A LECHEROUS DIALOGUE

 ソファの上で片膝を抱え重ねた手の甲に頬を乗せていたオレは、三人掛けのこのソファの反対端に寄りかかっている男を眺めている。
 動きがあんまりない男なんだけど、それでも見ているのは飽きなくてただ見てる。
「なぁ…、」
 そう声を掛けたオレに首を廻らしてこちらを向いた男と視線が合う。
 真っ赤に染め上げられた髪に表情の半分を隠して、八神庵は沈黙を守ってオレの言葉の続きを待っている。
「淫らなスキンシップしねぇ?」
 笑いながらオレがそう言った直後、あいつは一瞬だけ意味が解らずに訝しげな貌をして、それが段々ととても嫌そうな表情に変化していった。
 そう、その無防備な一瞬の表情がタマラナイって知ってた?
 それが見たいばっかりにいつも奇襲する方法を考えてるんだぜ?
 それも知らないだろうけど。
 喉の奥で笑うオレを見て渋面を浮かべている。視線が合うだけでも嬉しい時もあるけど、今はそういう気分ではなくて。
「ちょっとやりたいかなーって思ってんだけど」
 オレの息子さんが、なんて笑って付け加えたら、ヤツの視線が酷薄な色に煌めいた。馬鹿にされてるんだろうけど、それが今は気にならないし。
 食欲と性欲がリンクしていると言う男もいるが、オレの場合は危険と隣り合わせの昂揚感と性欲がかなりリンクしてるっぽい…なんて呑気に考えてみたりして。
 だって、あんな瞳で見られたら、ぞくぞくするし、わくわくするし。
 ソファの上の僅かな距離を、床に下りることなくちょっと身を伸ばして庵に近寄る。
 触ってもいないうちから嫌悪感露わに身動ぎされちゃったけど、そんなの気にせず伸ばした右手で首筋に触れる。
 本当にこいつってば他人と皮膚接触するのが嫌いだよな。
 試合の前後とかに医者に触られたり、美容師に髪を弄られたりとか、そういう目的がある接触は平気みてーだけど。
 極端な話、コンビニのレジとかで釣り銭渡されるのも嫌っぽいし。
 左手を奥の肘掛けに着くと庵がソファとオレの腕に閉じ込められたような格好になった。
 やや上から庵を見下ろすような体勢になったオレを、目前で揺れている赤い髪の奥から、冷めた視線が咎めるでもなく見返している。
 ………そういう気分が萎える貌すんなよ。
 顎のラインを伝って項まで滑らした右手で襟足の髪を二〜三度掻き上げる。気に入りの手触りを確認した後は後頭部を押し上げて固定してから唇を合わせた。
 軽く一度触れあわせてから、殊更ゆっくりと口元を舌で嘗め上げる。
 嫌がって口を塞がれ押しのけようとされたけど、あんまり力籠もってねーから本気じゃないのかもな。
 どっちにしろ、やるこたやるんだけどよ、オレは。
 首を固定してた手を外して相手の手を逃げられないように捕まえて、視線を合わせたまま庵の掌に舌を這わせる。途端に暴れ出す腕をソファの背凭れに押さえつけて、抗議の為に開きかけた唇に今度は深く口付ける。
 舌を搦めて、吸い上げて。
 もっと奥まで嬲りたいと舌を伸ばす。
 強引に口腔を侵されて、混じり合い溢れる互いの唾液にヤツが小さく噎せている。それでも許さずに深く貪っていると、酸欠の為か抵抗する力が抜けたのを感じた。
 合わせていた唇を解くと小さな水音を立てて唾液が糸を引いている。自分の唇を親指で拭うと、濡れている庵の唇を舌で嘗める。
 庵は本当に酸欠になったのか、ぼんやりと見返す視線はイマイチ焦点が合っていない。
 それをいいことに、庵がぼんやりしている間…とばかりに体勢を変える。
 肘掛けに頭を預けさせてソファの上に引き倒して組み敷く。
 オレの肩を押し上げようと庵の手が掛かった頃には、ヤツの黒いシャツもブラックジーンズのフロントも全てはだけさせていた。
「お前…ッ…」
 焦って制止しようとするのを無視して、中指の腹の部分だけで鍛えられた腹筋中央のラインを優しく撫で下ろしていく。ジーンズの生地の下に潜り込んだ手で、下着の上からまだ何の変化も見せていないヤツの形を確かめる。
 ジーンズが邪魔なんだけど、コレって脱がせるの一苦労なんだよな。抵抗されるし。
 体温が低くても人肌は気持ちがイイし、撫でるように滑らしている馴染んだ肌触りも気に入っている。背中に潜り込ませた左手で何度も背筋に沿って手を這わせて、まだサラサラと乾いている皮膚を楽しむ。
 首筋から鎖骨に沿ってを嘗めながら些細な抵抗を封じて、オレは庵の身体を暴きはじめていった。





 潜り込んだ庵の中は熱く、押し出そうと蠢く腸壁の動きが堪らない快感として腰から痺れるように這い上る。
 ぐぐっと腰に力を入れて、いきり立っている雄を更に深く押し込んで動きを止める。
 身を屈めて耳元に口を寄せると、熱に浮かされてではなく意志を持って「いおり、」と呼びかける。
 息が上がりそうなのを殺して深く呼吸をしている庵を見下ろすと、熱に潤んだ瞳が強気にオレを見上げている。
「なぁ、オレとはこんなに触れてて平気?」
 見上げる表情の意味はどう取ればいいんだろう。
 オレ、表情読むのニガテだから、ちゃんと言ってもらわないとさ。
「気持ちイイ?」
「………ッ」
 反対側ならこんな行為を庵が絶対に許さないのを知っていて訊く。それに気持ち良くなれるからだけでも、こいつに触れられないのも知っている。
 気持ち良くなれるのは相手がオレだからってことを確認してみたいんだ、オレは。
 いつも気持ちをあげるばかりで応えがないのは悲しくなっちまうし。気持ちを通して応えを貰えないんなら、身体を通して応えをくれてもイイからと思うし。
 ………ひょっとしたら、オレに対する気持ちって自覚がない感情かも知れねーけど。
 それなら、無意識に返るお前の意志を頂戴。その身体で。
 互いに指先まで熱が充満しているのを指を絡ませて確認する。
 腰の位置をわざと落とした状態で前後に軽く揺すれば、快感に立ち上がっているヤツがオレの腹筋で擦られる。敏感な先端への刺激に息を詰める庵の表情を見つめる。
 嫌悪の仕草を見せないお前にどんなにオレが安心できるか、解るだろうか、マジに。
 些細な接触すら嫌うお前とこんなに体温を溶け合わせることが出来る幸福。
 それを、身体を合わせることでしか確認出来ないんだから。



   だから、

   もっと淫らなボディトークをしようよ。





This is just between you and me. 
secret  
violent  
obscene  
Let's talk for a long time...
−終−
初出 : 2000.03.03
「雰囲気でどこまでエッチく出来るか」がコンセプトだった話。(身も蓋もないな)
 ある程度は目標達成できてるかと…。(ダメですか?)

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