ちょっと子供な日

「何故、あそこで避ける?」
「だって、吊り革代りにされんのイヤじゃん」
 その返事に呆れて言葉が継げなかった。
 普通、あの場面だったら誰もが仕方がないと思うものじゃないのか?
「だぁって、オレ、そういうの多いんだもんよ。ウンザリだぜ、ホント」
 他人をなんだと思ってやがるとそう悪びれずに言うのだ、この男は。
 庵の車が車検に出されていて、代行の車を使いたくないと言う彼の意見を採用した結果、珍しく二人で電車に乗っていた。
 別に京が一緒に来る必要はなかったのだが、何故か一緒についてきてしまった。
 混雑はしていないが空いてもいない状態の車両で二人並んで立っていた。
 あまり丁寧とは言い難い運転に、二人ですらバランスを崩しかける瞬間があった。だから、京の横にいた老人がそれに堪えきれなかったとしても別段不思議ではなかった。
 体勢を保とうとしたその老体が、咄嗟に側にいた京の腕を掴もうとしたのだって仕方がなかったと庵は思う。
 それを、避けたのだ。この連れの男は。
 咄嗟に支えた庵の腕がなければ、相手は転倒していたかも知れない。
 複雑な表情で礼を述べる老人を見る庵の表情もまた複雑そうだった。



「………敬老の精神に欠けとるな、お前」
「べつにー。なんか得があるワケでもなし…」
 損得の問題か、阿呆、と言った口調は疲れ切っていた。
 言っても直らない…というか、直す気がないだろうことが分かりきっていたから。
 そんな男でも、自分の横にいることを認めている自分がなんだか情けない気分の八神庵
だった。
−終−
初出 : 2000.06.16
 黒崎が読んでたら、きっと笑うに違いない。
 ………因みに、横で苦笑するのは黒崎の役目。(死)
 親の躾が悪かったワケじゃないんですー。勝手に育ったんですぅーーー。

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