今まで、僕にとって旅といえば「ひとり旅」であった。
汽車や飛行機、宿の手配、何から何まで自分ひとりの手でする旅である。
しかし、今回の沖縄の旅は、スキューバダイビングのショップが主催するダイビングのツアーである。
いわゆるパックツアー、旅行するのは楽だけど、自分で苦労することがない分、旅行記にまとめるのはかえって難しい。
ダイバーとしての僕は、1999年3月にCカード(ライセンス)をとったばかり、潜った回数も10数本と、まだまだ初心者なのである。
だから、沖縄というリゾートで潜るのは、もうちょっとスキルが上達してからの方がいいかな…と、このツアーに参加するかどうか、長い間思案していた。
躊躇している間に、申し込み締切日(確か10月末と覚えている)を過ごしてしまった。でも、締切日を過ぎても、ショップのスタッフはしきりにツアーに参加しないか誘ってくる。どうやら、参加者が少ないらしい。
それに、この年末はいわゆるコンピュータ2000年問題で、休みをとれる人が少ないのである。
僕自身も職場を休めるかどうか覚束ない。でも、沖縄には心惹かれるものがある。1998年夏に沖縄を旅行し、そこで体験ダイビングを試したことが、ダイビングを始めるきっかけだったのである。あの時見た青い海をもう一度見たい。
どうも諦めきれない。職場の上司に聞いてみた。
「正月休んでいいですか?」あっさりOKが出た。
2000年問題。僕の職場では、年末年始すべての電気機器の電源を落とし、建物を締め切って出入り禁止することで対処するという。だから、自宅に待機しても意味はないのだ。もう躊躇う理由はない。すぐさまショップに電話した。
「沖縄、まだ大丈夫ですか?」
1999年12月30日。松山空港。
ツアー当日になって初めて参加者の面々を知った。
ショップ店長兼インストラクターのNさん、スタッフ兼インストラクターのSさん、高校生になる店長Nさんの息子さんD君、2000年元日に100ダイブ目を迎えるというベテランダイバーのHさん、そして僕の5人。
純粋な客は、Hさんと僕の2人だけ。確かに、参加者が少ない…ところで、もう一人の客のHさんだが、初対面である。
彼女はベテランダイバー、朝4時まで呑んでもダイビングすると豪語しているから、豪傑である。
ビギナーの僕は、彼女にどう話しかけようか、会話のきっかけがつかめずにいる。
沖縄の海。
沖縄の冬は本州の秋のような感じである。乗り継ぎの福岡空港で昼食。
ビールを1本注文し、Hさんはみんなのグラスに注いでいった。
僕が彼女に注ぎ返そうとすると、「あ、いいです。私ひとりでやります…」とビール瓶をひったくった。彼女、気が強そうだ。
飛行機は着陸体勢に入り、少しずつ高度を下げている。
もうすぐ、沖縄の美しい海が見えるはず…と思うが、天候が悪く、厚い雲が立ちこめている。いつまでたっても、白い雲の中から抜けない。ようやく緑色の海面が見え、雨の那覇空港に着陸した。
to be continued...
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