイント。
「あちらを通るもの好きはいないにゃあ。―― おかげでこちらが動き易くはあるんだけど」
 擬装と言うには別方向に汚れて悪臭が漂っている迷彩II型戦闘服を着崩した青年が欠伸混じりに呟く。
 斎・藤太郎(いつき・ふじたろう)(元)准陸尉。神州結界維持部隊・西部方面隊第8師団・第42普通科連隊第852班班長だった男は、かつての部下にして今や志を同じくする“ 徒弟 ”達を引き連れて、天草上島の山間部で抵抗活動を続けていた。
 真の自由を求めて決起した、松塚・朱鷺子[まつづか・ときこ](元)一等陸尉が率いる(仮称)双翼十字部隊は、構成員の殆どが(元)第85中隊隊員である。第85中隊第1小隊所属の藤太郎班も例外なく賛同して弾圧者と抗戦していた。
 5月上旬まで双翼十字部隊は、大矢野島と天草上島を繋ぐ天草五橋(内、二号橋:大矢野橋、三号橋:中の橋、四号橋:前島橋、五号橋:松島橋)を最前線として、弾圧部隊に押さえられた大矢野島を再解放すべく進攻をかけていた。藤太郎の従兄である 斎・藤仁[いつき・ふじひと](元)陸士長が敵後方に浸透し、罪人誅殺や補給線を撹乱に成功していた事もあり、敵部隊の撃退も間近であった。
 だが敵は機動防御を採る事で部隊の崩壊を免れると同時に、呼び寄せた増援で藤仁等を殺害。一気に勢力を盛り返してきて、逆に双翼十字部隊が撃破されてしまった。ついに天草上島に上陸してきたのである。
 だが藤太郎をはじめ、散り散りになった同志達は、天草上島の山間部に潜伏して戦闘を継続。朱鷺子の言葉を信じるならば、残り半月さえ保ち堪えれば神州各地に静観していた潜在者達も呼応してくるだろう。それだけでなく、現在、朱鷺子は双翼十字部隊本部を離れて、極秘裏に作戦を進めているらしいが、それが成功すれば如何なる兵器や超常体をもものともしない力が手に入ると言う。
「まぁ朱鷺子様の言葉は絶対だにゃ。残り半月、あいつ等を引掻き回してやればいいんだから」
「ですが“ 兄君 ”斎。部隊は“ ”の恩恵もありまして意気揚々なれど、敵主力を相手に出来るほどの力はございません」
 徒弟が意見する。確かに武器や物資は充分だが、国道266号線を通過していく装甲車輌をどうにかするほどの装備はない。
 なお“ 徒弟妹や兄姉上( ブラザー or シスター )”という呼称は“ 同志 ”という呼び方からいつの間にか定着していったものである。
 ―― 閑話休題。
 手を丸めた形にして、猫がするように耳の裏を掻きながら、藤太郎は暫し黙考。
( 対戦車兵器 ―― ハチヨンぐらいは朱鷺子様か、ドミニオンにおねだりしても良かったかにゃあ )
 手榴弾と対人地雷では、心物足りなかった。が、
「 ―― まぁ今更気にしても詮方ない事だにゃあ」
 目を細めて笑い飛ばす。だが徒弟達が呆れる前に、
「敵としても一気に本渡に突入を図りたいから、おいら達のような上島に散っている雑魚を真面目に相手とするほど暇じゃにゃい。こちらもマトモに邪魔出来るほどの戦力は無い。アルカンジェルに率いられたエンジェルスが防衛線を張っているものの、続々に突破されている始末だにゃ。あ〜スカイシューターって存外に厄介だにゃあ〜」
 伸びた爪を弾きながら、藤太郎は状況を説明する。
「だけど、おいら達は少しでも時間を稼ぎたいのが本音だにゃ。だから ―― 朱鷺子様や司令部が、おいら達に期待しているのは陽動だよ、あからさまな」
 含み笑いを浮かべると、
「 …… 相手の進軍を阻止するほどでも無い。だけど無視する事さえもさせない ―― そんなゲリラ活動を、朱鷺子様は御所望だ」
 藤太郎の説明に合点がいったのか徒弟達は武器を手にし始める。藤太郎は口の端を歪めると、「目的の為には手段を選ぶな。―― 敵の裏を掻くパターンを沢山考え、危ないと思ったらさっさと逃げる事。しぶとく生き続けて、敵に打撃を与え続けるのが良い兵士だにゃ」
 それ故に、藤太郎は准陸尉にまで昇る事が出来た。子供っぽい口調と猫じみた仕草に惑わされがちだが、藤太郎は冷徹までに計算高い天性の道化師。
「 ―― 藤仁は馬鹿だから死んでもいいけど。でも仕方ないから、あいつが遣り残した事をおいらがやってあげるよ。しょうがにゃいけど、やってやるにゃあ」
 笑いながら、掌を頭上にかざして聖し御言を紡ぐ。
「 ―― Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus, Deus Sabaoth. Pleni sunt caeli et terra gloria tua.」
 ―― 光が生まれ、そして爆発が起こった。超常体が“ この世界 ”に出現する際に生じる空間歪曲現象。轟音と共に周囲の物体を吹き飛ばし、消失した空間と入れ替わるようにして忽然と姿を現したのは数個体のエンジェルス。聞こえぬ声が脳裏に響く。
『 ―― “ 兄者 ”よ、御指示を』
 超常体に“ 兄者 ”と呼ばれるとは。苦笑う藤太郎の半身を、羽にも見紛う白き獣毛が覆っていた。迷彩服の背を内側から破らんとする突起が感じられる。
 己の変化を構いもせずに藤太郎は徒弟達を見渡す。言葉を発した。
「 …… 往くよ。自由を我等に! ―― Amen.」
「「「自由を我等に!!! ―― Amen!!!」」」

