第六章:ノベルス


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 第6回 〜 九州:アフリカ 其陸


A6『 いそぎ来たれ、主にある民 』

 
 曇天が続いていた島原湾を、久方振りの暁光が染め上げる。潮も穏やかで、波も高くはない。
 反射する暁光の眩しさに堪え、目を凝らして見れば、其の海面を這うかの様に飛行する、異形の群れが伺えただろう。
 だが敵対している弾圧部隊は、上天草と下天草を繋ぐ本渡瀬戸大橋を中心に陸路を警戒するばかりで、湾を眺める程に心に余裕が有る者は居なかった様だ。
「にゃあ。おいら達には翼があるのだから、別に陸路や海路を使う必要は無いのだにゃ。ちみ達とは、此処が違うのだよ、此処が」
 頭を指差し、飛行群の先頭を行く翼を持つ猫がほくそえんだ。元・西部方面隊・第8師団・第42普通科連隊・第852班長の 斎・藤太郎(いつき・ふじたろう)は、敬愛し絶対視していた第85中隊長の 松塚・朱鷺子[まつづか・ときこ]の志に賛同し、独立の為に決起した者である。朱鷺子への忠誠は、懲罰の七天使“ 神の杖(フトリエル) ”の姿を顕した後も変わらず、いや、むしろ一層の傾倒をしていっている。
 其んな藤太郎を“ 兄君(ブラザー) ”として従うのは、かつての部下であり、今や同志にして徒弟達。其れに有翼人型超常体エンジェルス1個班。自前の翼で飛ぶ藤太郎に続いて、徒弟や武器を輸送してくれている。
「武器と言っても地雷や手榴弾ぐらいだけどにゃ」
 丸めた手で耳の裏を掻きながら苦笑する藤太郎。
 其うして朝陽に紛れ、そして光学迷彩を施しての移動は、幸いながら敵に気付かれる事無く成功する。本渡フェリー待合所跡に降りると、本渡指令所詰めの第85中隊本部付戦闘員が出迎えていた。侵蝕が進んで居るのか、其の身を鎧にも似た外骨格に覆われた姿は、高位中級超常体パワー其のものである。
「斎准尉 ―― “ 神の獅子(アリエル) ”兄君の帰還をお待ちしておりました」
「ん。其の名前は、未だおいらには相応しくないから止すにゃ。大体、獅子頭人身よりも、翼の生えた猫の方が素敵だと思わないかにゃ?」
「はぁ …… 趣味は『缶ジュースを人肌まで温める事』ですか?」
「ちみも、難しいギャグネタで返すにゃよ。おいらは猫神様じゃなくて、ラブリー猫天使。其う言えば、実際に猫に羽根生えた天使のイラスト漫画が、どっかに在ったようにゃ …… ?」
 藤太郎は首を傾げていたが、
「とりあえず、其れは置いといて …… 其方の状況は道すがら聞くにゃ」
 警戒しながら、指令所になっていた旧本渡市役所に向かう。
「天草工校を橋頭堡にした敵は、1個小隊を残すと多くが国道266号線を南下 ―― 崎津天主堂に灯った“ 燭台 ”に居らっしゃるフトリエル姉君の弑逆を図っているのは明白です」
「 …… お馬鹿さんかにゃ? 山間の266号線は罠設置や待ち伏せしたい放題。大部隊を展開させようにも路が狭くて上手く出来ないにゃよ? 少数精鋭の普通科部隊を投入するべきだにゃ。…… 其れにしても、今更だけど。折角のSBUも有効利用せずに使い潰しちゃったのは痛いにゃ」
「フトリエル姉君を護るのは、数名の魔人兵 ―― 聖別によりパワーとヴァーチャーに覚醒 ―― 其れとケルプが一体。エンジェルスとアルカンジェルス、其れにプリンシパリティスに到っては軽く1個中隊は超えます」
「圧倒的じゃないか、おいら達の軍は! “ 燭台 ”が灯った時点で、此れ以上は無駄な足掻きだと解かる気だったにゃ、敵さんは」
「問題なのは、此の司令所です。フトリエル姉君からは『無理はするな。危うくなったら放棄せよ』と命じられていますが」
 パワーの言葉には返さず、藤太郎は旧本渡市役所ロビーに入るや開口一番、
「斎藤太郎と、同志7名。上天草島より帰還したにゃ! なお交信が難しい状況の為に確認は出来ないが、上天草の山中に散った同志達が今も撹乱活動を継続中と思われるにゃ。―― 同志に兄弟諸君、おいら達の悲願はもうすぐ。楽園の扉が開く迄、持ち堪えるにゃ」
 更に大声を張り上げる。
「 ―― 其れで、現在の指揮官は誰かにゃ〜?」
「 …… 本官であります、准尉殿」
 生真面目そうな(元)陸曹長が遮蔽物から身を起こして敬礼する。中隊本部付火器陸曹だった男だ。
「 …… ちみは未だ人間かにゃ、同志?」
「洗礼・聖別はされていませんが、松塚中隊長殿への忠誠に揺るぎはございません!」
 直立不動の(元)陸曹長。藤太郎は鼻をひくつかせて、彼の体臭を嗅ぐ。
「 …… 鼻が曲がるにゃ」
「此処数日間、敵の襲来に備えて、一同、風呂に入っておりません」
「其れなら、おいら達も同罪だにゃ。―― よし、同志の言葉に嘘偽りは無い。疑って悪かったにゃ」
 人は動揺や緊張をすると内分泌の変化で、体臭が変わると言う。藤太郎は嗅ぐ事で、未だ洗礼・聖別を受けていない元陸曹長を試してみたのだ。
 なお敵の言葉を借りれば、洗礼がヘブライ神群系憑魔の寄生であり、聖別が神群系統の方向付けとなる。
( …… 中隊本部付という事は、フトリエル姉君のお傍だにゃあ。でも洗礼・聖別を受けずに、此処迄頑張ったのか。偉いにゃー )
 藤太郎は感心して見せた。そして気紛れな猫の様に彼から此れ以上の興味を失った。其んな彼に、
「では、副長殿からお預かりしていた司令部の指揮権をお譲り致します」
「にゃ〜。面倒臭いけど、頑張るにゃ」
 朱鷺子を盟主として独立を宣言した際に以前の立場は失われたが、其れでも年齢や元の階級から来る発言力は存在する。現時点での階級最上位は藤太郎の准陸尉である。また藤太郎本人も実のところは解かっていないのだが、超常体や魔人兵の中でも最上位に在るらしい。此れは未だ藤太郎が完全侵蝕を終えていなくとも変わりは無いようだ。
 こうして指揮権を掌握させられると、
「では繰り返すけど、楽園の扉が開く迄持ち堪えるにゃ。―― 自由を我等に!」

