LIAR

TO LIAR, HATE YOU
TO LIAR, HATE ME 楽な病気さ I can not understand

TO LIAR, HATE YOU
TO LIAR, HATE ME 二度と触るな
Can you hear me ? fuck off





 本当なら今頃はステージ上でライトを浴びながらベースを弾いていたことを不意に思い出して、自分自身に対して笑いが込み上げてきた。

 喉の奥で低い笑い声を殺す。

 興奮と喚声を浴びる代わりに今は炎と煙に身を包まれて、ただこんな場所に立ちつくしている。


 その馬鹿馬鹿しさ。



 組まれていたライブツアーは既に全ての手配が終了し、予定を変更する事は既に不可能な段階に入っており、庵は適当な理由を付けて結局はツアーをすっぽかしたのだ。
 無理にライブに参加したとしてもリズムに集中できずに失敗することは目に見えている。
そんな建前を自身に言い聞かせ、バンドのメンバーに無理を通した。
 バンドを抜けることを前提に話を切りだした庵に、全員が渋い顔をしながらも、結局は我が侭を許してくれたのは、一番年少の彼が殊の外メンバーに可愛がられているという事なのだろう。「…入院したとでも言っておいてやるよ」と苦笑しながら言ったリーダーに頭を下げて庵は姿を消した。



 あんな馬鹿な男のために。
 大切なものを棒に振ってまで、こんな場所に来た。


 一年近くも姿を見ていない男の些細な癖まで記憶の中から鮮明に思い出せる。





 ………全ては、

家紋の日輪さながらの存在感を焼き付ける男の為に。







 物思いに沈みそうになった頭を軽く振ると、髪に纏わりついていた砂がパラパラと落ちていった。その落ちていく砂の様子を眺めながら、俯いて長く伸ばされた前髪に手櫛をいれる。
 さらにパラパラと落ちていく砂のザラついた感触が指先に触れた。
 改めて今の自分の姿を見下ろせば、黒いジャケットは埃にまみれ、赤いボンデージパンツと白のドレスシャツは煤に汚れている。
 手もかなり汚れてしまっているから、顔の方も煤けてしまっているだろう。
 全く酷い格好だと独りごちて眉を寄せる。


 何故、自分がここまでの行動をあの男の為にしなければならないのだろう。


 何故、こうも余裕を失って闇雲に動き回ってしまうのか。


 導かれた回答はいつでも先延ばしにしてきた疑問の答えと行き着いた先は一緒のようだ。



 バカは感染るらしい…。

 そんなことを考えて、再び自身を笑った。

 往生際悪く自分に言い訳しようとすることにも、もう厭きた。いくら理屈を捏ねようとも感情がそれに従わないならば、ジレンマに陥ってストレスを自分に強いることになる。

 今は記憶の中でしか姿を見せない男が笑う。


「そんなトコに立ち止まってるんじゃねーよ」


 こんな時にまで、たった一人しか思い出さない自分。

 幼い頃から彼を殺すために生きてきたのに、こんな風にあの男を捜し回る日が来ようとは思わなかったが。

 そんな自分も嫌いではないから。
 だから、この今の気分を彼が見つかったら伝えられるだろうか。

 そして、庵は思考を断ち切った。今は考えている時じゃない。

 彼がよく言っていた様に。



 先ずは、行動を。





LOOK OUT 鈍い神経 痛めない
DON'T SPEAK 被害妄想 言いまわれ

USE YOUR BRAIN
USE YOUR HEAD

FALL SICK 勝手に人を巻き込んだ
SHIT ASS 恩も知らない楽天家

中途半端な奴は SAFETY DRUGGER
−終−
初出 : 1999.11.08
 部分切り出し小説。本当はこれの前後にも話があるんだけど、取り敢えず、ここだけ書き上がったから。(笑)
 歌詞とタイトルは『SADS』の 1st Albumから拝借。 …というか、清春の歌を聴いてなかったらコレは書いてない。歌と話のムードは全然別物になっちゃったけど。曲の方は清春らしいハードでPOPな感じで良いです。(笑)
 ………それにしても、庵さんったら京ち激LOVE?(笑)

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