*        *        *

 潮騒の音が遠く聞こえる。割れたステンドグラスからは湿った風が吹き込んできたが、小羊の像の前に跪いている女は意にも介さず祈りを捧げ続ける。
 海沿いにある、河浦の崎津天主堂。近くではチャペルの鐘が鳴り響いていた。
 二十四のエンジェルスが歌い、七のアルカンジェルが剣を捧げ構える。四のプリンシパリティが叫ぶ。
 ―― Sanctus, Sanctus, Sanctus Dominus, Deus Sabaoth. Pleni sunt caeli et terra gloria tua.
 女は立ち上がる。その背に3対の光翼が広がった。空間が凝縮し、物質を精製する。エーテルより造られし懲罰の杖。杖を手にした女は凛とした声で、朗々と読み上げる。
「 …… 巻き物を開いて、封印を解くのに相応しい者は誰か。―― そはユダ族から出た獅子、ダビデの根。貴方は巻き物を受け取って、その封印を解くのに相応しい方です。貴方は屠られて、その血により、あらゆる部族、国語、民族、国民の中から、神の為に人々を贖い、私達の神の為に、この人々を王国とし、祭祀とされました。彼等は地上を治めるのです」
 ―― 屠られた小羊は、力と、富と、知恵と、勢いと、誉れと、栄光と、賛美を受けるのに相応しい方です ――。
「御座に坐る方と、小羊とに、賛美と誉れと栄光と力が永遠にあるように! ―― Amen!」
 合唱が轟いた。
 そして六翼を広げ、懲罰の杖を手にした朱鷺子が、聖堂内を見渡す。…… 残り少しだ。残り少しで、裁きの時が来る。人であった名残か、無意識に安堵の息を吐いていた。
 そんな朱鷺子に伝令のエンジェルが報告を入れる。朱鷺子の眉が微かに動いた。
「―― 天草上島の同志達は、未だ完全な洗礼を受けていないとはいえ“ 神の獅子( アリエル ) ”がいる。無事とは言えぬが、それでも期待以上の成果を上げてくれるはずだ。しかし、それでも本渡にまで愚者どもが攻めこんで来たのか。…… ドミニオンだけでは防ぎ切れないかも知れぬな」
 こうしている間にも天草上島や天草下島の本渡では同志や“ 弟 ”達が罪人どもの手にかかり、命を落としている。先日にも敵特殊部隊を追撃する為に派遣したケルプが、相手を全滅させたものの刺違えとなって天に召されたばかりだ。
「 ―― だが門さえ開けば …… 七つの封印・七つの喇叭・七つの鉢が揃えば、全てが終わる。七つの大罪や“ ”にまつろわぬ数多の悪霊が掃き清められる。そして ―― 始まるのだ」
 面を上げて、ただ彼方を見詰めるのだった。