*        *        *

 透き通る様に白い肌をした美丈夫 ―― 有翼人型の高位中級超常体ヴァーチャーの報告に、朱鷺子は美しい眉を微かに動かした。
「道目木トンネルで罠に嵌まってくれたか …… 兵員の消耗に、時間の浪費。私達が仕掛けたとは言え、憐れに思えてくるな。―― 何故、彼等は此う迄して無益な死を望むのか。おとなしく宇土迄引き下がるならば、今は見逃すものを」
 傍に控えていたパワーが頭を下げて意見を述べる。
「最早、彼等は意地を張っているだけに過ぎません。誇りと意地を取り違え、レミングの様に行進するだけなのです。其の先が地獄の顎とも知らずに」
「私を倒し、そして“ 燭台 ”の灯を消す為に、彼等は来るのだな。…… 愚かな。無駄に死傷者を増やすだけというのに。―― 私の首1つを狙うだけならば、何故もっと早くに私の居場所を探り出し、少数精鋭の特殊部隊でも送らなかったのだ?!」
 眉を吊り上げて、朱鷺子は憤りを隠せない。
「もっと早く攻め込んでいれば ―― 私は祈りに時間と力を回さなければならず、また護りも薄い絶好の機会だっただろうに!」
 しかし敵は正攻法の奪還戦に終始し、其の結果、大矢野−松島の攻防戦で双方に多数の死者を出した。独立を阻止するには、盟主である朱鷺子の首1つだけを狙えば良かったのにだ。朱鷺子さえ殺せれば、残るは求心力を失った烏合の衆。同志達は抵抗を続けていくだろうが、鎮圧されるのも時間の問題だった。
「何故、かくも人は無益な争いを望み、屍山血河を築く事を好むのか …… 人は愚かで罪深きものだからか …… やはり懲らしめの杖を振るわなければならぬのか。封印を解き、喇叭を吹き鳴らし、そして災いの鉢をぶちまけねばならぬのか …… ?」
「何を悩まれているのですか、フトリエル姉上。まるで討たれる事を望んでいるかの如く」
「 …… 望んでいたさ、私 ―― 朱鷺子は『人は其れ程愚かでは無い』と。だが我 ―― フトリエルは『人は此れ程愚かで有る』と断言せねばなるまい」
 フトリエルが決意を込めると、傍らに身を横たえていた獣もまた頭を持ち上げた。青い2翼は、背からではなく頭から生えている。有翼人面獣身の高位上級超常体 ―― ケルプ。
「 …… 彼等が交戦する為に要する時間は?」
「道目木、長平越、立原のトンネルに仕掛けた罠と、プリンシパリティ達の待伏せを突破して河浦に到着するのは、あと3日は掛かるかと」
「 ―― 其れ程苦労して、崎津トンネルで一瞬か。自慢のスカイシューターも活用出来ずに全滅だ」
 そして朱鷺子は哀しむ様に、またフトリエルは憐れむ様に、吐き捨てた。
「 ―― 愚か者共が」

