第六章:ノベルス


同人PBM『隔離戦区・神州結界』 第5回 〜 九州:アフリカ 其参


W5『 迫 り 来 る 終 焉 』

 
 73式小型トラックから降車した高射特科隊員が横に整列。副長の号令で、第8高射特科大隊・第81分隊隊長、長山・征司(ながやま・ただし)三等陸尉に敬礼した。
 普段の疲れたような素振りを改めて、長山は姿勢を正して答礼を返す。が、すぐに苦笑する。
「 …… 何とか欠員が補充されましたが、肝心のスカイシューターの補充は“ 都合がつき次第 ”ですか。…… まぁ、あれは値が張りますからね」
 87式自走高射機関砲スカイシューターは、性能は優秀ながら価格が馬鹿高い事で有名でもある。陸自時代の記録によると、約15〜16億円と高価で、年間1輌程度と細々と生産されていた。そして、殆どが北海道の第2師団と第7師団に配備されていたという。航空科のAH-1Sコブラ対戦車コブラの導入時価格が約10億。機甲科の90式戦車が約8億。陸自における最高価格装備である(※ 註)。
 戦時下にある現在では、必要性にかられて価格も割りと安くなり、各師団にも配備されてはいるが、未だに稀少な存在であるのは変わり無い。この1輌に掛けた費用で、多くの普通科隊員を育成し、高品質の軍装を行き渡らせる事が出来るのだから、普通科から恨まれるのも必然である。
「機甲科や航空科と並んで、特科の隊員が周囲から冷遇される訳ですね …… 」
 威力は絶大で頼りになるが、大型以上の超常体が相手でも無い限りは、必要性が認められない。また本体価格だけで無く、燃料などの維持費もかかる。特に燃料。隔離前から石油燃料を外国からの輸入に頼っていたが、隔離後もそれは変わらない。一応、各国からの支援という形で送られてきてはいるが、隔離前に輸入していたよりも量は少なくなっている。
「 …… より強力な敵の出現に備えて、ツングースカの試験輸入でも提案してみようと思いましたが」
 自走対空砲ZSU-23-4シルカ(錐)の後継として1986年に東独逸(当時)によって開発されたのが、統合型防空システム2S6ツングースカである。
 レーダーとコンピュータで制御された2A38M二連砲身式自動機関砲2基と、9M311対空ミサイル8発を組み合わせたもので、自動車化歩兵と機甲部隊を突然襲う低空の敵攻撃機から味方を防御し、更に巡航ミサイル等に対処する低高度対空システムとして設計されている。また移動中でもミサイル及び機関砲による交戦が可能。そして価格も外国産故にスカイシューターよりも割安になりそうなものだが、
「そこはそれ ―― オトナの事情ってのがありますからねぇ …… 希望は通らない可能性が」
 長山は大きく嘆息を吐く。
 長山の活躍あってこそ、航空優勢を保持している天草戦区だが、そもそも超常体が航空優勢を獲得しにくる事自体が今まで稀であったのだ。そこから未だに、過ぎた玩具、不必要論が根強かった。
「 ―― しかし各地からの戦況報告では、ヘブライ神群が航空優勢を獲りに来る事例は増えてきています」
 いや、そもそも、超常体との戦闘が始まり20年間も経てきたが、超常体がこれほど示し合わせたかのように各地で大規模発生し、戦闘が激化したのは初めての事だ。―― 人吉の大魔王降臨、阿蘇の超常体大侵攻、熊本市街中心における死神の暗躍。天草の叛乱も時期を狙ったかのように起こった。
「何かが起ころうとしているのでしょうか?」
 或いは、何かが終わろうとしているのか? この隔離された神州で、勝ち過ぎず負け過ぎずに、果て無く続くと思われた戦いが。
「叛乱に、超常体が協力している事も不可解なままですし …… 」
 天草叛乱の首謀者である(元)第42普通科連隊・第85中隊隊長、松塚・朱鷺子[まつづか・ときこ]一等陸尉。その副官であった男は、憑魔に完全侵蝕されて高位中級超常体ドミニオン(邦訳:主天使)の姿を顕したという。朱鷺子もまた特別な憑魔の持ち主だ。そこに関連性があるのだろうか?
「 …… 全く以って謎ですね」
 そう唸りながら長山が思い悩んでいると、幹部を召集しての作戦会議が伝われた。長山はとりあえず疑問を頭の片隅に追い遣ると、天幕に向かうのだった。