*        *        *

 第一有明橋にて、敵の補給部隊に襲撃を掛ける。だが同じ轍を踏まぬのか、充分な護衛がついていた。
「にゃあ。やっぱり、もはや一筋縄ではいかないにゃ」
 89式5.56mm小銃BUDDYで斉射すると、藤太郎はきびすを返して坂道を駆け上がった。さすがに魔人とは雖も、山間の河内上津浦港線(県道282号線)を走るのは苦労する。息が上がったところで、後方から追撃の高機動車『疾風』の排気音が近付いてくるのが判った。
「にゃあ。とりあえず撒き餌に誘われた魚が一匹。雑魚か大物かは、蟹の味噌汁」
 道脇の木々に跳び込み、BUDDYを構える。と、隠れ潜んでいる場所へと、銃弾の嵐が吹き荒れた。疾風の架台に搭載されたFN5.56mm機関銃MINIMIが火を吹いていた。
 半数の隊員達が降車する間も、もう半数が車体から油断無く藤太郎達が隠れ潜んでいる場所へと制圧射撃を行なってきている。
 隊長と思しき男は、副官であろう少年兵の声を振りきって、助手席で立ち上がると、
「いい加減、鬼ゴッコはお仕舞いだ。…… 負傷の為に前線に赴けなかったが、おかげでこんな場面が回ってくる。何が幸いするか判らんな」
「 ―― 一応、蘇芳准尉からは『安静にしておくように』と厳命を受けているんですからね、そこんとこ解かっていますよね?! 一度死んだのですから!」
 副官の悲痛な叫びにも、だが班長は鼻で笑うだけ。とにかく部隊は馴れた手つきで、包囲陣を敷く。
「しかし、どいつもこいつも異生(ばけもの)に乗っ取られちまった女に従うとはね …… 」
 剛毅な体付きだが、慎重な様でもある。
( …… 突っ込んできてくれたら、罠で一瞬なんだけどにゃぁ )
 暫く熟考。そして憑魔を活性化させると、前に大きく跳躍した。
 ―― 憑魔覚醒。侵蝕開始。半身異化状態に移行。
 軽快且つ俊敏な動きで一気に攻め込む。5.56mmNATOが放たれるが、藤太郎はトリッキーな動きで狙いを外させていった。
「フギニャー!!」
 威嚇と同時に、MINIMIの銃手に接近して回し蹴り。鞭の様にしなった脚。その先端の踵は、銃手の脇、脾臓の辺りを的確に打つ。憑魔活性化で身体能力が増大しているとは言え、小柄な藤太郎は元々非力な部類に入る。技も力も軽い。持久力も無い。だが瞬発力と集中、一撃は速くて正確だ。ならば、それを活かして、鍛え様の無い急所を狙うだけ。
 胃液を吐いてよろめく銃手。一瞬でも敵の視線が集まった。その隙を狙って、木陰に潜っていた部下や、エンジェルスが反撃を食らわす。ありったけの銃弾の雨。鉛の弾を浴びて、敵兵数名が地に伏した。当然ながら流れ弾は藤太郎も襲うが、
「てめぇ、狂ってやがる! ―― 異形系か!」
 異形系はその身体構造を自由にする事が出来る憑魔だ。そして余り知られていない事だが、無尽蔵とも言える再生力(細胞復元・分裂・増殖)を有している。物理攻撃は事実上無効。何故ならば憑魔核さえ無事ならば、一欠けらの肉片からも完全復活する事が可能とも言われているのだ。半身異化状態の異形系魔人を殺す手段は、肉塊1欠片も残さずに消滅させる事。
