The King of Fighters '99

 ごぉぅんと鈍く籠もった音が、建物自体を振動させながら響いている。

 靴底を通してそれを感じ取りながらも、立ち止まることもない真っ直ぐで迷いのない歩み。

 長身の肩にパラパラと降りかかってくるコンクリ片を気にすることもなく進んでいく。探しものを見つける為に。





 草薙・八神が660年にも亙り確執を保ち続けてしまった原因でもあるオロチとの戦いで、2ヶ月間も寝たきりの生活に甘んじて、その後日常生活を送るに必要な筋力を取り戻すのに1ヶ月も要した。気付けば季節は夏を通り越して初冬を迎えていた。

 暗い表情をして神楽ちづるが庵の元を訪れたのは、やらなければならなかった事の処理や、療養中に引き起こされた問題の対応に追われている直中のことだった。
 格闘家として大会に出ていた時よりもほっそりとしてしまった彼女は、痩せたというよりもやつれたという感じが強かった。

「草薙の消息が掴めないの…」

 いつもの困った口調ではなく、切羽詰まった表情を見せる彼女に「いつもの放蕩だろう」
と切って捨てることも出来ずに話を聞いてみれば、オロチと戦ったあの日から消息不明だと言う。
 いくら気ままに生きてきた男とはいえ、4ヶ月近くも音沙汰がないというのも不自然な話。
 庵は京の最後の一撃の後から病室までの記憶が欠落している。同じくその場にいたちづるにその間の出来事を問いただすと、「よく判らないのだけれど…」と前置きをしてから彼女は口火を切った。

 意識のない庵の生死を京が確認している間に、ちづるはオロチの気の消失を確認していたのだと言う。残留するオロチの気を用意していた鏡に集めていた。あとは社殿で正式な封じを行えば…という時に軽武装の男達が現れたのだと言う。視界に豆粒ていどの影しか認識できないほど、まだかなりの距離があったが、緊迫した気配を殺しきれていない為に直ぐに気づけた。庵の生存を確認して安心していた京も同様にそれに気付いたらしい。
 京が意識のない庵を抱え上げて、ちづるは鏡を懐にしまうと武装した一団と反対方向へと移動を始めた。無闇に移動するのもどうかとは思ったのだが、そのまま捕縛されるわけにもいかないので一時的に…という暗黙の2人の判断だった。



 2人はちづるが鏡に集めたオロチの気が狙いだろうと思った。

 その時は。



「意識のない貴方も、オロチを封じるべき私も捕まるわけにはいかないからと言って、草薙が囮になると言い出したのをもっと真剣に止めるべきだった」
 そう言いながら悲痛な表情で後悔しているちづるを前に、庵は心中で京に悪態を吐いていた。その時の様子を想像するのは容易い。どうせ言い出したら他人の話など聞かないあの男が、ちづるの必死の制止を振り切って走り去ってしまったのだろう。その結果が生死すら不明の行方知れずでは、ちづるは気になって夜も眠れていなかったのだろう。
「幸い、私と貴方の方は、うちの家の者が直ぐに見つけ出してくれたのだけれど…。急いで草薙も探させたのだけれど、全く見つけられなくって…。争ったらしい痕跡は何ヶ所か見つけたのだけれど、本人がどこにもいなくて…。」
 言葉に支えながら言い継いでいるのは涙を堪えている為か、俯いている為にそこまで判らないが、その様子が更に痛々しさを増している。常に頭ごなしに2人を叱りつけていた彼女とは思えない。
「…草薙家の方にも連絡が入ってないのだな?」
「えぇ、小母様にもそれとなく聞いてみているのだけれど…。一度も、電話もない様なの」
 庵の質問に小さく首を振りながらちづるが答える。父子揃っての放蕩に慣れきった草薙の女主人は、今回も同じようなものだと思っているので心配させない様にちづるも今回の事を黙っているそうだ。



「………それで、オレにどうしろと?」

 ため息混じりに仕方なく口に出すと、困ったようにちづるが首を傾げた。


「…草薙の事は心配じゃない?」
−終−
初出 : 1999.11.28
 終わってないよ…。とほ〜…。 LIARの元の話デス。
 「The King of Fighters '99 
 八神庵氏ジェノサイト事件(苦笑)までを書きたいなーと…。
 暫し、ご猶予を…。(死)

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