*        *        *

 久方振りに見られた青空も翌朝には、また泣き模様と変わっていた。
「梅雨は嫌だにゃ〜。物は腐り易いし、湿気でべた付いて、毛並みが乱れる」
「 ―― 毛?」
 同志や徒弟達が思わず顔を見合わせるが、藤太郎は気にせず、
「ああ、陽溜まりの中、のんびりと昼寝したいにゃ」
「 ―― 同志・斎。すっかり猫化していませんか?」
「もしや雨が降り続けるのは …… 昨日、兄上が顔を洗った所為では」
 囁き合っているが、藤太郎は欠伸を噛み殺すと、
「さて。此んな雨の中だと言うのに敵さんは働き者だにゃ。ハメハメハ大王に怒られるよ?」
 雨の中では、エンジェルスが放つ光を集束した矢の威力も半減。また光学迷彩も、雨の跳ね上がりで身体の輪郭が浮かび上がる。敵にとって絶好の機会だ。
 本渡司令所の残る藤太郎達と対峙している1個小隊は、崎津天主堂に向かった本隊の留守を預かって橋頭堡を維持するだけに飽き足らず、果敢に此方への圧迫を強めてきている。
 本渡運動公園の長嶋茂雄球場(※冗談の様だが実在する)跡に陣を布くと、市役所手前に在る湊大橋の突破を試みてくる。バリケードを築き上げ、少数で多勢を迎え撃つには不足が無い。既に湊大橋以外の町山口川に掛かる橋は落としてある為、彼等の攻撃進路は狭められていると言えよう。
「だけど川底は、渡河出来ない程には深く無いし。其の点では、此の梅雨は助かるにゃ。…… 氷水系が居ないのも」
 氷水系魔人は、水辺や雨天時において最凶だ。湊大橋攻防に苦労しているのも、互いに凶悪な手駒が揃っていない事が有るだろう。
 しかし瓦礫を積み上げただけのバリケードは何時か破られるものだ。89式5.56mm小銃BUDDYの火線を橋上に集中させていたが、放物線を描いて榴擲弾が投じられた瞬間に堤は決壊した。
 榴弾が爆発し、身をかわすのが遅れた数名が死傷した。後方からFN5.56mm機関銃MINIMIの支援を受け、堰を切った敵勢先頭がBUDDYを乱射しながら突っ込んでくる。が ――。
「数名様、地獄へ御案内にゃ〜。ポチッとな」
 橋の袂に仕掛けていたM18A1指向性対人用地雷クレイモアが、700個の鋼球を飛び散らす。前面60度の扇状の殺傷範囲から逃れるすべは無い。
 だが鋼球に貫かれて血達磨になっても、なお突っ込んでくる者が居た。流石に驚いた藤太郎はBUDDYで薙ぎ払う。しかし敵の特攻野郎は怯まず、至近距離からお返しとばかりに5.56mmNATOをバラ撒いた。戦闘防弾チョッキが受け止めるが、衝撃は殺せない。
「ふぎゃーッ!」
 被弾した藤太郎が鳴き声を上げる。半身異化した異形系とは言え、覚悟しておかなければ痛いものは痛いのに変わらないのだ。
「しかし相手も異形系 ……? 違う、操氣系だにゃ、この我慢大会キングめッ!」
 厚い氣の膜で身を包んだ敵兵は、靴先で藤太郎の腹部を蹴り上げた。防弾チョッキの上からでも、倍化した蹴りの威力は受け止められない。小柄で軽量の藤太郎の身体が宙に滑る。背中から路面に叩き付けられ ―― る瞬間。膝を抱えて綺麗に空中3回転。