*        *        *

 鎮圧部隊の現状はこうだ。大矢野−松島間における死闘を増援到着まで堪え抜くと、その勢いを駆って叛乱部隊主力を突破。天草上島の上陸に成功した。
「敵主力を壊走させたとはいえ、天草下島は叛乱部隊の本拠地である事を考えれば、相手はおそらく高位超常体 ―― アルカンジェルより上級の個体が出撃してくる可能性もあります」
 長山の言葉に、口を挟む者は無い。長山は一度見渡すと、言葉を続ける。
「敗走した叛乱部隊は、天草上島の山々に潜伏してのゲリラ活動を続けてきていますが、それへの応対に追われている余裕はありません。下島から再侵攻を受けると被害が大きいので、此方から進撃して相手側の対応策を限定する事が有益だと思われます」
「長山三尉の提案に異論は無い。が、敵ゲリラは抵抗を続け、投降する気配は無い。宇土での教訓を活かし、補給線の保持に努めている為、深刻な被害無く、最前線の作戦活動に支障は無いだろうが ……」
「無視しておくわけにも行かないわな」
 第811班班長、陣内・茂道[じんない・しげみち]陸曹長が呟くと、他の普通科班長も頷いた。
「かと言って戦力をそちらに割ける訳にもいかないしな …… 」
「あちらが立てば、こちらが引っ込みますね」
 溜め息を吐く長山だったが、陣内は口の端に笑みを浮かべると、
「なら、俺の班がゲリラどもの追撃に回る。蘇芳先輩に安静を言い渡されていたが、後方で燻っているのも性に合わないんでね」
「くれぐれも、無理はしないで下さいよ」
 陣内は手を振って応えて見せたが、長山はいささか不安なものを感じていた。
 とはいえ他に任せる者もおらず、第811班や二線級の部隊(大矢野の死闘で定員割れや、再編制したばかりの練度の低い混合部隊)が、補給線の保持や上島のゲリラ掃討に向かう。
 鎮圧部隊主力は、アルカンジェルに率いられたエンジェルスの張った防衛線を突破しながら、北海岸沿いにある国道324号線を踏破。天草瀬戸大橋に到達するのだった。
「 ―― 車長。橋上に敵魔人を確認。また上空にはエンジェルスが …… 何だ、あの数は! 空が3に、敵が7! 何処にあんなに残っていたんだ …… 」
「アルカンジェルズとプリンシパリティズの他 …… 何だ、あの4翼の天使は? まさか、アレが!」
 部下達の呻き声に、長山は苦々しく呟く。
「 ―― ドミニオン。かつて第85中隊の副官だった男の、成れ果てた姿」

