The root of evil

 幼い頃から言われ続けてきたこと。



 この命は短命なのだということ。





 言われる言葉の意味が理解できない年頃から、繰り返し言われ続けてきた。
「可哀相に…。直系にさえ生まれなければ」

 哀れみと同情の入り交じった眼差しの中で。
 それしか道がないのだから…と選択の余地もなく、生まれた瞬間に決まっていた人生をただ生きてきた。



 オロチの呪を受けた血を持つということ。

 それは現代医学でもどうする事も出来ないのだと、母親は淡々と事実のみを告げた。
 直系に男子が生まれた記録が古すぎて断定は出来ないが、元服した後というから15を過ぎた頃から発狂するケースが多いのだという。
 発火能力自体からしてそうなのだが、何故か女子には現れ難く男子のみに顕著に現れるという話だった。



 必ずしもそうなるとは限らない。

 けれど。



 続く言葉は呑み込まれ語られなかったけれど、自分の未来をそこに見出して身体が微かに震えたのを覚えている。

 発狂するというのは、どういうものなんだろう。

 芽生えた恐怖に怯える息子に悲しそうな表情をして母親が言った。



「草薙を殺すことしか逃げ道はないから」



 だから、草薙を殺して。



 そうは言われてもそれが自分にとってどれ程の意味や価値があるのか判らない。他人を殺して自分が生き残るのは正しいことなのか。
 けれど、心に芽生えた恐怖から、その言葉に抗えるほど庵は大人になっていなかった。
 自分の中にある「自分と同じに『草薙』を大事に思う人達だっているだろうに」という言葉を、遂に彼は口に出すことは出来なかった。

 周囲の自分に向ける愛情は子供には重すぎたというのもあったかも知れない。





 怖い、と思う。





 いけないことだ、とも思う。








 それでも、生きていたいと願う。








 八神流古武術を修得しながらも、生き物としての根元的な欲求と人間のみが持つ理性の間に挟まれて、結論が出ないままに庵は成人を迎えてしまっていた。
−終−
初出 : 2000.01.23
 「ちょっと待て! コレ、誰だよ、一体ッ!!?」とお思いの貴方!! オレも全くの同感だッ!! ぐはっ…!(吐血)
 ちょっとどころか、かなり線が細すぎなんじゃねーの、この庵さんッ!!! 乙女路線まっしぐら…じゃないか!? オソロシイ!!!(ぶるぶる)
 「昨日に引き続き、今日はコレかい…!」と思ってる人、見逃してやってくれ…。(涙)
 庵も普通の人なんだよーっ!って突然思ったのがこの話の発端。そんだけ。スマヌ。

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