「キャット空中大回転! ―― って、 容赦無いね、ちみ?!」
 綺麗に着地してポーズを取ろうとしたが、其んな余裕を見せ付ける事も出来ずに、追い討ちの射撃で藤太郎は逃げ惑う。また同志達も敵の弾数に押され気味だ。攻守を逆転させるには、
「弟達よ。―― 光あれ!」
 エンジェルスが閃光を放つ。目が眩んだ敵の弾幕が一瞬だけだが途絶えた。
「ね〜こ〜だましだにゃー!」
 同時、藤太郎が俊敏な動きで相手に詰め寄る。だが敵魔人は視力を喪ってもなお動きに付いてきていた。藤太郎の氣配を感じ取って、素早く弾倉を交換すると澱みなくBUDDYを向けてくる。銃口から発射される初速約920m/秒の5.56mmNATO弾。
( 藤仁も此んな気持ちで召されたのかにゃ …… )
 無数の小銃弾が頭蓋を砕き、脳を掻き混ぜて、周囲に撒き散らす。普通ならば此れで死ぬ。
 ―― だが藤太郎は普通では無い。背から3対の光翼が広がり、羽ばたくと同時。物凄い勢いで脳細胞が分裂を開始し、増殖して損傷した部位を埋め直していく。獣毛にも似た、白き羽根が身を包む。六翼を有する獅子頭人身の熾天使アリエルの姿が其処に在った。
 異常な氣を感じ取ったのか、敵魔人は恐怖に駆られてBUDDYで乱射を続けてきたが、アリエルは俊敏な動きで射界から身をずらす。避け切れなかった銃撃も、破損を上回る速度で復元していった。牙を剥き出して獅子の吼声を上げる。
 毎分650発から850発の発射速度を誇るBUDDYだが、弾倉にある5.56mmNATOは30発に過ぎない。撃ち尽くしたBUDDYはただの杖に等しい。
 羽根を脱ぎ散らかして人の身に戻りながら、敵魔人の死角に潜り込む藤太郎。但し其の手は、
「魔晶変化ネコパンチバズ! にくきゅ〜ボム!」
 肉球と言いながら、伸びた鋭利な爪で敵魔人を引掻く。恐怖で乱れた氣の膜を斬り割き、肉を抉る。だが骨は断ち割れずに、諦めて爪を引き抜いた。
「非力だにゃ〜。おいら」
 憑魔が活性して身体能力が強化されたとは言え、素が非力では、打った切る事は不可能だ。だから人間の道具を使う。藤太郎の手に現われたのは9mm拳銃SIG SAUER P220。崩れ落ちる敵魔人の眼孔へと銃口を捻じ込む様に突き付けて ―― 連続して引鉄を絞った。

 藤太郎は部隊を引き下がらせると、態勢を整えて総力戦の覚悟を以って司令所を死守させる。
 昼夜を問わぬ攻防戦が続く中、ついに状況を決定させる事件が起きた。
 河浦の方角から、強大な地響きを感じ取る。だが光の柱には揺らぎが無い。
「 ―― 勝ったにゃ」
 藤太郎の呟きの通り、暫くして敵部隊は慌しく橋頭堡である天草工高へと退いていく。だが、其れを見逃してやる程、お人好しでは無い。
「 ―― 投降を呼び掛けるにゃ。“ ”に従うならば良し。だが飽くまで背くというならば誅殺せよ」
 攻守が完全に交代。そして河浦から必死に逃げてきた敵敗残兵は、本渡に辿り着いた時、藤太郎達によって制圧された天草瀬戸大橋の姿を見て、絶望に陥ったのだった。