 被弾した藤太郎の肉体が復元する。
「 ―― 蘇芳先輩もだが異形系はマジで厄介だな」
「にゃあ♪ 猫は、命を九つ持っているんだよ」
 鳴くと、敵兵を翻弄しながら動き回る。時には打撃し、時には攻撃を避けながら。相手に気取られずにある程度の数を固めさせて、そして前へと誘導していった。そして挑発行為をしながら軽く後方にステップ。
「 ―― 如何に再生力が高いとはいえ、倒れたところをガソリンかけて燃やしたら流石に死ぬ!」
「うわ、おっかないにゃ!」
おどけると同時に、張った木の枝に跳躍した。射線が集中するところを、
「 ―― ポチッとな」
 仕掛けていた罠が発動。M18A1指向性対人用地雷クレイモアが、700個の鋼球を飛び散らす。前面60度の扇上にいた敵兵数名が、鋼球で一瞬にして蜂の巣になった。
「やりぃー! ……って、あれ?」
 木の幹が破砕される。血塗れ傷だらけの敵班長が、半身異化の力を振り絞って、藤太郎を叩き落とした。そしてBUDDYのフルオート。
「よくも、部下を ―― 地獄に落ちろ!」
「 …… ちみが、ね」
 しかし銃弾を受けて、肉片が細切れになっていくが、その痛みを堪えて藤太郎は笑ってみせた。
「もう1つ、ポチッとな」
 戦闘防弾チョッキの下、胸を覆うように隠し持っていたクレイモアが破裂する。700個の鋼球が敵班長に正面から叩き込まれた。声も上げる間も与えずに、数多の肉片と変えて、吹き飛ばしてやった。敵班長は ―― 絶命した。
 クレイモアの爆薬であるコンポジションC-4は、可塑材が加えられて非常に安定した物質となっており、外部から力を加えても決して爆発する事が無い。
 とはいえ、後方にも激しい爆風が発せられるので、藤太郎がやったのは本来ならば危険極まりない自殺行為だ。だが藤太郎は異形系魔人である。バラバラに吹き飛ばされても、時間をかければ蘇生する。
 藤太郎の最も大きな肉塊から復元されたのは、白き獣毛と3対の翼を持つ、獅子頭の天使。
 が、すぐに不安定だったのか崩れ落ち、元の藤太郎の姿となる。ちなみに爆風により服も襤褸となって吹き飛んだ為、今の彼は全裸だ。
「 ―― 陣内のアニキの仇ッ!」
 生き残った敵兵の1人が踊りかかってくるが、
「面倒臭いにゃ」
 長く鋭い爪を伸ばして、一閃。首を切断すると、頭が宙を舞う。残るは、勢いだけになった胴体が突進してきたが、藤太郎は横にかわすだけ。タタラを踏んでから崩れ落ちる。
 もはや敵残兵は2人となった。それでも戦う意思を捨ててはいない様だ。が、
「つまんなくなったにゃー。…… 撤収」
 部下とエンジェルスを引き連れて、山奥に退いてやる。正直言うと武器も無いし。こちらも数名殺られていた。
「 ―― 窮鼠、猫を噛むとも言うしにゃ。まぁ、こんな調子で頑張っていこー」
 安全な隠れ場所まで後退すると、欠伸をしてから猫の様に丸まるのだった。

