ぼくがきみにしてあげられること
きっと「誕生日だから」とか言っても、彼には興味のないことなのだろう。
聞かなくても判っているようなことだったけど、今までそんなありふれた事をしてこなかった彼の為に、尚更にそれをしてあげたかった。
例え「イイ年をして」と言われても、自分がしたいのだからどうしようもない。
こんなことをしても本人は嬉しいとも思わないだろう、きっと。
(悲しいことに。)
それでも、自分が小さい頃から母にしてもらっていたのと同じことを彼にしてあげようと思った。
自分はそれが嬉しかったから。
自分に向けられる気持ちが、嬉しかったから。
「誕生日おめでとう」
そんなありふれた祝いの言葉と共に、自分の為に用意されたテーブル上の食料に庵は目眩を覚えた。
ファーストフードのフライドチキン。
やたらと見栄えの良い茶巾寿司。
グリーンサラダからマリネになっているものまで随分と種類の多いサラダ類。
ロールキャベツなど他にも数種類の料理がテーブル上にこれでもかと乗せられていた。
明らかに出来合いのものを並べられたことに文句を言うつもりはない。
量が多すぎるのも冷蔵庫に入れておけばいいだけだと思う。
けれどテーブル中央に置かれ、ローソクを立てられた大きなホールケーキだけは理解の範疇を越えている。
…色々な意味で。
ケーキのさらに中央へ飾られているチョコレートプレートに、ひら仮名で書かれた自分の名は誰が注文したんだろう、とか。
ご丁寧に主賓の年齢分だけ用意されたローソクの火を誰が吹き消すのか、とか。
こんなに大きなケーキをどうやって処理する気なんだろう、とか。
大方の返答を既に自分の中で見つけながらも、訊かずにはいられなかった。
「え〜? ケーキはオレが買ってきたし、ローソクはお前が消して、オレとお前で食べるんだろ〜?」
当たり前だろと言わんばかりの声音で京から予想通りの返事を渡される。
「…こんなに食えるわけなかろう!?」
言外に馬鹿かという嘲笑を滲ませてそう言えば、ちゃんとオレが食べると甘党でもないくせにムキになって言い返された。
「………やっぱり馬鹿だろう、お前」
甘いものが好きな人間でも一人では食べきれそうもない大きさのホールケーキで、しかもオーソドックスに苺と生クリームがふんだんに使用されている。庵の方は視覚的な効果だけで既に胸が支えるような気分になっているというのに。
「…ぜってぇ全部食ってやる!」
庵の心情を敏感に察知したのかどうか知らないが、口をへの字に引き結んだ京が再びそう言い切った。
食材を無駄にせずに済むのならそれに越したことはない。そう思ってげっそりした表情で「頑張ってくれ」と心の籠もらない励ましを庵は京に送った。
余談で、チョコで書かれた名前が何故ひら仮名だったかと言うと、漢字だと文字が潰れてしまうのでひら仮名かカタカナにしてくださいという店側の事情だった。
その為、ひら仮名で「いおりくん」と書かれたプレートには、買ってきた京本人も苦笑するしかなかった。
「流石に、ちょっとコレはねーよなぁ…?」
来年はどんなケーキがいいだろうか。
−終−
初出 : 2000.05.17
GW中に稀更姉ちゃんと銀座で遊んでた時に「ケーキねぇ〜…」って思ってさぁー。
食後に喫茶店へ入って、皆がケーキを食ってるのを眺めてた時に、私の脳内はこんなん(↑)になってた。(笑) どうせ、書き途中のヤツもまだ公開してないし、一緒に載せちゃえばイイや!って思って書いたッス。(苦笑)
----- 2006.11.02 -----
ファイルいじってて、初出のアップ日に自分で自分に激しいツッコミを入れずにはいられない。庵の誕生日なんかとっくに過ぎてる日付じゃん!!(…)
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