*        *        *

 天草瀬戸大橋における攻防戦の口火を切ったのは、ドミニオンであった。一対の翼が羽ばたき、エンジェルスとは比べ様も無い圧倒的な威力をともなった光が発せられた。96式装輪装甲車クーガーに悲鳴を上げさせるほどの圧力で、上空から押さえつける。続いてプリンシパリティズの烈風が巻き起こり、普通科隊員を切り裂いた。エンジェルスが光の矢を放つ中を、アルカンジェルズが斬り込んでくる。そして叛乱部隊員が憑魔を活性化させ、半身異化 ―― 白き羽毛に包まれた姿に身を変えると、各々の能力を振るったり、武装した火器で銃撃したりしてきた。
 対する鎮圧部隊もすぐに応戦を開始。敵勢力の削減に努め、航空優勢を確保するべく、スカイシューターのエリコン90口径35mm2連装機関砲が火を吹いた。クーガーから降車して素早く展開した普通科隊員が89式5.56mm小銃BUDDYを振り回す。こちらも負けじと憑魔を活性化させて、半身異化となっていた。
「 …… 地勢的に不利ですね」
 天草瀬戸大橋の両端はループ線状になっており、その為に装甲車輌による突進が出来ない。土塁や瓦礫を積み上げただけの簡単なバリケードでも、こちらの進攻を妨げるのに充分である。そして進撃が詰まったところで、上空からエンジェルスによる狙撃だ。
「 ―― 瀬戸開閉橋は?」
「敵の手により落とされてしまっています」
「アレを見逃す程、馬鹿ではありませんか」
 ここより約300m離れた橋 ―― 別名、天草歩道橋は叛乱部隊によって爆破されていた。上島と下島は、本渡瀬戸という僅か100m近く程の隔たりで分断されており、陸路は天草瀬戸大橋1つのみ。
 時折、祝祷系の精神攻撃も混ぜつつ、防戦に徹する叛乱部隊と超常体。それを突破しようとする鎮圧部隊。銃弾のみならず、対戦車ミサイルも飛び交い、橋上や両岸には屍の山が築かれ、また本渡瀬戸は流れた血で染まる。墜ちたエンジェルスの羽根が宙を舞い散り、海に浮かんでいた。
 消耗戦に陥りがちな状況に歯噛みする。しかし、これだけの激戦でありながら、エンジェルスは未だに天を覆い尽くすばかりの大軍だ。補給線の維持や天草上島のゲリラ掃討の為に、二線級とはいえ、戦力が割かれているのは痛過ぎた。もっとも補給は滞りなく、大矢野での地獄を再現するのは避けられてはいるが。
 エンジェルスとの大規模戦闘では、航空優勢を確保する事が勝敗を決する要因である。その持論を改めて認識した長山は疲労によるミスを防ぐ為に、搭乗員をローテーションで使う事でフレッシュな状態を保つように心掛けていた。
「 …… 北熊本から第8高射特科大隊1個中隊の派遣を ―― いや、せめてスカイシューターをもう1台だけでも送って頂ければ助かるんですけど」
 ぼやく長山だが、大隊本部がそんな気を利かせてくれているならば、こんなに苦労はしていない。糖分補給として羊羹を無理矢理にでも口に押し込むと、咀嚼して咽喉に通す。
「 ―― 分隊長。不可解であります」
「 …… 羊羹は美味いですよ?」
 脳に糖分を送ってはみたが、どうも思考能力は回復していない様だ。間抜けな答えをした事に気付いた長山は、誤魔化す様に咳払いをすると報告を促した。
「目視している数と、レーダーで把握している数とが合わないんです」
「 ―― まさか光学迷彩!? 今以上の数が、未だ隠れ潜んでいるのですか!」
 思わず声を高くする長山だったが、射手は頭を横に振ると、
「逆です。―― 視界を埋め尽くしているはずのエンジェルスの数が、レーダーでは僅かなのです」
「 …… はったりでしたか!」
 自らの膝を軽く打って合点を示すと、長山は普通科部隊に伝令を飛ばさせる。
「実際は、敵も残り僅かです! 数ではこちらが優ります!」
 その報告を受けて、気勢を取り戻した普通科班長達は強攻突破を採択する。このまま徒に時間と戦力を消耗するよりは、数を頼みに乾坤一擲の博打に投じてみる方が、状況が好転すると踏んだのだ。
 そして6月5日。雨天の中、突撃を決行。雨は心を不快にさせ身を重くしたが、祝祷系の力も阻害する。エンジェルスの眩惑や光の矢を振り切って、普通科隊員達が橋上のバリケードに肉薄。銃火と剣戟。雨が血を洗い流す。
「 ―― 集中砲火ッ!」
 35mm砲弾が空に二条の軌跡を描いて、ドミニオンに迫る。攻撃に使用していた翼を閉じて、身を覆い隠す。光翼が砲撃から防護しているが、その間にも普通科隊員達が接近。宙にあるドミニオンに対して、スカイシューターが張った弾幕に隠れ、強化系魔人が即席の槍を投じた。強化された力いっぱいの貫通。
「 ―― ぐっ!」
 槍は飛翔に使っていた翼を傷付け、ドミニオンを墜落させる。墜落の衝撃で、脚部を更に損傷。路面に横たわるドミニオンが体勢を整える前に、普通科隊員達が殺到した。FN5.56mm機関銃MINIMIやBUDDYによる一斉射撃。弾が尽きても銃剣で刺突を繰り返す。
「 ―― 朱鷺子様。お先に参ります …… 」
 それが、かつて第85中隊副官であった、異生の最期の言葉だった。
 鎮圧部隊内から歓声が沸き上がる。対して、ドミニオンを喪い、天草瀬戸大橋をも突破された叛乱部隊は大きく後退。それでも旧本渡市役所庁舎に立て篭もって徹底抗戦を続けるのだった。
「 …… しかし、首謀者である松塚は、やはり姿を見せなかったな」
 天草工校跡地を橋頭堡にして、鎮圧部隊は陣を敷いた。北面では叛乱部隊残党と睨み合っている。幹部達は今後の戦いの行方を話し合っていた。
「先行しているSBUとの合流も果たしておりません。彼等が松塚の隠れ処を探し当てている事を祈るばかりですが …… 」
「この期に及んでもなお抵抗は止まない。…… 松塚を何とかしない限りは、叛乱を完全に鎮圧する事は出来ないという訳か」
 頭を悩ます班長達だったが、にわかに天幕の外が騒がしくなったのに気付いて面を上げた。長山が顔を出すと、調度伝令が報告に上がったところだった。
「 ―― 南西方向にて光の柱が立ちました!」
「南西? …… 牛深? いや、あれは …… !」
 気付いた長山は天幕に入り直して、卓上に広げられた地図の1点を指し示す。
「そうか、礼拝堂ですよ! 何故、気付かなかったんでしょうか!」
「 …… どういう事だ、長山三尉?」
 問い質してくる普通科班長に、長山は思わず怒鳴り返してしまった。
「松塚の潜伏場所です! 天主堂ですよ、天草にある! ―― 大江か、崎津か、どちらかの天主堂に、彼女は隠れ潜んでいたんですよ!」