*        *        *

 天が ―― 割れた。
 朱鷺子が3対の光翼を広げて歌う。
    み恵みを受けた今は
    われらに恐れはない。
    み力により頼んで、
    主のために進みゆこう。
 崎津天主堂の周囲に群がっていたエンジェルスが唱和する。人の耳に聴こえぬ歌声を上げる。
    さあ進め、たゆみなく、
    さあ歌え、声たかく。
    み恵みに生かされて
    われらは主に従おう。
 と、雲1つ無い空に稲妻と声と雷鳴が起こった。落雷により、朱鷺子の身が燃える。迷彩服は焼け落ち、白い裸身を露わにする。だが朱鷺子自身には、身1つにも傷を負った様子は無い。聖なる火は朱鷺子を優しく包むと、清い光り輝く亜麻布と変わり、胸には金の帯となった。
 懲罰の杖を帯に差すと、朱鷺子は両手を天にかざす。その右手には喇叭が、左手には金の鉢が握られた。
「 ―― 貴方の御業は偉大であり、驚くものべきものです。“ ”よ。万物の支配者である神よ。貴方の道は正しく、真実です。諸々の民の王よ」
 ――“ ”よ。誰か貴方を恐れず、御名を褒め称えない者があるでしょうか。唯、貴方だけが、聖なる方です。全ての国々の民は来て、貴方の御前に平伏します。貴方の正しい裁きが、明らかにされたからです ――
「 …… 彼等は全世界のの王達のところに出て行く。万物の支配者である神の大いなる日の戦いに備えて、彼等を集める為である」
 ―― こうして彼等は、ヘブル語でハルマゲドンと呼ばれるところに王達を集めた ――。
「 …… そう。この地こそが、メギドの丘。神州と呼ばれし、極東の島国が!」

 …… あらゆる通信機器から、電波ジャックした放送が流れてくる。凛々しい女声が響き渡る。
『 ―― 諸君』
 迫り来る敵部隊員達に対して、アルカンジェルは片翼を失いながらも抗戦を続ける。
『諸君』
 エンジェルスを天に仰いでBUDDYを構えていた双翼十字部隊が5.56mmNATOを撒き散らす。
『諸君 ―― 』
 女の声は、三度同じ呼びかけをし、
『もうすぐ約束されし時がくる! 安息と至福に満ちた神なる国が!』
 手榴弾を先頭車輌の運転席に放り込んだ藤太郎が、鼻をこすりながら笑った。
『 ―― 私は松塚朱鷺子、旧国連維持軍・神州結界維持部隊・西部方面隊第8師団第42連隊所属、第85中隊隊長だったもの。天草を拠点として腐れきった日本国政府からの独立を唱え、宣戦布告をしたものとして覚えておられるだろう』
 徒弟達が銃剣を構えて、刺突を繰り返す。
『かつて、私はこう言った。――我々は、日本国に生まれ育ち、そして超常体と呼ばれる来訪者達を身に宿したというだけで自由と生存権を奪われ、その裏に己の保身と私欲に走る愚鈍な各国政府と日本国政府との間に密約があったという事を!』
 放送主は一息吐き、そして爆弾発言を続けた。
『その証拠を今こそ示そう! その時が来たのだ。証拠とは ―― 』
 天が鳴動し、地が震え上がった。
『 ―― 私自身だ! 私という存在がその証拠である。私は …… 我こそは処罰の七天使が1柱“ 神の杖(フトリエル) ”―― 最高位最上級にある超常体、熾天使(セラフ)である!』
 奥歯を噛み締める音が聞こえた。
『我は、この世界に“ ”の御命による安息と至福に満ちた国を建てる為に、愚かなる者どもを打ち倒し、魑魅魍魎を祓い出すよう申しつけられ顕現した。己が自由と誇り、生命を守る為に、当然ながら我等に抗われるだろうと覚悟の上で、だ。しかし ―― 』
 悲しみと怒りに満ちた声が周囲に渦巻く。
『 ―― あろうことか、愚鈍な者どもは保身と私欲の為に我等に媚び諂うと、この国を売り渡したのだ』
 糾弾するフトリエルの声が天に満ちた。
『 ―― 怒れよ、戦士達。我は、同志であれ、同志で無くとも、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んできた諸君等に惜しみない賞賛と敬意を送る。と、ともに問い掛けたい。…… 我は諸君等の敵であるとされていた。確かに我等は諸君等を殺め、命を奪ってきたものだ。だが、真なる敵は諸君等から自由と権利を奪い取り、そして何よりも誇りと生命を軽んじている者どもではないだろうか!?』
 聞く者の心に、困惑と、そして嘆きが迫ってきていた。呆然が憤然に取って代わる。
『今一度、呼びかけたい。―― 我は約束する! 戦いの末、“ ”の栄光の下で、真なる安息と至福を諸君等に与えよう。ゆえに己が自由と誇り、生命を守る為に、この理不尽なる全てに対して抗いの声を上げよ。そして我等とともに戦い抜こうではないか!』
 …… 聖約が、もたらされた ――。

