Season Love

 平熱が低く、血液循環も良くないらしい彼は暑い夏も苦手らしいが、寒い季節は末端が思うように機能しなくなり夏よりも更に苦手らしい。それを爬虫類っぽいと冷やかして寝室から蹴り出されたのは何日前だったか。
 冷えないように本人も注意はしているようだが、熱を失いやすい上に心臓から遠い手足は、動いているのが不思議なくらいに触れると熱を持たない。あまりの血流の悪さに指先が紫がかっていることもあるくらいだった。
 本人にとっては深刻な状態を笑われたのでは怒りもするだろうと反省はするが、思ったそのままを言葉にする習性が治るとも思えない。
 こんなことであれこれと自分の頭を悩ます元凶を見やれば、床へ足を触れさせないようソファで片膝を立て座っている。
 すこし窮屈そうな体勢も本人なりの事情があるのだから、見ている方は苦笑を禁じ得ない。
「おい、庵。風呂入って早く寝ちまえよ」
 だから口から出たのはそんな言葉で。
 心配から零れたそんな注意も、母が子に言うような台詞が癇に障ったのか、不機嫌そうに口元を引き結んで片眉を器用に上げてみせる。
「うるさい」
 短いその返答に強ばった口元を引き上げる。目が笑ってないのは自覚済みだった。
 突っぱねられると、どうしても言うことを聞かせたくなる。
 意地でも入浴させて早寝をさせてやる。
 どうも怪しい雲行きに彼の表情が不愉快さを増したようだった。



 この時期、布団に潜り込んで暫くの間、冷えた寝床が自身の体温でぬくもるのをじっと待ち身を固くしている姿に、自分の方が身につまされる気分を味わう。
 以前、就寝前に布団乾燥機で寝床を温かくしておくなどという珍しい気遣いをみせたら、数分もしないうちに起き出してしまった。どうやら温めすぎたらしく、それはそれで適応できず気分が悪くなったらしい。
 電気毛布などの類は、就寝中の体熱放出でだるくなるから嫌いだと言う。同じような理由で自分が持ち込んだこたつにも入りたがらない。
 それをワガママと言えば、決まって「うるさい。放って置け」と返される。
 自分には判らない辛さなので仕方ないと言えばそうなのだが、本当に自分って報われないなぁーとちょっとだけ悲しい。



 抵抗する彼を無理に浴室へと急き立てた結果として、自分もずぶ濡れになった。
 仕方なく自分も手早くシャワーを浴びて、なんとなく嫌がる身体を抱えて寝床へ入ってしまった。
 強引さを包み隠して、自分の胸元にぴったりと添うよう彼の背を抱き寄せる。
 彼とは逆に平均を上回る体温が心地よいのか、彼の筋肉が緊張を徐々に解いていくのを触れている肌のそこかしこから感じ取る。
 すり寄るように顎を肩口に割り込ませれば、強い抵抗にも遭わず、低いながらも確かな体温とボディソープの爽やかな香りが分かった。
 一瞬過ぎった思考は淫猥な行為への欲求だったが、血行が悪くて動きを鈍らせている相手に強要するのもどうかと思う。ちゃんと湯を張って温まったわけではないので、体温が上がっていないのだ。
 よほど他人の体温が気持ち良いのか、腕の中へ収まっている警戒心のなさにも気勢を殺がれるし。
 さりとて、ここ暫くご無沙汰だった為、芽生えた性的欲求を無視するのも難儀な話だ。


 ………イヤ、別に、無理に相手を強要する気もねぇケド…。


 なんとなく疚しい気分を心の中で自己弁解。
 そうだ。別にトイレへ行ったって構わないのだ。こんなことは。
 自分に言い聞かせている気がちょっとするが。
 ただ、珍しく腕の中でくつろいだ風の彼を残していくのが、名残惜しいと同時に気掛かりなだけで。

 悶々としている間に時間が経っていたのか、ふと気付けば、抱え込んだ身体は力を失い弛緩していた。





「………全ッ然、眠れんかった…」

 朝食を前にがくりと肩を落とす自分を彼は不審げに眺めていた。
 その顔を見つめながら、やっぱオレって報われてないよなと思わずにはいられない。
 昨夜は高い体温の自分を嫌って無意識に離れたり、夜中に起き出してしまうようなことはなかった。
 流石に密着するのは避けられたが、どうやら自分の体温は彼にとっての適温だったらしい。
 ちょっとそれが嬉しかった。
 だから、中途半端に男の事情を抱えたまま朝を迎えてしまった。
 思い返せば幸せも感じたかも知れないが、結構つらい状態だった。



 まだ冬になったばかり。

 自分は冬が苦手じゃなくて嫌いになりそうだと思った。
−終−
初出 : 2000.11.04
 ぱぱままリバティー!(意味不明)
 もう自分でも何が書きたかったのかサッパリ判らない〜〜〜(涙)
 ツ…ツッコミは禁止! 書いた本人が書き上がったものでダメージを受けてるから!!(死)
 誰やねん、アンタら。やはりネスツ製のクローン???
 自制心に富んだ父性愛溢れる草薙と、甘やかされ王な八神。寒さ増したかも知れん。

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