*        *        *

 …… あらゆる通信機器から、電波ジャックした放送が流れてくる。凛々しい女声が響き渡る。
『 ―― 諸君』
 片翼を失いながらも抗戦を続けるアルカンジェルに対して、肩に担いでいた110mm個人携帯対戦車弾パンツァー・ファウストIIIが放たれた。
『諸君』
 天から迫り来るエンジェルスに向かってBUDDYを構えていた普通科隊員が5.56mmNATOを撒き散らす。
『諸君 ―― 』
 女の声は、三度同じ呼びかけをし、
『もうすぐ約束されし時がくる! 安息と至福に満ちた神なる国が!』
 スカイシューターのエリコン90口径35mm2連装機関砲が、敵魔人を斉射した。
『 ―― 私は松塚朱鷺子、旧国連維持軍・神州結界維持部隊・西部方面隊第8師団第42連隊所属、第85中隊隊長だったもの。天草を拠点として腐れきった日本国政府からの独立を唱え、宣戦布告をしたものとして覚えておられるだろう』
 弾尽きた隊員達が銃剣を構えて、刺突を繰り返す。
『かつて、私はこう言った。――我々は、日本国に生まれ育ち、そして超常体と呼ばれる来訪者達を身に宿したというだけで自由と生存権を奪われ、その裏に己の保身と私欲に走る愚鈍な各国政府と日本国政府との間に密約があったという事を!』
 放送主は一息吐き、そして爆弾発言を続けた。
『その証拠を今こそ示そう! その時が来たのだ。証拠とは ―― 』
 天が鳴動し、地が震え上がった。
『 ―― 私自身だ! 私という存在がその証拠である。私は …… 我こそは処罰の七天使が1柱“ 神の杖(フトリエル) ”―― 最高位最上級にある超常体、熾天使(セラフ)である!』
 奥歯を噛み締める音が聞こえた。
『我は、この世界に“ ”の御命による安息と至福に満ちた国を建てる為に、愚かなる者どもを打ち倒し、魑魅魍魎を祓い出すよう申しつけられ顕現した。己が自由と誇り、生命を守る為に、当然ながら我等に抗われるだろうと覚悟の上で、だ。しかし ―― 』
 悲しみと怒りに満ちた声が周囲に渦巻く。
『 ―― あろうことか、愚鈍な者どもは保身と私欲の為に我等に媚び諂うと、この国を売り渡したのだ』
 糾弾するフトリエルの声が天に満ちた。
『 ―― 怒れよ、戦士達。我は、同志であれ、同志で無くとも、耐え難きを耐え、忍び難きを忍んできた諸君等に惜しみない賞賛と敬意を送る。と、ともに問い掛けたい。…… 我は諸君等の敵であるとされていた。確かに我等は諸君等を殺め、命を奪ってきたものだ。だが、真なる敵は諸君等から自由と権利を奪い取り、そして何よりも誇りと生命を軽んじている者どもではないだろうか!?』
 聞く者の心に、困惑と、そして嘆きが迫ってきていた。呆然が憤然に取って代わる。
『今一度、呼びかけたい。―― 我は約束する! 戦いの末、“ ”の栄光の下で、真なる安息と至福を諸君等に与えよう。ゆえに己が自由と誇り、生命を守る為に、この理不尽なる全てに対して抗いの声を上げよ。そして我等とともに戦い抜こうではないか!』
 …… 聖約が、もたらされた ――。