 放送を終えたフトリエルが、報告を待つ。
「 …… この地を、敵が探し当てるにはどれぐらいの時間が必要か?」
 憑魔の完全侵蝕による異生化 ―― 否、洗礼によって覚醒した、神兵が応える。鎧と見紛う外骨格に覆われた姿は、高位中級超常体パワー(※邦訳:権天使)に他なら無い。
「 ―― はっ。旧本渡市役所にて防衛線を張っておられたものの、瀬戸大橋入口近くの天草工校を橋頭堡とした敵の猛攻により、副長殿は殉教死。本渡司令部の陥落も時間の問題かと。…… 誠に残念ではありますが」
「副長には …… 同志達には、無理をさせてしまった。済まない」
「いえ、松塚一尉 ―― フトリエル“ 姉上 ”ひいては“ ”の御為ならば、我等いつでも身命を投げ捨てる覚悟であります。アブラハムが、子イサクを“ ”に捧げようとしたように」
「全くもってありがたい話だ。…… だが無理はするな。燭台の火が灯った以上は、残るは時間の問題だ。私自身も護りにつく。この燭台の火を護り通せさえすれば良いのだ」
 だから、と前線で戦っている者達へと厳命した。
「危うくなったら、躊躇いなく場を放棄せよ。本渡を捨てたとしても、すぐに取り返せる。―― 天草上島で撹乱活動を続けているアリエル ―― 斎藤太郎准尉にも同じ様に伝えておけ。…… それと、斎藤仁士長の死に関して済まなかったと」
「その言葉で“ 兄上 ”も慰めとなりましょう」
 フトリエルは翼を休めると、腰掛ける。
「何にしろ、夏至の日は近い。ひとまずだが、勝利は目前だ。―― 自由を我等に」

 
■選択肢
Ap−01)天草上島でゲリラ活動
Ap−02)本渡にて司令部死守
Ap−03)その他、天草下島で行動
Ah−01)維持部隊に投降し、本渡制圧
Ah−02)維持部隊に投降し、朱鷺子討伐
Ag−01)脱走して独自に行動


■作戦上の注意
 当作戦参加者には、功績ポイントを10点消費すれば、エンジェルス1個組(2〜3体)を恭順させる事が出来る。能力系統は「祝祷系」だが威力は弱いのでアテにはしない事。また超常体との接触時間が長いと、強制的に憑魔侵蝕率が上がるので注意されたし。
 6月中旬までに“ 燭台の火 ”を灯し続ければ、天獄の門は開かれて、神軍(かみついくさ)が降臨する。また各地に潜在している同志も決起するだろう。
 ただし阿蘇の健磐龍命が封印から解放された場合、また話が違ってくるが ……。
 なお朱鷺子や“ 主 ”に不信感を抱き、維持部隊に投降する場合はAh選択肢を。朱鷺子に裏切られたと思い、(仮称)双翼十字部隊改め、神杖軍に対して叛旗を翻す、或いは人間社会を離れて独自に行動したい場合はAg選択肢を。
 泣いても笑っても、次が『隔離戦区・神州結界』第8師団( 九州 = 阿弗利加 )編の最終回である。後悔無き選択を! 幸運を祈る!


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