*        *        *

 艶やかな黒髪が雨に濡れるのも構わずに、フトリエルが旧本渡市役所に降り立つ。清い光り輝く亜麻布に身を包み、胸には金の帯。
「よく持ち堪えてくれた、アリエル …… いや、未だ人の身なのか、斎准尉」
 丸めた手で耳の裏を掻く藤太郎。
「不徳の為す事で。未だに人の身と心を引き摺っているにゃ。此の戦いで超えるかにゃぁ?と思っていたのだけど ―― 申し訳にゃい」
 だがフトリエルは慈しむ様に微笑むと、
「いいや。朱鷺子は未だお前が人で居続けている事を喜んでいるよ。…… 時間の問題では有るが、今の自分も大事にしてくれ」
 朱鷺子は皆を見渡すと、
「―― 他の者も! よく生き残ってくれた。戦いは此れからも続くが、今は喜び、そして休んでくれ」
 歓声が沸き上がり、祝福の詩が流れた。

 フトリエルは天草諸島を再び解放すべく“ 神の御軍(みいくさ) ”で進軍を開始。天草上島、大矢野島から敵の残存部隊を追い払いながら、ついに三角迄到達した。だが、天門橋を越えようとした時、
 ―― 灼熱の焔が空を分断し、エンジェルスの8割が焼失した。
「 ―― 阿蘇の 健磐龍命[たけいわたつのみこと]が封印から解放されたか!」
「 …… 熊本城に在る藤崎八旛の九州結界も健在の様だにゃ。まぁ バールゼブブ[――]は倒されたらしいから、懸念事項は1つ減ったにゃ」
「其れだけは人間の勇士達を賛嘆し、敬意を払うべき事だな。皮肉な事だが。―― しかし、此れでは容易に進軍するのは叶わなくなった。天草諸島を取り戻せたのは嬉しいが、此れでは決起時と変わらぬ」
 美しい眉を寄せてフトリエルは唇を噛んでいたが、
「 ―― 陸路を捨てる。トロウンズに空輸させて、長崎・宇土・八代に打って出るぞ」
「 ―― 了解にゃ」
 旧観光土産センター跡から、三角を眺めていたフトリエルは付き従う皆に振り返ると、
「戦いは終わり。そして、此れから始まる。――“ ”の栄光の下で、真なる安息と至福を勝ち取る為の戦いが。…… だが怖れる事は無い。既に、我等に賛同した多くの新たな兄弟達が、神州各地で決起、或いは此方に向かって来ている」
 意気揚々とフトリエルを見詰める藤太郎をはじめとする同志達。フトリエルは微笑んで頷き返すと、
「 ―― さあ、己が自由と誇り、生命を守る為に、此の理不尽なる全てに対して抗いの声を上げよ。そして戦い抜こうではないか!」

 ―― そして夏至の日。世に言われる、黙示録の戦いが始まった。高位の超常体が、神州の支配権を巡って相争い始める。天を覆う、神の御軍。地を覆う、魔の群隊。人々は拠点を死守するのに精一杯だった。
 そう …… 此処に終わりの為の戦いが繰り広げられていくのだ。“ ”の御命による安息と至福に満ちた国を建てる為の戦いが。

 


■状況終了 ―― 作戦結果報告
 天草独立作戦は、今回を以って終了します。
『隔離戦区・神州結界』第8師団( 九州 = 阿弗利加 )編の最終回を迎えられた訳では在りますが、当該区域作戦の総評を。
 当初の思惑では、朱鷺子の正体に危惧を覚えて彼女から離反、維持部隊に合流して1つの作戦に統合するつもりでしたが、同志・藤仁も、同志・藤太郎も全く以って疑う事無く戦い続けていた点が、素晴らしく感じ取りました。
 数に劣る独立決起部隊でしたが、少数だからこそ、後方撹乱に従事した点が勝因の1つでしょう。尤も敵も同じく後方に浸透して、朱鷺子を直接狙っていた場合、恐らく負けていた事も注意しておきます。
 其れでは、御愛顧ありがとうございました。
 此の直接の続編は、当分先になると思います。とりあえずは、時間を少し溯りまして、同時期に福岡・大分、そして沖縄での作戦に御参加頂ければ幸いです。
 重ね重ねになりますが、ありがとうございました。


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