 先行していたSBU隊員と接触を果たしたのは、6月8日の事だった。部隊は追撃してきた有翼人面獣身の高位上級超常体ケルプ(邦訳は智天使)を辛くも撃破するものの、生存者1名を残して壊滅したという。
 鎮圧部隊は、松塚がいるだろう光柱の下への強襲を計画するが、旧本渡市役所に立て篭もっている叛乱部隊残党の動きも気になる。そこに連絡が入った。
「宇土の司令部から通達です。――『 作戦は6月21日迄を刻限とする。作戦目標を達せられない場合は、天草瀬戸大橋や天草五橋を爆破しながら、速やかに宇土半島に撤退せよ 』との事です」
「 ―― 馬鹿な! ここまでの戦いを無為にするつもりか!!」
 死線を掻い潜って来た班長達が怒りの声を上げた。
「 …… 松塚を討つ事が出来なくとも、天草上島や大矢野島放棄する必要は無いはずだ。せめて、どちらかの島に、光の柱を警戒監視する前線基地を設立出来るように要請する! …… でなければ大矢野攻防戦で命を失った俺の部下が浮かばれん」
 拳を振り下ろして、嗚咽を漏らす。悲痛な叫びが、天幕を支配した。

 負傷者の治療任務に追われていた第8後方支援連隊・衛生隊小隊長、蘇芳・茜(すおう・あかね)准陸尉は、報告に思わず包帯を手落としていた。
「オレの …… 茂道が、戦死した?」
 天草上島に潜伏していたゲリラの罠に掛かり、絶命したという。第811班は2名を残して壊滅。こうして蘇芳に訃報を届けていた。
 慌てて白衣を着直して、陣内の遺骸へと向かおうとする蘇芳。取り乱す彼を、部下達が必死に止めようとする。
「放せ! オレは茂道のところに行かねばならん! 間に合うはずだ、あの時と同じ様に!」
「無理です ―― もう間に合いません! …… 何もかも、遅かったんです」
 陣内の副官だった少年の言葉に、蘇芳は声にならぬ叫びを上げて、ただ崩れ落ちるのだった。

 
■選択肢
Wh−01)天草上島でゲリラ活動の掃討
Wh−02)本渡にて敵司令部を征圧
Wh−03)崎津天主堂の朱鷺子討伐
Wp−01)朱鷺子に呼応して叛乱決起
Wg−01)脱走して独自に行動


■作戦上の注意
 当該区域では、強制的に憑魔の侵蝕率が上昇したりする事もあり、また死亡率も高いので注意されたし。
 6月中旬までに叛乱を鎮圧出来なかった場合、作戦を中止して、宇土半島まで後退する事も考慮に入れておく事。前線基地設立の働き掛けが無い場合、天草上島と大矢野島の放棄は決定的なものとなる。
 ただし阿蘇の健磐龍命が封印から解放された場合、また話が違ってくるが ……。
 なお維持部隊に不信感を抱き、天草叛乱部隊改め、神杖軍に呼応する場合はWp選択肢を。人間社会を離れて独自に行動したい場合はWg選択肢を。
 なお戦場では、少しの遅参でも、致命的な状況を生み出しかねない。重々覚悟されたし。
 泣いても笑っても、次が『隔離戦区・神州結界』第8師団( 九州 = 阿弗利加 )編の最終回である。後悔無き選択を! 幸運を祈る!

註)現実世界において最高価格は、コブラの後継機として導入が決まり、2005年から明野の飛行実験隊に配備されたAH-64Dアパッチ対戦車ヘリコプター。価格は約65億円。残念というか幸いというか、神州世界の結界維持部隊には納入されていない。


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